特許第6513660号(P6513660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6513660
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】三次元印刷装置および三次元印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/112 20170101AFI20190425BHJP
   B29C 64/188 20170101ALI20190425BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20190425BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20190425BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20190425BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20190425BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20190425BHJP
【FI】
   B29C64/112
   B29C64/188
   B29C64/209
   B29C64/393
   B33Y50/02
   B33Y30/00
   B33Y10/00
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-529564(P2016-529564)
(86)(22)【出願日】2015年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2015067846
(87)【国際公開番号】WO2015199019
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2018年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-129693(P2014-129693)
(32)【優先日】2014年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】池田 明
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
(72)【発明者】
【氏名】坂口 あゆみ
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0328228(US,A1)
【文献】 特開2013−114676(JP,A)
【文献】 特開2003−48253(JP,A)
【文献】 特開2013−147544(JP,A)
【文献】 特表2012−525766(JP,A)
【文献】 特開2011−73163(JP,A)
【文献】 特表2015−515937(JP,A)
【文献】 特開2004−322638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 − 64/40
B33Y 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の色調を3色成分に色分解して造形物を造形可能な三次元印刷装置であって、
所定の色調を実現するために必要な着色インクと、上記着色インクのインク層の高さを補填するための補填インクとを吐出対象面に吐出するインクジェットヘッドと、
上記インクジェットヘッドを制御する制御部と、を備え、
上記制御部は、
上記3色成分のうちの2色または3色をそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を実現する場合、予め搭載された上記着色インクのうち当該色調を呈するインクを着色インクとして用いるように上記インクジェットヘッドを制御し、
吐出対象面の単位面積当たりの上記着色インクのインク層の高さが、所定の高さを満たさない箇所については、当該着色インクのインク層の高さを上記補填インクによって補填するように上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする三次元印刷装置。
【請求項2】
上記制御部は、
所定の色調を実現するために必要な上記着色インクの吐出量を決定する着色インク決定部と、
上記着色インク決定部によって決定された吐出量で吐出されることで形成される上記着色インクのインク層の高さが上記所定の高さを満たすか否かを判定する判定部と、
上記判定部による判定結果に基づいて、上記着色インクのインク層の高さが上記所定の高さを満たさない場合に、上記補填インクの補填量を算出する算出部とを備え、
上記補填量の上記補填インクを吐出するように、上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項1に記載の三次元印刷装置。
【請求項3】
上記制御部は、所定の色調を実現するために必要な各色の上記着色インクの吐出量に基づいて、上記3色成分のうちの2色または3色の上記着色インクをそれぞれ等量ずつ吐出する情報が含まれている場合には、上記2色または3色の上記着色インクをそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を呈するインクを上記着色インクとして吐出するように、上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の三次元印刷装置。
【請求項4】
上記制御部は、イエロー(Y)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(r)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(r)の1/2の量の赤(R)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項3に記載の三次元印刷装置。
【請求項5】
上記制御部は、イエロー(Y)のインクとシアン(C)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(g)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(g)の1/2の量の緑(G)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項3に記載の三次元印刷装置。
【請求項6】
上記制御部は、シアン(C)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(b)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(b)の1/2の量の青(B)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項3に記載の三次元印刷装置。
【請求項7】
上記制御部は、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(k)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(k)の1/3の量のブラック(K)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項3に記載の三次元印刷装置。
【請求項8】
任意の色調を3色成分に色分解して造形物を造形可能な三次元印刷方法であって、
インクジェットヘッドにより、所定の色調を実現するために必要な着色インクと、上記着色インクのインク層の高さを補填するための補填インクとを吐出対象面に吐出する吐出工程と、
上記インクジェットヘッドを制御する制御工程と、を含み、
上記制御工程では、
上記3色成分のうちの2色または3色をそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を実現する場合、予めインクジェットヘッドに搭載された上記着色インクのうち当該色調を呈するインクを着色インクとして用いるように上記インクジェットヘッドを制御し、
吐出対象面の単位面積当たりの上記着色インクのインク層の高さが、所定の高さを満たさない箇所については、当該着色インクのインク層の高さを上記補填インクによって補填するように上記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする三次元印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元印刷装置および三次元印刷方法に関し、詳細には、インクジェットヘッドを備えた三次元印刷装置および三次元印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する手法としては、特許文献1にあるようなシート積層法のほか、溶融物堆積法(FDM:Fused Deposition Molding)、インクジェット法、インクジェットバインダ法、光造形法(SL:Stereo Lithography)、または粉末焼結法(SLS:Selective Laser Sintering)等が知られている。
【0003】
中でも、インクジェット法として、三次元印刷装置によって紫外線硬化性樹脂を噴射して形成した層を積層する方法が多用されている。この方法は、まず最終製品の外観内観のデザインおよび機構等を三次元CADによってデータ化した後、コンピュータによって該データをスライスした多層の断面形状データを作成する。そして、紫外線硬化性樹脂を当該断面形状データに則してインクジェットヘッドより噴射して形成した層を積層することにより、立体物を製造する。また、このような手法を用いて造形した立体物に模様または色を付けることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2003−71530号公報(2003年3月11日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェット法を用いて造形される立体造形物に模様または色を付ける技術の多くは、立体造形物表面および内面に模様または色を付けるというものである。ここで、従来周知のインクジェット法による立体造形に関して、造形材料自体をイエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)で色付けすると、インクジェットで吐出する吐出量が色ごとに異なるため、各色の着色インク間で凹凸が生じる。
【0006】
この凹凸について図7を用いて説明する。各色のインクの吐出量(インク量)を変えることによって、色調を変えた場合を例に挙げる。各色の吐出上限量を100とした場合、図7の(a)に示す色調A〜色調Cは、面積当たりのインクの吐出量の総和がそれぞれ200、160、および180と互いに異なっている。そのため、この3つの色調で形成した積層体は、図7の(b)に示すように層の厚さにばらつきが生じることになる。
【0007】
造形物の各層は均一の高さに形成する必要があるため、この凹凸をなくすためにクリアインクを補填している。しかしながら、この凹凸をなくすために補填するクリアインクが多いと、クリアインクの補填による高さ誤差が生じ、造形物の表面に不都合に凹凸が生じてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、造形物の表面に不都合に凹凸を生じさせずに所望の色調を実現することができる三次元印刷装置および三次元印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る三次元印刷装置は、任意の色調を3色成分に色分解して造形物を造形可能な三次元印刷装置であって、所定の色調を実現するために必要な着色インクと、上記着色インクのインク層の高さを補填するための補填インクとを吐出対象面に吐出するインクジェットヘッドと、上記インクジェットヘッドを制御する制御部と、を備え、上記制御部は、上記3色成分のうちの2色または3色をそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を実現する場合、予め搭載された上記着色インクのうち当該色調を呈するインクを着色インクとして用いるように上記インクジェットヘッドを制御し、吐出対象面の単位面積当たりの上記着色インクのインク層の高さが、所定の高さを満たさない箇所については、当該着色インクのインク層の高さを上記補填インクによって補填するように上記インクジェットヘッドを制御する。
【0010】
上記の構成によれば、着色インクのみでは所定の高さを満たさない箇所を補填インクで補填することによって、当該着色インクのインク層の高さを、上記の所定の高さに近づけるか、上記の所定の高さと等しくすることができる。そのため、例えば色調間で着色インク層の厚さが異なる場合であっても、その厚さの差を解消することができる。ここで、本発明に係る三次元印刷装置では、2次色または3次色によって実現される色調を1色のインクで実現することで各色の着色インク間の凹凸の度合いを低減することができるため、補填インクを補填する高さを低く抑制できる。それ故、補填インクの補填による高さ誤差を抑制することができ、造形物の表面に不都合に凹凸を生じさせずに所望の色調を実現することができる。
【0011】
また、本発明に係る三次元印刷装置は、比較対象のインクジェットヘッドでは2次色または3次色によって実現される色調を、1色のインクによって実現でき、かつ、その吐出量の総和も比較対象のインクジェットヘッドにおけるインクの吐出量の総和の最大で3分の1に抑えることができる。このように、所望の色調を実現するために吐出するインクの吐出量の総和を低減させることができる。
【0012】
これにより、造形物の各層に着目すると、2次色または3次色によって実現される色調を1色のインクで実現することで単位面積当たりの着色インクのドット数を少なくすることができる。そのため、着色インクを吐出するドット同士の間隔が広がり、形成した層をローラで平坦化する際に、隣接するドット同士の着色インクの接触が少なくなり、発色滲みを発生し難くすることができる。
【0013】
ここで、造形物の各層は均一の高さに形成する必要があるため、着色インクを吐出していないドットには補填インクを吐出することになる。そのため、形成した層をローラで平坦化する際には、補填インクによって着色インク同士がより接触し難くなる。
【0014】
これは、各色の着色インクを重ねて印刷する場合であっても、各色の着色インクを隣接させて印刷する場合であっても、同様の効果を奏する。すなわち、UV照射によってインクを硬化する前に、形成した層をローラで平坦化させる場合、補填インクを吐出するドット数が増加することにより、着色インク同士が接触し難くなり、発色滲みを抑制することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置においては、上記制御部は、所定の色調を実現するために必要な上記着色インクの吐出量を決定する着色インク決定部と、上記着色インク決定部によって決定された吐出量で吐出されることで形成される上記着色インクのインク層の高さが上記所定の高さを満たすか否かを判定する判定部と、上記判定部による判定結果に基づいて、上記着色インクのインク層の高さが上記所定の高さを満たさない場合に、上記補填インクの補填量を算出する算出部とを備え、上記補填量の上記補填インクを吐出するように、上記インクジェットヘッドを制御する。
【0016】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置においては、上記制御部は、所定の色調を実現するために必要な各色の上記着色インクの吐出量に基づいて、上記3成分のうちの2色または3色の上記着色インクをそれぞれ等量ずつ吐出する情報が含まれている場合には、上記2色または3色の上記着色インクをそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を呈するインクを上記着色インクとして吐出するように、上記インクジェットヘッドを制御するため、上述した作用効果を奏する三次元印刷装置を提供することができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置においては、上記制御部は、イエロー(Y)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(r)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(r)の1/2の量の赤(R)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御する。
【0018】
上記の構成によれば、イエロー(Y)のインクとマゼンダ(M)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2の量の赤(R)のインクによって実現することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置においては、上記制御部は、イエロー(Y)のインクとシアン(C)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(g)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(g)の1/2の量の緑(G)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御する。
【0020】
上記の構成によれば、イエロー(Y)のインクとシアン(C)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2の量の緑(G)のインクによって実現することができる。
【0021】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置においては、上記制御部は、シアン(C)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(b)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(b)の1/2の量の青(B)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御する。
【0022】
上記の構成によれば、シアン(C)のインクとマゼンダ(M)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2の量の青(B)のインクによって実現することができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置においては、上記制御部は、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(k)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(k)の1/3の量のブラック(K)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッドを制御する。
【0024】
上記の構成によれば、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/3の量のブラック(K)のインクによって実現することができる。
【0025】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷方法は、任意の色調を3色成分に色分解して造形物を造形可能な三次元印刷方法であって、インクジェットヘッドにより、所定の色調を実現するために必要な着色インクと、上記着色インクのインク層の高さを補填するための補填インクとを吐出対象面に吐出する吐出工程と、上記インクジェットヘッドを制御する制御工程と、を含み、上記制御工程では、上記3色成分のうちの2色または3色をそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を実現する場合、予めインクジェットヘッドに搭載された上記着色インクのうち当該色調を呈するインクを着色インクとして用いるように上記インクジェットヘッドを制御し、吐出対象面の単位面積当たりの上記着色インクのインク層の高さが、所定の高さを満たさない箇所については、当該着色インクのインク層の高さを上記補填インクによって補填するように上記インクジェットヘッドを制御する。
【0026】
上記の方法によれば、本発明に係る三次元印刷装置と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、造形物の表面に不都合に凹凸を生じさせずに所望の色調を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る三次元印刷装置の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドから吐出されたインクによってインク層が積層されて形成された積層体(造形物)を構成した状態を示す図である。
図3】図中の(a)および(b)は、共に同じ色調を表現するための色構成と、各色インクの吐出量とを模式的に表わす図である。
図4】図中の(a)および(b)は、共に同じ色調を表現するための色構成と、各色インクの吐出量とを模式的に表わす図である。
図5】図中の(a)および(b)は、共に同じ色調を表現するための色構成と、各色インクの吐出量とを模式的に表わす図である。
図6】本発明の一実施形態において、クリアインクによって着色領域の高さを補填した結果の積層体の厚さを示す図である。
図7】従来技術における問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る三次元印刷装置および三次元印刷方法の一形態について、図面を用いて説明する。本実施形態に係る三次元印刷装置は、吐出対象面の単位面積当たりのインク層の高さが、着色インクのみでは所定の高さを満たさない箇所について、補填インクによって、インク層の高さを補填することを特徴としている。以下では、補填インクの補填によって、いずれの色調のインク層(着色インクのみの層か、着色インクおよび補填インクの層)もインク層の高さが互いに等しくなる態様を説明する。しかしながら、本発明はインク層の高さを互いに等しくする態様に限定されるものではなく、着色インクのみでは色調間でインク層の高さに差がある場合に、その差を僅かでも小さくすることができればよい。すなわち、補填によって、高さの差が小さくなる態様についても本発明の範囲に含まれる。
【0030】
なお、本実施形態では、インク層の高さをインク層の厚さと表現することがある。また、本実施形態では、吐出対象面の単位面積当たりのインク層の高さを、吐出対象面の単位面積当たりのインクの吐出量と表現することがある。また、本実施形態において、吐出対象面の単位面積当たりの吐出量または厚さを、単に、吐出量または厚さと記載することがある。ここで、インクの吐出量とは、インクの吐出体積である。
【0031】
(1)三次元印刷装置の構成
図1は、本実施形態に係る三次元印刷装置の構成を示す斜視図である。図1に示すように、三次元印刷装置1は、インクジェットヘッド10と、制御装置20(制御部)と、ステージ30と、紫外線照射装置40と、位置移動装置50とを備えている。
【0032】
インクジェットヘッド10には、イエロー(Y)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(Y)と、マゼンダ(M)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(M)と、シアン(C)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(C)と、赤(R)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(R)と、緑(G)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(G)と、青(B)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(B)と、ブラック(K)(着色インク)のインクが充填されたヘッド10(K)と、クリアインク(CL)(補填インク)が充填されたヘッド10(CL)とが設けられている。
【0033】
ここで、ブラック(K)のインクは、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(k)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(k)の1/3の量で実現するインクである。
【0034】
また、赤(R)のインクは、イエロー(Y)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(r)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(r)の1/2の量で実現するインクである。
【0035】
また、緑(G)のインクは、イエロー(Y)のインクとシアン(C)のインクとを1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(g)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(g)の1/2の量で実現するインクである。
【0036】
また、青(B)のインクは、シアン(C)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(b)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(b)の1/2の量で実現するインクである。
【0037】
これらヘッドは、図1に示すように一直線上に配列して設けられている。各ヘッドに充填されたインクは、ステージ30に対向する側に設けられた図示しないノズル孔から、後述する制御装置20の制御によりインクジェット法を用いて、ステージ30上に載置された印刷対象100の吐出対象面に向かって吐出する。
【0038】
位置移動装置50は、インクジェットヘッド10に接続され、インクジェットヘッド10を図1中に示す矢印の方向に沿って移動させる。この移動方向は、インクジェットヘッド10の8つのヘッドの配列方向と等しい。そのため、インク吐出中のインクジェットヘッド10が位置移動装置50の駆動を受けて移動することによって、印刷対象100のインクジェットヘッド10直下の特定の領域に、8つのヘッドが順に通過してインクを吐出し、インク層が積層される。
【0039】
三次元印刷装置1において用いられるインクに特に限定はないが、例えばUV硬化型インク(ラジカル重合型のインク、カチオン重合型のインク、またはこれらの混合インク)、水または有機溶媒、および樹脂を含み、当該樹脂が当該水または有機溶媒に乳濁または懸濁しているラテックスインク、有機溶媒を含むソルベントUVインク(SUVインク)、ソリッドインク、または重ねプリントにより三次元造形が可能なその他のインクを好適に使用可能である。
【0040】
(2)積層体の構成
図2は、インクジェットヘッド10から吐出されたインクによってインク層が積層されて形成された積層体70(造形物)を構成した状態を示す図である。図2に示すように、ヘッド10(Y)から吐出したイエロー(Y)のインクによって形成されたインク層70(Y)の上に、ヘッド10(M)から吐出したマゼンダ(M)のインクによって形成されたインク層70(M)が積層され、さらにその上に、ヘッド10(C)から吐出したシアン(C)のインクによって形成されたインク層70(C)が積層され、さらにその上に、ヘッド10(R)から吐出した赤(R)のインクによって形成されたインク層70(R)が積層され、さらにその上に、ヘッド10(G)から吐出した緑(G)のインクによって形成されたインク層70(G)が積層され、さらにその上に、ヘッド10(B)から吐出した青(B)のインクによって形成されたインク層70(B)が積層され、さらにその上に、ヘッド10(K)から吐出したブラック(K)のインクによって形成されたインク層70(K)が積層され、さらにその上に、ヘッド10(CL)から吐出したクリアインク(CL)によって形成されたインク層70(CL)が積層される。
【0041】
図2に示す積層体70は、インク層70(Y)、インク層70(M)、インク層70(C)、インク層70(R)、インク層70(G)、インク層70(B)、およびインク層70(K)によって構成される着色領域Pを有している。着色領域Pを構成するインク層70(Y)、インク層70(M)、インク層70(C)、インク層70(R)、インク層70(G)、インク層70(B)、およびインク層70(K)の厚さが、着色領域Pが呈する色調を決定する。なお、ヘッド10(CL)から吐出したクリアインクによって形成されたインク層70(CL)は、その膜厚(層厚)に関わらず、着色領域Pが呈する色調に影響しない。したがって、積層体70の色調は、インク層70(Y)、インク層70(M)、インク層70(C)、インク層70(R)、インク層70(G)、インク層70(B)、およびインク層70(K)が決定していると換言することができる。
【0042】
なお、図2に示す積層体は、説明の便宜上、すべてのヘッドからインクを吐出した場合の状態を示しているが、実際には、所望する色調を表現するのに必要なインク層のみが形成される。換言すれば、所望の色調に応じて、インクを吐出するヘッドが予め決められており、そのヘッドからインクを吐出してインク層を積層する(一層の場合もある)ことによって、その積層体が所望の色調を呈する。
【0043】
(3)色置換処理
周知のように、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)の3色のインクを用いれば、それらの組み合わせや、組み合わせる割合を変えることによって、所望の色調を実現することができる。しかしながら、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)の3色のインクでは、所望の色調を実現するために使用するインクの吐出量の総和が比較的多く、そのため、隣接するドット同士の着色インクの接触により、着色インクが不都合に混ざって発色滲みが生じてしまう場合がある。
【0044】
そこで、本実施形態に係る三次元印刷装置1では、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)を吐出して表現する色調を、予め搭載されたブラック(K)のインクを吐出して当該色調を表現する3色置換処理、イエロー(Y)およびマゼンダ(M)のインクを吐出して表現する色調を、予め搭載された赤(R)のインクを吐出して当該色調を表現する2色置換処理、イエロー(Y)およびシアン(C)のインクを吐出して表現する色調を、予め搭載された緑(G)のインクを吐出して当該色調を表現する2色置換処理、シアン(C)およびマゼンダ(M)のインクを吐出して表現する色調を、予め搭載された青(B)のインクを吐出して当該色調を表現する2色置換処理を行う。
【0045】
具体的には、本実施形態では、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとが1:1:1の割合である部分を、ブラック(K)のインクに置き換える。上述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド10には、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(k)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(k)の1/3の量で実現するブラック(K)のインクが装填されているヘッド10(K)が設けられている。そのため、本実施形態では、イエロー(Y)、マゼンダ(M)およびシアン(C)によって表現される色調を表現するために必要な単位面積当たりのインクの吐出量の総和が、イエロー(Y)、マゼンダ(M)およびシアン(C)を用いて表現する場合の1/3の量でよい。
【0046】
また、本実施形態では、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクとを1:1の割合である部分を、赤(R)のインクに置き換える。上述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド10には、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(r)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(r)の1/2の量のインクで実現する赤(R)のインクが装填されているヘッド10(R)が設けられている。そのため、本実施形態では、イエロー(Y)およびマゼンダ(M)によって表現される色調を表現するために必要な単位面積当たりのインクの吐出量の総和が、イエロー(Y)およびマゼンダ(M)を用いて表現する場合の1/2の量でよい。
【0047】
また、本実施形態では、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1の割合である部分を、緑(G)のインクに置き換える。上述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド10には、イエロー(Y)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(g)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(g)の1/2の量で実現する緑(G)のインクが装填されているヘッド10(G)が設けられている。そのため、本実施形態では、イエロー(Y)およびシアン(C)によって表現される色調を表現するために必要な単位面積当たりのインクの吐出量の総和が、イエロー(Y)およびシアン(C)を用いて表現する場合の1/2の量でよい。
【0048】
また、本実施形態では、比較対象のインクジェットヘッドにおいてシアン(C)のインクと、マゼンダ(M)のインクとを1:1の割合である部分を、青(B)のインクに置き換える。上述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド10には、シアン(C)のインクと、マゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、吐出対象面の単位面積当たりに合計で所定量(b)吐出して実現される色調を、吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(b)の1/2の量で実現する青(B)のインクが装填されているヘッド10(B)が設けられている。そのため、本実施形態では、シアン(C)およびマゼンダ(M)によって表現される色調を表現するために必要な単位面積当たりのインクの吐出量の総和が、シアン(C)およびマゼンダ(M)を用いて表現する場合の1/2の量でよい。
【0049】
(4)色置換処理の具体例
以下に、図3図5の色調を例に挙げて、本実施形態の効果をより具体的に説明する。図3図5中の(a)および(b)は、共に同じ色調を表現するための色構成と、各色インクの吐出量とを模式的に表わしている。なお、図3図5の(a)に示すマス目は、1マスが吐出対象面の単位面積当たりのインクの吐出量(インク量)が20であることを示している。図3図5に示すインク量「100」は、1つのヘッドから1回に吐出できる、吐出対象面の単位面積当たりの最大限界吐出量を表わす。すなわち、各色のインクのヘッドは、いずれも吐出対象面の単位面積当たり、最大で100吐出することができ、所望の色調を表現するにあたって吐出量が上限100までの間で変わる構成である。
【0050】
まず、図3の色調(i)を例に挙げる。図3の(a)中に示す箇所(1)が、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとが1:1:1の割合である部分である。この部分は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のインクの吐出量がそれぞれ20であり、吐出量の総和は60に相当する。
【0051】
この部分を、本実施形態に係るインクジェットヘッド10で表現すると、図3の(b)中の箇所(1)に示す部分となる。図3の(b)中の箇所(1)は、ブラック(K)のインクのみであり、かつインクの吐出量が20に相当する部分である。すなわち、本実施形態では、この箇所(1)で示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/3(約33%)のインクの吐出量で実現することができる。図3の(a)中に示す箇所(2)も、箇所(1)と同様である。
【0052】
また、図3の(a)中に示す箇所(3)は、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクとが1:1の割合である部分である。この部分は、イエロー(Y)およびマゼンダ(M)のインクの吐出量がそれぞれ20であり、吐出量の総和は40に相当する。
【0053】
この部分を、本実施形態に係るインクジェットヘッド10で表現すると、図3の(b)中の箇所(3)に示す部分となる。図3の(b)中の箇所(3)は、赤(R)のインクのみであり、かつインクの吐出量が20に相当する部分である。すなわち、本実施形態では、この箇所(3)で示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2(50%)のインクの吐出量で実現することができる。
【0054】
なお、図3の(a)中に示す箇所(4)はイエロー(Y)単独となるため、この箇所(4)は、本実施形態においてもイエロー(Y)単独であり、そのインクの吐出量も比較対象のインクジェットヘッドと同じ40である。
【0055】
このように、本実施形態では、3色置換処理および2色置換処理により、色調(i)を本実施形態において表現すれば、比較対象のインクジェットヘッドによって表現する場合に比べて、使用するインクの吐出量の総和を200から100に削減することができる。
【0056】
次に、色調(ii)を例に挙げる。図4の(a)中に示す箇所(1)が、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとが1:1:1の割合である部分である。この部分は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)およびシアン(C)のインクの吐出量がそれぞれ20であり、吐出量の総和は60に相当する。
【0057】
この部分を、本実施形態に係るインクジェットヘッド10で表現すると、図4の(b)中の箇所(1)に示す部分となる。図4の(b)中の箇所(1)は、ブラック(K)のインクのみであり、かつインクの吐出量が20に相当する部分である。すなわち、本実施形態では、この箇所(1)で示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/3(約33%)のインクの吐出量で実現することができる。
【0058】
また、図4の(a)中に示す箇所(2)が、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、シアン(C)のインクとが1:1の割合である部分である。この部分は、イエロー(Y)およびシアン(C)のインクの吐出量がそれぞれ20であり、吐出量の総和は40に相当する。
【0059】
この部分を、本実施形態に係るインクジェットヘッド10で表現すると、図4の(b)中の箇所(2)に示す部分となる。図4の(b)中の箇所(2)は、緑(G)のインクのみであり、かつインクの吐出量が20に相当する部分である。すなわち、本実施形態では、この箇所(2)で示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2(50%)のインクの吐出量で実現することができる。
【0060】
なお、図4の(a)中に示す箇所(3)はシアン(C)単独となるため、この箇所(3)は、本実施形態においてもシアン(C)単独であり、そのインクの吐出量も比較対象のインクジェットヘッドと同じ60である。
【0061】
このように、本実施形態では、3色置換処理および2色置換処理により、色調(ii)を本実施形態において表現すれば、比較対象のインクジェットヘッドによって表現する場合に比べて、使用するインクの吐出量の総和を160から100に削減することができる。
【0062】
続いて、色調(iii)を例に挙げる。図5の(a)中に示す箇所(1)が、比較対象のインクジェットヘッドにおいてイエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとが1:1:1の割合である部分である。この部分は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)およびシアン(C)のインクの吐出量がそれぞれ20であり、吐出量の総和は60に相当する。
【0063】
この部分を、本実施形態に係るインクジェットヘッド10で表現すると、図5の(b)中の箇所(1)に示す部分となる。図5の(b)中の箇所(1)は、ブラック(K)のインクのみであり、かつインクの吐出量が20に相当する部分である。すなわち、本実施形態では、この箇所(1)で示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/3(約33%)のインクの吐出量で実現することができる。図5の(a)中に示す箇所(2)も、箇所(1)と同様である。
【0064】
また、図5の(a)中に示す箇所(3)が、比較対象のインクジェットヘッドにおいてマゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとが1:1の割合である部分である。この部分は、マゼンダ(M)およびシアン(C)のインクの吐出量がそれぞれ20であり、吐出量の総和は40に相当する。
【0065】
この部分を、本実施形態に係るインクジェットヘッド10で表現すると、図5の(b)中の箇所(3)に示す部分となる。図5の(b)中の箇所(3)は、青(B)のインクのみであり、かつインクの吐出量が20に相当する部分である。すなわち、本実施形態では、この箇所(3)で示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2(50%)のインクの吐出量で実現することができる。
【0066】
なお、図5の(a)中に示す箇所(4)はマゼンダ(M)単独であり、その吐出量も比較対象のインクジェットヘッドと同じ20となる。
【0067】
このように、本実施形態では、3色置換処理および2色置換処理により、色調(iii)を本実施形態において表現すれば、比較対象のインクジェットヘッドによって表現する場合に比べて、使用するインクの吐出量の総和を180から80に削減することができる。
【0068】
以上の色調(i)〜色調(iii)の3色置換処理および2色置換処理から分かるように、比較対象のインクジェットヘッドにおいて使用するインクの吐出量の総和が最大300であるのに対して、本実施形態に係るインクジェットヘッド10において使用するインクの吐出量の総和は最大で100である。したがって、本実施形態によれば、比較対象のインクジェットヘッドと比較して、使用するインクの吐出量の総和を最大3分の1の量に削減することができ、なおかつ使用するインクの吐出量の総和を100以下に抑えることができる。
【0069】
このように、所望の色調を実現するために吐出するインクの吐出量の総和を低減させることができるため、積層体70の各層に着目すると、2次色または3次色によって実現される色調を1色のインクで実現することで単位面積当たりの着色インクのドット数を少なくすることができる。そのため、着色インクを吐出するドット同士の間隔が広がり、形成した層をローラで平坦化する際に、隣接するドット同士の着色インクの接触が少なくなり、発色滲みを発生し難くすることができる。
【0070】
ここで、積層体70の各層は均一の高さに形成する必要があるため、着色インクを吐出していないドットにはクリアインクを吐出することになる。そのため、形成した層をローラで平坦化する際には、クリアインクによって着色インク同士がより接触し難くなる。
【0071】
これは、各色の着色インクを重ねて印刷する場合であっても、各色の着色インクを隣接させて印刷する場合であっても、同様の効果を奏する。すなわち、UV照射によってインクを硬化する前に、形成した層をローラで平坦化させる場合、クリアインクを吐出するドット数が増加することにより、着色インク同士が接触し難くなり、発色滲みを抑制することができる。
【0072】
(5)着色インク決定部による色置換処理
上記の3色置換処理および2色置換処理は、制御装置20の着色インク決定部21が行う。着色インク決定部21は、外部から入力された入力信号に基づいて、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のインクの吐出量を決定する。着色インク決定部21は、決定したイエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のインクの吐出量に基づき、3色変換処理および2色変換処理を行う。入力信号とは、印刷する白黒画像またはカラー画像を、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)の3色成分に色分解した情報である。なお、着色インク決定部21が行う色置換処理の優先順位は問わないが、本実施形態では、着色インク決定部21は、インクの吐出量の総和を効果的に削減することができるという理由から、3色置換処理を最優先して行うものとする。
【0073】
着色インク決定部21は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のインクの吐出量のうち、最少吐出量のインクを特定し、その最少吐出量のイエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のインクを、ブラック(K)のインクで置き換える3色置換処理を行う。なお、入力信号にイエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のいずれかの色が含まれない場合には、3色置換処理は行わず、後述の2色置換処理を行う。
【0074】
3色置換処理が行われると、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、およびシアン(C)のインクのうち少なくとも1つは残りゼロとなっている。制御装置20は、残った2色のインクから、改めて最少吐出量のインクを特定し、その最少吐出量の2色のインクを、赤(R)、緑(G)、または青(B)のインクに置き換える2色置換処理を行う。なお、3色置換処理後に残った色が1色である場合には、2色置換処理は行われない。
【0075】
以上の3色置換処理と2色置換処理とにより着色インク決定部21が作成したデータに基づき、制御装置20は、吐出対象面の単位面積当たりのインク層の高さが、着色インクのみでは所定の高さを満たさない箇所について、補填インクによって、インク層の高さを補填している。これについては、以下に詳細に説明する。
【0076】
(6)吐出量の制御方法
ここで、本実施形態では、所望の色調の着色領域Pを形成し、かつ、クリアインクによって形成する補填領域Qによって着色領域Pの高さを補填し、積層体70の厚さを色調に関わらず均一にする。すなわち、図2に示す着色領域Pの厚さは色調によって変動する可能性がある厚さであるが、クリアインクによって形成する補填領域Qの厚さを調整して、色調に関わらず積層体70の厚さを所定の厚さ(所定の高さ)としている。
【0077】
各インク層の厚さは、図1の各ヘッドからの吐出量によって決まるものであるから、本実施形態では、着色領域Pを形成するための着色インクのみでは所定の厚さを満たさない場合、補填領域Qを形成するためのクリアインクで着色領域Pの厚さを補填することによって、いずれの色調の積層体70を形成する場合であっても、吐出対象面の単位面積当たりのインクの吐出量の総和を互いに等しくする。すなわち、積層体70を構成する各インクの吐出量は、次の関係式を満たす;
=I+I+I+I+I+I+I+ICL
[式中、
は、吐出対象面の単位面積当たりのインクの吐出量の総和を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(Y)の吐出量を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(M)の吐出量を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(C)の吐出量を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(R)の吐出量を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(B)の吐出量を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(G)の吐出量を表わす。
は、吐出対象面の単位面積当たりのインク(K)の吐出量を表わす。
CLは、吐出対象面の単位面積当たりのクリアインク(CL)の吐出量を表わす。]
各インクの吐出量を決定するのが制御装置20である。以下に、制御装置20による吐出量の制御方法を説明する。
【0078】
制御装置20は、図1に示すように、着色インク決定部21と、判定部22と、算出部23と、吐出制御部24とを有している。色調に関わらず積層体70の厚さを所定の厚さとするためのインクの所定の吐出量の情報は、予め制御装置20に格納されているか、制御装置20が外部から取得するか、作業者が入力すること等によって、制御装置20が所定の吐出量を用いて処理することができる状態となっている。
【0079】
本実施形態では、「所定の厚さ(所定の高さ)」は、インクジェットヘッド10が最大吐出量のインクを吐出したときの吐出対象面の単位面積当たりの各色のインク層の高さの総和とする。なお、最大吐出量とは、インクジェットヘッド10が吐出し得る最大の吐出量であり、インクジェットヘッド10が最大限吐出可能な吐出量(最大限界吐出量)とは異なる。すなわち、色調に関わらず積層体70の厚さを所定の厚さとするための「所定の吐出量」は、インクジェットヘッド10が吐出する最大吐出量である。上述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド10において使用するインクの吐出量は最大で100である。したがって、インクジェットヘッド10の最大吐出量、すなわち所定の吐出量は、100である。
【0080】
まず、着色インク決定部21は、3色置換処理および2色置換処理により作成したデータに基づいて、所定の色調を実現するために必要なイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、赤(R)、緑(G)、青(B)、およびブラック(K)の吐出量を決定する。
【0081】
判定部22は、着色インク決定部21が決定した各色のインクの吐出量の総和が、所定の吐出量を満たすか否かを判定する。ここで、図3の色調(i)および図4の色調(ii)の場合は、判定部22は、インクの吐出量の総和が100であるため、所定の吐出量(100)を満たしていると判定する。一方、図5の色調(iii)の場合は、判定部22は、インクの吐出量の総和が80であるため、所定の吐出量(100)を満たしていないと判定する。判定部22の判定結果は、算出部23に出力される。
【0082】
次に、算出部23は、判定部22による判定結果に基づき、各色のインクの吐出量の総和が所定の吐出量を満たさない場合に、インクの不足量を算出する。図5の色調(iii)の場合、算出部23は、所定の吐出量である100から各色インクの吐出量の総和である80を減算し、不足量として20を算出する。算出結果は、吐出制御部24に出力される。
【0083】
次に、吐出制御部24は、算出部23が算出した不足量に相当する量のクリアインクを補填する。図5の色調(iii)の場合、吐出制御部24は、ヘッド10(M)からマゼンダ(M)のインクを20、ヘッド10(B)から青(B)のインクを20、およびヘッド10(K)からブラック(K)のインクを40吐出するように、各ヘッドを制御すると共に、算出部23が算出した不足量である20を、ヘッド10(CL)からクリアインク(CL)を吐出するように制御する(図5の(b)中の箇所(5)に示す部分)。インクジェットヘッド10の各ヘッドは、吐出制御部24の制御を受けて、各色のインクを吐出する。
【0084】
クリアインクによって着色領域Pの高さを補填した結果の積層体70の厚さを図6に示す。図6に示すように、図3の色調(i)および図4の色調(ii)の場合は、着色領域Pが所定の高さを有しているため、クリアインクによって着色領域Pの高さを補填する必要がなく、積層体70は着色領域Pのみによって構成されている。一方、図5の色調(iii)の場合は、着色領域Pが所定の高さを満たしていないため、不足分の高さをクリアインクによって補填しており、積層体70は着色領域Pおよび補填領域Qによって構成されている。これにより、色調が互いに異なる積層体70であっても、互いに等しい量のインクが吐出されるため、色調に関わらず積層体70の厚さは互いに等しい厚さとなっている。
【0085】
ここで、三次元印刷装置1では、2次色または3次色によって実現される色調を1色のインクで実現することで各色の着色インク間の凹凸の度合いを低減することができるため、クリアインクを補填する高さを低く抑制できる。それ故、クリアインクの補填による高さ誤差を抑制することができ、積層体70の表面に不都合に凹凸を生じさせずに所望の色調を実現することができる。
【0086】
(7)付記事項
本発明の一態様に係る三次元印刷装置1は、任意の色調を3色成分に色分解して造形物を造形可能な三次元印刷装置1であって、所定の色調を実現するために必要な着色インクと、上記着色インクのインク層の高さを補填するための補填インクとを吐出対象面に吐出するインクジェットヘッド10と、上記インクジェットヘッド10を制御する制御部(制御装置20)と、を備え、上記制御部は、上記3色成分のうちの2色または3色をそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を実現する場合、予め搭載された上記着色インクのうち当該色調を呈するインクを着色インクとして用いるように上記インクジェットヘッド10を制御し、吐出対象面の単位面積当たりの上記着色インクのインク層の高さが、所定の高さを満たさない箇所については、当該着色インクのインク層の高さを上記補填インクによって補填するように上記インクジェットヘッド10を制御する。
【0087】
上記の構成によれば、着色インクのみでは所定の高さを満たさない箇所を補填インクで補填することによって、当該着色インクのインク層の高さを、上記の所定の高さに近づけるか、上記の所定の高さと等しくすることができる。そのため、例えば色調間で着色インク層の厚さが異なる場合であっても、その厚さの差を解消することができる。ここで、本発明に係る三次元印刷装置では、2次色または3次色によって実現される色調を1色のインクで実現することで各色の着色インク間の凹凸の度合いを低減することができるため、補填インクを補填する高さを低く抑制できる。それ故、補填インクの補填による高さ誤差を抑制することができ、造形物の表面に不都合に凹凸を生じさせずに所望の色調を実現することができる。
【0088】
また、本発明に係る三次元印刷装置1は、比較対象のインクジェットヘッドでは2次色または3次色によって実現される色調を、1色のインクによって実現でき、かつ、その吐出量の総和も比較対象のインクジェットヘッドにおけるインクの吐出量の総和の最大で3分の1に抑えることができる。このように、所望の色調を実現するために吐出するインクの吐出量の総和を低減させることができる。
【0089】
これにより、造形物の各層に着目すると、2次色または3次色によって実現される色調を1色のインクで実現することで単位面積当たりの着色インクのドット数を少なくすることができる。そのため、着色インクを吐出するドット同士の間隔が広がり、形成した層をローラで平坦化する際に、隣接するドット同士の着色インクの接触が少なくなり、発色滲みを発生し難くすることができる。
【0090】
ここで、造形物の各層は均一の高さに形成する必要があるため、着色インクを吐出していないドットには補填インクを吐出することになる。そのため、形成した層をローラで平坦化する際には、補填インクによって着色インク同士がより接触し難くなる。
【0091】
これは、各色の着色インクを重ねて印刷する場合であっても、各色の着色インクを隣接させて印刷する場合であっても、同様の効果を奏する。すなわち、UV照射によってインクを硬化する前に、形成した層をローラで平坦化させる場合、補填インクを吐出するドット数が増加することにより、着色インク同士が接触し難くなり、発色滲みを抑制することができる。
【0092】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置1においては、上記制御部は、所定の色調を実現するために必要な上記着色インクの吐出量を決定する着色インク決定部21と、上記着色インク決定部によって決定された吐出量で吐出されることで形成される上記着色インクのインク層の高さが上記所定の高さを満たすか否かを判定する判定部22と、上記判定部による判定結果に基づいて、上記着色インクのインク層の高さが上記所定の高さを満たさない場合に、上記補填インクの補填量を算出する算出部23とを備え、上記補填量の上記補填インクを吐出するように、上記インクジェットヘッドを制御する。
【0093】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置1においては、上記制御部は、所定の色調を実現するために必要な各色の上記着色インクの吐出量に基づいて、上記3色成分のうちの2色または3色の上記着色インクをそれぞれ等量ずつ吐出する情報が含まれている場合には、上記2色または3色の上記着色インクをそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を呈するインクを上記着色インクとして吐出するように、上記インクジェットヘッド10を制御するため、上述した作用効果を奏する三次元印刷装置を提供することができる。
【0094】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置1においては、上記制御部は、イエロー(Y)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(r)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(r)の1/2の量の赤(R)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッド10を制御する。
【0095】
上記の構成によれば、イエロー(Y)のインクとマゼンダ(M)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2の量の赤(R)のインクによって実現することができる。
【0096】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置1においては、上記制御部は、イエロー(Y)のインクとシアン(C)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(g)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(g)の1/2の量の緑(G)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッド10を制御する。
【0097】
上記の構成によれば、イエロー(Y)のインクとシアン(C)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2の量の緑(G)のインクによって実現することができる。
【0098】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置1においては、上記制御部は、シアン(C)のインクとマゼンダ(M)のインクとを1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(b)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(b)の1/2の量の青(B)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッド10を制御する。
【0099】
上記の構成によれば、シアン(C)のインクとマゼンダ(M)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/2の量の青(B)のインクによって実現することができる。
【0100】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷装置1においては、上記制御部は、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとを1:1:1の割合で、上記吐出対象面の単位面積当たりに、合計で所定量(k)吐出して実現される色調を、上記吐出対象面の単位面積当たりに当該所定量(k)の1/3の量のブラック(K)のインクによって実現するように、上記インクジェットヘッド10を制御する。
【0101】
上記の構成によれば、イエロー(Y)のインクと、マゼンダ(M)のインクと、シアン(C)のインクとで示す色調を、比較対象のインクジェットヘッドに比べて1/3の量のブラック(K)のインクによって実現することができる。
【0102】
また、本発明の一態様に係る三次元印刷方法は、任意の色調を3色成分に色分解して造形物を造形可能な三次元印刷方法であって、インクジェットヘッド10により、所定の色調を実現するために必要な着色インクと、上記着色インクのインク層の高さを補填するための補填インクとを吐出対象面に吐出する吐出工程と、上記インクジェットヘッド10を制御する制御工程と、を含み、上記制御工程では、上記3色成分のうちの2色または3色をそれぞれ等量ずつ混合して表現する色調を実現する場合、予めインクジェットヘッド10に搭載された上記着色インクのうち当該色調を呈するインクを着色インクとして用いるように上記インクジェットヘッド10を制御し、吐出対象面の単位面積当たりの上記着色インクのインク層の高さが、所定の高さを満たさない箇所については、当該着色インクのインク層の高さを上記補填インクによって補填するように上記インクジェットヘッド10を制御する。
【0103】
上記の方法によれば、本発明に係る三次元印刷装置と同様の効果を奏する。
【0104】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、フルカラー印刷をおこなう印刷装置に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 三次元印刷装置
10 インクジェットヘッド
20 制御装置(制御部)
21 着色インク決定部
22 判定部
23 算出部
24 吐出制御部
30 ステージ
40 紫外線照射装置
50 位置移動装置
70 積層体
100 印刷対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7