(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0018】
[養殖槽の改質方法]
本発明の養殖槽の改質方法は、水産生物の養殖槽の改質方法であって、養殖槽の底質に腐植物質およびシリケイト化合物を含む改質剤を混合することで前記底質を改質する混合工程を有する。このようにして、養殖槽の底質に腐植物質およびシリケイト化合物を混合することで、底質が改善され、養殖槽としての有機物除去機能等が向上する。
【0019】
本発明は、次のような作用機序を想定したものである。まず、自然界の海や湖沼などでは、そこに流れ込む汚水・汚物が浄化され、清澄な自然が保たれているように、自然環境の底質や水等には、浄化機能を持った土壌微生物が常在し棲息している。一方、水産生物の養殖環境では、経済行為として水産生物を高密度に飼育しているものの、自然界の浄化機能が発揮されていない。これは、人工的構造物である養殖槽や飼育水に棲息する土壌微生物が自然界の環境で獲得した代謝機能を放棄することで浄化能力が喪失していることに気づいていないことによると考えられる。本発明者らは、経験則からこのような知見を得ている。
【0020】
この対策として、土壌微生物が自ら生成する腐植物質を意図的に活用することで、土壌微生物の代謝機能を自然界の代謝機能へと誘導できることを発見した。土壌微生物とは、土壌細菌を主とする微生物群の総称であるが、有機物を対象として機能する代謝機能の微生物群と窒素成分を対象として機能する代謝機能の微生物群などが共棲混在している。例えば、閉鎖性の養殖槽で水産生物を飼育する際に最も問題となるのが、残餌及び排泄物等に含まれる有機物及び窒素成分への対応である。
【0021】
本発明はこれらを浄化するものである。まず有機物に対しては、人工的構造物の環境下の土壌微生物のみでは、炭酸ガスと水に分解されない有機物は腐敗してしまう。この対策として、土壌微生物が自ら生成する腐植物質を意図的に活用することにより、自然環境下の土壌微生物代謝機能へと誘導し活性化を図り、腐敗を抑制して腐植化を促進する。また、窒素成分に対しても、人工的構造物の環境下の土壌微生物は自然界の環境で機能させる代謝機能を放棄するように、硝化菌及び脱窒菌も自然界での代謝機能を放棄しており有機態窒素及びアンモニア態窒素も硝化反応が惹起されず、そのままの形で残存するからである。この対策として、養殖増内に棲息する土壌微生物である硝化菌、脱窒菌も土壌微生物が自ら生成する腐植物質を意図的に活用することで自然界の代謝機能へと誘導され活性化する。また、硝化反応を惹起することで有機態窒素及びアンモニア態窒素は、亜硝酸態窒素・硝酸態窒素へと変性し、亜硝酸態窒素・硝酸態窒素は水素供与体と反応して脱窒反応を惹起する。この水素供与体としては、残餌及び排せつ物に含まれる有機物を活用する。このことにより、養殖増内の棲息環境を悪化させる二大要因の有機物及び窒素成分を同時に除去することが可能となるのである。なお、シリケイト化合物も含むことは、フルボ酸鉄が機能することで植物プランクトンや藻類の発生にも有用である。また、光合成反応による過剰な二酸化炭素の消費や、水中での自然な酸素の供与も生じ、植物プランクトンや藻類自体が、水産生物の餌にもなりうる。
【0022】
[水産生物]
水産生物は、魚類、水産哺乳類、水産無脊椎動物、海藻類などで、食品もしくは生活に利用されるものである。本発明は養殖される水産生物の養殖環境の改質を行うことができ、その養殖対象となる水産生物は、淡水魚や海水魚、貝類、甲殻類など広く対象とすることができる。養殖手法は、池中養殖や、水田養殖、干潟・河川での養殖などの内水面養殖や、陸上の養殖池や塩田の池中養殖、堤防や網で仕切る区画養殖、垂下式養殖、地撒式養殖などの海面養殖で養殖される各種水産生物を対象とすることができる。養殖される水産生物を例示すると、コイ、ニジマス、アユ、ウグイ、ウナギ、キンギョ、熱帯魚、スッポン、ウシガエル、ドジョウ、ボラ、フナ、クロダイ、スズキ、クルマエビ、ブリ、マダイ、トラフグ、カキ、アコヤガイ、ホヤ、ワカメ、ノリ、アサリ、ハマグリ、ホタテ貝などがあげられる。
【0023】
[養殖槽]
本発明は、養殖槽を改質するものである。養殖槽は、比較的狭い水域で水産生物を人工的に繁殖飼育するときに用いる場をいう。例えば、養殖池や水田、区画された干潟・河川・海、陸上設備などである。
【0024】
[底質]
本発明の養殖槽の改質方法は、特に、改質の効果を定着させるために、底質を有する養殖槽を対象とする。底質とは、養殖槽の主に底に設けられる土や砂、砂利、石、砂泥等をいう。これらの底質は、水産生物の飼育のための食物連鎖等に寄与し、水産生物の餌となる植物プランクトン等の増殖等に寄与していたり、水産生物の残餌や死骸の浄化等に寄与する。このため、各種養殖手法にあたって養殖槽の底等に底質が設けられている。
【0025】
[混合工程]
本発明の改質方法は、養殖槽の底質に腐植物質およびシリケイト化合物を含む改質剤を混合することで底質を改質する混合工程を有する。この混合は、底質に改質剤を散布したり、撹拌や耕耘して混ぜたりして、底質に改質剤が分散して接した状態である。
本発明では、混合工程により、底質を改質する。この改質は、特に、底質に蓄積した有機物等の浄化及び腐植化促進や、その浄化も合わせて、養殖槽の環境を水産生物の養殖に適したものとするものである。
【0026】
特に、腐植物質由来のフルボ酸と、シリケイト化合物由来の鉄(鉄イオン)が底質に供給された状態となる。これにより底質から、養殖槽にフルボ酸鉄が生成し供給される。フルボ酸鉄が生成し供給されることでラン藻類や珪藻類などの藻類や植物プランクトン等も増殖しやすくなり、養殖槽内で水産生物の餌となる植物プランクトン等が供給されやすい状態となる。一般的にシリケイト化合物に含まれる鉄分は、海水中で酸化されて粒状の鉄となり底質に沈殿するが、フルボ酸と接触することでフルボ酸の持つ抗酸化力により三価鉄から二価鉄へ還元され、二価鉄はフルボ酸と結合してコロイド状のフルボ酸鉄となり、植物プランクトンなどに利用される。また、これらの植物プランクトン等は、光合成にも寄与し養殖槽内に酸素供給する効果も生じる。
【0027】
また、混合工程により腐植物質を供給することで、養殖槽内に常在している硝化菌、脱窒菌を活性化する。一般的な養殖において、特に嫌気的条件を必要とする脱窒菌は養殖槽で水産生物を生育するための酸素供給等によって自然環境下の代謝機能を放棄し、その機能性を喪失している。この脱窒菌の活性が低下していることを従来の養殖では見落として養殖効率が低下したり、脱窒のために追加の装置等を設けるものの運転管理が複雑化したりしている。本発明では、このような脱窒菌について、養殖槽等にそもそも常在していたものを腐植物質により活性化し、脱窒菌等が活発に作用しやすい状態とする。
【0028】
[改質剤]
改質剤は、腐植物質とシリケイト化合物を含むものを用いる。この改質剤は、さらに、適宜、pH調整材や粘度調整材、塩分濃度を調整する塩等を含むものでもよい。
【0029】
[腐植物質]
腐植物質は、生物の死後、生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊した「化学構造が特定されない有機物(非生体有機物)」の総称と言われている。この腐植物質についても、機能性を示すものと、機能性を示さないものとがあることが経験的に知られており、これは、その自然界の有機物である生物体有機物が、土へ還ろうとするときの中間生成物が含まれるか否かの影響が大きいものと考えられる。この中間生成物を含むとき、すなわち機能性を示す腐植物質については、腐植前駆物質と呼ばれることがある。(内水護「自然と輪廻 土・自然・人間・社会 ベーシック文明論」18−28頁,漫画社,1986)
ここで腐植前駆物質や腐植物質(腐植物)には、その成分の腐植化度合(重縮合反応化度合)として、ヒュミンやフルボ酸、フミン酸等が含まれていることが知られている。そして、一般的な腐植物質において、フルボ酸とフミン酸との比率は2:8程度の重量比で含まれている。本発明の腐植物質はフルボ酸を含むものを用いる。
【0030】
フルボ酸自体は、フェノール及び/又はフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を、有機物等と反応させることで生じる腐植物質(特に腐植前駆物質)の内、酸およびアルカリへの溶解性からフミン酸と区別されるものの、様々な構造を有する有機物等の混合物である。
【0031】
[フルボ酸液]
本発明にはフルボ酸液を用いることが好ましい。フルボ酸液は、一般的な腐植よりもフルボ酸が高比率で含有されており、フミン酸等の含有量が低いものである。フルボ酸液を用いることで、フルボ酸鉄生成がより効率的に行われる。このようなフルボ酸液としては、例えば、株式会社T&Gのリードアップなどを用いることができる。
【0032】
[フルボ酸およびフミン酸]
なお、本願におけるフルボ酸およびフミン酸は、日本腐植物質学会の属する国際腐植物質学会の分類に基づき、生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊して生じる化学構造が特定されていない有機物(非生体有機物)である腐植物のうち、アルカリ・酸に対する溶解性での分類を行う。すなわち、フルボ酸は、アルカリに可溶であり、かつ、酸に可溶な成分である。一方、フミン酸は、アルカリに可溶であるが、酸に不溶な成分である。なお、ヒュミンは、アルカリに不溶であり、かつ、酸に不溶な成分である。
【0033】
[フルボ酸濃度・活性の測定例]
フルボ酸液等に含まれているフルボ酸の程度は、フルボ酸が混合物質であり、かつ他の有機物の有無の影響も大きいため具体的な成分ごとの濃度で規定することが適切ではなく、具体的な数値では規定できない場合がある。
【0034】
フルボ酸抽出液より、国際腐植物質学会(IHSS)の方法に従い疎水性様物質を分離・精製し、この物質が日本腐植物質学会(JHSS)より頒布されている標準フルボ酸と類似した物理化学的特性(吸収、FTIR、3D蛍光スペクトル、固体NMR等)をもつことが確認されている。
【0035】
このフルボ酸の濃度は、そのフルボ酸活性の程度に関する、3D蛍光スペクトルを指標とすることができる。この3D蛍光スペクトルはUV〜可視光範囲程度の光を用いて、励起光−蛍光の波長と、その強度の分布に基づいて判断する。この分布の傾向がフルボ酸のものかを確認し、その特徴的なピークが310nm−410nm(励起光波長−蛍光波長)付近にみられればフルボ酸活性が高い(フルボ酸濃度が高い)ものと判断される。
【0036】
そして、そのフルボ酸濃度は、簡易的には、410nm付近のピークにおける蛍光波長に基づく検量線を作成し、推定濃度として算出することができる。この推定濃度として、フルボ酸液は、原料となる有機物質や製造条件にもよるが、およそ10mg/L〜2,500mg/Lとなる。フルボ酸濃度が、20mg/L以上や、30mg/L以上、100mg/L以上、500mg/L以上のフルボ酸液を用いることが好ましい。これらを原液として、適宜希釈しながら用いることができる。例えば、現在販売されているフルボ液(商品名「リードアップ」(株式会社T&G))のフルボ酸含有量は約1000ppmと評価されている。
【0037】
また、そのフルボ酸活性は、簡易的には3D蛍光スペクトルのピークとなる波長での蛍光強度と、その励起光波長の吸光度との比として、410nm付近の蛍光強度ピーク値/310nm付近の励起光強度ピーク値(蛍光波長の蛍光強度(If)/励起光波長の吸光度(Abs))から、「フルボ酸−蛍光スペクトル比」として求めることができる。例えば、フルボ酸液の場合、このフルボ酸−蛍光スペクトル比が、5,000〜30,000程度の値を示す。本発明においては、フルボ酸が十分に供給されればよいため、フルボ酸活性は任意でよいが、フルボ酸活性が高いほど少量の腐植物質の混合で改質効果等を得ることや、短時間で効果を得たり、長時間効果を得たり、有機物浄化機能が優れたりといった改質効果等が期待できる。このため、混合工程に用いる腐植物質のフルボ酸−蛍光スペクトル比は、100以上や、500以上、1000以上、2000以上、3000以上、5000以上、8000以上のように下限を設けてもよい。一方、上限は特に定めはないが、例えば、100000以下や、80000以下、50000以下、30000以下のような上限を設けてもよい。
【0038】
なお、一般的な汚水等の有機性物質含有液の腐植化が進まない段階では、このフルボ酸−蛍光スペクトル比は、ほとんど0に近い値である。なお、この比は濃度を示す値ではなくフルボ酸の質や活性の指標であり、有機性物質との接触による反応等で大きく増減する。
【0039】
一方、フミン酸の含有については、フミン酸を特定する精製や分析を行ってその濃度を基に判断することができる。この判断を簡易的に行う場合、前述したフルボ酸の測定を行うときの、3D蛍光スペクトルによって、UV〜可視光範囲程度の光を用いて、励起光−蛍光の波長と、その強度の分布に基づいて判断することができる。フミン酸が存在する場合、450nm/530nm(励起光/蛍光)付近に、ピークがみられる。また、液の黒色度が高くなり、前述したフルボ酸−蛍光スペクトル比において、310nm付近の励起光波長の吸光度(Abs)が高くなったり、410nm付近の蛍光波長の蛍光強度(If)が低くなったりして、フルボ酸−蛍光スペクトル比が、フルボ酸液として好ましい範囲となりにくい。よって、本発明のフルボ酸液は、通常の腐植物質である、フルボ酸:フミン酸が2:8相当の腐植物質溶液と同様のダブルピークがみられない、またはフミン酸に相当するピークがこの一般的なダブルピークの値より低いことを指標とすることができる。または、フルボ酸−蛍光スペクトル比を指標としてもよい。なお、本発明に用いるフルボ酸やフルボ酸液については、特許第6026631号公報に開示の技術も参照して、利用することができる。
【0040】
[シリケイト化合物]
本発明は、シリケイト化合物を、底質の改質のために混合したり、養殖槽の飼育水に供給したりして用いる。本発明に用いるシリケイト化合物とは、珪藻土など由来の活性珪酸に、アルミニウムや鉄を含んだものをいう。例えば、安山岩質もしくは流紋岩質の岩石に由来したものを好適に用いることができる。また、人工物である活性硅酸に鉄、アルミニウムなどの金属を天然物に含まれているものと同等以上の割合となるように混合したものを用いることもできる。
【0041】
このシリケイト化合物に含まれるアルミニウム量は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)として、5質量%以上が好ましい。酸化アルミニウム量として、10質量%以上がより好ましく、11質量%以上、12質量%以上としてもよい。酸化アルミニウム量として、十分に活性珪酸や鉄を含む範囲で上限を定めなくてもよいが、30質量%以下や、25質量%以下、20質量%以下としてもよい。
このシリケイト化合物に含まれる鉄量は、酸化鉄(酸化第一鉄および酸化第二鉄の総量)として、3質量%以上が好ましい。酸化鉄量として、4質量%以上がより好ましく、4.5質量%以上、5.0質量%以上としてもよい。酸化鉄量として、十分に活性珪酸や酸化アルミニウムも含む範囲で上限を定めなくてもよいが、30質量%以下や、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下としてもよい。
【0042】
シリケイト化合物は、鉄や、アルミニウム等のミネラル成分となる成分も含んでいることで、シリケイト化合物は、養殖槽内の底質や飼育水等に棲息する土壌細菌を中心とする土壌微生物の生育環境安定剤として有効である。また、養殖槽の底質や飼育水等に含まれる有機物の腐植化を促進する触媒としても機能する。また、養殖槽の底質や飼育水等に棲息する植物プランクトンや藻類などの光合成生物の栄養塩としても有効である。また、これらに寄与する状態のフルボ酸鉄を生成する原料としても有用である。さらに、シリケイト化合物として、アルミニウムや鉄を含むことで、珪藻土のケイ酸塩にこれらのアルミニウムや鉄が担持され安定化しやすくなると考えられる。また、同時に、このようなシリケイト化合物は腐植物質で活性化された脱窒菌等の養殖槽の浄化に寄与する菌を担持する場としても有用と考えられる。
【0043】
[混合量]
これらの改質物質は、養殖槽の底質を改質することができる範囲で、養殖槽の種類、水産生物の飼育期間、養殖槽の使用条件等を鑑み、適宜その混合量を設定することができる。混合量は、底質が配置される養殖槽の底面の広さを基準として設定することができる。これらの好適範囲とすることでより脱窒菌等の活性化や植物プランクトンの生育等の改質効果を奏することができる。
【0044】
腐植物質の混合量は、腐植物質に含まれるフルボ酸相当量として、50mg/1000m
2以上とすることが好ましい。例えば、フルボ酸相当量として50mg/L含むフルボ酸液を原液として用いる場合、1L(フルボ酸相当量50mg分)を、適宜、水等で希釈し、1000m
2に散布することで腐植物質を混合することができる。腐植物質の混合量はフルボ酸相当量として、80mg/1000m
2以上や、100mg/1000m
2以上や、150mg/1000m
2以上とより高濃度にすることがより好ましい。腐植物質を高濃度とする弊害はないため上限を定めなくてもよいが、原料の量の制限や、散布時間等を考慮して上限を定めてもよく、10,000mg/1000m
2以下や、5,000mg/1000m
2以下としてもよい。
【0045】
シリケイト化合物の混合量は、1kg/1000m
2以上とすることが好ましい。シリケイト化合物の混合量は、3kg/1000m
2以上や、5kg/1000m
2以上や、10kg/1000m
2以上とより高濃度にすることがより好ましい。シリケイト化合物を高濃度とする弊害はないため上限を定めなくてもよいが、原料の量の制限や、散布時間等を考慮して上限を定めてもよく、100kg/1000m
2以下や、50kg/1000m
2以下としてもよい。
【0046】
本発明の改質方法は、底質を改質するため、養殖槽の飼育水の張り替えの時に行うことが好ましい。養殖槽の飼育水は、水産生物が十分に成育し、その槽内の水産生物が回収・出荷されたあと、使用した飼育水を排出して、新しい飼育水に入れ替えられる。特に人工的な調整が行いやすい、養殖池や水田、陸上設備などは、切り替え時に飼育水をほぼ全量排出する。この飼育水が排出された状態の養殖槽の底質に、改質剤を散布し、混合することが好ましい。飼育水が排出されていることで、底質に直接混合される改質剤の濃度が向上し優れた改質効果を得やすい。なお、飼育水が排出された状態でも底質は湿潤状態であったり、極めて浅い水位を有する場合がある。この底質は、適宜、天日干しや、後述する耕耘等が行われる場合がある。
【0047】
[耕耘工程]
本発明の改質方法は、混合工程のあと、改質剤を混合した底質を耕耘する耕耘工程を有するものであることが好ましい。この耕耘工程を行うことで、改質剤が底質により均質に混合される。この耕耘は、養殖槽の底質を掘り返して軟らかく膨らませるものである。この耕耘は、飼育水が張られた状態の底質で行っても良いし、飼育水が排出された状態の底質で行っても良い。耕耘作業時の水の抵抗や重さの影響を低減し、より深い範囲まで効率よく耕耘できるように飼育水が排出された状態で行うことが好ましい。耕耘することで、底質の内部まで酸素供給して、堆積した有機物等をより効率よく浄化したり、改質剤に含まれるフルボ酸鉄などがより広範に維持された状態としたりすることができる。
【0048】
[熟成工程]
本発明の改質方法は、耕耘工程のあと、前記耕耘された前記底質を排水状態で熟成する熟成工程を有することが好ましい。熟成とは、養殖対象となる水産生物を投入せずに静置や、適宜、撹拌等するものである。この熟成工程を底質にする場合、飼育水の影響による熟成時間の長時間化を防止するために、湿潤状態の底質で行ってもよいが、養殖槽として使用するときに相当するような満水状態とせずに行うことが好ましい。熟成は、底質の天日消毒で解決できない問題点の解決を目的として、例えば残存有機物の腐植化反応による腐敗防止、腐敗菌等の雑菌類の抑制を行うものである。なお、後述する養殖方法において、飼育水を熟成する場合もこの底質の熟成に準じるものとすることができる。
【0049】
この熟成工程は、養殖槽の状態等に応じて、適宜その時間を定めて行うことができる。例えば、6時間以上行うことが好ましい。熟成時間は、10時間以上や、20時間以上、40時間以上、60時間以上行ってもよい。熟成を長時間行う弊害は特にないが、腐植物質やシリケイト化合物を混合した機能が低下する場合があるため、60日以内や、45日以内、30日以内、20日以内、10以内のような熟成時間の上限を定めてもよい。
【0050】
[本発明の養殖方法]
本発明の養殖方法は、本発明の改質方法により改質された養殖槽に飼育水を給水し養殖する養殖工程を有する。
改質された養殖槽を用いることで、養殖槽の底質の機物等を十分に浄化した状態のため、汚染が生じにくく、底質中の有機物の浄化等による溶存酸素濃度の大幅な変動を抑制することができる。また、養殖槽の底質からフルボ酸や鉄等を供給することで、藻類などの植物プランクトンも繁殖し、養殖槽において養殖される水産生物の残餌や排泄物等の浄化等にも寄与するため、水産生物の養殖効率が向上する。例えば、水産生物の生残率が向上したり、従来以上の高密度飼育を可能としたり、生育期間を短縮したり、水産生物の雑味などが抑制された嗜好性に優れた水産生物を得ることができる。
【0051】
[養殖]
養殖手法は、池中養殖や、水田養殖、干潟・河川での養殖などの内水面養殖や、陸上の養殖池や塩田の池中養殖、堤防や網で仕切る区画養殖、垂下式養殖、地撒式養殖などの海面養殖のように、各種水産生物を養殖する養殖手法とすることができる。養殖池や水田、陸上設備などは、切り替え時に飼育水をほぼ全量排出する養殖手法を対象とすることが好ましい。
【0052】
[飼育水]
飼育水は、養殖対象となる水産生物の飼育に適した海水や淡水、また適宜塩分調整された水である。飼育水は、養殖槽に、養殖の段階に応じた容量となるように供給される。一部前述したように、本発明の改質方法は、底質を改質するため、飼育水を排出した状態で実施することが好ましく、これらの飼育水が排出された状態で改質等を終えたのち、使用時には、飼育水が給水された状態で養殖を行う。
【0053】
[飼育水への混合]
本発明の第二の水産生物の養殖方法として、水産生物の養殖槽に給水された飼育水に、腐植物質およびシリケイト化合物を含む改質剤を混合する改質工程を有するものとすることができる。これは、本発明の養殖槽の改質方法により改質された養殖槽、すなわち、改質された底質を有するものと併用するような、飼育水に、腐植物質およびシリケイト化合物を含む改質剤を混合する改質工程を有するものとすることもできる。
【0054】
底質が少ない養殖や底質を用いない養殖、底質の改質が行えない満水の期間等に、養殖槽の改質を行うときに、このような第二の水産生物の養殖方法等は特に有用である。これは、養殖槽(養殖池等)に、飼育水を貯め、底質同様に腐植物質、シリケイト化合物を投入し、撹拌手段によって緩やかな撹拌を必要に応じて行い、腐植物質、シリケイト化合物を池全体に作用する状態として、飼育水に、本発明により底質を改質したときと同様の水質浄化の機能を付与して、養殖を行うものである。
【0055】
飼育水に腐植物質やシリケイト化合物を供給することで、これらを混合するとき、その混合量等は、前述の底質の改質を行うときの混合と同様の条件とすることができる。養殖槽において、その水深は養殖槽の仕様や、養殖する水産生物の種類、養殖時期等に応じて設定される。この水深を例示すると、1〜5mや、2〜4m程度から適宜設定される。この水深は水産生物を養殖することが出来る範囲で必ずしも一定とされるものではなく、天候や時間帯、養殖時期等にもよって変動する。このため、腐植物質やシリケイト化合物の混合量は、飼育水の液量に代え、養殖槽の広さ等を指標として設定し、管理することができる。
【0056】
飼育水への改質剤の混合は、養殖開始後に所定の期間をあけて複数回行うものとしてもよい。例えば、養殖開始後や改質剤混合してからの期間を、3日以上や、1週以上、2週以上、3週以上のような期間をおいて追加で混合してもよい。また、この期間の上限は、適宜、3月以内や、2月以内、6週以内のような範囲内で追加で混合するものでもよい。
【0057】
撹拌手段は、水中ポンプ、水中パドル、ブロワー等を用いることができる。撹拌を行う時間は、熟成も考慮して水産生物の投入前に72時間以内程度の範囲で行うこともできる。撹拌時間は、養殖中に水産生物の活動や、養殖槽の通常の撹拌等によるものとすることができるため、時間を定めずおこなってもよい。熟成等を考慮すると、1時間以上や、6時間以上、12時間以上、24時間以上と積極的に撹拌状態を維持する時間を定めておこなってもよい。熟成時間の上限は、48時間以内や、36時間以内のように上限を設定してもよい。
【0058】
[溶存酸素濃度制御工程]
本発明の養殖方法は、前記飼育水への酸素供給手段を有し、酸素供給手段による酸素量を制御することで、前記飼育水の溶存酸素濃度を低濃度に管理する低酸素期間と、前記飼育水の溶存酸素濃度を高濃度に管理する高酸素期間とを有する溶存酸素濃度制御工程を有することが好ましい。このような溶存酸素濃度制御工程を行うことで、養殖槽内の各種有機物等を効率よく除去することができ、水産生物の飼育を効率よく行うことができる。
【0059】
溶存酸素濃度制御工程を行うことで、硝化菌および脱窒菌を活性化することができる。これにより、養殖槽内の窒素を含む有機物を十分に低減する高度処理を行うことができる。また、好気的処理と、嫌気的処理との双方を養殖槽内で行うことができるため、有機物全般を養殖槽内でも十分に除去できる。
【0060】
(高酸素期間)
水産生物の排泄物や残餌などに含まれる窒素成分の有機態窒素(org−N)およびアンモニア態窒素(NH
4−N)は硝化菌の働きで、亜硝酸態窒素(NO
2−N)及び硝酸態窒素(NO
3−N)に硝化される。この硝化をおこなうとき、溶存酸素が必要なため、飼育水の溶存酸素濃度を高濃度に管理する高酸素期間を有する。
【0061】
高酸素期間は、所定の溶存酸素濃度以上の酸素濃度となっている期間である。この高酸素期間の指標となる溶存酸素濃度の下限は、4.5ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましく、6ppm以上が特に好ましい。溶存酸素の上限は特に定めなくてもよいが、酸素そのものや酸素濃度が高い気体を供給して高いものとしてもよく、過剰に酸素供給する効果が限られる場合等は、装置負荷や低酸素期間への切替効率等も考慮して14ppm以下や、12ppm以下、10ppm以下を上限としてもよい。
この所定の溶存酸素濃度以上の酸素濃度となっている高酸素期間は、1時間以上/日とすることが好ましい。より好ましくは、2時間以上/日以上や、3時間以上/日以上である。
【0062】
高酸素期間は、養殖槽の飼育水に、空気や酸素を供給するポンプ等を取り付けて、それらを用いて空気や酸素を供給することで溶存酸素濃度を上昇させることで達成することができる。空気供給手段を複数台取り付けて、溶存酸素濃度を測定しながら、運転する数を設定するなどの運用により、溶存酸素濃度を制御できる。
【0063】
(低酸素期間)
そして、硝化菌の働きによって変性した亜硝酸態窒素(NO
2−N)及び硝酸態窒素(NO
3−N)は脱窒菌の働きで排泄物及び残餌等の有機物と化学的に反応し窒素ガスとなり、無害化する。この脱窒をおこなうとき、溶存酸素を低減する必要がある。
【0064】
低酸素期間は、所定の溶存酸素濃度以下の酸素濃度となっている期間である。この低酸素期間の指標となる溶存酸素濃度の上限は、4.5ppm未満が好ましく、4ppm以下がより好ましく、3.5ppm以下が特に好ましい。なお、低酸素期間の溶存酸素濃度の下限は特に定めなくても良いが、低すぎる場合、水産生物の活動が低下したり、生残率が低下する場合がある。このため、低酸素期間の溶存酸素濃度の下限を設定してもよく、0.5ppm以上や、1.0ppm以上、1.5ppm以上とすることができる。この所定の溶存酸素濃度以下の酸素濃度となっている低酸素期間は、1時間以上/日とすることが好ましい。より好ましくは、2時間以上/日以上や、3時間以上/日以上である。
【0065】
養殖槽は、一般的に、自然環境よりも水産生物を高密度飼育している。このため、水産生物の生長活動に伴い溶存酸素を利用したり、養殖槽内の有機物の好気的浄化等により、溶存酸素濃度は低下しやすい環境の場合が多い。この環境を利用し、低酸素期間は、養殖槽の飼育水への酸素(空気)供給を停止することで、溶存酸素濃度を低下させて達成することができる。また、窒素ガスなどの不活性ガスを養殖槽の飼育水に供給することで積極的に溶存酸素濃度を低下させてもよい。
【0066】
これらの高酸素期間と低酸素期間とを行う周期は、0.5周期/日(すなわち、2日で1周期)〜3周期/日程度の周期で行うことができる。この周期は、養殖槽の種類や、水産生物の種類、飼育時期等に応じて適宜設定することができる。水産生物は、夜行性か、昼行性に大別され、活発に活動する時間帯は酸素を必要とし、活動が低下する時間帯は酸素を必要としにくい。この特徴から、夜行性の水産生物の飼育にあたっては、夜間を高酸素期間とし、日中を低酸素期間とすることが好ましい。昼行性の水産生物の飼育にあたっては、日中を高酸素期間とし、夜間を低酸素期間とすることが好ましい。
【0067】
前述のように、これらの溶存酸素濃度制御工程により、硝化反応・脱窒反応を繰り返して有機物および窒素成分を高度処理している。さらに、本発明では、底質が腐植物質を含む改質剤で改質されていることから、底質に腐植物質のフルボ酸が担持された状態となっている。底質には、残餌や死骸等が沈殿し堆積する。これらの有機物の浄化等にあたって底質が、養殖槽の環境を維持するために寄与する影響は大きい。そして、底質は、フルボ酸が担持された状態となっており、さらに一定の周期性をもって、好気的環境と、嫌気的環境が存在することで、底質ではフルボ酸優位な腐植化も進行すると考えられる。このようなフルボ酸優位な腐植化により、浄化機能や、水産生物の飼育効果も向上する。
【0068】
溶存酸素濃度は、溶存酸素濃度計により測定することができる。測定された溶存酸素濃度を基に、運転する酸素供給手段の数や出力を設定してもよいし、自動で制御するものとしてもよい。
【0069】
本発明の養殖においては、さらに、水温や、pH、塩分濃度、透視度などを管理項目として運用することができる。
【0070】
[実施形態]
図1は、本発明の養殖槽に係る第一の実施形態を説明するための図である。養殖槽10は、飼育水101と底質102を含む貯水槽100を有している。飼育水101に適宜腐植物質やシリケイト化合物を混合して本発明の養殖を行うことができる。底質102に腐植物質やシリケイト化合物を混合し、適宜熟成しておき、飼育水101を供給して養殖槽10として、飼育水101内に、養殖対象の水産生物を放流して養殖を開始することができる。
【0071】
また、養殖槽10には、送気ポンプ211,221,231とそれらの送気配管212,222、232による送気手段が取り付けられている。送気手段からの送気はそれぞれ切換弁213,223、233により養殖槽への送気の有無を切り替えることができる。送気ポンプ211,221,231は制御手段30にも接続され、送気の有無や送気量等を制御することができる。制御手段30による制御は、予め時間帯による運転をプログラムしたものとしたり、一部後述するように監視手段40によるモニタリングに基づいて制御したり、入力手段60による入力情報に基づくものなどとすることができる。
【0072】
養殖槽10には監視手段40が取り付けられており、飼育水101の状況をモニタリングすることができる。モニタリングの対象項目としては、水温やpH、DO、有機物や窒素等の各種指標(T−C、TOC、COD、BOD、T−N、NH
4+、NO
2、NO
3)等とすることができる。監視手段40は制御手段30に接続され、監視手段の各項目や、運転時間等に基づいて、制御手段30が送気ポンプ211,221,231の運転等を制御するものとすることができる。また、制御手段30による制御状況や、監視手段40がモニタリングした各種パラメータ等を表示手段50に表示することもできる。制御手段30の制御や、監視手段40がモニタリングする項目、それらの表示手段50への表示を、入力手段60から入力した信号に基づいて処理し、選択や変更等することもできる。また、このとき、記憶手段(図示せず)も設けて、各種パラメータを記憶させ、適宜呼び出して確認したり、記憶手段に制御手段の制御条件のデータを記憶させてこのデータにより制御手段30の制御をおこなってもよい。このような養殖槽10は、本発明の養殖方法に適した養殖装置である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[養殖槽の改質と養殖試験]
エビを養殖する養殖池で以下の実験を行った。
[1.養殖槽]
養殖池は、河川水を利用する中国広東省中山市のエビの養殖に利用している養殖池である。養殖池の広さ:5070m
2。
図2は、飼育水に用いた河川水である。
【0075】
[2.底質の改質]
[2.1 混合]
水を抜いた養殖池に、株式会社T&G社製の「リードアップ(登録商標)」(Lot.No“7k12”)(フルボ酸液)5L分を散布した。リードアップ1Lあたりのフルボ酸相当量は、1,000mg/Lである。リードアップ5Lは、水で約100倍に薄めて500L程度とし、養殖池(5070m
2)に満遍なく散布した。フルボ酸相当量としての散布量は、1mg/1m
2である。
さらに、シリケイト化合物として、株式会社サンクロック科学研究所製「グリーンタフ微粉末(医王石)」を50kg散布した。グリーンタフ微粉末は、酸化アルミニウムを13.7質量%含有し、酸化鉄(第一鉄)を1.0質量%、酸化鉄(第二鉄)を5.0質量%含有している。グリーンタフ微粉末は、そのまま、養殖池(5070m
2)に満遍なく散布した。なお、改質開始日は2月1日である。
[2.2 耕耘・熟成]
前述のリードアップとグリーンタフを散布して混合した後、耕運機で耕耘した。その後、熟成期間として5日間静置した。これにより、底質を改質した養殖池を得た。
【0076】
[3.養殖]
[3.1 管理項目]
「透明度」 透視度計 ST−50を用いて、透明度を測定した。
「溶存酸素濃度」(株)堀場製作所製「ハンディpHメーター D−55」の溶存酸素濃度測定用電極を取り付けて測定した。
「ORP」(株)堀場製作所製「ハンディpHメーター D−55」のORP測定用電極を取り付けて測定した。
「pH」(株)堀場製作所製「ハンディpHメーター D−55」のpH測定用電極を取り付けて測定した。
「T-N」JIS K0102(2013)「45.4 銅カドミウムカラム還元法」に則って測定した。
「NH
4+」(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―NH4」を用いて測定した。
「NO
2」(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―NO2」を用いて測定した。
「NO
3」(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―NO3」を用いて測定した。
「COD」(株)共立理化学研究所製 「パックテストWAK―COD」を用いて測定した。
【0077】
[3.2 養殖条件]
・養殖品種:Vannamei
・投下量(養殖開始時):450,000尾(5070m
2あたり)
【0078】
[3.3 養殖]
養殖開始後の管理指標の測定結果を、表1に示す。養殖は飼育水として河川水を用い、エビ養殖の常法に則って給餌等をおこなった。なお、養殖槽には3基の空気の送気ポンプが設置されており、飼育状態や天候、エビの大きさ、DOの実測値等に基づいて、飼育水の溶存酸素濃度を低濃度に管理する低酸素期間とする時間帯は送気ポンプを1基のみ運転し、飼育水の溶存酸素濃度を高濃度に管理する高酸素期間とする時間帯は送気ポンプを3基同時に運転することを指標として養殖を行った。より具体的には、エビが夜行性であり夜間活発に活動し酸素消費量が多いことから夜間(PM6時〜AM6時)を高酸素期間としDOを5〜6mg/Lとすることを管理指標とし、日中(AM6時〜PM6時)は活動量が低下し酸素消費量が少ないことから日中を低酸素期間としDOを3〜4mg/Lとすることを管理指標として養殖を行った。
【0079】
養殖期間中の主な状況等を以下に述べる。飼育水は河川水を導入した。養殖水中のNH
4−N、NO
2−N濃度から、硝化、脱窒反応が顕著であることが確認される。飼育開始63日目に収穫した。収穫時の日数で、従来の同時期の養殖よりもエビの生残率は高く、体長も大きかった。稚蝦の期間は、蝦による酸素消費が少ない。一方、20日経過頃から蝦の生長に伴い酸素消費量が大きくなり、40日経過頃から蝦の生長が顕著になり酸素消費量も大きくなる。このような酸素消費状況も鑑み、運転する酸素供給機(エアーポンプ)の稼働台数を変更して酸素濃度の管理を行った。
【0080】
図2〜9は養殖状態等を説明するための写真である。
図2は飼育水に用いた河川水を示す写真である。
図3は、底質の改質を行う前の底質であり、養殖池の繰り返し利用により腐敗等がみられ汚泥化している部分が見受けられる。
図4は、飼育準備のために改質剤混合後の底質の上に日間最低水温が20℃以上を確保できるようにシートを張って熟成している期間である。
図5は熟成期間完了後、養殖池に水を張る様子を示したものである。
図6は、養殖開始から30日時点でのエビの状態を観察したものである。
図7は養殖開始45日時点でのエビの状態を観察したものである。
図8は収穫日である飼育開始63日時に収穫した5尾のエビであり、体長は13cm〜15cmであることを確認した。
【0081】
【表1】
水産生物の養殖槽の改質方法であって、養殖槽の底質に腐植物質およびシリケイト化合物を含む改質剤を混合することで前記底質を改質する混合工程を有する、養殖槽の改質方法。また、改質された養殖槽を用いる水産生物の養殖方法であって、前記改質された養殖槽に飼育水を給水し養殖する養殖工程を有する水産生物の養殖方法。