(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける排出曲線において、分子量2万以上の位置に少なくとも1つのピークトップと、分子量2万未満の位置に少なくとも1つのピークトップとを有し、極限粘度[η]が0.50(dl/g)〜0.75(dl/g)であるプロピレン系重合体からなり、平均繊維径に対するピーク繊維径の比率が0.5を超えるメルトブローン不織布。
前記プロピレン系重合体は、重量平均分子量が2万以上である高分子量プロピレン系重合体Aと、重量平均分子量が2万未満である低分子量プロピレン系重合体Bとを少なくとも含む請求項1に記載のメルトブローン不織布。
前記プロピレン系重合体の全質量に対する前記高分子量プロピレン系重合体Aの含有率が、60質量%〜92質量%である請求項2又は請求項3に記載のメルトブローン不織布。
前記高分子量プロピレン系重合体Aのメルトフローレート(MFR)が、1000g/10分〜2500g/10分である請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載のメルトブローン不織布。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0014】
本開示のメルトブローン不織布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)における排出曲線(以下、「GPCチャート」ともいう。)において、分子量2万以上に少なくとも1つのピークトップと、分子量2万未満に少なくとも1つのピークトップとを有し、極限粘度[η]が0.50(dl/g)〜0.75(dl/g)であるプロピレン系重合体からなる。
【0015】
本開示のメルトブローン不織布を構成するプロピレン系重合体は、分子量2万以上の位置に少なくとも1つのピークトップを有するだけでなく、分子量2万未満の位置に少なくとも1つのピークトップを有し、かつ極限粘度[η]が0.50(dl/g)〜0.75(dl/g)であることで、メルトブローン不織布を作製したときに、平均繊維径を小さく、かつ比表面積を大きくすることが可能となる。したがって、このようなプロピレン系重合体でメルトブローン不織布を構成することにより粒子の捕集効率が向上する。また、特別な装置を用いる必要がないため、生産速度に優れる。
【0016】
<プロピレン系重合体>
本開示のメルトブローン不織布は、プロピレン系重合体からなる。本開示において、プロピレン系重合体とは、プロピレンの含有率が50質量%以上の重合体をいう。
【0017】
プロピレン系重合体は、GPCにおける排出曲線において、分子量2万以上に少なくとも1つのピークトップと、分子量2万未満に少なくとも1つのピークトップとを有する。以下、GPCの排出曲線における分子量2万以上の位置に現れるピークトップを「高分子側ピークトップ」と称し、分子量2万未満の位置に現れるピークトップを「低分子側ピークトップ」と称する。
なお、高分子側ピークトップおよび低分子側ピークトップの数は、プロピレン系重合体に由来するピークトップのみを数えればよい。
【0018】
高分子側ピークトップの少なくとも1つは、分子量2万以上に位置し、3万以上に位置することが好ましく、4万以上に位置することがより好ましい。
高分子側ピークトップの少なくとも1つは、分子量2万〜8万の範囲に位置することが好ましく、3万〜7万の範囲に位置することが好ましく、4万〜6.5万の範囲に位置することがより好ましい。上記範囲内であると、平均繊維径が小さくなる傾向にあるため好ましい。
【0019】
低分子側ピークトップの少なくとも1つは、分子量2万未満に位置し、1.5万以下に位置することが好ましく、1.4万以下に位置することがより好ましく、1.3万以下に位置することがさらに好ましい。
低分子側ピークトップの少なくとも1つは、分子量400以上2万未満の範囲に位置することが好ましく、400〜1.5万の範囲に位置することが好ましく、1000〜1.4万の範囲に位置することがより好ましく、2000〜1.3万の範囲に位置することがさらに好ましく、6000〜1.3万の範囲に位置することが特に好ましい。上記範囲内であると、紡糸中の繊維切れが起こりづらく紡糸性が高いままで、平均繊維径を小さくできる傾向にあるため好ましい。
【0020】
プロピレン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、2万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、3.5万以上であることがさらに好ましい。また、プロピレン系重合体のMwは、10万以下であることが好ましく、8万以下であることがより好ましく、6万以下であることがさらに好ましい。Mwが上記上限値以下であると平均繊維径が小さくなる傾向にあるため好ましく、Mwが上記下限値以上であると紡糸中の繊維切れが起こりづらく紡糸性が高いため好ましい。
【0021】
本開示において、プロピレン系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)における排出曲線は、GPC法により、下記の装置及び条件で測定した際の排出曲線をいう。また、本開示において、プロピレン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0022】
[GPC測定装置]
カラム :TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C
【0023】
[測定条件]
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0ml/分
試料濃度 :2.2mg/ml
注入量 :160μl
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0024】
なお、紡糸中にプロピレン系重合体の熱分解が起きていない場合は、紡糸前のGPC測定の結果を不織布のGPC測定の結果として採用することができる。
【0025】
プロピレン系重合体の極限粘度[η]は、0.50(dl/g)〜0.75(dl/g)である。極限粘度[η]が0.50(dl/g)未満であると、断糸などの紡糸不良が生じやすい。また、極限粘度[η]は0.75(dl/g)を超えると、平均繊維径が大きくかつ比表面積が小さくなり、捕集効率に劣る。
紡糸不良の抑制と、平均繊維径及び比表面積の観点から、プロピレン系重合体の極限粘度[η]は、0.52(dl/g)〜0.70(dl/g)であることが好ましく、0.55(dl/g)〜0.60(dl/g)であることがより好ましい。
【0026】
プロピレン系重合体の極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した値である。具体的には、次のようにして求める。
プロピレン系重合体約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定する。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定する。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度として求める(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0027】
プロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であってもよい。プロピレンと共重合するα−オレフィンは、プロピレンよりも少量であり、また、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
共重合するα−オレフィンは、炭素数が2以上であることが好ましく、炭素数が2、4〜8であることがより好ましい。このようなα−オレフィンとして、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。
【0029】
プロピレン系重合体としては、プロピレンの含有率が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、プロピレン単独重合体であることが特に好ましい。
プロピレン系重合体におけるプロピレンの含有率が上記範囲内であると、後述する高分子量ポリプロピレン系重合体Aと、後述する低分子量ポリプロピレン系重合体Bとを含む場合に、相溶性に優れ、紡糸性が向上し、平均繊維径がより小さくなる傾向にあり好ましい。
【0030】
プロピレン系重合体は、溶融紡糸し得る限り、そのメルトフローレート(MFR:ASTM D−1238、230℃、荷重2160g)は特に限定はされず、通常、600g/10分〜2500g/10分であり、1200g/10分〜1800g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRが上記範囲にあるプロピレン系重合体を用いることにより、紡糸性が良好で、引張強度などの機械的強度が良好なメルトブローン不織布が得られる傾向にある。
【0031】
GPCの排出曲線において分子量2万以上と分子量2万未満のそれぞれの位置にピークトップを有するプロピレン系重合体は、Mwが2万以上である高分子量プロピレン系重合体Aの少なくとも一つと、Mwが2万未満である低分子量プロピレン系重合体Bの少なくとも一つとを含むことで調製してもよい。すなわち、高分子量プロピレン系重合体Aと低分子量プロピレン系重合体Bとの混合物(以下、「プロピレン系重合体混合物」ともいう。)であってもよい。
また、GPCの排出曲線において分子量2万以上と分子量2万未満のそれぞれの位置にピークトップを有するプロピレン系重合体は、多段重合を実施し、触媒化合物の種類や多段重合の段数などを適宜調整して調製してもよい。
【0032】
<高分子量プロピレン系重合体A>
高分子量プロピレン系重合体Aは、Mwが2万以上であり、3万以上であることが好ましく、4万以上であることがより好ましい。
また、高分子量プロピレン系重合体AのMwは、8万以下であることが好ましく、7万以下であることがより好ましく、6.5万以下であることがさらに好ましい。
上記範囲内であると、平均繊維径が小さくなる傾向にあるため好ましい。
【0033】
高分子量プロピレン系重合体AのMwは、2万〜8万であることが好ましく、3万〜7万であることが好ましく、4万〜6.5万であることがより好ましい。
【0034】
高分子量プロピレン系重合体Aは、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であってもよい。共重合するα−オレフィンの例は上述のとおりである。高分子量プロピレン系重合体Aは、低分子量ポリプロピレン系重合体Bとの相溶性に優れる観点から、プロピレンの含有率が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、プロピレン単独重合体であることが特に好ましい。なお、相溶性に優れると紡糸性が向上し、平均繊維径がより小さくなる傾向にあり好ましい。
また、高分子量プロピレン系重合体Aは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0035】
高分子量プロピレン系重合体Aの密度は特に限定されるものではなく、例えば、0.870g/cm
3〜0.980g/cm
3であってもよく、好ましくは0.900g/cm
3〜0.980g/cm
3であり、より好ましくは0.920g/cm
3〜0.975g/cm
3であり、さらに好ましくは0.940g/cm
3〜0.970g/cm
3である。
【0036】
高分子量プロピレン系重合体Aの密度が0.870g/cm
3以上であると、得られるメルトブローン不織布の、耐久性、耐熱性、強度、及び経時での安定性がより向上する傾向がある。他方、高分子量プロピレン系重合体Aの密度が0.980g/cm
3以下であると、得られるメルトブローン不織布の、ヒートシール性及び柔軟性がより向上する傾向がある。
【0037】
なお、本開示において、プロピレン系重合体の密度は、190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)測定時に得られるストランドを、120℃で1時間熱処理し、1時間かけて室温(25℃)まで徐冷した後、JIS K7112:1999に準拠し密度勾配管で測定して得た値をいう。
【0038】
高分子量プロピレン系重合体Aのメルトフローレート(MFR)は、後述の低分子量プロピレン系重合体Bと併用してメルトブローン不織布を製造し得る限り特に限定されない。高分子量プロピレン系重合体AのMFRは、繊維径の細さ、比表面積、紡糸性等の観点から、好ましくは1000g/10分〜2500g/10分であり、より好ましくは1200g/10分〜2000g/10分であり、さらに好ましくは1300g/10分〜1800g/10分である。
【0039】
本開示において、プロピレン系重合体のMFRは、ASTM D1238に準拠し、荷重2.16kg、190℃の条件で測定して得た値をいう。
【0040】
プロピレン系重合体の全質量に対する高分子量プロピレン系重合体Aの含有率は、60質量%〜92質量%であることが好ましく、62質量%〜90質量%であることがより好ましく、70質量%〜88質量%であることがさらに好ましい。
高分子量プロピレン系重合体Aの含有率が上記範囲の場合は、平均繊維径が小さくかつ比表面積が大きくなる傾向がある。また、紡糸性、繊維強度、微粒子の捕集効率、及び濾過流量のバランスに優れる傾向にある。
なお、プロピレン系重合体の全質量とは、全構成単位に対するプロピレンの含有率が50質量%以上の重合体の合計の質量を意味する。
【0041】
高分子量プロピレン系重合体Aの含有率が70質量%を下回るような場合は、高分子量プロピレン系重合体AのMwを高めに設計することが好ましい。他方、高分子量プロピレン系重合体Aの含有率が95質量%を上回るような場合は、高分子量プロピレン系重合体AのMwを低めに設計することが好ましい。
【0042】
<低分子量プロピレン系重合体B>
低分子量プロピレン系重合体Bは、Mwが2万未満であり、比較的分子量が低いため、ワックス状の重合体であってもよい。
【0043】
低分子量プロピレン系重合体BのMwは、1.5万以下であることが好ましく、1.4万以下であることがより好ましく、1.3万以下であることがさらに好ましい。
また、低分子量プロピレン系重合体BのMwは、400以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、2000以上であることがさらに好ましく、6000以上であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、紡糸中の繊維切れが起こりづらく紡糸性が高いままで、平均繊維径を小さくできる傾向にあるため好ましい。
【0044】
低分子量プロピレン系重合体BのMwは、400以上2万未満であることが好ましく、400〜1.5万であることが好ましく、1000〜1.4万であることがより好ましく、2000〜1.3万であることがさらに好ましく、6000〜1.3万であることが特に好ましい。
【0045】
低分子量プロピレン系重合体Bは、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であってもよい。共重合するα−オレフィンの例は上述のとおりである。低分子量プロピレン系重合体Bは、高分子量ポリプロピレン系重合体Aとの相溶性に優れる観点から、プロピレンの含有率が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、プロピレン単独重合体であることが特に好ましい。なお、相溶性に優れると紡糸性が高くなり、平均繊維径がより小さくなる傾向にある。
また、低分子量プロピレン系重合体Bは、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0046】
低分子量プロピレン系重合体Bは、軟化点が、90℃を超えることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
低分子量プロピレン系重合体Bの軟化点が90℃を超えると、熱処理時又は使用時における耐熱安定性をより向上させることができ、結果としてフィルタ性能がより向上する傾向にある。低分子量プロピレン系重合体Bの軟化点の上限は特に制限されず、例えば、145℃が挙げられる。
本開示において、プロピレン系重合体の軟化点は、JIS K2207:2006に従って測定して得た値をいう。
【0047】
低分子量プロピレン系重合体Bの密度は特に限定されず、例えば、0.890g/cm
3〜0.980g/cm
3であってもよく、好ましくは0.910g/cm
3〜0.980g/cm
3でり、より好ましくは0.920g/cm
3〜0.980g/cm
3であり、さらに好ましくは0.940g/cm
3〜0.980g/cm
3である。
低分子量プロピレン系重合体Bの密度が上記範囲にあると、低分子量プロピレン系重合体Bと高分子量プロピレン系重合体Aとの混練性に優れ、且つ、紡糸性及び経時での安定性に優れる傾向にある。プロピレン系重合体の密度の測定方法は、上述のとおりである。
【0048】
プロピレン系重合体の全質量に対する低分子量プロピレン系重合体Bの含有率は、8質量%〜40質量%であることが好ましく、10質量%〜38質量%であることがより好ましく、12質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。
低分子量プロピレン系重合体Bの含有率が上記範囲の場合は、平均繊維径が小さくかつ比表面積が大きくなる傾向がある。また、紡糸性、繊維強度、微粒子の捕集効率、及び濾過流量のバランスに優れる傾向にある。
なお、プロピレン系重合体の全質量とは、全構成単位に対するプロピレンの含有率が50質量%以上の重合体の合計の質量を意味する。
【0049】
低分子量プロピレン系重合体Bの含有率が10質量%を下回るような場合は、低分子量プロピレン系重合体BのMwを低めに設計することが好ましい。この場合の低分子量プロピレン系重合体BのMwは、好ましくは400〜1.5万であり、より好ましくは1,000〜1.3万であり、特に好ましくは1,000〜8,000である。
【0050】
他方、低分子量プロピレン系重合体Bの含有率が25質量%を上回るような場合は、低分子量プロピレン系重合体BのMwを高めに設計することが好ましい。この場合の低分子量プロピレン系重合体BのMwは、好ましくは1,000〜1.5万であり、より好ましくは3,000〜1.5万であり、さらに好ましくは5,000〜1.5万である。
【0051】
<メルトブローン不織布>
メルトブローン不織布を構成する繊維の平均繊維径は、1.1μm未満であることが好ましく、0.3μm〜1.0μmであることがより好ましく、0.5μm〜0.9μmであることがさらに好ましい。本開示のプロピレン系重合体を用いることで、平均繊維径をより小さくすることが可能である。
メルトブローン不織布の平均繊維径は、メルトブローン不織布の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)から、任意の100本の不織布繊維を選択し、選択した繊維の直径を測定し、その平均値をいう。
【0052】
メルトブローン不織布は、繊維径分布を測定したときに平均繊維径に対するピーク繊維径の比率(以下、「ピーク繊維径比率」ともいう。)が0.5を超えることが好ましい。ピーク繊維径比率が0.5を超えると、繊維径分布が狭くなって繊維径がより均一化される。そのため、不均一な繊維径に起因して生じる隙間の発生が抑えられ、粒子の捕捉効率がさらに向上する傾向にある。
ピーク繊維径比率は、0.53以上であることがより好ましく、0.55以上であることがさらに好ましい。ピーク繊維径比率の上限値は特に限定されず、例えば、0.95以下であってもよく、0.90以下であってもよい。
【0053】
繊維径分布における平均繊維径とピーク繊維径の測定方法について説明する。
(1)平均繊維径の測定
メルトブローン不織布を、株式会社日立製作所製電子顕微鏡「S−3500N」を用いて倍率5000倍の写真を撮影し、無作為に繊維の幅(直径:μm)を1000点測定し、数平均で平均繊維径(μm)を算出する。
メルトブローン不織布における繊維の測定箇所を無作為とするため、撮影した写真の左上隅から右下隅に対角線を引き、対角線と繊維が交差した箇所の繊維の幅(直径)を測定する。測定点が1000点となるまで新規に写真を撮影し測定を行う。
【0054】
(2)ピーク繊維径(最頻繊維径)
既述の「(1)平均繊維径の測定方法」で測定された1000点の繊維径(μm)のデータに基づき、対数度数分布を作成する。
対数度数分布は、x軸を繊維径(μm)を、10を底とする対数スケール上にプロットし、y軸は頻度の百分率とする。x軸上において、繊維径0.1(=10
−1)μmから、繊維径50.1(=10
1.7)μmまでを、対数スケール上で均等に27に分割し、頻度の最も大きい分割区間におけるx軸の最小値と最大値との相乗平均の値を、ピーク繊維径(最頻繊維径)とする。
【0055】
メルトブローン不織布の比表面積は、2.0m
2/g〜20.0m
2/gであることが好ましく、3.0m
2/g〜15.0m
2/gであることがより好ましく、3.5m
2/g〜10.0m
2/gであることがさらに好ましい。本開示のプロピレン系重合体を用いることで、比表面積をより大きくすることが可能である。メルトブローン不織布の比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠して求めた値である。
【0056】
メルトブローン不織布は、本開示のプロピレン系重合体を用いることで、平均繊維径と比表面積とを上記範囲内にでき、フィルタとして用いると捕集効率に優れる。
【0057】
メルトブローン不織布の平均孔径は10.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下であることがさらに好ましい。
また、メルトブローン不織布の平均孔径は0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。平均孔径が0.01μm以上であると、メルトブローン不織布をフィルタに用いた場合に、圧損が抑えられ、流量を維持できる傾向にある。
【0058】
また、メルトブローン不織布の最大孔径は、20μm以下であることが好ましく、6.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることがさらに好ましい。
また、メルトブローン不織布の最小孔径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0059】
メルトブローン不織布の孔径(平均孔径、最大孔径、及び最小孔径)は、バブルポイント法により測定することができる。具体的には、JIS Z8703:1983(試験場所の標準状態)に準拠し、温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、メルトブローン不織布の試験片にフッ素系不活性液体(例えば、3M社製、商品名:フロリナート)を含浸させ、キャピラリー・フロー・ポロメーター(例えば、Porous materials,Inc社製、製品名:CFP−1200AE)で孔径を測定する。
【0060】
メルトブローン不織布の目付は、用途により適宜決め得るが、通常、1g/m
2〜200g/m
2であり、2g/m
2〜150g/m
2の範囲にあることが好ましい。
メルトブローン不織布の空隙率は、通常40%以上であり、40%〜98%の範囲にあることが好ましく、60%〜95%の範囲にあることがより好ましい。本開示のメルトブローン不織布がエンボス加工をされている場合には、メルトブローン不織布の空隙率は、エンボス点を除く箇所における空隙率を意味する。
【0061】
また、本開示のメルトブローン不織布のうち、40%以上の空隙率を有する部位の占める体積が90%以上であることが好ましく、ほぼ全ての部位で40%以上の空隙率を有することがより好ましい。本開示のメルトブローン不織布をフィルタに用いる場合には、エンボス加工されていないか、又はほとんど全ての領域でエンボス加工されていないことが好ましい。エンボス加工されていない場合には、フィルタに流体を通過させたときの圧力損失が抑えられ、かつフィルタ流路長が長くなるためフィルタリング性能が向上する傾向にある。なお、本開示のメルトブローン不織布が他の不織布に積層されている場合に、他の不織布はエンボス加工されていてもよい。
【0062】
メルトブローン不織布の通気度は、好ましくは3cm
3/cm
2/sec〜30cm
3/cm
2/secであり、より好ましくは5cm
3/cm
2/sec〜20cm
3/cm
2/secであり、さらに好ましくは8cm
3/cm
2/sec〜12cm
3/cm
2/secである。
【0063】
メルトブローン不織布は溶媒成分を含まないことが好ましい。溶媒成分とは、繊維を構成するポリプロピレン系重合体を溶解可能な有機溶媒成分を意味する。溶媒成分としては、ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。溶媒成分を含まないとは、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって検出限界以下であることを意味する。
【0064】
メルトブローン不織布の繊維は、繊維同士が自己融着した交絡点を有することが好ましい。自己融着した交絡点とは、繊維を構成するポリプロピレン系重合体自体が融着することで繊維同士が結合した枝分かれ部位を意味し、繊維同士がバインダ樹脂を介して接着してできた交絡点とは区別される。自己融着した交絡点は、メルトブローンによる繊維状ポリプロピレン系重合体の細化の過程で形成される。繊維同士が自己融着した交絡点を有するか否かは、電子顕微鏡写真により確認することができる。
【0065】
メルトブローン不織布の繊維同士が自己融着による交絡点を有する場合、繊維同士を接着させるための接着成分を用いなくともよい。したがって、繊維同士が自己融着による交絡点を有するメルトブローン不織布は、繊維を構成するポリプロピレン系重合体以外の樹脂成分を含有する必要がなく、また含有しないことが好ましい。
【0066】
メルトブローン不織布は、単層不織布として用いてもよく、又は不織布積層体の少なくとも一つの層を構成する不織布として用いてもよい。不織布積層体を構成する他の層の例としては、従来のメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布などの他の不織布、並びに織物、編物、紙などが含まれる。不織布積層体において、本開示のメルトブローン不織布は、少なくとも1枚含まれていればよく、2枚以上含んでいてもよい。また、他の不織布、織物、編物、紙等も、これらの中から少なくとも1枚含まれていればよく、2枚以上含んでいてもよい。不織布積層体は、フィルタとして用いることができ、発泡成形用補強材等として用いてもよい。
【0067】
<メルトブローン不織布の用途>
本開示のメルトブローン不織布は、例えば、ガスフィルタ(エアフィルタ)、液体フィルタ等のフィルタとして用いてもよい。
メルトブローン不織布が、1)溶剤成分を含まず、2)繊維同士を接着させるための接着剤成分を含まず、3)エンボス加工が施されていない、これら1)〜3)の少なくとも一つを満たす場合には、不純物の含有量が低減される。そのため、このようなメルトブローン不織布は、清浄性とフィルタリング性能が高く、高性能フィルタとして好適に用いられる。
【0068】
本開示のメルトブローン不織布は、液体用フィルタとして好適に用いることができる。
本開示のメルトブローン不織布は、平均繊維径が小さく、かつ、比表面積が大きい傾向にある。このため、本開示のメルトブローン不織布を液体フィルタとして用いると、微粒子の捕集効率に優れるため好ましい。
【0069】
液体用フィルタは、本開示のメルトブローン不織布の単層からなってもよく、又は本開示のメルトブローン不織布の二層以上の不織布積層体からなってもよい。液体用フィルタとして、二層以上のメルトブローン不織布を含む不織布積層体を用いる場合は、二層以上のメルトブローン不織布を単に重ねてもよい。
また、液体用フィルタは、目的及び適用する液体に応じて、本開示のメルトブローン不織布に、他のメルトブローン不織布を組み合わせてもよい。また、液体用フィルタの強度を強めるために、スパンボンド不織布、網状物などを積層してもよい。
【0070】
液体フィルタは、例えば、孔径を小さく制御するためにフラットロール間にクリアランスを設けた一対のフラットロールを用いてカレンダー処理を行ってもよい。フラットロール間のクリアランスは、不織布の厚さに応じて、適宜変更して、不織布の繊維間にある空隙がなくならようにすることが必要である。
【0071】
カレンダー処理の際に、加熱処理を行う場合、ロール表面温度がポリプロピレン繊維の融点より15℃から50℃低い温度の範囲で熱圧接することが望ましい。ロール表面温度がポリプロピレン繊維の融点より15℃以上低い場合は、メルトブローン不織布の表面のフィルム化が抑えられ、フィルタ性能の低下が抑制される傾向にある。
【0072】
また、本開示のメルトブローン不織布は、発泡成形用補強材に用いてもよい。発泡成形用補強材とは、例えば、ウレタン等からなる発泡成形体の表面を被覆して、発泡成形体の表面を保護したり、発泡成形体の剛性を高めたりするために使用される補強材である。
【0073】
本開示のメルトブローン不織布は、平均繊維径が小さく、かつ比表面積が大きくなる傾向にあるため、液体保持性能が高くなる傾向にある。したがって、発泡成形用の金型内面に、本開示のメルトブローン不織布を含む発泡成形用補強材を配置し、発泡成形を行うことで、ウレタン等の発泡用樹脂が成形体表面に染み出すことを防止できる。発泡成形用補強材には、本開示のメルトブローン不織布のみからなる単層不織布を用いてもよいが、本開示のメルトブローン不織布の片面又は両面に、スパンボンド不織布が積層された不織布積層体を用いることが好ましい。スパンボンド不織布を積層することで、例えば他の層との積層が容易となる。
【0074】
発泡成形用補強材に用いるスパンボンド不織布としては、繊維径が10μm〜40μmであることが好ましく、10μm〜20μmであることがより好ましく、目付は10g/m
2〜50g/m
2であることが好ましく、10g/m
2〜20g/m
2であることがより好ましい。スパンボンド不織布層の繊維径及び目付が上記範囲であると、発泡用樹脂の染み出しを防止しやすい傾向にあるとともに、発泡成形用補強材の軽量化が図れる。
【0075】
なお、発泡成形用補強材は、必要に応じて、スパンボンド不織布上にさらに補強層等を有してもよい。補強層としては、種々の公知の不織布等を用いうる。発泡成形用補強材が補強層を片面のみに有する場合、発泡成形用補強材は、補強層が本開示のメルトブローン不織布より、発泡樹脂側となるように配置して使用される。
【0076】
<メルトブローン不織布の製造方法>
本開示のメルトブローン不織布の製造方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用することができる。例えば、以下の工程を有する製造方法を挙げることができる。
【0077】
1)メルトブローン法により、溶融したポリプロピレン系重合体を紡糸口金から加熱ガスと共に吐出して、繊維状ポリプロピレン系重合体とする工程
2)繊維状ポリプロピレン系重合体を、ウェブ状に捕集する工程
【0078】
メルトブローン法とは、メルトブローン不織布の製造におけるフリース形成法の一つである。溶融したポリプロピレン系重合体を、紡糸口金から繊維状に吐出させるときに、溶融状態の吐出物に両側面から加熱圧縮ガスをあてるとともに、加熱圧縮ガスを随伴させることで吐出物の径を小さくすることができる。
【0079】
メルトブローン法は、具体的には、例えば、原料となるポロプロピレン系重合体を、押出機などを用いて溶融する。溶融ポリプロピレン系重合体は、押出機の先端に接続された紡糸口金に導入され、紡糸口金の紡糸ノズルから、繊維状に吐出される。吐出された繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体を高温ガス(例えば空気)で牽引することにより、繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体が細化される。
【0080】
吐出された繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体は、高温ガスに牽引されることで、通常1.4μm以下、好ましくは1.0μm以下の直径にまで細化される。好ましくは、高温ガスによる限界まで繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体を細化する。
【0081】
細化した繊維状の溶融ポリプロピレン系合体に、高電圧を印加して、さらに細化してもよい。高電圧を印加すると、電場の引力により繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体が捕集側に引っ張られて細化する。印加する電圧は特に制限されず、1kV〜300kVであってもよい。
【0082】
また、繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体に、熱線を照射して、さらに細化してもよい。熱線を照射することで細化し、流動性の低下した繊維状ポリプロピレン系重合体を再溶融することができる。また、熱線を照射することで、繊維状ポリプロピレン系重合体の溶融粘度をより下げることもできる。そのため、分子量の大きいポリプロピレン系重合体を紡糸原料としても、十分に細化された繊維を得ることができ、高強度のメルトブローン不織布が得られうる。
【0083】
熱線とは、波長0.7μm〜1000μmの電磁波を意味し、特に波長0.7μm〜2.5μmである近赤外線を意味する。熱線の強度や照射量は特に制限されず、繊維状溶融ポリプロピレン系重合体が再溶融されればよい。例えば、1V〜200V、好ましくは1V〜20Vの近赤外線ランプ又は近赤外線ヒータを用いることができる。
【0084】
繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体は、ウェブ状に捕集される。一般には、コレクターに捕集されて堆積される。これにより、メルトブローン不織布が製造される。コレクターの例には、多孔ベルト、多孔ドラムなどが含まれる。また、コレクターは空気捕集部を有していてもよく、これにより繊維の捕集を促進してもよい。
【0085】
コレクター上に予め設けた所望の基材上に、繊維をウェブ状に捕集してもよい。予め設けておく基材の例には、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布などの他の不織布、並びに織物、編物、紙などが含まれる。これにより、高性能フィルタ、ワイパーなどで使用するメルトブローン不織布積層体を得ることもできる。
【0086】
<メルトブローン不織布の製造装置>
本開示のメルトブローン不織布を製造するための製造装置は、本開示のメルトブローン不織布を製造することができれば特に限定されない。例えば、
1)ポリプロピレン系重合体を溶融して搬送する押出機と、
2)押出機から搬送された溶融ポリプロピレン系重合体を、繊維状に吐出する紡糸口金と、
3)紡糸口金の下部に、高温ガスを噴射するガスノズルと、
4)紡糸口金から吐出された繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体をウェブ状に捕集する捕集器と、
を具備する製造装置を挙げることができる。
【0087】
押出機は、特に限定されず、一軸押出機であっても多軸押出機であってもよい。ホッパーから投入された固体ポリプロピレン系重合体が、圧縮部で溶融される。
【0088】
紡糸口金は、押出機の先端に配置されている。紡糸口金は、通常複数の紡糸ノズルを具備しており、例えば、複数の紡糸ノズルが列状に配列している。紡糸ノズルの直径は、0.05mm〜0.38mmであることが好ましい。溶融ポリプロピレン系重合体が、押出機によって紡糸口金にまで搬送され、紡糸ノズルに導入される。紡糸ノズルの開口部から繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体が吐出される。溶融ポリプロピレン系重合体の吐出圧力は、通常0.01kg/cm
2〜200kg/cm
2の範囲であり、10kg/cm
2〜30kg/cm
2の範囲であることが好ましい。これより吐出量を高めて、大量生産を実現する。
【0089】
ガスノズルは、紡糸口金の下部、より具体的には紡糸ノズルの開口部付近に、高温ガスを噴射する。噴射ガスは、空気でありうる。ガスノズルを紡糸ノズルの開口部の近傍に設けて、ノズル開口からの吐出直後のポリプロピレン系重合体に、高温ガスを噴射することが好ましい。
【0090】
噴射するガスの速度(吐出風量)は特に限定されず、4Nmm
3/分/m〜30Nmm
3/分/mであってもよい。噴射するガスの温度は、通常5℃〜400℃以下であり、好ましくは250℃〜350℃の範囲である。噴射するガスの種類は特に限定されず、圧縮空気を用いてもよい。
【0091】
メルトブローン不織布の製造装置は、紡糸口金から吐出された繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体に電圧を印加する電圧付与手段を、さらに具備してもよい。
また、紡糸口金から吐出された繊維状の溶融ポリプロピレン系重合体に熱線を照射する熱線照射手段を、さらに具備してもよい。
【0092】
ウェブ状に捕集する捕集器(コレクター)は特に限定されず、例えば、多孔ベルトに繊維を捕集すればよい。多孔ベルトのメッシュ幅は5メッシュ〜200メッシュであることが好ましい。さらに、多孔ベルトの繊維捕集面の裏側に空気捕集部を設けて、捕集を容易にしてもよい。捕集器の捕集面から、紡糸ノズルのノズル開口部までの距離は、3cm〜55cmであることが好ましい。
【0093】
2017年9月26日に出願された日本国特許出願2017−184520号の開示は、その全体が参照により本開示に取り込まれる。
本開示における全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示中に参照により取り込まれる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
【0095】
(1)平均繊維径
メルトブローン不織布について、電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−3500N)を用いて、倍率1000倍の写真を撮影し、任意に繊維100本(n=100)を選び、その繊維の幅(直径)を測定し、得られた測定結果の平均を平均繊維径とした。
【0096】
(2)比表面積
JIS Z8830:2013に準拠し、窒素ガスの物理吸着を用いた細孔分布計(Belsorp max、日本ベル株式会社製)により、メルトブローン不織布のBET比表面積(BET法による比表面積)(m
2/g)を測定した。
【0097】
(3) ピーク繊維径比率
繊維径分布における平均繊維径とピーク繊維径を測定し、得られたピーク繊維径を平均繊維径で除した。繊維径分布における平均繊維径とピーク繊維径の測定方法は以下のようにして行った。
【0098】
(3−1)繊維径分布における平均繊維径
メルトブローン不織布を、株式会社日立製作所製電子顕微鏡「S−3500N」を用いて倍率5000倍の写真を撮影し、無作為に繊維の幅(直径:μm)を1000点測定し、数平均で平均繊維径(μm)を算出した。
メルトブローン不織布における繊維の測定箇所を無作為とするため、撮影した写真の左上隅から右下隅に対角線を引き、対角線と繊維が交差した箇所の繊維の幅(直径)を測定する。測定点が1000点となるまで新規に写真を撮影し測定を行った。
【0099】
(3−2)繊維径分布におけるピーク繊維径(最頻繊維径)
既述の「(3−1)平均繊維径の測定方法」で測定された1000点の繊維径(μm)のデータに基づき、対数度数分布を作成した。
対数度数分布は、x軸を繊維径(μm)を、10を底とする対数スケール上にプロットし、y軸は頻度の百分率とした。x軸上において、繊維径0.1(=10
−1)μmから、繊維径50.1(=10
1.7)μmまでを、対数スケール上で均等に27に分割し、頻度の最も大きい分割区間におけるx軸の最小値と最大値との相乗平均の値を、ピーク繊維径(最頻繊維径)とした。
【0100】
[実施例1]
高分子量プロピレン系重合体AとしてAchieve 6936G2(製品名、ExxonMobil社製、重量平均分子量:5.5万のプロピレン系重合体、MFR:1550)85質量部と、低分子量プロピレン系重合体BとしてハイワックスNP055(製品名、三井化学株式会社製、重量平均分子量:7700のプロピレン系重合体)15質量部とを混合し、プロピレン系重合体混合物(1)の100質量部を得た。
【0101】
プロピレン系重合体混合物(1)を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量5万5千の位置と、分子量8千の位置にピークトップが存在した。ピークトップの数は2つであった。プロピレン系重合体混合物(1)の重量平均分子量(Mw)は3万8千であった。また、プロピレン系重合体混合物(1)の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、0.56(dl/g)であった。
プロピレン系重合体混合物(1)のGPCチャートを、
図1に示す。
【0102】
プロピレン系重合体混合物(1)をダイに供給し、設定温度280℃のダイスから、ノズル単孔あたり50mg/分で、ノズルの両側から吹き出す加熱エアー(280℃、120m/秒)と供に吐き出しメルトブローン不織布を得た。ダイスのノズルの直径は0.12mmであった。得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率及び比表面積を前述の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0103】
得られたメルトブローン不織布について、上述の方法でGPC測定を行った。得られたGPCチャートを
図2に示す。メルトブローン不織布のGPC測定では、分子量5万5千の位置と、分子量8千の位置にピークトップが存在した。ピークトップの数は2つであった。メルトブローン不織布の重量平均分子量(Mw)は3万8千であった。
【0104】
また、得られたメルトブローン不織布について、以下の方法で極限粘度[η]を測定した。
メルトブローン不織布の約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度として求めた(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
メルトブローン不織布の極限粘度[η]は、紡糸前と変わらず、0.56(dl/g)であった。
【0105】
[実施例2]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物(1)100質量部の代わりに、高分子量プロピレン系重合体AとしてのAchieve 6936G2(製品名、ExxonMobil社製、重量平均分子量:5.5万のプロピレン系重合体、MFR:1550)90質量部と、低分子量プロピレン系重合体BとしてのハイワックスNP055(製品名、三井化学株式会社製、重量平均分子量7700のプロピレン系重合体)10質量部との混合物であるプロピレン系重合体混合物(2)100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
プロピレン系重合体混合物(2)を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量5万5千と分子量8千の位置にピークトップが存在した。ピークトップの数は2つであった。プロピレン系重合体混合物(2)の重量平均分子量(Mw)は5.3万であった。また、プロピレン系重合体混合物(2)の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、0.56(dl/g)であった。得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率、比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0106】
[比較例1]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物(1)100質量部の代わりに、高分子量プロピレン系重合体AとしてのAchieve 6936G2(製品名、ExxonMobil社製、重量平均分子量:5.5万のプロピレン系重合体、MFR:1550)を単独で100質量部用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
高分子量ポリプロピレン系重合体AとしてのAchieve 6936G2を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量5万5千の位置のみにピークトップが存在した。高分子量プロピレン系重合体AとしてのAchieve 6936G2の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、0.63(dl/g)であった。得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率、比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0107】
[比較例2]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物(1)100質量部の代わりに、高分子量プロピレン系重合体Aとしての650Y(製品名、Polymire社製、重量平均分子量:5.1万のプロピレン系重合体、MFR:1800)を単独で100質量部用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。高分子量ポリプロピレン系重合体Aとしての650Yを前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量5万1千の位置のみにピークトップが存在した。高分子量プロピレン系重合体Aとしての650Yの極限粘度[
η]を前述の方法で測定したところ、0.56(dl/g)であった。得られたメルトブ
ローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率、比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0108】
[比較例3]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物100質量部の代わりに、Achieve 6936G2(製品名、ExxonMobil社製、重量平均分子量:5.5万のプロピレン系重合体、MFR:1550)94質量部と、ハイワックスNP055(製品名、三井化学株式会社製、重量平均分子量7700のプロピレン系重合体)6質量部の混合物であるプロピレン系重合体混合物(3)100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
プロピレン系重合体混合物(3)を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量5万5千の位置のみにピークトップが存在した。プロピレン系重合体混合物(3)の重量平均分子量は5万4千であった。また、プロピレン系重合体混合物(3)の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、0.59(dl/g)であった。
プロピレン系重合体混合物(3)のGPCチャートを、
図1に示す。
得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率、比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0109】
[比較例4]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物100質量部の代わりに、Achieve 6936G2(製品名、ExxonMobil社製、重量平均分子量:5.5万のプロピレン系重合体、MFR:1550)50質量部と、ハイワックスNP055(製品名、三井化学株式会社製、重量平均分子量7700のプロピレン系重合体)50質量部の混合物であるプロピレン系重合体混合物(4)100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
プロピレン系重合体混合物(4)を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、重量平均分子量5万5千と分子量8千の位置にピークトップが存在した。ピークトップの数は2つであった。プロピレン系重合体混合物(4)の重量平均分子量は2万9千であった。また、プロピレン系重合体混合物(4)の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、0.41(dl/g)であった。
【0110】
プロピレン系重合体混合物(4)を実施例1と同様の方法でメルトブローン不織布を作製しようとしたところ、紡糸することができなかった。
【0111】
[比較例5]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物100質量部の代わりに、S119(製品名、三井化学社製、重量平均分子量:17.1万のプロピレン系重合体、MFR:60)85質量部と、ハイワックスNP055(製品名、三井化学株式会社製、重量平均分子量7700のプロピレン系重合体)15質量部の混合物であるプロピレン系重合体混合物(5)100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
プロピレン系重合体混合物(5)を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量17万と分子量8千の位置にピークトップが存在した。ピークトップの数は2つであった。プロピレン系重合体混合物(5)の重量平均分子量は16万2千であった。また、プロピレン系重合体混合物(4)の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、1.2(dl/g)であった。得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率、比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0112】
[比較例6]
実施例1において、プロピレン系重合体混合物100質量部の代わりに、SP50500P(製品名、プライムポリマー社製、重量平均分子量:3.8万のエチレン系重合体、JIS K 7210−1:2014に準拠して190℃、荷重2.16kgで測定したMFR:135)85質量部と、ハイワックス720P(製品名、三井化学株式会社製、重量平均分子量:7000のエチレン系重合体)15質量部の混合物であるエチレン系重合体混合物100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
エチレン系重合体混合物を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、プロピレン系重合体に由来するピークトップは存在しなかった。なお、エチレン系重合体に由来するピークトップは、分子量3万8千の位置と、分子量7千の位置に存在した。エチレン系重合体混合物の重量平均分子量は3万1千であった。また、エチレン系重合体混合物の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、0.61(dl/g)であった。得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率、比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0113】
[比較例7]
プロピレン・エチレン共重合体としてVistamaxx
TM6202〔製品名、ExxonMobil社製、重量平均分子量:7万、MFR(230℃、2.16kg荷重):20g/10min、エチレン含量:15質量%〕40質量部と、プロピレン系重合体ワックス〔密度:0.900g/cm
3、重量平均分子量:7800、軟化点148℃、エチレン含量:1.7質量%〕40質量部と、プロピレン単独重合体〔MFR:1500g/10分、重量平均分子量:54000〕20質量部と、を混合し、プロピレン系重合体組成物(6)を得た。
【0114】
プロピレン系重合体混合物(6)を前述の方法でGPCにて測定を実施したところ、分子量7万の位置と、分子量5.4万の位置と、分子量8千の位置にピークトップが存在した。ピークトップの数は3つであった。プロピレン系重合体混合物(6)の重量平均分子量(Mw)は4.8万であった。また、プロピレン系重合体混合物(1)の極限粘度[η]を前述の方法で測定したところ、1.3(dl/g)であった。プロピレン系重合体混合物(6)を用いた以外は実施例1と同様にしてメルトブローン不織布を得た。得られたメルトブローン不織布の平均繊維径、ピーク繊維径、ピーク繊維径比率。比表面積、及び極限粘度[η]を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1中、「−」は、該当する成分を含まないことを意味する。PPはポリプロピレン、PEはポリエチレンを表す。
【0117】
表1から明らかなように、実施例のメルトブローン不織布では、比較例のメルトブローン不織布に比べて、平均繊維径が小さく、かつ、比表面積が大きい。このため、実施例のメルトブローン不織布をフィルタとして用いた際に微粒子の捕集効率に優れることが分かる。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける排出曲線において、分子量2万以上の位置に少なくとも1つのピークトップと、分子量2万未満の位置に少なくとも1つのピークトップとを有し、極限粘度[η]が0.50(dl/g)〜0.75(dl/g)であるプロピレン系重合体からなるメルトブローン不織布。