特許第6512440号(P6512440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512440
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】操舵支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20190425BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20190425BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20190425BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20190425BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D119:00
   B62D137:00
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-120563(P2015-120563)
(22)【出願日】2015年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-1626(P2017-1626A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】應矢 敏明
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−078998(JP,A)
【文献】 特開2013−091494(JP,A)
【文献】 特開2010−173367(JP,A)
【文献】 特開2005−141514(JP,A)
【文献】 特開2008−049937(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02325069(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵機構に転舵用駆動力を与えるための電動モータと、
目標走行ラインからの車両の横偏差と、前記横偏差の単位時間当たりの変化率である横偏差変化率と、横偏差変化率の単位時間当たりの変化率とを取得する情報取得手段と、
操舵アシストトルクの目標値に対応した操舵アシスト電流値を設定する操舵アシスト電流値設定手段と、
前記情報取得手段によって取得される横偏差および横偏差変化率に基いて、前記横偏差および前記横偏差変化率を零に近づけるためのレーンキープアシスト電流値を設定するレーンキープアシスト電流値設定手段と、
前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合に、前記レーンキープアシスト電流値設定手段によって設定されたレーンキープアシスト電流値を、その絶対値が大きくなるように補正する補正手段と、
前記操舵アシスト電流値設定手段によって設定される操舵アシスト電流値と、前記補正手段によって補正された後のレーンキープアシスト電流値とを用いて、目標電流値を演算する目標電流値演算手段と、
前記目標電流値演算手段によって演算される目標電流値に基いて、前記電動モータを駆動制御する制御手段と、を含む操舵支援装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合に、前記レーンキープアシスト電流値設定手段によって設定されたレーンキープアシスト電流値に、1よりも大きな補正用ゲインを乗算することにより、当該レーンキープアシスト電流値を補正するように構成されている、請求項1に記載の操舵支援装置。
【請求項3】
前記補正用ゲインは、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率とに基づいて演算される、請求項2に記載の操舵支援装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合に、前記レーンキープアシスト電流値設定手段によって設定されたレーンキープアシスト電流値に、前記レーンキープアシスト電流値と同符号の補正値を加算することにより、当該レーンキープアシスト電流値を補正するように構成されている、請求項1に記載の操舵支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の操舵支援装置に関し、特に、走行中の車両が車線を逸脱するのを防止するための操舵支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が高速道路等を走行する際、運転者の不注意や路面状況によって車両が走行車線を逸脱すると、車両が他車両やガイドレールに接触するおそれがある。そこで、車両に搭載されたカメラの撮像画像に基づいて、路面情報や車両と車線との相対位置情報を取得し、車両が車線から逸脱しそうになると、運転者に警告を与える車両用警報装置が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−212839号公報
【特許文献2】特許第4292562号公報
【特許文献3】特開平11−34774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、車両が目標走行ラインから逸脱したときに、車両を目標走行ライン側に速やかに戻すことができる、操舵支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、車両の転舵機構(4)に転舵用駆動力を与えるための電動モータ(18)と、目標走行ラインからの車両の横偏差(y)と、前記横偏差の単位時間当たりの変化率である横偏差変化率(dy/dt)と、横偏差変化率の単位時間当たりの変化率(dy/dt)とを取得する情報取得手段(42)と、操舵アシストトルクの目標値に対応した操舵アシスト電流値を設定する操舵アシスト電流値設定手段(41)と、前記情報取得手段によって取得される横偏差および横偏差変化率に基いて、前記横偏差および前記横偏差変化率を零に近づけるためのレーンキープアシスト電流値を演算するレーンキープアシスト電流値演算手段(51)と、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合に、前記レーンキープアシスト電流値演算手段によって演算されたレーンキープアシスト電流値を、その絶対値が大きくなるように補正する補正手段(52,53)と、前記操舵アシスト電流値設定手段によって設定される操舵アシスト電流値と、前記補正手段によって補正された後のレーンキープアシスト電流値とを用いて、目標電流値を演算する目標電流値演算手段(44)と、前記目標電流値演算手段によって演算される目標電流値に基いて、前記電動モータを駆動制御する制御手段(45,46)と、を含む操舵支援装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0006】
この発明では、横偏差および横偏差変化率を零に近づけるためのレーンキープアシストトルクを発生させることができる。これにより、横偏差が零に近づくように車両が誘導されるので、目標走行ラインに車両が近づくように車両を誘導することができる。また、横偏差変化率dy/dtが零に近づくように車両が誘導されるので、目標走行ライン付近において、車両の幅方向中心線が目標走行ラインに平行となるように車両を誘導することができる。これにより、車両が車線から逸脱するのを回避するように車両を誘導することができる。
【0007】
また、この発明では、横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合には、レーンキープアシスト電流値演算手段によって演算されたレーンキープアシスト電流値が、その絶対値が大きくなるように補正される。横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合とは、目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態であると考えられる。目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態とは、横偏差および横偏差変化率の両方が零から遠ざかる方向に変化している状態をいう。したがって、この発明では、目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態においては、レーンキープアシストトルクを増加させることができる。これにより、車両が目標走行ラインから逸脱したときに、車両を目標走行ライン側に速やかに戻すことができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記補正手段は、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合に、前記レーンキープアシスト電流値演算手段によって演算されたレーンキープアシスト電流値に、1よりも大きな補正用ゲインを乗算することにより、当該レーンキープアシスト電流値を補正するように構成されている、請求項1に記載の操舵支援装置である。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記補正用ゲインは、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率とに基づいて演算される、請求項2に記載の操舵支援装置である。
請求項4記載の発明は、前記補正手段は、前記情報取得手段によって取得される横偏差変化率と横偏差変化率の単位時間当たりの変化率との符号が一致している場合に、前記レーンキープアシスト電流値演算手段によって演算されたレーンキープアシスト電流値に、前記レーンキープアシスト電流値と同符号の補正値を加算することにより、当該レーンキープアシスト電流値を補正するように構成されている、請求項1に記載の操舵支援装置である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る操舵支援装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、ECUの電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、検出操舵トルクTに対する操舵アシスト電流値Isの設定例を示すグラフである。
図4図4は、情報取得部の動作を説明するための模式図である。
図5図5は、レーンキープアシスト電流値演算部の電気的構成を示すブロック図である。
図6図6Aは、横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係の一例を示すグラフであり、図6Bは、横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係の他の例を示すグラフであり、図6Cは、横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係のさらに他の例を示すグラフである。
図7図7Aは、横偏差変化率dy/dtに対する第2レーンキープアシスト電流値Ir2の関係の一例を示すグラフであり、図7Bは、横偏差変化率dy/dtに対する第2レーンキープアシスト電流値Ir2の関係の他の例を示すグラフである。
図8図8は、車速Vに対する車速ゲインGvの設定例を示すグラフである。
図9図9は、補正用ゲイン設定部の動作例を説明するためのフローチャートである。
図10図10は、補正用ゲイン設定部の他の動作例を説明するためのフローチャートである。
図11図11は、レーンキープアシスト電流値演算部の変形例を示すブロック図である。
図12図12は、検出操舵トルクTと制御用操舵トルクTsとの関係を示すグラフである。
図13図13は、ECUの他の構成例を示すブロック図である。
図14図14は、補正値設定部の動作例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る操舵支援装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置(EPS:electric power steering)1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0012】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
トーションバー10の周囲には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクTを検出する。この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTは、たとえば、右方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、左方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクの大きさが大きくなるものとする。
【0013】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が連結されている。
【0014】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0015】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力(操舵アシストトルク)を発生させるための操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための減速機構19とを含む。減速機構19は、ウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機構19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0016】
ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6とは同方向に回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
電動モータ18によってウォーム軸20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸20を回転駆動することによって、転舵輪3が転舵されるようになっている。つまり、電動モータ18は、転舵輪3を転舵させるための転舵用駆動力を発生させるためのモータである。
【0017】
車両には、車速Vを検出するための車速センサ23が設けられているとともに、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ24が搭載されている。
トルクセンサ11によって検出される操舵トルクT、車速センサ23によって検出される車速VおよびCCDカメラ24から出力される画像信号は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。ECU12は、これらの入力信号に基いて、電動モータ18を制御する。
【0018】
図2は、ECU12の電気的構成を示すブロック図である。
ECU12は、電動モータ18を制御するためのマイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32と、電動モータ18に流れるモータ電流(実電流値)Iを検出する電流検出回路33とを含んでいる。
【0019】
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROM,RAM,不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することにより、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、操舵アシスト電流値設定部41と、情報取得部42と、レーンキープアシスト電流値設定部43と、目標電流値演算部44と、電流偏差演算部45と、PI制御部46と、PWM制御部47とが含まれる。
【0020】
操舵アシスト電流値設定部41は、操舵アシストトルクの目標値に対応したモータ電流値である操舵アシスト電流値Isを設定する。操舵アシスト電流値設定部41は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTと車速センサ23によって検出される車速Vとに基づいて、操舵アシスト電流値Isを設定する。検出操舵トルクTに対する操舵アシスト電流値Isの設定例は、図3に示されている。検出操舵トルクTは、例えば右方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、左方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、操舵アシスト電流値Isは、電動モータ18から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされる。
【0021】
操舵アシスト電流値Isは、検出操舵トルクTの正の値に対しては正をとり、検出操舵トルクTの負の値に対しては負をとる。検出操舵トルクTが−T1〜T1(たとえば、T1=0.4N・m)の範囲(トルク不感帯)の微小な値のときには、操舵アシスト電流値Isは零とされる。そして、検出操舵トルクTが−T1〜T1の範囲外の値である場合には、操舵アシスト電流値Isは、検出操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定されている。また、操舵アシスト電流値Isは、車速センサ23によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定されるようになっている。これにより、低速走行時には大きな操舵補助力を発生させることができ、高速走行時には操舵補助力を小さくすることができる。
【0022】
情報取得部42は、図4に示すように、CCDカメラ24によって撮像された画像に基いて、車両100が走行している車線を示す一対の車線境界線(白線)Ll,Lrを認識し、車両100の走行車線を認識する。そして、情報取得部42は、車両100の走行車線内に、車両100の目標走行ラインLsを設定する。この実施形態では、目標走行ラインLsは、走行車線の幅中央に設定される。また、情報取得部42は、目標走行ラインLsからの車両100の横偏差y、横偏差yの単位時間当たりの変化率である横偏差変化率dy/dtおよび横偏差変化率dy/dtの単位時間当たりの変化率dy/dtを取得する。以下において、横偏差変化率dy/dtの単位時間当たりの変化率dy/dtを、「横偏差yの二階微分値dy/dt」という場合がある。
【0023】
車両100の横偏差yは、平面視において、車両100の基準位置Cから目標走行ラインLsまでの距離を表す。車両100の基準位置Cは、車両100の重心位置であってもよく、車両100におけるCCDカメラ24の配置位置であってもよい。この実施形態では、車両100の基準位置Cが、進行方向に向かって、目標走行ラインLsの右側にある場合には、横偏差yの符号は正となり、目標走行ラインLsの左側にある場合には、横偏差yの符号は負となるように、横偏差yは設定される。
【0024】
横偏差変化率dy/dtは、今回取得した横偏差y(t)と、所定の単位時間Δt前に取得した横偏差y(t-Δt)との偏差(y(t)−y(t-Δt))であってもよい。また、横偏差変化率dy/dtは、所定の単位時間Δt後に予測される横偏差y(t+Δt)と、今回取得した横偏差y(t)との偏差(y(t+Δt)−y(t))であってもよい。横偏差の予測値y(t+Δt)は、車速、ヨー角等を考慮して求められてもよい。
【0025】
また、横偏差変化率dy/dtは、所定時間Δtx後の時点t1に予測される横偏差y(t+Δtx)と、時点t1から所定の単位時間Δt後の時点t2に予測される横偏差y(t+Δtx+Δt)との偏差(y(t+Δtx+Δt)−y(t+Δtx))であってもよい。前記横偏差の予測値y(t+Δtx)およびy(t+Δtx+Δt)は、車速、ヨー角等を考慮して求められてもよい。車両の進行方向前方の道路を撮像して、車両の横偏差yを演算または予測する手法は、前記特許文献1,2,3等に記載されているように公知なのでその説明を省略する。
【0026】
横偏差yの二階微分値dy/dtは、例えば、今回取得した横偏差変化率(dy/dt)(t)と、所定の単位時間Δt前に取得した横偏差変化率(dy/dt)(t-Δt)との偏差((dy/dt)(t)−(dy/dt)(t-Δt))であってもよい。
図2に戻り、レーンキープアシスト電流値設定部43は、車速V、横偏差y、横偏差変化率dy/dtおよび横偏差yの二階微分値dy/dtに基いて、車両100を目標走行ラインLsに沿って走行させるためのレーンキープアシスト電流値Irを設定する。レーンキープアシスト電流値設定部43の詳細については、後述する。
【0027】
目標電流値演算部44は、操舵アシスト電流値設定部41によって設定された操舵アシスト電流値Isに、レーンキープアシスト電流値設定部43によって設定されたレーンキープアシスト電流値Irを加算することにより、目標電流値Iを演算する。電流偏差演算部45は、目標電流値演算部44によって得られた目標電流値Iと電流検出回路33によって検出された実電流値Iとの偏差(電流偏差ΔI=I−I)を演算する。
【0028】
PI制御部46は、電流偏差演算部45によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算を行うことにより、電動モータ18に流れる電流Iを目標電流値Iに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部47は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路32に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が電動モータ18に供給されることになる。
【0029】
電流偏差演算部45およびPI制御部46は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、電動モータ18に流れるモータ電流Iが、目標電流値Iに近づくように制御される。
以下、レーンキープアシスト電流値設定部43について詳しく説明する。図2に示すように、レーンキープアシスト電流値設定部43は、レーンキープアシスト電流値演算部51と、補正用ゲイン設定部52と、ゲイン乗算部53とを含む。
【0030】
レーンキープアシスト電流値演算部51は、情報取得部42によって取得された横偏差yおよび横偏差変化率dy/dtに基いて、横偏差yおよび横偏差変化率dy/dtを零に近づけるためのレーンキープアシストトルクに対応したレーンキープアシスト電流値Iroを演算する。
図5は、レーンキープアシスト電流値演算部51の電気的構成を示すブロック図である。レーンキープアシスト電流値演算部51は、第1電流値演算部61と、第2電流値演算部62と、加算部63と、車速ゲイン設定部64と、乗算部65とを含んでいる。
【0031】
第1電流値演算部61は、横偏差yに基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算する。第2電流値演算部62は、横偏差変化率dy/dtに基いて、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算する。加算部63は、第1電流値演算部61によって演算された第1レーンキープアシスト電流値Ir1と、第2電流値演算部62によって演算された第2レーンキープアシスト電流値Ir2とを加算することにより第3レーンキープアシスト電流値Ir3(=Ir1+Ir2)を演算する。車速ゲイン設定部64は、車速Vに応じた車速ゲインGvを設定する。乗算部65は、加算部63によって演算された第3レーンキープアシスト電流値Ir3(=Ir1+Ir2)に、車速ゲイン設定部64によって設定された車速ゲインGvを乗算することにより、レーンキープアシスト電流値Iro(=Gv・(Ir1+Ir2))を演算する。このレーンキープアシスト電流値Iroは、ゲイン乗算部53に与えられる。
【0032】
以下、第1電流値演算部61、第2電流値演算部62および車速ゲイン設定部64のそれぞれについて、より具体的に説明する。
第1電流値演算部61は、予め設定された横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係を示すマップまたは演算式に基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算する。第2電流値演算部62は、予め設定された横偏差変化率dy/dtに対する第2レーンキープアシスト電流値Ir2の関係を示すマップまたは演算式に基いて、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算する。
【0033】
a1,a2を同符号の定数とし、b1を2以上の自然数からなる次数とし、b2をb1より小さな自然数からなる次数とすると、第1電流値演算部61および第2電流値演算部62は、それぞれ次のようにして、第1レーンキープアシスト電流値Ir1および第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算することが好ましい。
つまり、第1電流値演算部61は、b1が奇数に設定される場合には、Ir1=a1・yb1の関数で表される、yとIr1との関係に基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算することが好ましい。一方、b1が偶数に設定される場合には、y≧0の範囲では、Ir1=a1・yb1の関数で表され、y<0の範囲では、Ir1=−a1・yb1の関数で表される、yとIr1との関係に基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算することが好ましい。
【0034】
また、第2電流値演算部62は、b2が奇数に設定される場合には、Ir2=a2・(dy/dt)b2の関数で表される、dy/dtとIr2との関係に基いて、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算することが好ましい。一方、b2が偶数に設定される場合には、dy/dt≧0の範囲では、Ir2=a2・(dy/dt)b2の関数で表され、dy/dt<0の範囲では、Ir2=−a2・(dy/dt)b2の関数で表される、dy/dtとIr2との関係に基いて、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算することが好ましい。
【0035】
前述したように、この実施形態では、操舵アシスト電流値Isは、電動モータ18から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされている。そして、車両の基準位置が、進行方向に向かって、目標走行ラインLsの右側にある場合には、横偏差yの符号は正となり、目標走行ラインLsの左側にある場合には、横偏差yの符号は負となるように、横偏差yが設定されている。符号がこのように設定されている場合には、定数a1およびa2は、負の値に設定される。
【0036】
操舵アシスト電流値Isの符号が前記実施形態とは逆に設定され、かつ横偏差yの符号が前記実施形態とは逆に設定されている場合にも、定数a1およびa2は、負の値に設定される。
一方、操舵アシスト電流値Isの符号が前記実施形態と同様に設定され、かつ横偏差yの符号が前記実施形態とは逆に設定されている場合、または操舵アシスト電流値Isの符号が前記実施形態とは逆に設定され、かつ横偏差yの符号が前記実施形態と同様に設定されている場合には、定数a1およびa2は、正の値に設定される。
【0037】
第1電流値演算部61および第2電流値演算部62が、前述のようにして、第1レーンキープアシスト電流値Ir1および第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算することが好ましい理由について、説明する。
一般的に、aを定数とすると、f(x)=ax(bは自然数からなる次数)で表される関数においては、xの絶対値が大きくなるほどf(x)の絶対値は大きくなる。また、bの値が2以上である場合には、平均変化率は、xの絶対値が大きくなるほど大きくなる。平均変化率とは、(f(x)の変化量)/(xの変化量)をいう。
【0038】
前記b1の値が2以上であれば、横偏差yの絶対値が大きくなるほど、第1レーンキープアシスト電流値Ir1の絶対値が大きくなるとともに、横偏差yの絶対値が大きくなるほど平均変化率(第1レーンキープアシスト電流値Ir1の絶対値の増加率)が大きくなる。このため、車両を目標走行ライン側(この実施形態では、走行車線の幅中央側)により迅速に誘導することができるようになる。
【0039】
また、f(x)=axで表される関数では、bが大きくなるほど、xの絶対値が1未満の範囲における平均変化率は小さくなり、xの絶対値が1以上の範囲における平均変化率は大きくなる。
前記a1が前記a2と等しい場合、前記b1が前記b2より大きいと、横偏差yの絶対値が1未満の範囲での第1レーンキープアシスト電流値Ir1の平均変化率は、横偏差変化率dy/dtの絶対値が1未満の範囲での第2レーンキープアシスト電流値Ir2の平均変化率に比べて小さくなり、横偏差yの絶対値が1より大きな範囲での第1レーンキープアシスト電流値Ir1の平均変化率は、横偏差変化率dy/dtの絶対値が1より大きな範囲での第2レーンキープアシスト電流値Ir2の平均変化率に比べて大きくなる。
【0040】
したがって、車両の基準位置が目標走行ラインから離れた領域にある場合には、第2レーンキープアシスト電流値Ir2の符号が第1レーンキープアシスト電流値Ir1の符号に対してたとえ逆になったとしても、第1レーンキープアシスト電流値Ir1によって横偏差yを零に近づけようとする働きが、第2レーンキープアシスト電流値Ir2によって横偏差変化率dy/dtを零に近づけようとする働きよりも強くなりやすくなると考えられるため、車両を目標走行ライン側(この実施形態では、走行車線の幅中央側)に誘導させることができるようになる。
【0041】
また、横偏差yの値にかかわらず、横偏差変化率dy/dtの大きさに応じた第2レーンキープアシスト電流値Ir2が得られるため、車両の基準位置が目標走行ライン付近の領域にある場合においても、車両の幅方向中心線が目標走行ラインに平行となるように、車両を誘導することができるようになる。
この実施形態では、第1電流値演算部61は、図6Aに示されている、横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係を記憶したマップまたは当該関係を表す演算式に基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算する。図6Aの例では、第1レーンキープアシスト電流値Ir1は、a1を負の定数として、Ir1=a1・yの3次関数で表される。つまり、この関数は、前記a1が負でかつ前記b1が3である場合に相当する。
【0042】
第1電流値演算部61は、たとえば、図6Bに示されている、横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係を記憶したマップまたは当該関係を表す演算式に基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算してもよい。図6Bに示されている曲線は、図6AにおけるIr1が零以上の領域の曲線を横軸方向に−A(A>0)だけ移動させ、図6AにおけるIr1が零未満の領域の曲線を横軸方向に+Aだけ移動させることによって作成されている。図6Bの曲線では、第1レーンキープアシスト電流値Ir1が−A(A>0)〜Aまでの範囲において、第1レーンキープアシスト電流値Ir1が零となる不感帯が設定されている。
【0043】
第1電流値演算部61は、たとえば、図6Cに示されている、横偏差yに対する第1レーンキープアシスト電流値Ir1の関係を記憶したマップまたは当該関係を表す演算式に基いて、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算してもよい。図6Cの例では、第1レーンキープアシスト電流値Ir1は、a1を負の定数とすると、y≧0の範囲では、Ir1=a1・yという2次関数で表され、y<0の範囲では、Ir1=−a1・yという2次関数で表される。この関数は、前記a1が負でかつ前記b1が2である場合に相当する。
【0044】
この実施形態では、第2電流値演算部62は、図7Aに示されている、横偏差変化率dy/dtに対する第2レーンキープアシスト電流値Ir2の関係を記憶したマップまたは当該関係を表す演算式に基いて、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算する。図7Aの例では、第2レーンキープアシスト電流値Ir2は、a2を負の定数として、Ir2=a2・dy/dtの1次関数で表される。つまり、この関数は、前記a2が負でかつ前記b2が1である場合に相当する。なお、横偏差変化率dy/dtの絶対値が零付近において、第2レーンキープアシスト電流値Ir2が零となる不感帯を設けてもよい。
【0045】
第2電流値演算部62は、たとえば、図7Bに示されている、横偏差変化率dy/dtに対する第2レーンキープアシスト電流値Ir2の関係を記憶したマップまたは当該関係を表す演算式に基いて、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算してもよい。図7Bの例では、第2レーンキープアシスト電流値Ir2は、a2を負の定数とすると、dy/dt≧0の範囲では、Ir2=a2・(dy/dt)という2次関数で表され、dy/dt<0の範囲では、Ir2=−a2・(dy/dt)という2次関数で表される。この関数は、前記a2が負でかつ前記b2が2である場合に相当する。
【0046】
図5に戻り、車速ゲイン設定部64は、車速センサ23によって検出された車速Vに基いて、車速ゲインGvを設定する。車速Vに対する車速ゲインGvの設定例は、図8に示されている。図8の例では、車速ゲインGvは、車速Vが零付近の範囲では、0に固定され、車速Vが所定値を超えると、1に固定される。車速ゲインGvは、車速Vが中間範囲内の値であるときには、車速Vに応じて0から1まで増加する特性にしたがって設定される。
【0047】
レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Irは、ゲイン乗算部53(図2参照)に与えられる。
図2に戻り、補正用ゲイン設定部52は、情報取得部42によって取得された横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとに基づいて、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroを補正するための補正用ゲインGを設定する。補正用ゲイン設定部52の動作の詳細は後述する。
【0048】
ゲイン乗算部53は、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroに、補正用ゲイン設定部52によって設定された補正用ゲインGを乗算することにより、レーンキープアシスト電流値Iroを補正する。補正後のレーンキープアシスト電流値G・Iroが、最終的なレーンキープアシスト電流値Irとして、目標電流値演算部44に与えられる。補正用ゲイン設定部52およびゲイン乗算部53は、レーンキープアシスト電流値Iroを補正する補正手段を構成している。
【0049】
図9は、補正用ゲイン設定部52の動作例を説明するためのフローチャートである。図9の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
補正用ゲイン設定部52は、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとを取得する(ステップS1)。そして、補正用ゲイン設定部52は、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致しているか否かを判別する(ステップS2)。補正用ゲイン設定部52は、例えば、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの積が正のときに、両者の符号が一致していると判別し、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの積が零または負のときに、両者の符号が一致していないと判別してもよい。
【0050】
横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致していないと判別された場合には(ステップS2:NO)、補正用ゲイン設定部52は、補正用ゲインGを1に設定する(ステップS3)。この場合には、ゲイン乗算部53からは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroがそのまま出力される。そして、補正用ゲイン設定部52は、今演算周期の処理を終了する。
【0051】
前記ステップS2において、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致すると判別された場合には(ステップS2:YES)、補正用ゲイン設定部52は、補正用ゲインGを1よりも大きな所定値αに設定する(ステップS4)。この場合には、ゲイン乗算部53からは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroよりも絶対値が大きくかつ同符号のレーンキープアシスト電流値Irが出力される。そして、補正用ゲイン設定部52は、今演算周期の処理を終了する。
【0052】
以下、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致すると判別された場合に、補正用ゲインGを1よりも大きな所定値αに設定している理由について説明する。
横偏差yおよび横偏差変化率dy/dtの両方が零から遠ざかる方向に変化している状態は、目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態であると考えることができる。横偏差yおよび横偏差変化率dy/dtの両方が零から遠ざかる方向に変化している状態では、横偏差yの一階微分値である横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致する。したがって、横偏差yの一階微分値である横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致するときに、目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態であると判別できる。
【0053】
そこで、補正用ゲイン設定部52は、偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致しているときには、補正用ゲインGを1よりも大きな所定値に設定している。これにより、目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態においては、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroを、その絶対値が大きくなるように補正することができる。これにより、目標走行ラインに対する車両の逸脱度が増加している状態においては、レーンキープアシストトルクを増加させることができるから、車両が目標走行ラインから逸脱したときに、車両を目標走行ライン側に速やかに戻すことができる。
【0054】
図10は、補正用ゲイン設定部の他の動作例を説明するためのフローチャートである。図10の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
補正用ゲイン設定部52は、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとを取得する(ステップS11)。そして、補正用ゲイン設定部52は、次式(1)に基づいて、第1補正用ゲインG1を演算する(ステップS12)。
【0055】
G1=|(dy/dt)・K1×(dy/dt)・K2| …(1)
前記式(1)において、K1,K2は、予め設定された正の係数である。
次に、補正用ゲイン設定部52は、第1補正用ゲインG1が1よりも大きいか否かを判別する(ステップS13)。
第1補正用ゲインG1が1以下である場合には(ステップS13:NO)、補正用ゲイン設定部52は、第1補正用ゲインG1を1よりも大きな所定値γに設定する(ステップS14)。そして、補正用ゲイン設定部52は、ステップS15に移行する。前記ステップS13において、第1補正用ゲインG1が1よりも大きいと判別された場合には(ステップS13:YES)、補正用ゲイン設定部52は、ステップS15に移行する。
【0056】
ステップS15では、補正用ゲイン設定部52は、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致しているか否かを判別する。補正用ゲイン設定部52は、例えば、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの積が正のときに、両者の符号が一致していると判別し、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの積が零または負のときに、両者の符号が一致していないと判別してもよい。
【0057】
横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致していないと判別された場合には(ステップS15:NO)、補正用ゲイン設定部52は、最終的な補正用ゲインGを1に設定する(ステップS16)。そして、補正用ゲイン設定部52は、今演算周期の処理を終了する。
前記ステップS15において、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致すると判別された場合には(ステップS15:YES)、補正用ゲイン設定部52は、第1補正用ゲインG1の値を最終的な補正用ゲインGとして設定する (ステップS17)。そして、補正用ゲイン設定部52は、今演算周期の処理を終了する。
【0058】
この変形例では、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致すると判別された場合に設定される補正用ゲインGを、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtの大きさに応じて設定している。このため、目標走行ラインに対する車両逸脱度に応じた補正用ゲインGを設定することができるので、レーンキープアシスト電流値をより適切に補正することが可能となる。
【0059】
図11は、レーンキープアシスト電流値演算部51の変形例を示すブロック図である。
レーンキープアシスト電流値演算部51は、第1電流値演算部61と、第2電流値演算部62と、加算部63と、車速ゲイン設定部64と、乗算部65と、制御用操舵トルク設定部66と、切替部67とを含む。
第1電流値演算部61は、図5の第1電流値演算部61と同様な動作により、第1レーンキープアシスト電流値Ir1を演算する。第2電流値演算部62は、図5の第2電流値演算部62と同様な動作により、第2レーンキープアシスト電流値Ir2を演算する。加算部63は、第1レーンキープアシスト電流値Ir1と第2レーンキープアシスト電流値Ir2とを加算することにより第3レーンキープアシスト電流値Ir3(=Ir1+Ir2)を演算する。
【0060】
車速ゲイン設定部64は、図5の車速ゲイン設定部64と同様な動作により、車速Vに応じた車速ゲインGvを設定する。乗算部65は、第3レーンキープアシスト電流値Ir3(=Ir1+Ir2)に、車速ゲインGvを乗算することにより、第4レーンキープアシスト電流値Ir4(=Gv・(Ir1+Ir2))を演算する。
制御用操舵トルク設定部66は、トルクセンサ11によって検出された検出操舵トルクTに基づいて制御用操舵トルクTsを設定する。検出操舵トルクTに対する制御用操舵トルクTsの設定例は図12に示されている。検出操舵トルクTの絶対値が所定値T2(たとえば、T2=0.4N・m)以下の領域には、制御用操舵トルクTsが零となる不感帯が設定されている。検出操舵トルクTがT2より大きい領域および検出操舵トルクTが−T2より小さい領域では、制御用操舵トルクTsは検出操舵トルクTと同じ値となるように設定されている。
【0061】
乗算部65によって演算された第4レーンキープアシスト電流値Ir4は、切替部67の第1入力端子に入力する。切替部67の第2入力端子には、零が入力する。切替部67には、制御用操舵トルク設定部66によって演算された制御用操舵トルクTsと、乗算部65によって演算された第4レーンキープアシスト電流値Ir4とが、切替制御信号として与えられる。切替部67は、制御用操舵トルクTsの符号と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号とに基づいて、第1入力端子に入力する第4レーンキープアシスト電流値Ir4および第2入力端子に入力する零のうちのいずれか一方をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。
【0062】
制御用操舵トルクTsの符号は、運転者の操舵方向を表す。第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号は、第4レーンキープアシスト電流値Ir4(レーンキープアシストトルク)に対応した転舵方向を表す。制御用操舵トルクTsの符号によって示される操舵方向と、第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが異なる場合には、切替部67は、第1入力端子に入力する第4レーンキープアシスト電流値Ir4をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。
【0063】
一方、制御用操舵トルクTsの符号によって示される操舵方向と、第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが同じ場合には、切替部67は、第2入力端子に入力する零をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。これは、制御用操舵トルクTsの符号によって示される操舵方向と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが同じである場合には、運転者が車両を目標走行ラインに近づけるように操舵していると考えられるからである。前述したように、検出操舵トルクTの絶対値が所定値T2以下である領域には制御用操舵トルクTsが零となる不感帯が設けられているので、検出操舵トルクTが小さい領域において、制御用操舵トルクTsの符号が小刻みに反転するのを抑制できる。これにより、第4レーンキープアシスト電流値Ir4と零とが小刻みに切り替えられるのを抑制できるから、電動モータ18から発生するモータトルクが小刻みに変動するのを抑制できる。
【0064】
この変形例では、制御用操舵トルクTsの符号と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号とが不一致である場合には、切替部67は、第4レーンキープアシスト電流値Ir4をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。切替部67は、例えば、制御用操舵トルクTsと第4レーンキープアシスト電流値Ir4との積が零以下(零また負の値)のときに、制御用操舵トルクTsの符号と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号とが不一致であると判定してもよい。
【0065】
一方、制御用操舵トルクTsの符号と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号とが一致している場合には、切替部67は、零をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。切替部67は、例えば、制御用操舵トルクTsと第4レーンキープアシスト電流値Ir4との積が零よりも大きい(正の値)ときに、制御用操舵トルクTsの符号と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号とが一致していると判定してもよい。
【0066】
制御用操舵トルクTsの符号によって示される操舵方向と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが同じ場合には、運転者が車両を目標走行ラインに近づけるように操舵していると考えられる。運転者が車両を目標走行ラインに近づけるように操舵しているにもかからず、レーンキープアシストトルクを発生させると、操舵の手応え(操舵反力)が著しく低下して、操舵感が悪化したり、車両が目標走行ラインに向かって戻りすぎたりするおそれがある。この変形例では、制御用操舵トルクTsの符号によって示される操舵方向と第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが同じ場合には、レーンキープアシスト電流値Iroは零とされる。これにより、運転者が車両を目標走行ラインに近づけるように操舵しているときに、操舵の手応え感を運転者に適切に与えることができるので、操舵感を向上させることができる。また、車両が目標走行ラインに向かって戻りすぎるのを抑制できる。
【0067】
図13は、ECUの他の構成例を示すブロック図である。図13において、前述の図2に示された各部に対応する部分には同一参照符号を付して示す。
図13のECU12Aは、レーンキープアシスト電流値設定部43Aの構成が図2のECU12と異なっている。レーンキープアシスト電流値設定部43Aは、レーンキープアシスト電流値演算部51と、補正値設定部52Aと、補正値加算部53Aとを含む。レーンキープアシスト電流値演算部51は、図2のレーンキープアシスト電流値演算部51と同じ構成である。レーンキープアシスト電流値演算部51は、図11に示す変形例と同じ構成であってもよい。
【0068】
補正値設定部52Aは、横偏差変化率dy/dtと、横偏差yの二階微分値dy/dtと、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されるレーンキープアシスト電流値Iroとに基いて、補正値βを演算する。補正値設定部52Aの動作の詳細については、後述する。補正値加算部53Aは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されるレーンキープアシスト電流値Iroに、補正値設定部52Aによって設定された補正値βを加算することにより、レーンキープアシスト電流値Iroを補正する。補正後のレーンキープアシスト電流値(Iro+β)が最終的なレーンキープアシスト電流値Irとして、目標電流値演算部44に与えられる。
【0069】
図14は、補正値設定部の動作例を説明するためのフローチャートである。図14の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
補正値設定部52Aは、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとを取得する(ステップS21)。そして、補正値設定部52Aは、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致しているか否かを判別する(ステップS22)。補正値設定部52Aは、例えば、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの積が正のときに、両者の符号が一致していると判別し、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの積が零または負のときに、両者の符号が一致していないと判別してもよい。
【0070】
横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致していないと判別された場合には(ステップS22:NO)、補正値設定部52Aは、補正値βを0に設定する(ステップS23)。この場合には、補正値加算部53Aからは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroがそのまま出力される。そして、補正値設定部52Aは、今演算周期の処理を終了する。
【0071】
前記ステップS22において、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致すると判別された場合には(ステップS22:YES)、補正値設定部52AはステップS24に移行する。ステップS24では、補正値設定部52Aは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroが、正の値であるか、負の値であるか、または零であるかを判別する。
【0072】
レーンキープアシスト電流値Iroが正の値であると判別された場合(Iro>0)には、補正値設定部52Aは、補正値βを正の所定値D(D>0)に設定する(ステップS25)。この場合には、補正値加算部53Aからは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iro(Iro≧0)に、補正値β(=D)が加算された値が出力される。そして、補正値設定部52Aは、今演算周期の処理を終了する。
【0073】
前記ステップS24において、レーンキープアシスト電流値Iroが負の値であると判別された場合(Iro<0)には、補正値設定部52Aは、補正値βを負の所定値−Dに設定する(ステップS26)。この場合には、補正値加算部53Aからは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iro(Iro<0)に、補正値β(=−D)が加算された値が出力される。そして、補正値設定部52Aは、今演算周期の処理を終了する。
【0074】
レーンキープアシスト電流値Iroが零であると判別された場合(Iro=0)には、補正値設定部52Aは、補正値βを0に設定する(ステップS23)。この場合には、補正値加算部53Aからは、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iro(Iro=0)がそのまま出力される。そして、補正値設定部52Aは、今演算周期の処理を終了する。
【0075】
この変形例においても、横偏差変化率dy/dtと横偏差yの二階微分値dy/dtとの符号が一致する場合には、レーンキープアシスト電流値演算部51によって演算されたレーンキープアシスト電流値Iroを、その絶対値が大きくなるように補正できる。したがって、車両が目標走行ラインから逸脱したときに、車両を目標走行ライン側に速やかに戻すことができる。
【0076】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、加算部63(図5図11参照)と乗算部65の間に、第3レーンキープアシスト電流値Ir3(=Ir1+Ir2)の絶対値を所定範囲に限定するためのリミッタを設けてもよい。
また、前述の実施形態では、乗算部65(図5図11参照)が設けられているが、乗算部65を省略してもよい。乗算部65を省略する場合には、車速ゲイン設定部64は不要である。
【0077】
また、前述の実施形態では、操舵アシスト電流値設定部41は、操舵トルクTを用いて(具体的には操舵トルクTおよび車速Vに基づいて)、操舵アシスト電流値Isを設定しているが、操舵角を用いて操舵アシスト電流値Isを設定してもよい。
また、前述のレーンキープアシスト電流演算部51の変形例(図11参照)では、制御用操舵トルク設定部66が設けられているが、制御用操舵トルク設定部66を省略してもよい。制御用操舵トルク設定部66を省略する場合には、制御用操舵トルクTsの代わりに、トルクセンサ11によって検出される検出操舵トルクTが切替部67に与えられる。この場合には、検出操舵トルクTの符号によって示される操舵方向と、第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが異なる場合には、切替部67は、第1入力端子に入力する第4レーンキープアシスト電流値Ir4をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。一方、検出操舵トルクTの符号によって示される運転者の操舵方向と、第4レーンキープアシスト電流値Ir4の符号によって示される転舵方向とが同じ場合には、切替部67は、第2入力端子に入力する零をレーンキープアシスト電流値Iroとして選択して出力する。
【0078】
また、前述の実施形態では、電動パワーステアリング装置にこの発明が適用された例について説明したが、この発明は、ステア・バイ・ワイヤ(SBW)システムその他の車両用操舵装置に適用できる。
また、この発明は、ステアリングホイール2が操舵されない自動運転モードにおいても、適用することができる。
【0079】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…電動パワーステアリング装置、18…電動モータ、11…トルクセンサ、23…車速センサ、42…情報取得部、43…レーンキープアシスト電流値設定部、44…目標電流値演算部、45…電流偏差演算部、46…PI制御部、51…レーンキープアシスト電流値演算部、52…補正用ゲイン設定部、52A…補正値設定部、53…ゲイン乗算部、53A…補正値加算部、61…第1電流値演算部、62…第2電流値演算部、63…加算部、64…車速ゲイン設定部、65…乗算部
図1
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