(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512133
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】電線保護部材及びその製造方法並びにワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20190425BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20190425BHJP
H02G 1/06 20060101ALI20190425BHJP
H01B 7/24 20060101ALN20190425BHJP
F16L 58/10 20060101ALN20190425BHJP
【FI】
H02G3/04 081
H01B7/00 301
H02G1/06
!H01B7/24
!F16L58/10
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-34433(P2016-34433)
(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公開番号】特開2017-153285(P2017-153285A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
【審査官】
久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−178942(JP,A)
【文献】
特開2014−159522(JP,A)
【文献】
特開2014−050267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
H01B 7/00
H02G 1/06
F16L 58/10
H01B 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工油が付着している金属パイプと、
該金属パイプの外表面を覆い、水の接触角が55〜78°である樹脂塗膜とを有している、電線保護部材。
【請求項2】
上記樹脂塗膜は、100質量部の基剤に対して0.001〜0.01質量部のレベリング剤を含んでいる、請求項1に記載の電線保護部材。
【請求項3】
上記樹脂塗膜は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂及びエポキシアクリル樹脂のうちいずれかの樹脂の架橋体を含んでいる、請求項1または2に記載の電線保護部材。
【請求項4】
上記樹脂塗膜は、紫外線硬化型の樹脂塗料の硬化物から構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線保護部材。
【請求項5】
上記加工油は、炭化水素系加工油である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電線保護部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された電線保護部材と、
該電線保護部材の上記金属パイプ内に挿通された電線とを有する、ワイヤーハーネス。
【請求項7】
表面に加工油が付着した金属パイプを準備し、
該金属パイプの外表面に、表面張力が25〜32mN/mの樹脂塗料を塗布し、
上記樹脂塗料を硬化させて樹脂塗膜を形成する、電線保護部材の製造方法。
【請求項8】
上記樹脂塗料は、100質量部の基剤に対して0.001〜0.01質量部のレベリング剤を含んでいる、請求項7に記載の電線保護部材の製造方法。
【請求項9】
上記加工油は、炭化水素系加工油である、請求項7または8に記載の電線保護部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保護部材及びその製造方法並びにこの電線保護部材を有するワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索されるワイヤーハーネスは、電線と、電線を保護するための電線保護部材とを有している。電線保護部材には、例えば、バッテリーとエンジンとを接続する電線等の高圧電線が挿通されることがある。
【0003】
この種の電線保護部材は、金属パイプから構成されている。また、電線保護部材の表面は、ワイヤーハーネスの配索作業や取り外し作業等の際に高圧電線が挿通されていることを視認できるように、特定の色に着色されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、金属パイプ本体の外表面の一部に、塗料やテープ等の着色剤を用いて識別マークを形成する技術が記載されている。
【0004】
電線保護部材に用いられる金属パイプは、例えば押出成形等の成形加工により作製される。成形直後の金属パイプの表面には、成形加工の際に使用された加工油が付着している。この加工油が付着したまま識別マークを形成しようとすると、識別マークと金属パイプとの間に加工油が介在することにより、識別マークの接着性の低下を招くおそれがある。かかる問題を回避するため、一般的には、金属パイプの脱脂洗浄を行い、加工油を金属パイプの表面から除去した後に識別マークが形成される。また、識別マークの接着性をより高めるために、識別マークと金属パイプとの間に下塗り塗装を行うことも、一般的に行われている。
【0005】
また、例えば特許文献3の光硬化性材料のように、油面接着性を有する材料を用いて識別マークを形成する技術も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−50267号公報
【特許文献2】特開2014−50268号公報
【特許文献3】特開2014−159522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3の技術によれば、加工油の溶解度パラメータと連鎖移動剤の溶解度パラメータとの差を小さくすることにより、識別マークに油面接着性を付与することができる。しかし、金属パイプに付着している加工油は種々の化合物を含む混合物であるため、加工油の溶解度パラメータを正確に算出することが難しい。そのため、加工油の種類によっては、識別マークと金属パイプとの接着力が低下し、識別マークが金属パイプの表面から剥離しやすくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、長期間に亘って金属パイプからの樹脂塗膜の剥離を抑制でき、製造コストが低い電線保護部材及びその製造方法並びにこの電線保護部材を有するワイヤーハーネスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、加工油が付着している金属パイプと、
該金属パイプの外表面を覆い、水の接触角が55〜78°である樹脂塗膜とを有している、電線保護部材にある。
【0010】
本発明の他の態様は、上記の態様の電線保護部材と、
該電線保護部材の上記金属パイプ内に挿通された電線とを有する、ワイヤーハーネスにある。
【0011】
本発明の更に他の態様は、表面に加工油が付着した金属パイプを準備し、
該金属パイプの外表面に、表面張力が25〜32mN/mの樹脂塗料を塗布し、
上記樹脂塗料を硬化させて樹脂塗膜を形成する、電線保護部材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
上記電線保護部材は、水の接触角が上記特定の範囲である上記樹脂塗膜を有している。上記樹脂塗膜は、表面張力が25〜32mN/mの樹脂塗料を硬化させることにより、形成することができる。
【0013】
上記樹脂塗料の表面張力は、上記加工油の表面張力以下である。上記加工油と同程度の表面張力を有する樹脂塗料を上記金属パイプの外表面に塗布すると、上記加工油を上記樹脂塗料中に分散させることができる。また、上記加工油よりも表面張力が小さい樹脂塗料を上記金属パイプの外表面に塗布すると、上記加工油を上記樹脂塗料の外表面に押し出すことができる。従って、上記樹脂塗料は、上記加工油に遮られることなく上記金属パイプの外表面に密着することができる。
【0014】
そして、上記樹脂塗膜は、上記樹脂塗料の硬化物から構成されているため、上記加工油に遮られることなく上記金属パイプの外表面を覆うことができる。その結果、長期間に亘って上記金属パイプからの上記樹脂塗膜の剥離を抑制することができる。
【0015】
上記電線保護部材は、上記の態様の製造方法により作製することができる。上記製造方法によれば、上記金属パイプの脱脂洗浄や下塗り塗装を行うことなく上記電線保護部材を作製することができる。それ故、上記電線保護部材の製造コストを容易に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例における、電線保護部材の要部を示す斜視図である。
【
図2】実験例における、水の接触角の測定方法を示す説明図である。
【
図3】実験例における、塗装後に形成されたクレータ
ー状の欠陥の一例を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記電線保護部材において、金属パイプは、ワイヤーハーネスの軽量化の観点から、通常、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。金属パイプの表面には、パイプ成形時に使用された加工油が付着している。
【0018】
加工油としては、炭化水素系加工油が用いられることが多い。金属パイプの表面における加工油の付着量は、5.0μg/cm
2以下であることが好ましい。加工油の付着量が過度に多い場合には、樹脂塗料を塗布した際に、加工油を樹脂塗料中に分散させたり、樹脂塗料の外表面に押し出すことが難しくなるおそれがある。加工油の付着量を上記特定の範囲とすることにより、これらの問題をより容易に回避することができる。同様の観点から、加工油の付着量は、4.0μg/cm
2以下であることがより好ましく、3.0μg/cm
2以下であることが更に好ましく、2.5μg/cm
2以下であることが特に好ましい。
【0019】
加工油は、例えば金属パイプの内表面などの、金属パイプの表面が露出している箇所に付着している。加工油の付着量の測定に当たっては、金属パイプの表面が露出している箇所から加工油を抽出し、抽出した加工油の量を抽出面積で除することにより加工油の付着量を算出することができる。
【0020】
金属パイプの外表面は、水の接触角が55〜78°である樹脂塗膜により覆われている。これにより、樹脂塗膜と金属パイプとの接着力を高め、長期間に亘って樹脂塗膜の剥離を抑制することができる。
【0021】
樹脂塗膜の水の接触角が78°を超える場合には、その樹脂塗膜を構成する樹脂塗料の表面張力が加工油の表面張力よりも大きい。そのため、樹脂塗料を塗布した際に、加工油を樹脂塗料中に分散させたり、樹脂塗料の外表面に押し出すことが難しい。その結果、樹脂塗膜と金属パイプとの間に加工油が介在し、樹脂塗膜の接着力の低下を招くおそれがある。かかる問題を回避する観点から、樹脂塗膜の水の接触角は78°以下とする。同様の観点から、樹脂塗膜の水の接触角は、75°以下であることが好ましい。
【0022】
樹脂塗膜の水の接触角を小さくするためには、例えばレベリング剤などの、表面張力を低下させる添加剤を樹脂塗料に添加することが有効である。しかし、この種の添加剤の含有量が過度に多くなると、かえって樹脂塗膜と金属パイプとの接着力の低下を招くおそれがある。従って、添加剤による接着力の低下を回避する観点から、樹脂塗膜の水の接触角は55°以上とする。同様の観点から、樹脂塗膜の水の接触角は、60°以上であることが好ましく、63°以上であることがより好ましく、65°以上であることが更に好ましい。
【0023】
水の接触角の測定は、常法により行うことができる。例えば、樹脂塗膜の表面に水滴を滴下し、樹脂塗膜と水滴との界面と、端点における水滴表面の接線とのなす角度を水の接触角とすることができる。
【0024】
上記樹脂塗膜は、例えば、架橋性樹脂を含む塗料を金属パイプの外表面に塗布した後、架橋性樹脂を架橋させることにより形成することができる。架橋性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシアクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、ポリアミド樹脂及びシリコーン樹脂等を用いることができる。
【0025】
樹脂塗膜は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂及びエポキシアクリル樹脂のうちいずれかの樹脂の架橋体を含んでいることが好ましい。この場合には、樹脂塗膜のガラス転移点をより容易に上昇させることができる。また、この場合には、樹脂塗膜の耐熱性をより高くすることができるとともに、樹脂塗膜をより剥離しにくくすることができる。
【0026】
また、樹脂塗膜は、紫外線硬化型の樹脂塗料から構成されていることが好ましい。この場合には、金属パイプに塗布した塗料を迅速に硬化させることができる。その結果、電線保護部材の生産性をより向上させることができる。
【0027】
樹脂塗膜は、例えばオレンジ色等の、金属パイプの地色とは異なる色を呈していてもよい。この場合には、例えば、ワイヤーハーネスの配索作業や取り外し作業等において、上記電線保護部材内に高圧電線が挿通されていることを容易に視認することができる。
【0028】
また、樹脂塗膜中には、
100質量部の基剤に対して0.001〜0.01質量部のレベリング剤が含まれていることが好ましい。上述したように、レベリング剤は、樹脂塗料の表面張力を低下させ、ひいては樹脂塗膜の水の接触角を小さくする作用を有する。レベリング剤の含有量を上記特定の範囲とすることにより、上記特定の範囲の水の接触角を容易に実現することができる。その結果、樹脂塗膜と金属パイプとの接着力を高め、長期間に亘って樹脂塗膜の剥離を抑制することができる。
【0029】
レベリング剤としては、アルキル系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤及びフッ素系レベリング剤などの公知のレベリング剤を適用することができる。材料コストを低減する観点からは、比較的安価なアルキル系レベリング剤を適用することが好ましい。
【0030】
上記電線保護部材は、表面に加工油が付着した金属パイプを準備し、金属パイプの外表面に、表面張力が25〜32mN/mの樹脂塗料を塗布した後、樹脂塗料を硬化させて樹脂塗膜を形成することにより作製することができる。
【0031】
樹脂塗料の表面張力が32mN/mを超える場合には、樹脂塗料の表面張力が加工油の表面張力よりも大きい。そのため、この場合には、樹脂塗料を塗布した際に、加工油を樹脂塗料中に分散させたり、樹脂塗料の外表面に押し出すことが難しい。その結果、樹脂塗膜と金属パイプとの接着力が低くなるおそれがある。かかる問題を回避する観点から、樹脂塗料の表面張力は32mN/m以下とする。同様の観点から、樹脂塗料の表面張力は30mN/m以下であることが好ましい。
【0032】
一方、樹脂塗料の表面張力が25mN/m未満の場合には、例えばレベリング剤などの、表面張力を低下させる添加剤の含有量が過度に多いため、樹脂塗膜と金属パイプとの接着力が低下するおそれがある。従って、添加剤による接着力の低下を回避する観点から、樹脂塗料の表面張力が25mN/m以上とする。同様の観点から、樹脂塗料の表面張力は27mN/m以上であることが好ましい。
【0033】
ワイヤーハーネスは、上記電線保護部材と、電線保護部材内に挿通された電線とを有している。ワイヤーハーネスは、1個の電線保護部材を有していてもよく、複数個の電線保護部材を有していてもよい。
【0034】
また、電線保護部材内に挿通される電線の本数は特に限定されることは無く、用途に応じて1本あるいは複数本の電線を電線保護部材内に挿通することができる。
【0035】
上記の構成を有するワイヤーハーネスは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車における、電力変換装置とバッテリーとの間、あるいは電力変換装置とモータとの間等を接続する用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
(実施例)
上記電線保護部材の実施例について、
図1を用いて説明する。電線保護部材1は、電線が挿通される金属パイプ2と、金属パイプ2の外表面を覆う樹脂塗膜3とを有している。金属パイプ2の内表面21には、加工油(図示略)が付着している。樹脂塗膜3の水の接触角は、55〜78°である。
【0037】
図には示さないが、本例の電線保護部材1は、ワイヤーハーネスの構成部品として使用することができる。ワイヤーハーネスは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車における、電力変換装置とバッテリーとの間、あるいは電力変換装置とモータとの間等を接続する用途に好適に用いることができる。
【0038】
本例の金属パイプ2は、アルミニウム合金からなる円筒状の直管である。なお、金属パイプ2は、ワイヤーハーネスの配索形態に応じて適宜屈曲されていてもよい。
【0039】
図1に示すように、金属パイプ2の外表面は、樹脂塗膜3により覆われている。また、樹脂塗膜3は、オレンジ色を呈している。これにより、電線保護部材1が車両に取り付けられた状態において、その内部に高圧電線が挿通されていることを視認することができる。
【0040】
本例の電線保護部材1は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、外表面及び内表面21に加工油が付着している金属パイプ2を準備する。次いで、加工油が付着している状態で、金属パイプ2の外表面に表面張力が25〜32mN/mの樹脂塗料を塗布する。この樹脂塗料の表面張力は加工油の表面張力以下であるため、樹脂塗料を塗布することにより、金属パイプ2の外表面に付着している加工油を、樹脂塗料中に分散させる、あるいは樹脂塗料の外表面に押し出すことができる。
【0041】
その後、樹脂塗料を硬化させることにより、樹脂塗膜3を形成する。以上により、電線保護部材1を得ることができる。なお、樹脂塗料としては、例えば、紫外線硬化型のアクリル樹脂塗料、メタクリル樹脂塗料及びエポキシアクリル樹脂塗料などを用いることができる。
【0042】
本例の電線保護部材1は、水の接触角が上記特定の範囲である樹脂塗膜3を有している。樹脂塗膜3は、加工油の表面張力と同等またはそれよりも小さい表面張力を有する樹脂塗料の硬化物から構成されている。そのため、樹脂塗膜3は、加工油に遮られることなく金属パイプ2の外表面を覆うことができる。その結果、長期間に亘って金属パイプ2からの樹脂塗膜3の剥離を抑制することができる。
【0043】
また、電線保護部材1の作製に当たっては、金属パイプ2の脱脂洗浄や下塗り塗装を行う必要がない。それ故、電線保護部材1の製造コストを容易に低減することができる。
【0044】
(実験例)
本例は、種々の樹脂塗料から構成された樹脂塗膜3と金属パイプ2との接着性及び外観を評価した例である。樹脂塗料は、表1及び表2に示す比率で基剤とレベリング剤とを混合することにより作製した。本例において用いた基剤及びレベリング剤は、以下の通りである。
【0045】
<基剤>
・基剤A:紫外線硬化型アクリル樹脂塗料(株式会社スリーボンド製「TB3006D」)
・基剤B:紫外線硬化型アクリル樹脂塗料(株式会社スリーボンド製「TB3013Q」)
【0046】
<レベリング剤>
・レベリング剤:シリコーン系レベリング剤(共栄化学株式会社製「ポリフロー KL−401」)
【0047】
各樹脂塗料の表面張力は、表1及び表2に示した通りであった。なお、樹脂塗料の表面張力は、自動表面張力計(協和界面科学株式会社製「CBVP−Z」)を用い、プレート法(ウィルヘルミー法)により測定した。
【0048】
本例においては、以下の手順により電線保護部材1を作製した。まず、表面に2.5μg/cm
2の炭化水素系加工油が付着した金属パイプ2を準備した。金属パイプ2の脱脂洗浄を行うことなく、表1及び表2に示す組成を有する樹脂塗料を金属パイプ2の外表面にスプレー塗装した。その後、紫外線を照射して樹脂塗料を硬化させ、樹脂塗膜3を形成した。以上により、表1及び表2に示す試験体1〜10を作製した。
【0049】
なお、加工油の付着量の測定は、以下の方法により行った。まず、加工油が付着した金属パイプ2の質量をマイクロ天秤にて測定した。次に、この金属パイプ2をヘキサンに浸漬して加工油を除去した。そして、加工油が除去された金属パイプ2の質量をマイクロ天秤にて測定した。ヘキサンへの浸漬前後での質量変化量(μg)を金属パイプの表面積(cm
2)で割ることにより、加工油の付着量(μ
g/cm
2)を算出した。
【0050】
得られた試験体1〜10を用いて、水の接触角の測定、外観評価及び樹脂塗膜3の接着性の評価を行った。
【0051】
<水の接触角>
図2に示すように、樹脂塗膜3の表面に滴下した水滴4を、試験体の側方から観察した。そして、樹脂塗膜3と水滴4との界面L1と、端点41における水滴4の表面42の接線L2とのなす角度を水の接触角θとした。各試験体における水の接触角θは、表1及び表2に示したとおりであった。なお、水の接触角は、自動接触角計(協和界面科学株式会社製「DMe−201」)を用いて測定した。
【0052】
<外観評価>
試験体の樹脂塗膜3を目視観察し、欠陥の有無を評価した。その結果、樹脂塗膜3に欠陥がなかった試験体については表1及び表2中の「外観評価」の欄に記号Aを記載し、欠陥があった試験体については同欄に記号Bを記載した。
【0053】
<樹脂塗膜3の接着性>
試験体を100℃の温水中に30時間浸漬し、樹脂塗膜3に水分を浸透させた。30時間後、温水から取り出した試験体を用いて碁盤目試験を行った。
【0054】
碁盤目試験は、具体的には以下の手順により行った。まず、カッターナイフを用いて試験体の樹脂塗膜3に格子状の切込みを入れ、正方形状を呈する樹脂塗膜3の小片を100個作製した。次に、格子状の切込みを入れた部分に粘着テープ(ニチバン株式会社製包装用セロハン粘着テープ No.405)を貼り付けた。そして、粘着テープを試験体から剥離したときに粘着テープに付着した小片の個数を数えた。その結果を表1〜表2に示した。なお、各小片の1辺の長さは1mmとした。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1及び表2に示したように、試験体2〜4及び試験体7〜9は、樹脂塗料の表面張力が上記特定の範囲内であったため、樹脂塗膜3の水の接触角が上記特定の範囲内となった。そして、これらの試験体は、樹脂塗膜3に欠陥がなく、樹脂塗膜3と金属パイプ2との接着性が高かった。
【0058】
試験体1及び試験体6は、加工油よりも表面張力の高い樹脂塗料を塗布したため、加工油の一部が金属パイプ2の表面に残留した。その結果、樹脂塗膜3と金属パイプ2との接着性が低くなった。また、金属パイプ2の表面に残留した加工油の一部は、
図3に示すように油滴5を形成した。これにより、樹脂塗膜3にクレーター状に陥没した欠陥6が形成された。
【0059】
試験体5及び試験体10は、樹脂塗料の表面張力を上記特定の範囲よりも小さくしようとした結果、レベリング剤の添加量が過度に多くなった。その結果、樹脂塗膜3と金属パイプ2との接着性が低くなった。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施例及び実験例の態様に限定されることは無く、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 電線保護部材
2 金属パイプ
3 樹脂塗膜