(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ素樹脂を加熱して溶かし出すヒータと、該ヒータから溶け出たフッ素樹脂を載置して加熱するステージとを備える3Dプリンタを用いた三次元造形物の造形方法であって、
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが30以上70g/10分未満であり、
前記ヒータの加熱温度を350乃至500℃、前記ステージの加熱温度を200乃至300℃に制御する工程を含む三次元造形物の造形方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の三次元造形物及びその造形方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。[材料押出方式]
本発明の一実施形態に係る三次元造形物は、所定の付加製造技術により、流動性材料が固化されて三次元の立体形状に造形されてなる造形物(又は成形体)であり、流動性材料として、フッ素樹脂を用いることを特徴とするものである。
そして、本実施形態では、付加製造技術として材料押出方式を用いており、材料押出方式による三次元造形方法において、流動性材料としてフッ素樹脂を適用できるものである。
【0010】
付加製造技術における材料押出方式は、熱溶解積層法(FDM:米国ストラタシス社の登録商標)等とも呼ばれ、造形される立体モデルの三次元CADデータを複数の層にスライスして得られる断面群のデータから、各層を形成し、これらの層を一体的に積層して立体的な造形物を製造する技術である。
より詳しくは、材料押出方式では、固体材料を熱溶融した流動性材料をノズルから押出して吐出させつつノズルおよびステージを駆動することにより、流動性材料を所定形状を構成する複数の層状に堆積・積層させ、その後積層状態の流動性材料の各層を融着して固化させることで、所望の三次元造形物を形成するものである。
【0011】
[三次元造形装置]
本実施形態に係る三次元造形装置は、フッ素樹脂を含んでなる三次元造形物を造形するための装置である。具体的には、
図1,2に示すように、本実施形態に係る三次元造形装置100は、材料押出方式であり、印刷ヘッド部分の構成として、溶融される前の熱可塑性樹脂が棒状・紐状に形成されたフィラメント1aを搬送する原料送りローラ101と、フィラメント1aを加熱して溶融させるためのヒータ102と、ヒータ102を冷却する冷却ファン103と、ヒータ102で溶融されたフィラメント1aを流動性材料1bとして押出しつつ所定の形状に積層させていくノズル104と、ノズル104から押し出されて層状に積層された流動性材料1bを搭載し、所定温度で加熱しつつ流動性材料1bの各積層間を融着させて造形物として成形・固化させるステージ105とを備えている。
【0012】
原料送りローラ101は、溶融されて流動性材料1bとなる前の固化された固体材料が棒状・紐状に形成されたフィラメント1aを、ヒータ102に対して搬送・供給するための搬送手段である。
フィラメント1aは、流動性材料1bが棒状・紐状に固化された固体材料であって、特に図示しないが、リールやスプール等に巻かれてコイル状・糸巻き状に束ねられたフィラメント1aが、原料送りローラ11の上流側に配置され、原料送りローラ11の回転動作に伴って、フィラメント1aが順次繰り出されてヒータ102に搬送・供給されるようになる。
そして、本実施形態では、フィラメント1aとして備えられる流動性材料1bが、フッ素樹脂によって構成されている。
流動性材料1bとなるフッ素樹脂については更に後述する。
【0013】
ヒータ102は、原料送りローラ101を介して搬送されたフィラメント1aを加熱して溶融させるための加熱手段であり、原料送りローラ101の搬送方向前方側(下流側)に配置されている。
具体的には、
図2に示すように、ヒータ102は、フィラメント1aが搬送・通過する流路102aと、流路12a内を通過するフィラメント1aを加熱するための流路全長に亘って配置されて所定温度に制御可能な加熱手段102bを備えており、フィラメント1aは、ヒータ102を通過する間に加熱・溶融されて、所定の粘度を有する流動性材料1bとなって、ヒータ下側(下流側)のノズル104を介して押し出される。
【0014】
冷却ファン103は、ヒータ102を冷却する冷却手段であり、ヒータ102の上方(上流側)の近傍に配置されている。
ノズル104は、ヒータ102で加熱されて溶融・溶解されたフィラメント1aを流動性材料1bとして押出しつつ所定の形状に積層させていく造形手段である。
具体的にはノズル104およびステージ105は、図示しない制御手段・駆動手段によって駆動制御されるようになっており、所定の三次元データ(例えばCADデータ)に基づいて、予め決定されたパターンで水平方向(X軸方向及びY軸方向)と垂直方向(Z軸方向)に移動して、ノズル先端から押し出されて吐出する流動性材料1bを、所定の形状に積層・堆積させる。
【0015】
ステージ105は、ノズル104から押し出されて層状に積層された流動性材料1bを搭載する平面状のテーブル・搭載手段であるとともに、搭載された流動性材料を所定温度(ステージ設定温度)で加熱して、積層された流動性材料1bの各積層間を融着させて造形物として成形・固化させるための加熱・固化手段である。
なお、ステージ105は、本実施形態では特に図示していないが、ステージ15の内部や底面等に備えられる加熱手段の数や出力等を調整することで、所望の設定温度に設定(制御)できるようになっている。
【0016】
以上のような三次元造形装置の印刷ヘッド100では、溶融されて流動性材料1bとなるフィラメント1aがヒータ102に搬送・供給されることで、ヒータ102で加熱・溶融されたフィラメント1aが流動性材料1bとしてノズル104の先端から押し出され、ノズル104およびステージ105が所定の三次元データに基づいて移動されることで、ステージ105上において流動性材料1bが所定形状の層状に積層され、複数の層が高さ方向に順次積層されていくことで、最終的に三次元造形物が形成されるようになっている。
【0017】
なお、
図1に示した印刷ヘッド100は、材料押出方式で用いられる三次元造形装置を概念的・模式的に表したもので、実際の装置構成を忠実に表したものではない。
従って、本発明に係る三次元造形物及びその造形方法を実施する場合には、実際の三次元造形装置の構成や方式,動作,機能などは、
図1に示した印刷ヘッド100に限定されるものではない。
【0018】
[流動性材料]
次に、本実施形態に係る材料押出方式に係る三次元造形で使用される流動性材料(
図1に示した流動性材料1b)について説明する。
本実施形態の流動性材料はフッ素樹脂を含む。
フッ素樹脂は、耐熱性や耐候性,耐薬品性、防塵性等に優れ、これを三次元造形の流動性材料に用いることで、得られる造形物についても耐熱性や耐候性,耐薬品性等の強度を高めることができる。
本実施形態に用いることができるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(略号:PTFE)を除く、溶融可能なフッ素樹脂で構成することができる。具体的には、かかるフッ素樹脂は例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ素化樹脂、略号:PCTFE,CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(略号:PVDF)、ポリフッ化ビニル(略号:PVF)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(略号:ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略号:ECTFE)などで構成され得る。好ましくは、本フッ素樹脂は、耐薬品性に特に優れる全フッ素化樹脂であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(略号:PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(略号:FEP)で構成され、より好ましくは、耐薬品性だけでなく耐熱性、耐候性及び防塵性にも特に優れるPFA樹脂で構成され得る。本フッ素樹脂は、上記列挙したフッ素樹脂のうち一又は複数で構成することができる。
また、本フッ素樹脂の融点は350℃未満であり、メルトフローレートは30以上70g/10分未満であるように構成される。
なお、フッ素樹脂は上記構成に限定されない。例えば、フッ素樹脂の融点は250℃以上350℃未満、270℃以上330℃以下、280℃以上320℃以下、290℃以上310℃以下、300℃近傍で構成可能である。またフッ素樹脂のメルトフローレートの下限は、40g/10分以上、50g/10分以上、60g/10分以上などで構成でき、その上限は、68g/10分以下、65以下などで構成できる。
【0019】
[造核剤]
樹脂中に粗大な球晶が形成されフッ素樹脂表面の平滑性が失われると、三次元造形物が得られないもしくは成形精度や寸法制度が十分得られない可能性がある。
この点に鑑みて、本実施形態の流動性材料は造核剤をさらに含んで構成される。このように結晶核となる造核剤をフッ素樹脂に与えることで球晶の数を増加させることによって、フッ素樹脂の表面平滑性を保たせることができると共に樹脂同士の接触面積を増やして接着性を向上できる。かかる造核剤は、テトラフルオロエチレンのみを重合させた重合体であってよいし、あるいは、テトラフルオロエチレンに加えて、微量のコモノマーや金属、アンモニウム塩基も共重合させた共重合体であってもよい。
また造核剤の含量は特に限定されないが、例えば造核剤の含量はフッ素樹脂100質量%に対して、0.01乃至20.0質量%、好ましくは0.01乃至15.0質量%、より好ましくは0.01乃至10.0質量%で構成され得る。
なお、本実施形態の流動性材料は、フッ素樹脂と造核剤のみを含んで構成されるが、この構成に限定されない。例えば、その他実施形態として流動性材料は、フッ素樹脂のみ、又は、フッ素樹脂と造核剤とその他樹脂などを含んで構成されることが可能である。
【0020】
[三次元造形方法]
次に、以上のようなフッ素樹脂からなる流動性材料を用いて行われる本実施形態の三次元造形方法について説明する。
材料押出方式により三次元造形を行う場合には、まず、三次元造形装置の印刷ヘッド100の原料送りローラ101に、固化されたフッ素樹脂からなるフィラメント1aをセットし、原料送りローラ101の駆動によって、フィラメント1aをヒータ102に対して搬送・供給する(
図1参照)。
【0021】
ヒータ102に搬送されたフィラメント1aは、ヒータ内の流路102aを通過しつつ、流路102aの周囲が流路全長に亘って配置された加熱手段102bによって加熱され、軟化・溶融する。
ヒータ102の加熱手段102bは、所定の温度に設定(制御)されており(ヒータ設定温度)、加熱手段102b(流路102a)の全長にわたってフィラメント1aを加熱する。その結果、フィラメント1aは、流路102a内に位置している時間だけ、加熱手段102bによって所定温度(ヒータ設定温度)で加熱されることになる。
【0022】
ノズル104は、ヒータ102で加熱されて溶融・溶解されたフィラメント1aは、流動性材料1bとしてノズル104から押し出されて吐出し、ステージ105上に搭載・積層される。
ノズル104およびステージ105は、図示しない制御手段・駆動手段によって駆動制御され、所定の三次元データ(例えばCADデータ)に基づいて、予め決定されたパターンで水平方向(X軸方向及びY軸方向)と垂直方向(Z軸方向)に移動される。
その結果、ノズル104の先端から押し出されて吐出する流動影材料1bを、所定の三次元立体形状に積層・堆積される。
【0023】
ステージ105は、所定の温度に設定(制御)されており(ステージ設定温度)、ノズル104から押し出されて層状に積層された流動性材料1bは、ステージ105上で所定温度(ステージ設定温度)で加熱され、積層された流動性材料1bの各積層間が融着されつつ、造形物として成形・固化される。
このようにして、溶融された細い糸状・紐状の流動性材料1bが一筆書き状に積層されることを繰り返すことによって、最終的に、所定の三次元造形物が造形・製造されることになる。得られた三次元造形物は、フッ素樹脂を含む所定厚みの層が積層されてなる。所定厚みの複数層における各層は、全て同じ厚さ又は互いに異なる厚さで構成することが可能であり、各層の厚さは特に限定されない。各層の厚さの調整は、原料送りローラの駆動とヒータの設定温度とを適宜制御することで流動性材料の径を調整し、或いは、流動性材料であるフィラメントを径の異なる別のフィラメントに交換することにより実施され得る。
なお、ノズル104およびステージ105の移動量や移動範囲,移動回数等は、造形する三次元造形物の形状や大きさ、積層厚さ等に応じて任意に設定・変更することができることは言うまでもない。
【0024】
[設定温度]
上記の通り、本実施形態に係る三次元造形物の造形方法では、熱溶融された流動性材料1bとなる固体材料であるフィラメント1aをヒータ102で所定のヒータ設定温度で加熱するようにしてあり、また、ヒータ102で溶融された流動性材料1bをステージ105上で所定のステージ設定温度で加熱しつつ、最終的な造形物を造形するようになっている。
ここで、本実施形態では、ヒータ102のヒータ設定温度と、ステージ設定温度は、以下のように設定するようにしてある。
【0025】
すなわち、固体材料(フィラメント1a)の融点t0は、350℃未満であり、具体的には250℃以上350℃未満で構成可能であり、本実施形態の融点t0は310℃である。ヒータ12の設定温度t1は、350乃至500℃であり、好ましくは400乃至470℃であり、より好ましくは425乃至450℃である。ステージ15の設定温度t2は、200乃至300℃であり、好ましくは260乃至280℃である。
【0026】
また、フィラメント1aが溶融された流動性材料1bが搭載されるステージ105の温度は、流動性材料1b(固定材料)のガラス転移点温度(Tg)より低い場合、流動性材料1bがステージ105上ですぐに固化してしまい、積層状態の流動性材料1bの各層間を融着させることができなくなる。但し、ステージ105の温度がヒータ102の加熱温度よりも高い場合には、流動性材料1bは溶融されたまま固化せず、造形物を造形することができなくなる。
【0027】
ヒータ102の設定温度は、固体材料であるフィラメント1aを溶融させるために、少なくとも固体材料の融点t0より大きくなければならない。
ただ、その場合に、ヒータ102の設定温度が高すぎる場合、例えば固体材料が熱分解するような高温の場合には、固体材料の揮発やコゲなどが発生してしまう。
一方、そのような熱分解が発生しないように、ヒータ102を固体材料の融点t0と略同等な温度に設定したとしても、例えば固定材料(フィラメント1a)がヒータ102(流路102a)内に留まる滞留時間による影響を受け易いため、フィラメント1aを十分に溶融・軟化させ難い、あるいは既に溶融した材料に対して不必要な加熱が行われることがあり得る。
【0028】
そこで、本実施形態では、固体材料を確実かつ迅速に溶融・溶解させて流動性材料1bとして吐出できるようにするために、ヒータ102の設定温度は、固体材料の融点(350℃未満)を超える所定の温度、具体的には350℃ないし500℃となるように設定する。
【0029】
なお、上述したように、本実施形態では、ヒータ102において所定の加熱温度で所定時間固定材料(フィラメント1a)を加熱できるようにするために、ヒータ102のフィラメント1aの搬送方向に沿った長さを、従来の装置よりも長く構成することで、原料の加熱時間の下限を例えば1秒以上、5秒以上、10秒以上、15秒以上、20秒以上などで設定でき、加熱時間の上限を90秒以下、80秒以下、70秒以下、60秒以下などで設定できる。本実施形態では、かかる加熱時間は60秒程度となるよう調整される。
【0030】
ここで、ヒータ102及びステージ105の設定温度を、ノズル104の先端の流動性材料1bが押し出される部分の温度を参照して、より具体的に説明する。
図3(a)は、本実施形態に係る印刷ヘッド100のノズル104の先端部分を拡大した説明図であり、
図3(b)は、ノズル104の先端部分から吐出する流動性材料1bの樹脂温度の変化を計算により求め、ステージの設定温度別に表したグラフであり、流動性材料1bとなるフッ素樹脂としてPFAを用いる場合を示している。
【0031】
まず、フッ素樹脂であるPFAの融点は約310℃である。
したがって、ヒータ102の設定温度は、PFAの融点より高い温度、例えば400℃に設定する。
また、ヒータ102で加熱・溶融された流動性材料1bが押し出されて搭載・積層されるステージの設定温度は、25℃ないし300℃の範囲で、25℃,100℃,200℃,300℃と異なる温度に設定する。
そして、この場合に、ヒータ102で400℃で加熱・溶融された流動性材料1bがノズル104の先端から押し出されたときの、ノズル先端部の樹脂温度を計算する。
【0032】
その結果、
図3(b)に示すように、まず、ステージ105の設定温度を25℃に設定した場合、ノズル104の先端から押し出された流動性材料1bの樹脂温度は、直後にほぼ200℃近くまで低下し、その後、0.5秒後にはほぼ50℃まで低下・冷却された。
また、ステージ105の設定温度を100℃に設定した場合、ノズル104先端の樹脂温度はほぼ250℃で、その後、0.5秒後には100℃近くまで低下した。
また、ステージ105の設定温度を200℃に設定した場合、ノズル104先端の樹脂温度はほぼ300℃で、その後、0.5秒後には200℃近くまで低下した。
【0033】
一方、ステージ105の設定温度を300℃に設定した場合には、ノズル14先端の樹脂温度はほぼ350℃で、その後、0.5秒後でもほぼ300℃近となっており、PFAの融点近傍の温度が維持された。
以上のことから、ステージ105の設定温度は、好ましく300℃として、少なくとも、220℃以上とすることにより、流動性材料1bのノズル104先端部の樹脂温度を融点以上かその近傍に維持することができるようになる。
なお、ステージ105の設定温度は、特に図示しないが、ステージ105の内部や底面側に備えられる加熱手段の数や出力等を調整することで、所望の設定温度に設定・変更することができる。
【0034】
[用途]
以上のようにして造形・製造される本実施形態に係る三次元造形物は、従来の材料押出方式等で造形される立体造形物と同様、各種製品の試作品やサンプル品として製造することができる。
特に、本実施形態では、三次元造形物の材料として上記のようなフッ素樹脂を用いていることから、硬化・完成した成形品は、強度や耐熱性,耐候性,耐薬品性等に優れる。
【0035】
本三次元造形物の用途は、特に限定されないが、例えば、半導体製造装置、自動車や航空機等の輸送機械,化学プラント用設備,燃料の貯蔵用・輸送用設備,電子機器,燃料電池,発電装置,民生用品等の各種製品を対象とすることができる。
具体的には、耐熱性や耐候性,耐薬品性等が要求される配管機器部材、例えばバルブ、継ぎ手、ガスケット、パッキンや、半導体製品を製造する際に用いられるクリーン性を要求されるような部材、例えば抑えジグ、搬送装置、ストッカーなどの用途が挙げられる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る三次元造形物及びその造形方法によれば、三次元造形の流動性材料としてフッ素樹脂を用いて、三次元造形物が得られる。
即ち、本実施形態に係る三次元造形物及びその造形方法では、三次元造形装置(3Dプリンタ)において、フッ素樹脂を加熱して溶かし出すヒータと該ヒータから溶け出たフッ素樹脂を載置して加熱するステージとの両方の加熱設定温度、及び、フッ素樹脂のメルトフローレートに着目して、これらの連関する各要素の適切な所定範囲を見出し、各要素を適切な所定範囲に設定(制御又は調整)することによって、フッ素樹脂を含む三次元造形物を成形性良く安定的に得ることができる。
そして、造形された造形物はフッ素樹脂の特性により、優れた耐熱性や耐候性,耐薬品性等を有しており、従来にはない新たな三次元造形物を造形・製造することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る三次元造形物及びその造形方法によれば、フッ素樹脂を溶融して積層するだけのシンプルな方式である材料押出方式の付加製造技術を用いることができるため、工程時間が短く、装置構成も簡易なものとすることができ、特に簡易・廉価な3Dプリンタやラピッド・プロトタイピング等に好適である。
また、付加造形技術により、バルクからの削り出しによる造形の場合とことなり、造形物をクリーンな状態で造形することができる。
さらに、材料押出方式によれば、複雑な立体形状も一回の成形処理によって造形・製造でき、金型等の設備も一切必要なく、低コストで効率よく迅速に、所望の立体形状をなす造形物を得ることができるようになる。
【0038】
[実施例]
以下、本発明に係る三次元造形物及びその造形方法の一実施例を説明する。
図4は実施例および比較例の評価結果である。
図4中の評価は作製した三次元造形物の造形性であり、「○」は三次元造形物に変形や破損が生じていない良好な成形状態を示し、「△」は三次元造形物の一部に若干変形や破損が生じているが全体として所望形状を担保できる成形状態を示し、「×」は三次元造形物に変形や破損が生じて所望形状を担保できない成形状態又は成形不能を示す。
なお、本発明を以下の実施例により更に説明するが、本発明は下記実施例により何らかの制限を受けるものではない。
[実施例1]
(三次元造形物の作製)
汎用の3Dプリンタ(Delta-Microfacotry社製 UP!Plus2)システムを用いて、原料を加熱するノズルヒータ温度を450℃、ステージ加熱温度を280℃とし、メルトフローレートが60g/10分のPFA樹脂を原料として三次元造形物を作製した際の、三次元造形物の造形性を確認した。
その結果、ノズル先端から溶融した樹脂がステージに定着し、樹脂が積層された三次元造形物を得た。
[実施例2、3]
ノズルヒータ温度を300℃および500℃に設定したこと以外は、実施例1と同様に作製した三次元造形物の造形性を確認した。
ノズルヒータ温度が350℃の場合は、ノズルからの樹脂吐出量が不足し、ノズルヒータ温度が500℃の場合は吐出量過多のため、三次元造形物の一部に若干変形や破損が生じていたが全体として所望形状を概ね担保できていた。
[実施例4および5]
ノズルヒータ温度を450℃とし、安定して樹脂が吐出するが、ステージ加熱温度が200℃の場合は、吐出した樹脂の一部が定着せずにはがれてしまい、ステージ加熱温度が300℃と高い場合は、樹脂の一部が軟化してしまい、いずれも三次元造形物の一部に変形が認められたが全体として所望形状を担保できていた。
[実施例6]
ノズルヒータ温度を450℃、ステージ加熱温度を280℃に設定しても、樹脂のメルトフローレートが30g/10分の場合は、樹脂の吐出量が少なく、三次元造形物の一部に若干変形や破損が生じていたが全体として所望形状を概ね担保できていた。
[比較例1および2]
メルトフローレートが60g/10分の樹脂を用い、ステージ温度を280℃に設定しても、ノズルヒータ温度が250℃では樹脂は全く吐出せず、ノズルヒータ温度が600℃では樹脂が分解してしまい、樹脂が細い線状に吐出しせず、いずれも三次元造形はできなかった。
[比較例3および4]
メルトフローレートが60g/10分の樹脂を用い、ノズルヒータ温度を450℃に設定し、安定的に樹脂が吐出できても、ステージ温度が150℃では樹脂がステージに全く定着せず、ステージ温度が350℃では樹脂がステージ上で再溶融してしまい、いずれも三次元造形はできなかった。
[比較例5および6]
ノズルヒータ温度を450℃に設定し、ステージ温度を280℃に設定しても、メルトフローレートが20g/10分の樹脂を用いた場合は、全く樹脂が吐出せず、メルトフローレートが70g/10分の樹脂を用いた場合は、吐出量過多により、いずれも三次元造形はできなかった。
【0039】
以上、本発明の三次元造形物及びその造形方法について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係る三次元造形物及びその造形方法は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0040】
例えば、上述した実施形態においては、本発明に係る三次元造形物及びその造形方法を、流動性材料を熱溶融させる材料押出方式の付加製造技術に適用した場合を例に取って説明したが、本発明は材料押出方式のみに適用されるものではなく、他の方式の付加製造技術にも適用することが可能である。