(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均粒子径が50μm以上500μm以下の塩化ビニル系樹脂(A)、平均粒子径が0.01μm以上50μm未満の塩化ビニル系樹脂(B)、可塑剤及びアルキルリン酸エステルを含み、
塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度は1350以上であり、
前記アルキルリン酸エステルは、アルキル基の炭素数が5以上であり、かつモノアルキルリン酸エステルを含み、
塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、塩化ビニル系樹脂(B)の配合量は5質量部以上40質量部以下、可塑剤の配合量は110質量部以上150質量部以下、アルキルリン酸エステルの配合量は0.1質量部以上3.0質量部以下であることを特徴とする粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
前記アルキルリン酸エステルは、モノアルキルリン酸エステル;モノアルキルリン酸エステル及びジアルキルリン酸エステルの混合物;モノアルキルリン酸エステル及びトリアルキルリン酸エステルの混合物;又はモノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル及びトリアルキルリン酸エステルの混合物である請求項1又は2に記載の粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が1350以上であり、平均粒子径が50μm以上500μm以下の塩化ビニル系樹脂(A)と、平均粒子径が0.01μm以上50μm未満の塩化ビニル系樹脂(B)を併用し、モノアルキルリン酸エステルを含むアルキルリン酸エステルを滑剤として用いるとともに、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、塩化ビニル系樹脂(B)の配合量を5質量部以上40質量部以下、可塑剤の配合量を110質量部以上150質量部以下、かつアルキルリン酸エステルの配合量を0.1質量部以上3.0質量部以下にすることで、該塩化ビニル系樹脂組成物を成形した塩化ビニル系樹脂成形体において、耐熱老化性が高くなりすなわち熱老化後の引張伸びが高くなり、発泡ポリウレタン層との接着性が向上し、金型からの型離れが容易となり、かつ臭気が低減することを見出した。
【0016】
具体的には、平均粒子径が50μm以上500μm以下の塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、平均粒子径が0.01μm以上50μm未満の塩化ビニル系樹脂(B)を5質量部以上40質量部以下配合すると、平均粒子径が大きい粒子状の塩化ビニル系樹脂(A)の表面の少なくとも一部に平均粒子径が小さい微粒子状の塩化ビニル系樹脂(B)が配置されることで、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高くなり、パウダースラッシュ成形時の加工性が高まる。塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、可塑剤を110質量部以上150質量部以下配合することで、耐熱老化性が向上し、かつ、塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度を1350以上にすることで、多量の可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物を粉体化しやすくなる。また、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、滑剤としてポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステルを0.1質量部以上3.0質量部以下配合することで、発泡ポリウレタン層との接着性を良好にし、金型からの型離れを容易にし、かつ臭気を低減することができる。
【0017】
塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度は1350以上であれば特に限定されない。塩化ビニル系樹脂組成物の粉体化をより容易にする観点から、平均重合度が1400以上であることが好ましい。また、塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度の上限は特に限定されず、例えば、3800以下であることが好ましく、塩化ビニル系樹脂組成物を成形した塩化ビニル系樹脂成形体の柔軟性(引張伸び)をより高める観点から、平均重合度が3500以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン層との接着性が高まる。より具体的には、塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度は1350以上3800以下であることが好ましく、1350以上3500以下であることがより好ましく、1400以上3000以下であることがさらに好ましい。
【0018】
塩化ビニル系樹脂(A)の平均粒子径は50μm以上500μm以下であれば特に限られないが、例えば、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。また、塩化ビニル系樹脂(A)の平均粒子径は、例えば、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。より具体的には、塩化ビニル系樹脂(A)の平均粒子径は、例えば、100μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましく、150μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。塩化ビニル系樹脂(A)の平均粒子径が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まるとともに、塩化ビニル系樹脂組成物を成形した塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン層との接着性が向上する。本発明において、塩化ビニル系樹脂(A)の平均粒子径は、JIS K 7369:2009に準じて測定する。
【0019】
塩化ビニル系樹脂(A)は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル単量体の単独重合体、及び/又は、塩化ビニル単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0020】
塩化ビニル系樹脂(A)は、例えば、懸濁重合法、塊状重合法等公知のいずれの重合法で製造してもよいが、コストが低く、熱安定性に優れる観点から、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0021】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂(A)を30質量%以上含んでもよく、35質量%以上含んでもよい。また、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば、塩化ビニル系樹脂(A)を60質量%以下含んでもよく、55質量%以下含んでもよく、50質量%以下含んでもよく、45質量%以下含んでもよい。より具体的に、前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば、塩化ビニル系樹脂(A)を30質量%以上60質量%以下含んでもよく、35質量%以上55質量%以下含んでもよい。
【0022】
塩化ビニル系樹脂(B)の平均粒子径は、0.01μm以上50μm未満であれば特に限定されないが、例えば、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、塩化ビニル系樹脂(B)の平均粒子径は、例えば、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。より具体的に、塩化ビニル系樹脂(B)の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂(B)の平均粒子径が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まる。本発明において、塩化ビニル系樹脂(B)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置、例えば、粒度分布測定装置(日機装株式会社製MICROTRAC/HRA(9320−X100))にて測定する。
【0023】
塩化ビニル系樹脂(B)は、平均重合度が特に限定されず、例えば、500以上であってもよく、800以上であってもよい。また、塩化ビニル系樹脂(B)の平均重合度の上限は特に限られないが、例えば、2000以下であってもよく、1500以下であってもよい。より具体的には、塩化ビニル系樹脂(B)の平均重合度は、例えば、500以上2000以下であってもよく、800以上1500以下であってもよい。塩化ビニル系樹脂(B)の平均重合度が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まるとともに、成形加工性が良好になる。
【0024】
塩化ビニル系樹脂(B)は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル単量体の単独重合体、及び/又は、塩化ビニル単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0025】
塩化ビニル系樹脂(B)は、例えば、乳化重合法、シード乳化重合法、微細懸濁重合法、シード微細懸濁重合法等公知のいずれの重合法で製造してもよいが、微粒子が得られやすい観点から、微細懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0026】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、塩化ビニル系樹脂(B)の配合量は5質量部以上40質量部以下であれば特に限定されないが、例えば、10質量部以上であることが好ましい。また、塩化ビニル系樹脂(B)の配合量の上限は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。塩化ビニル系樹脂(A)に対する塩化ビニル系樹脂(B)の配合量が上述した範囲内であると、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体流動性が高まるとともに、塩化ビニル系樹脂組成物を成形した塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン層との接着性が高まる。
【0027】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、可塑剤の配合量は110質量部以上150質量部以下であれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂成形体の耐熱老化性をより高め、脱型応力をより低減する観点から、115質量部以上であることが好ましく、120質量部以上であることがより好ましい。また、塩化ビニル系樹脂組成物の粉体化を容易にし、臭気を低減しやすい観点から、145質量部以下であることが好ましい。より具体的に、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、可塑剤の配合量は115質量部以上150質量部以下であることが好ましく、120質量部以上145質量部以下であることがより好ましい。
【0028】
前記可塑剤としては、塩化ビニル系樹脂の可塑剤として使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、トリメリット酸系可塑剤、フタル酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を用いることができる。可塑剤の移行性やブリードアウト性が少なく、耐熱老化性をより高める観点から、トリメリット酸系可塑剤を用いることが好ましい。汎用性の観点から、フタル酸系可塑剤を用いてもよい。
【0029】
前記トリメリット酸系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(n−オクチル)、トリメリット酸トリイソオクチル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸ジ(n−オクチル)モノ(n−デシル)、トリメリット酸ジイソオクチルモノイソデシル等が挙げられる。
【0030】
前記フタル酸系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸ジ(n−ブチル)、フタル酸ジ(n−オクチル)、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0031】
前記ピロメリット酸系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸テトラ(2−エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ(n−オクチル)等が挙げられる。前記エポキシ系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸(2−エチルヘキシル)等が挙げられる。前記ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸(1,3−ブタンジオール)(2−エチルヘキサノール)系ポリエステル、セバシン酸(1,6−ヘキサンジオール)(2−エチルヘキサノール)系ポリエステル、アジピン酸(プロピレングリコール)(椰子油脂肪酸)系ポリエステル等が挙げられる。
【0032】
上述した可塑剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0033】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物において、アルキルリン酸エステルは内部滑性を与える滑剤としての役割を有し、モノアルキルリン酸エステルを必須成分とするアルキルリン酸エステルを用いることにより、塩化ビニル系樹脂成形体のスラッシュ金型から型離れ時の脱型応力を低減するとともに、塩化ビニル系樹脂成形体の臭気を低減することができる。前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、前記アルキルリン酸エステルの配合量は0.1質量部以上3.0質量部以下であれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂成形体の脱型応力をより低減する観点から、0.2質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましい。また、塩化ビニル系樹脂成形体の臭気を低減する観点から、2.9質量部以下であることが好ましく、2.8質量部以下であることがより好ましい。より具体的に、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、アルキルリン酸エステルの配合量は0.2質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上2.9質量部以下であることがより好ましい。
【0034】
前記アルキルリン酸エステルは、モノアルキルリン酸エステル(モノエステル体とも記す。);モノアルキルリン酸エステル及びジアルキルリン酸エステル(ジエステル体とも記す。)の混合物;モノアルキルリン酸エステル及びトリアルキルリン酸エステル(トリエステル体とも記す。)の混合物;又はモノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル及びトリアルキルリン酸エステルの混合物であることが好ましく、モノアルキルリン酸エステル;又はモノアルキルリン酸エステル及びジアルキルリン酸エステルの混合物であることがより好ましい。
【0035】
前記アルキルリン酸エスエルは、特に限定されないが、例えば、モノアルキルリン酸エステルを10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは20質量%以上含み、さらに好ましくは30質量%以上含む。具体的には、前記アルキルリン酸エスエルがモノアルキルリン酸エステル及びジアルキルリン酸エステルの混合物である場合、例えば、モノアルキルリン酸エステルを10質量%以上90質量%以下、ジアルキルリン酸エステルを10質量%以上90質量%以下含んでもよく、モノアルキルリン酸エステルを20質量%以上80質量%以下、ジアルキルリン酸エステルを20質量%以上80質量%以下含んでもよく、モノアルキルリン酸エステルを30質量%以上70質量%以下、ジアルキルリン酸エステルを30質量%以上70質量%以下含んでもよい。なお、前記アルキルリン酸エステルは、モノアルキルリン酸エステル及びジアルキルリン酸エステルに加えて、トリアルキルリン酸エステルを、例えば10質量%未満含んでもよい。本発明において、アルキルリン酸エスエルにおける各々のエステル体、例えば、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル及びトリアルキルリン酸エステルの含有量は、
31P−NMR(核磁気共鳴)を用いて測定算出することができる。
【0036】
前記アルキルリン酸エステルにおいて、アルキル基の炭素数は5以上であればよく、特に限定されないが、例えば、8以上であることが好ましく、8以上24以下であることがより好ましく、10以上24以下であることがさらに好ましい。前記アルキルリン酸エステルがジエステル体又はトリエステル体を含む場合、ジエステル体又はトリエステル体において、1分子中の複数のアルキル基の炭素数は同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよいが、いずれのエステル体の炭素数も5以上である。また、前記アルキルリン酸エステルが、モノエステル体とジエステル体及び/又はトリエステル体との混合物の場合、モノエステル体とジエステル体及び/又はトリエステル体の炭素数は同じであってもよく、異なっていてもよいが、いずれのエステル体の炭素数も5以上である。
【0037】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、さらに、安定剤、着色剤、酸化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤等の樹脂配合剤を適宜含んでもよい。
【0038】
前記安定剤としては、例えば、エポキシ系安定剤、バリウム系安定剤、カルシウム系安定剤、スズ系安定剤、亜鉛系安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤、カルシウム−亜鉛系(Ca−Zn系)及びバリウム−亜鉛系(Ba−Zn系)等の複合安定剤も使用することができる。前記安定剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記安定剤は、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上8質量部以下配合することが好ましい。
【0039】
前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等を挙げることができる。また、前記着色剤としては、青顔料、赤顔料等の市販の顔料を用いてもよい。前記着色剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂(A)、塩化ビニル系樹脂(B)、可塑剤、及びアルキルリン酸エステルと、必要に応じてその他の樹脂配合剤を適宜混合することで、製造することができる。混合方法は、特に限定されないが、例えば、ドライブレンド法が好ましい。混合機としては、特に限定されないが、例えば、スーパーミキサー等を用いることができる。
【0041】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、50μm以上であってもよく、100μm以上であってもよく、150μm以上であってもよい。また、前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、500μm以下であってもよく、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。より具体的には、前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、例えば、50μm以上500μm以下であってもよいが、粉体流動性の観点から、例えば、100μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましく、150μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、JIS K 7369:2009に準じて測定する。
【0042】
本明細書において、塩化ビニル系樹脂(A)及び塩化ビニル系樹脂(B)の平均重合度は、JIS K 6720−2:1999に準じて測定される。
【0043】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物のパウダー収率は、特に限定されないが、例えば、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ここで、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物のパウダー収率は、メッシュサイズ42(355μm)のメッシュを有する篩を用いて粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を通過させ、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の篩を通過する前の質量(Wa)及び通過した後の質量(Wb)を測定し、下記式で算出する。
パウダー収率(%)=Wb/Wa×100
【0044】
前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物をパウダースラッシュ成形することで塩化ビニル系樹脂成形体が得られる。そのため、塩化ビニル系樹脂成形体は、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物と同様の組成を有することになる。なお、前記塩化ビニル系樹脂成形体の断面を観察すると、パウダースラッシュ成形に用いた粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物(粒子)間の界面が確認されることにより、当該成形体がパウダースラッシュ成形により製造されたものであること、すなわち当該成形体がパウダースラッシュ成形体であることを確認することができる。
【0045】
パウダースラッシュ成形の方法は特に限定されないが、例えば、パウダーボックスとスラッシュ成形用金型(以下において、単に「金型」とも記す。)とを備えたスラッシュ成形機において、パウダーボックスに前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を投入するとともに、金型を所定の温度(例えば、230℃以上280℃以下)に加熱し、次いで、スラッシュ成形機を反転させて、所定の温度に加熱された金型の表面に前記粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を接触させて所定時間(例えば、3秒以上15秒以下)保持し、その後、スラッシュ成形機を再び反転させて金型を冷却(例えば、10℃以上60℃以下)し、冷却された金型から成形体を剥離する方法を用いることができる。
【0046】
前記塩化ビニル系樹脂成形体の形状は特に限られないが、例えば、シート状であってもよい。前記塩化ビニル系樹脂成形体がシート状である(以下において、塩化ビニル系樹脂シートとも記す。)場合、その厚さは、特に限定されないが、例えば、3.0mm以下であってもよく、2.0mm以下であってもよく、1.6mm以下であってもよい。また、例えば、0.5mm以上であってもよく、0.6mm以上であってもよく、0.8mm以上であってもよい。より具体的に、前記塩化ビニル系樹脂成形体がシート状である場合、その厚さは、例えば、0.5mm以上3.0mm以下であってもよく、0.6mm以上2.0mm以下であってもよく、0.8mm以上1.6mm以下であってもよい。
【0047】
本発明において、金型から離型しやすい観点から、前記塩化ビニル系樹脂成形体の脱型応力は1.3kg以下であることが好ましく、1.2kg以下であることがより好ましく、1.1kg以下であることがさらに好ましく、1.0kg以下であることが特に好ましい。本発明において、前記塩化ビニル系樹脂成形体の脱型応力は、金型温度260℃で得られた厚みが1.0mmのシート状の塩化ビニル系樹脂成形体(塩化ビニル系樹脂シート)を、金型温度が50℃になるまで冷却した後、金型から塩化ビニル系樹脂シートを剥がす際、金型を台秤の上に縦面が下になるように設置し、塩化ビニル系樹脂シートを0.25秒/cmの速度で上から下に20cmの距離を剥離した時の最大荷重を測定することで確認することができる。
【0048】
本発明において、125℃で200時間加熱された後(熱老化とも記す。)の塩化ビニル系樹脂成形体の−10℃における引張伸びは、例えば、140%以上であることが好ましく、160%以上であることがより好ましく、180%以上であることがさらに好ましい。本発明において、125℃で200時間加熱された後の塩化ビニル系樹脂成形体の−10℃における引張伸びは、JIS K 6251において、標線間距離に代えて、試料(塩化ビニル系樹脂成形体)を保持する一対のチャック間の距離を採用するよう改変した方法で測定する。なお、熱老化後の引張伸びの測定に用いる塩化ビニル系樹脂成形体としては、塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン層を積層して形成した樹脂積層体を125℃で200時間加熱した後、該樹脂積層体から剥がされた塩化ビニル系樹脂成形体を用いることができる。
【0049】
前記塩化ビニル系樹脂成形体は、特に限定されないが、例えば、自動車等の車両のインストルメントパネル、ドアトリム、トランクトリム、座席シート、ピラーカバー、天井材、リアトレイ、コンソールボックス、エアバッグカバー、アームレスト、ヘッドレスト、メーターカバー、クラッシュパッド等の車両内装材用表皮として好適に用いることができる。
【0050】
前記塩化ビニル系樹脂成形体と、発泡ポリウレタン層(発泡ポリウレタン成形体とも記す。)を積層して積層体として用いることができる。積層方法としては、特に限定されず、例えば、塩化ビニル系樹脂成形体と、発泡ポリウレタン成形体とを別途作製した後に、熱融着又は熱接着或いは公知の接着剤等を用いることにより貼り合わせる方法;塩化ビニル系樹脂成形体上にて、発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類等を反応させて重合を行うとともに、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより積層する方法等が挙げられる。後者の方が、工程が簡素であり、かつ、種々の形状の積層体を得る場合においても、塩化ビニル系樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体の接着を確実に行うことができるので好適である。
【0051】
前記積層体は、発泡ポリウレタン層と、発泡ポリウレタン層の一方の表面に積層された塩化ビニル系樹脂成形体(塩化ビニル系樹脂層とも記す。)に加えて、発泡ポリウレタン層の他方の表面に積層された他の樹脂層とを有してもよい。前記他の樹脂層は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン及び/又はポリエチレン−ポリプロピレン共重合体)又はABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の層であってもよい。このような積層体は、例えば、当該塩化ビニル系樹脂層と、当該他の樹脂層との間で、ポリウレタンの発泡成形を行うことにより製造することができる。
【0052】
前記積層体は、特に限定されないが、例えば、自動車等の車両のインストルメントパネル、ドアトリム、トランクトリム、座席シート、ピラーカバー、天井材、リアトレイ、コンソールボックス、エアバッグカバー、アームレスト、ヘッドレスト、メーターカバー、クラッシュパッド等の車両内装材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例及び比較例において、下記表1に示す原材料を用いた。
【0055】
<塩化ビニル系樹脂>
(1)塩化ビニル単独重合体、平均重合度1400、平均粒子径159μm、株式会社カネカ製「S1004D」
(2)塩化ビニル単独重合体、平均重合度3000、平均粒子径170μm、株式会社カネカ製「KS-3000」
(3)塩化ビニル単独重合体、平均重合度3800、平均粒子径175μm、大洋塩ビ株式会社製「TH−3800」
(4)塩化ビニル単独重合体、平均重合度1000、平均粒子径210μm、株式会社カネカ製「S1001T」
(5)塩化ビニル単独重合体、平均重合度1300、平均粒子径10μm、株式会社カネカ製「PSM−31」
【0056】
<可塑剤>
(1)トリメリット酸トリ(n−オクチル)、株式会社ADEKA製「C−8L」
(2)トリメリット酸トリ(2エチルヘキシル)、株式会社ADEKA製「C−8」
(3)フタル酸ジイソノニル、シージーエスタ株式会社製「DINP」
【0057】
<リン酸エステル>
(1)アルキル酸性リン酸エスエル(モノエステル体33質量%、ジエステル体57質量%及びトリエステル体9質量%の混合物)、フレーク状、株式会社ADEKA製「AX−71」
(2)ラウリルリン酸(モノエステル体79質量%とジエステル体21質量%の混合物)、半ロウ状、日光ケミカル株式会社製「ホステンHLP」
(3)リン酸2−エチルヘキシル(モノエステル体45質量%とジエステル体55質量%の混合物)、液状、東京化成工業株式会社製
(4)リン酸ジ(2−エチルヘキシル)、液状、東京化成工業株式会社製
(5)リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、液状、東京化成工業株式会社製
(6)テトラコシルアシッドフォスフェート(モノエステル体38質量%とジエステル体62質量%の混合物)、ロウ状、城北化学工業株式会社製「JP−524R」
(7)リン酸ジブチル(モノエステル体45質量%とジエステル体55質量%の混合物)、液状、東京化成工業株式会社製
【0058】
上述したリン酸エステルにおけるモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体の含有量は、下記のように測定算出したものである。
(リン酸エステルの組成分析)
(a)アルキル酸性リン酸エスエル及びラウリルリン酸は、それぞれ0.1gを0.1mLの重メタノールを0.6mLの重クロロホルムに添加した混合溶媒に溶解して試料として用いた。リン酸2−エチルヘキシル、テトラコシルアシッドフォスフェート及びリン酸ジブチルは、0.6mLの重クロロホルムに溶解して試料として用いた。
(b)アルキル酸性リン酸エスエル及びラウリルリン酸の試料は、VARIAN社製のANMR600を用いて40℃で
31P−NMRを測定した(測定周波数:243Hz;積算回数512回)。リン酸2−エチルヘキシル、テトラコシルアシッドフォスフェート及びリン酸ジブチルの試料は、VARIAN社製のANMR600を用いて20℃で
31P−NMRを測定した(測定周波数:243Hz;積算回数512回)。
(c)得られた
31P−NMRスペクトルを分析し、リン酸エステルの組成を定量化した。なお、
31P−NMRスペクトルにおいて、リン酸モノエステル由来、リン酸ジエスエル由来及びリン酸トリエステル由来のピークは、−5〜0ppmに見られた。
【0059】
<安定剤>
(1)ステアリン酸亜鉛
(2)過塩素酸ナトリウム
(3)ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)
(4)エポキシ化大豆油
【0060】
滑剤(脂肪酸エステル):1,2−ヒドロキシステアリン酸、半ロウ状、株式会社ADEKA製「LS-12」
【0061】
(実施例1)
<粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の製造>
100Lのスーパーミキサー(株式会社カワタ製)に、塩化ビニル系樹脂(1)100質量部、可塑剤(1)125質量部、リン酸エステル(1)0.6質量部、安定剤(1)5質量部、安定剤(2)1.5質量部、安定剤(3)0.3質量部、安定剤(4)5質量部及び顔料(黒)3質量部を添加し、70℃で混合した。次に、得られた混合物をドライアップした後、50℃以下に冷却し、塩化ビニル系樹脂(5)を25質量部添加して混合し、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物(粉末状)を作製した。
【0062】
<塩化ビニル系樹脂成形体の製造>
上記で得られた粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を用い、シボ付平板(縦22cm×横31cm)を有するスラッシュ成形用金型とパウダーボックス(縦22cm×横31cm×深さ16cm)とを備えた箱型スラッシュ成形機を使用して、パウダースラッシュ成形を行った。具体的に、まず、パウダーボックスに粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物2kgを投入するとともに、280℃に加熱したスラッシュ成形用金型をスラッシュ成形機にセットした。次いで、金型が260℃となった時点で、スラッシュ成形機を反転させ、塩化ビニル系樹脂シート(PVCシートとも記す。)の厚みが1.0mmとなるように、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を当該金型内に約10〜12秒間保持した後、スラッシュ成形機を反転させた。60秒間経過した時点で金型を冷却水で50℃になるまで冷却した。次に、PVCシートを金型から剥がし、塩化ビニル系樹脂成形体を得た。なお、PVCシートは金型から剥がす際、後述するとおりに、脱型応力を測定した。
【0063】
<積層体の製造>
発泡成形用金型(190mm×240mm×11mm)底面に、上記で得られたPVCシートを敷いた。次に、PVCシートの上に、4,4´−ジフェニルメタンージイソシアネートを含むA液36gと、ポリエーテルポリオールを含むB液(トリエチレンジアミン1.0質量%、水1.6質量%含有)78gとを混合して調製された原料液を注ぎ、金型を密閉した。所定の時間後、厚さ約1mmのPVCシート(表皮)と、当該PVCシートに積層された厚さ約9mmの発泡ポリウレタン層(裏打ち材)を有する積層体を金型から回収した。
【0064】
(実施例2〜3)
リン酸エステルの配合量を下記表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0065】
(実施例4)
塩化ビニル系樹脂(1)の代わりに塩化ビニル系樹脂(2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0066】
(実施例5〜6)
可塑剤として下記表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0067】
(実施例7)
リン酸エステルとして下記表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0068】
(実施例8)
リン酸エステルとして下記表1に示すものを用い、可塑剤の配合量を下記表1に示す通りにした以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0069】
(実施例9)
塩化ビニル系樹脂(1)の代わりに塩化ビニル系樹脂(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0070】
(実施例10)
リン酸エステルとして下記表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0071】
(比較例1〜2)
リン酸エステルの配合量を下記表2に示す通りにした以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0072】
(比較例3〜4)
リン酸エステルとして下記表2に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0073】
(比較例5〜7)
可塑剤の配合量を下記表2に示す通りにし、リン酸エステルの代わりに1,2−ヒドロキシステアリン酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0074】
(比較例8〜9)
可塑剤の配合量を下記表2に示す通りにした以外は、実施例8と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0075】
(比較例10)
塩化ビニル系樹脂(1)の代わりに塩化ビニル系樹脂(4)を用いた以外は、実施例8と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を作製したが、パウダー化することができなかった。
【0076】
(比較例11)
可塑剤の配合量を下記表2に示す通りにした以外は、実施例8と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0077】
(比較例12)
リン酸エステルとして下記表2に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を作製した。
【0078】
実施例及び比較例において、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径及びパウダー収率を下記のように測定した。また、実施例及び比較例において、塩化ビニル系樹脂成形体の脱型応力、臭気、熱老化後の引張伸び、及びウレタン接着性を下記のように測定・評価した。これらの結果を下記表1及び2に示した。
【0079】
(パウダー収率)
粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物のパウダー収率は、メッシュサイズ42(355μm)のメッシュを有する篩を用いて粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物を通過させ、粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の篩を通過する前の質量(Wa)及び通過した後の質量(Wb)を測定し、下記式で算出した。
パウダー収率(%)=Wb/Wa×100
【0080】
(平均粒子径)
粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物の平均粒子径は、JIS K 7369:2009に準じて測定した。
【0081】
(脱型応力)
実施例及び比較例において、PVCシートを金型から剥がす際、金型を台秤の上に縦面が下になるように設置し、PVCシートを0.25秒/cmの速度で上から下に20cmの距離を剥離した時の最大荷重を測定して脱型応力とした。脱型応力が1.3kg以下をスラッシュ金型からの型離れが容易であると判断した。
【0082】
(臭気の評価)
PVCシートを10cm×15cmに切断し、容量500mLの広口試薬びん(ガラス製・スリ合せ蓋付)に円柱状に丸めて投入した上、蓋をして100℃のオーブン中で30分間加熱した後、試薬びん中の臭気を、男女各3名(非喫煙者で臭気に敏感な者から構成)による官能試験で評価した。臭気の程度は下記の基準で測定し、評価者の採点の算術平均値(小数点第1位で四捨五入)を評価結果の値とした。3以上を合格とした。
5:刺激臭なし
4:微かな刺激臭
3:弱い刺激臭
2:刺激臭
1:強い刺激臭
【0083】
(ウレタン接着性)
ウレタン接着性評価は積層体の製造後、室温で12時間以上経過した後、PVCシートを発泡ポリウレタン層から剥離した際、PVCシートに接着した発泡ポリウレタン層が完全に材料破壊したものをウレタン接着性が良好とし、一部でも界面剥離が見られれば、ウレタン接着性が不良と判断した。
【0084】
(熱老化後の引張伸び)
積層体をオーブンに入れ、125℃で200時間加熱することにより、当該積層体を熱老化させた。その後、積層体からPVCシートを剥がした。そして、剥がされたPVCシートを3号ダンベル形状に打ち抜いて、3号ダンベル形状の試料を得た。次いで、得られた試料の両端を一対のチャック(チャック間距離は40mm)で保持した。そして、−10℃のチャンバー内において、試料を3分間保持した後、引張速度200mm/分にて、試料の引張伸び(熱老化後の引張伸び(%))を測定した。熱老化後引張伸びが140%以上のPVCシートは合格と判断した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
上記表1の結果から分かるように、平均粒子径が50μm以上500μm以下であり、平均重合度が1350以上の塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、平均粒子径が0.01μm以上50μm未満の塩化ビニル系樹脂(B)を5質量部以上40質量部以下、可塑剤を110質量部以上150質量部以下、アルキル基の炭素数が5以上であり、かつモノアルキルリン酸エステルを必須成分とするアルキルリン酸エステルを0.1質量部以上3.0質量部以下配合した塩化ビニル系樹脂組成物を用いた実施例1〜10の塩化ビニル系樹脂成形体は、スラッシュ成形用金型からの型離れが容易であり、熱老化後の引張伸びが高くすなわち耐熱老化性が高く、発泡ポリウレタン層との接着性が高く、刺激臭も弱かった。実施例1、4、5、7及び9と、実施例6の対比から、可塑剤としてトリメリット酸系可塑剤を含む方が、熱老化後の引張伸びがより高く、耐熱老化性により優れることが分かった。実施例1及び4と、実施例9の対比から、塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度が3500以下である方が、熱老化後の引張伸びがより高く、耐熱老化性により優れることがわかった。
【0088】
一方、表2の結果から分かるように、モノアルキルリン酸エステルを含むアルキルリン酸エステルの配合量が0.1質量部未満の比較例1の場合、脱型応力が1.3kgを超えており、スラッシュ成形金型からの型離れが困難であった。モノアルキルリン酸エステルを含むアルキルリン酸エステルの配合量が3質量部を超える比較例2の場合、臭気評価が2であり、刺激臭を有していた。モノアルキルリン酸エステルを用いず、ジアルキルリン酸エステル又はトリアルキルリン酸エステルを用いた比較例3〜4の場合、脱型応力が1.3kgを超えており、スラッシュ成形用金型からの型離れが困難であるうえ、臭気評価が1であり、刺激臭が強かった。モノアルキルリン酸エステルを用いず、滑剤として1,2−ヒドロキシステアリン酸を用いた比較例5〜7の場合、発泡ポリウレタン層との接着性が悪かった。加えて、比較例6及び比較例7の場合、脱型応力が1.3kgを超えており、スラッシュ成形用金型からの型離れが困難であった。可塑剤の含有量が110質量部未満の比較例8及び9の場合も、脱型応力が1.3kgを超えており、スラッシュ成形用金型からの型離れが困難であった。平均粒子径が50μm以上500μm以下であるが、平均重合度が1350未満の塩化ビニル系樹脂を用いた比較例10の場合、パウダー化した塩化ビニル系樹脂組成物を得ることができなかった。可塑剤の配合量が150質量部を超えた比較例11では、臭気評価が1であり、刺激臭が強かった。アルキル基の炭素数が5未満のアルキルリン酸エステルを用いた比較例12の場合、臭気評価が2であり、刺激臭を有していた。
本発明は、平均粒子径が50〜500μmの塩化ビニル系樹脂(A)、平均粒子径が0.01μm以上50μm未満の塩化ビニル系樹脂(B)、可塑剤及びアルキルリン酸エステルを含み、塩化ビニル系樹脂(A)の平均重合度は1350以上であり、前記アルキルリン酸エステルは、アルキル基の炭素数が5以上であり、かつモノアルキルリン酸エステルを含み、塩化ビニル系樹脂(A)100質量部に対して、塩化ビニル系樹脂(B)の配合量は5〜40質量部、可塑剤の配合量は110〜150質量部、アルキルリン酸エステルの配合量は0.1〜3.0質量部である粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物に関する。これにより、耐熱老化性が良好であり、発泡ポリウレタン層との接着性が高く、スラッシュ成形用金型からの型離れが容易であり、かつ臭気が低減された成形体が得られる粉体成形用塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂成形体及び積層体を提供する。