特許第6514440号(P6514440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6514440インクジェット装置、インクジェット印刷方法及び印刷処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514440
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】インクジェット装置、インクジェット印刷方法及び印刷処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   B05C 9/06 20060101AFI20190425BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20190425BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20190425BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   B05C9/06
   B05D1/26 Z
   B05D1/36 Z
   B05C5/00 101
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-75216(P2014-75216)
(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公開番号】特開2015-196132(P2015-196132A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 義郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 慎平
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−146096(JP,A)
【文献】 特開2010−082562(JP,A)
【文献】 特開2007−076304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00 −21/00
B05D 1/00 − 7/26
B41J 2/01 ,
2/165− 2/20,
2/21 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを塗布するインクジェットヘッドを有し、前記インクによって前記記録媒体に構成した塗膜を乾燥する印字部と、
前記記録媒体第1層目の塗膜上に前記インクジェットヘッドを用いて多層的に塗膜を構成する際に、複数回に分けてインクの塗布と乾燥を行うように前記印字部を制御し、下層塗膜のインクの塗付量よりも少ない量のインクで、各層毎に周辺部が互いに接触しないように複数に分割してインクの塗膜を構成する制御部と、
備えるインクジェット装置。
【請求項2】
記録媒体にインクを塗布するインクジェットヘッドを有し、前記インクによって前記記録媒体に構成した塗膜を乾燥する印字部と、
前記記録媒体第1層目の塗膜上に前記インクジェットヘッドを用いて多層的に塗膜を構成する際に、複数回に分けてインクの塗布と乾燥を行うように前記印字部を制御し、各層毎に周辺部が互いに接触しない複数の位置に分割してインクの塗膜を構成する制御部と、
備えるインクジェット装置。
【請求項3】
前記第1層目の塗膜の上に多層的に塗膜を構成する際に、前記記録媒体が水平面に対して傾斜している場合、前記制御部は、前記傾斜に合わせて前記インクの塗布位置を制御し、2層目以降のインクの塗布と乾燥により構成される塗膜の厚さが均等になるようにする請求項1又は2記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1層目の塗膜を乾燥する際の乾燥温度に対して、2層目以降の塗膜の乾燥温度を下げる請求項1乃至3いずれか一に記載のインクジェット装置。
【請求項5】
記録媒体にインクジェットヘッドを用いてインクを塗布し、塗布したインクを乾燥させて第1層目の塗膜を構成し、
前記第1層目の塗膜の上に前記インクジェットヘッドを用いて多層的に塗膜を構成する際に、複数回に分けてインクの塗布と乾燥を行い、下層塗膜のインクの塗付量よりも少ない量のインクで、各層毎に周辺部が互いに接触しないように複数に分割してインクの塗膜を構成するインクジェット印刷方法。
【請求項6】
前記第1層目の塗膜を乾燥する際の乾燥温度に対して、2層目以降の塗膜の乾燥温度を下げる請求項5記載のインクジェット印刷方法。
【請求項7】
記録媒体にインクを塗布するインクジェットヘッドを有し、前記インクによって記録媒体に構成した塗膜を乾燥する印字部を制御するための印刷処理プログラムであって、コンピュータに、
前記記録媒体に前記インクジェットヘッドを用いて第1層目の塗膜を構成する第1の印刷処理機能と、
前記第1層目の塗膜の上に前記インクジェットヘッドを用いて多層的に塗膜を構成する際に、複数回に分けてインクの塗布と乾燥を行い、下層塗膜のインクの塗付量よりも少ない量のインクで、各層毎に周辺部が互いに接触しないように複数に分割してインクの塗膜を構成する第2の印刷処理機能と、
を実現させるための印刷処理プログラム。
【請求項8】
前記第2の印刷処理機能は、前記第1層目の塗膜を乾燥する際の乾燥温度に対して、2層目以降の塗膜の乾燥温度を下げる請求項7記載の印刷処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プリント基板への回路パターンの印刷や、工業製品などへの印刷を施すインクジェット装置、インクジェット印刷方法及び印刷処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板等の非吸収媒体にインクジェット装置で印刷を行う場合、インクの塗布後に乾燥させるようにしているが、乾燥工程ではインク蒸発時のコーヒーステイン現象により、インク塗布面のエッジ部にインク内固形物が多く堆積し、塗布面の中央部では少量のインク内固形物が堆積した状態となる。このため乾燥後の状態では、インクの膜厚が均一にならないという現象が発生している。
【0003】
また、インク塗布面の膜厚を厚くするためには、インク量を増やす必要があるが、インク量を増やして乾燥させるとインク塗布面のエッジ部の厚みも、中央部も厚みも更に厚くなり、乾燥時にひび割れが発生しやすくなる。また、インク量が多くなることで乾燥時間が長くなり、ガラス板等の基材上でのインク流動性が増し、基材面を水平に保たないと乾燥後の膜厚の均一化が難しくなる。このため、基材面の水平制御をより厳しくする必要がある。
【0004】
特許文献1には、インクジェットヘッドを用いて多層のプリント基板を製造する電子デバイスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−309369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする課題は、非吸収性の記録媒体にインクを塗布して乾燥させたあと、インクの塗膜がエッジ部と中央部でほぼ均一になるようにしたインクジェット装置、インクジェット印刷方法及び印刷処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るインクジェット装置は、記録媒体にインクを塗布するインクジェットヘッドを有し、前記インクによって前記記録媒体に構成した塗膜を乾燥する印字部と、前記記録媒体第1層目の塗膜上に前記インクジェットヘッドを用いて多層的に塗膜を構成する際に、複数回に分けてインクの塗布と乾燥を行うように前記印字部を制御し、下層塗膜のインクの塗付量よりも少ない量のインクで、各層毎に周辺部が互いに接触しないように複数に分割してインクの塗膜を構成する制御部と、備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るインクジェット装置の全体的な構成を示す構成図。
図2】一実施形態に係るインクジェット装置の電気制御部を示すブロック図。
図3】一実施形態におけるインクの吐出し状態を示す斜視図。
図4】一実施形態における1層目のインクの印刷処理の一例を示す説明図。
図5】一実施形態における1層目のインクの塗布・乾燥状態を示す説明図。
図6】一実施形態における2層目(第1回)のインクの塗布・乾燥状態を示す説明図。
図7】2層目(第1回)のインクの塗布・乾燥状態を示す他の説明図。
図8】一実施形態における2層目(第2回)のインクの塗布・乾燥状態を示す説明図。
図9】一実施形態における傾斜した記録媒体への印刷処理を示す説明図。
図10】一実施形態における2層目のインクの塗布の他例を示す説明図。
図11】一実施形態における2層目のインクの乾燥状態を示す説明図。
図12】一実施形態における記録媒体への印刷処理動作を示すフローチャート。
図13】一実施形態における記録媒体に印刷する画像パターンの一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明を実施するための実施形態について、図面を参照して説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付す。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、一実施形態に係るインクジェット装置の全体的な構成を示す構成図である。インクジェット装置100は、印字部10と、電気制御部30、及びパーソナルコンピュータ(PC)等の情報処理装置50で構成されている。図1では、印字装置10と、電気制御部30の一部を示している。
【0011】
図1において、印字部10は、記録媒体を設置するステージ11と、ステージ11を底板12上でX方向、Y方向に移動可能に支持するXステージ13と、Yステージ14を備えている。またインクジェットヘッド15をZ方向に移動可能に支持するZステージ16を備えている。またステージ11にはステージヒータ17を内蔵している。
【0012】
また印字部10には、電気制御部30(図2)のX駆動回路34、Y駆動回路35、Z駆動回路36が接続され、X駆動回路34、Y駆動回路35によってXステージ13、Yステージ14を制御して、ステージ11のX方向への移動及びY方向への移動を制御する。またZ駆動回路36によってZステージ16を制御して、インクジェットヘッド15のZ方向への移動を制御する。またステージ11には、ステージヒータ17と温度センサ18(図2)が組み込まれている。
【0013】
さらに、インクジェットヘッド15には、インク供給経路19からインクチューブを介してインクが供給され、画像転送回路44から画像転送ケーブルを介して印刷用の画像データが供給される。
【0014】
Xステージ13、Yステージ14、Zステージ16には、ステージ11を左右(X方向)、ステージ11を前後(Y方向)、インクジェットヘッド15を上下(Z方向)に駆動するためのモータと、電気制御部20にステージ11の現在のX座標位置とY座標位置を伝え、インクジェットヘッド15のZ座標位置を伝えるリニアスケールが組み込まれているが、図1では、モータ及びリニアスケールは図示を省略している。
【0015】
尚、図1の実施形態では、インクジェットヘッド15を上下方向へ移動し、ステージ11を前後、左右方向へ移動するように構成しているが、ステージ11を固定位置に設置し、インクジェットヘッド15を上下方向及び前後、左右方向に移動するように構成しても良い。或いは、インクジェットヘッド15を固定位置に設置し、ステージ11を前後、左右方向だけでなく上下方向へ移動するように構成しても良い。
【0016】
ステージ11の上に記録媒体を設置し、インクジェットヘッド15を下降してインクを吐出し、ステージ11を前後、左右方向へ移動することで、記録媒体に任意の画像パターンを印字することができる。印刷基板に配線パターンを印字する場合、インクは導電性のインクが用いられる。記録媒体としては、印刷基板に限らけるものではない。
【0017】
図2は、一実施形態に係るインクジェット装置の電気制御部30の要部を示すブロック図である。電気制御部30は、CPU31、ROM32、RAM33、X駆動回路34、Y駆動回路35、Z駆動回路36、X座標位置検出回路37、Y座標位置検出回路38、Z座標位置検出回路39、ステージ温度制御回路40、ステージ温度検出回路41、インタフェース(I/F)42、画像メモリ43、画像転送回路44を含む。尚、電気制御部30内の各ユニットはバスライン301を介してそれぞれ接続している。
【0018】
CPU31は、インクジェット装置100の制御部を構成し、ROM32には、CPU31が実行する印刷処理プログラムや固定データを示す情報等を記憶している。なお、ROM32に記憶される固定データには、例えば、インクジェットヘッド15からインクを塗布して記録を行うときに、記録品質を保つことができるZ方向の距離等のインクの塗布性能に関する情報や、インクジェットヘッド15の記録可能幅等のインクジェットヘッド15の特性を示す特性情報を記憶している。RAM33は、CPU31がROM32に記憶されたプログラムを実行するときに使用するワークエリア等を有している。CPU31、ROM32、RAM33は、電気制御部30の中枢を構成するコンピュータである。
【0019】
X駆動回路34は、ステージ11を左右方向に沿って移動させるためのX軸モータ21を駆動し、Y駆動回路35はステージ11を前後方向に沿って移動させるためのY軸モータ22を駆動する。またZ駆動回路36はインクジェットヘッド15を上下方向に移動させるためのZ軸モータ23を駆動する。
【0020】
X座標位置検出回路37、Y座標位置検出回路38、Z座標位置検出回路39には、それぞれX軸リニアスケール24、Y軸リニアスケール25、Z軸リニアスケール26が接続されている。
【0021】
X座標位置検出回路37は、X軸リニアスケール24から出力されるパルス信号をカウントすることによりステージ11のX座標を検出し、ステージ11をXステージ13に沿って移動させるときに左右方向の位置を検出する。Y座標位置検出回路38は、Y軸リニアスケール25から出力されるパルス信号をカウントすることによりステージ11のY座標を検出し、ステージ11をYステージ14に沿って移動させるときに前後方向の位置を検出する。Z座標位置検出回路39は、Z軸リニアスケール26から出力されるパルス信号をカウントすることによりインクジェットヘッド15のZ座標を検出し、インクジェットヘッド15をZ軸に沿って移動させるときに上下方向の位置を検出する。
【0022】
ステージ温度制御回路40は、ステージヒータ17の温度を制御する。ステージ温度検出回路41には温度センサ18が接続され、ステージ温度制御回路40は、ステージ温度検出回路41の温度検出結果をもとにステージヒータ17の温度を制御する。
【0023】
インタフェース(I/F)42は、外部の情報端末50(例えばPC)と通信を行うもので、PC50から記録媒体に記録するための画像データを受信すると、CPU31の制御のもとに、受信した画像データを画像メモリ43へ出力する。画像メモリ43は、インタフェース42が出力した画像データを一時的に保存する。そして、CPU31の制御のもとに一時的に保存した画像データを画像転送回路44へ出力する。画像転送回路44は、画像データ及びその画像データに付加された記録制御情報をインクジェットヘッド15に転送する。
【0024】
インクジェットヘッド15は、Zステージ16に沿った上下方向の移動と一体となって移動するとともに、画像転送回路44が出力した画像データ及びその画像データに付加された記録制御情報に基づいて記録媒体の記録面へインクを塗布する。このとき、ステージ11に載置された記録媒体は、ステージ11のXステージ13に沿った左右方向の移動及びYステージ14に沿った前後方向の移動と一体となって移動しながら画像を形成する。
【0025】
またCPU31は、ステージ11の温度センサ18の情報を元に温度を計算し、ステージヒータ17を制御して温度をコントロールし、記録媒体上に塗布したインクの乾燥具合を制御する。
【0026】
尚、図2のインクジェット装置は、上記以外にインクジェットヘッド15へのインク供給経路、インクジェットヘッド15のノズル面を清掃するメンテナンス装置等を含むが、これらの記載は省く。
【0027】
以下、インクジェットヘッド15による印刷処理(即ち、インクの塗布及びインクの乾燥の処理)の一例を具体的に説明する。
【0028】
インクジェット装置100は、PC50からの画像データを受け、インクジェットヘッド15からインクを吐出し、記録媒体にインクを塗布する。インクジェットヘッド15は、インクを吐き出す複数のノズルと、複数のノズルに対応して圧電素子を設け、圧電素子への駆動電圧信号を画像データに応じて制御することにより、複数のノズルから吐出すインク量やインク滴の吐出し回数を調整したり、どのノズルからインクを吐出すかを制御することができる。
【0029】
図3は、インクジェットヘッド15の複数のノズルからインクを吐出し、記録媒体60上にインク61を塗布した状態を示し、(a)はインク61の塗付量が多い例を示し、(b)はインク61の塗付量が少ない例を示している。
【0030】
図4は、複数のノズルからインクを塗布し、多列的にインクを塗布して乾燥した状態を示す。図4(a)は、記録媒体60の面が水平に保たれている状態の平面図を示し、図4(b)は、断面図を示す。また図4(c)は、記録媒体60の面が水平面に対して傾斜している状態の平面図を示し、図4(d)は断面図を示す。
【0031】
図4では、乾燥後の塗膜62の状態を示しており、乾燥工程でコーヒーステイン現象が発生し、塗膜62のエッジ部では厚くなり、中央部では薄くなり、塗膜62の厚さが不均一となることがある。コーヒーステイン現象により塗膜の厚さが厚くなった部分(以下、コーヒーリングと呼ぶ)を符号63で示す。
【0032】
また1回でインク量を多く塗布して乾燥させると、記録媒体60の水平具合の影響が大きくなり、記録媒体60が傾斜している場合は、液だまり形状が不均一となり、図4(c)、(d)のように乾燥後の膜厚62も塗布面の中で不均一となってしまう。
【0033】
図5は、記録媒体60に1層目の塗膜を形成するときのインクの状態を、1層目の塗付時(A)と、1層目の塗付直後(B)と、1層目の乾燥後(C)の3つの状態に区分して、平面図(a)と断面図(b)で示している。
【0034】
図5(A)のように、所定のインク量で複数のノズルからY方向に多列に1層目のインクを塗布すると、塗付直後では記録媒体60は非吸収媒体のために、塗布したインクは記録媒体60で広がり、図5(B)に示すように、インク同士は接触して記録媒体60に山盛りの状態となる。CPU31は、インクの塗布前あるいは塗布中、塗布終了後にステージヒータ17を制御して記録媒体60上のインクを乾燥させる。
【0035】
また乾燥時にはコーヒーステイン現象が発生して、図5(C)のように塗布直後、インクの周囲部分に固形物が集まり、中央部は固形物が少ない状態で塗布したインクが乾燥してしまい、塗膜のエッジ部分にコーヒーリング63ができ、膜厚が厚くなり、塗膜の厚さが不均一になってしまう。
【0036】
また、膜厚を厚くするためにはインク量を多くする必要があるが、1回にインク量を多く塗布して乾燥させると、さらにエッジ部分の肉厚が高い状態となり、さらに中央部も厚くなることで乾燥時に塗膜にひび割れが多く発生してしまう。
【0037】
そこで第1の実施形態では、多層的に印刷処理を行い、2層目、3層目…のインクの塗付位置と塗付量を制御することにより、塗膜の厚さが均一になるようにしたものである。以下、具体的に説明する。2層目、3層目…の印刷処理では、複数回に分けてインクの塗付と乾燥を行う。
【0038】
以下、2層目の印刷処理を2回に分けて行う場合について説明する。先ず、記録媒体60に1層目のインクを塗布して乾燥すると、図5で説明したように、塗膜62のエッジ部の厚さが厚くなりコーヒーリング63ができる。そこで2層目のインクを塗布するが、2層目のインクを塗布する際には、1層目の塗布面積に対して、図3(b)のようにノズル当たりの塗布量を少なくするか、或いはインクを吐出すノズルの数を限定して1回目、2回目に分けて塗布を行う。2層目のインクの塗布量を少なくする理由は、塗布後の液だまりの大きさを小さくし、液だまり同士の接触頻度を減らすためである。
【0039】
具体的に説明する。図6は、記録媒体60に2層目(第1回)の塗膜を形成するときのインクの状態を、2層目の塗付時(A)と、2層目の塗付直後(B)と、2層目の乾燥後(C)の3つの状態に区分して、平面図(a)と断面図(b)で示している。図6(A)で示すように、2層目の第1回のインク61の塗布は、塗膜62の中央部に間隔をあけてY方向に塗布する。インク61は記録媒体60上で広がり、図6(B)に示すように、インク同士は接触して記録媒体60に山盛りの液だまり64を形成するが、液だまり64同士は接触しない。2層目(第1回)の塗膜を乾燥すると、図6(C)のように、液だまり64の部分のエッジにコーヒーリング65が形成される。
【0040】
尚、2層目のインクの塗布量を少なくする方法としては、多くの(例えば3つの)ノズルから少ない量のインクを吐出すか、インクを吐出すノズルの数を減らして(例えば2つに減らして)1層目と同じ量のインクを吐出すようにすればよい。
【0041】
図7は、記録媒体60に2層目(第1回)の塗膜を形成するときにインクの液だまり同士が接触した状態を、2層目の塗付時(A)と、2層目の塗付直後(B)と、2層目の乾燥後(C)の3つの状態に区分して、平面図(a)と断面図(b)で示している。
【0042】
もし2層目に塗付したインクの間隔が狭く、図7(A)に示すように、インク61同士が接触すると、図7(B)に示すように大きな液だまり66となる。このため、2層目の塗布位置と塗膜の厚さが設定したものと異なり、図7(C)のように、大きなコーヒーリング67が形成され、塗膜の厚さが不均一となる。
【0043】
一方、図6のように、2層目の第1回目の印刷処理を行った後、さらに厚膜化や膜厚の均一化を行う場合には、2回目の塗付を行う。
【0044】
図8は、記録媒体60に2層目(第2回)の印刷処理行うときのインクの状態を、2回目の塗付時(A)と、2回目の塗付直後(B)と、2回目の乾燥後(C)の3つの状態に区分して、平面図(a)と断面図(b)で示している。図8(A)で示すように、2層目の2回目のインク塗布は、1回目に塗付した塗膜の間にY方向に塗布する。インクは記録媒体60で広がり、図8(B)に示すように、インク同士は接触して記録媒体60に山盛りの液だまり68を形成するが、液だまり68同士は接触しない。図8(B)の塗膜を乾燥すると、図8(C)のように、液だまり68のエッジ部には形の揃ったコーヒーリング69が形成される。
【0045】
上述したように、多層的にインクを塗布・乾燥し、かつ各層でインクの塗布位置を変え、塗付量を減らして塗付することにより、塗膜の厚さを均一にすることができる。
【0046】
図9は、水平制御が困難な記録媒体60に多層の塗膜を形成するときのインクの状態を、1層目の乾燥後(A)と、2層目(第1回)の乾燥後(B)と、2層目(第2回)の乾燥後(C)の3つの状態に区分して、平面図(a)と断面図(b)で示している。
【0047】
図9のように傾いた記録媒体60にインクを塗布した場合、図9(A)に示すように液だまりが傾き、乾燥後は図の右側が厚くなった状態で乾燥してしまう。1層目のインクの乾燥後に、1層目の塗布時より少ないインク量で2層目(第1回)をインクの液だまり64同士が接触しないように塗布して乾燥すると、図7(B)のように厚膜化と膜厚の均一化が図れる。
【0048】
さらに、2層目の2回目のインクを塗布する場合は、記録媒体60の傾斜を考慮して、図7(C)に示すように、記録媒体60の高さが高い側(図では左側)にあるインクの液だまり64間のみに2回目のインク68を塗布し、乾燥を行う。したがって図7(C)に示すように、記録媒体60の高さが高い側の塗膜の厚さが増加することになる。記録媒体60の高さが低い側(図の右側)は、記録媒体の傾斜により、図4(d)でも示すように元々塗膜が厚くなっているため、全体的に厚さが均一化される。
【0049】
上述したように、2層目のインクを塗布する際、一度に多量のインクを塗布・乾燥させるよりもインク量を減らして複数回に分けて印刷処理を施すことにより、インク流動性を抑えかつ乾燥時間も短縮できるため、膜厚の厚さは、一度に多量のインクを塗布・乾燥させる場合より均一化することができる。
【0050】
図10は、2層目のインクを塗布する際の変形例を示している。図10(a)は、2層目(第1回)のインク70を塗布する際に、個々のインクが接触しないように互いに離れた位置に塗付する。また2層目(第2回)のインク71を塗布する際は、図10(b)に示すように、第1回目のインク70の間を埋めるように塗布する。
【0051】
また図10(c)では、2層目(第1回)のインク73を1層目の塗膜62の中央部に間隔をあけてX方向に塗布した例である。図10(d)は、図10(c)の2層目のインク73を塗布した直後の状態を示しており、横方向にインクの液だまり74が形成される。この例でも、横方向のインクの液だまり74は互いに接触しない形態で塗布、乾燥される。また図10(d)において、第2回目のインクを塗布する際には、液だまり74のインクの間に塗付することになる。
【0052】
図11は、2層目のインクの塗付量を説明する図である。図11(a)は2層目のインク64を塗膜62の中央部に間隔をあけて塗布した状態を示している。2層目以降のインクの塗布は、1層目よりもインク量が少ないため、1層目と同じ乾燥条件では直ぐにインクが乾燥してしまい、図11(b)に示すように、コーヒーステイン現象により2層目の塗膜のエッジ部に生じるコーヒーリング75の高さが高くなってしまう。そこでCPU31は、2層目のインクの乾燥温度を低くして乾燥時間を長くするように制御する。これにより、図11(c)に示すように、相対的にコーヒーリング76の高さを低くすることができる。
【0053】
尚、以上の説明では、第1層、第2層目の印刷処理について説明したが第3層目、第4層目等の印刷処理を行い、第1層の塗膜の上に多層的に上層塗膜を形成する場合も、2層目と同様にインクの塗付と乾燥が行われる。また第2層目の印刷処理では、1回目と2回目に分けてインクの塗付と乾燥を行う例を説明したが、3回等に分けて印刷してもよい。この場合は、前回塗付したインクの塗膜の隙間を埋めるように塗布することが肝要である。また第2層目の印刷処理において、1回目の印刷処理だけで比較的均一な厚さの塗膜が得られる場合は、2回目の印刷処理を省くこともできる。
【0054】
図12は、記録媒体への印刷処理の動作を説明するフローチャートであり、図13は、記録媒体に印刷する画像パターンを示す。図12のフローチャートを図13の画像パターンと関連づけて説明する。
【0055】
先ず図12の動作A1の準備段階において、作業者はPC50を用いて、記録媒体60にインクを塗布・乾燥したときの完成状態の線幅や線高さが入った画像データを作成し、画像データに含まれる各画素をインク滴の吐出量等に変換したデータに変換する。このとき、最低印字層数:m=1と定義する。図13(A)は、画像パターンの一例を示す断面図である。線幅をLa,Lb,Lcとし、La,Lb,Lcの線高さをTa,Tb,Tcとしている。
【0056】
動作A2では、画像データを複数の層にスライスして分離する。ここでは、全層数をnとする。図13(B)で示すように、画像パターン(A)を所定の厚みT1でスライスして第1層目の画像パターンを作成する。残った上面の画像パターンも同様にスライスする。ただし2層目以降の厚みT2は、1層目よりも薄くする(T1>T2)。図13(C)は、層数n=4とし、1層目から4層目までの分離した画像パターンを作成する。図13(C)では、分離した画像パターンに対応する画像データを示している。
【0057】
動作A3では、2層目から4層目までの各層の画像パターンを構成する画像データの周囲をカットする。カットする幅は上層に行くほど多くなる。即ち、図13(D)に示すように、インクを多層印刷すると、インクを塗布・乾燥したときに下層のエッジにコーヒーリング81が生じるためであり、上層の画像データは、このコーヒーリング81の幅の分だけ周辺部をカットする。
【0058】
コーヒーリング81は、コーヒーステイン現象により塗膜のエッジ部が盛り上がってできる。したがってカットするエッジ幅は、下層のコーヒーリング81の発生具合から予め計算しておく。図13(E)は、周辺部をカットしたカット画像データを示す。1層目から4層目にかけて上層の画像データほど、カット量が多くなっている。動作A4では、各層のカット画像データを作成する。
【0059】
動作A5では、2層目以降、複数回インクを塗布して印字する際に、隣接するインク同士が接触しないように2層目以上のカット画像データを分割する。図13(F)は、2層目のカット画像データを分割画像データ1と分割画像データ2に2分割した例を示す。
【0060】
以上、動作A1〜動作A5はPC50の動作であり、PC50は、作業者に画像データが完成したことを通知する。以下に2層目のインクを2回に分けて印刷処理する際の動作を説明する。
【0061】
動作A6で作業者は、印字、乾燥作業を行うための装置設定や基材準備を行い、動作A7でPC50を操作して印字作業を開始する。PC50は電気制御部30に第1層目の画像データを送信し、電気制御部30のCPU31は、PC50から送られた画像データを印字用データに変換する。具体的には各画像データに対応して印字位置毎にどのノズルからどの量のインクを吐出するかを計算する。またCPU31は、ステージ温度制御回路24を制御し、ステージ温度センサ18からの温度検出値を確認しながらステージヒータ17の温度及び乾燥時間を適正に設定する。
【0062】
動作A8で電気制御部30は、CPU31の制御のもとに、X軸リニアスケール24、Y軸リニアスケール25、Z軸リニアスケール26の値を確認しながらX軸モータ21、Y軸モータ22、Z軸モータ23を制御し、インクジェットヘッド15にノズル毎のインク吐出量を出力し、記録媒体60の所定の位置に所定のインク量を吐出して1層目の印刷を行い、かつ記録媒体60の乾燥を行う。
【0063】
動作A9で電気制御部30は、CPU31の制御のもとに、第1層目のインクの塗付と乾燥を終了するとPC50に第1層目の印刷処理が終了したことを通知する。
【0064】
動作A10では、PC50は、全部の層の印刷処理を完了したか否かを判断する。本例では全層数n=4なので、m=nとはならず印刷処理は終了していないので、動作A10の判断がNOとなり、動作A11に移行し上層(第2層目)の印刷処理に移行する。2層目の印刷処理ではm=1+1=2と再定義する。
【0065】
動作A11では、CPU31は、PC50から引き続いて第2層目のカット画像データに対応する分割画像データ1を受信し、2層目の第1回の印刷処理(インクの塗付と乾燥)を行う。
【0066】
次に動作A12では、CPU31は、PC50から引き続いて第2層目のカット画像データに対応する分割画像データ2を受信し、2層目の第2回の印刷処理(インクの塗付と乾燥)を行う。動作A12のあとは動作A10の動作にもどり、PC50は、全部の層の印刷処理(インクの塗付と乾燥)を終了したかを判断する。本例では全層数n=4なのでm=nとはならず、印刷処理は終了していない。したがって、3層目の印刷処理となるのでm=2+1=3と再定義し、動作A11、動作A12で再び上層(第3層目)の印刷処理に移行する。こうして、m=4になるまで動作A10からA12の動作を繰り返し、第4層目の印刷処理を完了すると、動作A10の判断はYESとなって動作A13に進む。
【0067】
動作A13では、印刷処理を終了した記録媒体をインクジェット装置から取り外し、終了となる。
【0068】
以上説明した実施形態によれば、2層目のインクの塗布後の液だまり同士が接触しないインク量(又はインク塗付位置)でインクを塗布することで、記録媒体にほぼ均一な厚みの印刷を行うことができる。また塗膜の厚みを増すために、複数回に分けて塗布・乾燥させることで、塗膜のエッジや中央部のひび割れが低減される。また記録媒体が傾いている場合でも塗膜の厚さを均一化することができる。
【0069】
尚、本発明のいくつかの実施形態を述べたが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
100…インクジェット装置
10…印字部
11…ステージ
15…インクジェットヘッド
17…ステージヒータ
30…電気制御部
31…CPU
32…ROM
33…RAM
34…X駆動回路
35…Y駆動回路
36…Z駆動回路
40…ステージ温度制御回路
図1
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