(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の締結構造体は、
図4に示すように、板状の取付部材106(例えばブラケット)がナット103及びスペーサ104を有する。ナット103は、被取付部材100とは反対側の面に例えばプロジェクション溶接で取り付けられる。スペーサ104は、取付部材106の被取付部材100側の面に例えばアーク溶接で取り付けられる。そして、被取付部材100側から挿通したボルト107のナット103への螺合により、被取付部材100に取付部材106が締結される。
【0005】
つまり、従来の締結構造体では、取付部材106の両面にナット103及びスペーサ104が取り付けられている。そのため、ナット103及びスペーサ104の一方を取付部材106に取り付けた際に、取付部材106が変形し、他方を取り付ける際の取り付け精度が低下する。また、ナット103及びスペーサ104の一方の取り付け時に発生する作業粉(例えば溶接時のスパッタ)等の異物が他方の内部に混入し、品質が低下するおそれがある。
【0006】
本開示の一局面は、ナット及びスペーサの位置精度に優れ、かつこれらの部材への異物混入が抑制できる車両用の締結部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、挟持部材と、ナットと、スペーサとを備える車両用の締結部品である。挟持部材は、1枚の板材から構成され、互いに対向する1対の対向部を形成するように屈曲される。ナットは、ボルト挿通孔を有すると共に、1対の対向部のうち、一方の対向部の外面に設置される。スペーサは、1対の対向部のうち、他方の対向部の外面に設置され、筒状である。また、挟持部材は、1対の対向部をそれぞれ厚み方向に貫通する1対の貫通孔を有する。1対の貫通孔は、ナットのボルト挿通孔と連続するように設けられる。スペーサは、ナットの中心軸方向から視て、ボルト挿通孔を囲むように配置される。
【0008】
このような構成によれば、従来のように板材の同じ領域で表裏両面にナット及びスペーサを取り付けるのではなく、挟持部材の離間した位置にナット及びスペーサが取り付けられる。そのため、ナット及びスペーサのうち一方を取り付ける際の板材の変形によって、他方の取り付け精度が低下することを抑制できる。また、これらの部材のうち一方を取り付ける際に発生する異物が、他方の部材の内部に混入することも抑制できる。
【0009】
本開示の別の態様は、締結部品と、板状の取付部材とを備える車両用の締結構造体である。取付部材は、挟持部材の1対の対向部により挟持されると共に、ナットのボルト挿通孔と連続するように設けられた開口を有する。このような構成によれば、挟持部材を備える締結部品によって、ナット及びスペーサの位置精度の低下及び異物混入が抑制されるので、ダッシュパネル又はカウルパネルへの取り付けの作業性と共に、締結後の固定状態の信頼性も高めることができる。
【0010】
本開示の一態様は、インパネリインフォースメントをさらに備えてもよい。また、取付部材は、一端がインパネリインフォースメントに接続されると共に、他端が車両のダッシュパネル又はカウルパネルに締結されるブレースであってもよい。このような構成によれば、インパネリインフォースメントをスペーサを介してダッシュパネル又はカウルパネルに容易かつ確実に固定することができる。
【0011】
本開示の一態様は、ナットのボルト挿通孔に螺合するボルトをさらに備えてもよい。また、ボルトは、スペーサ側からボルト挿通孔に向かって挿通されてもよい。このような構成によれば、ダッシュパネルの内側又はカウルパネルの内側からボルトを挿入し締結部品と締結することで、ブレース等の取付部材を容易かつ確実に被取付部材に締結することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1に示す車両用の締結構造体(以下、「締結構造体」ともいう。)10は、車両において取付部材を被取付部材に締結するための構造体である。締結構造体10は、締結部品1と、インパネリインフォースメント5と、ブレース6と、ボルト7とを備える。本実施形態では、ブレース6の一部が取付部材に相当する。
【0014】
<締結部品>
図2に示す締結部品1は、車両構造において、取付部材61を被取付部材100に締結固定するための車両用の締結部品である。被取付部材100は、ダッシュパネル又はカウルパネルである。
【0015】
締結部品1は、挟持部材2と、ナット3と、筒状のスペーサ4とを備える。締結部品1の材料は特に限定されず、金属や樹脂が使用できるが、金属が好適である。この金属としては、鉄、鋼等の他、アルミニウム等の軽金属が例示される。
【0016】
(挟持部材)
挟持部材2は、1枚の板材から構成されたクリップ状の部材である。挟持部材2は、一方の表面が互いに対向する1対の対向部21A,21Bを形成するように板材を屈曲することで形成されている。挟持部材2は、1対の対向部21A,21Bで板状の取付部材61を挟持可能なように構成されている。挟持部材2は、
図2に示すように、ボルト7の中心軸を含む鉛直面での断面(X−Z断面)において、上側が開放され、下側に底面を有するU字状であり、底面に上側から取付部材61の端部が当接している。換言すれば、挟持部材2は、深さがZ軸方向で、かつY軸方向に延びる溝を有し、この溝に取付部材61が挿入されている。
【0017】
挟持部材2の1対の対向部21A,21Bは、対向方向(図中X軸方向)に変形可能な弾性を有してもよい。この場合、取付部材61を挟持していない状態での1対の対向部21A,21B間の距離は取付部材61の厚みよりも小さくされ、1対の対向部21A,21B間を開いて取付部材61をY軸方向又はZ軸方向から挿入することで、挟持部材2の弾性により取付部材61を保持できる。
【0018】
挟持部材2は、1対の対向部21A,21Bをそれぞれ厚み方向(図中X軸方向)に貫通する1対の貫通孔22A,22Bを有する。1対の貫通孔22A,22Bは、ナット3のボルト挿通孔31と連続するように設けられている。つまり、1対の貫通孔22A,22Bは、
図2に示すようにボルト7が挿通可能な位置及び形状に形成されている。
【0019】
挟持部材2は、挟持した取付部材61が脱落しないようにする公知の脱落防止手段を有してもよい。挟持部材2に設ける脱落防止手段としては、例えば実開平6−30529号公報に開示された手段が挙げられる。この脱落防止手段は、
図3に示すように、挟持部材2の貫通孔22A,22Bの一方に、バーリング加工により対向面側に突出する円筒状のボス部23を設けたものである。このボス部23が取付部材61の開口61Aに嵌入することで、脱落が防止される。
【0020】
(ナット)
ナット3は、ボルト7が螺合されるボルト挿通孔31を有する。また、ナット3は、挟持部材2の1対の対向部21A,21Bのうち、被取付部材100とは反対側(つまり、ブレース6側)の対向部21Aの外面に設置されている。なお、「外面」とは、1対の対向部21A,21B同士が対向している面とは反対側の面を意味する。
【0021】
ナット3と挟持部材2との接続方法は特に限定されないが、材料として金属を用いた場合は、プロジェクション溶接が好適に使用できる。特に、本開示では、溶接により対向部21Aが変形してもスペーサ4の位置精度に影響を与えにくいことから、溶接による接続が好適である。
【0022】
(スペーサ)
スペーサ4は、カラーとも呼ばれる円筒状の部材であり、被取付部材100の内側で発生する音を取付部材61に伝えにくくして車両の静音性を高める。
【0023】
スペーサ4は、挟持部材2の1対の対向部21A,21Bのうち、被取付部材100側の対向部21Bの外面に設置されている。具体的には、スペーサ4は、ナット3の中心軸方向(図中X軸方向)から視て、ボルト挿通孔31を囲むように、一方の端部が対向部21Bの外面に接続されている。また、スペーサ4の中心軸はナット3及びボルト7の中心軸と平行である。
【0024】
スペーサ4と挟持部材2との接続方法は特に限定されないが、材料として金属を用いた場合は、アーク溶接が好適に使用できる。特に、本開示では、溶接により対向部21Bが変形してもナット3の位置精度に影響を与えにくく、かつ、溶接時のスパッタのナット3内部への混入も抑制できることから、溶接による接続が好適である。
【0025】
スペーサ4の他方の端部、つまり挟持部材2と反対側の端部は、
図2に示すように被取付部材100の表面に当接する。これにより、被取付部材100と取付部材61とが離間される。また、スペーサ4の内部空間には、ナット3が挿通される。
【0026】
<インパネリインフォースメント>
インパネリインフォースメント5は、インストルメントパネル(図示せず)内において車両左右方向(つまり車両の前後方向と垂直な方向)に沿って、運転席側ピラー(図示せず)と助手席側ピラー(図示せず)との間に配設される。インパネリインフォースメント5は、
図1に示すように、円筒状の本体51を有する。本体51は、ブラケット等の部材を介して、ステアリングコラム(図示せず)を支持している。
【0027】
<ブレース>
ブレース6は、インパネリインフォースメント5を被取付部材100としてのダッシュパネル又はカウルパネルに固定するための金属製の部材である。
【0028】
ブレース6は、
図1に示すように、インパネリインフォースメント5の本体51に対し上側に設けられる板状の第1ブレース部材61と、下側に設けられる板状の第2ブレース部材62とを有する。ブレース6は、第1ブレース部材61及び第2ブレース部材62の車両後方側の端部がインパネリインフォースメント5の本体51を挟むようにして溶接等により本体51に接続されている。
【0029】
第1ブレース部材61は、
図2の取付部材61に該当する。第1ブレース部材61は、
図2に示すように、車両前方側の端部が車両下方側に屈曲しており、この屈曲した端部が挟持部材2の1対の対向部21A,21Bによって挟持されている。また、第1ブレース部材61は、車両前方側の端部に、ナット3のボルト挿通孔31と連続するように設けられた開口61Aを有する。なお、第1ブレース部材61の車両左右方向(図中Y軸方向)の両端部も車両下方側に屈曲している。
【0030】
第1ブレース部材61は、締結部品1及びボルト7によって被取付部材100に締結されることで、被取付部材100に取り付けられる。これにより、インパネリインフォースメント5がブレース6を介して被取付部材100(つまり、ダッシュパネル又はカウルパネル)に固定される。
【0031】
<ボルト>
ボルト7は、
図2に示すように、ナット3のボルト挿通孔31に螺合する。ボルト7は、被取付部材100に設けた開口を通じて、スペーサ4側からボルト挿通孔31に向かって挿通される。
【0032】
具体的には、ボルト7は、ダッシュパネル又はカウルパネルの内部から、ダッシュパネル又はカウルパネルに設けた開口、スペーサ4の内部空間、挟持部材2の一方の貫通孔22B、第1ブレース部材61の開口61A、及び挟持部材2の他方の貫通孔22Aの順に挿通され、ナット3に螺合する。また、ボルト7の頭部はダッシュパネル又はカウルパネルの内部に配置される。
【0033】
[1−2.製造方法]
以下、締結部品1の製造方法について説明する。
締結部品1は、板材にナット3を取り付けるナット取付工程と、同一の板材にスペーサ4を取り付けるスペーサ取付工程と、1対の対向部21A,21Bを形成するように板材を屈曲する屈曲工程とを備える製造方法により得ることができる。
【0034】
ここで、ナット取付工程、スペーサ取付工程、及び屈曲工程は、その順序を問わない。つまり、これらの工程は任意の順序で行うことができる。以下では、代表的な製造方法について例示する。
【0035】
<第1の製造方法>
第1の製造方法では、ナット取付工程及びスペーサ取付工程を行った後、つまり1枚の平板にナット3及びスペーサ4を取り付けた後、屈曲工程を行う。この方法では、平板の状態で互いに離間した位置にナット3及びスペーサ4を取り付けるので、溶接のスパッタ等がナット3又はスペーサ4の内部に混入することが防止しやすい。なお、任意のタイミングでナット3及びスペーサ4の取付位置に2つの貫通孔22A,22Bを1つずつ設ける。
【0036】
<第2の製造方法>
第2の製造方法では、ナット取付工程及びスペーサ取付工程のどちらか一方を行った後、屈曲工程を行い、その後、ナット取付工程及びスペーサ取付工程の残りの一方を行う。この方法では、屈曲工程において、板材のナット3又はスペーサ4のどちらかが取り付けられていない方の面を安定して保持できるので、屈曲作業が行い易い。
【0037】
なお、屈曲後は、ナット3及びスペーサ4の取付位置が近接しているため、ナット3又はスペーサ4の取り付けにより発生するスパッタ等が1対の貫通孔22A,22Bを介して既に取り付けられているナット3又はスペーサ4の内部に混入しやすい。そこで、屈曲工程後に1対の対向部21A,21Bの間にスパッタカバー等を挿入することで、スパッタ等の混入が防止できる。
【0038】
[1−3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)挟持部材2の離間した部位にナット3及びスペーサ4をそれぞれ取り付けるので、これらの部材のうち一方を取り付ける際の挟持部材2の変形によって、他方の部材の取り付け精度が低下することを抑制できる。
【0039】
挟持部材2の離間した部位にナット3及びスペーサ4をそれぞれ取り付けるので、ナット3及びスペーサ4の一方を取り付ける際に発生する異物が、他方の部材の内部に混入することを抑制できる。
【0040】
以上の効果から、ブレース6のダッシュパネル又はカウルパネルへの取り付けの作業性が高まる。また、締結後のブレース6とダッシュパネル又はカウルパネルとの固定状態の信頼性も高めることができる。
【0041】
(1b)上述の通り、ナット3及びスペーサ4の挟持部材2への取り付け作業(例えば溶接等)が互いに干渉しにくいので、これらの取り付け手段の選択肢が増加する。
(1c)取付部材61を公知の脱落防止手段で挟持部材2に固定できるので、取付部材61に特別な加工を施す必要がない。また、挟持部材2及びナット3として既製のクリップナットを使用することができ、この場合には溶接工程が減少する。これらの結果、製造コストを低減することができる。
【0042】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0043】
(2a)上記実施形態の締結部品1及び締結構造体10において、取付部材61としてインパネリインフォースメントに接続されるブレースを例示し、被取付部材100としてダッシュパネル又はカウルパネルを例示したが、取付部材61及び被取付部材100はこれらに限定されない。取付部材61及び被取付部材100は、車両を構成する部材であって互いに締結固定されるものであれば、どのような部材であってもよい。
【0044】
(2b)上記実施形態の締結構造体10において、
図2に示したブレース6の形状は一例である。従って、ブレース6は、1枚の板状のブレース部材のみで構成されてもよいし、3枚以上のブレース部材で構成されてもよい。
【0045】
また、例えば複数のブレース部材が上下方向ではなく、左右方向に並置されてもよい。
さらに、締結部品1の挟持部材2に挟持される第1ブレース部材61の端部は、
図2のように、必ずしも下方に屈曲している必要はない。
【0046】
(2c)上記実施形態の車両用の締結部品1及び締結構造体10において、挟持部材2の向きや形状は
図2に示すものに限定されない。例えば、挟持部材2は、底面が下側に位置しなくてもよい。つまり、挟持部材2は、取付部材61の端部の任意の位置に、任意の向き(例えば車両の左右方向や前後方向)から装着することができる。
【0047】
(2d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0048】
1…締結部品、2…挟持部材、3…ナット、4…スペーサ
5…インパネリインフォースメント、6…ブレース、7…ボルト、10…締結構造体、
21A,21B…対向部、22A,22B…貫通孔、23…ボス部、
31…ボルト挿通孔、51…本体、61…第1ブレース部材(取付部材)、
61A…開口、62…第2ブレース部材、100…被取付部材、
103…ナット、104…スペーサ、106…取付部材、107…ボルト。