特許第6512404号(P6512404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512404
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】燃料蒸発ガス排出抑止装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20190425BHJP
【FI】
   F02M25/08 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-124812(P2015-124812)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-8803(P2017-8803A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】若松 篤志
(72)【発明者】
【氏名】國井 謙一
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−256960(JP,A)
【文献】 特開2002−213268(JP,A)
【文献】 特開2013−092135(JP,A)
【文献】 特開2015−086775(JP,A)
【文献】 特開2012−184708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関の吸気通路と燃料タンクとを連通する連通路と、
前記連通路に接続され前記連通路内の燃料蒸発ガスを吸着するキャニスタと、
前記連通路と前記キャニスタとの連通を開閉するキャニスタ開閉弁と、
前記燃料タンクと前記キャニスタとの間の前記連通路を開閉する常閉弁である密閉弁と、
前記内燃機関の吸気通路と前記キャニスタ開閉弁との間の前記連通路を開閉するパージ弁と、
前記燃料タンクの内圧を検出するタンク圧検出部と、
前記燃料タンクの内圧が第1の所定圧を超えた際に、前記キャニスタ開閉弁を閉弁するとともに前記密閉弁及び前記パージ弁を開弁させ、運転状態にある前記内燃機関の前記吸気通路に前記連通路を介して前記燃料タンク内の燃料蒸発ガスを導入して、当該燃料蒸発ガスを処理するタンクパージを行なうタンクパージ制御部と、
前記キャニスタ開閉弁の閉弁から所定時間内に、前記検出された内圧が前記第1の所定圧よりも低い第2の所定圧を下回らない場合に、前記密閉弁を閉弁させて前記タンクパージを中止するタンクパージ規制部と、を備えたことを特徴とする燃料蒸発ガス排出抑止装置。
【請求項2】
前記タンクパージ制御部は、前記燃料タンクの内圧が前記第1の所定圧を超えた際に、前記キャニスタ開閉弁の閉弁後に前記密閉弁を開弁させることを特徴とする請求項1に記載の燃料蒸発ガス排出抑止装置。
【請求項3】
前記タンクパージ制御部は、前記燃料タンクの内圧が前記第1の所定圧を超えた際に、前記キャニスタ開閉弁の閉弁後、前記内燃機関が前記燃料蒸発ガスを処理可能な運転状態になってから前記密閉弁を開弁させることを特徴とする請求項2に記載の燃料蒸発ガス排出抑止装置。
【請求項4】
前記タンクパージ制御部は、前記タンクパージの実行中に前記燃料タンクに燃料を補給すべく前記キャニスタ開閉弁の開指令を受けた場合には、前記密閉弁の閉弁、前記キャニスタ開閉弁の開弁、前記密閉弁の開弁の順番に作動させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料蒸発ガス排出抑止装置。
【請求項5】
前記タンクパージ制御部は、前記燃料タンクの内圧が前記第1の所定圧を超えた際に、前記内燃機関が運転停止している場合には、前記内燃機関を始動させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料蒸発ガス排出抑止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料蒸発ガス排出抑止装置におけるパージ制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より車両の多くには、燃料タンク内で蒸発した燃料蒸発ガスの、給油時における大気への放出を防止するために、燃料タンクと内燃機関の吸気通路とを連通する連通路に介装するキャニスタと、燃料タンクとキャニスタとを連通又は封鎖する密閉弁(タンク封鎖弁)と、吸気通路とキャニスタとの間の連通路の連通と遮断とを行うパージ弁(パージソレノイドバルブ)とを備える燃料蒸発ガス排出抑止装置が設けられている。燃料蒸発ガス排出抑止装置は、給油をする際には密閉弁を開きパージ弁を閉じて、燃料タンク内の燃料蒸発ガスをキャニスタに流出するようにし、燃料蒸発ガスをキャニスタ内に配設された活性炭に吸着させている。そして、燃料蒸発ガス排出抑止装置は、内燃機関の作動中にパージ弁を開き、キャニスタの活性炭に吸着させている燃料蒸発ガスを内燃機関の吸気通路に導入して燃料蒸発ガスを処理する(キャニスタパージ)。
【0003】
また、このように密閉弁によって密閉される燃料タンクにおいて、燃料タンク内の圧力が高圧になった場合には、内燃機関の作動中にパージ弁と密閉弁を開き、燃料タンク内の燃料蒸発ガスを吸気通路に導入して、燃料タンク内及び連通路内の燃料蒸発ガスを処理する(タンクパージ:高圧パージ)。
更に、特許文献1に示すように、タンクパージ実行中において、燃料タンク内の燃料蒸発ガスがキャニスタに吸着されないように、燃料タンクと吸気通路とを連通しつつキャニスタを封鎖するキャニスタ開閉弁(ベーパソレノイドバルブ)を備えた装置が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−92315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように燃料蒸発ガス排出抑止装置では、電力消費を抑えるために、通常では密閉弁に通電せずに閉弁状態としており、タンクパージを行なう際に通電して開弁させるように構成している。また、タンクパージは、燃料タンク内の圧力が所定圧以下になるまで実施される。
そして、通常ではタンクパージを行なって所定時間が経過すれば燃料タンク内の圧力が所定圧以下となるものの、例えば燃料蒸発ガスの処理能力が低下していたり、燃料タンク内の圧力が大幅に上昇していたりしている場合には、タンクパージを行なって所定時間経過しても燃料タンク内の圧力が所定圧以下にならない虞がある。このような場合には、タンクパージが長時間実行され、密閉弁の開弁が長時間継続されてしまい、密閉弁の耐久性や電力消費の観点から望ましくない。
【0006】
また、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車のようにエンジンの作動機会が比較的少ない車両では、エンジンが停止している状態でタンクパージが必要とされた場合には、タンクパージを行なうためだけにエンジンを作動させなければならない。したがってタンクパージの長時間の実行は、燃費の点でも好ましいものではない。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、タンクパージの長時間の実行を抑止して、密閉弁の保護を図ることのできる燃料蒸発ガス排出抑止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の燃料蒸発ガス排出抑止装置は、車両の内燃機関の吸気通路と燃料タンクとを連通する連通路と、前記連通路に接続され前記連通路内の燃料蒸発ガスを吸着するキャニスタと、前記連通路と前記キャニスタとの連通を開閉するキャニスタ開閉弁と、前記燃料タンクと前記キャニスタとの間の前記連通路を開閉する常閉弁である密閉弁と、 前記内燃機関の吸気通路と前記キャニスタ開閉弁との間の前記連通路を開閉するパージ弁と、前記燃料タンクの内圧を検出するタンク圧検出部と、前記燃料タンク内圧が第1の所定圧を超えた際に、前記キャニスタ開閉弁を閉弁するとともに前記密閉弁及び前記パージ弁を開弁させ、運転状態にある前記内燃機関の前記吸気通路に前記連通路を介して前記燃料タンク内の燃料蒸発ガスを導入して、当該燃料蒸発ガスを処理するタンクパージを行なうタンクパージ制御部と、前記キャニスタ開閉弁の閉弁から所定時間内に、前記検出された内圧が前記第1の所定圧よりも低い第2の所定圧を下回らない場合に、前記密閉弁を閉弁させて前記タンクパージを中止するタンクパージ規制部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、好ましくは、前記タンクパージ制御部は、前記燃料タンク内圧が前記第1の所定圧を超えた際に、前記キャニスタ開閉弁の閉弁後に前記密閉弁を開弁させるとよい。
また、好ましくは、前記タンクパージ制御部は、前記燃料タンク内圧が前記第1の所定圧を超えた際に、前記キャニスタ開閉弁の閉弁後、前記内燃機関が前記燃料蒸発ガスを処理可能な運転状態になってから前記密閉弁を開弁させるとよい。
【0009】
また、好ましくは、前記タンクパージ制御部は、前記タンクパージ実行中に前記燃料タンクに燃料を補給すべく前記キャニスタ開閉弁の開指令を受けた場合には、前記密閉弁の閉弁、前記キャニスタ開閉弁の開弁、前記密閉弁の開弁の順番に作動させるとよい。
また、好ましくは、前記タンクパージ制御部は、前記燃料タンク内圧が前記第1の所定圧を超えた際に、前記内燃機関が運転停止している場合には、前記内燃機関を始動させるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャニスタ開閉弁の閉弁から所定時間内に、燃料タンクの内圧が第1の所定圧よりも低い第2の所定圧を下回らない場合に、密閉弁の作動規制が行なわれるので、タンクパージの長時間の実行を抑制し、密閉弁の長時間の開弁作動を規制して、密閉弁の保護を図ることができる。
このように、キャニスタ開閉弁の作動に基づいて密閉弁の作動規制が行なわれることで、例えば内燃機関の始動時のようにタンクパージ開始判定から密閉弁の開弁が待機された場合には、その待機時間を含めてタンクパージの実行時間を規制することができる。したがって、タンクパージを行なうために内燃機関を作動させる車両では、内燃機関の作動時間を抑えることができ、燃料消費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る燃料蒸発ガス排出抑止装置の概略構成図である。
図2】密閉弁の構造及び作動を示す説明図であり、非通電時での状態を示す。
図3】密閉弁の構造及び作動を示す説明図であり、通電時で燃料タンク側が高圧である場合での状態を示す。
図4】密閉弁の構造及び作動を示す説明図であり、通電時で燃料タンク側とバイパス弁側とが略同一の圧力である場合での状態を示す。
図5】エバポレーティブリークチェックモジュールの構造及び作動を示す説明図であり、切替弁の非作動時での状態を示す。
図6】エバポレーティブリークチェックモジュールの構造及び作動を示す説明図であり、切替弁の作動時での状態を示す。
図7】EVモードでエンジンが温態状態である場合での、タンクパージ開始時における各種作動タイミング例を示すタイムチャートである。
図8】パラレルモードでエンジンが温態状態である場合での、タンクパージ開始時における各種作動タイミング例を示すタイムチャートである。
図9】EVモードでエンジンが冷態状態である場合での、タンクパージ開始時における各種作動タイミング例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料蒸発ガス排出抑止装置1の概略構成図である。
また、図2〜4は、密閉弁35の構造及び作動を示す説明図であり、図2は非通電時、図3は通電時であって燃料タンク側がバイパス弁側より高圧である場合、図4は通電時であって燃料タンク側とバイパス弁側とが略同一の圧力である場合を示す。図5、6は、エバポレーティブリークチェックモジュールの構造及び作動を示す説明図であり、図5は切替弁の非作動時での状態、図6は切替弁の作動時での状態を示す。図2〜4中の実線の矢印は、燃料蒸発ガスの流れ方向を示す。図5及び図6中の矢印は、エバポレーティブリークチェックモジュール34内の負圧ポンプ34cを作動させた場合の空気の流れ方向を示す。
【0013】
本実施形態の燃料蒸発ガス排出抑止装置1は、図示しない走行用モータ及びエンジン10(内燃機関)を備えこれらの駆動源のいずれか一方或いは双方を用いて走行するハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に用いられている。
本実施形態の燃料蒸発ガス排出抑止装置1を備えた車両は、エンジン10を作動させずに車両に搭載したバッテリの電力により走行用モータで走行駆動するEVモードと、エンジン10を作動させてエンジン10及び走行用モータの両方で走行駆動するパラレルモードが可能である。
【0014】
図1に示すように、燃料蒸発ガス排出抑止装置1は、車両に搭載されるエンジン10と、燃料を貯留する燃料貯留部20と、燃料貯留部20で蒸発した燃料の蒸発ガスを処理する燃料蒸発ガス処理部30と、車両の総合的な制御を行うための制御装置である電子コントロールユニット50と、後述する給油リッド23の開作動を操作するモーメンタリ動作式の給油リッドスイッチ61と、車両状態等を表示するディスプレイ63とを備えている。
【0015】
エンジン10は、吸気通路噴射型(Multi Point Injection:MPI)のガソリンエンジンである。エンジン10には、エンジン10の燃焼室内に空気を取り込む吸気通路11が設けられている。また、吸気通路11の下流には、エンジン10の吸気ポート内に燃料を噴射する燃料噴射弁12が設けられている。燃料噴射弁12には、燃料配管13が接続され、燃料を貯留する燃料タンク21から燃料が供給される。
【0016】
エンジン10の吸気通路11には、吸気通路11内の圧力を検出する吸気圧センサ14が配設されている。また、エンジン10には、エンジン10の冷却水温度を検出する水温センサ15が配設されている。
燃料貯留部20は、燃料タンク21と、燃料タンク21への燃料注入口である燃料給油口22と、車両の車体に設けられる燃料給油口22の蓋である給油リッド23と、給油リッド23を閉状態でロックするリッドロック機構65と、燃料を燃料タンク21から燃料配管13を介して燃料噴射弁12に供給する燃料ポンプ24と、燃料タンク21の内圧である燃料タンク内圧Ptを検出する圧力センサ25(タンク圧検出部)と、燃料タンク21から燃料蒸発ガス処理部30への燃料の流出を防止する燃料カットオフバルブ26と、給油時に燃料タンク21内の液面を制御するレベリングバルブ27とで構成されている。また、燃料タンク21内で発生した燃料蒸発ガスは、燃料カットオフバルブ26よりレベリングバルブ27を経由して、燃料蒸発ガス処理部30に排出される。
【0017】
燃料蒸発ガス処理部30は、パージ配管(連通路)31と、ベーパ配管(連通路)32と、キャニスタ33と、エバポレーティブリークチェックモジュール34と、密閉弁35と、パージバルブ36(パージ弁)と、バイパス弁37(キャニスタ開閉弁)と、リリーフ弁39と、エアフィルタ40とを備えている。
パージ配管31は、一端がエンジン10の吸気通路11に接続され、他端がバイパス弁37に接続されている。ベーパ配管32は、一端が燃料タンク21のレベリングバルブ27に接続され、他端がバイパス弁37に接続されている。
【0018】
キャニスタ33は、内部に活性炭を有している。キャニスタ33には、燃料タンク21内で発生した燃料蒸発ガス或いは活性炭に吸着した燃料蒸発ガスが流通する蒸発ガス流通孔33bが設けられている。また、キャニスタ33には、活性炭に吸着した燃料蒸発ガスをエンジン10の吸気通路11に放出するときに外気を吸入するための外気吸入孔33aが設けられている。外気吸入孔33aは、外部からのゴミの侵入を防ぐエアフィルタ40及びエバポレーティブリークチェックモジュール34を介して外気を吸入可能となっている。
【0019】
バイパス弁37には、キャニスタ33の蒸発ガス流通孔33bに連通するように接続されるキャニスタ接続口37aが設けられている。また、バイパス弁37には、ベーパ配管32の他端が接続されるベーパ配管接続口37bと、パージ配管31の他端が接続されるパージ配管接続口37cとが設けられている。また、バイパス弁37は、無通電の状態で開弁し、外部から駆動信号が供給され通電状態となることにより閉弁状態となる常開弁の電磁弁である。そして、バイパス弁37は、無通電状態で開弁状態であるときには、キャニスタ接続口37aとベーパ配管接続口37bとパージ配管接続口37cとを連通するようにして、キャニスタ33への燃料蒸発ガスの流出入と、エアフィルタ40より吸入される外気のベーパ配管32及びパージ配管31への流入とを可能とする。また、バイパス弁37は、閉弁状態であるときには、キャニスタ接続口37aが封鎖され、ベーパ配管接続口37bとパージ配管接続口37cのみを連通して、キャニスタ33への燃料蒸発ガスの流出入とエアフィルタ40からキャニスタ33を介してベーパ配管32及びパージ配管31への大気の流入を不可とする。即ち、バイパス弁37は、ベーパ配管32及びパージ配管31に対し、閉弁状態であればキャニスタ33を封鎖し、開弁状態ではキャニスタ33を開放する。
【0020】
密閉弁35は、ベーパ配管32に介装されている。密閉弁35は、無通電の状態で閉弁し、外部から駆動信号が供給され通電状態となることにより開弁状態となる常閉弁の電磁弁である。密閉弁35は、閉弁状態であるとベーパ配管32を封鎖し、開弁状態であるとベーパ配管32を開放する。即ち、密閉弁35は、閉弁状態であれば燃料タンク21を密閉状態に封鎖し、燃料タンク21内で発生した燃料蒸発ガスのキャニスタ33及びエンジン10の吸気通路11への流出を不可とし、開弁状態であれば燃料蒸発ガスのキャニスタ33或いはエンジン10の吸気通路11への流出を可能とする。
【0021】
密閉弁35は、図2〜4に示すように、筒状のケース35a内に、小口径弁体35b、大口径弁体35c及びスプリング35dを備えている。小口径弁体35bはケース35aの一端部(図2〜4中、上端部)に備えられたソレノイド35eによりケース35aの軸線方向(図2〜4中、上下方向)に移動し、通電時に大口径弁体35cから離間する方向(図2〜4中、上方)へ移動する。大口径弁体35cは、板形状であってケース35a内にその軸線方向に移動可能に収納されており、スプリング35dによってソレノイド35e側に向かって(図2〜4中、上方に)付勢されている。大口径弁体35cが上方に位置する場合には、大口径弁体35cの周縁部とケース35aの内壁面との間に流路35fが形成される。大口径弁体35cが下方に移動した場合には、大口径弁体35cとケース35aとの間の流路35fが封鎖されるように形成されている。大口径弁体35cの中央部には、小口径弁体35bが開閉する小径の流路35gが形成されている。ケース35a内の大口径弁体35cよりソレノイド35e側(図2〜4中、上方側)に燃料タンク21側のベーパ配管32が接続され、大口径弁体35cよりソレノイド35eとは反対側(図2〜4中、下方側)にバイパス弁37側のベーパ配管32が接続されている。
【0022】
図2に示すように、ソレノイド非駆動時(非通電時)には、小口径弁体35bが大口径弁体35cに向かって移動し、大口径弁体35cの中央部の流路35gを封鎖するとともに、大口径弁体35cとケース35aとの間の流路35fも封鎖され、密閉弁35によってベーパ配管32が遮断される。
図3に示すように、ソレノイド駆動時(通電時)には、小口径弁体35bが大口径弁体35cから離間する方向(図3中、上方)に移動して、大口径弁体35c中央部の流路35gを開放する。ここで、燃料タンク21側の圧力がバイパス弁37側の圧力より高い場合には、大口径弁体35cの上下の圧力差によりスプリング35dの付勢力に抗して大口径弁体35cがソレノイド35eとは反対側に移動し、大口径弁体35cの周縁部とケース35aの内壁面との間の流路35fを遮断する。したがって、燃料タンク21とバイパス弁37とは、小径の流路35gのみを通じて燃料蒸発ガスが流通可能となる。
【0023】
図4に示すように、ソレノイド駆動時(通電時)において、燃料タンク21側の圧力とバイパス弁37側の圧力とが略同一である場合には、大口径弁体35cは上方に位置し、大口径弁体35cの周縁部とケース35aの内壁面との間の流路35fが開放される。したがって、燃料タンク21とバイパス弁37とは、流路35gだけでなく大径の流路35fを介して燃料蒸発ガスが流通可能となる。
【0024】
パージバルブ36は、パージ配管31に介装されている。パージバルブ36は、無通電の状態で閉弁し、通電状態となると開弁状態となる常閉弁の電磁弁である。パージバルブ36は、閉弁状態であるとパージ配管31を封鎖し、開弁状態であるとパージ配管31を開放する。即ち、パージバルブ36は、閉弁状態であればキャニスタ33或いは燃料タンク21よりエンジン10の吸気通路11への燃料蒸発ガスの流出を不可とし、開弁状態であればキャニスタ33或いは燃料タンク21よりエンジン10の吸気通路11へ燃料蒸発ガスの流出を可能とする。
【0025】
リリーフ弁39は、密閉弁35と並列にベーパ配管32に介装されている。リリーフ弁39は、燃料タンク21の内圧が上昇すると機械的に開弁し、圧力をキャニスタ33側へ逃がして燃料タンク21の破裂を防止するものである。
図5及び図6に示すように、エバポレーティブリークチェックモジュール34には、キャニスタ33の外気吸入孔33aに通じるキャニスタ側通路34aと、エアフィルタ40を介して大気に通じる大気側通路34bとが設けられている。大気側通路34bには、負圧ポンプ34cを備えるポンプ通路34dが連通している。また、エバポレーティブリークチェックモジュール34には、切替弁34eとバイパス通路34fとが設けられている。切替弁34eは、電磁ソレノイドを備え、当該電磁ソレノイドで駆動される。切替弁34eは、電磁ソレノイドが無通電の状態である時には、図5のように、キャニスタ側通路34aと大気側通路34bとを連通させる(切替弁34eの開弁状態に相当)。また、切替弁34eは、電磁ソレノイドに外部から駆動信号が供給され通電の状態(ON)である時には、図6のように、キャニスタ側通路34aとポンプ通路34dとを連通させる(切替弁34eの閉弁状態に相当)。バイパス通路34fは、常時キャニスタ側通路34aとポンプ通路34dとを導通させる通路である。そして、バイパス通路34fには、小径(例えば、直径0.45mm)の基準オリフィス34gが設けられている。また、ポンプ通路34dの負圧ポンプ34cとバイパス通路34fの基準オリフィス34gとの間には、ポンプ通路34d或いは基準オリフィス34g下流のバイパス通路34f内の圧力を検出する圧力センサ34hが設けられている。なお、エバポレーティブリークチェックモジュール34は、燃料蒸発ガス排出抑止装置1の洩れやバルブ等の故障判定に用いられる。
【0026】
ディスプレイ63は、車両状態を表示するものであり、例えば、給油リッドスイッチ61の操作から給油リッド23がロック解除されるまでの時間、給油リッド23の開放操作の中止、給油リッド23の開閉状態等を表示するものである。
電子コントロールユニット50は、車両の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)及びタイマ等を含んで構成されており、給油制御部51、タンクパージ制御部52、タンクパージ規制部53を備えている。
【0027】
電子コントロールユニット50の入力側には、上記吸気圧センサ14、水温センサ15、圧力センサ34h及び圧力センサ25(タンク圧検出部)等が接続されており、これらのセンサ類からの検出情報が入力される。
一方、電子コントロールユニット50の出力側には、上記燃料噴射弁12、燃料ポンプ24、負圧ポンプ34c、切替弁34e、密閉弁35、パージバルブ36、バイパス弁37、ディスプレイ63、リッドロック機構65に備えられたドアモータ86等が接続されている。
【0028】
電子コントロールユニット50は、各種センサ類からの検出情報に基づいて、リッドロック機構65のドアモータ86を作動制御して給油リッド23の開閉制御を行うとともに、切替弁34e、密閉弁35、パージバルブ36及びバイパス弁37の開閉とを制御し、燃料タンク21にて発生した燃料蒸発ガスのキャニスタ33への吸着、キャニスタ33に吸着した燃料蒸発ガスや燃料タンク21にて発生した燃料蒸発ガスをエンジン10の運転時に吸気通路11へ導入するパージ処理制御を行う。
【0029】
給油リッド23の開閉制御は、燃料タンク21に燃料を補給する際に、燃料タンク21内の圧力が上昇しているときに燃料給油口22のキャップを開けて燃料給油口22から燃料蒸発ガスが多量に排出してしまうことを防止するために行なわれ、電子コントロールユニット50の給油制御部51によって行なわれる。給油制御部51は、給油リッドスイッチ61が操作された際に、密閉弁35及びバイパス弁37を開弁して、燃料タンク21内の燃料蒸発ガスをキャニスタ33に吸着させて、燃料タンク21内の圧力を低下させてから、給油リッド23のロックを解除する。
【0030】
パージ処理制御としては、キャニスタ33に吸着した燃料蒸発ガスを吸気通路11へ導入して、キャニスタ33における燃料蒸発ガスの吸着量を低下させるキャニスタパージと、燃料タンク21内の燃料蒸発ガスをエンジン10の吸気通路11へ導入するタンクパージ(高圧パージ)が可能である。
キャニスタパージは、例えばエンジン10の始動直後に所定時間行われ、エンジン運転中においてパージバルブ36及びバイパス弁37を開弁することで、キャニスタ33に吸着されている燃料蒸発ガスを吸気通路11へ導入して処理する。なお、このとき、密閉弁35は閉弁状態とする。
【0031】
タンクパージは、電子コントロールユニット50のタンクパージ制御部52によって行なわれ、バイパス弁37を閉弁し、エンジン10の運転中に密閉弁35及びパージバルブ36を開弁させることで、燃料タンク21内の燃料蒸発ガスを吸気通路11へ導入して処理する。
タンクパージ制御部52は、圧力センサ25が検出した燃料タンク内圧Ptが第1の所定圧P1を超える高圧判定がされた際に、密閉弁35、パージバルブ36及びバイパス弁37を制御してタンクパージを実行し、燃料タンク内圧Ptが第2の所定圧P2以下となれば終了させる。なお、第1の所定圧P1は、燃料タンク内圧Ptの許容値内の上限値付近に設定すればよく。第2の所定圧P2は標準大気圧付近に設定すればよい。
【0032】
また、電子コントロールユニット50は、タンクパージを実行しても、燃料タンク内圧Ptが低下しない場合に、タンクパージが不能であることを判定する機能を有する。詳しくは、電子コントロールユニット50のタンクパージ規制部53は、燃料タンク内圧Ptが第1の所定圧P1を超える高圧判定がされてバイパス弁37が閉弁してからの経過時間tcを計測し、燃料タンク内圧Ptが第2の所定圧P2以下となる前に経過時間tcが適宜設定された第1の所定時間t1以上経過した場合に、タンクパージが不能であると判定し、密閉弁35を閉弁してタンクパージを終了させる。
【0033】
次に、図7〜9を用いて、タンクパージ開始時におけるバイパス弁37及び密閉弁35の作動タイミングの違いについて説明する。
図7〜9は、タンクパージ開始時における各種作動タイミング例を示すタイムチャートである。図7はEVモードでエンジン10が温態状態である場合、図8はパラレルモードでエンジン10が温態状態である場合、図9はEVモードでエンジン10が冷態状態である場合を示す。なお、エンジン10が温態状態あるいは冷態状態であるかについては、例えば水温センサ15により検出したエンジン10の冷却水温度Twで判別すればよく、タンクパージが十分に可能となる程度にエンジン運転が安定したか否かを判別できるような閾値に設定すればよい。
【0034】
図7に示すように、EVモードにおいて、燃料タンク内圧Ptが第1の所定圧P1を超えて高圧判定された場合には、タンクパージを行なうべくエンジン10を始動させる。そして、エンジン始動から待機時間ta経過してエンジン運転が安定してからタンクパージが許可され、密閉弁35が開弁される。したがって、EVモードでは高圧判定されてから待機時間ta経過後に密閉弁35が開弁してタンクパージが行なわれる。なお、待機時間taについては、エンジン運転が安定するような時間に設定すればよい。ここで、エンジン10が温態状態であるので、待機時間taは比較的短い時間となる。
【0035】
図8に示すように、パラレルモードで高圧判定された場合には、すでにエンジン10は作動しており、更にエンジン10が温態状態であるので、高圧判定と同時に密閉弁35が開弁してタンクパージが行なわれる。
図9に示すように、EVモードでエンジン10が冷態状態である場合には、図7と同様に、高圧判定されるとともにエンジン10を始動させるが、タンクパージを許可する待機時間tbは、温態状態での待機時間taよりも長いものとなる。なお、待機時間ta、tbについては、あらかじめ設定した値でもよいし、エンジン10の冷却水温度Twに基づいてタンクパージを許可するタイミングを判定してもよい。
【0036】
以上のように、車両の運転モード及びエンジン温度(冷却水温度Tw)によって、高圧判定されてから密閉弁35が開弁するまでの時間が異なる。そして、本実施形態では、バイパス弁37が閉弁してから第1の所定時間t1以上経過した場合には、燃料タンク内圧Ptが第2の所定圧P2以下に低下していなくとも、タンクパージを終了させるので、タンクパージの長時間の継続を防止することができる。このように、タンクパージの長時間の継続を防止することで密閉弁35の長時間の作動を防止することができ、密閉弁35の保護を図ることができるとともに、密閉弁35での電力消費を抑制することができる。
【0037】
特に、本実施形態では、バイパス弁37の閉弁からの経過時間tcに基づいて、密閉弁35の開弁時間を規制するので、高圧判定されてタンクパージが可能となる待機時間を含めてタンクパージの実行時間が規制される。
このようにバイパス弁37の作動に基づいてタンクパージの実行時間が規制されることで、タンクパージを行なっても燃料タンク内圧Ptが第2の所定圧P2以下に低下しない場合だけでなく、例えばエンジン運転が不安定でタンクパージが開始できないような場合も含めて、密閉弁35の長時間の開作動を抑制して、密閉弁35の保護を図ることができるとともに、密閉弁35での電力消費を更に抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、EVモードにおいて、タンクパージが行なわれる場合にエンジンを始動させ、タンクパージが終了したらエンジン10を停止させる。したがって、タンクパージの実行時間を抑制することで、エンジン10の運転時間を短縮して燃料消費を抑制することができる。
また、タンクパージ実行中に、給油すべく給油リッドスイッチ61が操作された場合には、電子コントロールユニット50は、まず密閉弁35を閉弁してからバイパス弁37を開弁し、その後密閉弁35を開弁する。タンクパージ実行中では密閉弁35が開弁しており、給油時においても密閉弁35が開弁させるので、このようにタンクパージ実行中に給油リッドスイッチ61が操作された場合には、密閉弁35を開弁状態のままバイパス弁37を開弁させることが考えられる。しかし、このように密閉弁35を開弁状態のままでバイパス弁37を開弁させると、急激に燃料タンク21から燃料蒸発ガスをバイパス弁37側に排出して、レベリングバルブ27が閉弁してしまう可能性があり、以降の燃料タンク21からの燃料蒸発ガスの排出が不能になってしまう虞がある。
【0039】
本実施形態では、タンクパージ実行中に給油リッドスイッチ61が操作された場合には、密閉弁35が開指令を受けることになるが、一端、密閉弁35を閉弁してバイパス弁37を開弁し、その後密閉弁35を開弁させるので、この密閉弁35の開弁時にまず小口径弁体35bが開弁して小径の流路35gのみで燃料蒸発ガスが通過する。したがって、急激な燃料タンク21から燃料蒸発ガスのバイパス弁37側への排出が抑制され、レベリングバルブ27の閉弁を防止して、燃料蒸発ガスの燃料タンク21からの排出を確保することができる。なお、燃料タンク21から燃料蒸発ガスが排出されて燃料タンク21の圧力がある程度低下すれば大口径弁体35cが開弁して、燃料タンク21から燃料蒸発ガスを排出させ、燃料タンク21内の圧力を十分に低下させることができる。
【0040】
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の形態は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、燃料蒸発ガス排出抑止装置1がハイブリッド車あるいはプラグインハイブリッド車に採用されているが、これら以外でエンジンを搭載した車両に採用したものでもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジン(内燃機関)
11 吸気通路
21 燃料タンク
25 圧力センサ(タンク圧検出部)
31 パージ配管(連通路)
32 ベーパ配管(連通路)
33 キャニスタ
35 密閉弁
37 バイパス弁(キャニスタ開閉弁)
50 電子コントロールユニット
52 タンクパージ制御部
53 タンクパージ規制部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9