特許第6512067号(P6512067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512067
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】波長変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20190425BHJP
   H01L 33/64 20100101ALI20190425BHJP
   H01S 5/022 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   H01L33/50
   H01L33/64
   H01S5/022
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-214239(P2015-214239)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-85038(P2017-85038A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】古山 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】藤田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
【審査官】 島田 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−29034(JP,A)
【文献】 特開2011−123368(JP,A)
【文献】 特開2008−305936(JP,A)
【文献】 特開2010−183002(JP,A)
【文献】 特表2013−539477(JP,A)
【文献】 米国特許第7196354(US,B1)
【文献】 特開2014−236202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00−33/64
H01S 5/00− 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する放熱部材と、上面、下面及び前記上面と前記下面とを接続している側面を有し、前記貫通孔内に配置される波長変換部材と、前記波長変換部材の少なくとも前記側面を覆っているガラス層とを備え、前記ガラス層によって前記貫通孔の表面と前記波長変換部材の前記側面とが接着されている波長変換素子を製造する方法であって、
ガラス粉末と、バインダーと、溶剤とを含むガラスペーストを準備する工程と、
前記貫通孔内に前記波長変換部材を配置する工程と、
前記貫通孔内に前記波長変換部材を配置する前及び/または後に、前記ガラスペーストを前記貫通孔内に充填することによって、前記波長変換部材の少なくとも前記側面を前記ガラスペーストで覆う工程と、
前記ガラスペーストを加熱して、前記ガラス層を形成する工程とを備える、波長変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記ガラスペーストを前記貫通孔に充填する前に、前記貫通孔の開放端の一方を封止するように封止部材を配置し、
前記ガラス層を形成する工程の後に前記封止部材を除去する、請求項1に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記貫通孔内に前記波長変換部材を配置した後に、前記貫通孔内に前記ガラスペーストを充填して前記波長変換部材の少なくとも前記側面を前記ガラスペーストで覆う、請求項1または2に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記貫通孔内に前記ガラスペーストを充填した後に、前記貫通孔内に前記波長変換部材を配置して前記波長変換部材の少なくとも前記側面を前記ガラスペーストで覆う、請求項1または2に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記波長変換部材の前記上面及び前記下面の少なくとも一方を前記ガラスペーストで覆う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記貫通孔は、一方端から他方端に向かって拡がるテーパー状の形状に形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記貫通孔に対応した形状を有する前記波長変換部材を、前記他方端側から前記貫通孔内に配置する、請求項6に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記波長変換部材が、無機バインダー中に蛍光体の粉末を分散して形成されたものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記波長変換部材が、多結晶セラミック蛍光体または単結晶セラミック蛍光体からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記波長変換部材が、蛍光体層と、前記蛍光体層より高い熱伝導率を有する透光性放熱層とを交互に積層させた積層体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記透光性放熱層が、透光性セラミックからなる、請求項10に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記放熱部材が、金属またはセラミックから形成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記ガラス粉末が、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、スズリン酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス及びホウケイ酸鉛ガラスから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記ガラスペーストがセラミック粉末を含み、前記ガラスペーストにおける前記セラミック粉末の含有量が70体積%以下である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項15】
前記セラミック粉末が、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ニオビウム、酸化イットリウム及び酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種である、請求項14に記載の波長変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の発光装置として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLDを用いた発光装置に対する注目が高まってきている。そのような次世代発光装置の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された発光装置が開示されている。この発光装置は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、LEDからの光により樹脂が劣化し、発光装置の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、LEDが発する熱や高エネルギーの短波長(青色〜紫外)の光によってモールド樹脂が劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂に代えてガラスマトリクス中に蛍光体を分散固定した完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3を参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【0005】
近年、ハイパワー化を目的として、光源として用いるLEDやLDの出力が上昇している。それに伴い、光源の熱や、励起光を照射された蛍光体から発せられる熱により波長変換部材の温度が上昇し、その結果、発光強度が経時的に低下する(温度消光)という問題がある。また、場合によっては、波長変換部材の温度上昇が顕著となり、構成材料(ガラスマトリクス等)が溶解するおそれがある。
【0006】
そこで、波長変換部材からの熱を放熱するため、波長変換部材の周辺部に、当該波長変換部材より高い熱伝導率を有する放熱部材が設けられた波長変換素子が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4では、波長変換部材をステンレス製の放熱部材に取り付ける方法として、貫通孔を有する放熱部材の嵌合部に切り込みまたは穴部を形成し、切り込みまたは穴部に低融点ガラスを充填することにより取り付ける方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【特許文献3】特開2007−016171号公報
【特許文献4】特開2007−323861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載の方法では、波長変換部材と放熱部材との間に隙間が形成され、波長変換部材からの熱が放熱部材に伝達されにくく、高い放熱性を得ることができないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、波長変換部材からの熱を効率良く放熱部材に伝達することができる波長変換素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の波長変換素子の製造方法は、貫通孔を有する放熱部材と、上面、下面及び上面と下面とを接続している側面を有し、貫通孔内に配置される波長変換部材と、波長変換部材の少なくとも側面を覆っているガラス層とを備え、ガラス層によって貫通孔の表面と波長変換部材の側面とが接着されている波長変換素子を製造する方法であって、ガラス粉末と、バインダーと、溶剤とを含むガラスペーストを準備する工程と、貫通孔内に波長変換部材を配置する工程と、貫通孔内に波長変換部材を配置する前及び/または後に、ガラスペーストを貫通孔内に充填することによって、波長変換部材の少なくとも側面をガラスペーストで覆う工程と、ガラスペーストを加熱して、ガラス層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
ガラスペーストを貫通孔に充填する前に、貫通孔の開放端の一方を封止するように封止部材を配置し、ガラス層を形成する工程の後に封止部材を除去することが好ましい。
【0012】
貫通孔内に波長変換部材を配置した後に、貫通孔内にガラスペーストを充填して波長変換部材の少なくとも側面をガラスペーストで覆ってもよい。貫通孔内にガラスペーストを充填した後に、貫通孔内に波長変換部材を配置して波長変換部材の少なくとも側面をガラスペーストで覆ってもよい。
【0013】
さらに、波長変換部材の上面及び下面の少なくとも一方をガラスペーストで覆ってもよい。
【0014】
貫通孔は、一方端から他方端に向かって拡がるテーパー状の形状に形成されていることが好ましい。その場合、貫通孔に対応した形状を有する波長変換部材を、他方端側から貫通孔内に配置することが好ましい。
【0015】
波長変換部材は、無機バインダー中に蛍光体の粉末を分散して形成されたものであってもよい。波長変換部材が、多結晶セラミック蛍光体または単結晶セラミック蛍光体からなるものであってもよい。
【0016】
波長変換部材が、蛍光体層と、蛍光体層より高い熱伝導率を有する透光性放熱層とを交互に積層させた積層体であってもよい。この場合、透光性放熱層は、例えば、透光性セラミックからなる。
【0017】
本発明において、放熱部材は、例えば、金属またはセラミックから形成されている。
【0018】
本発明において、ガラス粉末は、例えば、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、スズリン酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス及びホウケイ酸鉛ガラスから選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
ガラスペーストがセラミック粉末を含み、ガラスペーストにおけるセラミック粉末の含有量が70体積%以下であることが好ましい。この場合、セラミック粉末は、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ニオビウム、酸化イットリウム及び酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、波長変換部材からの熱を効率良く放熱部材に伝達することができる波長変換素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。
図2】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図3】(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。
図5】本発明の第4の実施形態における波長変換部材を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。図1に示すように、本実施形態の波長変換素子10は、貫通孔3を有する放熱部材2と、貫通孔3内に配置される波長変換部材1と、波長変換部材1と貫通孔3との間に設けられるガラス層4とを備えている。波長変換部材1は、上面1c、下面1b及び上面1c及び下面1bを接続している側面1aを有する。貫通孔3の表面3aと波長変換部材1の側面1aとは、ガラス層4によって接着されている。本実施形態の波長変換部材1は、側面1a、下面1b及び上面1cがガラス層4により覆われているが、これに限られず、少なくとも側面1aがガラス層4により覆われていればよい。つまり、波長変換部材1の側面1aのみがガラス層4に覆われていてもよいし、側面1aと下面1bのみがガラス層4に覆われていてもよいし、側面1aと上面1cのみがガラス層4に覆われていてもよい。
【0024】
波長変換部材1としては、光源から発せられた励起光により蛍光を発する蛍光体を含むものが挙げられる。このような波長変換部材1としては、無機バインダー中に蛍光体の粉末を分散して形成されたものが挙げられる。無機バインダー中に分散させることにより、蛍光体を均一に分散することができる。無機バインダーとしては、ガラスやポリシラザン等が挙げられる。ガラスとしては、蛍光体の耐熱性を考慮し、軟化点が250℃〜1000℃、さらには300℃〜850℃であるものを用いることが好ましい。ガラスの具体例としては、ホウ珪酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス等が挙げられる。
【0025】
蛍光体は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。蛍光体の具体例としては、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体、ガーネット系化合物蛍光体から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。励起光として青色光を用いる場合、例えば、緑色光、黄色光または赤色光を蛍光として出射する蛍光体を用いることができる。
【0026】
蛍光体の平均粒子径(D50)は、1μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜25μmであることがより好ましい。蛍光体の平均粒子径が小さすぎると、発光強度が低下しやすくなる。一方、蛍光体の平均粒子径が大きすぎると、発光色が不均一になる傾向がある。
【0027】
波長変換部材1中における蛍光体の含有量は、5体積%〜80体積%であることが好ましく、10体積%〜75体積%であることがより好ましく、20体積%〜70体積%であることがさらに好ましい。蛍光体の含有量が少なすぎると、所望の発光強度が得られにくくなる。一方、蛍光体の含有量が多すぎると、波長変換部材1の機械的強度が低下しやすくなる。
【0028】
波長変換部材1は、無機バインダー等を含まない、実質的に蛍光体のみから構成されたものであってもよい。このようなものとして、具体的には多結晶セラミック蛍光体及び単結晶セラミック蛍光体が挙げられる。これらのセラミック蛍光体は耐熱性に非常に優れるため、励起光の出力が大きくなって高温になった場合であっても、溶解等の不具合が発生しにくい。多結晶セラミック蛍光体及び単結晶セラミック蛍光体としては、例えばYAGセラミック蛍光体等のガーネット系セラミック蛍光体が挙げられる。
【0029】
波長変換部材1の厚みは、励起光が確実に蛍光体に吸収されるような厚みである範囲において、薄い方が好ましい。その理由としては、波長変換部材1が厚すぎると、波長変換部材1における光の散乱や吸収が大きくなりすぎ、蛍光の出射効率が低下する傾向があること、及び、波長変換部材1の温度が高くなって、経時的な発光強度の低下や構成材料の溶解が発生しやすくなることが挙げられる。そのため、波長変換部材1の厚みは、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることがさらに好ましい。波長変換部材1の厚みの下限値は、通常、0.03mm程度である。また、出射光として白色を得る目的の場合は、励起光と蛍光が適切な割合になるように、波長変換部材1の厚みを制御すればよい。
【0030】
放熱部材2は、波長変換部材1で生じた熱を放熱するため設けられている。したがって、放熱部材2は、高い熱伝導率を有する材質が形成されていることが好ましい。このような観点から、放熱部材2は、金属またはセラミックなどから形成されていることが好ましい。金属としては、例えば、アルミニウムやステンレス等が挙げられる。セラミックとしては、高熱伝導性セラミックを用いることができる。高熱伝導性セラミックとしては、酸化アルミニウム系セラミック、窒化アルミニウム系セラミック、炭化ケイ素系セラミック、窒化ホウ素系セラミック、酸化マグネシウム系セラミック、酸化チタン系セラミック、酸化ニオビウム系セラミック、酸化亜鉛系セラミック、酸化イットリウム系セラミックなどが挙げられる。
【0031】
本実施形態における放熱部材2の貫通孔3は、一方端としての第1の開放端3bから他方端としての第2の開放端3cに向かって拡がるテーパー状に形成されている。また、波長変換部材1は貫通孔3に対応した形状を有している。具体的には、波長変換部材1の側面1aは、貫通孔3のテーパー状の表面3aに対応した形状を有している。波長変換部材1の側面1a及び貫通孔3の表面3aが上記形状を有することにより、図2(a)〜(c)を参照して後述する波長変換素子10の製造工程において、波長変換部材1の側面1aを、貫通孔3内に容易に配置することができる。本実施形態において、波長変換部材1の側面1a及び貫通孔3の表面3aは、円錐台形状のテーパー状に形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば角錐台形状のテーパー状に形成されていてもよい。
【0032】
本実施形態の波長変換素子10においては、例えば、第1の開放端3b側から、貫通孔3内の波長変換部材1に励起光を照射し、波長変換部材1で波長変換して、蛍光を第2の開放端3c側から出射させることができる。
【0033】
波長変換部材1の側面1aから外部に励起光及び蛍光が漏れるのを防止するため、波長変換部材1の側面1a及び/または貫通孔3の表面3aの上に、反射層を設けてもよい。反射層としては、Ag、Al、Pt、Cu等からなる金属層や、アルミナやチタニア等を含むセラミック層が挙げられる。なお、放熱部材2が金属から形成される場合、貫通孔3の表面3aを反射層として機能させることもできる。
【0034】
波長変換部材1の励起光入射側表面に、蛍光の前方取り出し向上を目的として、バンドパスフィルターを設けてもよい。また、波長変換部材1の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。
【0035】
図2(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。上記ガラス層を形成するためのガラスペーストを、以下のように準備する。なお、本実施形態では、流動性が高いガラスペーストを用いることが好ましい。
【0036】
ガラス粉末と、バインダーと、溶剤とを含むガラスペーストを準備する。ガラス粉末は、軟化点が250℃〜1000℃、さらには300℃〜850℃であるものを用いることが好ましい。なお、ガラス粉末の軟化点はファイバーエロンゲーション法により得られた値を言う。ガラス粉末の具体例としては、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、スズリン酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス及びホウケイ酸鉛ガラスから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、ホウケイ酸塩系ガラス、スズリン酸塩系ガラスは軟化点が比較的低く低温焼結が可能であり、焼成時における蛍光体の劣化を抑制できるため、特に好ましく用いられる。ガラス粉末の平均粒子径(D50)は、0.1μm〜50μmであることが好ましく、0.5μm〜20μmであることがより好ましく、1μm〜10μmであることがさらに好ましく、2μm〜3μmであることが特に好ましい。ガラス粉末の平均粒子径が大きすぎると、ガラスペースト中のガラス粉末の分散性が低下したり、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aとの間にガラスペーストを充填しにくくなる。
【0037】
バインダーとしては、ポリプロピレンカーボネート、ポリブチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、エチルセルロース、ニトロセルロース、ポリエステルカーボネート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用することができる。
【0038】
ガラスペーストにおけるバインダーの含有量は、0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%であることが好ましい。バインダーの含有量が少なすぎると、ガラス層4の緻密性が低下しやすくなる。一方、バインダーの含有量が多すぎると、ガラスペーストの流動性が低下しやすくなる。
【0039】
溶剤としては、テルピネオール、酢酸イソアミル、トルエン、メチルエチルケトン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独または混合して使用することができる。
【0040】
ガラスペーストの粘度は、せん断速度0.2(1/s)のとき0.1Pa・s〜200Pa・sであることが好ましく、1Pa・s〜100Pa・sであることがより好ましく、2Pa・s〜50Pa・sであることがさらに好ましい。ガラスペーストの粘度が低すぎると、ガラス層4の緻密性が低下しやすくなる。一方、ガラスペーストの粘度が高すぎると、流動性が低下しやすくなる。
【0041】
ガラスペーストは、例えば、バインダーを溶媒に溶解した溶液中に、ガラス粉末を添加し混合することにより調製することができる。
【0042】
詳細は後述するが、ガラスペースト中には、セラミック粉末が含まれていることが好ましい。セラミック粉末の具体例としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ニオビウム、酸化イットリウム及び酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0043】
ガラスペーストにおけるセラミック粉末の含有量は、70体積%以下であることが好ましい。セラミック粉末の含有量が多すぎると、形成されるガラス層の透過率が低くなる傾向がある。
【0044】
他方、図2(a)に示すように、放熱部材2の貫通孔3内に、波長変換部材1を配置する。なお、実際の製造においては、波長変換部材1の形状と貫通孔3の形状とを完全に対応させることは困難である。そのため、波長変換部材1の側面1aは、貫通孔3の表面3aに接している部分と、表面3aとの間に空隙が存在する部分とを有する。図2(a)では、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aとの間に空隙が存在する様子を模式的に示している。
【0045】
次に、放熱部材2の貫通孔3の第1の開放端3bを、封止部材6により封止することが好ましい。封止部材6は、例えば、金属やセラミックからなる板状の部材であってもよい。この場合には、封止部材6上に放熱部材2を載置することにより、貫通孔3の第1の開放端3bを封止することができる。これにより、ガラスペーストが第1の開放端3bから漏れ出ることを抑制でき、貫通孔3内にガラスペーストを容易に充填することができる。
【0046】
なお、貫通孔3の第2の開放端3cを封止部材6により封止してもよい。もっとも、貫通孔3は第1の開放端3bに向かって狭くなっている。そのため、貫通孔3の第1の開放端3b側を封止し、下面とすることにより、波長変換部材1の貫通孔3内における配置を安定にすることができる。
【0047】
放熱部材2に接する封止部材6の面には、例えば、窒化クロムなどからなる膜が形成されていることが好ましい。それによって、後述するようにガラス層が形成された後に、封止部材6をガラス層及び放熱部材2から容易に剥離することができる。
【0048】
次に、図2(b)に示すように、ガラスペースト5を貫通孔3内に充填する。ガラスペースト5は、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aとの間を流れ、貫通孔3の表面3a、波長変換部材1の下面1b及び封止部材6に囲まれた空間、さらには波長変換部材1の上面1c上に充填される。これにより、波長変換部材1の下面1b、側面1a及び上面1cが、ガラスペースト5により覆われる。ガラスペースト5は、貫通孔3の第2の開放端3cに至っていてもよく、あるいは至っていなくともよい。
【0049】
本実施形態によれば、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aとの間にガラスペースト5を隙間なく充填しやすいため、焼成後に得られる波長変換素子10においても、波長変換部材1と放熱部材2との間に隙間なくガラス層4が形成されやすくなる。これにより、波長変換部材1で発生した熱を効率良く放熱部材2に伝達することができる。上述したように、本実施形態の製造方法においては、流動性が高いガラスペーストを用いることが好ましい。それによって、ガラスペースト5を貫通孔3内に容易に充填することができる。
【0050】
上述したように、ガラスペースト中のガラス粉末の粒径は2μm〜3μmであることが好ましい。それによって、波長変換部材1と放熱部材2との間に、ガラス粉末をより一層緻密に配置することができる。
【0051】
次に、図2(c)に示すように、ガラスペーストを加熱して、バインダーを除去するとともに、ガラス粉末を焼結し、ガラス層4を形成する。このとき、バインダーを除去する工程と、本焼成を行う工程とを分けることが好ましい。バインダーを除去する際の加熱温度は、特に限定されないが、例えば、ガラス粉末の軟化点−150℃〜ガラス粉末の軟化点−5℃の範囲が好ましく、ガラス粉末の軟化点−120℃〜ガラス粉末の軟化点−10℃の範囲がさらに好ましい。このような温度範囲とすることにより、バインダーを完全に除去することができる。
【0052】
本焼成の加熱温度は、特に限定されないが、例えば、ガラス粉末の軟化点〜ガラス粉末の軟化点+150℃の範囲が好ましく、ガラス粉末の軟化点+5℃〜ガラス粉末の軟化点+130℃の範囲がさらに好ましい。このような温度範囲内とすることにより、緻密なガラス層4を形成することができる。本焼成は、真空下において行われることが好ましい。それによって、より一層緻密なガラス層4を形成することができる。ガラス層4を形成した後に、図2(b)に示した封止部材6を放熱部材2及びガラス層4から剥離する。
【0053】
本発明によれば、波長変換部材1と放熱部材2との間に空隙が生じ難い。よって、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができ、放熱性を高めることができる。
【0054】
なお、ガラスペースト中に、上記セラミック粉末が含まれている場合、ガラス粉末の焼結に際しての流動性を低下させることができる。よって、波長変換部材1と放熱部材2との間及びガラス層4内に空隙がより一層生じ難い。
【0055】
図3(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。本実施形態においては、図3(a)に示すように、ガラスペースト5を、放熱部材2の貫通孔3に充填する。なお、貫通孔3の第1の開放端3bを封止部材6により封止することが好ましい。
【0056】
次に、図3(b)に示すように、波長変換部材1を貫通孔3内に配置する。本実施形態においても、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aとの間に、ガラスペースト5をより確実に充填することができる。
【0057】
なお、波長変換部材1を貫通孔3内に配置した後に、さらにガラスペースト5を貫通孔3に充填してもよい。
【0058】
次に、図3(c)に示すように、第1の実施形態と同様に、ガラスペーストを加熱して、ガラス層4を形成する。これにより、貫通孔3の表面3aと波長変換部材1の側面1aとを接着する。ガラス層4を形成した後に、図3(b)に示した封止部材6を放熱部材2及びガラス層4から剥離する。
【0059】
本実施形態においても、波長変換部材1と放熱部材2との間に空隙が生じ難い。よって、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができ、放熱性を高めることができる。
【0060】
図4は、本発明の第3の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。本実施形態においては、貫通孔3が円柱状に形成されている。したがって、波長変換部材1も円柱状に形成されている。本発明における貫通孔3は、必ずしも第1及び第2の実施形態のようにテーパー状に形成されている必要はなく、本実施形態のように円柱状の形状を有していてもよい。また、貫通孔3及び波長変換部材1の形状は、角柱状の形状であってもよい。
【0061】
第1の実施形態で製造される波長変換素子10と同様に、波長変換部材1から外部に励起光及び蛍光が漏れるのを防止するため、波長変換部材1の側面1a及び/または貫通孔3の表面3aの上に、反射層を設けてもよい。また、波長変換部材1の励起光入射側表面に、蛍光の前方取り出し向上を目的として、バンドパスフィルターを設けてもよい。さらに、波長変換部材1の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。
【0062】
本実施形態においても、波長変換部材1と放熱部材2との間に空隙が生じ難い。よって、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができ、放熱性を高めることができる。
【0063】
図5は、本発明の第4の実施形態における波長変換部材を示す模式的断面図である。本発明における波長変換部材は、図5に示す波長変換部材20のように、蛍光体層21と、その両面に形成された透光性放熱層22とを備えた積層体からなる。具体的には、蛍光体層21と、蛍光体層21より高い熱伝導率を有する透光性放熱層22とが交互に積層されている。本実施形態では、蛍光体層21に励起光が照射されることにより発生した熱は、各透光性放熱層22を通じて外部に効率良く放出される。よって、蛍光体層21の温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0064】
蛍光体層21としては、第1の実施形態の波長変換部材1と同様のものを用いることができる。具体的には、無機バインダー中に蛍光体を分散して形成されたものや、多結晶セラミック蛍光体及び単結晶セラミック蛍光体などを用いることができる。
【0065】
透光性放熱層22は、蛍光体層21より高い熱伝導率を有している。具体的には、5W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましく、20W/m・K以上であることがさらに好ましい。また、励起光、及び蛍光体層21から発せられる蛍光を透過させる。具体的には、透光性放熱層22の波長400nm〜800nmにおける全光線透過率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましく、50%以上であることが最も好ましい。
【0066】
透光性放熱層22としては、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック基板が挙げられる。
【0067】
透光性放熱層22の厚みは、0.05mm〜1mmであることが好ましく、0.07mm〜0.8mmであることがより好ましく、0.1mm〜0.5mmであることがさらに好ましい。透光性放熱層22の厚みが小さすぎると、機械的強度が低下する傾向がある。一方、透光性放熱層22の厚みが大きすぎると、波長変換素子が大型化する傾向がある。
【0068】
なお、蛍光体層21の両面に設けられた2つの透光性放熱層22の厚みは同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、一方の透光性放熱層22の厚みを比較的大きく(例えば0.2mm以上、さらには0.5mm以上)することにより、波長変換部材20としての機械的強度が担保される場合は、他方の透光性放熱層22の厚みを比較的小さく(例えば0.2mm未満、さらには0.1mm以下)してもよい。
【0069】
第1の実施形態で製造される波長変換素子10と同様に、透光性放熱層22の励起光入射側表面に、励起光の反射損失低減や蛍光の前方取り出し向上を目的として、反射防止膜やバンドパスフィルターを設けてもよい。また、透光性放熱層22の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。さらに、蛍光体層21及び透光性放熱層22から外部に励起光及び蛍光が漏れるのを防止するため、各層の側面に反射層を設けてもよい。
【0070】
本実施形態の波長変換部材20は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0071】
ガラス粉末と、蛍光体と、バインダー樹脂や溶剤等の有機成分とを含むスラリーを、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム上にドクターブレード法等により塗布し、加熱乾燥することにより、蛍光体層21用のグリーンシートを作製する。グリーンシートを焼成することにより蛍光体層21を得る。
【0072】
蛍光体層21の両面に透光性放熱層22を積層し、加熱圧着することにより波長変換部材20が得られる。あるいは、ポリシラザン等の無機接着剤を介して蛍光体層21と透光性放熱層22を接合してもよい。また、蛍光体層21がセラミック蛍光体からなり、透光性放熱層22が透光性セラミックからなる場合には、蛍光体層21と透光性放熱層22とを放電プラズマ焼結法により接合してもよい。このようにすれば、蛍光体層21と透光性放熱層22の密着性が良好となり、蛍光体層21で発生した熱が透光性放熱層22に伝達しやすくなる。
【0073】
本実施形態の波長変換部材20は、3層の積層体であるが、これに限定されるものではなく、例えば、蛍光体層21と透光性放熱層22とを交互に積層させた4層以上の積層体であってもよい。
【0074】
本実施形態の波長変換部材20は、第1及び第2の実施形態の製造方法のいずれにも適用することができる。また、第3の実施形態の波長変換部材1のように、円柱状や角柱状であってもよい。
【0075】
本実施形態の波長変換部材20を用いた場合にも、波長変換部材20と放熱部材との間に空隙が生じ難い。よって、波長変換部材20からの熱を効果的に放熱部材に伝達させることができ、放熱性を高めることができる。
【符号の説明】
【0076】
1…波長変換部材
1a…側面
1b…下面
1c…上面
2…放熱部材
3…貫通孔
3a…表面
3b,3c…第1,第2の開放端
4…ガラス層
5…ガラスペースト
6…封止部材
10…波長変換素子
20…波長変換部材
21…蛍光体層
22…透光性放熱層
図1
図2
図3
図4
図5