(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
略水平方向に延在する地中空間と、前記地中空間に配置された植物栽培床と、前記地中空間に設けられ前記植物栽培床で生育される植物の成長段階に応じて前記植物栽培床を前記地中空間内で所定の方向へ搬送する搬送手段と、前記植物の生育段階に応じて生育に適するように調整された光を適用する光適用手段と、を備え、前記地中空間は円筒形状のトンネルであり、前記所定の方向は前記トンネルが延びる方向である農業プラントが水平方向に複数並設されている農業プラント施設であって、
前記複数の農業プラントの一方側の各端部同士が、各農業プラントが延びる方向と交差する方向に延びる別の地中空間によって互いに連通されており、
前記別の地中空間は、前記複数の農業プラント内と当該農業プラント施設外との間で物資を輸送する輸送手段を有する、農業プラント施設。
略水平方向に延在する地中空間と、前記地中空間に配置された植物栽培床と、前記地中空間に設けられ前記植物栽培床で生育される植物の成長段階に応じて前記植物栽培床を前記地中空間内で所定の方向へ搬送する搬送手段と、を有し、前記地中空間は円筒形状のトンネルであり、前記所定の方向は前記トンネルが延びる方向である農業プラントを備える農業プラント施設であって、
前記農業プラントが水平方向に複数並設されており、
前記複数の農業プラントの一方側の各端部同士が、各農業プラントが延びる方向と交差する方向に延びる別の地中空間によって互いに連通されており、
前記別の地中空間は、前記複数の農業プラント内と当該農業プラント施設外との間で物資を輸送する輸送手段を有する、農業プラント施設。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地中空間を利用した栽培では、上記利点に基づいた成果が期待されるものの、機械化、自動化、収穫高、労働力等に鑑みた生産性については、なお改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、地中空間を利用した植物の栽培において、生産性を一層向上させることができる農業プラント及び農業プラント施設、並びに、植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、略水平方向に延在する地中空間と、地中空間に配置された植物栽培床と、地中空間に設けられ、植物栽培床で生育される植物の成長段階に応じて植物栽培床を地中空間内で所定の方向へ搬送する搬送手段と、を備え、上記地中空間はトンネルであり、上記所定の方向は、トンネルが延びる方向である、農業プラントを提供する。
【0008】
この農業プラントでは、植物の成長段階に応じて植物栽培床を所定の方向へ搬送することができるため、搬送前の位置と搬送後の位置とで、それぞれの成長段階における異なる生育環境を適用することが可能である。これによれば、植物が理想的な成長を遂げ、従来よりも大きな株を収穫することができる。また、植物栽培床を搬送する結果、所定の方向における任意の位置では常に同じ成長段階の植物が存在することになるため、当該位置における必要な農作業が単純化されて労働効率が向上し、更には機械化及び自動化も可能となる。従って、本発明の農業プラントによれば、地中空間を利用した植物の栽培において、生産性を一層向上させることができる。
【0009】
また、この農業プラントでは、トンネルの延びる方向に植物栽培床が搬送され各成長段階に合わせて適切な生育環境が設定されることになるため、農業プラント全体としては長い延長が必要となる。従来の人工栽培では、地上の農業プラントで必要な延長を有する用地を確保することが困難である場合があるが、本発明によれば、農業プラントがトンネルからなる地中空間に構築されているため、地上の条件に関わらず、農業プラントのための所定の延長を有する空間を確保することが容易である。更には、農業プラントの生産品の消費地となる都市部や、農地に適していない起伏の激しい山間部においても、本発明による農業プラントを構築することができる。また、トンネルはシールド工法等によって構築する手法が確立されているため、特別な困難なく農業プラントを構築することができる。そして、トンネルは、全長を長く構築して植物栽培床を設置する面積を大きくすることが容易であるため、この農業プラントは大量生産に適している。
【0010】
ここで、地中空間は、鉛直方向に多段構造を有することが好ましい。これによれば、一段構造である場合と比べて地中空間内の敷地を広く確保することができ、この敷地を植物栽培床の増設や他の必要な設備の設置に有効利用することができる。
【0011】
農業プラントは、地中空間に配置された再生可能エネルギー設備を更に備えることが好ましい。これによれば、地中空間内で必要なエネルギーを賄うことができる。特に、上記のように地中空間が多段構造を有する場合は、多段構造を植物栽培床と再生可能エネルギー設備の設置場所の区分けとして利用することによって、植物栽培床の敷地面積の広がりに対応するように再生可能エネルギー設備を設置することができる。このため、植物栽培床の敷地面積が広くなった場合にも、必要なエネルギーを十分に賄うことができる。
【0012】
農業プラントは、地中空間に連通する立坑又は斜坑と、この立坑又は斜坑に設けられた昇降手段とを更に備えることが好ましい。農業プラントが地下にある場合は、この立坑と昇降手段によって人間や物資を農業プラントに運ぶことができる。
【0013】
また、本発明は、上述した農業プラントが水平方向又は鉛直方向に複数並設されている農業プラント施設を提供する。これによれば、農業プラント別に複数種の品目を栽培することができる。
【0014】
この農業プラント施設においては、複数の農業プラントの一方側の各端部同士が、各農業プラントが延びる方向と交差する方向に延びる別の地中空間によって互いに連通されており、この別の地中空間は、複数の農業プラント内と当該農業プラント施設外との間で物資を輸送する輸送手段を有することが好ましい。これによれば、各農業プラントの一方側の端部を繋ぐ輸送手段によって、栽培に必要な物を農業プラント施設内に搬入したり、収穫した植物等を農業プラント施設外に搬出したりすることができるため、利便性がよい。
【0015】
また、本発明は、上述した農業プラントを用いる植物の栽培方法であって、植物栽培床が搬送される領域を、所定の方向に沿って、植物の成長段階に応じた区分に分け、区分ごとに、植物の生育に適した生育環境を適用し、連続的に、又は、所定の時間の経過後に植物栽培床を所定の方向へ搬送する、植物の栽培方法を提供する。
【0016】
この栽培方法では、各区分においては常に同じ成長段階の植物が存在することになるため、当該位置における必要な農作業が単純化されて労働効率が向上し、更には機械化及び自動化も可能となる。また、それぞれの区分において、その成長段階における生育環境を適用することにより、植物が理想的な成長を遂げ、従来よりも大きな株を収穫することができる。従って、この栽培方法によれば、地中空間を利用した植物の栽培において、生産性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、地中空間を利用した植物の栽培において、生産性を一層向上させることができる農業プラント及び農業プラント施設、並びに、植物の栽培方法を提供することできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
本発明における地中空間とは、周囲を土に囲まれた空間をいう。例えば、地面から下方に向けて土を掘削して構築した地下空間や、山を水平方向に掘削して構築した空間が挙げられる。以下の実施形態では、地下空間を構築した例を示す。
【0021】
図1は、都市部の地下に本実施形態の農業プラント施設を構築した例を示している。
図1に示されたとおり、農業プラント施設10は、地下に形成されたトンネル(地中空間)を利用した複数の農業プラント1から構成されている。農業プラント1の内径としては、従来の農業プラント施設相当の植物栽培床を2列程度配置することができ、且つ、後述するように内部を多段構造とすることができるように、少なくとも5m程度はあることが好ましい。一方、現状のシールド工法によるトンネルの最大径の実績は約20mであることから、各農業プラント1の内径は5m〜20mであることが好ましい。また、農業プラント1の長さとしては、上記内径の範囲内では、既往の実績より約100m〜5000mであることが好ましい。以上の範囲内であれば、現状のシールド工法技術によって、農業プラント1で必要とされる地中空間を構築することができる。
【0022】
各農業プラント1は、略水平方向に並設されており、各農業プラント1の一方側の端部同士は、各農業プラントが延びる方向と交差する方向に延びる輸送トンネル(別の地中空間)2Aによって互いに連通されている。同様に、各農業プラント1の他方側の端部同士も、各農業プラントが延びる方向と交差する方向に延びる別の輸送トンネル2Bによって互いに連通されている。各輸送トンネル2A,2Bには、複数の農業プラント1内と農業プラント施設10外との間で物資を輸送するためのレール(輸送手段)3(3A,3B)が敷設されている。なお、並設される農業プラント1は、農作物の栽培だけでなく、各農業プラント1の終点で回収した植物栽培床を始点へ輸送する場合の通路等、物資や人間の移動における通路としても活用することができる。
【0023】
また、輸送トンネル2A,2Bが延びる先には輸送トンネル2A,2Bと連通する立坑(
図1では図示していない。
図4参照)4(4A,4B)がそれぞれ構築されており、地上に通じている。立坑4には、リフト等の昇降手段(図示せず)が設けられており、輸送トンネル2(2A,2B)と地上との間が連絡されている。
【0024】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、農業プラント1の構成について説明する。農業プラント1は、略水平方向に延在するトンネル5を利用して構築された植物栽培施設である。農業プラント1内は、トンネル5が延びる方向に点在する複数の支柱6で支えられた二枚の水平な足場材7A,7Bによって仕切られており、鉛直方向に三段構造をなしている。
【0025】
この三段構造のうち、上段には植物栽培床8が、中段には再生可能エネルギー設備9がそれぞれ配置されている。下段には何も配置されていない。
【0026】
上段と中段とを仕切る足場材7Bの上には、トンネル5が延びる方向(所定の方向)へ植物栽培床8を搬送するベルトコンベヤ(搬送手段)11が設置されており、ベルトコンベヤ11の上に、植物栽培床8が載置されている。また、上段の天井ないし側壁には、複数の光源12や空調設備13が、トンネル5が延びる方向に等間隔で取り付けられている。
【0027】
植物栽培床8は、植物を栽培するための構造物であり、植物体を支持し、水を保持することができるものであればよい。例えば、プランター、スポンジ、網等が挙げられる。土の有無は問わず、水耕栽培の様式であってもよい。
【0028】
本実施形態における植物栽培床8は、上下4段からなる棚構成をなしており、いずれの段にも植物が栽培されている。
図2に示されたとおり、植物栽培床8は、トンネル5が延びる方向に複数が並設されて列をなしており、この列が、
図3に示されたとおりトンネル5の幅方向に4列並んでいる。
【0029】
植物栽培床8が配置されている領域は、
図2に示されたとおり、トンネル5が延びる方向にn個の領域に区分されている。
図2の図示左方向から順に、第1の区分D
1、第2の区分D
2、…、第nの区分D
nに区分されている。ここで、一つの区分が占める領域は、隣り合う二つの植物栽培床8の合計長さ分に相当する。このように区分された第1の区分D
1、第2の区分D
2、…、第nの区分D
nは、栽培する植物の成長段階に応じて分けられたものであり、各区分に対しては、後述するとおり、互いに異なる第1の生育環境、第2の生育環境、…、第nの生育環境が適用される。
【0030】
ベルトコンベヤ11は、図示しない動力源によって駆動し、載置された植物栽培床8を
図2の図示左側(上流側)から右側(下流側)へ搬送する。植物栽培床8の脇には、植物の栽培に関して定型的な作業を行う機械を設置してもよい。
【0031】
農業プラント1内の三段構造のうち、中段と下段とを仕切る足場材7Aの上には、再生可能エネルギー設備9が載置されている。再生可能エネルギー設備9は、植物栽培床8の数に対応するように複数が並んでおり、トンネル5が延びる方向に、且つ各植物栽培床8の下方に載置されている。
【0032】
再生可能エネルギー設備9としては、バイオマス発電、地熱発電、温度差発電等を利用するものを適用することができる。これらの中でも、バイオマス発電を利用したバイオマス発電装置であることが好ましい。バイオマスから得られるエネルギー源としては、例えば、メタン発酵によるメタンガスが挙げられる。
【0033】
ここで、バイオマスとしては、生ゴミ、汚泥、木質チップ等の有機物を利用することができる。また、植物栽培床8で栽培している植物の剪定で生じた植物屑であってもよい。これらの中でも、既往の実績から木質チップが好ましい。なお、バイオマス発電の残留物は、植物栽培床8に対する肥料として用いることができる。
【0034】
再生可能エネルギー設備9で得られるエネルギーは電気に変換された後、農業プラント1内の光源12、空調設備13、ベルトコンベヤ11等に供給することができる。
【0035】
なお、農業プラント1内の三段構造のうち、下段には何も配置されていないが、トンネル5が延びる方向に床に傾斜をつけて、ここに水路を設けることもできる。そして、この水路を利用して水力発電を行い、上記電力の供給源として利用することもできる。
【0036】
次に、
図4を参照しながら、農業プラント施設10及び農業プラント1の構築方法について説明する。まず、
図4(a)に示されたとおり、地上の二箇所からそれぞれ立坑4A,4Bを掘削する。次に、
図4(b)に示されたとおり、立坑4A,4Bのそれぞれの最下部からシールドマシンによってそれぞれ掘削し、輸送トンネル2A,2Bを構築する。ここで、輸送トンネル2A,2Bの掘削は、互いに平行且つ略水平に並走するように行う。
【0037】
立坑4A,4Bには、リフト等の昇降手段を設け、掘削土の搬出や各種機材の搬出入を行う。
【0038】
そして、
図4(c)に示されたとおり、一方の輸送トンネル2Aの途中側面から、当該輸送トンネル2Aに垂直且つ他方の輸送トンネル2Bへ向けて、シールドマシンによって掘削を進める。ここでは、シールドマシンの側面から別のシールドマシンが突出することができる公知の分岐シールドマシンを利用することが好ましい。
【0039】
分岐シールドマシンによる掘削が進むと、やがて他方の輸送トンネル2Bと開通し、農業プラント用トンネル5が構築される。分岐シールドマシンによる掘削を、輸送トンネル2Aの途中側面において所定の間隔で繰り返すことにより、略水平方向に並設されたトンネル5が複数構築される。なお、輸送トンネル2及び農業プラント用トンネル5の直径は、通常、シールドマシンの直径に対応したものとなるが、必要に応じて拡幅してもよい。
【0040】
そして、立坑4A,4Bに設けた昇降手段を利用して農業プラント用トンネル5に物資を搬入し、農業プラント用トンネル5内に、支柱6、足場材7A,7Bを構築し、更には植物栽培床8、再生可能エネルギー設備9、光源12等を配置することができる。また、このとき、輸送トンネル2に敷設されたレール3に車両等の輸送手段を走らせると、物資の搬入が捗るので好ましい。以上のようにして、農業プラント施設10及び農業プラント1が構築される。
【0041】
次に、
図2を参照しながら農業プラント1を用いた植物の栽培方法を説明する。
図2に示された第1の区分D
1、第2の区分D
2、…、第nの区分D
nは、この順に植物の成長段階を示しており、第1の区分D
1が種蒔き段階又は移植段階、第nの区分D
nが収穫段階にそれぞれ相当し、植物栽培床8がこれらの間を搬送される間に植物が成長する。
【0042】
初めに、二つの植物栽培床8,8を第1の区分D
1に属するように載置する。ここで、土を使用する場合は、トンネルを掘削する際に生じた土を改良して利用してもよい。
【0043】
第1の区分D
1に属している二つの植物栽培床8,8に、栽培する植物の種を蒔く、又は、農業プラント1外から持ち込んだ苗を移植する。栽培品目の具体例としては、レタス、トマト、白菜、キャベツ、ネギ、キュウリ、ピーマン、アスパラガス、ブロッコリー等の野菜類;大根、ニンジン、ジャガイモ等の根菜類等が挙げられる。
【0044】
所定時間の経過後、第1の区分D
1に属している植物栽培床8,8が第2の区分D
2に属するようになるように、ベルトコンベヤ11を駆動して下流側へ搬送する。空いた第1の区分D
1の領域には新たな植物栽培床8,8を載置する。
【0045】
そして、新たに載置した植物栽培床8,8に対して、栽培する植物の種を蒔く、又は、農業プラント1外から持ち込んだ苗を移植する。そして、所定時間の経過後に、ベルトコンベヤ11を駆動してこれらを下流側へ搬送する。この作業を繰り返すことにより、初めは第1の区分D
1に属していた植物栽培床8,8が、第2の区分D
2、続いて第3の区分D
3、更に続いて第4の区分へと、順に搬送されていく。
【0046】
それぞれの区分においては、植物の生育に適するように理想的に調整された光、温度、湿度、与える水量、肥料等の生育環境を適用する。すなわち、第1の区分D
1、第2の区分D
2、…、第nの区分D
nに対して、互いに異なる第1の生育環境、第2の生育環境、…、第nの生育環境を適用する。ここで、隣り合う区分との間で光や空調が混合しないように、各区分間をカーテン等の仕切り手段を用いて物理的に仕切ってもよい。
【0047】
また、第1の区分D
1の生育環境を自然界の種蒔き時期の気候を再現したものとし、ここから第nの区分D
nの生育環境が自然界の収穫時期の気候を再現したものとなるように、区分を追うごとに徐々に生育環境を変化させていけば、植物に最適な季節感を与えることができるため好ましい。
【0048】
第1の区分D
1から植物が成長する第nの区分D
nまでの間では、各区分に応じた作業を行う。例えば、散水、剪定、害虫や病気の有無の確認等を行う。これらの作業は人間が行ってもよく、機械が行ってもよい。機械が行う場合は、自動化してもよい。
【0049】
搬送の終点である第nの区分D
nでは、収穫が行われる。収穫した株は、レール3を利用した輸送、及び、立坑4に設けられた昇降手段によって農業プラント及び農業プラント施設の外に輸送する。
【0050】
以上に示した農業プラント1及び農業プラント施設10、並びに植物の栽培方法によれば、以下の作用効果が得られることから、地下空間を利用した植物の栽培において、生産性を一層向上させることができる。
【0051】
すなわち、植物の成長段階に応じて植物栽培床8を所定の方向へ搬送するため、搬送前の位置と搬送後の位置とで、それぞれの成長段階における異なる生育環境を適用することができ、これによって、植物が理想的な成長を遂げ、従来よりも大きな株を収穫することができる。
【0052】
しかも、地上の気候に関わらず植物の生育に理想的な生育環境を適用することができるため、周年栽培や促成栽培を自由に行うことが可能である。特に本実施形態では地下空間がトンネル形状であるため、空調のムラが小さく、空調のためのエネルギーを節減することができる。
【0053】
また、植物栽培床8を搬送する結果、所定の方向における任意の位置では常に同じ成長段階の植物が存在することになるため、当該位置における必要な農作業が単純化されて労働効率が向上し、更には機械化及び自動化も可能となる。特に労働に関しては、一つの区分内では作業工程が単純である傾向があり、且つ、作業環境が過酷でないため、高齢者でも無理なく作業することが可能である。このとき、地中空間がトンネル形状であるため、作業者が現場の位置を把握しやすい。
【0054】
また、地下空間がトンネル形状であるため、配管や配線の取付け、及び農業用の汎用ロボット等の設置、並びにこれらの交換を容易に行うことができる。また、トンネル5内の空間は一次元方向に延びる単純構造であるため、作業の機械化及び自動化をしやすい。
【0055】
また、農業プラント1は鉛直方向に多段構造を有しているため、一段構造である場合と比べて農業プラント1内の敷地を広く確保することができる。そして、この多段構造を植物栽培床8と再生可能エネルギー設備9の設置場所の区分けとして利用することによって、植物栽培床8の敷地面積の広がりに対応するように再生可能エネルギー設備9を設置することができる。このため、植物栽培床8の敷地面積が広くなった場合にも、必要なエネルギーを十分に賄うことができる。
【0056】
また、農業プラント1は、トンネル5の延びる方向に植物栽培床8を搬送し、各成長段階に合わせて適切な生育環境を設定することになるため、農業プラント1全体としては長い延長が必要となる。従来の人工栽培では、地上の農業プラントで必要な延長を有する用地を確保することが困難である場合があるが、本実施形態では農業プラント1がトンネル5からなる地中空間に構築されているため、地上の条件に関わらず、農業プラント1のための所定の延長を有する空間を確保することが容易である。更に、大深度地下空間をも利用することができるため、土地利用上の制約を受けにくい。
【0057】
また、こうしたトンネルは、シールド工法等によって構築する手法が確立されているため、特別な困難なく農業プラント1を構築することができる。そして、トンネルは、全長を長く構築して植物栽培床8を設置する面積を大きくすることが容易であるため、農業プラント1は、建物内での人工栽培と比べて大量生産に適している。
【0058】
また、農業プラント施設10は複数並設されている農業プラント1を有しているため、農業プラント1別に複数種の品目を栽培することができる。また、並設された農業プラント1内の設備を互いに独立系統にすると、故障時の対応を容易にすることができる。
【0059】
また、この農業プラント施設10は、複数の農業プラント1の一方側の各端部同士が、各農業プラント1が延びる方向と交差する方向に延びる輸送トンネル2Aによって互いに連通されており、この輸送トンネル2Aが、複数の農業プラント1内と当該農業プラント施設10外との間で物資を輸送するレール3Aを有しているため、これによって、栽培に必要な物を農業プラント施設10内に搬入したり、収穫した植物等を農業プラント施設10外に搬出したりすることができるため、利便性がよい。
【0060】
また、農業プラント施設10が大都市の地下に構築されている場合は、受注してから短時間で新鮮な株を宅配することができ、消費者の利便性が高い。また、農業プラント施設10は、地震、台風、噴火等の自然災害に強く、災害時における避難場所及び食糧の供給源として機能することができる。
【0061】
また、本実施形態のトンネル5は円形断面をなしているため、トンネル構築時の掘削量を低減することができ、周辺土圧に対する強度が高い。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、所定時間の経過後にベルトコンベヤ11を駆動して植物栽培床8を下流側へ搬送する態様を示したが、低速で連続的にベルトコンベヤ11を駆動して、常に植物栽培床8が下流側へ搬送されている状態としてもよい。
【0063】
また、搬送手段はベルトコンベヤ11に限られず、他の手段を用いてもよい。また、上記実施形態において、ベルトコンベヤ11に代えて固定台を用い、植物栽培床8側に搬送手段を設けてもよい。例えば、植物栽培床8を台車に載せることが挙げられる。また、搬送手段の動力源は機械に限られず、人力であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、農業プラント1の構築に際して地上から立坑4を掘削する態様を示したが、立坑4に代えて斜坑を掘削してもよい。また、上記実施形態では農業プラント1が略水平方向に並設された態様を示したが、略鉛直方向に並設されていてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では地中空間が地下空間である態様を示したが、地中空間としては、山を掘削して構築した空間を利用することもできる。この場合、農地に適していない起伏の激しい山間部においても、農作物を生産することができるようになる。