特許第6513530号(P6513530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6513530-Ti−Si系合金の脱酸方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6513530
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】Ti−Si系合金の脱酸方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20190425BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   C22C1/02 503E
   C22C14/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-169144(P2015-169144)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-43820(P2017-43820A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年4月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「チタン材一貫製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100146112
【弁理士】
【氏名又は名称】亀岡 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100167335
【弁理士】
【氏名又は名称】武仲 宏典
(74)【代理人】
【識別番号】100164998
【弁理士】
【氏名又は名称】坂谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】松若 大介
(72)【発明者】
【氏名】成島 尚之
(72)【発明者】
【氏名】上田 恭介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将仁
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭48−040163(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C1/02,14/00
C22B9/00,9/10,9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を合計で0.1質量%以上含有するTi原料およびSi原料、或いはTi原料およびSi原料を用いて作製した酸素を0.1質量%以上含有するTi−Si系合金を、原材料として、Tiを主成分とする低酸素Ti−Si系合金を製造するにあたり、
前記原材料のSiの含有量を30質量%以上40質量%以下とし、
4.7×104Pa〜1.1×105Paの圧力下において、前記原材料をアーク溶解により溶解し、その後、保持することによって、低酸素Ti−Si系合金を製造することを特徴とするTi−Si系合金の脱酸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を合計で0.1質量%以上含有するTi原料およびSi原料、或いはTi原料およびSi原料を用いて作製した酸素を0.1質量%以上含有するTi−Si系合金を、原材料として、低酸素Ti−Si系合金を製造するTi−Si系合金の脱酸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機や自動車向けの金属素材としてTi合金の需要が高まりつつある。活性金属であるTiを主成分とするTi合金を製造する際には、溶解中の酸素による汚染を防ぐ必要があり、従来から真空アーク溶解法(VAR)、電子ビーム溶解法(EB)、プラズマアーク溶解法(PAM)、真空誘導溶解法(VIM)、水冷銅式誘導溶解法(CCIM)などの溶解法が採用されてきた。
【0003】
上記した溶解法の中でも、VAR、EB、VIMといった溶解法は真空雰囲気下で合金の溶解を行う溶解法であり、このような溶解法を採用した場合、合金元素だけではなく、Tiについても溶解中に揮発してしまいロスを生じることになる。つまり、これら溶解法を採用した場合は工業プロセスにおいて、Ti合金を目標の組成に制御することが極めて困難であり、その結果、製造コストの増加を招くことにもつながっているのが現状である。
【0004】
また、酸素含有量が少ないTi合金を溶製するためには、酸素含有量が少ない高品位なTi材料を用いてTi合金を製造することが有効であるが、高品位なTi材料は、高価格であり、特に近年は高騰する傾向にあるため、酸素含有量が例えば0.1質量%以上と多いが、高品位なTi材料より価格が安いスポンジTi、スクラップ原料、ルチル鉱石(TiO)などの比較的低品位なTi材料を用いて酸素濃度が低いTi合金を製造したいというニーズが日々高まっている。
【0005】
Tiは活性金属であり、溶解する雰囲気中に存在する酸素との結合力が極めて強いため、溶解中に外部から取り込まれる酸素を低減し、いかに汚染を防ぐかという対策が従来からなされていた。しかし、一度Ti中に固溶した酸素を除去することは容易ではなく、その取り組み自体が少ないのが現状である。
【0006】
このような、Ti合金などのTiの脱酸方法に関する提案は、いくつかは既に存在するが、Siを脱酸剤として用いたTiの脱酸方法としては、特許文献1に記載された提案がある。
【0007】
この提案は、酸素を含有するTi材料を、Al或いはSiを単独でもしくは組み合わせて添加した状態で電子ビーム溶解して、酸素をAl或いはSiの酸化物として気相脱酸しようというものである。特に、実施例3には、Siを単独で添加して脱酸する方法が記載されており、酸素濃度が0.05重量%まで除去することができたと記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたTiの脱酸方法は、電子ビーム溶解法(EB)を採用した脱酸方法であり、前記したような高真空雰囲気での溶解であるため、SiのみならずTiの揮発ロスも同時に発生するため、TiおよびSiを追加添加する必要があり、製造コストの増加を招くことにもつながってしまう。また、Siの方がTiより蒸気圧が高いため、溶解の際に合金の組成に変化が生じ、Ti合金を目標の組成に制御することが極めて困難な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−243732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、酸素含有量が高い低品位なTi材料を用いて、酸素含有量が低いTi−Si系合金を、目標の組成で、しかも、大気圧に近い圧力下で容易に製造することができるTi−Si系合金の脱酸方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のTi−Si系合金の脱酸方法は、酸素を合計で0.1質量%以上含有するTi原料およびSi原料、或いはTi原料およびSi原料を用いて作製した酸素を0.1質量%以上含有するTi−Si系合金を、原材料として、Tiを主成分とする低酸素Ti−Si系合金を製造するにあたり、前記原材料のSiの含有量を30質量%以上40質量%以下とし、4.7×104Pa〜1.1×105Paの圧力下において、前記原材料をアーク溶解により溶解し、その後、保持することによって、低酸素Ti−Si系合金を製造することを特徴とする。



【発明の効果】
【0012】
本発明のTi−Si系合金の脱酸方法によると、酸素含有量が高い低品位なTi材料を用いて、酸素含有量が原材料より低いTi−Si系合金を、SiおよびTiの揮発が殆どなく目標の組成で、しかも高真空雰囲気としなくても大気圧に近い圧力下で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Si原料をTi原料で予め挟み込んで水冷銅容器内へ投入するSi原料の添加方法の一例を示す水冷銅容器等の製造設備の縦断面図である。
図2】水冷銅容器内に先にTi原料を投入して溶解した後に、Tiシートで包んだSiをTi融体内に投入するSi原料の添加方法の一例を示す水冷銅容器等の製造設備の縦断面図である。
図3】実施例における各合金試料のアーク溶解前後の質量変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、低品位なスポンジTi、スクラップ原料や、ルチル鉱石(TiO)などの酸素を多く含有する低品位なTi材料を用いて、低酸素Ti合金を、目標の組成で、しかも高真空雰囲気としなくても大気圧に近い圧力下で容易に製造することができる脱酸方法を見出すため、鋭意検討を行った。
【0015】
本発明者らは、合金元素に用いる元素としてSiに着目した。その結果、合金中のSi濃度が20質量%以上になると脱酸反応が進行し、低品位なTi材料を用いて作製したTi−Si系合金であっても、Siを20質量%以上含有するTi−Si系合金であれば、高真空雰囲気下でなくとも大気圧に近い圧力下で、SiやTiの揮発ロスがなく目標の組成の低酸素Ti−Si系合金を容易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0017】
本発明のTi−Si系合金の脱酸方法は、酸素を合計で0.1質量%以上含有するTi原料およびSi原料、或いはTi原料およびSi原料を用いて作製した酸素を0.1質量%以上含有するTi−Si系合金を、原材料として、低酸素Ti−Si系合金を製造するにあたり、原材料のSiの含有量を20質量%以上とし、大気圧に近い4.7×10Pa〜1.1×10Paの圧力下において、前記原材料を、アーク溶解により溶解し、その後、保持することによって、Siの含有量を実質的に低下させることなく酸素含有量を低下させて、低酸素Ti−Si系合金を製造する方法である。
【0018】
本発明では、前記Ti原料としては、低品位なスポンジTi、スクラップ原料や、ルチル鉱石(TiO)などを用いるが、Ti原料およびSi原料を原材料とする場合のSi原料の添加方法としては、図1に示すような、Si原料をTi原料で予め挟み込んで水冷銅容器内へ投入し、溶解を開始するサンドイッチ法、図2に示すように、水冷銅容器内に先にTi原料を投入して溶解した後に、Tiシートで包んだSiをTi融体内に投入する投入法などを採用することができる。
【0019】
本発明が、Ti−Si系合金の作製に、低品位なスポンジTi、スクラップ原料や、ルチル鉱石(TiO)などの酸素含有量が多いTi原料を用いる理由は、これらTi原料が廉価であり調達し易いからである。
【0020】
これらTi原料およびSi原料よりなる合金材料、或いはこれらTi原料およびSi原料を用いて作製したTi−Si系合金の、酸素含有量を0.1質量%以上とした理由は、酸素含有量が0.1質量%未満であれば、酸素の含有量は僅かであり脱酸自体が必要ないからである。尚、本発明では、酸素の含有量の上限は規定しないが、前記合金材料などに実際に含有される酸素含有量の上限は、多くても5.0質量%程度であると考えられる。
【0021】
原材料のSiの含有量、すなわち、Ti原料およびSi原料よりなる合金材料、或いはこれらTi原料およびSi原料を用いて作製したTi−Si系合金の、Siの含有量を、20質量%以上とした理由は、原材料中のSiの含有量が20質量%以上であれば、Ti−Si系合金の脱酸が進行するからである。
【0022】
この脱酸反応は液相において発現する現象で、Ti−Si系合金の場合は、SiOの蒸気圧が、純Tiの蒸気圧より高くなると脱酸反応が進行する。Ti−Si系合金のSi含有量が20質量%以上であれば、Ti−Si系合金が溶解する概ね2400K以上の温度で、SiOの蒸気圧が十分高くなり、脱酸反応が進行する。尚、SiOの蒸気圧は高温になるほど高くなり脱酸反応はより進行する。その温度の上限はTiの蒸気圧が5.6×10Paとなる3000K程度である。
【0023】
原材料中のSiの含有量の更に好ましい下限は30質量%であり、原材料中のSiの含有量が30質量%以上であれば、脱酸の進行はより顕著になり、Ti−Si系合金の酸素含有量は確実に0.1質量%を下回る。尚、本発明では、原材料中のSiの含有量の上限は特に規定しないが、実際上の原材料中のSiの含有量の上限は40質量%程度である。Ti−Si系合金はSi以外の他の合金元素や酸素などの不純物も含有するので、合金元素であるSiの含有量が多くなり過ぎるとTiの割合が少なくなりTi−Si系合金ということができなくなる。
【0024】
本発明では原材料を溶解するにあたりアーク溶解を採用するが、アーク溶解には、プラズマアーク溶解が含まれることは勿論である。また、原材料のアーク溶解は、4.7×10Pa(350Torr)〜1.1×10Pa(830Torr)の圧力下で、Arガス、Heガスなどを用いた不活性ガス雰囲気下で行う。
【0025】
圧力の下限を4.7×10Pa(350Torr)とした理由は、この圧力以上であれば、溶解プロセス中にアーク放電が可能であり、また、SiやTiの揮発ロスを低減できるからである。好ましい下限は、より安定なアーク放電が可能となる5.3×10Pa(400Torr)である。また上限を1.1×10Pa(830Torr)とした理由は、この圧力がアーク溶解時の到達炉内圧力の上限と考えられるからであり、好ましい上限は一般的なアーク溶解における溶解条件である1.0×10Pa(760Torr)である。
【0026】
尚、本発明のTi−Si系合金の脱酸方法は、Siの含有量を低下させることなく酸素濃度を低下させて、低酸素Ti−Si系合金を製造する方法であるとしているが、先に記載したように、Siの含有量は極僅かに低下しても構わない。許容できるSiの含有量の低下率は5.0%以下であり、本発明であれば、Siの含有量の低下率を5.0%以下とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0028】
(Ti−Si系合金中のSi含有量と溶解後の酸素含有量の関係)
Ti−Si系合金中のSiの含有量が、アーク溶解後の到達酸素含有量に及ぼす影響を調べるために、初期酸素含有量が1.6質量%と0.1質量%に調整された高酸素Ti−Si系合金試料を作製した。
【0029】
酸素含有量が1.6質量%の合金試料については、Siの含有量が3質量%、5質量%、9.1質量%、17質量%、23質量%、30質量%の合金試料をそれぞれ準備した。これら合金試料を用いて、760Torrの圧力下において、Arガスを用いた不活性ガス雰囲気下で、アーク溶解を実施した。表1に各合金試料のアーク溶解前後の酸素含有量を、図3に各合金試料のアーク溶解前後の質量変化を、それぞれ示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1によると、Siの含有量が3質量%、5質量%、9.1質量%、17質量%の合金試料では、アーク溶解後の到達酸素含有量が、初期酸素含有量の1.606質量%からあまり下がっておらず脱酸が進行していないのに対し、Siの含有量が23質量%の合金試料では、アーク溶解後の到達酸素含有量が確実に下がっており、脱酸が進行していることが分かる。また、Siの含有量が30質量%の合金試料では、アーク溶解後の到達酸素含有量は大きく低下しており、脱酸の進行はより顕著である。
【0032】
図3に各合金試料のアーク溶解前後の質量変化を示すが、殆ど質量変化は確認できず、SiおよびTiの揮発が殆どないことが分かる。
【0033】
また、酸素含有量が0.1質量%の合金試料については、Siの含有量(添加量)が3質量%、10質量%、30質量%の合金試料をそれぞれ準備した。これら合金試料を用いて、760Torrの圧力下において、Arガスを用いた不活性ガス雰囲気下で、アーク溶解を実施した。表2に各合金試料のアーク溶解前後の酸素含有量を示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2によると、Siの含有量が3質量%、10質量%の合金試料では、アーク溶解後の到達酸素含有量が、初期酸素含有量の0.1038質量%から殆ど下がっておらず脱酸が進行していないのに対し、Siの含有量が30質量%の合金試料では、アーク溶解後の到達酸素含有量は大きく低下しており、脱酸が確実に進行している。
図1
図2
図3