(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚板狭開先レーザ溶接に用いられるガスシールドノズルであって、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置され、レーザ光が通過するレーザ通路と、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給する層流発生部と、を有し、前記レーザ通路のレーザ光源側に、圧縮空気の噴射により開先部への外気の流入および/または開先部からのシールドガスの漏出を防ぐエアノズルを有することを特徴とするシールドノズル。
厚板狭開先レーザ溶接に用いられるガスシールドノズルであって、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置され、レーザ光が通過するレーザ通路と、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給する層流発生部とを有し、前記層流発生部が、溶接部に対向する層流放出面を有し、前記層流放出面から開先底部までの距離をH、溶接送り速度をVw、ガス流速をVg、溶接完了部の酸化が抑制される温度まで冷却される時間をtとしたとき、前記層流放出面のレーザ通路の中心より溶接進行方向前方の長さL1および溶接進行方向後方の長さL2が次式を満たすことを特徴とするシールドノズル。
L1≧H×Vw/Vg −式(1)
L2≧Vw×t −式(2)
厚板狭開先レーザ溶接に用いられるガスシールド方法であって、レーザ光が通過するレーザ通路を有するとともにシールドガスを放出することができるシールドノズルを、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置し、前記シールドノズルを用いて、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給し、前記シールドノズルとして、溶接部に対向する層流放出面を有するシールドノズルを用い、前記層流放出面のレーザ通路の中心より溶接進行方向前方の長さをL1、溶接進行方向後方の長さをL2、前記層流放出面から開先底部までの距離をH、溶接完了部の酸化が抑制される温度まで冷却される時間をtとしたとき、溶接送り速度Vwおよびガス流速Vgについて次式の条件設定を行うことを特徴とするシールド方法。
Vg≧H×Vw/L1 −式(3)
Vw≦L2/t −式(4)
【背景技術】
【0002】
従来、溶接作業を容易にし、溶接継手の品質を向上させるために、突合せ溶接等において母材の溶接面に開先を設ける開先溶接が行われている。鉄鋼材料やニッケル基合金等の厚板に対して開先溶接を行う場合、母材の板厚が増加するのに伴い開先断面積が増加し、溶接効率が低下したり、変形や溶接ひずみの増加によって溶接品質が低下したりする傾向がある。このため、開先を狭くして開先断面積を小さくする狭開先溶接への要求が高まっており、近年の溶接技術の進歩により熱源の出力、熱源をレーザ光としたときの集束性または指向性が著しく向上していることとも相まって、盛んに開発が進められている。
【0003】
種々の溶接方法において、溶接部に気孔や割れ等の溶接欠陥が生じないよう、溶接部における酸素を含んだ空気をシールドガスで置換するのが重要であることは公知の事実であり、溶接部のガスシールドの重要性は、厚板狭開先溶接においても同様である。
【0004】
溶接部をガスシールドする方法としては、シールドノズルの円形開口部からシールドガスを噴射して母材表面に吹き付ける方法(たとえば特許文献1)等があるが、厚板狭開先溶接においては、母材表面ではなく開先内の溶接部をガスシールドすることが必要である。開先外部から開先内の溶接部に向けてシールドガスを噴射すると、シールドガスは乱流状態となって外気を巻き込み、開先内の空気を効率的に置換しない。また、開先外部から供給されたシールドガスが開先底部に届かないうちにレーザ光が照射されてしまうことがあり、十分な溶接品質が保証されないことがある。このため、開先内の溶接部をガスシールドすべく、開先内にシールドノズルを挿入する方法(たとえば特許文献2)も開発されている。しかし、厚板狭開先溶接において開先内にシールドノズルを挿入した場合、溶接中に発生したスパッタが開先壁面に付着したり、開先が入熱によって縮んだりなどすることによって、シールドノズルが開先と干渉して損傷してしまうことがあるため、シールドノズルを開先内に挿入することは実用的でない。加えて、母材の板厚が大きくなるほど、または開先角度が小さくなるほど、開先内へのシールドノズルの挿入が困難になることからも、厚板狭開先溶接における実用性は低い。
【0005】
また、熱源を移動させ連続的に行われる溶接においては、例えばレーザ光を熱源とした場合、シールドノズルはレーザ光の照射部の移動に伴って移動するが、照射部のみではなく、溶接予定部(すなわち照射部に対して溶接方向前方に位置する部分)や高温状態にある溶接完了部(すなわち照射部に対して溶接方向後方に位置する部分)においてもシールド雰囲気を形成することが好ましい。通常採用される細径パイプのシールドノズルによっては溶接完了部を含む広範囲がガスシールドされないため、複数のシールドガス噴出口を備えるシールドノズル(たとえば特許文献3)も開発されているが、厚板狭開先溶接において開先内の溶接部近傍に十分なシールド雰囲気を形成するには、シールドノズルやシールドガス噴出口の形状等の工夫が依然必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来法の問題点を鑑みてなされたもので、厚板狭開先溶接において、開先内の溶接部に十分なシールド雰囲気を形成することが可能なシールドノズルおよびシールド方法を提供することを目的とする。また、溶接予定部や高温状態にある溶接完了部を含む、溶接部近傍にシールドガスを供給することが可能なシールドノズルおよびシールド方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、開先外部から開先内に、シールドガスを一様な流れ、つまり層流の状態で供給することにより、開先内の溶接部において高いガスシールド効果が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、第1発明に係るシールドノズルは、厚板狭開先レーザ溶接に用いられるガスシールドノズルであって、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置され、レーザ光が通過するレーザ通路と、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給する層流発生部と
、を有
し、前記レーザ通路のレーザ光源側に、圧縮空気の噴射により開先部への外気の流入および/または開先部からのシールドガスの漏出を防ぐエアノズルを有することを特徴とする。
また、第2発明に係るシールドノズルは、厚板狭開先レーザ溶接に用いられるガスシールドノズルであって、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置され、レーザ光が通過するレーザ通路と、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給する層流発生部とを有し、前記層流発生部が、溶接部に対向する層流放出面を有し、前記層流放出面から開先底部までの距離をH、溶接送り速度をVw、ガス流速をVg、溶接完了部の酸化が抑制される温度まで冷却される時間をtとしたとき、前記層流放出面のレーザ通路の中心より溶接進行方向前方の長さL1および溶接進行方向後方の長さL2が次式を満たすことを特徴とする。
L1≧H×Vw/Vg −式(1)
L2≧Vw×t −式(2)
【0010】
第
3発明に係るシールドノズルは、第1
または2発明の構成において、溶接部に溶接ワイヤを供給する際に溶接ワイヤを挿通させることができるワイヤ通路をさらに有する。
第4発明に係るシールドノズルは、第1〜3発明いずれかの構成において、前記層流発生部が、シールドガスの通過可能な多孔焼結体からなることを特徴とする。
【0013】
第
5発明に係るシールド方法は、厚板狭開先レーザ溶接に用いられるガスシールド方法であって、レーザ光が通過するレーザ通路を有するとともにシールドガスを放出することができるシールドノズルを、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置し、前記シールドノズルを用いて、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給
し、前記シールドノズルとして、溶接部に対向する層流放出面を有するシールドノズルを用い、前記層流放出面のレーザ通路の中心より溶接進行方向前方の長さをL1、溶接進行方向後方の長さをL2、前記層流放出面から開先底部までの距離をH、溶接完了部の酸化が抑制される温度まで冷却される時間をtとしたとき、溶接送り速度Vwおよびガス流速Vgについて次式の条件設定を行うことを特徴とする。
Vg≧H×Vw/L1 −式(3)
Vw≦L2/t −式(4)
【発明の効果】
【0016】
第1発明および第
5発明の構成によれば、シールドノズルは、シールドガスを開先外部から溶接部に層流の状態で供給する。層流状態のシールドガスは、外気を巻き込むことなく開先内に流入し、開先内に存在する、酸素を含んだ空気を押し出す。開先内の空気はシールドガスによって次第に置換され、開先内に高いシールド雰囲気が形成される。シールドノズルはレーザ通路を有するため、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置されていても、レーザ光を遮ることはない。
【0017】
第
3発明に係るシールドノズルはワイヤ通路を有するため、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置されていても、溶接ワイヤの送給を妨げることはない。
【0018】
第
1発明に係るシールドノズルは圧縮空気を噴射するエアノズルを備えており、噴射された圧縮空気はエアカーテン(エアナイフ)としての役割を果たす。すなわち、外気がレーザ通
路から開先部に流入したり、シールドガスがレーザ通
路から漏出したりすることを防ぐ。さらに、エアノズルから噴射された圧縮空気のエアカーテン(エアナイフ)は、溶接部で発生したプルームやスパッタが噴き出してレーザ光源等の溶接装置を損傷することを防止する役割も果たす。
【0019】
第
2発明および第
5発明の構成によれば、層流放出面のレーザ通路の中心より溶接進行方向前方の長さL
1、溶接進行方向後方の長さL
2、層流放出面から開先底部までの距離H、溶接送り速度V
w、ガス流速V
g、溶接完了部の酸化が抑制される温度まで冷却される時間tが次式の関係を満たすため、後述するように、溶接予定部(すなわち、溶接進行方向前方)や高温状態にある溶接完了部(すなわち、溶接進行方向後方)を含む、溶接部近傍にシールドガスを供給することができる。
【0020】
L
1/V
w≧H/V
g −式(5)
L
2/V
w≧t −式(6)
請求項
2および請求項
5に記載された式(1)および式(3)は、式(5)を変形してL
1またはV
gを左辺に置いたものであり、式(2)および式(4)は、式(6)を変形してL
2またはV
wを左辺に置いたものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
図2は、本発明の対象とする、厚板狭開先溶接の模式図である。
図3において、1は母材の厚板であり、その溶接面には開先2が形成されている。本発明においては、厚板1表面側の開先2周辺の空間を開先部と呼ぶ。3はレーザ光であり、レーザ光源(図示せず)から射出され、開先2内部に集光される。4はシールドノズルであり、レーザ光源と溶接部との間に、開先部における溶接部を覆うように配置され、開先2内の溶接部にシールドガス5を供給する。ここで、本発明において、厚板とは板厚が50mmt以上である鋼板や鋼材をいい、板厚200mmt程度までの厚板であれば本発明の対象となり得る。また、本発明において、狭開先とはルート幅が5mm以下であり、かつ開先角度が片側4°以下である開先をいうものとする。
【0023】
図3および
図4を参照し、本発明に係るシールドノズル4の構成を説明する。
シールドノズル4は、シールドガス供給口6、ケース7、レーザ通路8、および層流発生部9を有し、層流発生部9は、溶接部に対向し、溶接部に向けてシールドガス5を放出する層流放出面10を有する。ガスボンベ等から供給されたシールドガス5は、シールドガス供給口6を通って密閉構造のケース7内に流入し、層流発生部9によって層流化され、層流放出面10から放出される。シールドガス供給口6の材質、形状、大きさ、位置等は特に限定されず、公知のノズルや導管を用いることができる。ケース7の材質、形状、位置等も特に限定されず、矩形や円形等の金属製フレームを用いることができる。
【0024】
層流発生部9は、ケース7内のシールドガス5を層流化して溶接部に供給する手段であり、シールドガス5が通過できる数十μm〜100μm程度の微小な径の空孔を持つ焼結体のほか、金属メッシュ、セラミック、焼結金属等により形成することができる。また、ケース7内にスチールウールを配し、金属メッシュによって支持することによっても形成することができる。
【0025】
レーザ通路8は、レーザ光3が通過し得るよう、光軸に沿って、ケース7および層流発生部9を貫通するように形成される。レーザ通路8は、具体的には、貫通孔や、円筒状または円錐台状のガラス等であってもよい。
【0026】
また、シールドノズル4は、溶接部に溶接ワイヤを供給する際に溶接ワイヤを挿通させることができるワイヤ通路11を有していてもよい。ワイヤ通路11は、溶接ワイヤを挿通することができるものであればよく、幅数mm程度のスリット等が採用され得る。
【0027】
ケース7内のシールドガス5が漏出しないよう、レーザ通路8およびワイヤ通路11の側面は塞いでおく必要がある。
さらに、シールドノズル4は、レーザ通路8および/またはワイヤ通路11からレーザ光源側に離れた位置に、圧縮空気の噴射により開先部への外気の流入および/または開先部からのシールドガス5の漏出を防ぐ、エアノズル12を有していてもよい。エアノズル12は、レーザ通路8やワイヤ通路11の、レーザ光源に対向して開口している面上にエアカーテン(エアナイフ)を形成すべく、取り付け位置や噴出方向、形状や大きさ、取り付け個数を適宜調整することができる。例えば、レーザ通路8が貫通孔である場合にはレーザ通路8からレーザ光源側に離れた位置に、ワイヤ通路11が設けられている場合にはワイヤ通路11からレーザ光源側に離れた位置にエアノズル12を配置するとよく、レーザ通路8およびワイヤ通路11の両方がレーザ光源に対向して開口している場合には、複数のエアノズル12や広範囲に圧縮空気を噴射できるエアノズル12を設けると良い。なお、エアノズル12は、圧縮空気が層流発生部7から放出されたシールドガス5の流れに影響を及ぼさない程度に、レーザ通路8および/またはワイヤ通路11からレーザ光源側に離れた位置に設けられるべきである。
【0028】
続いて、
図1を参照する。本発明に係るシールドノズルおよびシールド方法は、積層溶接や突合せ溶接、肉盛り溶接等の種々の溶接方法に利用することが可能であり、開先や継手の種類も制限されないが、図面を参照した以下の説明はV字開先突合せ継手の積層溶接における実施態様に関するものである。
図1および
図7〜13において、溶接進行方向前方(図中左方向)を前、溶接進行方向後方を後として、紙面手前を左、紙面奥を右、図中上方向を上、図中下方向を下とするが、これらの方向は便宜上のものであり、本発明の実施はこれらの方向に限定されるものではない。
【0029】
シールドノズル4は、層流発生部9の層流放出面10が開先部における溶接部を覆い、厚板1表面に平行になるように配置される。レーザ光3は、上方のレーザ光源(図示せず)から射出され、レーザ通路8を通って、スポット径0.5〜2.0mm程度で開先2内部に集光される。レーザ光3は、所定の溶接送り速度で前方に移動するとともに所定の周波数で左右方向にウィービングし、積層の進行に伴って上下方向に移動してもよい。シールドノズル4はレーザ光3に同期して移動し、開先部における溶接部を覆う。具体的には、シールドノズル4はレーザ光3の移動に同期した装置によって支持され、かつ移動される。
【0030】
図1において、13は溶接ワイヤであり、溶接ワイヤ13は、シールドノズル4の前方または後方から、開先2内の溶接部に供給される。溶接ワイヤ13としては、市販の細径ワイヤ等を用いればよく、細径ワイヤ以外に、溶接効率を向上させるために、太径ワイヤや帯状ワイヤ等を用いることも可能である。14は溶融ビードであり、溶接ワイヤ13が供給されている溶接部の後方にある、溶接完了部に形成される。
【0031】
シールドノズル4内のシールドガス供給口6からケース7内に流入したシールドガス5は、層流発生部9により層流化され、溶接部に対向する層流放出面10から開先2内の溶接部に向けて放出される。層流状態のシールドガス5は開先2内に流入し、開先2内の空気を置換してシールド雰囲気を形成する。シールドガス5には市販のものを用いることができ、CO
2等の活性ガス、Ar,N
2,He等の不活性ガス、Ar−CO
2混合ガス等、その種類や流量は、溶接条件によって適宜決定すればよい。
【0032】
同図において、L
1[mm]は、レーザ通路8の中心より前方の層流放出面10の長さ、L
2[mm]はレーザ通路8の中心より後方の層流放出面10の長さであり、H[mm]は層流放出面10から開先2底部までの距離である。V
w[mm/sec]は溶接送り速度であり、V
g[mm/sec]はガス流速、すなわち、シールドガス供給口6から供給されるガス流量[mm
3/sec]を、層流放出面10の面積[mm
2]で割ったものである。
【0033】
シールドノズル4により供給された層流状態のシールドガス5が開先2内の溶接部に届くまでには、最大でH/V
g[sec]程度の時間を要する。そのため、溶接進行方向前方の溶接予定部にもシールドガス5のプリフローを行っておくことが好ましく、溶接予定部にプリフローが開始されてから実際にレーザ光3が照射されるまでの時間L
1/V
w[sec]内に、シールドガス5が開先2底部に届いていることが必要である。すなわち、
L
1/V
w≧H/V
g −式(5)
層流発生部9の層流放出面10の寸法(形状)と溶接条件との関係が上記式(5)を満たさない場合、開先2内の溶接部にシールドガス5が供給される前、つまり十分なシールド雰囲気が形成される前にレーザ光3が照射されて溶接が開始されてしまうおそれがある。
【0034】
下記の式(1)および式(3)は、式(5)を変形したものであり、それぞれ、十分なプリフローを行うための、レーザ通路8の中心より前方の層流放出面10の長さL
1の最小値と、ガス流速V
gの最小値を定めたものである。
【0035】
L
1≧H×V
w/V
g −式(1)
V
g≧H×V
w/L
1 −式(3)
溶接部後方の溶接完了部は、一般的に、高温状態にある方が酸化されやすく、ある温度以下になると酸化が抑制される。酸化が抑制される温度は母材の組成等により異なるが、300〜550℃程度であり、鉄では約500℃以下、チタンでは約350℃以下である。溶接完了部が、酸化が抑制される温度まで冷却されるのに要する時間tは、レーザ出力や溶接送り速度等によって決まり、例えば本発明の実験例においては、レーザ出力6kW、溶接送り速度5mm/secの場合、溶接完了部が500℃以下まで冷却されるには15secほどかかる。高温状態にある溶接完了部は、酸化が抑制される温度まで冷却されるまでシールドガス5のアフターフローを行っておくことが好ましく、すなわち、
L
2/V
w≧t −式(6)
層流発生部9の層流放出面10の寸法(形状)と溶接条件との関係が上記式(6)を満たさない場合、高温状態の溶接完了部におけるシールド性が不十分になり、溶接完了部が酸化されてしまうおそれがある。
【0036】
下記の式(2)および式(4)は、式(6)を変形したものであり、それぞれ、十分なアフターフローを行うための、レーザ通路8の中心より後方の層流放出面10の長さL
2の最小値と、溶接送り速度V
wの最大値を定めたものである。
【0037】
L
2≧V
w×t −式(2)
V
w≦L
2/t −式(4)
図7および
図8を参照して、第2発明に係るワイヤ通路11の有無による差異を示し、シールドノズル4がワイヤ通路11を有することの効果について説明する。
図7および
図8は、開先突合せ継手の積層溶接において、開先底部から上方へと積層が進み、厚板1表面付近の溶接を行う様子を示しており、溶接ワイヤ13をシールドノズル4の前方から45°の送給角度(溶接ワイヤ13と厚板1表面とのなす角)で送給する場合を示す。
図7および
図8は、それぞれ、シールドノズル4がワイヤ通路11を有さない場合、シールドノズル4がワイヤ通路11を有する場合のものである。
【0038】
開先2底部や底部付近の溶接を行う場合、開先2内に挿入される溶接ワイヤ13と、開先2外部に配置されるシールドノズル4の干渉が問題になることはないが、積層が進み、溶接ワイヤ13の供給位置が厚板1表面に近づくと、溶接ワイヤ13の上部がシールドノズル4の層流放出面10に干渉する。溶接ワイヤ13の送給角度を調節することによってシールドノズル4との干渉を避けるのは難しく、また溶接ワイヤ13の送給角度を下げるにも限界があるため、厚板1表面付近の溶接を行うにはシールドノズル4を上昇させる必要が生じる。
【0039】
図7に示すごとく、シールドノズル4にワイヤ通路11が形成されていないと、シールドノズル4のレーザ通路8より前方の部分と溶接ワイヤ13の上部とが互いに干渉することのないよう、シールドノズル4を上方に持ち上げる必要がある。溶接ワイヤ13の送給角度が45°の場合、厚板1表面と層流発生部9の層流放出面10との間の距離が、レーザ通路8の中心より前方の層流放出面10の長さL
1と同程度以上となるようにする必要が生じる。後述する実験例と同じ寸法のシールドノズル4を用いた場合、層流発生部9の層流放出面10は厚板1表面の50mm程度上方に配置される必要がある。層流放出面10が溶接部から遠ざかることにより、放出されたシールドガス5が効率的に開先2内に供給されなくなり、溶接品質の低下が生じる可能性がある。これに対し、
図8に示すごとく、シールドノズル4にワイヤ通路11が形成されている場合、積層が進み、厚板1表面付近への溶接ワイヤ13の供給が必要になっても、シールドノズル4を上方に持ち上げる必要はなく、溶接部の高いシールド性を維持したまま開先2内の溶接部に溶接ワイヤ13を送給することができ、高品質な積層溶接が可能となる。
【0040】
以下、実験例および対比例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
[実験例1]
本例は、
図9に示すごとく、本発明に係るシールドノズルおよびシールド方法を用いた例である。
【0041】
板厚100mmの厚板1を準備し、その溶接面にルート幅3mm、片側2°のV字型の開先2を形成して裏当てを取り付けた。シールドノズル4を、層流発生部9の層流放出面10が厚板1表面と平行に、その8mm上方に位置するように配置した。このとき、層流放出面10から開先2底部までの距離は108mmであった。
【0042】
シールドノズル4のケース7として150×100×20mmtの矩形状の金属製フレームを用い、溶接進行方向に対する前方長さが45mm、後方長さが105mmになるよう、ケース7にレーザ通路8としての貫通孔(φ30mm)を形成した。溶接ワイヤ13はφ1.2mmの市販のものを用い、溶接ワイヤ13を溶接進行方向前方から供給するために、幅5mmのスリット状のワイヤ通路11をケース7に形成した。シールドノズル4の下面は、レーザ通路8およびワイヤ通路11を除く部分が層流放出面10となっており、層流発生部9には、粒径3μmのステンレス粒子からなり数十μmの空孔を持つ多孔焼結体を用いた。シールドガス5にはCO
2を用い、一定流量50L/min(=8.33×10
5mm
3/sec)で供給した。エアノズル12としては、ノズル幅40mmのフラットノズルを、レーザ通路8の上方30mmの位置に、レーザ光3の光軸を横断するエアカーテン(エアナイフ)を形成するように配置した。エアノズル12から噴射される圧縮空気の流速は、20m/secとした。
【0043】
図中のレーザ光3は溶接部を示すための便宜上のものであって実際の溶接は行わないが、レーザ出力を6kw、溶接送り速度を5mm/secとした場合、層流放出面10の寸法(形状)と溶接条件との関係は、先述の式(5)および(6)を満足するものであった。
【0044】
図9内のグラフは、レーザ光3を照射しないときの開先2底部における酸素濃度を、溶接進行方向に沿って10〜20mm間隔で測定した結果を示している。
グラフに示すように、溶接部前方から後方まで広範囲にかけて酸素濃度0%が維持され、広範囲での高いシールド性が示された。
[対比例1]
従来例として、太径パイプを3本連結してなる太径パイプ製シールドノズル15を開先2外部に配置した場合について、
図10に示す。シールドノズル以外の溶接条件や測定内容は実験例1と同様とした。また、グラフには、シールドガス5の流量を30L/min(=5.0×10
5mm
3/sec)に変更した場合の酸素濃度を併せて示す。
【0045】
本例に用いた太径パイプは、一辺15mmの正方形断面を有する角パイプであり、その一端を、角パイプを水平方向から45°傾けた際に端面が母材表面と平行になるように切断してガス噴出口とした。前記太径パイプを3本連結して太径パイプ製シールドノズル15とし、ガス噴出口の溶接部に近接する側の端部が溶接部の108mm後方、厚板1表面の8mm上方に位置するように配置した。
【0046】
グラフに示すように、噴射されたシールドガス5は主に溶接部およびその前後30mmの範囲にしか到達せず、溶接部前後30mm以内においても、開先2底部の酸素濃度は4%以上となった。
[対比例2]
従来例として、細径パイプを10本連結してなる細径パイプ製シールドノズル16を開先2内に挿入した場合について、
図11に示す。シールドノズル以外の溶接条件や測定内容は実験例1と同様とした。また、グラフには、シールドガス5の流量を30L/min(=5.0×10
5mm
3/sec)に変更した場合の酸素濃度を併せて示す。
【0047】
本例に用いた細径パイプは径3mmの丸パイプであり、それを10本連結したものを細径パイプ製シールドノズル16とした。細径パイプ製シールドノズル16を、水平方向から45°傾けて開先2内の、開先2底部から30mm上方の位置に挿入し、ガス噴出口の溶接部に近接する側の端部が溶接部の30mm後方に位置するように配置した。
【0048】
グラフに示すように、噴射されたシールドガス5は主に溶接部後方20〜60mmの範囲、すなわち細径パイプ製シールドノズル16の噴出口付近にしか到達しなかった。溶接部での酸素濃度は2〜4%であり、また、開先2底部の酸素濃度が0%になるのは噴出口付近のみであって、開先2底部の広範囲において十分なシールド雰囲気は形成されなかった。
[実験例2〜4]
実験例2〜4は、
図12にある通り、本発明においてシールドノズル4にワイヤ通路11が形成されていない場合を示すためのものである。また、ワイヤ通路11が形成されていない場合においての、エアノズル12の有無による、開先2底部の酸素濃度の違いを示す。実験例1の溶接条件において、溶接ワイヤ13の送給角度が45°である場合を想定し、層流発生部9の層流放出面10が厚板1表面と平行に、その50mm上方に位置するように配置した。
【0049】
実験例2は、ワイヤ通路11が形成されておらず、レーザ通路8が貫通孔であり、エアノズル12が設けられていない例である。実験例3は、ワイヤ通路11が形成されておらず、レーザ通路8が貫通孔であり、レーザ通路8上方にエアノズル12が設けられている例である。実験例4は、ワイヤ通路11が形成されておらず、レーザ通路8がレーザ光3を透過する材質によって塞がれており、エアノズル12が設けられていない例である。
【0050】
シールドノズル4にワイヤ通路11が形成されていない場合、シールドノズル4と溶接部との距離が遠くなるため、
図13内のグラフに示すように、開先2底部の溶接部近傍における酸素濃度は、エアノズル12を用いない実験例2では4%以上であり、エアノズル12を用いた実験例3においても2%以上となった。
[実験例5〜7]
実験例5〜7は、
図13にある通り、本発明におけるエアノズル12の効果を示すためのものである。実験例1の溶接条件において、エアノズル12を用いることによる効果を見やすくするため、シールドノズル4を母材表面の20mm上方に配置して、シールドガス5の供給および酸素濃度の測定を行った。
【0051】
実験例5は、ワイヤ通路11が形成されており、レーザ通路8が貫通孔であり、エアノズル12が設けられてない例である。実験例6は、ワイヤ通路11が形成されており、レーザ通路8が貫通孔であり、レーザ通路8上方にエアノズル12が設けられている例である。実験例7は、ワイヤ通路11が形成されており、レーザ通路8がレーザ光3を透過する材質によって塞がれており、エアノズル12が設けられていない例である。
【0052】
図14内のグラフに示すように、エアノズル12を用いることにより、開先2底部の酸素濃度を低くし、高いシールド性が実現された。