【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用される、ハイブリッド車両(以下、車両という)10の駆動装置12およびその制御装置の構成を説明する図である。
【0019】
図1において、駆動装置12は、走行用駆動力源としてのエンジン14と、そのエンジン14の動力を図示しない駆動輪に伝達する動力伝達装置であるトランスアクスル16とを備えている。また、トランスアクスル16には、エンジン14から出力される動力を軸線C1まわりに回転可能なダンパー18および入力軸20を介して第1電動機MG1及び円環状の出力ギヤ軸22へ分配する遊星歯車式の動力分配機構24と、出力ギヤ軸22のカウンタドライブギヤ(出力ギヤ)22aと噛み合うカウンタドリブンギヤ26aおよびデフリングギヤと噛み合うデフドライブギヤ26bを有し且つ一対のスラスト軸受B1およびB2により軸端が回転可能に支持されるカウンタ軸26sからなり、軸線C1に平行な軸線C2まわりに回転可能なカウンタギヤ機構26と、そのカウンタ軸26のカウンタドリブンギヤ26aと噛み合う出力歯車27を有し、軸線C1に平行な軸線C3まわりに回転可能な第2電動機MG2と、カウンタ軸26のデフドライブギヤ26bと相対回転不能に噛み合うデフリングギヤ28aを有し、軸線C1に平行な軸線C4まわりに回転可能なデファレンシャル装置28とが備えられている。なお、動力分配機構24は、3つの回転要素、すなわち入力軸20の軸線C1まわりに回転可能なサンギヤSと、そのサンギヤSの外周側に配置されるリングギヤRと、それらサンギヤSおよびリングギヤRと噛み合うピニオンギヤPを自転および公転可能に支持するキャリヤCAとを備えている。第2回転要素に対応するサンギヤSは、第1電動機MG1の略円筒状の回転軸32のエンジン14側の端部にスプライン嵌合(
図2参照)によって相対回転不能に連結されている。第1回転要素に対応するキャリヤCAは、入力軸20から径方向に伸びる鍔部20a(
図2参照)に相対回転不能に連結されている。第3回転要素に対応するリングギヤRは、カウンタドライブギヤ22aが形成されている出力ギヤ軸22の内周部に一体的に形成されている。
【0020】
このように4軸で構成されたトランスアクスル16では、ダンパー18及び入力軸20を介して入力されるエンジン14の動力が筒状の出力ギヤ軸22へ伝達され、その出力ギヤ軸22からカウンタ軸26、デファレンシャル装置28、一対のドライブシャフト30等を順次介して駆動輪へ伝達される一方、第2電動機MG2の動力が、カウンタ軸26、デファレンシャル装置28、一対のドライブシャフト30等を順次介して駆動輪へ伝達されるようになっている。
【0021】
図2に部分的に示されるトランスアクスル16の容器状のトランスアクスルケース34は、第1ケース34a、筒状の第2ケース34b、および筒状の第2ケース34bの軸方向のエンジン14側とは反対側の開口を閉じて側壁として機能する第3ケース34cの3つのケース部材から構成された非回転部材であり、各ケース部材の軸方向の端面(合わせ面)がボルトによって締結されることで、一つのトランスアクスルケース34として構成されている。
【0022】
図1および
図2に示すように、入力軸20の一端は、一端部がダンパー18を介してエンジン14のクランク軸14aに連結されており、エンジン14により回転駆動させられる。入力軸20の他端部には、円筒状のオイルポンプ駆動軸36が例えばスプライン嵌合によって相対回転不能に連結されており、エンジン14によって入力軸20が回転駆動されることによりオイルポンプ駆動軸36を介してオイルポンプ38が駆動され、還流してきたオイルが吸引されてオイルポンプ38から吐出されるようになっている。そのオイルは作動油および潤滑油として機能するものである。オイルポンプ38は、
図2に示すように、円環状のドリブンギヤ38aとそのドリブンギヤ38aの内周歯と噛み合う外周歯を有するドライブギヤ38bとが噛み合わされる内接歯車型であり、オイルポンプ駆動軸36のオイルポンプ38側の端部がドライブギヤ38bに相対回転不能に連結されている。
【0023】
また、オイルポンプ38には、
図2に示すように、第3ケース34cに固定されたポンプボデー40と、そのポンプボデー40と第3ケース34cとの間に介挿された平板状のプレート42と、そのプレート42とポンプボデー40との間に形成されたポンプ室44とが備えられており、そのポンプ室44内にドリブンギヤ38aとドライブギヤ38bとが回転可能に収容されている。なお、ポンプボデー40は、第3ケース34cに一体的に固定されたものであり、トランスアクスルケース34の一部として機能するケース部材である。
【0024】
図2に示すように、ポンプボデー40と回転軸32のオイルポンプ38側の端部との間には軸受46が介在され、第2ケース34bの鍔部34dと回転軸32のエンジン14側の端部との間に軸受48が介在されている。筒状の回転軸32は、一対の軸受46、48によって軸線C2まわりに回転可能にトランスアクスルケース34に固定されている。
【0025】
第1電動機MG1は、容器状のトランスアクスルケース34内にボルト50により第2ケース34b内に固定された円筒状のステータ52と、そのステータ52の内側に所定の間隙(エアギャップ)を隔てて回転軸32に固定されたロータ54と、そのロータ54を軸線C2まわりに回転可能に支持する円筒状の回転軸32とを備え、その回転軸32の軸線C2に沿って略円柱形状に貫通した縦通穴32aにオイルポンプ38から供給されたオイルを回転軸32の周壁32bを貫通して設けられた複数の冷却用油穴32cから外周側へ流出させて第1電動機MG1のロータ54などを冷却するものである。
【0026】
回転軸32の縦通穴32a内には、その縦通穴32a内を軸線C2方向に縦通する管状のオイルポンプ駆動軸36が配設されており、そのオイルポンプ駆動軸36には、軸線C2方向に貫通した貫通穴36aと、その貫通穴36aと回転軸32の縦通穴32aとが連通するようにオイルポンプ駆動軸36の周壁36bに貫通して設けられた複数(
図2では2つ)の供給穴36cとが備えられている。また、オイルポンプ38は、エンジン14によってオイルポンプ駆動軸36を介して回転駆動させられると、そのオイルポンプ駆動軸36の貫通穴36a内にオイルを吐出し、その吐出されたオイルがオイルポンプ駆動軸36の供給穴36cから外周側へ流出させられて回転軸32の縦通穴32a内にオイルが供給され、さらに、筒状の出力ギヤ軸22の内周側に到達したオイルの一部は、出力ギヤ軸22に径方向に貫通して形成されたカウンタギヤ冷却用油穴39を通してカウンタギヤ機構26に供給されるようになっている。
図2に示す矢印F1は、その回転軸32の縦通穴32aを通してカウンタギヤ機構26に供給されるインプット系オイルの流通経路を示している。
【0027】
第1電動機MG1のロータ54は、ステータ52の内周側において軸線C2方向に積層されている複数枚の円板状の電磁綱板から成るロータコア54aと、そのロータコア54aの軸線方向の両端に隣接しロータコア54aを挟み込んだ状態で回転軸32に固定されている略円板形状の一対のエンドプレート56、58とを備えている。また、ロータコア54aには、そのロータコア54aの外周部において軸線C2に平行な方向に貫通する冷却穴54bと、その冷却穴54bの内径側に形成され、ロータコア54aのエンジン14側の軸端面54cに開口する内側開口54dと冷却穴54b内に開口する外周開口54eとを有するL字状のオイル供給孔54fとが複数箇所に形成されている。なお、一対のエンドプレート56、58の冷却用油穴32c側のエンドプレート56は、冷却用油穴32cから流出するオイルをオイル供給孔54fの内側開口54dへ導くオイルガイドとして機能している。また、ロータコア54aの外周部内には、ロータコア54aの外周面に複数の磁極を形成するための複数固の永久磁石60が埋設されている。
【0028】
第1電動機MG1のステータ52は、ロータ54の外周側において軸線C2方向に積層されている複数枚の円板状の電磁綱板から成るステータコア52aと、そのステータコア52aの両端から軸線C2方向に突き出すコイルエンド52b、52cとを備えている。第1電動機MG1は、ステータ52のコイルエンド52b、52cに交流を流して作られた移動(回転)磁界によって、ロータ54内に埋設された永久磁石60を吸引(または反発)してロータ54を回転させるハイブリッド車両に用いられる同期モータである。
【0029】
回転軸32には、縦通穴32a内のオイル冷却用油穴32cから流出されないオイルをトランスアクスルケース34内に直接排出させるために、冷却用油穴32cと並列に回転軸32の周壁32bに貫通して設けられた排出穴32fが設けられている。その排出穴32fは、軸線C2方向において、ステータ52のコイルエンド52bにオイルを排出するようにコイルエンド52bの内周側に設けられている。
【0030】
第1電動機MG1が収められたトランスアクスルケース34内には、ポンプボデー40とロータ54との間に形成された排出経路68が設けられており、排出穴32fは、その排出経路68との距離が比較的短い位置に配置されている。
【0031】
また、オイルポンプ駆動軸36には、そのオイルポンプ駆動軸36のオイルポンプ38側の端部の周壁36bを貫通して設けられた潤滑用油穴36dが設けられており、オイルポンプ38からオイルポンプ駆動軸36内に吐出されたオイルの一部を潤滑用油穴36dに流出させて軸受46を潤滑するようになっている。なお、回転軸32のオイルポンプ38側の端部とポンプボデー40と間には、潤滑用油穴36dから流出されたオイルを軸受46に供給する潤滑油路62が形成されている。また、オイルポンプ38からオイルポンプ駆動軸36内に吐出されたオイルを潤滑用油穴36dに流出させて軸受46を潤滑する潤滑油路62が設けられている。
【0032】
また、オイルポンプ38から圧送されたオイルの他の一部、すなわちMG系オイルは、
図2の矢印F2に沿って第1電動機MG1および第2電動機MG2へ供給されるようになっている。
【0033】
図3は、4軸で構成された本実施例のトランスアクスル16の各軸線C1、C2、C3、C4の相対的位置関係を示す図である。
図3において、デファレンシャル装置28の軸線C4が最も低い位置に設定され、第2電動機MG2の軸線C3が第4軸線C4の鉛直方向の上方において最も高い位置に設定され、第1電動機MG1の第1軸線C1が第3軸線C3と第4軸線C4とを結ぶ線の側方において第3軸線C3と第4軸線C4との間の中間の高さ位置に設定され、カウンタ軸26の第2軸C2が第1軸線C1、第3軸線C3、第4軸線C4により囲まれた位置に設定されている。
【0034】
上記のように各軸線C1、C2、C3、C4の相対位置が設定されているトランスアクスル16内では、カウンタ軸26sを回転可能に支持するスラスト軸受B1およびB2は、差動歯車装置28のデフリングギヤ28aにより掻き上げられたオイルによって潤滑されることになるが、必ずしも十分ではなかった。第1軸線C1および第2軸線C2にはさまれた第3軸線C3上のカウンタ軸26へデフリングギヤ28aにより掻き上げられたオイルを直接的に供給することが難しく、デフリングギヤ28aに掻き上げられたオイルはそのデフリングギヤ28aから出力ギヤ(カウンタドライブギヤ)22aに供給され、そのオイルをカウンタドリブンギヤ26aにより掻き上げてカウンタ軸26sを回転可能に支持するスラスト軸受B1およびB2に供給するという、矢印で示す経路となるため、安定した潤滑が難しく、特にオイルの粘度が高い低油温状態では、オイルの供給量が一層に得られないという問題があった。特に、上記カウンタ軸26を回転可能に支持する一対のスラスト軸受B1およびB2のうち、デフドライブギヤ26bから離れた側の軸端を支持するスラスト軸受B2は、上記オイルの掻き上げ部位であるデフドライブギヤ26aから離間しており、潤滑油に不利となっていた。また、車両の被駆動時では、斜歯であるカウンタドリブンギヤ26aのねじれ角によるスラスト方向の負荷が上記軸受B2に作用されるので、より一層潤滑が不利となっていた。
【0035】
図4は、第1電動機M1の軸線C1と第2電動機MGの軸線C3は同軸である3軸構造のハイブリッド車両の動力伝達装置における掻き上げオイルによる潤滑を説明する図である。
図4において、デフリングギヤ28aにより掻き上げられたオイルは直接的にカウンタドリブンギヤへ供給され、そのオイルはカウンタ軸の軸受に供給されるので、掻き上げオイルによりカウンタ軸の軸受の潤滑は、
図3に示す4軸構造のハイブリッド車両用駆動装置よりも有利であった。
【0036】
図1に戻って、ハイブリッド車両10には、例えばエンジン14などを制御する電子制御装置80が備えられている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりハイブリッド車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2などに関するハイブリッド駆動制御等の車両制御を実行するようになっており、必要に応じてエンジン14の出力制御用や電動機MG1、MG2の出力制御用等に分けて構成される。また、電子制御装置80には、ハイブリッド車両10に設けられた各種センサ(例えば各回転数センサ66、67、69、アクセル開度センサ70、スロットル弁開度センサ72、油温センサ74、バッテリセンサ76など)により検出された各種信号(例えばエンジン12の回転数を表すエンジン回転数Ne(rpm)、車速V(km/h)に対応する出力歯車14の回転数を表す出力回転数Nout(rpm)、第1電動機MG1の回転数を表すMG1回転数Nmg1(rpm)、第2電動機MG2の回転数を表すMG2回転数Nmg2(rpm)、車両10の駆動力(駆動トルク等も同じ)に対する運転者の要求量を表すアクセル開度Acc、エンジン12の吸気管54内に設けられてスロットルアクチュエータにより開閉作動させられる電子スロットル弁の開き角度を表すスロットル弁開度θth(%)、オイルの油温Toil(℃)、蓄電装置77のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbatなど)が、それぞれ入力される。また、電子制御装置80からは、エンジン12(例えば燃料噴射装置、点火装置、スロットルアクチュエータ)、インバータ78などの各装置に各種出力指令信号(例えばエンジン制御指令信号や電動機制御指令信号(変速制御指令信号)等のハイブリッド制御指令信号Shvなど)が出力される。尚、電子制御装置80は、例えば上記バッテリ温度、バッテリ充放電電流、及びバッテリ電圧などに基づいて蓄電装置77の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。
【0037】
図5は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
図5において、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部82は、例えばエンジン12を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン12と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるように変化させる電気的な無段変速機としての変速比γを制御する。具体的には、ハイブリッド制御部82は、そのときの走行車速Vにおいて、アクセル開度Accや車速Vから車両10の目標出力(ユーザ要求パワー)を算出し、その目標出力と充電要求値(充電要求パワー)とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機MG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力、エンジン要求パワー)Petgtを算出し、その目標エンジン出力Petgtが得られる目標(要求)エンジン回転数Ne*とエンジン12の目標出力トルク(要求出力トルク)Te*が得られるようにエンジン12の実際の回転数Neおよび出力トルクTeを制御すると共に第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力乃至発電を制御する。たとえば、ハイブリッド制御部82は、アクセルオフ時にはエンジン12の作動を停止させ、車両の惰行走行を行う。このとき、必要に応じて第2電動機MG2の回生による適度な制動力を発生させ、所謂エンジンブレーキと同様の作用を発生させる。
【0038】
また、ハイブリッド制御部82は、車両10の停止中又は走行中に拘わらず、すなわち車速Vに拘束される出力回転数Noutに拘わらず、動力分配機構24の電気的CVT機能(差動作用)により、MG1回転数Nmg1を制御することで、エンジン回転数Neを略一定に維持したり任意の回転数(例えば変化させたいエンジン回転数Ne)に回転制御させられる。例えば、ハイブリッド制御部82は、車両走行中にエンジン回転数Neを引き上げる場合には、出力回転数Noutを略一定に維持しつつMG1回転数Nmg1の引き上げを実行する。
【0039】
また、ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止した状態で蓄電装置77からの電力により第2電動機MG2を駆動してその第2電動機MG2のみを駆動力源として走行するモータ走行(EV走行)を実行することができる。このEV走行は、例えば目標出力が予め定められた閾値よりも小さなEV可能領域(すなわち要求駆動トルクの比較的低トルク域且つ車速Vの比較的低車速域)にあって、蓄電装置77の充電容量SOCがエンジン12の動力により蓄電装置77を充電する必要がある程の小さな充電容量として予め定められた閾値SOC1よりも大きなEV可能領域(すなわち充電容量SOCの比較的高充電容量域)にある場合に実行される。尚、上記要求駆動トルク(要求駆動力も同意)は、例えば目標出力と同様に、アクセル開度Accや車速Vから算出される。
【0040】
エンジン回転数制御部84は、車速Vが予め設定された車速判定値V1以上であり、アクセルペダルが戻されているアクセルオフ状態(たとえば0%)すなわち要求出力トルクTe*が予め設定された要求出力トルク判定値Te1*を下回わり、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1を下まわり、且つ、エンジン回転数Ne又はその目標値Ne*が予め設定されたエンジン回転数判定値Ne1を下回る場合は、オイルポンプ38からオイルを吐出させて特にカウンタギヤ機構26の潤滑性を高めるためにたとえば爆発作動停止中のエンジン回転数Neを、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1以上でのアクセルオフ状態である場合に比較して、所定値ΔNeupだけ高く引き上げてそれを維持するとともに、第1電動機MG1及び/または第2電動機MG2を用いて、上記エンジン回転数Neの引き上げに基づくエンジンフリクショントルク(回転抵抗トルク)を相殺させる。本実施例では、この制御を、エンジン回転数制御と称する。上記所定値ΔNeupは、低油温時において特にカウンタ軸26sの軸受B2の潤滑が十分に得られるようにするための必要且つ十分な値であり、予め実験的に定められる。上記要求出力トルク判定値Te1*は、要求出力トルクTe*がほぼ零すなわちアクセルオフ状態を判定するために実験的に定められる。上記低油温判定値Toil1は、オイルの高粘性によって特にカウンタ軸26sの軸受B2の潤滑が不十分となる温度であり、たとえば−20〜−30℃程度に予め実験的に定められる。また、上記車速判定値V1は、上記エンジン回転数制御を必要としない車速であり、たとえば150km/h程度に予め実験的に定められる。上記エンジン回転数判定値Ne1は、爆発作動停止中のエンジン回転数Neがエンジン回転数制御に適した範囲であるかを判定するものであり、たとえば2000〜2500rpm程度に予め実験的に求められる。
【0041】
エンジン回転数制御部84は、エンジン回転数制御条件成立判定部86、エンジン回転数過渡期間判定部88、過渡期間制御部90、定常期間制御部92、およびエンジン回転数制御終了判定部94を、備えている。
【0042】
エンジン回転数制御条件成立判定部86は、たとえば、車速Vが予め設定された車速判定値V1以上であること、アクセルペダルが戻されているアクセルオフ状態(たとえば0%)すなわち要求出力トルクTe*が予め設定された要求出力トルク判定値Te1*を下回わること、エンジン回転数Ne又はその目標値Ne*が予め設定されたエンジン回転数判定値Ne1を下まわること、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1を下まわること、のいずれかが否定される場合はエンジン回転数制御条件が不成立と判定するが、すべてが肯定される場合は、エンジン回転数制御条件が成立と判定する。
【0043】
エンジン回転数過渡期間判定部88は、エンジン回転数制御部84によるエンジン回転数制御の実行が開始されたとき、エンジン回転数Neが低下する過渡期間Ttであるか、或いはエンジン回転数Neが一定に維持されている定常期間Tsであるかを、たとえば、エンジン回転数Neとその目標エンジン回転数Ne*との回転差ΔNe(=Ne−Ne*)が予め設定された回転差判定値ΔNe1以上であるか否かに基づいて、或いは実際のエンジン回転数Neの変化率dNe/dtが予め設定された変化率判定値dNe1/dt以上であるか否かに基づいて、判定する。
【0044】
過渡期間制御部90は、エンジン回転数過渡期間判定部86によって前記エンジン回転数制御の過渡期間Ttであると判定された場合は、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1以上でのアクセルオフ状態である場合に比較して、エンジン回転数制御においてエンジン回転数Neを前記高回転数となるように所定値ΔNeupとする過渡期間Ttでは、高い制御特性を得るために、その高回転数に由来して第1電動機MG1からエンジン14に発生するエンジンフリクショントルクの増大分を相殺するための相殺過渡トルクを出力させる。
【0045】
定常期間制御部92は、エンジン回転数過渡期間判定部86によって前記エンジン回転数制御の定常期間Tsであると判定された場合は、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1以上でのアクセルオフ状態である場合に比較してエンジン回転数Neを所定値ΔNeupだけ引き上げた高回転数に維持する定常期間Tsでは、第1電動機MG1からエンジン回転数Neを所定値ΔNeupだけ引き上げるための引上げトルクを出力させ、且つ、エンジン回転数Neを所定値ΔNeupだけ引き上げた高回転数に引き上げることにより発生するエンジン14のフリクショントルクを相殺する分の相殺定常トルクを第2電動機MG2から出力させる。
【0046】
エンジン回転数制御終了判定部94は、たとえば車速Vが予め設定された車速判定値V1を下回ること、アクセルペダルが戻されているアクセルオフ状態(たとえば0%)でないこと、エンジン回転数Ne又はその目標値が予め設定されたエンジン回転数判定値Ne1以上であること、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1以上であること、のいずれかが否定される場合には、前記エンジン回転数制御の終了条件の成立を判定する。
【0047】
図6は、電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、繰り返し実行される。以下に、この
図6のフローチャートおよび
図7のタイムチャートを用いて制御作動を説明する。
【0048】
図6において、エンジン回転数制御条件成立判定部86に対応するステップS1〜S4(以下、ステップを省略する)では、エンジン回転数制御条件成立したか否かが判断される。すなわち、S1では、油温Toilが予め設定された低油温判定値(閾値)Toil1を下まわるか否かが判断され、S2では、車速Vが予め設定された車速判定値(閾値)V1以上であるか否かが判断され、S3では、エンジン回転数Ne又はその目標値Ne*が予め設定されたエンジン回転数判定値(閾値)Ne1を下まわるか否かが判断され、S4では、車両の被駆動(パワーオフ)状態を判定するために、アクセルペダルが戻されているアクセルオフ状態(たとえば0%)すなわち要求出力トルクTe*が予め設定された要求出力トルク判定値(閾値)Te1*を下回わるか否かが判断される。上記S1〜S4の判断のいずれか1つでも否定される場合はエンジン回転数制御条件が成立しないので、本ルーチンが終了させられる。しかし、上記S1〜S4の判断のすべてが肯定される場合はエンジン回転数制御条件が成立したと判断される。次いで、エンジン回転数過渡期間判定部88に対応するS5において、実際のエンジン回転数Neとその目標エンジン回転数Ne*との回転差ΔNe(=Ne−Ne*)が予め設定された回転差判定値(閾値)ΔNe1以上であるか否かが判断される。
【0049】
当初はS5の判断が肯定されるので、過渡期間制御部90に対応するS6において、エンジン回転数制御のうちのエンジン回転数Neを引き下げる過渡期間制御が開始される。
図7のt1時点からt2時点は上記過渡期間制御が実行される期間を示している。上記過渡期間制御では、たとえばそれまで正回転であった第1電動機MG1の回転数Nmg1を負回転まで変化させることにより、エンジン回転数Neが所定の変化率で所定値Nehまで引き下げられる。また、上記過渡期間制御では、
図7の(a)に示すように、第1電動機MG1のトルクTmg1がそれまでの負の値から零に向かって所定の変化率で増加させられる。これにより、エンジン14の作動停止状態での回転に伴うエンジン14のフリクショントルクがキャンセルされ、
図7の(d)に示すように、出力ギヤ軸22の出力軸トルクToutの落ち込みが解消される。
【0050】
次いで、エンジン回転数制御終了判定部94に対応するS7およびS8において、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1以上となったか、および、車速Vが予め設定された車速判定値V1を下まわったか否かがそれぞれ判断される。S7およびS8の判断が共に否定される場合はS5以下が繰り返し実行される。しかし、S7およびS8のいずれかの判断が肯定される場合は、S9において通常制御に復帰される。通常制御とは、エンジン回転数制御の開始前の状態、すなわち、ハイブリッド制御部82により、アクセルオフ時にエンジン12が停止させられた惰行走行制御である。
【0051】
S5以下が繰り返し実行されるうち、エンジン回転数過渡期間判定部88に対応するS5の判断が否定される場合、すなわちエンジン回転数制御のうち、所定値Nehまで引き下げられたエンジン回転数Neを維持する定常期間であると判断される場合は、定常期間制御部92に対応するS10において定常期間制御が実施される。
図7のt2時点からt3時点は上記定常期間制御が実行される期間を示している。この定常期間制御では、
図7の(b)に示すように、第1電動機MG1の出力トルクTmg1が定常期間制御を実施しない場合よりも大きくされることで、エンジン回転数Neが零値から所定値Nehまで引き上げられてその所定値Nehが維持される。また、この定常期間制御では、
図7の(c)に示すように、第2電動機MG2の出力トルクTmg2が定常期間制御を実施しない場合よりも大きくされることで、エンジン14の作動停止状態でエンジン回転数Neが零値から所定値Nehまで引き上げられた回転に伴うエンジン14のフリクショントルクがキャンセルされる。これにより、出力ギヤ軸22の出力軸トルクToutが一時的に急減するショックが回避される。
【0052】
次いで、エンジン回転数制御終了判定部94に対応するS11およびS12において、油温Toilが予め設定された低油温判定値Toil1以上となったか、および、車速Vが予め設定された車速判定値V1を下まわったか否かがそれぞれ判断される。S11およびS12の判断が共に否定される場合はS10以下が繰り返し実行される。しかし、S11およびS12のいずれかの判断が肯定される場合は、S9において通常制御に復帰される。
図7のt4時点は、この状態を示している。
【0053】
因みに、
図8は、上記通常制御における作動を説明するタイムチャートである。
図8において、アクセルオフ時には、t1時点においてハイブリッド制御部82によりエンジン12の作動が停止させられて車両の惰行走行が開始される。この通常制御の定常期間では、エンジン回転数Neは零回転に維持するために第1電動機MG1から出力トルクTmg1をわずかに出力させるとともに、適度な制動力を発生させるためにすなわち出力ギヤ軸22の出力軸トルクToutをわずかに負とするために第2電動機MG2の回生が行われて、所謂エンジンブレーキと同様の作用が発生させられる。
【0054】
図8のt1時点とt2時点との間は、上記アクセルオフ時の通常制御に移行する過渡期間を示している。この過渡期間では、エンジン14が不作動とされることでのエンジン14の出力トルクTeが急低下させられるとともに、第1電動機MGの回転数Nmg1が所定の変化率で低下させられることでエンジン回転数Neが所定の変化率で零回転に向かって低下させられる。また、この過渡期間では、第1電動機MG1の出力トルクTmg1は零に維持されるとともに、第2電動機MG2の回生が定常期間と同様に行われていて、過渡期間のエンジンフリクショントルクのキャンセルが行われていないので、
図8の(e)に示すように、エンジン14が不作動とされることで発生するエンジン14の出力トルクTeの急低下に応答して出力ギヤ軸22の出力軸トルクToutが一時的に急減するショックが発生することが避けられなかった。
【0055】
上述のように、カウンタギヤ機構26をカウンタ軸26sを回転可能に支持する軸受B1およびB2は、低油温でのアクセルオフ被駆動時に特に潤滑が不利となる状況において、本実施例の電子制御装置80によれば、エンジンの回転数Neが高油温でのアクセルオフ走行時に比較して、零値よりも引き上げられた所定値Neh(高回転数)とされることでオイルポンプ38からの吐出量が増加させられるので、軸受B1およびB2の潤滑不良が抑制される。また、エンジン14の回転数Neが高回転数とされることによるエンジンフリクショントルクの増大分は第1電動機MG1または第2電動機MG2により相殺されることで、被駆動トルクが大きくなって軸受B1およびB2へのスラスト荷重が大きくなることが低減される。
【0056】
また、前記エンジン回転数制御によりエンジン回転数Neを所定の変化率で低下させる前記過渡期間制御時は第1電動機MG1により実施された方が制御性がよい。本実施例の電子制御装置80によれば、エンジン14に発生するエンジンフリクショントルクの増大分を相殺するための相殺過渡トルクが第1電動機MG1から出力させるので、上記過渡期間制御に関して高い制御性が得られる。
【0057】
本実施例の電子制御装置80によれば、前記エンジン回転数制御においてエンジン回転数Neを所定の変化率で低下させる過渡期間後にエンジン回転数Neを零値よりも高い高回転数すなわち所定値Nehに維持する定常期間制御は、第1電動機MG1からエンジン回転数Neを前記高回転数に引き上げるための引上げトルクを出力させ、且つ、エンジン回転数Neを高回転数に引き上げることにより発生する非作動のエンジン14のフリクショントルクを相殺する分の相殺定常トルクを前記第2電動機MG2から出力させる。このため、前記エンジン回転数制御の定常期間制御において、第1電動機MG1から引上げトルクを出力させることでエンジン回転数Neが前記高回転数に維持されるとともに、第2電動機MG2から相殺定常トルクを出力させることでエンジン回転数Neを前記高回転数に引き上げることにより発生する非作動のエンジン14のフリクショントルクが定常的に相殺される。これにより、低油温でのアクセルオフ(被駆動)時においてエンジン14の回転数Neが高油温でのアクセルオフ走行時に比較して高回転数とされることでオイルポンプ38からの吐出量が増加させられるので、カウンタギヤ機構26を回転可能に支持する軸受26sの潤滑不良が抑制される。
【0058】
前記低油温でのアクセルオフ走行時におけるカウンタギヤ機構26を回転可能に支持する軸受B1、B2の潤滑不良は、高車速時において特に問題となる。このため、本実施例の電子制御装置80によれば、前記エンジン回転数制御を所定車速V1以上の高車速時に実施し、第1電動機MG1または第2電動機MG2のキャンセルトルク制御の頻度を低減できるので、燃費低下を抑制できる。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は他の態様においても適用される。
【0060】
たとえば、前述の実施例では、エンジン14の回転数Neが高回転数とされることによるエンジンフリクショントルクの増大分は第1電動機MG1または第2電動機MG2により相殺されていたが、その増大分の一部が相殺されるようにしてもよい。このような場合でも、被駆動トルクが大きくなって軸受B1およびB2へのスラスト荷重が大きくなることが低減されるという効果が得られる。すなわち、前記増大分の少なくとも一部が相殺されればよい。
【0061】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良を加えた他の態様においても適用される。