特許第6512070号(P6512070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512070
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】赤色蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/62 20060101AFI20190425BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   C09K11/62
   C09K11/56
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-219461(P2015-219461)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-88719(P2017-88719A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 賢史
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵太
(72)【発明者】
【氏名】中尾 日六士
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−009253(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/029654(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0089042(KR,A)
【文献】 特開昭52−124485(JP,A)
【文献】 特開2006−063225(JP,A)
【文献】 特開2006−066730(JP,A)
【文献】 特表2008−541422(JP,A)
【文献】 特開平07−242869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
C30B 1/00−35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属硫化物とSrGaとの共晶物を母体とするものであって、前記共晶物はユーロピウムにより賦活されることを特徴とする赤色蛍光体。
【請求項2】
粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法により算出される前記赤色蛍光体中の前記SrGaの質量濃度が5〜65wt%の範囲である請求項1記載の赤色蛍光体。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属硫化物由来のアルカリ土類金属原子のモル数、及び、前記SrGa由来のストロンチウム原子のモル数を合計したモル数1mol当たり、前記ユーロピウムを0.005〜0.10mol含む請求項1又は2記載の赤色蛍光体。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属硫化物は硫化ストロンチウムである請求項1〜3のいずれかに記載の赤色蛍光体。
【請求項5】
前記共晶物中に、更にマグネシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属を含む請求項4記載の赤色蛍光体。
【請求項6】
前記共晶物中のストロンチウムのモル数1mol当たり、マグネシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属原子を0.001〜0.95mol含む請求項5記載の赤色蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
照明や液晶ディスプレイのバックライト等に使用されるLEDに白色発光体素子が利用されている。白色発光体素子としては、青色の発光素子と、緑色の発光素子と、赤色の発光素子とが用いられている。このような赤色の発光素子としては硫化物蛍光体が知られており、カルシウムやストロンチウムの炭酸塩や硫酸塩に、賦活物質としてユーロピウム化合物を加え、それを硫化水素中で焼成することで蛍光体を製造することが知られている。
また、赤色蛍光体は、物理観測における発光強度が緑色蛍光体と同じ程度であっても、視感度が低いので結果として輝度が低く見える。そのため、赤色蛍光体の高輝度化が望まれていた。
【0003】
赤色蛍光体の輝度を向上させるために、特許文献1では、硫化カルシウム及び/又は硫化ストロンチウムを母体中心とし、ユーロピウムを発光中心とした赤色蛍光体に、増感剤としてアルミニウム族元素(Al、Ga、In)を加え、さらにフッ素を含む赤色蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−146190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたような赤色蛍光体であっても、色再現性の観点において輝度及び色純度が充分といえず、さらに高輝度でありかつ色純度が高い赤色蛍光体が望まれていた。
【0006】
上記課題を踏まえ、本発明は、高輝度で色純度が高い赤色蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定量のSrGaとアルカリ土類金属硫化物とを共晶物としたものを使用することで、高輝度で色純度が高い赤色蛍光体にできることを見出し本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の赤色蛍光体は、アルカリ土類金属硫化物とSrGaとの共晶物を母体とするものであって、上記共晶物はユーロピウムにより賦活されることを特徴とする。
【0009】
本明細書における共晶物とは、SrGaの結晶相と、SrGa以外のアルカリ土類金属含有化合物の結晶相及び/又はアモルファス相がともにあるものをいう。
【0010】
一般的にストロンチウムと、ガリウムと、硫黄とを含み、ユーロピウムで賦活された赤色蛍光体は、ストロンチウムと、ガリウムと、硫黄とが、SrGaとして存在していることが多く、SrGaとしてはほとんど存在していない。
一方、本発明の赤色蛍光体では、SrGaが存在している。そのため、本発明の赤色蛍光体は、輝度が高く、色純度が高い赤色の蛍光を発することができる。
SrGaが存在していると上記効果が得られる原理は定かではないが、アルカリ土類金属硫化物と何らかの相互作用をしているためと考えられる。
【0011】
本発明の赤色蛍光体では、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法により算出される上記赤色蛍光体中の上記SrGaの質量濃度が5〜65wt%の範囲であることが望ましい。
【0012】
本発明の赤色蛍光体は、上記アルカリ土類金属硫化物由来のアルカリ土類金属原子のモル数、及び、上記SrGa由来のストロンチウム原子のモル数を合計したモル数1mol当たり、上記ユーロピウムを0.005〜0.10mol含むことが望ましい。
【0013】
本発明の赤色蛍光体では、上記アルカリ土類金属硫化物は硫化ストロンチウムであることが望ましい。
【0014】
本発明の赤色蛍光体は、上記共晶物中に、更にマグネシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属を含むことが望ましい。
【0015】
本発明の赤色蛍光体は、上記共晶物中のストロンチウムのモル数1mol当たり、マグネシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属原子を0.001〜0.95mol含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の赤色蛍光体は、青色の光を照射されることで、輝度が高く、色純度が高い赤色の蛍光を発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例1〜5及び比較例1の赤色蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例1〜5の赤色蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
図3図3は、実施例3の赤色蛍光体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4図4は、図3の赤色蛍光体の断面におけるストロンチウムのマッピング結果を示す解析画像である。
図5図5は、図3の赤色蛍光体の断面におけるガリウムのマッピング結果を示す解析画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の赤色蛍光体について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0019】
本発明の赤色蛍光体は、アルカリ土類金属硫化物とSrGaとの共晶物を母体とするものであって、上記共晶物はユーロピウムにより賦活されることを特徴とする。
【0020】
本発明の赤色蛍光体においてアルカリ土類金属硫化物としては、一般式AS[Aはアルカリ土類金属(Ca、Sr又はBa)、Sは硫黄元素]で表される物質であることが望ましく、硫化ストロンチウム又は硫化カルシウムであることがより望ましく、硫化ストロンチウムであることが最も望ましい。上記アルカリ土類金属硫化物は、赤色の蛍光を発する母体を構成する。また、アルカリ土類金属硫化物が硫化ストロンチウムであると、鮮やかで蛍光強度が強い赤色蛍光体となる。
【0021】
本発明の赤色蛍光体の母体は、アルカリ土類金属硫化物と、SrGaとの共晶物である。共晶物は、例えば、アルカリ土類金属源と、ガリウム源と、硫黄源とを焼成することで得られる。さらに、母体中のアルカリ土類金属硫化物由来のアルカリ土類金属原子又はSrGa由来のストロンチウム原子が一部をユーロピウムに置換されている。すなわち、本発明の赤色蛍光体は、ユーロピウムで賦活されている。
なお、本発明の赤色蛍光体は、上記共晶物やユーロピウム以外に、原料に由来するアルカリ土類金属や、ガリウムや、硫黄等及びこれらの化合物を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の赤色蛍光体の粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法により算出されるSrGaの質量濃度は5〜65wt%であることが望ましく、5〜25wt%であることがより望ましい。
SrGaの質量濃度がこの範囲であると、青色の光を照射されることで、輝度が高く、色純度が高い赤色の蛍光を発する。
【0023】
これは、赤色蛍光体中のSrGaの質量濃度が5wt%以上であると、SrGaが含まれていることの効果が好適に得られ、赤色蛍光体の発光強度が充分に向上しやすくなるが、一方ではSrGaに青色の光が照射されると、緑〜黄色(500〜570nm)の蛍光を発する。このときSrGaの質量濃度が65wt%を超える場合には、緑〜黄色の蛍光が多く発されることもあるため、鮮やかな赤色が得られないことがある。しかし、SrGaの質量濃度が65wt%以下であると、緑〜黄色の蛍光が抑えられ、鮮やかな赤色が得られやすくなる。更に、緑〜黄色の蛍光が発光されることに伴う発光強度の低下が生じにくくなるとも推定される。
【0024】
ここで、粉末X線回折パターンの測定方法及び全パターンフィッティング法から算出される質量濃度について測定方法を説明する。
粉末X線回折パターンは、粉末X線回折装置(装置名:株式会社 リガク製、試料水平型強力X線回折装置 RINT−TTRIII)により下記条件で測定することができる。
・光学系:平行ビーム光学系(長尺スリット:PSA200/開口角度:0.057°)
・ターゲット:ダイレクトドライブ型ロータターゲット(DPTA−II Cu)
・測定範囲(2θ):60°〜90°
・ステップ幅:0.02°
・計数時間:1.0 sec.
そして、全パターンフィッティング法による定量は、上記測定法により得られた粉末X線回折パターンを、粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェア(JADE Version 7.0、Materials Data. Inc.社製)により解析することができる。
【0025】
本発明の赤色蛍光体では、上記アルカリ土類金属硫化物由来のアルカリ土類金属原子のモル数、及び、上記SrGa由来のストロンチウム原子のモル数を合計したモル数1mol当たり、ユーロピウムを0.005〜0.10mol含むことがさらに望ましい。
このユーロピウムの量が0.005mol未満であると充分な発光強度が得られにくくなる。
このユーロピウムの量が0.10molを超えると発光強度は飽和する一方で、別の物性にも影響をおよぼすことがある。
【0026】
本発明の赤色蛍光体には、ユーロピウム以外の共賦活剤をさらに含んでもよい。共賦活剤としては、特に限定されないが、ユーロピウム以外の希土類元素の化合物又はイオンが挙げられる。上記ユーロピウム以外の希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられる。また、上記希土類元素の化合物としては、上記元素の炭酸塩、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0027】
アルカリ土類金属硫化物とSrGaとの共晶物に含まれるアルカリ土類金属硫化物としては硫化ストロンチウムであることが望ましく、共晶物中には、更にマグネシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属を含むことがより望ましい。
金属源としては、マグネシウム、カルシウム又はバリウムの酸化物、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩等であることが望ましい。これらの金属が共晶物中に含まれていると、赤色蛍光体の極大波長がシフトする。そのため、用途に応じた極大波長を有する赤色蛍光体を選択することができる。
【0028】
上記赤色蛍光体では、上記共晶物中のストロンチウムのモル数1mol当たり、上記マグネシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属原子を0.001〜0.95mol含んでいてもよい。
マグネシウム、カルシウム、バリウムの含有量がこの範囲であると、赤色蛍光体の発光強度を低下させることなく、赤色蛍光体の極大波長をシフトさせることができ、所望の極大波長とすることができる。
【0029】
次に、本発明の赤色蛍光体の製造方法の一例を説明する。
【0030】
(1)原料混合工程
まず、この工程では、ストロンチウム化合物と、ガリウム化合物と、ユーロピウム化合物とを混合する。また、この他にもマグネシウム化合物や、カルシウム化合物や、バリウム化合物等を加えてもよい。
【0031】
ストロンチウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸ストロンチウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、ハロゲン化ストロンチウム(塩化ストロンチウム等)、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、リン酸水素ストロンチウム、硫化ストロンチウム等が挙げられる。
マグネシウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム(塩化マグネシウム等)、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、硫化マグネシウム等が挙げられる。
カルシウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、ハロゲン化カルシウム(塩化カルシウム等)、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、硫化カルシウム等が挙げられる。
バリウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸バリウム、酸化バリウム、水酸化バリウム、ハロゲン化バリウム(塩化バリウム等)、硫酸バリウム、硝酸バリウム、リン酸水素バリウム、硫化バリウム等が挙げられる。
【0032】
マグネシウム化合物、カルシウム化合物及びバリウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いる場合は、ストロンチウム化合物中のストロンチウムのモル数1molあたり、マグネシウム化合物、カルシウム化合物及びバリウム化合物中からなぐ群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を0.001〜0.95mol用いることが望ましい。
【0033】
ガリウム化合物としては、特に限定されず、例えば酸化ガリウム、硫酸ガリウム、硫化ガリウム、硝酸ガリウム、臭化ガリウム、塩化ガリウム、ヨウ化ガリウム等があげられる。
【0034】
ユーロピウム化合物としては、特に限定されず、例えば炭酸ユーロピウム、酸化ユーロピウム、塩化ユーロピウム、硫酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム、酢酸ユーロピウム等があげられる。
【0035】
原料混合工程においては、ストロンチウム化合物と、ガリウム化合物と、ユーロピウム化合物とを所定のモル比で混合する。この工程においては、さらに上述したユーロピウム以外の共賦活剤、分散剤、フラックス成分等が添加されていてもよい。
ストロンチウム化合物と、ユーロピウム化合物との混合比は、モル比が、ストロンチウム原子:ユーロピウム原子=1:0.005〜0.05となるようにすることがより望ましい。
また、ストロンチウム化合物と、ガリウム化合物との混合比は、モル比が、ストロンチウム原子:ガリウム原子=1:0.001〜1.0となるようにすることがより望ましい。
さらに、ガリウム化合物とユーロピウム化合物との混合比は、モル比が、ガリウム原子:ユーロピウム原子=1:0.02〜0.10となるようにすることがより望ましい。ガリウム化合物とユーロピウム化合物とをこの割合で混合すると、後の工程を経て得られる赤色蛍光体はSrGaを含むことになる。
さらに、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法により算出されるSrGaの質量濃度を5〜65wt%の範囲とすることができる。
【0036】
原料混合工程における混合は、これら原料に水を加えてスラリー化し、さらにアルミナボール等の粉砕媒体を混合して湿式粉砕を行うことが望ましい。
粉砕媒体の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミナボール、ジルコニアボール、窒化珪素ボール、窒化炭素ボール、ガラスビーズ、ナイロン被覆鉄芯ボール等が挙げられ、直径10mm以下のものが主に使用される。なかでもアルミナボールが好ましい。
【0037】
粉砕は、公知の粉砕装置により行うことができ、粉砕装置の種類は特に限定されるものではないが、粉砕を効率良く行なうためには粉砕媒体撹拌型粉砕機を備えた反応容器を用いるのが好ましい。ここで、粉砕媒体撹拌型粉砕機とは、粉砕容器内に粉砕媒体を投入し、被粉砕物とともに、粉砕容器を揺動、回転(自転又は公転)させて撹拌するか、粉砕媒体を撹拌部で直接撹拌して、粉砕を行う粉砕機をいう。粉砕媒体撹拌型粉砕機の例としては、特に限定されないが、遊星ミル、ビーズミル、及び振動ミルからなる群から選択されるいずれか1種であるのが好ましい。なかでも、自転、公転を伴う遊星ミルが特に好ましい。
【0038】
(2)乾燥工程
粉砕後、粉砕媒体を分離し、乾燥工程を行うことが望ましい。
乾燥は、通常用いられる任意の乾燥機を用いて、110〜150℃で1〜48時間程度行うことが望ましい。
【0039】
乾燥により得られた固体は、粉砕、分級により平均粒子径60μm以下の粉末とすることが望ましい。
粉砕は上述した粉砕媒体撹拌型粉砕機により行うことができる。
【0040】
(3)焼成工程
続いて、硫黄含有ガス雰囲気下で焼成を行い、アルカリ土類金属硫化物とSrGaとの共晶物を生成させる。硫黄源としては硫化水素ガス、硫化水素ガス又は二硫化炭素と不活性ガスとの混合ガス等を用いることができる。混合ガスを用いる場合、硫化水素ガス、二硫化炭素等の硫黄化合物の濃度は10体積%以上であることが望ましい。
焼成条件は、700〜900℃で2〜12時間程度とすることが望ましい。
焼成装置としては、マッフル炉、管状炉等の任意の焼成炉を用いて行うことができる。
【0041】
焼成により得られた固体は、粉砕や分級を行うことにより平均粒子径10〜60μm程度の粉末として、最終製造物である赤色蛍光体とすることが望ましい。このとき50μm以上の粒子をふるいを用いる等して取り除いてもよい。
【0042】
上記工程により、アルカリ土類金属硫化物とSrGaとの共晶物を母体とするものであって、上記共晶物がユーロピウムにより賦活された赤色蛍光体を製造することができる。
この赤色蛍光体は青色の光を照射されることで、輝度が高く、色純度が高い赤色の蛍光を発するので、白色発光体素子等の材料として用いることに適している。
【実施例】
【0043】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げる。ただし本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
以下の方法により実施例1に係る赤色蛍光体を製造した。
(1)混合工程
原料として炭酸ストロンチウムと、酸化ガリウムと、酸化ユーロピウムとを準備した。
次に上記原料を混合した混合物に水を加えてスラリーとし、φ1.5mmのアルミナボールを粉砕メディアに用いて、遊星型ボールミルによる湿式法で30分間混合した。
この際、上記混合物に含まれるストロンチウム原子と、ガリウム原子と、ユーロピウム原子とのモル比が、ストロンチウム原子:ガリウム原子:ユーロピウム原子=0.982:0.05:0.018となるように調製した。
【0045】
(2)乾燥工程
次いで、アルミナボールと原料混合物のスラリーを分離し、得られたスラリーを設定温度130℃の乾燥器に入れて、一晩乾燥させた。
【0046】
(3)焼成工程
得られた固体を乳鉢と乳棒で粉砕後分級して150μmを超えるものを除き、更に、これら混合物を石英ボートに入れて、合成石英製の管状炉で900℃、4時間、硫化水素ガス含有雰囲気中で焼成した。硫化水素ガスは純度99.9%品を用い、管状炉内に200mL/分で注入した。
【0047】
次いで、得られた固体を乳鉢と乳棒で粉砕後分級して50μmを超えるものを除き、実施例1に係る赤色蛍光体を作製した。
【0048】
(実施例2)〜(実施例5)及び(比較例1)
炭酸ストロンチウムと、酸化ガリウムと、酸化ユーロピウムとを混合した混合物に含まれるストロンチウム原子と、ガリウム原子と、ユーロピウム原子とのモル比を表1に示すように調製した以外は、実施例1と同様に実施例2〜5及び比較例1に係る赤色蛍光体を製造した。
【0049】
【表1】
【0050】
(極大波長及びフォトルミネッセンス相対強度評価)
製造した実施例1〜5及び比較例1の赤色蛍光体について、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製、FP−6500)を用いて、励起波長を450nmとし、発光スペクトルの測定を行った。
図1に、実施例1〜5及び比較例1の赤色蛍光体の発光スペクトルを示す。
表1に、図1に基づいた実施例1〜5及び比較例1の赤色蛍光体の、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)相対強度と、発光強度が最大値を示すときの波長である極大波長を示す。
フォトルミネッセンス相対強度は、比較例1での発光強度を100%とした際の相対強度である。
【0051】
表1及び図1に示されるように、実施例1〜5の赤色蛍光体は、比較例1と比べてフォトルミネッセンス相対強度が140%以上となった。特に、実施例3〜5の赤色蛍光体は、比較例1に対してフォトルミネッセンス相対強度が380〜590%程度となった。
【0052】
(粉末X線回折評価)
実施例1〜5に係る赤色蛍光体について、粉末X線回折による分析を行った。
粉末X線回折パターンは、粉末X線回折装置(装置名:株式会社 リガク製、試料水平型強力X線回折装置 RINT−TTRIII)により下記条件で測定した。
・光学系:平行ビーム光学系(長尺スリット:PSA200/開口角度:0.057°)
・ターゲット:ダイレクトドライブ型ロータターゲット(DPTA−II Cu)
・測定範囲(2θ):60°〜90°
・ステップ幅:0.02°
・計数時間:1.0 sec.
そして、全パターンフィッティング法による定量は、上記測定法により得られた粉末X線回折パターンを、粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェア(JADE Version 7.0、Materials Data. Inc.社製)により解析した。
結果を図2に示す。図2は、実施例1〜5の赤色蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【0053】
粉末X線回折パターンにおいて、SrSは25〜26°、29〜30°、42〜43°、50〜51°、52〜53°に強いピークを持ち(図2中、黒丸で示す)、SrGaは多数のピークを持ち(図2中、黒三角で示す)、特に、22〜35°に強いピークを持ち、25〜26°に最大のピークを持つ。
図2に示すように、作製した実施例1〜5に係る赤色蛍光体では、ストロンチウムとガリウムとの複合硫化物SrGaの結晶相及びSrSの結晶相が形成されていることが判った。なお、SrGa以外にGa化合物は確認できなかった。
【0054】
次に、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法によりSrGa結晶相とSrS結晶相の質量濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、SrGaの結晶相の質量濃度は、製造時に混合するガリウムの量に比例して増加していることが判った。
【0057】
(ストロンチウム及びガリウムの分布評価)
実施例3に係る赤色蛍光体の断面について、エネルギー分散型X線分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ社製)のマッピング分析により、ストロンチウム及びガリウムの元素分析を行った。結果を図3に示す。図3は、実施例3の赤色蛍光体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。また、図3の赤色蛍光体の断面におけるストロンチウムのマッピングと、ガリウムのマッピングとを行った。結果を図4及び5に示す。図4は、図3の赤色蛍光体の断面におけるストロンチウムのマッピング結果を示す解析画像である。図5は、図3の赤色蛍光体の断面におけるガリウムのマッピング結果を示す解析画像である。
図4及び図5に示されるように、ストロンチウムとガリウムは赤色蛍光体の粒子内に均一に分布することが判った。これらストロンチウム及びガリウムの分布については、観察場所を変えてもほとんど変わりがなかった。
【0058】
以上より、本発明の赤色蛍光体は、アルカリ土類金属硫化物とSrGaとを共晶化することにより増感効果が得られ、高輝度な発光を示す。
図1
図2
図3
図4
図5