特許第6513085号(P6513085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6513085
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】ガス交換器および人工肺
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/32 20060101AFI20190425BHJP
【FI】
   A61M1/32
【請求項の数】28
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-526724(P2016-526724)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公表番号】特表2016-528965(P2016-528965A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】IB2014002308
(87)【国際公開番号】WO2015008163
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年6月20日
(31)【優先権主張番号】61/846,888
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501320755
【氏名又は名称】パルティ、ヨーラム
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】パルティ、ヨーラム
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/041950(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/091074(WO,A2)
【文献】 特開2003−315349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/32
A61M 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液細胞および血漿を含む血液を処理するためのガス交換ユニットであって、
第1の面および第2の面を有する基板と、
前記基板の前記第2の面上に間隔をおいて配置された複数のナノチューブであって、前記ナノチューブが、前記ナノチューブによって囲まれた複数の血液流路を残す構成で前記基板上に配置されており、前記流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有し、前記流路のそれぞれが、前記血液が通って流れるのに十分なほど広く、前記ナノチューブが、前記血液が前記流路を通って流れるときに前記流路内に前記血漿を保持するのに十分なほど互いに近接して離間されており、前記基板が、前記基板の前記第1の面と前記基板の前記第2の面との間に延在する複数の穴を有し、前記穴のそれぞれが、前記流路のそれぞれに位置合わせされている、複数のナノチューブと、
前記基板の前記第1の面に前記血液を供給するように構成された血液入口であって、該血液入口を介して到来する前記血液が前記穴を通って流れ、続いて前記流路を通るように前記穴と流体連通している、血液入口と、
前記流路の前記流出端部から到来する前記血液を受け入れるように構成された血液出口と、
前記基板および前記ナノチューブのアレイを収容するように構成されたハウジングであって、前記ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されたガス入口および前記ナノチューブ間の前記空間から離れる方向に前記ガスを送るために構成されたガス出口を有するハウジングと
を備えるガス交換ユニット。
【請求項2】
前記ナノチューブのそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、前記基板に対して垂直である、請求項1に記載のガス交換ユニット。
【請求項3】
前記ナノチューブが、アレイの構成で前記基板上に配置されており、前記アレイ内には、複数の空隙があり、該空隙のそれぞれが、前記流路のそれぞれに対応する、請求項1に記載のガス交換ユニット。
【請求項4】
前記流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有する、請求項1に記載のガス交換ユニット。
【請求項5】
前記ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する、請求項1に記載のガス交換ユニット。
【請求項6】
前記ナノチューブの中心が、前記ナノチューブの直径の1.5倍〜前記ナノチューブの直径の5倍だけ離間されている、請求項1に記載のガス交換ユニット。
【請求項7】
前記ナノチューブのそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有し、前記ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する、請求項1に記載のガス交換ユニット。
【請求項8】
前記ナノチューブの中心が、前記ナノチューブの直径の1.5倍〜前記ナノチューブの直径の5倍だけ離間されている、請求項7に記載のガス交換ユニット。
【請求項9】
前記ナノチューブが、アレイの構成で前記基板上に配置されており、前記アレイ内には、複数の空隙があり、該空隙のそれぞれが、前記流路のそれぞれに対応する、請求項8に記載のガス交換ユニット。
【請求項10】
血液細胞および血漿を含む血液を処理するためのガス交換器であって、
複数のガス交換ユニットであって、該ガス交換ユニットのそれぞれが、(a)第1の面および第2の面を有する基板、(b)前記基板の前記第2の面上に間隔をおいて配置された複数のナノチューブであって、前記ナノチューブが、前記ナノチューブによって囲まれた複数の血液流路を残す構成で前記基板上に配置されており、前記流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有し、前記流路のそれぞれが、前記血液が通って流れるのに十分なほど広く、前記ナノチューブが、前記血液が前記流路を通って流れるときに前記流路内に前記血漿を保持するのに十分なほど互いに近接して離間されており、前記基板が、前記基板の前記第1の面と前記基板の前記第2の面との間に延在する複数の穴を有し、前記穴のそれぞれが、前記流路のそれぞれに位置合わせされている、複数のナノチューブ、(c)前記基板の前記第1の面に前記血液を供給するように構成された血液入口であって、該血液入口を介して到来する前記血液が前記穴を通って流れ、続いて前記流路を通るように前記穴と流体連通している、血液入口、および(d)前記流路の前記流出端部から到来する前記血液を受け入れるように構成された血液出口を含む、複数のガス交換ユニットと、
前記複数のガス交換ユニットを収容するように構成されたハウジングであって、前記ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されたガス入口および前記ナノチューブ間の前記空間から離れる方向に前記ガスを送るために構成されたガス出口を有するハウジングと、
流入する前記血液を前記ガス交換ユニットの少なくとも1つに送るために構成された血液流入路と、
前記ガス交換ユニットの少なくとも1つから、流出する前記血液を送るために構成された血液流出路と
を備えるガス交換器。
【請求項11】
前記ガス交換ユニットが、前記血液が直列の前記ガス交換ユニットを通って流れるように相互接続されている、請求項10に記載のガス交換器。
【請求項12】
前記ガス交換ユニットのそれぞれにおいて、前記ナノチューブのそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有し、前記ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する、請求項11に記載のガス交換器。
【請求項13】
前記ガス交換ユニットのそれぞれにおいて、前記ナノチューブが、アレイの構成で前記基板上に配置されており、前記アレイ内には、複数の空隙があり、該空隙のそれぞれが、前記流路のそれぞれに対応する、請求項12に記載のガス交換器。
【請求項14】
前記ガス交換ユニットが、前記血液が並列の前記ガス交換ユニットを通って流れるように相互接続されている、請求項10に記載のガス交換器。
【請求項15】
第1の面および第2の面を有する基板と、
前記基板の前記第2の面上に間隔をおいて配置された複数のナノチューブであって、前記ナノチューブが、前記ナノチューブによって囲まれた複数の流体流路を残す構成で前記基板上に配置されており、前記流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有し、前記流路のそれぞれが、前記流体が通って流れるのに十分なほど広く、前記ナノチューブが、前記流体が前記流路を通って流れるときに前記流路内に前記流体を保持するのに十分なほど互いに近接して離間されており、前記基板が、前記基板の前記第1の面と前記基板の前記第2の面との間に延在する複数の穴を有し、前記穴のそれぞれが、前記流路のそれぞれに位置合わせされている、複数のナノチューブと、
前記基板の前記第1の面に前記流体を供給するように構成された流体入口であって、該流体入口を介して到来する前記流体が前記穴を通って流れ、続いて前記流路を通るように前記穴と流体連通している、流体入口と、
前記流路の前記流出端部から到来する前記流体を受け入れるように構成された流体出口と、
前記基板および前記ナノチューブのアレイを収容するように構成されたハウジングであって、前記ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されたガス入口および前記ナノチューブ間の前記空間から離れる方向に前記ガスを送るために構成されたガス出口を有するハウジングと
を備える機器。
【請求項16】
前記ナノチューブのそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、前記基板に対して垂直である、請求項15に記載の機器。
【請求項17】
前記ナノチューブが、アレイの構成で前記基板上に配置されており、前記アレイ内には、複数の空隙があり、該空隙のそれぞれが、前記流路のそれぞれに対応する、請求項15に記載の機器。
【請求項18】
複数のユニットであって、該ユニットのそれぞれが、(a)第1の面および第2の面を有する基板、(b)前記基板の前記第2の面上に間隔をおいて配置された複数のナノチューブであって、前記ナノチューブが、前記ナノチューブによって囲まれた複数の流体流路を残す構成で前記基板上に配置されており、前記流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有し、前記流路のそれぞれが、前記流体が通って流れるのに十分なほど広く、前記ナノチューブが、前記流体が前記流路を通って流れるときに前記流路内に前記流体を保持するのに十分なほど互いに近接して離間されており、前記基板が、前記基板の前記第1の面と前記基板の前記第2の面との間に延在する複数の穴を有し、前記穴のそれぞれが、前記流路のそれぞれに位置合わせされている、複数のナノチューブ、(c)前記基板の前記第1の面に前記流体を供給するように構成された流体入口であって、該流体入口を介して到来する前記流体が前記穴を通って流れ、続いて前記流路を通るように前記穴と流体連通している、流体入口、および(d)前記流路の前記流出端部から到来する前記流体を受け入れるように構成された流体出口を含む複数のユニットと、
前記複数のユニットを収容するように構成されたハウジングであって、前記ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されたガス入口および前記ナノチューブ間の前記空間から離れる方向に前記ガスを送るために構成されたガス出口を有するハウジングと、
流入する前記流体を前記ユニットの少なくとも1つに送るために構成された流体流入路と、
前記ユニットの少なくとも1つから流出する前記流体を送るために構成された流体流出路と
を備える機器。
【請求項19】
前記ユニットが、前記流体が直列の前記ユニットを通って流れるように相互接続されている、請求項18に記載の機器。
【請求項20】
前記ユニットのそれぞれにおいて、前記ナノチューブのそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、前記基板に対して垂直であり、前記流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有し、前記ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する、請求項19に記載の機器。
【請求項21】
前記ユニットのそれぞれにおいて、前記ナノチューブが、アレイの構成で前記基板上に配置されており、前記アレイ内には、複数の空隙があり、該空隙のそれぞれが、前記流路のそれぞれに対応する、請求項19に記載の機器。
【請求項22】
前記ユニットが、前記流体が並列の前記ユニットを通って流れるように相互接続されている、請求項18に記載の機器。
【請求項23】
産業用流体流システム内において流体とガスとを相互作用させるための方法であって、
ナノチューブによって囲まれた複数の流体流路を設けるステップであって、前記流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有し、前記流路のそれぞれが、前記流体が通って流れるのに十分なほど広く、前記ナノチューブが、前記流体が前記流路を通って流れるときに前記流路内に前記流体を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される、ステップと、
前記流体に前記流路を通過させるステップと、
ガスに、前記流体流路の外の前記ナノチューブ間の空間を通過させるステップであって、前記ガスが、前記流路内の前記流体と相互作用する、ステップと
を含む方法。
【請求項24】
前記流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記ナノチューブの中心が、前記ナノチューブの直径の1.5倍〜前記ナノチューブの直径の5倍だけ離間されている、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記ガスと前記流路内の前記流体との前記相互作用が、ガスの交換を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記ガスと前記流路内の前記流体との前記相互作用が、熱の交換を含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
肺の主な機能は、周囲空気と血液との間でガスを交換することである。この枠組みにおいて、Oは、環境から血液に移動され、一方でCOは、体から排出される。
【0002】
通常の休んでいるヒトでは、これらの過程は、約200〜250cm/分のO入力およびほぼ同じ量のCOの出力と関連する。この交換は、肺血液から肺胞気を分離する、表面積が50〜100mで厚さが0.5〜1μmの生体膜を介して行われる。この過程は、同様の量の血液および空気の流量(約5リットル/分)と関連する。特定の流量で、血液は、膜に「接触」し、この膜を介して、1/3〜1/5秒の期間に拡散が起こる。
【0003】
肺などの天然のシステムにおいて、ガス交換は、2つの区画(肺胞内のガスおよび肺毛細血管の血液中に含まれるガス)を分離する薄い生体膜において起こる拡散によって達成される。肺胞区画内のガスは、呼吸運動により空気またはガスを肺の内外に移動させることによって周囲空気またはガスに近い組成に維持される。ガス交換は、極めて大きな表面積(約70m)の交換膜を介する拡散によって達成される。血液の内外へのガスの拡散のための駆動力は、肺毛細血管を通る非常に多くの血流によって維持される。
【0004】
ナノチューブ(「NT(nanotube)」)は、約1〜100nmの直径を有する不活性の円筒構造である。炭素NTの場合、これらは、六方晶炭素原子メッシュの1つ以上の層から構成される。これらの長さは、cm範囲の値に達する場合がある。図1Aは、炭素から作られた単一壁NTを描いている。現時点で、NTは、よく知られている構造であり、NTを作る方法もよく知られている。図1Bは、互いに平行に配列された炭素ナノチューブのマトリックスの走査型電子顕微鏡写真を描いている。
【0005】
ナノファイバーは、炭素、ケイ素などから作られる同様の構造であり、市販もされている。ナノファイバーは、直径100ナノメートル未満の繊維として定義される(参考文献1参照)。繊維工業において、この定義は、多くの場合、直径1000nm程度の大きさの繊維を含むように拡大される(参考文献2参照)。炭素ナノファイバーは、触媒合成によって生産される黒鉛化繊維である。無機ナノファイバー(場合によりセラミックナノファイバーと呼ばれる)は、様々な種類の無機物質から調製され得る。最も頻繁に言及される、ナノファイバーの形態を有するセラミック材料は、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、窒化チタン(TiN)、またはプラチナ(Pt)である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様は、血液細胞および血漿を含む血液を処理するためのガス交換ユニットに関する。このガス交換ユニットは、第1の面および第2の面を有する基板を含む。複数のナノチューブは、ナノチューブ間に空間を空けて基板の第2の面上に配置され、ナノチューブは、ナノチューブによって囲まれる複数の血液流路(blood flow channel)を残す構成で基板上に配置され、流路のそれぞれは、流入端部(inflow end)および流出端部(outflow end)を有する。流路のそれぞれの幅は、血液が通って流れるのに十分なほど広く、ナノチューブは、血液が流路を通って流れるときに流路内に血漿を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される。基板は、基板の第1の面と基板の第2の面との間に延在する複数の穴を有し、穴のそれぞれは、流路のそれぞれに位置合わせされる。また、このガス交換ユニットは、基板の第1の面に血液を供給するように構成される血液入口を含み、血液入口は、血液入口を介して到来する血液が、穴を通って流れ、続いて流路を通るように穴と流体連通する。また、このガス交換ユニットは、流路の流出端部から到来する血液を受け入れるように構成される血液出口を含む。また、このガス交換ユニットは、基板およびナノチューブのアレイ(array of nanotubes)を収容するように構成されるハウジングを含み、ハウジングは、ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されるガス入口およびナノチューブ間の空間から離れる方向にガスを送るために構成されるガス出口を有する。
【0007】
一部の実施形態において、ナノチューブのそれぞれは、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれは、基板に対して垂直である。一部の実施形態において、ナノチューブは、アレイの構成で基板上に配置され、アレイ内には、複数の空隙があり、空隙のそれぞれは、流路のそれぞれに対応する。一部の実施形態において、流路のそれぞれは、2〜500μmの直径を有する。一部の実施形態において、ナノチューブは、5〜20nmの直径を有する。一部の実施形態において、ナノチューブの中心は、ナノチューブの直径の1.5倍〜ナノチューブの直径の5倍だけ離間される。一部の実施形態において、ナノチューブのそれぞれは、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれは、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれは、2〜500μmの直径を有し、ナノチューブは、5〜20nmの直径を有する。ナノチューブの中心は、ナノチューブの直径の1.5倍〜ナノチューブの直径の5倍だけ離間されてもよい。一部の実施形態において、ナノチューブは、アレイの構成で基板上に配置され、アレイ内には、複数の空隙があり、空隙のそれぞれは、流路のそれぞれに対応する。
【0008】
本発明の別の態様は、血液細胞および血漿を含む血液を処理するためのガス交換器に関する。このガス交換器は、複数のガス交換ユニットを含む。これらのガス交換ユニットのそれぞれは、(a)第1の面および第2の面を有する基板、(b)複数のナノチューブであって、該ナノチューブ間に空間を空けて基板の第2の面上に配置される複数のナノチューブであって、ナノチューブが、ナノチューブによって囲まれる複数の血液流路を残す構成で基板上に配置される複数のナノチューブを含む。流路のそれぞれは、流入端部および流出端部を有し、流路のそれぞれの幅は、血液が通って流れるのに十分なほど広い。ナノチューブは、血液が流路を通って流れるときに流路内に血漿を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される。基板は、基板の第1の面と基板の第2の面との間に延在する複数の穴を有し、穴のそれぞれは、流路のそれぞれに位置合わせされる。また、これらのガス交換ユニットのそれぞれは、(c)基板の第1の面に血液を供給するように構成される血液入口であって、血液入口が、血液入口を介して到来する血液が、穴を通って流れ、続いて流路を通るように穴と流体連通する血液入口および(d)流路の流出端部から到来する血液を受け入れるように構成される血液出口を含む。また、このガス交換器は、複数のガス交換ユニットを収容するように構成されるハウジングを含む。このハウジングは、ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されるガス入口およびナノチューブ間の空間から離れる方向にガスを送るために構成されるガス出口を有する。また、このガス交換器は、流入する血液をガス交換ユニットの少なくとも1つに送るために構成される血液流入路およびガス交換ユニットの少なくとも1つから、流出する血液を送るために構成される血液流出路を含む。
【0009】
一部の実施形態において、ガス交換ユニットは、血液が直列のガス交換ユニットを通って流れるように相互接続される。一部の実施形態において、ガス交換ユニットのそれぞれでは、ナノチューブのそれぞれが、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれが、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有し、ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する。一部の実施形態において、ガス交換ユニットのそれぞれでは、ナノチューブが、アレイの構成で基板上に配置され、アレイ内には、複数の空隙があり、空隙のそれぞれが、流路のそれぞれに対応する。一部の実施形態において、ガス交換ユニットは、血液が並列のガス交換ユニットを通って流れるように相互接続される。
【0010】
本発明の別の態様は、血液細胞および血漿を含む血液を処理するための方法に関する。この方法は、ナノチューブによって囲まれる複数の血液流路であって、流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有する複数の血液流路を設けるステップを含む。流路のそれぞれの幅は、血液が通って流れるのに十分なほど広く、ナノチューブは、血液が流路を通って流れるときに流路内に血漿を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される。また、この方法は、血液に流路を通過させるステップおよびガスに、血液流路の外のナノチューブ間の空間を通過させるステップであって、ガスが、流路内の血液と相互作用するステップを含む。
【0011】
一部の実施形態において、流路のそれぞれは、2〜500μmの直径を有する。一部の実施形態において、ナノチューブは、5〜20nmの直径を有する。一部の実施形態において、ナノチューブの中心は、ナノチューブの直径の1.5倍〜ナノチューブの直径の5倍だけ離間される。
【0012】
本発明の別の態様は、第1の面および第2の面を有する基板を含む機器に関する。複数のナノチューブは、ナノチューブ間に空間を空けて基板の第2の面上に配置され、ナノチューブは、ナノチューブによって囲まれる複数の流体流路を残す構成で基板上に配置される。流路のそれぞれは、流入端部および流出端部を有し、流路のそれぞれの幅は、流体が通って流れるのに十分なほど広く、ナノチューブは、流体が流路を通って流れるときに流路内に流体を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される。基板は、基板の第1の面と基板の第2の面との間に延在する複数の穴を有し、穴のそれぞれは、流路のそれぞれに位置合わせされる。また、この機器は、基板の第1の面に流体を供給するように構成される流体入口を含む。流体入口は、流体入口を介して到来する流体が、穴を通って流れ、続いて流路を通るように穴と流体連通する。また、この機器は、流路の流出端部から到来する流体を受け入れるように構成される流体出口ならびに基板およびナノチューブのアレイを収容するように構成されるハウジングを含む。このハウジングは、ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されるガス入口およびナノチューブ間の空間から離れる方向にガスを送るために構成されるガス出口を有する。
【0013】
一部の実施形態において、ナノチューブのそれぞれは、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれは、基板に対して垂直である。一部の実施形態において、ナノチューブは、アレイの構成で基板上に配置され、アレイ内には、複数の空隙があり、空隙のそれぞれは、流路のそれぞれに対応する。
【0014】
本発明の別の態様は、複数のユニットを含む機器に関する。ユニットのそれぞれは、(a)第1の面および第2の面を有する基板ならびに(b)複数のナノチューブであって、該ナノチューブ間に空間を空けて基板の第2の面上に配置される複数のナノチューブを含む。ナノチューブは、ナノチューブによって囲まれる複数の流体流路を残す構成で基板上に配置され、流路のそれぞれは、流入端部および流出端部を有する。流路のそれぞれの幅は、流体が通って流れるのに十分なほど広く、ナノチューブは、流体が流路を通って流れるときに流路内に流体を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される。基板は、基板の第1の面と基板の第2の面との間に延在する複数の穴を有し、穴のそれぞれは、流路のそれぞれに位置合わせされる。また、ユニットのそれぞれは、(c)基板の第1の面に流体を供給するように構成される流体入口であって、流体入口が、流体入口を介して到来する流体が、穴を通って流れ、続いて流路を通るように穴と流体連通する流体入口および(d)流路の流出端部から到来する流体を受け入れるように構成される流体出口を含む。また、機器は、複数のユニットを収容するように構成されるハウジングを含み、ハウジングは、ナノチューブ間の空間にガスを送るために構成されるガス入口およびナノチューブ間の空間から離れる方向にガスを送るために構成されるガス出口を有する。また、機器は、流入する流体をユニットの少なくとも1つに送るために構成される流体流入路およびユニットの少なくとも1つから、流出する流体を送るために構成される流体流出路をさらに含む。
【0015】
一部の実施形態において、ユニットは、流体が直列のユニットを通って流れるように相互接続される。一部の実施形態において、ユニットのそれぞれでは、ナノチューブのそれぞれが、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれが、基板に対して垂直であり、流路のそれぞれが、2〜500μmの直径を有し、ナノチューブが、5〜20nmの直径を有する。一部の実施形態において、ユニットのそれぞれでは、ナノチューブが、アレイの構成で基板上に配置され、アレイ内には、複数の空隙があり、空隙のそれぞれが、流路のそれぞれに対応する。一部の実施形態において、ユニットは、流体が直列のユニットを通って流れるように相互接続される。
【0016】
本発明の別の態様は、流体とガスとを相互作用させるための方法に関する。この方法は、ナノチューブによって囲まれる複数の流体流路であって、流路のそれぞれが、流入端部および流出端部を有し、流路のそれぞれの幅が、流体が通って流れるのに十分なほど広く、ナノチューブが、流体が流路を通って流れるときに流路内に流体を保持するのに十分なほど互いに近接して離間される複数の流体流路を設けるステップを含む。また、この方法は、流体に流路を通過させるステップおよびガスに、流体流路の外のナノチューブ間の空間を通過させるステップであって、ガスが、流路内の流体と相互作用するステップを含む。
【0017】
一部の実施形態において、流路のそれぞれは、2〜500μmの直径を有する。一部の実施形態において、ナノチューブは、5〜20nmの直径を有する。一部の実施形態において、ナノチューブの中心は、ナノチューブの直径の1.5倍〜ナノチューブの直径の5倍だけ離間される。一部の実施形態において、ガスと流路内の流体との相互作用は、ガスの交換を含む。一部の実施形態において、ガスと流路内の流体との相互作用は、熱の交換を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】炭素から作られた単一壁ナノチューブを描いている。
図1B】互いに平行に配列された炭素ナノチューブのマトリックスの走査型電子顕微鏡写真である。
図2A】直列に接続された第1のタイプの2つのガス交換ユニットを有するガス交換器の概略図である。
図2B】直列に接続された第2のタイプの2つのガス交換ユニットを有するガス交換器の概略図である。
図3A図2Bの実施形態のための、ナノチューブを配置する好ましい方法を描いている。
図3B図2Aの実施形態のための、ナノチューブを配置する好ましい方法を描いている。
図3C図2Bの実施形態のための、ナノチューブを配置する別の好ましい方法を描いている。
図3D図3Aの詳細図である。
図4A図2Bの実施形態の単一のガス交換ユニットのより詳細な図である。
図4B図4Aの一領域の拡大図である。
図5】並列に接続されたガス交換ユニットを有する10個のガス交換器を描いている。
図6A】ガス交換器を人工肺として使用し得る方法を描いている。
図6B】ガス交換器を人工肺として使用し得る別の方法を描いている。
図6C】ガス交換器を人工肺として使用し得るさらに別の方法を描いている。
図7】ガス交換器を呼吸補助装置として使用し得る方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ガス交換器(「GE(Gas Exchanger)」)に関し、このガス交換器は、ここでは、区画間(ヒト(または動物)の血液と周囲空気または何らかの他のガスとの間など)の効率的なガス交換(O、COなど)のための人工肺の枠組み内で説明される。本明細書で説明される主な例は、ナノチューブから作られる構造に基づく人工肺および呼吸補助である。
【0020】
GEシステムは、1つ以上のガス交換ユニット110(GEU(gas exchange unit))を含み、図2Aは、直列に接続された2つのこのようなGEUの概略図である。GEU110のそれぞれは、互いに平行に配列された血液流路2(「BFC(Blood Flow Channel)」)のマトリックスを含む。図2Aは、左の1つのGEUの、4つの平行なBFCの第1の組20および右の第2のGEUの、4つの平行なBFCの第2の組20’を概略的に描いており、第1のGEUは、第2のGEUと直列に接続されている。図2Aは、各GEUにおいて4つの平行なBFCしか概略的に描いていないが、実際には、より多くのBFCが、各GEUに存在し得ることに留意されたい。例えば、BFCの直径が、20μmであり、BFCの中心が、40μm離間される場合、62,500のBFCが、1cmの面積に入る。また、図2Aは、直列の2つのGEUを描いているが、その数は変更されてもよく、特定のGEは、直列の2つより多くのGEUまたは1つのみのGEUを有してもよいことに留意されたい。代替的な実施形態において、複数のGEUは、直列の代わりに並列に接続されてもよい。
【0021】
各BFCは、図3Bに示されている(が、図2Aには示されていない)ナノチューブによって囲まれている。図3Bは、図2Aの実施形態のためにBFCを形作るようにNTを配置する好ましい方法を描いており、NTは、領域パターンに配置されている。図3Bに描かれている図は、BFCおよびNTの断面であり、NTの領域には、BFC2を形作る空隙がある。一部の実施形態において、空隙の直径は、2〜500μmであり、一部の実施形態では、直径は、5〜および20μmである。(本明細書のすべての図は一定の縮尺で描かれていないことに留意されたい)。領域内(すなわち、空隙の外)のNTは、好ましくは、二次元マトリックスとして配置される。NTは、好ましくは1〜100nm、より好ましくは5〜20nm、さらにより好ましくは10〜20nmのオーダーの直径を有する。NTの中心間の最適な距離は、NTが互いに離れ過ぎないようにNTの直径に関係し得る。より具体的には、より細いNTが使用される場合、NTは、好ましくは、互いにより近接して密集されるべきである。好ましくは、NT間の間隔は、NTの直径の少数個分以下であり、より好ましくは、直径1個分のオーダーであり。例えば、直径10nmのNTが使用される場合、NTの中心は、好ましくは、互いに約20nm離間される。これは、隣り合うNT間の間隔が、約1個分の直径であることを意味する。しかしながら、直径20nmのNTが使用される場合、NTは、好ましくは、もっと離間される(NTの中心は、約40nm離間される)。NTの直径とNTの間隔との適切な関係は、NTの直径の1.5倍〜NTの直径の5倍にNTの中心を離間させることである。例えば、直径10nmのNTが使用される場合、NTの中心は、好ましくは、15〜50nm離間されるべきである。より好ましくない実施形態において、NTの中心は、NTの直径の1倍〜10倍(さらにはNTの直径の0.5倍〜20倍に)離間される。NTの密集度(packing)または密度は、NTの「森」を通るガスの流れに対する抵抗に影響を及ぼし、この抵抗は、特定の必要性に応じて調整されてもよい付加的な考慮項目であることに留意されたい。
【0022】
図1Bに描かれているような、互いに平行な炭素NTの大きな集合体を作製するための方法は、Highly−Ordered Carbon Nanotube Arrays for Electronics Applications,Applied Physics Letters(1999);75,367−369においてLiらによって説明されている。NTの所望の配置は、標準的な技術を用いて所望の位置にNTを配置することによって達成されてもよい。例えば、NTは、リソグラフィベースの行程を用いて基板(NTベースとしの役割を果たす)上の所望の位置に作製されてもよい。これは、所望のパターンを形成するためにマスキングされた基板上に触媒を堆積させ、次に、これを炭素ガスにさらすことによって達成されてもよい。次に、ガスからの炭素が、触媒が堆積されたスポット上にNTを形成する(自己組織化によって)。NTは、基板の他の部分上には成長しない。
【0023】
図2Aに戻ると、血液は、左から右に(血流方向107に)、描かれている装置を通って流れる。人の血液循環に由来する血液は、流入通路106を通って、左の支持体100、右の第1のNTベース120、およびケーシング111によって血流方向107に対して垂直な方向に画成された最初の血液プール105に流入する。代替的な実施形態において、血流方向107に対して垂直な方向の、血液プールの境界は、適切なリング筐体を用いて実施されてもよい。最初の血液プールの幅は、d1であり、d1に適した寸法は、0.1〜4mmである。しかしながら、この代わりに、著しい抵抗を流れに加えることなく血流を可能にする任意の距離d1が使用されてもよい。
【0024】
NTベース120は、好ましくは、基板であって、その上にBFCを囲むNTが作製された基板であり、NTベース120は、各BFCの中央に位置する孔または穴104を有するべきである。NTは、NTベース120から右に延在し、BFCを形作るように距離d2に及ぶ。BFCは、血流の方向107と平行かつガス流方向108に対して垂直に配置されている。一部の好ましい実施形態において、距離d2は、0.1〜1cmである。NTが、NTベース120上に成長され、これに付着したままであるため、ベースの近傍での漏れはないと予期される。NTは、このようなnmスケールの構造を特徴付ける極めて強いファンデルワールス力によって適所にしっかりと保持される。この構成の結果として、プール105に流入する血液は、右に向かって流れてNTベース120の穴104を通り、右に進み続けて第1のGEUのBFC2の第1の組20に入り、これを通る。
【0025】
第2のNTベース120は、好ましくは、BFC2の第1の組20を形作るNTの右端から短い距離(例えば、一部の実施形態では0.1〜4mmまたは一部の実施形態では0.5〜2mm)を離して配置される。血液は、BFCの第1の組から流出するとき、(a)BFC2の第1の組20を形作るNTの右端と、(b)第2のNTベース120との間の隙間に流入する。第2のGEUは、構造がBFC2の第1の組20と同様である、BFC2の第2の組20’を有し、各BFCは、位置合わせされた穴104をNTベースに有する。隙間に流入する血液は、次に、右に向かって流れて第2のNTベース120の穴104を通り、右に進み続けて、第2のGEUのBFC2の第2の組20’に入り、これを通る。
【0026】
血液が、BFC2の第1の組20から流出して、隙間に流入するとき、血液(水ベースの液体である)の表面張力は、炭素NTの疎水性と共に、血液がBFC2の第1の組20を形成するNT間の非常に小さな空間に溢れ出ることを防止するはずであることに留意されたい。その代わりに、血液は、第2のGEUのBFCの直径の桁数が、第1のGEUのNT間の非常に小さな空間よりも大きいことから、右に向かって流れて第2のGEUのBFC2の第2の組20’に入るはずである。このとき、血液は、後方にではなく、圧力勾配によって第2のGEUを通って流れる(すなわち、血流方向107に流れて、第2のNTベース120の孔を通り、次に、第2のGEUのBFC2の第2の組20’を通る)。隣り合うNT間の距離(すなわち、NTの直径の少数個分未満、好ましくは、直径1個分のオーダーの)は、血漿(または水)がNT間の空間を通り抜けることを表面張力に起因して防止するのに十分なほど小さいことに留意されたい。
【0027】
代替的な実施形態において、さらなる段(図示せず)が、直列に追加されてもよい。血液は、最終的に最後のGEUに到達する。最後の支持体100は、好ましくは、BFC2の最後の組20’を形作るNTの右端から短い距離(例えば、一部の実施形態では0.1〜4mmまたは一部の実施形態では0.5〜2mm)を離して配置される。血液は、BFCの最後の組から流出するとき、(a)BFC2の最後の組20’を形作るNTの右端と、(b)最後の支持体100との間の隙間に流入する。そこから、血液は、血液流出通路118に流入する。
【0028】
血液が、段のいずれかのBFC2内にある間、血液は、ガス流領域101でガスと相互作用する機会を有する。これらのガスは、好ましくは血流の方向107(すなわち、図2Aの右への)に対して垂直なガス流方向108(すなわち、図2Aの上への)に流れる。この過程の最後に、血液は、進み続けて流出通路118を通り、血液循環に戻る。BFCが、血液がBFCから漏れないようにするために被覆または膜を有さないことに留意することは重要である。しかしながら、BFCを囲む高密度の疎水性NTおよび水の高い表面張力に起因して、水ベースの流体(血液など)は、BFCを占有するか、これに流れ込むとき、BFCからガス流領域101に漏れ出ない。言い換えれば、BFCを囲むNTは、液体の流れのための事実上の境界を形成する。
【0029】
ケーシング111(剛性の生体適合性のハウジング)は、最初の血液プール105およびケーシング111内に含まれる1つ以上のGEU110をシールする。これは、BFC内の血液とガス流領域101内の空気(または他のガス)との間のガス交換を可能にする。
【0030】
図2Bは、追加の血液プール105が隣り合うGEU段の間に追加されている点を除いて図2Aの実施形態と同様である代替的な実施形態を描いている。この実施形態において、1つのGEUから流出する血液は、次のGEUに流入する前に、平面状の支持体100(左の)とそれに続くNTベース120との間に画成された血液プール105内に集められる。各GEU段のための平面状の支持体100は、前の段のGEUのBFC2の位置に位置合わせされた孔または穴104を有する(最初の段の入力および最後の段の出力(これらはそれぞれ、好ましくは、単一のより大きなポートを有する)を除いて)。特定の段に関して、平面状の支持体100とそれに続くNTベース120との間の距離は、d1であり、d1の適切な寸法は、0.1〜4mmである。しかしながら、この代わりに、著しい抵抗を流れに加えることなく血流を可能にする任意の離隔距離が使用されてもよい。ケーシング111(剛性の生体適合性のハウジング)は、すべての血液プール105およびケーシング111内に含まれるすべてのGEU110をシールする。
【0031】
この図2Bの実施形態において、NTは、上述した図3Bに示されているように配置されてもよい。しかしながら、NTのための代替的なレイアウトもまた、この実施形態に使用され得る。
【0032】
図3Aは、図2Bの実施形態のBFCを形作るようにNTを配置するための第1の代替的な手法を描いている。この手法において、NTは、リング1のそれぞれの内側境界がBFC2を形作るようにリング1のパターンに配置される。描かれている図は、BFCおよびNTの断面である。リングの内側境界の直径は、一部の実施形態では2〜500μmであり、一部の実施形態では5〜20μmである。この手法において、各リングの厚さ(すなわち、リングの最も内側のNTとリングの最も外側のNTとの間の距離)は、好ましくは100nm〜および10μmであり、リング内のNTの中心は、好ましくは、互いに10〜100nm離間される。図3Bの手法と同様に、NTの中心間の距離は、好ましくは、NTが互いに離れ過ぎないようにNTの直径に関係する。図3Dは、図3Aのリング1およびBFC2の詳細図である。リング1のNTは、図3Dに示されているように二次元マトリックスにまたはNTの中心間の適切な間隔を維持する任意の他のレイアウトに配置されてもよい。
【0033】
図3Cは、図2Bの実施形態のBFCを形作るようにNTを配置する第2の代替的な手法を描いている。描かれている図は、BFCおよびNTの断面である。この手法は、追加のNTが構造支持体を設けるために追加されている点を除いて図3Aに描かれている手法と同様である。追加のNTは、図3Cに示されているように支持ブリッジ117を形成するように構成されてもよいが、この代わりに、追加のNTのための代替的なレイアウトが使用されてもよい。このような代替的なレイアウト(図示せず)の例は、縞および格子を含む。追加のNTのレイアウトは、空気流に対する抵抗を過度に増加させることなく構造強度を実現するように選択されてもよい。別の例(図示せず)は、隣り合うBFCの中間点にNTの集団(構造支持体を付加するために柱状に配置される)を追加することである。例えば、直径10μmの円を埋めるように配置される1組のNT(この組のNTの中心は、互いに10〜100nm離間される)が、支柱としの役割を果たしてもよい。このような支柱の各NTは、BFCを囲むリングのNTと同じ長さd2を有する。
【0034】
上で説明した実施形態のすべてに関して、流入通路106の血液は、好ましくは、酸素が少なく、かつCOが豊富な静脈血である。2つの血液ガスは、BFCの周囲のガス流領域101に、好ましくはBFC血流方向107に対して垂直な方向108に流れ込むガスとの交換を受ける。好ましくは、この流入ガスは、ガス交換が濃度勾配に沿って拡散により行われるように酸素が豊富であり、低濃度またはゼロ濃度のCOを有する。この結果、流出通路118の血液は、流入血液よりもOがより豊富となる。
【0035】
ガス交換の効果は、流れる血液と、酸素または空気であってもよい流れるガスとの接触の面積の関数である。上で言及したように、通常の1対の肺において、この接触面積は、一般的に約70mであり、一方、血液流量は、5〜7L/分であり、空気流量も同様である。通常のヒトの肺で交換される酸素またはCOの量は、一般的に200〜250cm/分である。
【0036】
ここで、通常の生理的要求を満たすガス交換のパラメータを計算しよう。ガス交換に必要とされるBFCの総表面積は、BFCの直径および密集度(すなわち、BFC間の距離およびGEの容積内のBFCの総数)の一次関数である。2リットル(例えば、10cm×10cm×20cm)の全容積を有するGEに関して、交換に利用可能な表面積は、GE内のGEUの配置(すなわち、直列もしくは並列の)またはそれらの空間構成とは無関係である。このようなGEに関して、BFCの半径が10μmであり、BFCの中心から中心までの距離が40μmであると仮定した場合、ガス−血液交換の総面積は、一般的な1対の肺とほぼ等しい約80mに近づく。したがって、Oの拡散能力は、毎分2000cm(これは、250cm/分の要求を上回る)を上回り、血液量は、約400cm(これは、大人のヒトの呼吸システムと同程度である)になる。
【0037】
図4Aは、図2Bの変種の単一のGEU110のより詳細な図であり、ここでは、NTは、リング1として配置されている(図3Aおよび図3Dに示されているように)。GEU110は、左にある第1の支持体100および第1のNTベース120と、右にある1対の支持体100との間に配置された1組の互いに平行なBFCを有する。Oの豊富なガスは、ガス入口116に流入し、BFC2を通って流れ、ガス出口114から流出する。ガスは、BFC2を通って流れるとき、BFC内の血液と接触し、これにより、ガスが交換され得る。4A−1は、第1の支持体100の断面であり、支持体内の孔を示しており、4A−2は、1組のBFC2の断面である。NTベース120内の孔は、図4Aの領域4A−3の拡大図である図4Bに最もよく見られるようにBFCに位置合わせされている。支持体100内の孔もまた、図4Bに最もよく見られるように前の段のBFCに位置合わせされている。図4Aは、22のBFCのみを概略的に示しているが、実際には、上で説明したように互いにかなり近接して離間されたより多くのBFCが存在し得ることに留意されたい。
【0038】
全体的なGEは、好ましくは、互いに接続された複数のGEUを含む。GEUは、GEを形成するために直列または並列に接続されてもよい。GEUを直列に接続すると、流れ抵抗が増加するため、直列に接続されるGEUの数は、好ましくは制限されるべきである(例えば、10以下に)。また、GEUは、直列/並列の組み合わせで接続されてもよい。例えば、3つのGEUが、直列に接続されてもよく、次に、結果として得られた3つで1組のGEUが、3つの直列に接続されたGEUの5つの同様の組と並列に接続されてもよい。また、異なる直列/並列の組み合わせが使用されてもよい。
【0039】
特定のGEに使用されるGEUの数は、拡散に必要な表面積に応じて異なってもよい。一部の実施形態において、GEは、直列に接続された2〜20のGEUまたは直列に接続された2〜10のGEUを含んでもよい。
【0040】
随意に、複数のGEUは、サブシステムとして組み合わされてもよく、これらのサブシステムは、全体的なGEを形成するために直列に、並列に、または直列/並列の組み合わせで接続されてもよい。BFCの直径が20μmであり、BFCの中心が、互いに40μm離間される場合、62,500のBFCが、1cmの面積に入り、1.63・10g/(s cm)の抵抗をBFCを通る流れに加える。GEで用いるサブシステムの適切な寸法の一例は、幅10cm、高さ10cm、および厚さ約1.1cmである。1.1cmの厚さは、両端の付加的な血液プール105に加えて、10のGEUであって、それぞれが、0.1cmの厚さであり、図2Aに描かれているように直列に配置され、9つのNTベース120(それぞれが、GEU間の0.1mmの厚さをなす)によって分離された10のGEUから作られてもよい。このとき、これらの10×10×1.1cmのサブシステムは、完全なGEを作るために並列に構成されてもよい。図5は、並列に接続された10のこのようなサブシステム200を描いている。20のこのようなサブシステムが、並列に配置される場合、流れに対する抵抗が十分に低くなるため、必要な5〜7L/分の血流量を発生させるためには、50mmHg未満が必要とされる(上で説明したBFCの直径および間隔をそれぞれに有する10cm×10cm×1.1cmのサブシステムに関して)。この構成に関するドウェル時間(すなわち、流れる血液が入力から出力まで流れるときにガス交換にさらされる時間)は、1秒(これは、0.2〜0.4秒の必要最小値を十分に上回る)を上回る。
【0041】
代替的な構成において、サブシステムは、より小さくてもよく、例えば、幅2cm、高さ2cm、および厚さ約1cmであり、上で説明した20×20×1.1cmのサブシステムと同様の内部構造を有してもよい。このとき、これらの2×2×1cmのサブシステムは、完全なGEを形成するために並列および/または直列に構成されてもよい。他の代替的な実施形態において、サブシステムは、より大きくてもよい(例えば、幅20cm、高さ20cm、および厚さ約2cmであってもよい)。
【0042】
GEを形成するための、GEUのさらに別の可能な構成は、2000の1cmのユニットを並列に接続してサブシステムにし、次に、10のこのようなサブシステムを直列に接続することである。このようなGEシステムにおいて、酸素拡散の表面積は、生理的な安静呼吸に十分であり、BFCにおける流れに対する抵抗は、わずかに815g/(s cm)である。また、この構成は、5〜7L/分の血液がシステムを通って流れるときに50mmHg未満の血圧低下を有する。
【0043】
本明細書に述べられているGEの拡散能力は、0.5〜1μmの膜(生細胞および基底膜から作られる)が空気と血液との間に挟まれているヒトの肺よりも大幅に高くなり得ることに留意されたい。対照的に、GEでは、空気−血液の直接接触がある。GEのBFCの周囲の連続的なガス流も、自然呼吸中の肺における空気の流入/流出よりも効率的である。
【0044】
次に、COに関してガス交換器の効果について考えよう。COおよびOの水拡散係数は同様であるが、COの溶解度は、O2よりも約24倍高い。酸素化された血液と低減された血液との間のOおよびCOの濃度の差が同様であるとき、COの拡散速度は、Oの約20倍である。したがって、すべての上記の過程におけるCO運搬は、Oよりも優れていると予期される。
【0045】
臨床用途の2つの例は、GEを人工肺として使用することおよびGEを呼吸補助装置として使用することである。
【0046】
図6A図6B、および図6Cは、GE75を人工肺として使用し得る方法を描いており、この場合、GE75は、片方または両方の肺に取って代わる。この用途において、GEは、埋め込まれてもよい(図6Bおよび図6Cに示されているように)し、あるいは外部にあってもよい(図6Aに示されているように)。いずれの場合も、血液は、管類73を介して肺動脈71からGE75に流入し、血液は、管類73を介してGEから肺静脈72に戻される。図6Aおよび図6Bに示されているように、空気または酸素は、ガス入力チューブ77を介してポンプ76によりGE75内に圧送されてもよく、排出物は、排出チューブ78を介して出て行く。
【0047】
あるいは、空気は、図6Cに示されているように気管および主気管支を介して自然呼吸により駆動されてもよい。この場合、空気は、気管支から、チューブ81を介して膨張可能ガスバッグ82(これは膨張し、収縮する(すなわち、吸息および呼息のそれぞれの最中に容積を変化させる))に接続されたGE75に向かってチューブ80内を流れる。チューブ80および81は、GE75を介してバッグ82から流出して主気管支および環境に戻されるガスのための排出チューブとしての役割も果たす。
【0048】
これらの実施形態のすべてにおいて、血流は、右心室または適切な血管によって生じる自然圧力によって維持され得る。あるいは、血流は、長期間にわたって血流を発生させるように設計された外部ポンプまたは埋め込みポンプによって駆動されてもよい。このようなポンプは市販されている。GEから流出した血液は、肺静脈72もしくは複数の肺静脈または任意の他の適切な血管を介して体に戻される。
【0049】
血液および空気の両方の流量は、好ましくは、人の必要性などに適合するように調整可能である。この調整は、必要性の変化(例えば、運動中の)に応じて動的であってもよい。調整は、関連する生理的パラメータ(血液中のOおよび/またはCOの分圧、Hb、O飽和度(酸素測定法)、pHなど)のセンサによって制御されてもよい。O(または他のガス)の必要分(これは、休んでいる成人男性の場合、約250cm/分になる)を供給するためには、約5〜7L/分の酸素化された血液の流量が必要であり、これは、運動中は最大で4〜5倍に増加される必要があり得る。好ましくは考慮されるべきである付加的な要素は、流れる血液がガス拡散過程にさらされる時間(ドウェル時間)である。通常の休んでいるヒトの肺において、この持続時間は、1秒の約1/3〜1/5であり、一方、流速は、通常100cm/sを下回る。GEにおける血流は、これらの要求に適合する。対象の心臓が健康な場合、血流は、患者の心臓によって生成されてもよい。GE内のGEUの直列/並列の構成は、所望の流れ抵抗を実現するために前もって選択されてもよいことに留意されたい。抵抗を増加させるためには、直列に接続されるGEUの数を増加させるべきである。抵抗を低減するためには、直列に接続されるGEUの数を低減すべきであり、また、並列接続の数を増加させるべきである。
【0050】
また、対応する空気(または酸素)の流量は、安静時は約5〜8L/分であり、運動中はこれよりも最大で5倍大きい。埋め込まれるとき、ガス入口116およびガス出口114(図4に示されている)は、図6Cに示されているように患者の気管支システムに接続されてもよく、流れは、呼吸運動によってまたは適切なポンプによって維持されてもよい。GEが、外部にある(図6Aに示されているように)場合または呼吸器の換気能力を使用しないように埋め込まれる場合(図6B)、ガスの入口&出口は、好ましくは、適切なフィルタを介して周囲空気またはガスリザーバに連通する。この場合、ガス流は、適切なポンプによって連続的に駆動されてもよく、適切なセンサによって調節されてもよい。
【0051】
図7は、機能不全の呼吸システムを有する患者に対して血液の補足的な酸素添加を行うためにGEを呼吸補助装置として使用し得る方法の概略図である。これらの場合、GE300は、図示のように外部に配置されるか、あるいは埋め込まれる。この用途において、GEを通って流れる血液は、好ましくは、ここでは大血管(例えば、大腿静脈)から引き出される。GEから流出する血液は、大腿静脈もしくは複数の大腿静脈または任意の他の適切な血管に入れ戻されてもよい。
【0052】
上で説明した実施形態は、ナノチューブを用いて説明されていることに留意されたい。代替的な実施形態において、ナノファイバーが、それらのナノチューブの代わりに使用されてもよい。
【0053】
本発明は、血液へのOの供給および血液からのCOの除去との関連で上で説明されている。しかしながら、本発明は、この用途に限定されず、他のガスを血液に供給するために使用されてもよい。例えば、本発明は、専用の循環を有する体の部分(下肢、脳、腎臓など)に関連して、所望のガスをこの体の部分に供給するために使用されてもよい。これは、局所的に作用することを目的とした化学物質(麻酔ガスまたは治療ガスなど)を供給するために使用されてもよい。このような場合、ガスは、動脈に入力され、静脈などを介して出力される(排出される)。
【0054】
他のタイプのGEでは、血液以外の流体が利用されてもよいことに留意されたい。また、本発明は、医学的利用に限定されず、他のタイプの流体流システム(産業用途を含む)でガスを交換するために使用されてもよい。
【0055】
上で説明した機器のさらなる使用は、熱交換器としてのものである。ガスが、ガスと、装置を通って流れる液体との間で交換されるか否かに関係なく、ガスと流体との間では、それでも熱伝達が起こり得る。結果として、高温流体は、ガスを加熱するために使用されてもよく、低温流体は、ガスを冷却するために使用されてもよく、高温ガスは、流体を加熱するために使用されてもよく、または低温ガスは、流体を冷却するために使用されてもよい。熱伝達は、接触面積が非常に大きく、ガスと流体との間に物理的障壁がないことから、従来技術の装置に比べて非常に効果的であると予期される。随意に、センサおよびポンプが、所望の温度を維持する目的で交換を制御するために使用されてもよい。これらのセンサおよびポンプは、主目的が上で説明した実施形態の場合のようにガス交換である場合にも使用され得る。本発明について、特定の実施形態を参照して説明してきたが、添付の特許請求の範囲で規定されるような、本発明の領域および範囲から逸脱することなく、説明されている実施形態への多数の修正、改変、および変更が可能である。したがって、本発明は、説明されている実施形態に限定されず、本発明は、以下の特許請求の範囲の文言によって規定される完全な範囲およびその均等物を有することが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7