(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6511701
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】投影光学系、投影露光装置、及びデバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 13/24 20060101AFI20190425BHJP
G02B 13/22 20060101ALI20190425BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20190425BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
G02B13/24
G02B13/22
G03F7/20 501
H01L21/30 515D
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-9285(P2014-9285)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-138124(P2015-138124A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】711009349
【氏名又は名称】リソテック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】劉 鵬
【審査官】
堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/089002(WO,A1)
【文献】
特開2010−091751(JP,A)
【文献】
特開平01−267513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00−17/08
G02B 21/02−21/04
G02B 25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側および像側の両側にほぼテレセントリックな屈折タイプの縮小投影光学系において、
物体側より順に、光軸に沿って、正の屈折力を有する第1レンズ群と、第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、系の開口数(NA)を決定する可変開口絞りとで構成され、前記開口絞りを第1レンズ群と第2レンズ群との間に配置され、前記第2レンズ群と前記第3レンズ群は、開口絞りよりも像側であって最も大きい空気間隔により区分され、
前記第2レンズ群は、νd=(nd−1)/(nF−nC)の条件式で、
νd>65を満たす正レンズを少なくとも2枚含み、且つ
νd<50を満たす負レンズを少なくとも2枚含み、
さらに、各レンズ群が
0.05<f1/L<1.3
|f2|/L>0.8
0.03<f3/L<0.8
の条件式を満足することを特徴とする投影光学系;
但し
νd:逆分散率、光学ガラスの分散程度を表現する定数
nF:F線(波長486nm)に対する屈折率
nd:d線(波長587nm)に対する屈折率
nC:C線(波長656nm)に対する屈折率
f1:第1レンズ群の焦点距離
f2:第2レンズ群の焦点距離
f3:第3レンズ群の焦点距離
L :物体から結像までの距離。
【請求項2】
前記第3レンズ群は、5枚のレンズで構成されることを特徴とする請求項1に記載の投影光学系。
【請求項3】
第2レンズ群は、
nd<1.65を満たす正レンズを少なくとも2枚含み、且つ
nd>1.50を満たす負レンズを少なくとも2枚含むことを特徴とする請求項1または2に記載の投影光学系。
【請求項4】
第3レンズ群は、結像面に最も近いレンズが、結像面側に凹面を持つ負レンズであり、
nd>1.50
νd>40
0.6<ri/ti<5.0
の条件式を満足することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の投影光学系;
但し、
ri:像面に向けたレンズ曲面の曲率半径
ti:像面に向けたレンズ曲面から結像面までの距離。
【請求項5】
第3レンズ群は、νd<60を満たす正レンズを少なくとも1枚含むことを特徴とする請求項4に記載の投影光学系。
【請求項6】
第1レンズ群は、νd<60を満たす正レンズを少なくとも1枚含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の投影光学系。
【請求項7】
系の構成レンズの総枚数が、10枚以上24枚以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の投影光学系。
【請求項8】
マスク上のパターンを、請求項1から7のいずれかに記載の投影光学系を介してワーク上に投影露光するものであることを特徴とする投影露光装置。
【請求項9】
デバイスの回路パターンを投影光学系を介して基板上へ投影露光するデバイス製造方法において、
前記投影光学系として請求項1から7のいずれかに記載のものを使用することを特徴とするデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体側及び像側ともに主光線が光軸と概ね平行な両テレセントリックの縮小投影光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
両テレセントリック光学系は、物体面や像面に対して光軸方向にずれが生じてもその倍率が殆ど変わらず、投影光学系に適用した場合には、焦点のずれによる悪影響を抑えることができ、検査光学系に適用した場合は、位置決め誤差による悪影響を抑えることができるので、MEMS、半導体素子、液晶表示素子、撮像素子(CCDなど)、薄膜磁気ヘッドなどのマイクロデバイスを製造するためのリソグラフィ工程でマスクパターンをワーク上に縮小転写するのに使用される露光装置等に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−14281号公報
【特許文献2】特開2004−354805号公報
【特許文献3】特表2006−512777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、露光装置に関しては、近年は、一括的に露光すべき露光領域の大面積化が進んでおり、光源からの光エネルギーを効率良く利用して小型化を図るために、露光光として複数のスペクトル光を同時に利用することが望まれている。
但し、その場合には、複数のスペクトル光に対して色消しされた光学系を実現する必要がある。
【0005】
従来技術では、2色色消し光学系や3色色消し光学系が種々提案されており、2色色消しに対しては十分な性能を有しているが、光エネルギーをより効率良く利用できる3色色消しに対しては実際に採用するのはやや難がある。
大面積の露光領域に対応させる場合には、そのスケールに応じて焦点距離が長くなり、焦点距離に比例して軸上色収差の2次スペクトルが大きくなるので、特許文献1、2及び3に記載されたように、屈折タイプでは補正し切れず、一方、色収差の補正が比較的容易だとされた反射屈折タイプでは装置が大型化するので取扱いし難くなるからである。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、大面積の有効視野を確保しつつ、i線の光とh線の光とg線の光とに対して良好に3色色消しされて、コントラストの高い解像度を有する、ほぼ両側テレセントリックな屈折型の縮小投影光学系を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明は、
物体側および像側の両側にほぼテレセントリックな屈折タイプの縮小投影光学系において、
物体側より順に、光軸に沿って、正の屈折力を有する第1レンズ群と、第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、前記第1レンズ群と前記第3レンズ群との間に配置された、系の開口数(NA)を決定する可変開口絞りとで構成され、
前記第2レンズ群は、νd=(nd−1)/(nF−nC)の条件式で、
νd>65を満たす正レンズを少なくとも2枚含み、且つ
νd<50を満たす負レンズを少なくとも2枚含み、
さらに、各レンズ群が
0.05<f1/L<1.3
|f2|/L>0.8
0.03<f3/L<0.8
の条件式を満足することを特徴とする投影光学系;
但し
νd:逆分散率、光学ガラスの分散程度を表現する定数
nF:F線(波長486nm)に対する屈折率
nd:d線(波長587nm)に対する屈折率
nC:C線(波長656nm)に対する屈折率
f1:第1レンズ群の焦点距離
f2:第2レンズ群の焦点距離
f3:第3レンズ群の焦点距離
L :物体から結像までの距離
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の物体側および像側の両側にほぼテレセントリックな屈折タイプの縮小投影光学系では、軸上色収差、特に二次スペクトルを含めて、諸収差がバランス良く補正できている。
細かく言えば、
中央の第2レンズ群が、νd=(nd−1)/(nF−nC)の条件式で、
νd>65を満たす正レンズを少なくとも2枚含み、且つ
νd<50を満たす負レンズを少なくとも2枚含むことで、
色収差のうち、軸上色収差を十分に小さく抑えつつ、二次スペクトルを補正できる。
【0009】
物体側の正の屈折力を有する第1レンズ群を、
0.05<f1/L<1.3
と設定することで、
テレセントリック性を確保しながら、倍率色収差の劣化を抑えることができる。この下限を下回ると、光線が発散し易くなって、所望の投影倍率で投影したときに、テレセントリック性が確保し難くなる。一方、この上限を上回ると、逆に光線が収束し易くなって、同様に、テレセントリック性が確保し難くなる。
【0010】
中央の第2レンズ群を、
|f2|/L>0.8
と設定することで、
上記したνdの条件式と併用することで、軸上色収差、特に二次スペクトルを効果的に補正できる。
また、球面収差を抑え、ペッツバール和を小さくして像面湾曲を抑えることで、他の収差とのバランスを維持できる。
【0011】
像側の第3レンズ群を、
0.03<f3/L<0.8
と設定することで、
テレセントリック性を確保しながら、倍率色収差の劣化を抑えることができる。この下限を下回ると、光線が収束し易くなって、所望の投影倍率で投影したときに、テレセントリック性が確保し難くなる。一方、この上限を上回ると、逆に光線が発散し易くなって、同様に、テレセントリック性が確保し難くなる。
また、この下限を下回ると、内向きコマ収差が発生し、且つ、ペッツバール和が小さくなりすぎて、像面湾曲の補正が不足する。一方、この上限を上回ると、外向きコマ収差が発生し、且つ、ペッツバール和が大きくなりすぎて、像面湾曲が過剰補正される。
【0012】
また、解像度を大きくするのに対応して、投影光学系の開口数(NA)を可変とすると、瞳収差によって像側でテレセントリックが悪化し易いが、その悪化が抑えられている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るテレセントリックな屈折タイプの縮小投影光学系の構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るテレセントリックな屈折タイプの縮小投影光学系の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
物体側および像側の両側にほぼテレセントリックな屈折タイプの縮小投影光学系において、
物体側より順に、光軸に沿って、正の屈折力を有する第1レンズ群と、第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、前記第1レンズ群と前記第3レンズ群との間に配置された、系の開口数(NA)を決定する可変開口絞りとで構成され、
前記第2レンズ群は、νd=(nd−1)/(nF−nC)の条件式で、
νd>65を満たす正レンズを少なくとも2枚含み、且つ
νd<50を満たす負レンズを少なくとも2枚含み、
さらに、各レンズ群が
0.05<f1/L<1.3
|f2|/L>0.8
0.03<f3/L<0.8
の条件式を満足することを特徴とする投影光学系;
但し
νd:逆分散率、光学ガラスの分散程度を表現する定数
nF:F線(波長486nm)に対する屈折率
nd:d線(波長587nm)に対する屈折率
nC:C線(波長656nm)に対する屈折率
f1:第1レンズ群の焦点距離
f2:第2レンズ群の焦点距離
f3:第3レンズ群の焦点距離
L :物体から結像までの距離
である。
【0015】
好ましくは、
第2レンズ群は、
nd<1.65を満たす正レンズを少なくとも2枚含み、且つ
nd>1.50を満たす負レンズを少なくとも2枚含む。
このように設定することで、中央の第2レンズ群の球面収差、特に高次球面収差を抑えると共に、ペッツバール和を確実に小さくして像面湾曲を抑えることで、他の諸収差とのバランスを高いレベルで維持できる。
【0016】
好ましくは、
第3レンズ群は、
結像面に最も近いレンズが、結像面側に凹面を持つ負レンズであり、
nd>1.50
νd>40
0.6<ri/ti<5.0
の条件式を満足する;
但し、
ri:像面に向けたレンズ曲面の曲率半径
ti:像面に向けたレンズ曲面から結像面までの距離
である。
このように設定することで、コマ収差の劣化を抑えながら、倍率色収差の劣化を抑えることができる。この下限を下回ると、内向きコマ収差が発生し、且つ、倍率色収差が過剰補正される。一方、この上限を上回ると、外向きコマ収差が発生し、且つ、倍率色収差の補正が不足する。
【0017】
好ましくは、
第3レンズ群は、
νd<60を満たす正レンズを少なくとも1枚含む。
このように設定することで、倍率色収差と軸上の色収差および2次スペクトルの劣化を効果的に抑えることができる。
【0018】
好ましくは、
第1レンズ群は、
νd<60を満たす正レンズを少なくとも1枚含む。
このように設定することで、軸上色収差、特に二次スペクトルを効果的に補正できる。
【0019】
好ましくは、
絞りを第1レンズ群と第2レンズ群との間に配置した。
このように設定することで、オリジナルのコマ収差を抑えて、テレセントリック性を確保できる。
【0020】
好ましくは、
系の構成レンズの総枚数が、10枚以上24枚以下である。
上記総枚数で、広い露光領域において、収差を良好に補正することができるので、コストと収差補正のバランスを取れる。
【0021】
図1は、第1の実施の形態のレンズ構成を説明する。
この実施の形態では、レティクル(物体)と基板(像)の間に、レティクル側から第1レンズ群(G1)、絞り(AS)、第2レンズ群(G2)、第3レンズ群(G3)の順に配置した。構成レンズの総枚数は、16枚である。
第1レンズ群(G1)は、正の屈折力を有し、3枚のレンズL1〜L3で構成されている。レンズL1は像側に凸面を向けた正レンズ、レンズL2は物体側に凸面を向けた正レンズ、レンズL3は物体側に凹面を向けた負レンズで構成されている。
第2レンズ群(G2)は、8枚のレンズL4〜L11で構成されている。レンズL4は像側に凹面を向けた負レンズ、レンズL5は両凸レンズ、レンズL6は物体側に凹面を向けたメニスカスレンズ、レンズL7は像側に凸面を向けた正レンズ、レンズL8は物体側に凹面を向けた負レンズ、レンズL9は両凸レンズ、レンズL10は両凹レンズ、レンズL11は両凸レンズで構成されている。
第3レンズ群(G3)は、5枚のレンズL12〜L16で構成されている。レンズL12は両凸レンズ、レンズL13は物体側に凸面を向けた正レンズ、レンズL14は物体側に凸面を向けた正レンズ、レンズL15は像側に凹面を向けた負レンズ、レンズL16は像側に凹面を向けた負レンズで構成されている。
【0022】
図2は、第2の実施の形態のレンズ構成を説明する。
この実施の形態では、レティクル(物体)と基板(像)の間に、レティクル側から第1レンズ群(G1)、絞り(AS)、第2レンズ群(G2)、第3レンズ群(G3)の順に配置した。構成レンズの総枚数は、15枚である。
第1レンズ群(G1)は、正の屈折力を有し、3枚のレンズL1〜L3で構成されている。レンズL1は両凸レンズ、レンズL2は両凸レンズ、レンズL3は両凹レンズで構成されている。
第2レンズ群(G2)は、7枚のレンズL4〜L10で構成されている。レンズL4は像側に凸面を向けた正レンズ、レンズL5は両凸レンズ、レンズL6は物体側に凹面を向けた負レンズ、レンズL7は両凹レンズ、レンズL8は両凸レンズ、レンズL9は両凹レンズ、レンズL10は像側に凸面を向けた正レンズで構成されている。
第3レンズ群(G3)は、5枚のレンズL11〜L15で構成されている。レンズL11は両凸レンズ、レンズL12は物体側に凸面を向けた正レンズ、レンズL13は物体側に凸面を向けたメニスカスレンズ、レンズL14は物体側に凸面を向けたメニスカスレンズ、レンズL15は像側に凹面を向けた負レンズで構成されている。
【0023】
半導体デバイス、液晶表示素子、プラズマディスプレイパネル、プラズマアドレス液晶ディスプレイ等の表示デバイス、薄膜磁気ヘッド等のデバイス、およびプリント配線基板などの製造において、フォトリソグラフィー工程で投影露光装置を用いる。
投影露光装置は、マスク上のパターンを投影光学系を介してワーク上に投影露光するものであり、この投影光学系に、本発明の投影光学系を使用できる。
レンズ駆動部を介して投影光学系のレンズの位置を調整して投影倍率を適切なものとした上で、マスクを照明して、マスク上のパターンをワーク上に転写することになる。
【0024】
大面積の露光領域に対応させる場合には、そのスケールに応じて焦点距離が長くなるが、本発明の投影光学系によれば、i線の光とh線の光とg線の光とに対して良好にバランス良く3色色消しされる。
従って、光源からのエネルギーを効率良く利用でき、光源の小型化が実現できる。
【0025】
投影露光装置は、集積回路素子等のデバイスの回路パターンを形成する際の露光工程にも用いられる。マスクを保持するマスクステージと、ワークであるプレートを保持するプレートステージとが露光中に互いに逆方向に走査する。投影光学系は、マスク側とプレート側において、実質的にテレセントリックで、縮小倍率が確保されている。
【0026】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
いずれにしても、特許請求されている事項を除いては、従来からあるまたは将来案出される光学系を任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
表1に、第1の実施の形態に対応した投影光学系の諸元の値を掲げる。
【0028】
【表1】
【0029】
[実施例2]
表2に、第1の実施の形態に対応した投影光学系の諸元の値を掲げる。
【0030】
【表2】
【0031】
図3、
図4は、ぞれぞれ、実施例1、実施例2において、物体側から像側に光線追跡することにより得られた投影光学系の諸収差図である。h線の光とi線の光とg線の光とに対して3色色消しする投影光学系に適用している。非点収差のMはメリディオナル面を通る光線で、SはMに直角な面を通るサジタル面を通る光線である。
いずれも3色の色消しがバランスよく為されている。