特許第6512930号(P6512930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝機械株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6512930-工作機械 図000002
  • 特許6512930-工作機械 図000003
  • 特許6512930-工作機械 図000004
  • 特許6512930-工作機械 図000005
  • 特許6512930-工作機械 図000006
  • 特許6512930-工作機械 図000007
  • 特許6512930-工作機械 図000008
  • 特許6512930-工作機械 図000009
  • 特許6512930-工作機械 図000010
  • 特許6512930-工作機械 図000011
  • 特許6512930-工作機械 図000012
  • 特許6512930-工作機械 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512930
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/38 20060101AFI20190425BHJP
   B23Q 1/58 20060101ALI20190425BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20190425BHJP
   F16C 32/06 20060101ALI20190425BHJP
   F16C 29/02 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   B23Q1/38 Z
   B23Q1/58 Z
   B23Q11/12 E
   F16C32/06 A
   F16C29/02
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-96845(P2015-96845)
(22)【出願日】2015年5月11日
(65)【公開番号】特開2016-209965(P2016-209965A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】東芝機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一弘
(72)【発明者】
【氏名】相良 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】西尾 優人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
(72)【発明者】
【氏名】多田 敦司
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴雄
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−056234(JP,A)
【文献】 特開平01−188241(JP,A)
【文献】 特開2005−226709(JP,A)
【文献】 特開2014−206251(JP,A)
【文献】 実開昭63−021537(JP,U)
【文献】 米国特許第4676649(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/38
B23Q 1/58
B23Q 11/12
F16C 29/02
F16C 32/06
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部分と、前記支持部分に支持された移動部分と、前記移動部分を前記支持部分に対して水平移動させる移動機構とを有する工作機械であって、
前記移動機構は、荷重支持用案内機構および姿勢保持用案内機構を有し、
前記荷重支持用案内機構は、前記移動部分に設置された荷重支持用移動部材と、前記支持部分に形成されて前記荷重支持用移動部材と摺動する荷重支持用案内面とを有する油静圧案内機構であり、
前記荷重支持用移動部材は、前記荷重支持用案内面に対する支持荷重の中心位置が前記移動部分の重心に合わせて設置され
前記姿勢保持用案内機構は、前記移動部分に形成されて前記移動方向に延びる姿勢保持用案内面と、前記支持部分に設置されかつ前記移動方向に離れた2箇所で前記姿勢保持用案内面と摺動する姿勢保持用移動部材と、を有するすべり案内機構であることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載した工作機械において、
前記荷重支持用移動部材は、前記移動部分の下面の前記移動部分の重心の直下となる部位に設置されていることを特徴とする工作機械。
【請求項3】
請求項2に記載した工作機械において、
前記移動部分にはアタッチメントが装着可能であり、
前記荷重支持用移動部材は、前記アタッチメントが非装着状態での前記移動部分の重心の直下、および前記アタッチメントが装着された状態での前記移動部分の重心の直下に、それぞれ設置されていることを特徴とする工作機械。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載した工作機械において、
前記荷重支持用案内機構は、外周をシールされた静圧室と、前記静圧室に潤滑油を供給する供給経路と、前記静圧室から潤滑油を回収する回収経路と、を有する油静圧案内機構であることを特徴とする工作機械。
【請求項5】
請求項に記載した工作機械において、
前記供給経路は、前記静圧室の外周側に潤滑油を供給し、
前記回収経路は、前記静圧室の中心部から潤滑油を回収することを特徴とする工作機械。
【請求項6】
請求項または請求項に記載した工作機械において、
前記荷重支持用移動部材には、前記荷重支持用案内面に対向する前記静圧室と、前記静圧室を包囲するシール部とが形成されていることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、とくに水平移動する移動部分を有する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械には、加工対象であるワークと加工用の工具とを任意の相対位置に移動させるために、様々な移動機構が用いられる。
例えば、ワークを載置するテーブルの支持構造あるいは工具を装着するヘッドの支持構造には、三次元移動を可能とするために、X軸、Y軸、Z軸の各軸に沿った直線移動機構が採用される。また、テーブルあるいはヘッドの向きを変えるために、回転移動機構が採用される。
【0003】
これらの移動機構は、相対移動する2部材(例えば案内部材とこれに沿って移動する移動部材)を有するとともに、これらの2部材を移動させる駆動機構と、移動方向あるいは移動軸線の精度(案内精度)を確保するための案内機構を有する。
このような案内機構では、案内精度が高いこと、つまり直線運動はなるべく直線に、回転運動はなるべく真円に、という幾何学的精度が求められる。さらに、案内機構においては、高負荷容量で、低摩擦であり、減衰性能(吸振性能)が高いことが求められる。
【0004】
近年、工作機械の案内機構には、油静圧案内機構が用いられている(特許文献1)。
油静圧案内機構では、一対の摺動面のうち一方に静圧室を形成し、この静圧室に潤滑油を供給し、その静圧により他方の摺動面との間で荷重伝達を行う。つまり、一対の摺動面には潤滑油が介在するだけであり、一対の摺動面どうしは非接触状態となるので、摺動抵抗を大幅に低減できる。
【0005】
ただし、油静圧案内機構は、油膜で浮上する構造上、減衰性能には限界がある。また、油膜を形成するための潤滑油を供給する供給装置と、潤滑油を回収する回収装置が必要である。とくに、従来の油静圧案内機構では、潤滑油を用いる関係から、空気を用いる空気静圧軸受のように外気に排出することができない。このため、静圧室に供給された潤滑油が、外周縁から案内機構の外部へ排出される構造とされる。とくに、油静圧案内機構では、排出される潤滑油の量がすべり案内に比べて膨大な量となるため、潤滑油を回収し、供給装置に戻す回収装置が必要である。従って、案内機構に付随する装置構成や配管類が複雑にならざるを得ない。
【0006】
一方、工作機械の案内機構としては、伝統的なすべり案内機構(動圧案内機構)が引き続き多用されている(特許文献2)。
すべり案内機構は、それぞれ平滑に形成された一対の摺動面の間に潤滑油を供給しつつ、各々を摺動させるものである。一対の摺動面は、潤滑油による潤滑がなされるものの、相互に固体接触が維持される。
【0007】
すべり案内機構は、一対の摺動面どうしのすべり案内であるため、案内精度および減衰性能が高くできるとともに、構造的に簡素という特長がある。このため、工作機械の案内機構としては、依然としてすべり案内機構が多用されている。
ただし、すべり案内機構は、負荷容量が小さく、摩擦係数が大きく、とくに起動時や低速時の摩擦係数が増大するため、動作が円滑でなくなることがあり、位置決め精度に影響することがある。
【0008】
ところで、工作機械の一部では、工具を装着する主軸やヘッドの支持構造において、それ自体の重量により傾きや倒れを生じ、工作精度に影響する。このような変形を防止あるいは補償するために、従来の工作機械では、各種の対策が講じられている。
【0009】
例えば、主軸ヘッドの支持構造において、主軸ヘッドの重量による傾きに対し、傾きの原因となるモーメントを相殺する逆モーメント付与手段をコラムに設置し、コラムの移動軸線を矯正することにより、主軸ヘッドの傾きを補償するものがある(特許文献3)。
あるいは、主軸ヘッドの支持構造として、主軸ヘッドの重心位置を挟む2位置で支持する構成を採用し、主軸ヘッドの自重による傾きを防止するものがある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−58192号公報
【特許文献2】特開2008−238397号公報
【特許文献3】特開2007−216319号公報
【特許文献4】特開2012−96313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
工作機械の一部では、水平移動する移動部分が用いられる。ここで、水平移動とは、移動軸線が水平方向である場合に限らず、移動軸線が水平方向成分をもつ他の方向である場合も含む。
例えば、工作機械には、基礎上に設置された支持部分と、支持部分に支持された移動部分と、支持部分に対して移動部分を水平方向へ移動させる移動機構と、が設置される。移動機構には、前述したすべり案内機構や油静圧案内機構などの案内機構が用いられる。
【0012】
具体例として、横中ぐり盤は、回転軸が水平方向に延びる主軸を支持するために、ベッド上に起立するコラムと、コラムに昇降自在に支持されたヘッドと、ヘッドから水平方向へ進退自在なラム(またはクイル)と、を用いている。
このような構造では、主軸を含むラムが水平移動する移動部分であり、ヘッドないしコラムが移動部分を支持する支持部分である。そして、案内機構として、ラムの外側面と、これに対向するヘッドの表面(ラムが挿通されるためにヘッドに形成された挿通孔の内側面など)との間に、前述したすべり案内機構や油静圧案内機構が形成される。
【0013】
移動部分であるラムの重心は、その移動(主軸軸線方向への進退)に伴って、ヘッド等の支持部分に対する位置が変化する。
このように、動作に伴って水平位置が変化する場合、前述した特許文献4のような、重心位置に対する機械的な配置により傾きを防止する対策は、用いることができない。
また、前述した特許文献3のような、逆モーメント付与手段を用いるとしても、動作に伴って重心位置が変化し、相殺すべきモーメントが変化するため、逆モーメント付与手段において煩雑な制御が必須となり、構造的な複雑化も避けられない。
【0014】
一方、先に具体例としたヘッドとラムを有する工作機械では、前述した逆モーメント付与手段ほどではないが、ラムの傾き防止対策となるように、案内機構の配置に配慮がなされている。
例えば、案内機構のヘッド側部分を、ラムが挿通されるヘッドの挿通孔などの両端開口のそれぞれ間近に配置し、両端に一対の案内機構の間隔が最大となるようにしている。
このような一対の案内機構により、ラムが繰り出されて重心が大きく移動し、ラムの自重によるヘッドに対する傾きモーメントが最大になった場合でも、ラムの傾きを効果的に防止できるようにする。
【0015】
しかし、このような一対の案内機構でも、ラムの重心位置が挿通孔の中央部にある時と、挿通孔のいずれかの開口近くにある時とでは、案内機構の各側にかかる負荷が変化し、ラムの傾きを解消することが難しいという問題がある。
このような問題は、支持部分に対して水平移動(略水平ないし水平成分を含む他の方向への移動を含む)する移動部分を有する工作機械において、共通する問題である。
【0016】
本発明の目的は、構造が簡素で、水平移動する移動部分の傾きを防止できる工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の工作機械は、支持部分と、前記支持部分に支持された移動部分と、前記移動部分を前記支持部分に対して水平移動させる移動機構とを有する工作機械であって、前記移動機構は、荷重支持用案内機構および姿勢保持用案内機構を有し、前記荷重支持用案内機構は、前記移動部分に設置された荷重支持用移動部材と、前記支持部分に形成されて前記荷重支持用移動部材と摺動する荷重支持用案内面とを有する油静圧案内機構であり、前記荷重支持用移動部材は、前記荷重支持用案内面に対する支持荷重の中心位置が前記移動部分の重心に合わせて設置され、前記姿勢保持用案内機構は、前記移動部分に形成されて前記移動方向に延びる姿勢保持用案内面と、前記支持部分に設置されかつ前記移動方向に離れた2箇所で前記姿勢保持用案内面と摺動する姿勢保持用移動部材と、を有するすべり案内機構であることを特徴とする。
【0018】
このような本発明では、移動部分は支持部分に支持されるとともに、移動機構により所定の移動方向へ移動される。移動部分は、荷重支持用案内機構により、その自重を支持部分に伝達され、支持部分により支持される。荷重支持用案内機構では、荷重支持用移動部材が移動部分と一体に移動し、支持部分に形成された荷重支持用案内面に対して摺動する。
【0019】
荷重支持用移動部材は、荷重支持用案内面に対する支持荷重の中心位置が移動部分の重心に合わせて設置されているため、移動部分が支持部分に対して移動しても、常に移動部分の重心位置を支持することになる。
このため、移動部分は、支持部分に対して任意の位置へ移動しても、常に重心位置を支持されるため、その位置に応じてモーメントが変化して傾きや倒れなどを生じることがない。
本発明では、荷重支持用案内機構に油静圧案内機構を用いることで、高負荷容量および低摩擦性を確保することができる。
一方、本発明では、支持部分に対して移動する移動部分は、姿勢保持用案内機構により案内され、その姿勢を正確に保持される。
とくに、姿勢保持用案内機構では、支持部材の離れた2箇所、たとえば移動部分が挿通される挿通孔の両側開口近傍の2箇所で摺動させて支持することで、移動部分の移動方向に対する傾きを規制し、移動方向に対する精度を一層高めることができる。
本発明では、姿勢保持用案内機構にすべり案内機構を用いることで、姿勢保持用に必要な高い案内精度および減衰性能が得られるとともに、構造的に簡素にすることができる。
本発明において、支持部分に対する移動部分の荷重支持は、前述した荷重支持用案内機構により行われており、姿勢保持用案内機構のすべり案内機構としては、専ら移動部分の姿勢保持を行えばよい。
このように本発明では、荷重支持用案内機構により移動部分の自重を常に重心位置で支持し、移動部分の傾きや倒れを防止できるとともに、姿勢保持用案内機構により、移動部分の姿勢を保持することができる。
【0020】
本発明において、水平移動とは、移動軸線が水平方向である場合に限らず、移動軸線が水平方向成分をもつ他の方向である場合も含む。例えば、水平方向あるいは略水平な方向のほか、移動部分が移動した際に水平方向の変位が生じるような他の移動方向への移動を含む。
さらに、鉛直方向以外への移動は水平方向の成分を含み、本発明においてはその水平成分の移動を水平移動として取り扱うことができる。ただし、本発明が有効であるのは、水平成分による重心移動が顕著となる場合、具体的には、水平方向および水平に対して45度程度である。しかし、水平に対して45度以上傾いた方向への移動であっても、移動部分の重心移動による影響が大きい場合、本発明は有効である。
【0021】
本発明における支持部分および移動部分としては、前述した水平移動を行う各種の組み合わせが該当する。例えば、支持部分であるヘッドに対して、ラム(角形断面)やクイル(円形断面)を移動部分とすることができ、支持部分であるコラムに対して昇降および水平移動する主軸ヘッドなど、片持ち状態あるいは支持部分から張り出した状態で、かつ水平移動する部分を移動部分とすることができる。
【0022】
荷重支持用案内面としては、支持部分の移動部分を収容、保持あるいは挿通させる部分の内面など、移動部分に対向する部分の表面であって、移動方向に連続した表面を用いることができる。荷重支持用案内面としては、支持部分の部材の表面をそのまま利用するものに限らず、摺動用の案内部材を別途設置することで形成してもよい。
【0023】
本発明の工作機械において、前記荷重支持用移動部材は、前記移動部分の下面の前記移動部分の重心の直下となる部位に設置されていることが望ましい。
【0024】
このような本発明では、荷重支持用移動部材による荷重支持を、移動部分の重心の直下で行うことができ、常に移動部分の重心位置を支持部分で支持することができる。
荷重支持用移動部材は、重心位置の直下に単独で配置するものに限らず、例えば、移動部分の下面あるいは移動部材の側面に、重心位置をとりまくように複数の荷重支持用移動部材を配置し、それらによる支持荷重の合力が重心位置と一致するように構成してもよい。
【0025】
しかし、荷重支持用移動部材を重心位置の直下に単独で配置すれば、構造がより簡素であり、重心位置との関係を確実に設定できる。
荷重支持用移動部材を単独で配置する場合、荷重支持用案内面に対して摺動する面積に限界があるが、後述する油静圧案内機構を用いれば、狭い面積でも十分に高い負荷容量を確保することができる。
【0026】
本発明の工作機械において、前記移動部分にはアタッチメントが装着可能であり、前記荷重支持用移動部材は、前記アタッチメントが非装着状態での前記移動部分の重心の直下、および前記アタッチメントが装着された状態での前記移動部分の重心の直下に、それぞれ設置されていることが望ましい。
【0027】
本発明において、アタッチメントとしては、例えば工作機械の移動部分であるラムやクイルの先端に、工具に代えて主軸に装着されるアングルヘッドなどである。
本発明において、荷重支持用移動部材を、アタッチメントが非装着状態での重心の直下と、アタッチメントが装着された状態の重心の直下に、それぞれ設置するための具体的構成としては、複数の荷重支持用移動部材を各重心位置に設置すること、各重心位置にまたがる長尺の荷重支持用移動部材を用いること、などが採用できる。
【0028】
このような本実施形態では、アタッチメントを装着した場合でも、装着しない場合でも、荷重支持用移動部材を、各重心位置の直下に配置することができる。
各重心位置に対応した複数の荷重支持用移動部材を用いる場合には、アタッチメントの有無に応じて、対応する重心位置の荷重支持用移動部材を有効にし、対応しない荷重支持用移動部材を停止させる、などの切り替えを行ってもよい。
さらに、複数の荷重支持用移動部材の間に重心位置がくるような他のアタッチメントを用いる場合、2つの荷重支持用移動部材の負荷荷重バランスを調整し、2つの荷重支持用移動部材の中間にくる重心を支えるようにしてもよい。
【0031】
本発明の工作機械において、前記荷重支持用案内機構は、外周をシールされた静圧室と、前記静圧室に潤滑油を供給する供給経路と、前記静圧室から潤滑油を回収する回収経路と、を有する油静圧案内機構であることが望ましい。
【0032】
このような本発明では、油静圧案内機構は、静圧室の外周がシールされた密閉式の油静圧構造とされる。このような油静圧案内機構により、荷重支持用案内機構において、高負荷容量および低摩擦性を確保することができる。
【0033】
荷重支持用案内機構は、油静圧案内機構とすべり案内機構とを併用する油静圧すべり併用式とすることもできる。このような、油静圧すべり併用式の案内機構では、油静圧案内機構により高負荷容量および低摩擦性を確保するとともに、すべり案内機構により案内精度および減衰性能を確保することができる。その結果、高負荷容量で、低摩擦であり、かつ案内精度が高く、減衰性能が高い傾き防止機構とすることができる。
【0034】
荷重支持用案内機構を油静圧案内機構とするとともに、後述するように、姿勢保持用案内機構をすべり案内機構とすることができる。
移動機構において、油静圧案内機構とすべり案内機構を共存させた場合でも、回収経路で潤滑油を回収することで、油静圧案内機構から溢れ出す潤滑油を減らす、ないし、無くすことができ、すべり案内機構あるいは工作機械の他の部分に好ましくない影響(異種の潤滑油が混合する等)を及ぼす可能性を解消できる。
【0035】
なお、本発明において、油静圧案内構造では、静圧室内の潤滑油の静圧により、相対移動する2部材の間の荷重支持が行われる。油静圧案内構造としては、封入式の油静圧構造と、流通式あるいは循環式の油静圧構造と、のいずれかを用いることができる。
【0036】
封入式の油静圧構造では、静圧室には供給経路だけが接続され、回収経路は接続されない。潤滑油は、供給経路から供給され、所定の圧力で静圧室内に充填される。静圧室内の潤滑油が減った際には、供給経路から潤滑油が補充される。
【0037】
流通式の油静圧構造では、静圧室に供給経路と回収経路とが接続される。潤滑油は、供給経路から供給され、静圧室内を流通しつつ静圧を発生し、静圧室から回収経路へと回収される。
流通式の油静圧構造において、回収経路から回収された潤滑油を、供給経路に再利用することで、循環式の油静圧構造とすることができる。
【0038】
本発明において、供給経路および回収経路は、移動部分に形成される流路や移動部分から支持部分へと延びる配管などを利用することができる。
これらの供給経路および回収経路には、それぞれ潤滑油を駆動するポンプ、潤滑油を貯留するタンクなどを接続することができ、その途中に潤滑油の圧力や流量などの状態を検知する計器等を設置してもよい。
なお、回収経路においては、外部から密閉される配管に限らず、外気開放された経路、例えば樋などの従来の油静圧案内機構に利用されていた回収経路を用いることもできる。
【0039】
本発明の工作機械において、前記供給経路は、前記静圧室の外周側に潤滑油を供給し、前記回収経路は、前記静圧室の中心部から潤滑油を回収することが望ましい。
【0040】
このような本発明では、供給経路からの潤滑油が静圧室の外周側に供給され、供給された潤滑油は静圧室を中心向きに流通し、静圧室の中心部に接続された回収経路から回収される。
このような潤滑油の中心回収を行うことで、油静圧式案内機構としての潤滑油の流量を低減することができる。
【0041】
すなわち、従来の油静圧案内機構では、内側の静圧室(いわゆるリセス部)に所期の静圧を生じさせるために、静圧室の外周に沿って圧力保持部(いわゆるランド部)が形成される。そして、静圧室の潤滑油は、外周に沿った圧力保持部を経て外周から排出される。この際、外周に沿った圧力保持部は、その半径に比例して周長が長くなるため、圧力保持部を径方向に通過する際に所定の流速(内側の静圧室で所期の圧力が保持できる流速)を確保しようとすると、全体の流量は相当な大流量にならざるを得ない。
【0042】
このような大流量を供給するためには、供給装置において大容量が必要であり、配管径の拡大など、装置構成の大規模化が避けられない。
これに対し、本発明では、中心回収を行うために、圧力保持部は回収用の開口周辺に形成すればよく、その周長は格段に短くて済む。このため、潤滑油の流量を大幅に低減させることができ、潤滑油の供給装置、供給経路および回収経路を小型化、簡素化することができる。
【0043】
本発明の工作機械において、前記荷重支持用移動部材には、前記荷重支持用案内面に対向する前記静圧室と、前記静圧室を包囲するシール部とが形成されていることが望ましい。
【0044】
このような本発明では、潤滑油が供給経路から静圧室内に供給され、静圧室の内面と荷重支持用案内面との間に油膜を形成し、油静圧式案内機構として、荷重支持用案内面を浮上支持させることができる。
この際、静圧室内の潤滑油は、供給経路から静圧室に供給され、静圧室内において荷重支持用案内面からの荷重を支持するとともに、静圧室の外周側から内側向きに移動し、中心部の回収経路から全量が回収される。
そして、静圧室の外周においては、静圧室を包囲するシール部により、潤滑油はシール部よりも外側へ漏れ出すことがなく、これにより密閉式の油静圧案内機構を形成することができる。
さらに、前述した通り、静圧室の中心部に接続された回収経路により、潤滑油の中心回収を行うことで、潤滑油の流量を低減させることができ、潤滑油の供給装置、供給経路および回収経路を小型化、簡素化することができる。
【0045】
本発明において、静圧室としては、移動部材の表面に凹状に形成された所定深さ(数十ミクロン程度)の凹部が利用できる。
静圧室においては、静圧室に同心円状の等圧溝を形成して静圧室を内側と外側とに区画し、内側を圧力保持部(ランド)とし、外側を静圧室本体(リセス)とすることができる。内側の圧力保持部と外側の静圧室本体とが同じ深さでも、これらより深い等圧溝を形成することで、内側の圧力保持部によって静圧室本体における圧力保持効果を生じさせることができる。これにより、静圧室本体において、潤滑油の静圧による荷重負担を行うことができ、油静圧案内構造としての機能を得ることができる。
【0046】
本発明においては、静圧室の内周に、回収経路を包囲する深さの浅い圧力保持部(外側の静圧室本体より背の高いランド部)を形成することで、油静圧案内構造としての機能を得るようにしてもよい。
静圧室の平面形状は、例えば円形、楕円形あるいは長円形とすることができ、正方形や長方形などの矩形あるいは他の多角形状としてもよい。矩形や多角形とする場合も、各々の頂点は円弧状などとし、角張った部分を丸めることが望ましい。
【0047】
シール部としては、静圧室の周囲に沿って形成された静圧室の深さより深いシール溝と、このシール溝内に設置された環状のシール部材との組み合わせなどが利用できる。
シール部材としては、静圧室の底面と対向する案内面とにそれぞれ密接することでシール性を確保するものが好ましく、静圧室の深さより高さが大きなエラストマ素材による成形品などが利用できる。例えば耐油性のOリング等も利用可能であるが、静圧室内の高圧に対応できかつ潤滑油の漏出を防止できるように、適宜リップシール等を追加することも有効である。
シール部の平面形状は、静圧室の輪郭に沿った形状とすればよく、静圧室に準じた円形、矩形あるいは他の形状とすることができる。
【0048】
本発明において、回収経路は、静圧室の中心部に連通されていればよく、静圧室の中心部の近傍であれば幾何学的中心でなくてもよい。
供給経路は、静圧室の回収経路よりも外周側に連通されていればよく、静圧室の外周近傍あるいはシール部のシール溝の内側などに連通させてもよい。この際、供給経路はシール溝の任意の位置に連通されていればよいが、周方向にむらができないように、シール部の複数箇所に連通させてもよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、構造が簡素で、水平移動する移動部分の傾きを防止できる工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明の第1実施形態の工作機械を示す斜視図。
図2】前記第1実施形態の移動機構を示す斜視図。
図3】前記第1実施形態の移動機構を示す分解斜視図。
図4】前記第1実施形態の姿勢保持用案内機構の要部を示す斜視図。
図5】前記第1実施形態の姿勢保持用案内機構の要部を示す断面図。
図6】前記第1実施形態の荷重支持用案内機構の要部を示す斜視図。
図7】前記第1実施形態の荷重支持用案内機構の要部を示す断面図。
図8】前記第1実施形態の荷重支持用機構の動作を示す模式側面図。
図9】本発明の第2実施形態の荷重支持用案内機構の要部を示す断面図。
図10】本発明の第3実施形態の荷重支持用案内機構を示す模式平面図。
図11】本発明の第4実施形態の荷重支持用案内機構を示す模式側面図。
図12】本発明の第5実施形態の荷重支持用案内機構を示す模式側面図。
【発明を実施するための形態】
【0053】
〔第1実施形態〕
図1から図8には、本発明に基づく第1実施形態が示されている。
図1において、工作機械10は、基台11の上面に、テーブル12およびコラム13を有する。
テーブル12は、円板状に形成され、鉛直方向の軸線まわり(B軸)に回転可能に支持されている。基台11とテーブル12との間には、テーブル12を基台11に対して回転させるために、B軸移動機構21が設置されている。
【0054】
コラム13は、角柱状に形成され、側面にはヘッド14が昇降可能に支持されている。
コラム13とヘッド14との間には、ヘッド14をコラム13に沿って昇降、つまり鉛直方向(Y軸方向)へ移動させるために、Y軸移動機構22が設置されている。
Y軸移動機構22が形成されるコラム13およびヘッド14の一部は、カバー19で覆われている。
【0055】
ヘッド14には挿通孔15が形成されている。挿通孔15には、水平方向に延びる角柱状のラム16が挿通されている。ラム16には主軸17が回転自在に支持され、その先端には工具18が装着される。
本実施形態ではラム16(角形断面)を用いるが、クイル(円形断面)等を用いてもよい。
【0056】
ヘッド14とラム16との間には、ラム16をヘッド14に対して水平移動、つまり水平方向(Z軸方向)へ移動させるために、Z軸移動機構23が設置されている。
本実施形態において、ヘッド14が本発明の支持部分であり、ラム16が本発明の移動部分であり、Z軸移動機構23が移動部分を支持部分に対して水平移動させる移動機構である。
【0057】
〔Z軸移動機構〕
図2において、Z軸移動機構23は、挿通孔15の4つの内側面(上内側面15A、下内側面15B、左右の内側面15C,15D)と、各々に対向するラム16の外側面(上外側面16A、下外側面16B、左右の外側面16C,16D)との間に、ヘッド14に対するラム16の姿勢を保持するための姿勢保持用案内機構30(第1〜第4の姿勢保持用案内機構30A〜30D)を備えている。さらに、Z軸移動機構23は、挿通孔15の下内側面15Bと、対向するラム16の下外側面16Bとの間に、ラム16の荷重を受けてヘッド14に支持させる荷重支持用案内機構37を備えている。
【0058】
〔姿勢保持用案内機構〕
図2および図3において、姿勢保持用案内機構30は、挿通孔15の内側面(上内側面15A、下内側面15B、左右の内側面15C,15D)に沿った第1〜第4の姿勢保持用案内機構30A〜30Dとされ、それぞれ姿勢保持用移動部材31(第1〜第4の姿勢保持用移動部材31A〜31D)を備えている。
姿勢保持用移動部材31は、Z軸方向に延びる板材で形成され、挿通孔15の内側面の両側に沿って2本ずつ一対に設置されている。
【0059】
姿勢保持用移動部材31の表面は、それぞれラム16の外側面(上外側面16A、下外側面16B、左右の外側面16C,16D)に対向され、これらの外側面を姿勢保持用案内面として、互いの間に姿勢保持用案内機構30が構成されている。
本実施形態では、姿勢保持用案内機構30として、後述するすべり案内機構50(図6図7参照)が採用されている。
【0060】
〔荷重支持用案内機構〕
図2および図3において、荷重支持用案内機構37は、挿通孔15の下内側面15Bに沿って移動する荷重支持用移動部材38を備えている。
【0061】
荷重支持用移動部材38は、短尺の板材で形成され、ラム16の下外側面16Bに設置された一対の姿勢保持用移動部材31Bの間に設置されている。
荷重支持用移動部材38は、ラム16の重心位置Gの直下に、水平位置が重心位置Gと重なるように設置されている。
【0062】
荷重支持用移動部材38の表面は、それぞれ挿通孔15の下内側面15Bに対向され、この下内側面15Bを姿勢保持用案内面として、互いの間に荷重支持用案内機構37が構成されている。
本実施形態では、荷重支持用案内機構37として、後述する油静圧案内機構40(図4図5参照)が採用されている。
【0063】
なお、ラム16の自重は、荷重支持用移動部材38および荷重支持用案内機構37で専ら負担される。このため、荷重支持用案内機構37として、後述する油静圧案内機構40を用いる場合でも、ラム16の上外側面16Aと挿通孔15の上内側面15Aとの間に補助的な案内機構を設ける必要はない。
ただし、プリロードを付与するため等の理由で、前述した荷重支持用移動部材38および荷重支持用案内機構37と同様な構成を、ラム16の上外側面16Aと挿通孔15の上内側面15Aとの間に設置してもよい。
【0064】
〔すべり案内機構〕
図4および図5において、すべり案内機構50は、2組が姿勢保持用移動部材31の両端に離れて形成されている。
すべり案内機構50は、姿勢保持用移動部材31の両端で、それぞれ摺動面51と、姿勢保持用案内面であるラム16の外周面(上外側面16A、下外側面16B、左右の外側面16C,16D)とを接触させることで、ラム16とヘッド14とのZ軸方向の姿勢を正確に保持可能である。
【0065】
すべり案内機構50は、案内面と摺動する平滑な摺動面51を有する。摺動面51には、全面にわたって、4フッ化エチレンなどの低摩擦性材料で形成されたシートが貼られている。
さらに、摺動面51には、縦横に連続した給油溝52が形成され、給油溝52には給油経路53が連通されている。従って、給油経路53に潤滑油を供給すれば、供給された潤滑油が給油溝52により摺動面51の全体に拡散される。
このような摺動面51により、姿勢保持用案内面であるラム16の外周面との間で高い案内精度を確保しつつ、摺動抵抗および摩耗を軽減することができる。
【0066】
すべり案内機構50には、給油経路53に潤滑油を供給するための潤滑油供給装置60が接続されている。
潤滑油供給装置60は、潤滑油を貯留するタンク69と、タンク69内の潤滑油をすべり案内機構50に供給する供給配管66とを有する。供給配管66の途中には、通過する潤滑油を濾過するフィルタ68と、同潤滑油を適量ずつ間欠的に圧送するポンプ67とが設置されている。
【0067】
なお、すべり案内機構50に供給された潤滑油の排出経路として、姿勢保持用移動部材31の側面の下方に回収樋を設け、この回収樋で受けた潤滑油を廃油タンクに戻して貯留してもよい。排出経路としては、適宜配管を用いてもよい。
【0068】
〔油静圧案内機構〕
図6および図7において、油静圧案内機構40は、荷重支持用移動部材38に2組並べて形成されている。
油静圧案内機構40は、案内面と摺動する平滑面49を有する。平滑面49には、全面にわたって、4フッ化エチレンなどの低摩擦性材料で形成されたシートが貼られている。
さらに、平滑面49には、凹状に形成された円形の静圧室41と、その周囲を環状に連続して包囲するシール部42とが形成されている。
【0069】
静圧室41は、組み立てられた状態では、案内面である挿通孔15の上下の内側面(上内側面15A、下内側面15B)によって覆われて閉じた空間となる。そして、静圧室41内に供給される潤滑油で案内面の荷重支持を行うことで、油静圧構造が形成され、案内面に対する高負荷容量および十分な低摩擦性能が得られる。
【0070】
静圧室41への潤滑油の供給および回収を行うために、供給経路43および回収経路44が形成されている。
静圧室41の底面には、その中央に回収経路44の連通孔441が連通されているとともに、その開口と同心で環状溝411が形成されている。
静圧室41の底面は、環状溝411を境に、内側部分412と、外側部分413とに区画されている。外側部分413の一部には、環状溝411からシール部42に至る径方向の連通溝414が形成されている。
【0071】
シール部42には、静圧室41の外周に沿って環状のシール溝421が形成されている。このシール溝421には、耐油ゴム等のエラストマ成型品によるシール部材422が配置されている。
シール溝421の一部には、シール部材422よりも内側(静圧室41側)に、供給経路43の連通孔431が連通されている。
【0072】
静圧室41への潤滑油の供給および回収は、潤滑油供給装置60により行われる。
潤滑油供給装置60は、潤滑油を貯留するタンク61と、タンク61から供給経路43に至る供給配管63と、回収経路44からタンク61に戻る回収配管64と、を有する。
供給配管63の途中には、通過する潤滑油を濾過するフィルタ65と、同潤滑油を加圧するポンプ62とが設置されている。
【0073】
潤滑油供給装置60は、タンク61に貯留されている潤滑油を、供給配管63から取り出し、フィルタ65で濾過したのちポンプ62で圧送し、供給経路43へと供給する。これにより、供給経路43から、加圧された潤滑油が外周のシール部42から静圧室41内に供給される。
一方、静圧室41内の潤滑油は、その中心から回収経路44に回収され、回収配管64を経てタンク61に全量が戻される。
【0074】
このような油静圧案内機構40では、加圧された潤滑油が供給経路43から供給され、シール溝421から静圧室41内に流入し、静圧室41内を外側部分413から内側部分412へと移動し、連通孔441から回収経路44へと回収される。
この際、静圧室41内の潤滑油は、その静圧により案内面である挿通孔15の上下の内側面(上内側面15A、下内側面15B)を浮上支持し、これにより油静圧案内機構40としての機能が得られる。
一方、静圧室41内の潤滑油は、回収経路44から全量回収される。さらに、静圧室41の周囲がシール部42でシールされているため、潤滑油が外部に漏れ出すことが防止される。
【0075】
本実施形態において、静圧室41の厚み(内側部分412と案内面である上内側面15A、下内側面15Bとの間隔)、つまり平滑面49に対する凹みの深さは、シール溝421や環状溝411に比べてごく浅く(数十ミクロン程度)形成されている。
さらに、内側部分412と外側部分413とは、同じ高さに設定されている。つまり、内側部分412における静圧室41の深さ(平滑面49に対する)は、外側部分413における深さと同じである。
【0076】
従って、組み立てられた状態では、静圧室41の外側部分413における厚み(外側部分413と上内側面15A、下内側面15Bとの間隔)と、静圧室41の内側部分412における厚み(内側部分412と上内側面15A、下内側面15Bとの間隔)とが同じとされている。
ただし、内側部分412と外側部分413との間には、環状溝411が形成され、この環状溝411は連通溝414でシール溝421に連通されている。このため、外側部分413においては、連通孔431を通して供給される供給経路43からの潤滑油の圧力と同一の圧力に保持される。
【0077】
このような設定により、静圧室41の外側部分413から内側部分412へと潤滑油が流れた際には、内側部分412がランド部または圧力保持部として作用する。
つまり、内側部分412の外側(環状溝411に面した領域)では、外側部分413と同じ圧力であるが、内側に向けて流れるに従って漸次圧力が下がり、回収経路44の連通孔441に至ると大気圧程度となる。
【0078】
このように、内側部分412がランド部または圧力保持部として作用することで、リセス部または静圧室本体である外側部分413に荷重支持用の静圧を確保することができる。
さらに、静圧室41内の潤滑油による静圧支持が、外周側にあって静圧室41のうち主に面積が大きい外側部分413で行われることになり、受圧領域面積を拡大できるとともに、流入したての高圧の潤滑油による効率的な静圧支持を行うことができる。
【0079】
〔第1実施形態の動作〕
本実施形態においては、ラム16がヘッド14に対して水平移動しても、荷重支持用案内機構37により、ラム16の自重が常にその重心位置Gで受けられる。そして、ラム16のヘッド14に対する姿勢は、姿勢保持用案内機構30により正確に維持される。従って、ラム16の水平移動があっても、ラム16がヘッド14に対して傾くあるいは倒れることが防止される。
【0080】
図8(A)において、ラム16が先端方向(図中右側)へ水平移動した場合、ラム16の先端側がヘッド14から大きく張り出すとともに、ラム16の重心位置Gはヘッド14および挿通孔15の右端近傍まで移動する。
図8(B)のように、ラム16が反対向き(図中左側)へ水平移動した場合、ラム16の反対側がヘッド14から大きく張り出すとともに、ラム16の重心位置Gはヘッド14および挿通孔15の左端近傍まで移動する。
【0081】
これらの状態において、もし、ラム16が姿勢保持用案内機構30だけで支持されていた場合、ラム16の自重は姿勢保持用案内機構30の右端部分あるいは左側部分で専ら負担され、各側の荷重が増すことで、ラム16の先端側が下向きに傾くことがある。
【0082】
しかし、本実施形態では、ラム16の重心位置Gに荷重支持用案内機構37が設置されており、ラム16の自重は、常に荷重支持用案内機構37で受けられ、姿勢保持用案内機構30に対するラム16の水平移動に伴う負荷変動は僅かに抑えられる。
このため、ラム16がヘッド14に対して水平移動しても、ラム16がヘッド14に対して傾くあるいは倒れることが防止される。
【0083】
〔第1実施形態の効果〕
このような本実施形態によれば、移動部分であるラム16は、支持部分であるヘッド14に支持されるとともに、Z軸移動機構23により所定の移動方向へ移動させることができる。
すなわち、ラム16は、荷重支持用案内機構37により、その自重をヘッド14に伝達されて支持される。荷重支持用案内機構37では、荷重支持用移動部材38がラム16と一体に移動し、ヘッド14の荷重支持用案内面(上内側面15A,下内側面15B)に対して摺動する。
【0084】
荷重支持用移動部材38は、荷重支持用案内面に対する支持荷重の中心位置が、ラム16の重心位置Gに合わせて設置されている。このため、荷重支持用案内機構37では、ラム16がヘッド14に対して移動しても、常に移動部分の重心位置Gを支持することになる。
このように、ラム16は、ヘッド14に対して任意の位置へ移動しても、常に重心位置Gを支持される。このため、ラム16の水平位置に応じてモーメントが変化し、ヘッド14に対してラム16が傾きや倒れなどを生じることがない。
従って、本実施形態によれば、構造が簡素で、水平移動する移動部分の傾きを防止できる工作機械10を提供することができる。
【0085】
本実施形態では、荷重支持用移動部材38を重心位置の直下に単独で配置したため、構造がより簡素であり、重心位置Gとの関係を確実に設定できる。
この際、荷重支持用案内面である下内側面15Bに対して摺動する面積に限界があり、十分に広い面積が確保できないこともあるが、荷重支持用案内機構37として油静圧案内機構40を用いたため、狭い面積でも十分に高い負荷容量を確保することができる。
【0086】
本実施形態では、前述した通り、荷重支持用案内機構37により、ラム16の自重を常に重心位置Gで支持し、ラム16の傾きや倒れを防止できることに加えて、姿勢保持用案内機構30により、ラム16の姿勢を保持することができる。
とくに、姿勢保持用案内機構30では、ヘッド14の挿通孔15における離れた2箇所である両側開口近傍で摺動させて支持することで、ラム16の移動方向に対する傾きを規制し、移動方向に対する精度を一層高めることができる。
【0087】
本実施形態では、荷重支持用案内機構37として油静圧案内機構40を用いることにより、荷重支持用案内機構37において、高負荷容量および低摩擦性を確保することができる。
さらに、荷重支持用案内機構37を油静圧案内機構40とするとともに、姿勢保持用案内機構30としてすべり案内機構50を用いたため、高い案内精度および減衰特性をも確保することができ、各々の特性を補完的に用いることで、ラム16の案内性能を高めることができる。
【0088】
このように、本実施形態では、ヘッド14に対するラム16の荷重支持は、荷重支持用案内機構37により行われており、姿勢保持用案内機構30としては、専らラム16の姿勢保持を行えばよい。このため、姿勢保持用案内機構30にすべり案内機構50を用いることで、姿勢保持用に必要な高い案内精度および減衰性能が得られるとともに、構造的に簡素にすることができる。
【0089】
本実施形態では、荷重支持用案内機構37に用いる油静圧案内機構40を、静圧室41の外周がシールされた密閉式の油静圧構造とし、回収経路44および回収配管64から潤滑油を全量回収するようにした。このため、油静圧案内機構40から溢れ出す潤滑油を減らす、ないし、なくすことができ、すべり案内機構50あるいは工作機械10の他の部分に好ましくない影響(異種の潤滑油が混合する等)を及ぼす可能性を解消できる。
【0090】
〔第2実施形態〕
図9には、本発明に基づく第2実施形態が示されている。
本実施形態において、工作機械10、姿勢保持用案内機構30、荷重支持用案内機構37、油静圧案内機構40およびすべり案内機構50の基本構成は共通であり、重複する説明は省略するとともに、相違する構成について、以下に説明する。
【0091】
前述した第1実施形態では、油静圧案内機構40の静圧室41が、環状溝411、内側部分412、外側部分413、連通溝414を有していた。そして、内側部分412および外側部分413が同じ深さでありながら、環状溝411および連通溝414がシール溝421に連通されることで、内側部分412が圧力保持部(ランド部)として機能し、外側部分413が静圧室本体(リセス部)として機能するようにしていた。
【0092】
本実施形態においては、環状溝411および連通溝414を省略し、外側部分413の深さを内側部分412よりも深く形成することにより、実際に内側部分412をランド(圧力保持部)とし、かつ外側部分413をリセス(静圧室本体)としている。
なお、本実施形態において、内側部分412の深さは前述した第1実施形態と同様な数十ミクロン程度であり、外側部分413の深さは、内側部分412よりも深い。
【0093】
このような本実施形態によれば、工作機械10、姿勢保持用案内機構30、荷重支持用案内機構37、油静圧案内機構40およびすべり案内機構50の基本構成が前述した第1実施形態と共通であるため、これらによる効果は同様に得られる。
【0094】
さらに、本実施形態では、環状溝411および連通溝414が省略されているが、内側部分412および外側部分413の深さ設定により、前述した第1実施形態と同様に静圧荷重支持を行うことができ、油静圧案内機構40としての機能を得ることができる。
【0095】
〔第3実施形態〕
図10には、本発明に基づく第3実施形態が示されている。
本実施形態において、工作機械10、姿勢保持用案内機構30、荷重支持用案内機構37、油静圧案内機構40およびすべり案内機構50の基本構成は共通であり、重複する説明は省略するとともに、相違する構成について、以下に説明する。
【0096】
前述した第1実施形態では、姿勢保持用案内機構30として、ヘッド14の挿通孔15の各内側面(上内側面15A,下内側面15B、左内側面15C、右内側面15D)に、それぞれ両側一対の姿勢保持用移動部材31(第1〜第4の姿勢保持用移動部材31A〜31D)を設けた。
【0097】
そして、ラム16の下外側面16Bに、荷重支持用移動部材38を設置し、これらを上下の内側面15A,15Bに設置された一対の姿勢保持用移動部材31の間に収まるように配置していた(図2および図3参照)。
【0098】
これにより、第1実施形態では、荷重支持用移動部材38がラム16の重心位置Gの直下に配置され、荷重支持用案内機構37はラム16の重心位置Gでラム16の自重を支持する構成とされていた。
これに対し、本実施形態では、重心位置Gの直下でない位置に、複数の荷重支持用移動部材38を配置し、各々の支持荷重の合力が重心位置Gに合うように構成されている。
【0099】
図10において、ヘッド14、挿通孔15およびラム16、上下左右の内側面15A〜15D,上下左右の外側面16A〜16Dは、前述した第1実施形態と同様である。
本実施形態では、挿通孔15の上下の内側面15A,15Bに設置される姿勢保持用案内機構30(第1および第2の姿勢保持用案内機構30A,30B)として、各1本ずつの姿勢保持用移動部材31(第1および第2の姿勢保持用移動部材31A,31B)が設置されている。
【0100】
そして、ラム16の下外側面16Bには、姿勢保持用移動部材31の両側に一対の荷重支持用移動部材38が設置され、これらの一対により荷重支持用案内機構37が形成されている。
一対の荷重支持用案内機構37は、ラム16の重心位置Gを挟んで対称に配置されている。従って、2つの荷重支持用案内機構37で負担される荷重の合力は、重心位置Gに一致させることができる。
【0101】
このような本実施形態では、一対の荷重支持用案内機構37を用い、ラム16の重心位置Gの直下でない部位に設置しつつ、支持荷重の合力を重心位置Gに一致させることができ、前述した第1実施形態と同様に、ラム16の水平移動があっても傾きや倒れを防止することができる。
さらに、ラム16の下側でその自重を受ける荷重支持用移動部材38が2個一対となるため、第1実施形態と同じ荷重支持用移動部材38を用いても、荷重負担する面積を2倍にすることができる。
【0102】
〔第4実施形態〕
図11には、本発明に基づく第4実施形態が示されている。
本実施形態において、工作機械10、姿勢保持用案内機構30、荷重支持用案内機構37、油静圧案内機構40およびすべり案内機構50の基本構成は共通であり、重複する説明は省略するとともに、相違する構成について、以下に説明する。
【0103】
ヘッド14には、挿通孔15の開口に隣接して、拡張部材151が設置されている。
拡張部材151は、その上面151Bが挿通孔15の下内側面15Bと連続するように形成されるとともに、ラム16の自重を受けるのに十分な強度に形成されている。
【0104】
このような本実施形態では、例えば図8(A)に示す状態、つまりラム16の重心位置Gおよび荷重支持用移動部材38が挿通孔15の図中右端近傍に達した状態から、さらにラム16を繰り出すことができる。
すなわち、ラム16がさらに繰り出された状態では、荷重支持用移動部材38が挿通孔15の外部に出てしまうが、下内側面15Bと連続する上面151Bに載せ替えることで、拡張部材151によって荷重支持が継続される。
【0105】
従って、重心位置Gが挿通孔15からはみ出したような状態であっても、重心位置Gにおける荷重支持を維持することができ、ラム16の水平移動に伴う傾きや倒れを防止することができる。
従って、本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様な効果が得られるほか、ラム16の水平移動範囲を拡張することができる。
【0106】
なお、前述したように、ラム16の下側の荷重支持用移動部材38および荷重支持用案内機構37と同様な構成を、ラム16の上側に設置してもよい。例えば、図11に鎖線で示す荷重支持用移動部材38Sおよび荷重支持用案内機構37Sを設ける場合、ヘッド14には拡張部材151Sを設置し、挿通孔15の上内側面15Aに連続する表面を形成し、荷重支持用移動部材38Sとの間で油静圧案内機構40の機能が維持されるようにすることが望ましい。
【0107】
〔第5実施形態〕
図12には、本発明に基づく第5実施形態が示されている。
本実施形態において、工作機械10、姿勢保持用案内機構30、荷重支持用案内機構37、油静圧案内機構40およびすべり案内機構50の基本構成は共通であり、重複する説明は省略するとともに、相違する構成について、以下に説明する。
【0108】
前述した第1実施形態では、ラム16の先端には、工具18が装着されていた(図1参照)。そして、荷重支持用移動部材38がラム16の重心位置Gの直下に配置され、荷重支持用案内機構37はラム16の重心位置Gでラム16の自重を支持する構成とされていた(図2参照)。
【0109】
本実施形態では、ラム16の先端に、工具18に代えて、アタッチメント181が装着可能である。つまり、加工内容に応じてラム16の先端にアタッチメント181が装着され、その先端に工具18を装着して加工を行うことがある。
このようなアタッチメント181を装着した状態では、移動部分であるラム16の重心位置はG1である。一方、アタッチメント181を取り外した状態(ラム16に工具18が直接装着された状態)では、移動部分であるラム16の重心位置はG0(図8に示す第1実施形態の重心位置Gと同じ)である。
【0110】
本実施形態では、このような2つの重心位置G1,G0に対応するために、各々の直下に荷重支持用移動部材38および補助荷重支持用移動部材381を配置している。
すなわち、アタッチメント181を装着しない状態の重心位置G0の直下には荷重支持用移動部材38が設置されている。荷重支持用移動部材38は、前述した第1実施形態と同様である。
一方、アタッチメント181を装着した状態の重心位置G1の直下には補助荷重支持用移動部材381が設置されている。
【0111】
このような本実施形態では、工作機械10の制御装置において、アタッチメント181の装着の有無が識別できるから、この有無に応じて、荷重支持用移動部材38と、補助荷重支持用移動部材381とを、切り替えて用いることができる。
そして、このような切り替えにより、アタッチメント181の装着の有無に応じて重心位置G0,G1が変化しても、その直下および直上で荷重支持を行うことができる。
【0112】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形等は本発明に含まれる。
【0113】
すべり案内機構50は、潤滑用および摩耗防止用に油静圧案内機構40と同じ潤滑油を用いるものに限らず、他の油脂類を利用し、あるいは摺動面51に固体潤滑材料を用いるものであってもよい。このような場合でも、シール部42により油静圧案内機構40からの潤滑油の漏出を防止できるため、漏出した潤滑油によりすべり案内機構50に不都合が生じることはない。
【0114】
前述した実施形態の油静圧案内機構40では、供給経路43から静圧室41へと潤滑油を供給し、静圧室41から排出された潤滑油を回収経路44から回収し、タンク61に戻す循環式の油静圧構造を採用した。
ただし、循環式に限らず、単なる流通式の油静圧構造としてもよい。例えば、回収経路44から回収した潤滑油をタンク61に戻さず、供給経路43から静圧室41に潤滑油を供給し、静圧室41で静圧を発生させた後、回収経路44で回収するだけとしてもよい。
【0115】
さらに、油静圧案内機構40としては、静圧室41に貯められた潤滑油の静圧を利用する封入式の油静圧構造としてもよい。この場合でも、静圧室41内の潤滑油の量および圧力を所定値に維持するために、供給経路43は設置することが必要であるが、回収経路44については省略することができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、工作機械、とくに水平移動する移動部分を有する工作機械として利用できる。
【符号の説明】
【0117】
10…工作機械、11…基台、12…テーブル、13…コラム、14…ヘッド、15…挿通孔、151,151S…拡張部材、151B…上面、15A…上内側面、15B…下内側面(荷重支持用案内面)、15C…左内側面、15D…右内側面、16…ラム、16A…上外側面(第1の姿勢保持用案内面)、16B…下外側面(第2の姿勢保持用案内面)、16C…左外側面(第3の姿勢保持用案内面)、16D…右外側面(第4の姿勢保持用案内面)、17…主軸、18…工具、181…アタッチメント、19…カバー、21…B軸移動機構、22…Y軸移動機構、23…Z軸移動機構、30…姿勢保持用案内機構、30A…第1の姿勢保持用案内機構、30B…第2の姿勢保持用案内機構、30C…第3の姿勢保持用案内機構、30D…第4の姿勢保持用案内機構、31…姿勢保持用移動部材、31A…第1の姿勢保持用移動部材、31B…第2の姿勢保持用移動部材、31C…第3の姿勢保持用移動部材、31D…第4の姿勢保持用移動部材、37,37S…荷重支持用案内機構、38,38S…荷重支持用移動部材、381…補助荷重支持用移動部材、40…油静圧案内機構、41…静圧室、411…環状溝、412…内側部分、413…外側部分、414…連通溝、42…シール部、421…シール溝、422…シール部材、43…供給経路、431…連通孔、44…回収経路、441…連通孔、49…平滑面、50…案内機構、51…摺動面、52…給油溝、53…給油経路、55…回収樋、56…廃油タンク、60…潤滑油供給装置、61…タンク、62…ポンプ、63…供給配管、64…回収配管、65…フィルタ、66…供給配管、67…ポンプ、68…フィルタ、69…タンク、G…重心位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12