(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から4のいずれかに記載の表面形状測定方法によって、前記基板の主表面を測定して得られる表面形状データを前記補正データで補正して取得した補正後形状データを用いて所定の領域での平坦度を算出し、算出した平坦度が所定値以下の基板をマスクブランク用基板として選定する工程を有し、
前記基板は、少なくとも前記表面形状を測定する側の主表面が露出しており、前記表面形状データは、前記露出した主表面の表面形状のデータであることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
請求項5記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の前記主表面に、パターン形成用の薄膜を設ける工程を備えていることを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている表面形状測定装置は、測定対象物である透光性基板の主表面の全体に対して検査光を照射し、その主表面から反射された反射光と、別部材の基準表面から反射された反射光との間で生じる干渉縞像を取得し、その干渉縞像を画像解析することによって、その透光性基板の主表面の形状が得られる構成となっている。このため、特許文献1の表面形状測定装置は、透光性基板の主表面の全体に検査光を一度に照射する必要がある。FPD製造用のマスクブランクの透光性基板は、半導体デバイス製造用のマスクブランクの透光性基板に比べて、主表面のサイズが大きい。FPD製造用のマスクブランクにおける透光性基板の主表面の形状を特許文献1に開示されているような表面形状測定装置で測定しようすると、装置が大掛かりになることが避けられない。又、基準表面は高い平坦度を備える必要があるが、サイズが大きくなるとそのような基準表面を作成することが難しくなる。
【0005】
これに対し、特許文献2に開示されている表面形状測定装置は、測定対象物である透光性基板を直立状態で保持し、その主表面に対してレーザー変位計を走査させて各測定点の高さを測定していくことで、主表面全体の表面形状を取得する構成となっている。このような構成の表面形状測定装置は、測定対象物の透光性基板のサイズが大きくなっても装置が比較的大掛かりにならないというメリットがある。しかし、この特許文献2に開示されている表面形状測定装置は、機械的な機構によってレーザー変位計を主表面上に対して相対移動させるという測定原理上の制約から特許文献1に開示されている表面形状測定装置に比べて、測定精度は低くなることが否めない。
【0006】
従来、FPD製造用のマスクブランクにおける透光性基板の主表面に対する平坦度の要求レベルがあまり高くなかったため、表面形状測定装置との測定精度が高くなくても問題にはならなかった。
しかし、前述の通り、FPD製造用のマスクブランクにおける透光性基板の主表面に要求される平坦度は年々高まってきている。表面形状測定装置の測定誤差が大きいと、マスクブランク用の透光性基板を選定する工程において、測定した透光性基板の主表面の形状を基に、所定値以下の平坦度の主表面を有する透光性基板を精度良く選定することが難しく、問題となっていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、表面形状測定装置起因のシステマティックな測定誤差を測定方法によって補正して、FPD製造用等のマスクブランク用基板(透光性基板)の主表面の表面形状を精度良く測定する測定方法を提供することである。本方法によって、所定値以下の所望の平坦度の主表面を有するマスクブランク用基板を精度良く選定することが可能となる。又、この方法で選定されたマスクブランク用基板を用いてマスクブランクを製造することにより、製造されたマスクブランクの主表面の平坦度は所定値以下の所望のものとなる。さらに、この方法で選定されたマスクブランクを用いて転写用マスクを製造することにより、製造された転写用マスクの主表面の平坦度は所定値以下の所望のものとなり、転写精度が向上し、転写不良も防止できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
4つの端面と2つの主表面を有する基板における少なくとも一方の前記主表面の表面形状を、表面形状測定装置によって測定する表面形状測定方法において、
前記基板又は前記基板の主表面以上の大きさの主表面を有する別の基板のいずれかを参照基板とし、前記参照基板のいずれかの端面を基準端面とし、前記基準端面が下になる向きで前記参照基板を立てた状態で前記主表面の表面形状を測定して基準方向形状データを取得する第1の表面形状測定工程と、
前記基準端面が下になる向き以外の少なくとも2つの向きで前記参照基板を立てた状態で表面形状をそれぞれ測定して2つ以上の別方向形状データを取得する第2の表面形状測定工程と、
前記基準方向形状データ及び2以上の前記別方向形状データの相互差分形状に基づいて、補正データを取得する補正データ取得工程と、
当該補正データを用いて、前記基板の主表面を測定して得られる表面形状データを補正する補正工程と、
を有することを特徴とする表面形状測定方法。
【0009】
(構成2)
前記第2の表面形状測定工程は、前記基準端面が下になる向き以外の3つの向きで前記参照基板を立てた状態で表面形状をそれぞれ測定して3つの別方向形状データを取得する工程であり、
前記補正データ取得工程は、
前記基準端面が下向きの状態で取得した基準方向形状データと前記基準端面が上向きの状態で取得した別方向形状データのいずれか一方の形状データに対して180度の回転演算処理を行った状態で差分形状を取得する第1の差分形状算出工程と、
前記基準端面が左向きの状態で取得した別方向形状データと前記基準端面が右向きの状態で取得した別方向形状データのいずれか一方の形状データに対して180度の回転演算処理を行った状態で差分形状を取得する第2の差分形状算出工程と、
前記基準方向形状データ及び3つの前記別方向形状データから、相互に前記基準端面の向きが90度異なる2つの形状データを2組以上選択し、各組に対し、その組となっている2つの形状データにおける基準端面の方向が互いに同じになるように回転演算処理を行った状態で差分形状を取得する工程を行うことで、2以上の差分形状を取得する第3の差分形状算出工程と、
前記第1、第2及び第3の差分形状算出工程によって算出された各差分形状の単純和平均を算出して補正データを取得する工程、
からなることを特徴とする構成1記載の表面形状測定方法。
【0010】
(構成3)
前記基準方向形状データである測定データM
0を取得する第1の表面形状測定工程と、
前記基準端面が下向きの状態を基準とし、前記基準端面が90度、180度、及び270度の方向を向いた状態における前記主表面の表面形状をそれぞれ測定し、90度、180度、及び270度回転の別方向形状データである測定データM
90、M
180、M
270を取得する第2の表面形状測定工程と、
前記測定データM
180を用いて、前記基準端面が0度の方向を向いた時の前記参照基板の形状データC
180−0を計算する第1の回転データ算出工程と、
前記測定データM
270を用いて、前記基準端面が90度の方向を向いた時の前記参照基板の形状データC
270−90を計算する第2の回転データ算出工程と、
前記測定データM
90を用いて、前記基準端面が0度の方向を向いた時の前記参照基板の形状データC
90−0を計算する第3の回転データ算出工程と、
前記測定データM
0を用いて、前記基準端面が270度の向きを向いた時の前記参照基板の形状データC
0−270を計算する第4の回転データ算出工程と、
前記測定データM
0と形状データC
180−0との差分形状データD
1を求める前記第1の差分形状算出工程と、
前記測定データM
90と形状データC
270−90との差分形状データD
2を求める前記第2の差分形状算出工程と、
前記測定データM
0と形状データC
90−0との差分形状データD
3を求め、前記測定データM
270と形状データC
0−270との差分形状データD
4を求める前記第3の差分形状算出工程と、
前記算出された各差分形状データの単純和平均形状データを計算し、該単純和平均形状データを測定誤差の補正データとする補正データ算出工程と、
を有することを特徴とする構成2に記載の表面形状測定方法。
【0011】
(構成4)
前記補正データ取得工程は、差分形状データD
1と差分形状データD
2を重ね合わせて合成差分形状データD
12を生成し、前記合成差分形状データD
12に対して近似曲面A
12を算出し、
差分形状データD
3と差分形状データD
4を重ね合わせて合成差分形状データD
34を生成し、前記合成差分形状データD
34に対して近似曲面A
34を算出し、
前記近似曲面A
12と前記近似曲面A
34とから補正データを算出することを特徴とした構成3記載の表面形状測定方法。
【0012】
(構成5)
構成1から4のいずれかに記載の表面形状測定方法によって、前記基板の主表面を測定して得られる表面形状データを前記補正データで補正して取得した補正後形状データを用いて所定の領域での平坦度を算出し、算出した平坦度が所定値以下の基板をマスクブランク用基板として選定する工程を有し、
前記基板は、少なくとも前記表面形状を選定する側の主表面が露出しており、前記表面形状データは、前記露出した主表面の表面形状のデータであることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【0013】
(構成6)
構成5記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の前記主表面に、パターン形成用の薄膜を設ける工程を備えていることを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0014】
(構成7)
構成6記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成する工程を備えることを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、表面形状測定装置起因のシステマティックな測定誤差は補正されて、FPD製造用等のマスクブランク用基板(透光性基板)の主表面の表面形状を精度良く測定することが可能になる。又、本表面形状測定方法を用いることによって、所定値以下の所望の平坦度の主表面を有するマスクブランク用基板を精度良く選定することが可能となる。又、この方法で選定されたマスクブランク用基板を用いてマスクブランクを製造することにより、製造されたマスクブランクの主表面の平坦度は所定値以下の所望のものとなる。さらに、この方法で選定されたマスクブランクを用いて転写用マスクを製造することにより、製造された転写用マスクの主表面の平坦度は所定値以下の所望のものとなり、転写精度が向上し、転写不良も防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら、その概念を含め具体的に説明する。なお、図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0018】
実施の形態1.
実施の形態1では、マスクブランク用基板等の表面形状測定方法について、マスクブランク用基板等の表面形状測定の各工程を工程フローで示した工程図である
図1を参照しながら説明する。
【0019】
最初に、表面形状測定における補正データを取得するための参照基板について述べる。この参照基板の準備は、
図1から分かるように測定工程の第1段階(S1)である。
【0020】
参照基板は、外形が4つの端面と2つの主表面を有する基板で、表面形状測定の測定対象である被測定基板又は主表面の大きさが被測定基板の主表面の大きさ以上である被測定基板以外の基板のいずれかである。ここで、参照基板は、後述の表面形状測定装置にセットした時の自重撓みによる変形を抑制するために、高い剛性を持つことが望ましい。被測定基板は、通常、転写用マスクの基板として用いられる。被測定基板は、転写用マスクで用いられる露光光に対する光透過性を備えていることが望まれる。被測定基板は、ガラス材料で形成されていることが好ましく、具体的には、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。被測定基板は、基板の主表面上に薄膜を備えた構成のものも含まれる。この場合、薄膜の表面を主表面として表面形状測定装置で表面形状を測定する。
【0021】
一方、参照基板が被測定基板以外の基板である場合は、光透過性を有することは必須ではない。表面形状測定装置の測長機で使用される測定光に対して被測定基板と同じような反射率を有する材料が、表面形状測定装置のキャリブレーションを容易にし、被測定基板測定時との測定環境差を低減する上で好ましい。したがって、参照基板の材料は、被測定基板の材料と同じか同じ系統の材料であることが好ましい。具体的な参照基板の材料としては、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが挙げられる。参照基板は、基板の主表面上に薄膜を備えた構成のものも含まれる。この場合、薄膜の表面を主表面として表面形状測定装置で表面形状を測定する。
【0022】
本発明の表面形状測定方法における参照基板の主表面の平坦度や平滑性については、特段制約はないが、表面形状測定時の測定データの精度と信頼性をより高めるために、参照基板の主表面は、高い平坦度と高い平滑度を持つことが望ましい。この場合、参照基板の主表面は、粗研磨加工工程、及び精密研磨加工工程よりなる研磨を適宜必要に応じて行うことが望ましい。
又、参照基板の主表面の大きさは、その短辺の長さが被測定基板の長辺の長さ以上であることが望ましい。これは、後述するように補正データの算出精度が上がるためで、具体的に言うと、演算計算された複数の差分形状データの単純和平均を計算する時に、実測データを直接活用できて補正データの精度が上がるためである。
【0023】
次に、基板の表面形状を測定する測定装置について、
図2を参照しながら説明する。
図2(a)は表面形状測定装置10を上面から見た装置構成概要図であり、
図2(b)は
図2(a)中のAの方向(正面方向)から見た時の装置構成概要図であり、そして
図2(c)は
図2(a)中のBの方向(側面方向)から見た時の装置構成概要図である。表面形状測定装置10は、土台2上に立てられたガイドレール(図示なし)付きの支柱3と、そのガイドレールに沿って上下(Y方向)に動くX方向ガイドレール4を有し、X方向ガイドレール4にはこのガイドレール4に沿って左右(X方向)に移動可能な測長機5が備え付けられている。表面形状測定を行う基板1、すなわち前記の参照基板や被測定基板は端面を底にして測長機5に向かい合うように土台2に対して垂直にセットされる。測長機5からは測定光(図示なし)が基板1の主表面に照射され、その主表面からの反射光を測長機5が受光して測長機5と基板1との距離(Z方向の距離)が測定され、その距離を基に基板1の主表面の表面形状(凹凸)が求められる。この測定光は、基板1に対して垂直入射でも良いが、斜入射として表面反射率を高めるとともに、測長機5側の主表面からの反射光を選択的に検出する方が好ましい。代表的な測長機は非接触式レーザー変位計である。又、測長機5と基板1との距離の測定手段として、光ではなく、乾燥空気や窒素ガス等を測長機5から基板1の主表面に吹き付け、圧力センサーによって測長する圧力検出方式を用いることもできる。さらに、触針式の測長機も適用可能である。
【0024】
被測定基板がFPD等の表示装置製造用のマスクブランク基板である場合、マスクブランク基板の主表面は大きいので、一般に、X方向(左右方向)やY方向(上下方向)の測定データサンプリング間隔は1mm以上、多くは1cm程度となる。したがって、測長機5のX方向やY方向の位置精度もサブmmで良く、パルスモーター、スクリュードライバーあるいはリニアモーター等による機械的位置決めで必要な精度が得られる。一方、表面形状(表面凹凸)に関しては、サブμmかそれ以下の測定精度、言い換えれば、Z方向に関する精度は、X方向やY方向に比べて約3桁高い精度が求められる。支柱3や支柱3に取り付けられたガイドレール、及びX方向ガイドレール4には、機械的な歪、すなわち捻じれや撓みや撚れ等が生じており、これらがZ方向の測定誤差を生む。メカニズムから分かるように、この機械的な歪による測定誤差の多くはシステマティックなものである。したがって、一旦補正データを求めておいて、その補正データを使って被測定基板の表面形状データを補正すると、システマティックエラーが除去され、表面形状測定を高い精度で行うことができる。
【0025】
次に、
図1の工程S2(基準端面の設定)に示すように、参照基板の基準端面を任意に設定する。そして、
図1の工程S3(第1の表面形状測定工程)に示すように、その基準端面を下向きにして、参照基板の主表面が土台2に対して垂直になるように参照基板1を表面形状測定装置10にセットして、基準方向形状データ(測定データM
0)を取得する。端面を底にして参照基板をセットすることにより、参照基板自身の自重撓みによる参照基板の変形を抑制することができる。
【0026】
次に、
図1の工程S4(第2の表面形状測定工程)に示すように、参照基板の基準端面を下向き以外の2つ以上の向きにし、基準端面以外の端面を底にした状態で、参照基板の主表面が土台2に対して垂直になるように参照基板1を表面形状測定装置10にセットして、別方向形状データ(基準端面が90度の方向の測定データM
90、基準端面が180度の方向の測定データM
180、基準端面が270度の方向の測定データM
270のうちの2つ以上)を取得する。表面形状測定装置10のシステマティックな測定誤差を精度良く抽出するために、基準方向形状データを取得した時の参照基板底辺の中心位置と、別方向形状データを取得する時の参照基板底辺の中心位置が揃うような配置で、参照基板を表面形状測定装置10にセットすることが好ましい。
ここで、参照基板の基準端面を下向き以外の2つの向きで2つの別方向形状データを取得すると、測定工数が少なくスループットに優れるという特徴があり、下向き以外の3つの向きで3つの別方向形状データを取得すると、測定精度が向上するという特徴がある。
【0027】
その後、
図1の工程S5(補正データ取得工程)に示すように、基準方向形状データ(測定データM
0)と別方向形状データ(上述の測定データで、M
90、M
180、M
270のうちの2つ以上)の相互差分形状データを算出し、その算出データに基づいて補正データを取得する。
参照基板の基準端面を下向き以外の3つの向きで別方向形状データを取得した場合を例にこの工程を詳細に述べると、次の4つの工程になる。
【0028】
(1)基準端面が下向きの状態で取得した基準方向形状データ(測定データM
0)と基準端面が上向きの状態で取得した別方向形状データ(測定データM
180)のいずれか一方の形状データに対して180度の回転演算処理を行った状態で差分形状(差分形状データD
1)を取得する第1の差分形状算出工程。より具体的には、例えば、測定データM
180を回転させ、基準端面が下向きになる方向(0度の方向)を向いた時の形状データC
180−0を計算(第1の回転データ算出工程)し、測定データM
0と形状データC
180−0との差分形状データD
1を求める。なお、差分形状を算出する際に行われる2つの測定データを重ね合わせる時の位置合わせの方法には、特に制約はない。例えば、参照基板の主表面の中心を基準として一致させる方法が挙げられる。又、特定の端面を基準として一致させてもよい。例えば、回転処理を行わない方の測定データであって、表面形状測定装置10で表面形状を測定した時に底面側となっていた端面を基準として一致させる方法が挙げられる。以下、2つの測定データの差分形状を取得する時も同様の方法が行われる。
【0029】
(2)基準端面が左向き(90度回転)の状態で取得した別方向形状データ(測定データM
90)と基準端面が右向き(270度回転)の状態で取得した別方向形状データ(測定データM
270)のいずれか一方の形状データに対して180度の回転演算処理を行った状態で差分形状(差分形状データD
2)を取得する第2の差分形状算出工程。より具体的には、例えば、測定データM
270を回転させ、基準端面が左向きになる方向(90度の方向)を向いた時の形状データC
270−90を計算(第2の回転データ算出工程)し、測定データM
90と形状データC
270−90との差分形状データD
2を求める。
【0030】
(3)基準方向形状データ(測定データM
0)及び3つの前記別方向形状データ(測定データM
90、M
180、M
270)から、相互に前記基準端面の向きが90度異なる2つの形状データを2組以上選択し、各組に対し、その組となっている2つの形状データにおける基準端面の方向が互いに同じになるように回転演算処理を行った状態で差分形状を取得する工程を行うことで、2以上の差分形状(差分形状データD
3、D
4)を取得する第3の差分形状算出工程。より具体的には、例えば、測定データM
90を回転させ、基準端面が下向きになる方向(0度の方向)を向いた時の形状データC
90−0を計算(第3の回転データ算出工程)し、測定データM
0を回転させ、基準端面が右向きになる方向(270度の方向)を向いた時の形状データC
0−270を計算(第4の回転データ算出工程)し、測定データM
0と形状データC
90−0との差分形状データD
3を求め、測定データM
270と形状データC
0−270との差分形状データD
4を求める。
【0031】
(4)前記第1、第2及び第3の差分形状算出工程によって算出された各差分形状(差分形状データD
1、D
2、D
3、D
4)の単純和平均を算出して測定誤差の補正データを取得する工程。
【0032】
ここで、参照基板の表面形状測定領域が長方形の場合は、工程(4)の各差分形状単純和平均差分を計算する時、横長の長方形と縦長の長方形というように領域が異なる間での計算が必要になる。この場合は、表面形状測定領域の測定データを基に近似曲面を算出し、測定データのない領域をその近似曲面で補外する。補外の要素が加わるが、測定データを近似曲面で表す時に周囲データからの補正要因が加わって測定異常によるエラーを排除、抑制できるという特徴が加わる。参照基板の主表面の短辺が、被測定基板の主表面の長辺より長い場合には、参照基板の表面形状測定領域を、一辺が被測定基板の主表面の長辺の長さ、あるいはそれ以上の長さとした正方形領域とすることができ、この場合は測定データ不足領域が発生せず、表面形状の補正データの精度はより高いものとなる。なお、近似曲面を表す関数は、直交基底よりなる関数群を用いると収束性が高まって好ましい。この例としては、例えばxとyの2変数による多項式群等がある。
【0033】
上記の場合の具体的な方法としては、例えば、最初に差分形状データD
1と差分形状データD
2を重ね合わせて合成差分形状D
12を生成する。次に、前記合成差分形状データD
12に対して近似曲面A
12を算出する。次に、差分形状データD
3と差分形状データD
4を重ね合わせて合成差分形状D
34を生成する。次に、前記合成差分形状データD
34に対して近似曲面A
34を算出する。最後に、近似曲面A
12と近似曲面A
34から測定誤差の補正データを算出する。又、上記の方法の他、合成差分形状データD
12と合成差分形状データD
34をそのまま重ね合わせて合成差分形状データD
14を生成し、その生成した合成差分形状データD
14に対して近似曲面A
14を算出してこれを基に測定誤差の補正データを算出することも可能である。
【0034】
その後、
図1の工程S6(補正工程)に示すように、被測定基板の主表面が土台2に対して垂直になるように表面形状測定装置10に被測定基板をセットして、被測定基板の主表面の表面形状データを取得し、前記補正データで主表面の表面形状データを補正し、最終的な表面形状データを取得して終了する(S7)。参照基板が被測定基板の場合は、第1の表面形状データ(基準方向形状データ)に対して、前記補正データで主表面の表面形状データを補正し、最終的な表面形状データを取得して終了する(S7)。
この一連の表面形状補正工程により、表面形状測定装置のシステマティックな測定誤差要因は補正され、高い測定精度で表面形状測定を行うことが可能となる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態2では、マスクブランク用基板の製造方法について説明する。
【0036】
(1)準備工程
最初に、基板を準備する。基板の材料は、使用する露光光に対して透光性を有し、又、剛性を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが挙げられる。又、平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程よりなる研磨を適宜必要に応じて行う。その後、洗浄を行って基板の表面の異物や汚染を除去する。洗浄としては、例えば、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、オゾン水等を用いることができる。
【0037】
(2)選定工程
上記工程で準備された基板に対して、実施の形態1の表面形状測定方法による表面形状測定を行って、基板主表面の平坦度を測定する。すなわち、基板の主表面を表面形状測定装置で測定し、そこで得られた表面形状データを実施の形態1で述べた補正データで補正して、補正後形状データを用いて所定の領域での平坦度を算出する。そして、算出した平坦度が所定値以下の基板をマスクブランク用基板として選定する。実施の形態1による表面形状測定は、測定誤差の少ない実態を表す表面形状測定である。このため、所定値以下の所望の平坦度の主表面を有するマスクブランク用基板を精度良く選定することが可能となる。基板の平坦度を算出する所定領域は、基板のサイズや露光装置のマスクステージの形状等によって決められる。例えば、所定領域は基板の主表面における端面から所定距離(5mm、10mm等)だけ内側の外周領域を除いた領域とすることができる。
【0038】
マスクブランク基板に要求される平坦度は、この基板を用いて作製する転写用マスクに求められる微細化のレベルやその転写用マスクを用いて露光転写する対象の適用層などによって変わる。そこで、製造に必要とされるマスクブランク基板のレベルに合うように、この平坦度の所定値を数段階のレベルに設定してクラス分けを行っておくと、必要なところに必要な平坦度のマスクブランク基板を供給することが可能になるとともに、平坦度不足による不良品が少なくなって生産効率が向上する。
【0039】
実施の形態3.
実施の形態3では、マスクブランクの製造方法について説明する。
【0040】
マスクブランクは、大きく分けて、露光光に対して透光性を有する基板であるマスクブランク用基板と、マスクパターン形成用の薄膜からなる。
【0041】
この薄膜は、バイナリーマスク用では、露光光を吸収する薄膜(遮光膜とも称す)からなる。この露光光を吸収する薄膜は、基板側から遮光層と反射防止層が積層された構造としてもよい。反射防止層は、マスクパターンを露光描画する時の描画光、マスクパターン検査時の検査光、及び露光装置にセットした際に照射される露光光に対する表面反射を低減する機能を備える。特に、FPD等の大型表示装置製造用の転写用マスクでは、マスクパターンの露光描画に要求される微細度とスループットの観点から、マスクパターン描画には波長413nm等のレーザー光がよく用いられるため、マスクパターン描画精度が向上する反射防止層を設けておくことが望ましい。
又、露光光を吸収する薄膜は、基板側から、裏面側の反射防止層、遮光層、表面側の反射防止層の3層が積層された構造としてもよい。この場合、マスクパターン転写露光時の転写性能をより高めることができる。
【0042】
露光光を吸収する薄膜を形成する材料としては、金属や金属化合物が適している。特に、FPD等の大型表示装置製造用の転写用マスクでは、マスクパターン形成時のエッチングにウェットエッチングがよく用いられる関係と、欠陥密度の少ない膜形成が可能なことから、例えばクロム(Cr)やクロムに炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)などが含まれたクロム含有材料が適している。クロムに炭素や窒素や酸素を添加することにより、マスクパターン形成時のウェットエッチングレートの制御が容易になって、マスクパターン寸法精度が向上し、又、垂直なマスクパターン断面形状を得ることが可能になる。又、酸化等による材料の経時変化を抑えることが可能になる。この露光光を吸収する薄膜が単層膜の場合は、製造工程がシンプルでプロセス安定性が高いという特徴があり、多層膜の場合は、膜厚方向に対してウェットエッチングレートの制御が可能になって垂直なマスクパターン断面形状を得やすくなるという特徴がある。炭素や窒素などのクロムへの添加量を膜厚方向に連続的な勾配を持って変化させた単層膜も膜厚方向に対してウェットエッチングレートの制御が可能になって垂直なマスクパターンの断面形状を得やすくなるという特徴がある。
【0043】
マスクパターン形成用の薄膜は、クロムを含む材料の他、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の金属やその炭化物、窒化物、酸化物、炭化窒化物、炭化窒化酸化物、フッ化物、ホウ化物、及びシリサイド物等も用いることができる。さらには、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料を用いることもできる。
【0044】
マスクパターン形成用の薄膜は、ハーフトーン型位相シフトマスク(Attenuated Phase Shift Mask)用の位相をシフトさせる機能を持った半透膜である位相シフト膜であってもよい。若しくは、多階調マスク(Multi―level Gradation Mask)の透過率制御膜及びその上又は下に形成される遮光膜であってもよい。位相シフト膜の場合は、透過率と位相制御という光学的要求を満たすため、ケイ素(Si)に、金属、酸素、窒素、炭素、又はフッ素の少なくともいずれか一つを含んだ材料が適している。例えば、MoSi等の金属シリサイド、金属シリサイドの酸化物、金属シリサイドの窒化物、金属シリサイドの酸窒化物、金属シリサイドの炭化窒化物、金属シリサイドの酸化炭化物、金属シリサイドの炭化酸化窒化物が適している。この他、上記クロム材料とSiO、SiO
2、及びSiON等の積層膜も適している。SiOやSiO
2は、基板が合成石英の場合、それと同じ元素で構成されているが、原子間の結合状態の違いなどからエッチングレートが基板のエッチングレートと異なり、位相差制御に重要な光学距離(エッチング深さ)制御を高精度に行うことが可能になる。又、多階調マスク用の薄膜としても、上記位相シフト用の材料を用いることができる。
【0045】
又、レジスト膜の膜厚を薄膜化して微細パターンを形成するために、上記マスクパターン用の薄膜上にエッチング用マスク膜(ハードマスク膜)を有する構成としてもよい。このハードマスク膜は、上記マスクパターン形成用の薄膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)膜が用いられる。例えば、マスクパターン形成用の薄膜としてクロムやクロムに炭素や窒素が含まれる材料を用いた場合には、ハードマスク膜の材料として、シリコン(Si)を含んだ材料、例えば、MoSi、MoSiON、SiO、SiO
2、SiON、SiC等を用いることができる。
【0046】
以下、マスクブランクの製造工程を説明する。
最初に、実施の形態2により製造及び選定された、平坦度が所定値以下の基板をマスクブランク用基板として用いる。
次に、このマスクブランク基板の主表面上に、スパッタリング法により、上記のマスクパターン形成用の薄膜を形成する。膜厚は、用いる材料と用途、すなわちバイナリーマスク用か位相シフトマスク用か等によって設定されるが、一般に40nmから150nmとする。又、マスクパターン形成用の薄膜の応力が比較的強く、マスクブランクの平坦度を所定値以上に歪ませる場合には、アニールなどを行って応力緩和を行っておく。
その後、洗浄を行って基板の表面の異物や汚染を除去し、適宜欠陥検査を行って、マスクブランクを製造する。
実施の形態3で製造されたマスクブランクの主表面の平坦度は、マスクブランク用基板の平坦度が所定値を満たす十分な平坦度のものであるため、所定値以下の所望のものとなる。
【0047】
実施の形態4.
実施の形態4では、転写用マスクの製造方法について説明する。
【0048】
実施の形態4では、実施の形態3で製造したマスクブランクを用いることを特徴として、マスクブランク主表面に形成されたマスクパターン形成用の薄膜上に所望のレジストパターンを形成する工程と、マスクパターン形成用の薄膜をエッチングし、転写パターンを形成する工程と、レジストパターンを除去する工程、により転写用マスクを製造する。
【0049】
詳細には、このレジストパターン形成工程では、先ず、マスクパターン形成用の薄膜上にレジスト膜を形成する。その後、レジスト膜に対して回路や画素パターン等の所望のパターンを描画する。FPD等の大型表示装置製造用の転写用マスクでは、形成するパターンの微細度や要求される描画スループット等から、この描画には、波長が365nm、405nm、413nm、436nm、及び442nm等の光、特にレーザー光がよく用いられる。この他、特に微細なパターンを形成する必要がある場合には、電子線(EB)やイオンビーム(IB)等を用いることもできる。しかる後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、レジストパターンを形成する。
【0050】
次に、レジストパターンをマスクにしてマスクパターン形成用の薄膜をエッチングして、マスクパターンを形成する。FPD等の大型表示装置製造用の転写用マスクでは、転写用マスクの大きさも、例えば1220mm×1400mmというように大きいため、面内エッチング分布の低減と、エッチング装置のコンパクト化及び装置コスト低減のため、このエッチングにはウェットエッチングがよく用いられる。実施の形態3のところで述べたように、マスクパターン形成用の薄膜が多層膜、例えば遮光層と反射防止層で出来ている場合にも、工程数削減のため、この多層膜を一括でウェットエッチングすることが望ましい。この工程数の削減は、スループット向上やエッチング装置の簡略化にとどまらず、一般に、欠陥品質の向上にも有利に働く。マスクパターン形成用の薄膜がクロム、あるいはクロムを主成分として含む場合には、このウェットエッチングとして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液が好ましく用いられる。
なお、極めて微細なパターンを形成する必要がある時などでは、パターン剥がれやパターン倒れが起きにくく、断面形状制御性も高いドライエッチングを用いることが好ましい。
【0051】
その後、レジストパターンをレジスト剥離液やアッシング等によって除去し、洗浄を行なう。洗浄液としては、例えば、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、オゾン水等を用いることができる。しかる後、必要に応じてマスクパターン欠陥検査や欠陥修正等を適宜行う。このようにして、所定値を満たす良好な平坦度を持つマスクブランク基板上に所望の転写パターンが形成された薄膜(薄膜パターン)を備える転写用マスクが製造される。
【0052】
上記転写用マスクの製造方法では、マスクパターン形成用の薄膜上に直接レジスト膜を形成してレジストパターンをマスクにしてマスクパターン形成用の薄膜をエッチングしたが、ハードマスク膜を用いてマスクパターン形成用薄膜をエッチングすることも可能である。この場合は、マスクパターン形成用の薄膜上にハードマスク膜を形成し、その上にレジスト膜を形成する。上述の方法でレジストパターンを形成後、一旦ウェットエッチングやドライエッチングで該ハードマスク膜にパターンを形成し、この加工されたハードマスクパターンをマスクにしてマスクパターン形成用の薄膜をエッチングする。その後、ハードマスクパターンを除去する。レジストパターンは、ハードマスク膜にパターンを形成した直後に除去しても良いし、マスクパターン形成用の薄膜のエッチング後に除去しても良い。
【0053】
マスクパターン形成用の薄膜のエッチングにウェットエッチングを適用する場合、ハードマスク膜が、マスクパターン形成用の薄膜のウェットエッチングに用いるエッチング液に対して高いエッチング耐性を有し、且つ、マスクパターン形成用の薄膜の表層部と密着性が高くてエッチング液の侵入を防ぐ材料にすると、このハードマスク膜を用いた方法で、上面部を含めて垂直な断面形状のマスクパターンを得ることが可能になる。実施の形態3のところで述べたように、マスクパターン形成用の薄膜がクロムあるいはクロムを主成分として含む場合は、ハードマスク膜の材料としては、ケイ素に金属、酸素、窒素、又は炭素の少なくともいずれか一つを含む材料、例えば、MoSi、SiO、SiON、SiC等が挙げられる。
【0054】
実施の形態4で製造された転写用マスクは、使用されるマスクブランク用基板の主表面の平坦度が所定値以下の所望のものであるため、製造された転写用マスクの主表面の平坦度は所定値以下の所望の良好なものとなる。このため、この転写用マスクを用いて露光転写を行うと、マスク平坦度起因の転写不良を起こしにくく、転写精度も高いという特徴がある。
【実施例】
【0055】
以下、各実施例について図面を参照しつつ本発明を更に詳細に説明する。なお、各実施例において同様の構成要素については同一の符号を使用し、説明を簡略化若しくは省略する。
【0056】
((表面形状補正データの取得))
最初に、参照基板として合成石英ガラスからなる基板を準備した。この基板の材料と大きさは、被測定基板のそれと同じもので、材料は合成石英ガラスであり、大きさは約1200mm×850mm×13mmである。合成石英ガラスは、撓みの少ない十分な剛性を有する。その後、平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、及び精密研磨加工工程よりなる研磨を適宜行い、その後、洗浄を行って基板の表面の異物や汚染を除去した。
【0057】
このようにして準備された参照基板の主表面に対して表面形状測定装置10を使って表面形状測定を行った。ここで用いた表面形状測定装置10の測長機5は非接触式レーザー変位計である。まず、参照基板の任意の端面(長辺側のいずれか一方の端面)を基準端面として設定して、この基準端面が下向きになるように立てた状態(0度の状態)で表面形状測定装置10にセットし、測長機5をガイドレールに沿ってX方向及びY方向に走査して表面形状測定を行った。この時、X方向、Y方向とも10mmピッチ毎に表面形状の測定データを取得した。このようにして、基準方向形状データである測定データM
0を取得する第1の表面形状測定工程を行った。その測定データM
0を等高線表示で表した図を
図3に示す。等高線は1段階変わるごとに1μm高さが変わることを意味し、濃色部ほど高さが低い(凹)ことを表す。
図3以降の等高線図でも、等高線は1段階変わるごとに1μm高さが変わることを意味し、濃色部ほど高さが低い(凹)ことを表す。
【0058】
次に、基準端面が下向きの状態(0度の状態)を基準とし、基準端面がその基準から右回りで90度、180度、及び270度の方向を向いた状態における主表面の表面形状をそれぞれ上記に示した方法で測定し、90度、180度、及び270度回転の別方向形状データである測定データM
90、M
180、M
270を取得する表面形状測定を行った。その結果を、それぞれ
図4、
図5及び
図6に等高線表示で示す。
【0059】
その後、測定データM
180を用いて、基準端面が0度の方向を向いた状態のデータC
180−0を計算する第1の回転データ算出工程と、測定データM
270を用いて、基準端面が90度の方向を向いた状態の参照基板の形状データC
270−90を計算する第2の回転データ算出工程と、測定データM
90を用いて、基準端面が0度の方向を向いた状態の形状データC
90−0を計算する第3の回転データ算出工程と、測定データM
0を用いて、基準端面が270度の向きを向いた状態の参照基板の形状データC
0−270を計算する第4の回転データ算出工程とを順次行った。
【0060】
しかる後、測定データM
0と形状データC
180−0との差分形状データD
1を求める第1の差分形状算出工程と、測定データM
90と形状データC
270−90との差分形状データD
2を求める第2の差分形状算出工程と、測定データM
0と形状データC
90−0との差分形状データD
3を求め、測定データM
270と形状データC
0−270との差分形状データD
4を求める第3の差分形状算出工程とを順次実施した。差分形状データD
1、D
2、D
3及びD
4を等高線分布図でそれぞれ
図7から10に示す。なお、差分を取る際には、下方側の辺の中心位置を互いに一致させるような位置関係で2つのデータを重ね合わせた。
【0061】
その後、D
1、D
2、D
3及びD
4の各差分表面形状データの単純和平均形状データを計算し、該単純和平均形状データを測定誤差の補正データFとした。ここで、測定領域が長方形領域であるため、差分形状データD
1と差分形状データD
2を重ね合わせて合成差分形状データD
12を生成し、この合成差分形状データD
12に対して近似曲面A
12を算出した。又、差分形状データD
3と差分形状データD
4を重ね合わせて合成差分形状データD
34を生成し、この合成差分形状データD
34に対して近似曲面A
34を算出した。さらに、前記近似曲面A
12と前記近似曲面A
34とから補正データFを算出した。
【0062】
差分形状データD
1と差分形状データD
2の重ねあわせの位置関係は、差分形状データD
1の下方側の長辺における中心位置と、差分形状データD
2の下方側の短辺の中心位置とが一致するようにした。他方、差分形状データD
3と差分形状データD
4の重ねあわせの位置関係は、差分形状データD
3の下方側の長辺における中心位置と、差分形状データD
4の下方側の短辺の中心位置とが一致するようにした。
【0063】
なお、各差分形状データの重ね合わせ(単純和平均)に際しては、差分形状データ各々に対して平均傾きを算出し、この平均傾きが0となるように各差分形状データの傾き補正を行った後に単純和平均することで、各合成差分形状データを生成してもよい。これは、表面形状測定装置10に対する基板1の取り付け角度誤差の補正(傾き補正)をするものである。
【0064】
近似曲面を算出するための曲面関数としては、横方向をx、縦方向をy、高さ方向をzとし、x及びyを独立変数とする多項式関数(x、yともに10次まで使用)を用いた。最初に傾き補正を行い、その後、平坦面に近づけるように係数のフィッティングを行って近似曲面を求めた。この結果得られた補正データFを等高線分布で表した図を
図11に示す。
その後、後述のマスクブランク用基板に対してここで得られた補正データFを使用して、平坦度の評価を行った。
【0065】
本方法による表面形状測定の確からしさ(精度)を調べるために以下の評価を行った。最初に、基準端面を下向きにした状態を0度の状態として、90度、180度、そして270度で測定した状態の測定データに対して、補正データFを適用して各回転測定時の補正後の表面形状の高さ分布を算出した。次に、当該補正後の0度における表面形状高さ分布と、補正後の90度、180度、及び270度の各状態における表面形状の高さ分布の差分を取得(より詳しくは、補正後の90度、180度、及び270度の各状態における表面形状の高さ分布に対し、0度の状態(基準端面が下向きの状態)になるように回転処理を行った後、0度の状態における表面形状の高さ分布との差分を取得。)した。さらに、その差分形状における高さ分布の「最大値―最小値」を算出した。その結果、90度、180度、及び270度での差分形状における高さ分布の「最大値―最小値」は、それぞれ1.02μm、1.20μm、及び0.75μmであった。これは、表面形状測定装置に基板を設置して主表面の表面形状を測定し、その表面形状から平坦度を算出した場合、その基板の表面形状測定装置に設置する時の向きに起因する平坦度の誤差が±0.6μm以内に収まることを示している。本発明の表面形状測定方法によって高い効果が得られることがわかる。なお、参考までに、本実施例における補正後の0度の状態における表面形状の高さ分布と270度の状態における表面形状高さ分布の差分を等高線分布図で示した図を
図12に示す。同図に示されるように等高線は1本しかなく、「最大値―最小値」差分が1μm前後であることがわかる。
【0066】
((マスクブランク用基板の製造))
最初に、合成石英ガラスからなる基板を複数枚準備した。合成石英ガラスは、使用する露光光に対して透光性を有し、且つ十分な剛性を有する。ここでは、基板のサイズが、約1200mm×850mm×13mmのものを用いた。その後、平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、及び精密研磨加工工程よりなる研磨を適宜行い、その後、洗浄を行って基板の表面の異物や汚染を除去した。
【0067】
このようにして準備された基板の主表面に対して前記表面形状測定装置10を使って表面形状測定を行った。測定した基板の主表面の表面形状に対して前記補正データFを用いた補正を行い、補正後の表面形状を取得した。さらにその補正後の表面形状から被測定基板の所定の領域(主表面の各外周端部から10mm内側の領域を除いた領域)の平坦度を算出した。すなわち、この基板1を端面が下向きになるように立てた状態で表面形状測定装置10にセットし、測長機5を前述のように走査して表面形状測定を行い、その後、前記参照基板から取得した補正データFを使用して被測定基板の平坦度を算出した。
【0068】
その後、平坦度の所定値(5μm)と算出した透明基板の平坦度の比較を行い、平坦度の所定値である平坦度基準を満たすものをマスクブランク用基板として選定し、マスクブランク用基板の製造を行った。実施例による表面形状測定は、測定誤差の少ない実態を表す表面形状測定であるため、実態の平坦度が所定値以下の主表面を有するマスクブランク用基板を精度良く選定することが可能であった。
((マスクブランクの製造))
【0069】
実施例のマスクブランクは、前述の方法で平坦度の所定値を満たすことが確認された露光光に対して十分な透光性を備えるマスクブランク用基板(合成石英ガラス基板、以下基板1とも称す)と、表示装置製造に用いる露光光を遮光する機能を有する遮光層の上に、露光光の反射を低減する反射防止層が積層された遮光膜とを有する。遮光膜のうちの遮光層は、CrNを下層、CrCを上層とする2層膜からなり、反射防止層は、CrCONからなる。次に、このマスクブランクの製造方法について説明する。
【0070】
基板1上に、大型インライン型スパッタリング装置を使用して、反応性スパッタリングによって、基板1側からCrN層及びCrC層が順に積層された遮光層と、CrCONからなる反射防止層とにより構成される遮光膜(マスクパターン用の薄膜)の成膜を行った。
各層の成膜条件は下記の通りである。
CrN:Ar=65sccm、N
2=15sccm、Power=1.5kW
CrC:Ar/CH
4(4.9%)=31sccm、Power=8.5kW
CrCON:Ar/CH
4(5.5%)=31sccm、N
2=8sccm、O
2=3sccm、Power=1.95kW
成膜後、応力緩和のアニールと洗浄、及び欠陥検査を行って、欠陥検査に合格したものをマスクブランクとした。
以上の方法で製造されたマスクブランクの所定の領域内の主表面の平坦度は、マスクブランク用基板の平坦度が所定値を満たす十分な平坦度のものであるため、所定値以下の所望のものとなった。
【0071】
((転写用マスクの製造))
次に、このマスクブランクを用いて、転写用マスクを製造した。
【0072】
最初に、マスクブランクの反射防止層であるCrCONの上に、膜厚1000nmのレジスト膜を形成した。そして、レーザー描画機を用いてこのレジスト膜に回路パターン等の所望のパターンを描画し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターンを形成した。ここで、使用したレーザー描画機の描画光の波長は413nmである。その後、基板1上に順次形成されたCrN層(下層の遮光層)、CrC層(上層の遮光層)、CrCON層(反射防止層)の合計3層からなるマスクパターン形成用薄膜を、レジストパターンをマスクとして、一体的にウェットエッチングでパターニングして、マスクパターンを形成した。したがって、マスクパターンは、CrNからなる下層の遮光層パターン、CrCからなる上層の遮光層パターン、CrCONからなる反射防止層パターンからなる。ここで、ウェットエッチングとしては、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液を用いた。
【0073】
その後、レジストパターンを剥離し、合成石英ガラス基板1上に、マスクパターンが形成された転写用マスクを得た。
【0074】
実施例で製造された転写用マスクは、使用されるマスクブランク基板の主表面の平坦度が所定値以下の所望のものであるため、製造された転写用マスクの主表面の平坦度は所定値以下の所望の良好なものとなった。このため、この転写用マスクを用いて露光を行うと、マスク平坦度起因の転写不良は見当たらず、転写精度も高いものであった。
【0075】
(比較例)
比較例は、表面形状データとして表面形状測定の実測定値を用いた例であって、それ以外はマスクブランク基板の選定及び製造方法、マスクブランクの製造方法、並びに転写用マスクの製造法に至るまで実施例と変わるところはない。ここで、表面形状データの測定誤差を実施例と比較例で直接比較できるように、比較例では実施例の実測データを用いた。すなわち、実施例の参照基板の基準方向形状測定データM
0、基準端面が90度、180度、及び270度の方向を向いた別方向形状測定データM
90、M
180、及びM
270の4つの実測定データを用いた。そして、測定データM
90を用いて、基準端面が0度の方向を向いた状態のデータC
90−0を算出し、測定データM
180を用いて基準端面が0度の方向を向いた状態の参照基板の形状データC
180−0を算出し、測定データM
270を用いて基準端面が0度の方向を向いた状態の参照基板の形状データC
270−0を算出した。さらに、各々の形状データC
90−0、C
180−0、C
270−0に対して基準方向形状測定データM
0との差分をとって、その差分の「最大値−最小値」を表面形状測定の測定誤差として取り扱った。
【0076】
その結果、基準端面が90度の向きで測定した表面形状に係わるデータC
90−0と基準方向(0度)で測定した表面形状のデータM
0との測定誤差は3.25μm、基準端面が180度の向きで測定した表面形状に係わるデータC
180−0と基準方向(0度)で測定した表面形状のデータM
0との測定誤差は1.60μm、そして基準端面が270度の向きで測定した表面形状に係わるデータC
270−0と基準方向(0度)で測定した表面形状のデータM
0との測定誤差は3.51μmであった。実施例のところでも述べたが、実施例による表面形状測定方法を用いた場合は、それぞれ1.02μm、1.20μm、及び0.75μmであり、測定誤差の絶対値もばらつきも比較例の方法は実施例の方法より大幅に値が悪かった。なお、参考までに、比較例の方法(実測値を直接用いた方法)における、基準端面が270度の向きで測定した表面形状に係わるデータC
270−0と基準方向で測定した表面形状のデータM
0の差分を等高線分布図で示した図を
図13に示す。同図に示されるように等高線が複数本現れ、「最大値―最小値」が数μmあること(同じ基板に対する測定結果の差分であり、この差分があるということは測定誤差があるということ)がわかる。
【0077】
比較例の表面形状測定方法で求めた基板主表面の平坦度を基に、平坦度の所定値(選定規格値)と比較を行って実施例と同じ方法で製造した基板の選定を行ってマスクブランク基板を製造した。その結果、表面形状測定精度の関係で、選定合格となったマスクブランク基板の中に平坦度の所定値(規格値)を満たさない基板が混じった。又、このマスクブランク基板を用いて、実施例と同じ方法でマスクブランクを製造すると、マスクブランクの中に平坦度の所定値(規格値)を満たさないマスクブランクが混じった。加えて、このマスクブランクを用いて、実施例と同じ方法で製造した転写用マスクの中に、平坦度の所定値(規格値)を満たさない転写用マスクが混じった。平坦度の所定値(規格値)を満たさない転写用マスクは、露光転写不良を起こした。