特許第6514104号(P6514104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514104
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】電磁接触器
(51)【国際特許分類】
   H01H 50/02 20060101AFI20190425BHJP
   H01H 9/34 20060101ALI20190425BHJP
   H01H 50/00 20060101ALI20190425BHJP
   H01H 50/54 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   H01H50/02 B
   H01H9/34
   H01H50/00 D
   H01H50/54 B
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-525015(P2015-525015)
(86)(22)【出願日】2014年6月5日
(86)【国際出願番号】JP2014002999
(87)【国際公開番号】WO2015001710
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2015年9月7日
【審判番号】不服2017-4590(P2017-4590/J1)
【審判請求日】2017年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-142057(P2013-142057)
(32)【優先日】2013年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】鹿志村 修
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 優
(72)【発明者】
【氏名】高谷 幸悦
(72)【発明者】
【氏名】柴 雄二
【合議体】
【審判長】 大町 真義
【審判官】 尾崎 和寛
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−199095(JP,A)
【文献】 特開平5−202277(JP,A)
【文献】 特開2012−199123(JP,A)
【文献】 特開2010−77407(JP,A)
【文献】 特開2012−142195(JP,A)
【文献】 特開2005−78926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/00-89/10
H01T 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する接点収納ケース内に所定間隔を保って配置された一対の固定接触子に対して可動接触子を接離可能に配置するとともに、一対の固定接触子の接点と可動接触子の接点との接触位置にアーク消弧室を形成し、
前記アーク消弧室を合成樹脂成形材より高い熱伝導率を有する高熱伝導性材で形成するとともに、
前記アーク消弧室のアークと接触する内壁面に金属熱伝導材が配置されていることを特徴とする電磁接触器。
【請求項2】
前記金属熱伝導材は、前記高熱伝導性材の内面を覆うように装着されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器。
【請求項3】
前記金属熱伝導材は、前記高熱伝導性材の内面にコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定接触子に対して可動接触子が接離可能に配置された接点装置と、この接点装置の可動接触子を可動する電磁石ユニットとを備えた電磁接触器に関し、特に可動接触子が固定接触子から離間する開極時に発生するアークを容易に消弧するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
電流路の開閉を行う電磁接触器としては、例えば特許文献1に記載された電磁接触器が知られている。この電磁接触器は、所定距離を保って配置された一対の固定接触子とこれら一対の固定接触子に対して接離可能に配置された可動接触子とが接点収納ケース内に配置されている。そして、接点収納ケースの内側に一対の固定接触子及び可動接触子を囲むように絶縁筒体が配置されている。この絶縁筒体に一対の固定接触子及び可動接触子間に発生するアークを消弧するアーク消弧用永久磁石を磁石収納部で位置決め保持するとともに、この磁石収納部の可動接触子の延長方向外側にアーク消弧空間を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−243592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、アーク消弧空間が例えば合成樹脂製の樹脂成型品で構成される絶縁筒体の内周面で形成されている。このため、樹脂成型品の場合、内壁面が滑らかに仕上げられているので、この内壁面に沿う気流は層流となり熱交換量も小さく熱交換量が飽和状態となっている。また、樹脂成型品の熱伝導率は0.2W/mKと小さいため、アークの冷却効果が小さく、アーク電界を高めることができないため、所定のアーク電圧を得るためのアーク長が長くなり、小型化が困難となるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、熱交換量が飽和することなく、アークの冷却を十分に行って、アークの消弧を容易に行うことができる電磁接触器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る電磁接触器の一態様は、絶縁性を有する接点収納ケース内に所定間隔を保って配置された一対の固定接触子に対して可動接触子を接離可能に配置するとともに、一対の固定接触子の接点と可動接触子の接点との接触位置にアーク消弧室を形成し、アーク消弧室を合成樹脂成形材より高い熱伝導率を有する高熱伝導性材で形成するとともに、アーク消弧室のアークと接触する内壁面に金属熱伝導材が配置されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アーク消弧室の少なくともアークと接触する内壁面側を合成樹脂成型材より高い熱伝導率を有する高熱伝導性材で形成したので、アーク接触面の熱伝達率を高めることができ、アークの冷却を十分に行うことが可能となる。その結果、アーク電界が高まり、所定のアーク電圧を得るためのアーク長を短くすることができるので、アークを引き伸ばすための消弧スペースを小さくすることができ、小型化・軽量化が可能となる。
また、アーク長が短くなると、遮断完了までの時間(アーク持続時間)が短くなり、固定接触子及び可動接触子の接点の消耗を抑制することが可能となり、コンタクタとしての長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る電磁接触器の一実施形態を示す断面図である。
図2図1のII−II線上の接点装置の一部を拡大して示す断面図である。
図3図1のIII−III線上の断面図である。
図4】アークの発生状態を説明する説明図である。
図5】本発明の第2の実施形態を示す図2と同様の断面図である。
図6図5のA部の拡大断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態を示す図2と同様の断面図である。
図8】本発明の第4の実施形態を示す図2と同様の断面図である。
図9】本発明に適用し得る接点装置の変形例を示す図であって、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
図10】本発明に適用し得る接点装置の他の変形例を示す図であって、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る電磁接触器の一例を示す断面図、図2図1のII−II線上における接点装置の断面図である。図3図1のIII−III線上の断面図である。
これら図1図3において、10は電磁接触器であり、この電磁接触器10は接点機構を配置した接点装置100と、この接点装置100を駆動する電磁石ユニット200とで構成されている。
【0009】
接点装置100は、図1図3から明らかなように、接点機構101を収納する接点収納ケース102を有する。この接点収納ケース102は、金属製の下端部に外方と突出するフランジ部103を有する金属角筒体104と、この金属角筒体104の上端を閉塞する固定接点支持絶縁基板105と、金属角筒体104の内周側に配置された絶縁筒体140とを備えている。
金属角筒体104は、例えばステンレス鋼で形成され、そのフランジ部103が後述する電磁石ユニット200の上部磁気ヨーク210にシール接合されて固定されている。
また、固定接点支持絶縁基板105は、平板状のセラミック絶縁基板で構成され、中央部に後述する一対の固定接触子111及び112を挿通する貫通孔106及び107が所定間隔を保って形成されている。
【0010】
接点機構101は、図1に示すように、接点収納ケース102の固定接点支持絶縁基板105の貫通孔106及び107に挿通されて固定された一対の固定接触子111及び112を備えている。これら固定接触子111及び112のそれぞれは、固定接点支持絶縁基板105の貫通孔106及び107に挿通される上端に外方に突出するフランジ部113を有する支持導体部114と、この支持導体部114に連結されて固定接点支持絶縁基板105の下面側に配設され内方側を開放したC字状部115とを備えている。
【0011】
C字状部115は、固定接点支持絶縁基板105の下面に沿って外側に延長する上板部116とこの上板部116の外側端部から下方に延長する中間板部117と、この中間板部117の下端側から上板部116と平行に内方側すなわち固定接触子111及び112の対面方向に延長する下板部118とでC字状に形成されている。
ここで、支持導体部114とC字状部115とは、支持導体部114の下端面に突出形成されたピン114aをC字状部115の上板部116に形成された貫通孔120内に挿通した状態で例えばロウ付け等によって固定されている。なお、支持導体部114及びC字状部115の固定は、ロウ付け等に限らず、ピン114aを貫通孔120に嵌合させたり、ピン114aに雄ねじを形成し、貫通孔120に雌ねじを形成して両者を螺合させたりしてもよい。
【0012】
そして、固定接触子111及び112のC字状部115にそれぞれ、アークの発生を規制する合成樹脂材製の絶縁カバー121が装着されている。この絶縁カバー121は、C字状部115の上板部116及び中間板部117の内周面を被覆するものである。
このように、固定接触子111及び112のC字状部115に絶縁カバー121を装着することにより、このC字状部115の内周面では下板部118の上面側のみが露出されて接点部118aとされている。
そして、固定接触子111及び112のC字状部115内に両端部を配置するように可動接触子130が配設されている。この可動接触子130は後述する電磁石ユニット200の可動プランジャ215に固定された連結軸131に支持されている。この可動接触子130は、中央部の連結軸131の近傍が下方に突出する凹部132が形成され、この凹部132に連結軸131を挿通する貫通孔133が形成されている。
【0013】
連結軸131は、上端に外方に突出するフランジ部131aが形成されている。この連結軸131には、下端側から接触スプリング134を挿通し、次いで可動接触子130の貫通孔133を挿通する。そして、接触スプリング134の上端をフランジ部131aに当接させこの接触スプリング134で所定の付勢力を得るように可動接触子130を例えばCリング135によって位置決めする。
この可動接触子130は、釈放状態で、両端の接点部と固定接触子111及び112のC字状部115の下板部118の接点部118aとが所定間隔を保って離間した状態となる。また、可動接触子130は、投入位置で、両端の接点部が固定接触子111及び112のC字状部115の下板部118の接点部118aに、接触スプリング134による所定の接触圧で接触するように設定されている。
【0014】
さらに、接点収納ケース102を構成する絶縁筒体140は、不飽和ポリエステル樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂でなる合成樹脂成型材の熱伝導率0.2W/mKより熱伝導率が高く絶縁性を有するアルミナセラミックス(熱伝導率30W/mK)、窒化アルミニウム(熱伝導率180W/mK)、窒化ホウ素(熱伝導率63W/mK)などのセラミックス系の高熱伝導性材で成型されている。この高熱伝導性材としては、後述するように接点収納ケース102内に封入する気体である水素の高温度における熱伝導率20W/mK(4000℃,1atm)より高いことが好ましい。
【0015】
絶縁筒体140には、可動接触子130の延長方向中央部の側面に対向する位置に内方に突出する磁石収納ポケット141及び142が形成されている。この磁石収納ポケット141及び142には、アーク消弧用永久磁石143及び144が挿通されて固定されている。
このアーク消弧用永久磁石143及び144は、厚み方向に互いの対向面が同極例えばN極となるように着磁されている。そして、磁石収納ポケット141及び142の左右方向の外側で且つ一対の固定接触子111,112の接点118aと可動接触子130の接点130aとの接触位置にそれぞれアーク消弧室145及び146が形成されている。
【0016】
電磁石ユニット200は、図1に示すように、側面から見て扁平なU字形状の磁気ヨーク201を有し、この磁気ヨーク201の底板部202の中央部に円筒状補助ヨーク203が固定されている。この円筒状補助ヨーク203の外側にプランジャ駆動部としてのスプール204が配置されている。
スプール204は、円筒状補助ヨーク203を挿通する中央円筒部205と、この中央円筒部205の下端部から半径方向外方に突出する下フランジ部206と、中央円筒部205の上端より僅かに下側から半径方向外方に突出する上フランジ部207とで構成されている。そして、中央円筒部205、下フランジ部206及び上フランジ部207で構成される収納空間に励磁コイル208が巻装されている。
【0017】
また、磁気ヨーク201の開放端となる上端間に上部磁気ヨーク210が固定されている。この上部磁気ヨーク210は、中央部にスプール204の中央円筒部205に対向する貫通孔210aが形成されている。
そして、スプール204の中央円筒部205内に、底部と磁気ヨーク201の底板部202との間に復帰スプリング214を配設した可動プランジャ215が上下に摺動可能に配設されている。この可動プランジャ215には、上部磁気ヨーク210から上方に突出する上端部に半径方向外方に突出する周鍔部216が形成されている。
【0018】
また、上部磁気ヨーク210の上面に、環状に形成された環状永久磁石220が可動プランジャ215の周鍔部216を囲むように固定されている。この環状永久磁石220は外形が長方形に形成され中央部に周鍔部216を囲む貫通孔221を有する。この環状永久磁石220は上下方向すなわち厚み方向に上端側を例えばN極とし、下端側をS極とするように着磁されている。なお、環状永久磁石220の貫通孔221の形状は周鍔部216の形状に合わせた形状とし、外周面の形状は円形、方形等の任意の形状とすることができる。同様に、環状永久磁石220の外形も長方形状に限らず、円形、六角形等の任意の形状とすることができる。
【0019】
そして、環状永久磁石220の上端面に、環状永久磁石220と同一外形で中心開口224を有する補助ヨーク225が固定されている。
また、可動プランジャ215が、図1に示すように、非磁性体製で有底筒状に形成されたキャップ230で覆われ、このキャップ230の開放端に半径方向外方に延長して形成されたフランジ部231が上部磁気ヨーク210の下面にシール接合されている。これによって、接点収納ケース102及びキャップ230が上部磁気ヨーク210の貫通孔210aを介して連通される密封容器が形成されている。そして、接点収納ケース102及びキャップ230で形成される密封容器内に水素ガス、窒素ガス、水素及び窒素の混合ガス、空気、SF等のガスが封入されている。
【0020】
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
今、固定接触子111が例えば大電流を供給する電力供給源に接続され、固定接触子112が負荷に接続されているものとする。
この状態では、電磁石ユニット200における励磁コイル208が非励磁状態にあって、電磁石ユニット200で可動プランジャ215を下降させる励磁力を発生していない釈放状態にあるものとする。この釈放状態では、可動プランジャ215が復帰スプリング214によって、上部磁気ヨーク210から離れる上方向に付勢される。
【0021】
これと同時に、環状永久磁石220の磁力による吸引力が補助ヨーク225に作用されて、可動プランジャ215の周鍔部216が吸引される。このため、可動プランジャ215の周鍔部216の上面が補助ヨーク225の段差板部下面に当接している。
このため、可動プランジャ215に連結軸131を介して連結されている接点機構101の可動接触子130の接点部130aが固定接触子111及び112の接点部118aから上方に所定距離だけ離間している。このため、固定接触子111及び112間の電流路が遮断状態にあり、接点機構101が開極状態となっている。
【0022】
このように、釈放状態では、可動プランジャ215に復帰スプリング214による付勢力と環状永久磁石220による吸引力との双方が作用しているので、可動プランジャ215が外部からの振動や衝撃等によって不用意に下降することがなく、誤動作を確実に防止することができる。
この釈放状態から、電磁石ユニット200の励磁コイル208を励磁すると、この電磁石ユニット200で励磁力を発生させて、可動プランジャ215を復帰スプリング214の付勢力及び環状永久磁石220の吸引力に抗して下方に押し下げる。
【0023】
このように、可動プランジャ215が下降することにより、可動プランジャ215に連結軸131を介して連結されている可動接触子130も下降し、その接点部130aが固定接触子111及び112の接点部118aに接触スプリング134の接触圧で接触する。
このため、外部電力供給源の大電流が固定接触子111、可動接触子130、及び固定接触子112を通じて負荷に供給される閉極状態となる。
【0024】
このとき、固定接触子111及び112と可動接触子130との間に可動接触子130を開極させる方向の電磁反発力が発生する。
しかしながら、固定接触子111及び112は、図1に示すように、上板部116、中間板部117及び下板部118によってC字状部115が形成されているので、上板部116及び下板部118とこれに対向する可動接触子130とで逆方向の電流が流れることになる。
【0025】
このため、固定接触子111及び112の下板部118が形成する磁界と可動接触子130に流れる電流の関係からフレミングの左手の法則により可動接触子130を固定接触子111及び112の接点部118aに押し付けるローレンツ力を発生することができる。
このローレンツ力によって、固定接触子111及び112の接点部118aと可動接触子130の接点部130a間に発生する開極方向の電磁反発力に抗することが可能となり、可動接触子130の接点部130aが開極することを確実に防止することができる。
【0026】
このため、可動接触子130を支持する接触スプリング134の押圧力を小さくすることができ、これに応じて励磁コイル208で発生する推力も小さくすることができ、電磁接触器全体の構成を小型化することができる。
この接点機構101の閉極状態から、負荷への電流供給を遮断する場合には、電磁石ユニット200の励磁コイル208の励磁を停止する。
これによって、電磁石ユニット200で可動プランジャ215を下方に移動させる励磁力がなくなることにより、可動プランジャ215が復帰スプリング214の付勢力によって上昇し、周鍔部216が補助ヨーク225に近づくに従って環状永久磁石220の吸引力が増加する。
【0027】
この可動プランジャ215が上昇することにより、連結軸131を介して連結された可動接触子130が上昇する。これに応じて接触スプリング134で接触圧を与えている間は可動接触子130が固定接触子111及び112に接触している。その後、接触スプリング134の接触圧がなくなった時点で可動接触子130が固定接触子111及び112から上方に離間する開極状態となる。
この開極状態となると、固定接触子111及び112の接点部118aと可動接触子130の接点部130aとの間にアークが発生し、このアークによって電流の通電状態が継続される。
【0028】
このとき、固定接触子111及び112のC字状部115の上板部116及び中間板部117を覆う絶縁カバー121が装着されているので、アークが固定接触子111及び112の接点部118aと可動接触子130の接点部130aとの間のみに発生させることができる。このため、アークの発生状態を安定させることができ、アークをアーク消弧室145又は146へ引き伸ばして消弧することができ、消弧性能を向上させることができる。
また、C字状部115の上板部116及び中間板部117が絶縁カバー121で覆われている。このため、可動接触子130の両端部とC字状部115の上板部116及び中間板部117の間の絶縁カバー121によって絶縁距離を確保することができ、可動接触子130の可動方向の高さを短縮することができる。したがって、接点装置100を小型化することができる。
【0029】
さらに、固定接触子111,112の中間板部117の内側面には磁性体板119によって覆われているので、この中間板部117を流れる電流によって発生する磁場が磁性体板119によってシールドされる。このため、固定接触子111,112の接点部118a及び可動接触子130の接点部130a間に発生するアークによる磁場と中間板部117を流れる電流によって発生する磁場とが干渉することはなく、中間板部117を流れる電流によって発生する磁場にアークが影響されることを防止できる。
【0030】
一方、アーク消弧用永久磁石143及び144の対向磁極面がN極であり、その外側がS極であるので、このN極が出た磁束が、平面から見て図4(a)に示すように、固定接触子111の接点部118aと可動接触子130の接点部130aとの対向部のアーク発生部を可動接触子130の長手方向に内側から外側に横切ってS極に達して磁界が形成される。同様に、固定接触子112の接点部118aと可動接触子130の接点部130aのアーク発生部を可動接触子130の長手方向に内側から外側に横切ってS極に達して磁界が形成される。
【0031】
したがって、アーク消弧用永久磁石143及び144の磁束がともに固定接触子111の接点部118a及び可動接触子130の接点部130a間と、固定接触子112の接点部118a及び可動接触子130の接点部130a間を可動接触子130の長手方向で互いに逆方向に横切ることになる。
このため、固定接触子111の接点部118aと可動接触子130の接点部130aとの間では、図4(b)に示すように、電流Iが固定接触子111側から可動接触子130側に流れるとともに、磁束Φの向きが内側から外側に向かう方向となる。このため、フレミングの左手の法則によって、図4(c)に示すように、可動接触子130の長手方向と直交し且つ固定接触子111の接点部118aと可動接触子130との開閉方向と直交してアーク消弧室145側に向かう大きなローレンツ力Fが作用する。
【0032】
このローレンツ力Fによって、固定接触子111の接点部118aと可動接触子130の接点部130aとの間に発生したアーク151が、図2に示すように、固定接触子111の接点部118aの側面からアーク消弧室145の内壁まで伸ばされ、この内壁に沿って可動接触子130の上面側に達するように大きく引き伸ばされる。
このように、アークがアーク消弧室145の内壁面に沿う状態となると、アーク消弧室145の内壁面を構成する絶縁筒体140が通常使用する不飽和ポリエステル樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化樹脂でなる合成樹脂成型材の熱伝導率(0.2W/mK)より高く、接点収納ケース102に封入する水素の高温(4000℃,1atm)での熱伝導率(20W/mK)より高い伝導率のアルミナセラミックス(熱伝導率30W/mK)、窒化アルミナ(熱伝導率180W/mK)、窒化ホウ素(63W/mK)等の高熱伝導性材で構成されている。
【0033】
このため、アーク消弧室145の内壁面及びその内部の熱伝導率が高くなるので、アーク151の熱をアーク消弧室145の壁面内に効率よく伝熱することができる。したがって、アーク151の冷却を十分に行うことが可能となる。
この結果、アーク電界を高めることができ、所定のアーク電圧を得るためのアーク長を短くすることができる。したがって、アーク151を引き伸ばすための消弧スペースを小さくすることができ、接点装置100の小型化・軽量化を図ることができる。
また、アーク長が短くなると、遮断完了までの時間(アーク持続時間)が短くなり、固定接触子及び可動接触子の接点の消耗を抑制することが可能となり、コンタクタとしての長寿命化を図ることができる。
【0034】
一方、固定接触子112の接点部118aと可動接触子130との間では、図4(b)に示すように、電流Iが可動接触子130側から固定接触子112側に流れるとともに、磁束Φの向きが内側から外側に向かう右方向となる。このため、フレミングの左手の法則によって、可動接触子130の長手方向と直交し且つ固定接触子112の接点部118aと可動接触子130との開閉方向と直交してアーク消弧室145側に向かう大きなローレンツ力Fが作用する。
【0035】
このローレンツ力Fによって、固定接触子112の接点部118aと可動接触子130との間に発生したアーク151が、可動接触子130の上面側からアーク消弧室145内に沿って大きく引き伸ばされる。ここでも、絶縁筒体140が通常使用する不飽和ポリエステル樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化樹脂でなる合成樹脂成型材の熱伝導率(0.2W/mK)より高く、接点収納ケース102に封入する水素の高温(4000℃,1atm)での熱伝導率(20W/mK)より高い伝導率のアルミナセラミックス(熱伝導率30W/mK)、窒化アルミナ(熱伝導率180W/mK)、窒化ホウ素(63W/mK)等の高熱伝導性材で構成されている。このため、前述した固定接触子111の接点部118aと可動接触子130との間と同様に熱伝導率を高めて、アーク151を十分に冷却し、アーク151を確実に遮断することができる。
【0036】
一方、電磁接触器10の投入状態で、負荷側から直流電源側に回生電流が流れている状態で、釈放状態とする場合には、前述した図4(b)における電流の方向が逆となることから、ローレンツ力Fがアーク消弧室146側に作用し、アークがアーク消弧室146側に引き伸ばされることを除いては同様のアーク消弧機能が発揮される。
このとき、アーク消弧用永久磁石143及び144は絶縁筒体140に形成された磁石収納ポケット141及び142内に配置されているので、アーク151が直接アーク消弧用永久磁石143及び144に接触することがない。このため、アーク消弧用永久磁石143及び144の磁気特性を安定して維持することができ、遮断性能を安定化させることができる。
【0037】
また、絶縁筒体140によって、金属角筒体104の内周面を覆って絶縁できるので、電流遮断時のアークの短絡がなく、確実に電流遮断を行うことができる。
さらに、絶縁機能、アーク消弧用永久磁石143及び144の位置決め機能及びアーク消弧用永久磁石143及び144のアークからの保護機能を1つの絶縁筒体140で行うことができるので、製造コストを低減させることができる。
なお、絶縁筒体140の材質は、絶縁性を有し且つ通常使用する不飽和ポリエステル樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化樹脂でなる合成樹脂成型材の熱伝導率(0.2W/mK)より高い熱伝導率を有すれば任意の高熱伝導性材を適用することができる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態について図5及び図6を参照して説明する。
この第2の実施形態では、絶縁筒体の構成を変更したものである。
すなわち、第2の実施形態では、絶縁筒体140を図6に示すように、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂147に、この熱硬化性樹脂より熱伝導率の高いアルミナセラミックス、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、鉄、アルミニウム、銅等の熱伝導率の高い粉末等でなる熱伝導率フィラー148を混入させて成型樹脂材の絶縁性能を維持しながら熱伝導率を高めた合成樹脂成型材としている。その他の構成については前述した第1の実施形態と同様の構成を有する。
【0039】
この第2の実施形態によると、熱硬化性樹脂147に熱伝導率フィラー148を混入することにより、合成樹脂成型材自体の熱伝導率を高めるようにしているので、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。しかも、高熱伝導性材として熱硬化性樹脂147に熱伝導率フィラー148を混入させるだけであるで、前述した第1の実施形態におけるセラミックス系材料に比較して製造コストを大幅に抑制することができる。
ここで、熱伝導率フィラー148としては、上述した熱硬化性樹脂より熱伝導率の高いアルミナセラミックス、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、鉄、アルミニウム、銅等の熱伝導率の高い粉末等に限らず、熱硬化性樹脂より熱伝導率が高い任意の高熱伝導率材を適用することができ、性状としては粉状に限らず、短い繊維状等の任意の性状とすることができる。
【0040】
次に、本発明の第3の実施形態について図7を伴って説明する。
この第3の実施形態は、絶縁筒体140の表面に高熱伝導材をインサート成型したものである。
すなわち、第3の実施形態では、図7に示すように、前述した不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂でなる熱硬化性樹脂材で絶縁筒体140を成型する際に、銅、CuW、等の熱硬化性樹脂材より熱伝導率の高い金属製の高熱伝導性材としての高熱伝導率板149を内壁面側となるようにインサート成型している。その他の構成については前述した第1の実施形態と同様の構成を有する。
この第3の実施形態によると、絶縁筒体140の内壁面に高熱伝導性材としての金属の高熱伝導率板149をインサート成型しているので、開極時に発生するアーク151が引き伸ばされて絶縁筒体140の内壁面の近傍に到達したときに、アーク151の熱をアーク消弧室145の壁面内に効率よく伝熱することができる。したがって、アーク151の冷却を十分に行うことが可能となる。
【0041】
この結果、アーク電界を高めることができ、所定のアーク電圧を得るためのアーク長を短くすることができる。したがって、アーク151を引き伸ばすための消弧スペースを小さくすることができ、接点装置100の小型化・軽量化を図ることができる。
なお、上記第3の実施形態においては、高熱伝導率板149をインサート成型する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、絶縁筒体140の内周面にこの絶縁筒体を構成する熱硬化性樹脂材より高い熱伝導率を有する任意の金属材やセラミックスをコーティングするようにしてもよい。
また、熱硬化性樹脂材よりも熱伝導率の高い金属の高熱伝導率板149に、絶縁材をコーティングしたものを絶縁筒体140の内壁に、インサート成型又は接着、ネジ止めして固定してもよい。
【0042】
次に、本発明の第4の実施形態について図8を伴って説明する。
この第4の実施形態では、高熱伝導率板をインサート成型する場合に代えて絶縁筒体140の内周面を覆う金属熱伝導材を装着したものである。
すなわち、第4の実施形態では、図8に示すように、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂で構成された絶縁筒体140の内周面に、銅、CuW、等の熱硬化性樹脂材より熱伝導率の高い高熱伝導性材で構成された高熱伝導率筒体150を密着させて配置している。高熱伝導率筒体150の配置方法は、接着、ネジ止めなどの機械的な結合を採用している。その他の構成については前述した第1の実施形態と同様の構成を有する。
【0043】
この第4の実施形態によると、絶縁筒体140の内周面が高熱伝導率筒体150を密着させて配置したので、前述した第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
ここで、高熱伝導率筒体150の材質は絶縁筒体140を構成する熱硬化性樹脂より熱伝導率が高ければ任意の高熱伝導性材を適用することができる。
なお、上記第1〜第4の実施形態においては、絶縁筒体を高熱伝導率化するか、アーク151と接触する内壁面に高熱伝導性材を配置する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、絶縁筒体を高熱伝導率化するとともに、絶縁筒体の内壁面に高熱伝導性材を配置するようにしてもよい。
【0044】
また、上記第3及び第4の実施形態において、高熱伝導材の配置は絶縁筒体140の内壁面全域に配置する必要はなく、少なくとも開極時に発生するアーク151が触れる内壁面にのみ配置すればよい。
また、上記第1〜第4の実施形態においては、接点装置100の接点収納ケース102を金属角筒体104と固定接点支持絶縁基板105と絶縁筒体140とで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、固定接点支持絶縁基板105を省略して、金属角筒体104と下端を開放した桶状の絶縁筒体とその下面を覆う絶縁底板とで構成することができる。
【0045】
また、接点機構101も上記実施形態の構成に限定されるものではなく、任意の構成の接点機構を適用することができる。
例えば、図9(a)及び(b)に示すように、支持導体部114にC字状部115における上板部116を省略した形状となるL字状部160を連結するようにしてもよい。この場合でも、固定接触子111及び112に可動接触子130を接触させた閉極状態で、L字状部160の垂直板部を流れる電流によって生じる磁束を固定接触子111及び112と可動接触子130との接触部に作用させることができる。このため、固定接触子111及び112と可動接触子130との接触部における磁束密度を高めて電磁反発力に抗するローレンツ力を発生させることができる。
【0046】
また、図10(a)及び(b)に示すように、凹部132を省略して平板状に形成するようにしてもよい。
また、上記第1〜第4の実施形態においては、可動プランジャ215に連結軸131を螺合させる場合について説明したが、螺合に限らず、任意の接続方法を適用することができ、さらには可動プランジャ215と連結軸131とを一体に形成するようにしてもよい。
また、連結軸131と可動接触子130との連結が、連結軸131の先端部にフランジ部131aを形成し、接触スプリング134及び可動接触子130を挿通してから可動接触子130の下端をCリングで固定する場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、連結軸131のCリング位置に半径方向に突出する位置決め大径部を形成し、これに可動接触子130を当接させてから接触スプリング134を配置し、この接触スプリング134の上端をCリングによって固定するようにしてもよい。
【0047】
また、電磁石ユニット200についても、上記構成に限定されるものではなく、任意の構成の電磁石ユニットを適用することができ、要は可動接触子130を固定接触子111及び112に対して接離可能に駆動できればよいものである。
また、上記第1〜第4の実施形態においては、接点収納ケース102及びキャップ230で密封容器を構成し、この密封容器内にガスを封入する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、遮断する電流が低い場合にはガス封入を省略するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…電磁接触器、100…接点装置、101…接点機構、102…接点収納ケース、104…金属角筒体、105…固定接点支持絶縁基板、111,112…固定接触子、114…支持導体部、115…C字状部、121…絶縁カバー、130…可動接触子、130a…接点部、131…連結軸、134…接触スプリング、140…絶縁筒体、141,142…磁石収納ポケット、143,144…アーク消弧用永久磁石、145,146…アーク消弧室、147…樹脂成型材、148…熱伝導率フィラー、149…高熱伝導性板、150…高熱電導率筒体、151…アーク、200…電磁石ユニット、201…磁気ヨーク、203…円筒状補助ヨーク、204…スプール、208…励磁コイル、210…上部磁気ヨーク、214…復帰スプリング、215…可動プランジャ
図1
図2
図3
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図7
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図10