特許第6512654号(P6512654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6512654電子注入層の形成方法及びそれを用いた塗布型有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512654
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】電子注入層の形成方法及びそれを用いた塗布型有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20190425BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/22 B
   H05B33/14 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-61370(P2014-61370)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-185710(P2015-185710A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年1月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】笹部 久宏
(72)【発明者】
【氏名】各務 彰
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−332387(JP,A)
【文献】 特開2002−313581(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/160714(WO,A1)
【文献】 特開2013−179293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度12mg/ml以下の一般式 R−CO2Na …(1) で表される含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体溶液を、塗布成膜された発光層の上に、塗布プロセスにより成膜する電子注入層の形成方法。
(式(1)中、Rは窒素を少なくとも1つ含む単環又は縮合環の芳香族炭化水素基であり、該芳香族炭化水素基はアルキル基又は芳香族炭化水素基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
濃度12mg/ml以下の一般式 R−CO2Na …(1) で表される含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体溶液を塗布することにより電子注入層を形成する工程を含む塗布型有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
(式(1)中、Rは窒素を少なくとも1つ含む単環又は縮合環の芳香族炭化水素基であり、該芳香族炭化水素基はアルキル基又は芳香族炭化水素基で置換されていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体からなる電子注入材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELは、一部の製品で実用化が開始されているが、大型ディスプレイや照明分野への応用には、素子のさらなる低電圧化が重要課題の1つである。有機ELは、金属/有機層、有機層/有機層の界面を多く有する多積層型デバイスであり、中でも、陰極から電子輸送層界面における大きな注入障壁が、高電圧化及び電力効率の低下を招く大きな要因となっている。
【0003】
これに対する改善策としては、金属/有機層間に極薄膜のアルカリ金属化合物の挿入や、電子輸送層にアルカリ金属をドープする化学ドーピング等が提案されている。また、従来、陰極/有機層界面にフッ化リチウムやリチウムキノラートからなる電子注入層を挿入することが一般的に行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
素子のさらなる低電圧化のために、汎用材料であるフッ化リチウムやリチウムキノラートの特性を上回る電子注入材料が求められているが、蒸着型素子及び塗布型素子のいずれにおいても、このような電子注入材料は極めて少ない。
【0005】
例えば、安息香酸ナトリウム(C65COONa)やステアリン酸ナトリウム(C1735COONa)等のカルボン酸ナトリウムは、電子注入材料として一般的に使用されているフッ化リチウムに比べて電子注入特性が高いことが知られている(非特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Endo, T.Matsumoto, J.Kido, Jpn. J. Appl. Phys., 41, 2002, p.L800-L803
【非特許文献2】Y.Q.Zhan, etal., Appl. Phys. Lett., 83, 2003, p.1656
【非特許文献3】H.Siemund, F.Brocker, H.Gobel, Org. Electro., 14, 2013, p.335-343
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カルボン酸ナトリウムの誘導体については、その電子注入特性についての検討はなされていない。
【0008】
一方で、近年、製造効率やコスト等の観点から、塗布型有機EL素子が注目されており、このような素子に適用可能であり、かつ、高い電子注入特性を有する電子注入材料が求められている。
【0009】
そこで、本発明者らは、カルボン酸ナトリウム誘導体に着目して検討したところ、高い電子注入特性を有する電子注入材料を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、高い電子注入特性を有しており、有機EL素子の低電圧化を図るために有用な電子注入材料及びそれを用いた有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電子注入材料は、一般式 R−CO2Na …(1) で表される含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体からなることを特徴とする。
前記式(1)において、Rは窒素を少なくとも1つ含む単環又は縮合環の芳香族炭化水素基であり、該芳香族炭化水素基はアルキル基又は芳香族炭化水素基で置換されていてもよい。
このような含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体は、高い電子注入特性を有しており、かつ、溶解性に優れ、塗布型有機EL素子にも好適に適用することができる。
【0012】
また、本発明によれば、前記電子注入材料が用いられていることを特徴とする有機EL素子が提供される。
このような有機EL素子は、蒸着プロセス及び塗布プロセスのいずれでも高い電子注入特性が得られ、低電圧化が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電子注入材料は、高い電子注入特性を有しており、かつ、溶解性に優れ、蒸着型及び塗布型のいずれの有機EL素子にも好適に適用することができる。
したがって、前記電子注入材料を用いることにより、有機EL素子を効果的に低電圧化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る有機EL素子の層構造の一例を模式的に示した概略断面図である。
図2】実施例において電子注入層を溶液濃度1mg/mlで成膜した有機EL素子の電流密度−電圧特性を示したグラフである。
図3】実施例において電子注入層を溶液濃度3mg/mlで成膜した有機EL素子の電流密度−電圧特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る電子注入材料は、一般式 R−CO2Na …(1) で表される含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体からなるものである。
前記式(1)において、Rは窒素を少なくとも1つ含む単環又は縮合環の芳香族炭化水素基であり、該芳香族炭化水素基はアルキル基又は芳香族炭化水素基で置換されていてもよい。
【0016】
前記式(1)で表される化合物は、より詳細には、下記一般式(2)により表すことができる。
【0017】
【化1】
【0018】
前記式(2)において、破線部分は、前記式(1)におけるRが縮合環である場合を示すものである。前記芳香族炭化水素基の単環又は縮合環に含まれる窒素は、環のいずれの位置でもよい。また、R1〜R6は、水素、アルキル基又は芳香族炭化水素基のうちのいずれかである。
【0019】
上記のような含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体は、高い電子注入特性を有しており、かつ、溶解性に優れている。また、繰り返し構造を有し、高分子量であるポリマーと異なり、真空蒸着可能な低分子であるため、蒸着型及び塗布型のいずれの有機EL素子にも好適に適用することができる電子注入材料である。
【0020】
前記一般式(1)で表される含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体のうち、代表例としては、下記に示すような2−キノリンカルボン酸ナトリウム(1)、ピリジン−2−カルボン酸ナトリウム(2)、ピリジン−3−カルボン酸ナトリウム(3)、ピリジン−4−カルボン酸ナトリウム(4)が挙げられる。
【0021】
【化2】
【0022】
上記のような含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体が用いられている本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層された構造からなる。具体的な層構造としては、例えば、陽極/発光層/陰極、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、あるいはまた、図1に示すような、基板1/陽極2/ホール輸送層3//インターレイヤー4/発光層5/電子注入層6/陰極7等の構造が挙げられる。
さらに、ホール注入層、ホール輸送発光層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造であってもよい。
また、本発明に係る有機EL素子は、1つの発光層を含む発光ユニットが電荷発生層を介して直列式に複数段積層されてなるマルチフォトンエミッション構造の素子であってもよい。
【0023】
前記有機EL素子において、前記含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体は、電子注入材料として用いられ、これにより、蒸着プロセス及び塗布プロセスのいずれでも高い電子注入特性が得られ、低電圧化が図られる。
【0024】
なお、前記有機EL素子においては、本発明に係る電子注入材料以外の各層の構成材料は、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができ、低分子系又は高分子系のいずれであってもよい。
前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
上記各層の形成方法は、蒸着法、スパッタリング法等などのドライプロセスでもよいが、本発明は、特に、塗布プロセスにより形成可能である点に利点を有しており、スピンコート法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、ナノパーティクル分散液を用いる方法等のウェットプロセスを好適に適用することができる。
【0026】
また、電極も、公知の材料及び構成でよく、特に限定されるものではない。例えば、ガラスやポリマーからなる透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものが用いられ、ガラス基板に陽極として酸化インジウム錫(ITO)電極が形成された、いわゆるITO基板が一般的である。一方、陰極は、Al等の仕事関数の小さい(4eV以下)金属や合金、導電性化合物により構成される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
【0028】
電子注入層に、上記(化2)に示した各含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体を用いて、図1に示すような層構造を有する有機EL素子を以下のような工程により作製した。
まず、ガラス基板1上にITOが成膜された陽極2上に、PEDOT:PSSをスピンコート(6500rpm、30秒間)により成膜し、200℃で10分間熱処理し、ホール輸送層3を形成した。
その上に、インターレイヤー4としてIL(住友化学株式会社製ポリマー)のp−キシレン溶液(7mg/ml)をスピンコート(5000rpm、10秒間)により成膜し、180℃で1時間熱処理し、その上に、緑色蛍光発光材料であるF8BTの2−エトキシエタノール溶液(1mg/ml又は3mg/ml)をスピンコート(2500rpm、30秒間)により成膜し、130℃で10分間熱処理し、極薄膜又は厚膜の発光層5を形成した。
その上に、各含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体のp−キシレン溶液(12mg/ml)をスピンコート(2000rpm、30秒間)により成膜し、電子注入層(EIL)6を形成した。
その上に、Alを膜厚100nmで真空蒸着により成膜し、陰極7を形成した。
【0029】
具体的な素子の層構成は、ITO/PEDOT:PSS(30nm)/IL(20nm)/F8BT(80nm)/EIL/Al(100nm)である。
なお、前記素子に用いたF8BTの化学式を下記に示す。
【0030】
【化3】
【0031】
比較のため、電子注入層として、汎用材料であるリチウムキノラート、又は、安息香酸ナトリウムを用い、それ以外については、上記と同様の層構成とした素子も作製した。
【0032】
上記において作製した各素子は、いずれも、良好な緑色蛍光発光が認められた。
また、各素子について、発光輝度100cd/m2、1000cd/m2のときの駆動電圧、電力効率及び外部量子効率の測定を行った。
これらの測定結果を表1,2にまとめて示す。表1には、EILを溶液濃度1mg/mlで塗布(スピンコート)成膜し、薄膜として形成した場合、表2には、溶液濃度3mg/mlで塗布(スピンコート)成膜し、厚膜として形成した場合について示す。
なお、表1,2においては、2−キノリンカルボン酸ナトリウムを「キノリン」、ピリジン−2−カルボン酸ナトリウムを「ピリジン−2」、ピリジン−3−カルボン酸ナトリウムを「ピリジン−3」、ピリジン−4−カルボン酸ナトリウムを「ピリジン−4」、リチウムキノラートを「Liq」、安息香酸ナトリウムを「安息香酸」と略称する。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
また、図2に、濃度1mg/mlの各含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体溶液を用いて電子注入層を成膜した場合の電流密度−電圧特性のグラフを示す。なお、比較のため、電子注入層を設けない素子についても併せて示す。
また、図3に、濃度3mg/mlの各芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体溶液を用いて電子注入層を成膜した場合の電流密度−電圧特性のグラフを示す。なお、比較のため、電子注入層にLiq(溶液濃度1mg/ml)を用いた素子についても併せて示す。
【0036】
図2に示した結果から分かるように、濃度1mg/mlの含窒素芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体溶液を用いて電子注入層を成膜した場合、電子注入特性が向上することが認められた。また、芳香族環がより電子輸送性の高い2−キノリンカルボン酸ナトリウムの場合、より低電圧化を示した。
また、図3に示した結果から分かるように、2−キノリンカルボン酸ナトリウムは汎用材料であるLiqと同等の電子注入特性を示すことが認められた。
また、表1,2に示した結果から分かるように、電子注入層に芳香族カルボン酸ナトリウム誘導体を用いた場合、Liqと同等以上の外部量子効率を示すことが認められた。
【符号の説明】
【0037】
1 基板
2 陽極
3 ホール輸送層
4 インターレイヤー
5 発光層
6 電子注入層
7 陰極
図1
図2
図3