【文献】
佐藤勇一、長嶺拓夫、山田幸良,遠心力利用強制渦方式分級機の分級メカニズムに関する基礎的研究(第3報),粉体工学会誌,日本,粉体工学会,1990年,Vol.27 No.4,225−230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.軟磁性樹脂組成物
本発明の軟磁性樹脂組成物は、扁平状の軟磁性粒子および樹脂成分を含有する。
【0016】
軟磁性粒子の軟磁性材料としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−A1合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si―B(−Cu−Nb)合金、Fe−Si−Cr−Ni合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金、フェライトなどが挙げられる。
【0017】
これらの中でも、好ましくは、センダスト(Fe−Si−Al合金)が挙げられる。より好ましくは、Si含有割合が9〜15質量%であるFe−Si−Al合金が挙げられる。これにより、軟磁性フィルムの透磁率を良好にすることができる。
【0018】
軟磁性粒子は、扁平状(板状)に形成されている、すなわち、厚みが薄くて面が広い形状に形成されている。軟磁性粒子の扁平率(扁平度)は、例えば、8以上、好ましくは、15以上であり、また、例えば、80以下、好ましくは、65以下である。扁平率は、例えば、軟磁性粒子の粒子径D
50(後述)を軟磁性粒子の平均厚さで除したアスペクト比として算出される。
【0019】
軟磁性粒子の平均粒子径D
50は、例えば、30μm以上、好ましくは、50μm以上、より好ましくは、60μm以上、さらに好ましくは、70μm以上であり、また、例えば、200μm以下、好ましくは、100μm以下、より好ましくは、80μm以下である。これにより、磁性フィルムにおける軟磁性粒子の高充填率、軟磁性フィルムの薄膜化をより一層良好にすることができる。
【0020】
平均粒子径D
50は、例えば、レーザー回折式の粒度分布測定器(Sympatec社製、HELOS&RODOS)によって測定される。
【0021】
軟磁性粒子のタップ密度は、1.1g/cm
3以下であり、好ましくは、1.0g/cm
3以下、より好ましくは、0.9g/cm
3以下、さらに好ましくは、0.7g/cm
3以下、最も好ましくは、0.6g/cm
3以下である。タップ密度が上記範囲内とすることにより、扁平状軟磁性粒子を高い充填率で軟磁性フィルムに含有させることができる。
【0022】
また、タップ密度の下限は、例えば、0.5g/cm
3以上である。
【0023】
タップ密度は、タップ密度法流動性付着力測定器(「タップデンサーKYT−4000」、セイシン企業社製)により測定することができる。
【0024】
軟磁性粒子の真密度は、例えば、5.0g/cm
3以上、好ましくは、6.0g/cm
3以上であり、また、例えば、8.0g/cm
3以下、好ましくは、7.0g/cm
3以下である。
【0025】
この軟磁性粒子は、公知または市販の軟磁性粒子を、例えば、乾式分級器などの分級器により分級することにより得ることができる。具体的には、乾式分級器の回転羽根を用いて軟磁性粒子に対して送風し、タップ密度が大きい軟磁性粒子(例えば、扁平率および粒子径が大きい粒子)を排除し、タップ密度が小さい軟磁性粒子を採取することにより、得ることができる。
【0026】
回転羽根の回転速度は、例えば、1000rpm以上、好ましくは、1100rpm以上であり、また、例えば、3000rpm以下、好ましくは、2500rpm以下、より好ましくは、2300rpm以下、さらに好ましくは、2000rpm以下である。
【0027】
風量は、例えば、1.0m
3/min以上、好ましくは、1.2m
3/min以上であり、また、例えば、1.5m
3/min以下、好ましくは、1.4m
3/min以下である。
【0028】
軟磁性樹脂組成物における軟磁性粒子の体積含有割合(溶媒を除く固形分(すなわち、軟磁性粒子、樹脂成分、ならびに、必要に応じて含有される熱硬化触媒およびその他の添加剤)における割合)は、例えば、55体積%以上、好ましくは、58体積%以上、さらに好ましくは、60体積%以上であり、例えば、95体積%以下、好ましくは、90体積%以下である。また、質量含有割合は、例えば、50質量%以上、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、85質量%以上であり、また、例えば、98質量%以下、好ましくは、95質量%以下でもある。上記上限以下の範囲とすることにより、軟磁性樹脂組成物のフィルムへの成膜性が優れる。一方、上記下限以上の範囲とすることにより、軟磁性フィルムの磁気特性が優れる。
【0029】
樹脂成分としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれを含有してもよいが、好ましくは、熱硬化性樹脂を含有する。
【0030】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。好ましくは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が挙げられ、より好ましくは、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の併用が挙げられる。
【0031】
エポキシ樹脂は、例えば、接着剤組成物として用いられるものが使用でき、ビスフェノール型エポキシ樹脂(特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂など)、フェノール型エポキシ樹脂(特に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオンレン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、例えば、ヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂なども挙げられる。これらは単独で使用または2種以上を併用することができる。
【0032】
これらのエポキシ樹脂のうち、好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、より好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂を含有させることにより、フェノール樹脂との反応性が優れ、その結果、軟磁性フィルムの耐熱性が優れる。また、軟磁性フィルム内の空隙を低減させ、軟磁性粒子の高充填化も図ることができる。
【0033】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂、例えば、レゾール型フェノール樹脂、例えば、ポリパラオキシスチレンなどのポリオキシスチレンが挙げられる。これらは単独で使用または2種以上を併用することができる。
【0034】
これらのフェノール樹脂のうち、好ましくは、ノボラック型樹脂、より好ましくは、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、さらに好ましくは、フェノールアラルキル樹脂が挙げられる。これらのフェノール樹脂を含有することにより、軟磁性フィルムを回路基板に積層させてなる軟磁性フィルム積層回路基板の接続信頼性を向上させることができる。
【0035】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が1g/eq以上100g/eq未満である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、15質量部以上、好ましくは、30質量部以上であり、また、例えば、70質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下でもある。
【0036】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が100g/eq以上200g/eq未満である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下でもある。
【0037】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が200g/eq以上1000g/eq以下である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、15質量部以上、好ましくは、35質量部以上であり、また、例えば、70質量部以下でもある。
【0038】
なお、エポキシ樹脂が2種併用される場合のエポキシ当量は、各エポキシ樹脂のエポキシ当量に、エポキシ樹脂の総量に対する各エポキシ樹脂の質量割合を乗じて、それらを合算した全エポキシ樹脂のエポキシ当量である。
【0039】
また、フェノール樹脂中の水酸基当量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量当たり、例えば、0.2当量以上、好ましくは、0.5当量以上であり、また、例えば、2.0当量以下、好ましくは、1.2当量以下でもある。水酸基の量が上記範囲内であると、半硬化状態における軟磁性フィルムの硬化反応が良好となり、また、劣化を抑制することができる。
【0040】
樹脂成分中の熱硬化性樹脂の含有割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上であり、また、例えば、90質量部以下、好ましくは、80質量部以下、より好ましくは、60質量部以下である。
【0041】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂に加えて、好ましくは、アクリル樹脂を含有する。より好ましくは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を併用する。樹脂成分が、これらの樹脂を含有することにより、半硬化状態の軟磁性フィルムを複数積層させ、熱プレスすることにより、一枚の硬化状態の軟磁性フィルムを製造する際に、積層界面にむらがない均一な、高充填化された軟磁性フィルムを得ることができる。
【0042】
アクリル樹脂としては、例えば、直鎖もしくは分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマー成分とし、そのモノマー成分を重合することにより得られるアクリル系重合体などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を表す。
【0043】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ドデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0044】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0045】
その他のモノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などカルボキシル基含有モノマー、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルまたは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなど燐酸基含有モノマー、例えば、スチレンモノマー、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0046】
これらの中でも、好ましくは、グリシジル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーまたはヒドロキシル基含有モノマーが挙げられる。アクリル樹脂が(メタ)アクリル酸アルキルエステルとこれらのその他のモノマーとの共重合体である場合、すなわち、アクリル樹脂がグリシジル基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を有する場合、軟磁性フィルムの耐熱性が優れる。
【0047】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体である場合、その他のモノマーの配合割合(質量)は、共重合体に対して、好ましくは、40質量%以下である。
【0048】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば、1×10
5以上、好ましくは、3×10
5以上であり、また、例えば、1×10
6以下でもある。この範囲とすることにより、軟磁性フィルムの接着性、耐熱性が優れる。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトフラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算値により測定される。
【0049】
アクリル樹脂のガラス転移点(Tg)は、例えば、−30℃以上、好ましくは、−20℃以上であり、また、例えば、30℃以下、好ましくは、15℃以下でもある。上記下限以上であると、半硬化状態の軟磁性フィルムの接着性が優れる。一方、上記上限以下であると、軟磁性フィルムの取扱い性が優れる。なお、ガラス転移点は、動的粘弾性測定装置(DMA、周波数1Hz、昇温速度10℃/min)を用いて測定される損失正接(tanδ)の極大値により得られる。
【0050】
樹脂成分がアクリル樹脂を含有する場合、アクリル樹脂の含有割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、40質量部以上であり、また、例えば、80質量部以下、好ましくは、70質量部以下でもある。この範囲とすることにより、軟磁性樹脂組成物の成膜性および半硬化状態の軟磁性フィルムの接着性が優れる。
【0051】
軟磁性樹脂組成物における樹脂成分の含有割合は、例えば、2質量%以上、好ましくは、5質量%以上であり、また、例えば、50質量%以下、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、15質量%以下でもある。上記範囲とすることにより、軟磁性樹脂組成物の成膜性が優れる。
【0052】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂およびアクリル樹脂以外のその他の樹脂を含有することもできる。このようなその他の樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用または2種以上を併用することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂(6−ナイロン、6,6−ナイロンなど)、フェノキシ樹脂、飽和ポリエステル樹脂(PET、PBTなど)、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0054】
軟磁性樹脂組成物(ひいては、軟磁性フィルム)は、好ましくは、熱硬化触媒を含有する。
【0055】
熱硬化触媒としては、加熱により熱硬化性樹脂の硬化を促進する触媒であれば限定的でなく、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルフォスフィン系化合物、トリフェニルボラン系化合物、アミノ基含有化合物などが挙げられる。好ましくは、イミダゾール系化合物が挙げられる。
【0056】
イミダゾール系化合物としては、例えば、2−フェニルイミダゾール(商品名;2PZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(商品名;2E4MZ)、2−メチルイミダゾール (商品名;2MZ)、2−ウンデシルイミダゾール(商品名;C11Z)、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(商品名;2−PHZ)、2−フェニル−1H−イミダゾール4,5−ジメタノール(商品名;2PHZ−PW)、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル(1)’)エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物(商品名;2MAOK−PW)などが挙げられる(上記商品名は、いずれも四国化成社製)。
【0057】
熱硬化触媒の形状は、例えば、球状、楕円体状などが挙げられる。
【0058】
熱硬化触媒は、単独で使用または2種以上を併用することができる。
【0059】
熱硬化触媒の配合割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上であり、また、例えば、5質量部以下、好ましくは、2質量部以下でもある。熱硬化触媒の配合割合が上記上限以下であると、軟磁性樹脂組成物における室温下での長期保存性を良好にすることができる。一方、熱硬化触媒の配合割合が下限以上であると、半硬化状態の軟磁性フィルムを低温度かつ短時間で加熱硬化させ、効率よく、硬化状態の軟磁性フィルムを製造することができる。
【0060】
軟磁性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、その他の添加剤を含有することもできる。添加剤としては、例えば、架橋剤、無機充填材などの市販または公知のものが挙げられる。
【0061】
軟磁性樹脂組成物は、上記成分を上記配合割合で混合することにより調製される。
【0062】
2.軟磁性フィルム
本発明の軟磁性フィルムは、軟磁性樹脂組成物からシート状に形成される。
【0063】
軟磁性フィルムは、例えば、軟磁性樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させることにより、軟磁性樹脂組成物溶液を調製する調製工程、離型基材の表面に塗布し、乾燥させることにより、半硬化状態の軟磁性フィルムを得る乾燥工程、および、半硬化状態の軟磁性フィルムを複数枚積層し、熱プレスする熱プレス工程により、製造することができる。
【0064】
まず、軟磁性樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させる(調製工程)。これにより、軟磁性樹脂組成物溶液を調製する。
【0065】
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などケトン類、例えば、酢酸エチルなどのエステル類、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類などの有機溶媒などが挙げられる。また、溶媒として、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコールなどの水系溶媒も挙げられる。
【0066】
軟磁性樹脂組成物溶液における固形分量は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、また、例えば、50質量%以下、好ましくは、20質量%以下でもある。
【0067】
これにより、軟磁性樹脂組成物溶液が調製される。
【0068】
次いで、軟磁性樹脂組成物溶液を、離型基材の表面に塗布し、乾燥させる(乾燥工程)。
【0069】
離型基材としては、例えば、セパレータ、コア材などが挙げられる。
【0070】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、紙などが挙げられる。これらは、その表面に、例えば、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤、シリコーン系剥離剤などにより離型処理されている。
【0071】
コア材としては、例えば、プラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルムなど)、金属フィルム(例えば、アルミウム箔など)、例えば、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維などで強化された樹脂基板、シリコン基板、ガラス基板などが挙げられる。
【0072】
セパレータまたはコア材の平均厚みは、例えば、1μm以上500μm以下である。
【0073】
塗布方法としては特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工などが挙げられる。
【0074】
乾燥条件としては、乾燥温度は、例えば、70℃以上160℃以下であり、乾燥時間は、例えば、1分以上5分以下である。
【0075】
これにより、半硬化状態の軟磁性フィルムを得る。
【0076】
この軟磁性フィルムは、室温(具体的には、25℃)において半硬化状態(Bステージ状態)であり、良好な接着性を備える軟磁性接着フィルムである。
【0077】
軟磁性フィルム(半硬化状態)の平均膜厚は、例えば、500μm以下、好ましくは、300μm以下、より好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、150μm以下、最も好ましくは、100μm以下であり、また、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上である。
【0078】
次いで、得られた半硬化状態の軟磁性フィルムを複数枚用意し、複数枚の軟磁性フィルムを熱プレスにより、厚み方向に熱プレスする(熱プレス工程)。これにより、半硬化状態の軟磁性フィルム(ひいては、軟磁性組成物)が加熱硬化される。
【0079】
熱プレスは、公知のプレス機を用いて実施することができ、例えば、平行平板プレス機などが挙げられる。
【0080】
軟磁性フィルム(半硬化状態)の積層枚数は、例えば、2層以上であり、また、例えば、20層以下、好ましくは、5層以下である。これにより、所望の膜厚の軟磁性フィルムに調整することができる。
【0081】
加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、175℃以下でもある。
【0082】
加熱時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.2時間以上であり、また、例えば、24時間以下、好ましくは、3時間以下、より好ましくは、2時間以下でもある。
【0083】
圧力は、例えば、10MPa以上、好ましくは、20MPa以上であり、また、例えば、500MPa以下、好ましくは、200MPa以下である。これによって、軟磁性フィルムにおける軟磁性粒子の高充填率、軟磁性フィルムの薄膜化をより一層良好にすることができる。
【0084】
これにより、半硬化状態の軟磁性フィルムが加熱硬化され、硬化状態(Cステージ状態)の軟磁性フィルムが得られる。
【0085】
この軟磁性フィルムの膜厚は、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下である。
【0086】
軟磁性フィルム中の固形分に対する、軟磁性粒子の充填率(軟磁性フィルムにおいて、固形分に対して軟磁性粒子が占める、空隙を除く体積割合)は、軟磁性フィルムに対して、例えば、55体積%以上、好ましくは、58体積%以上、さらに好ましくは、60体積%以上であり、また、例えば、95体積%以下、好ましくは、90体積%以下である。これにより、軟磁性フィルムの比透磁率が優れる。軟磁性フィルムにおける軟磁性粒子の充填率は、例えば、アルキメデス法によって測定することができる。
【0087】
また、軟磁性フィルムは、好ましくは、軟磁性フィルムに含有される軟磁性粒子が、軟磁性フィルムの2次元の面内方向に配列されている。すなわち、扁平状軟磁性粒子の長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性フィルムの面方向に沿うように配向している。このため、軟磁性フィルムは、薄膜であり、比透磁率が優れる。
【0088】
軟磁性フィルムの比透磁率は、例えば、150以上、好ましくは、180以上、より好ましくは、200以上である。
【0089】
この軟磁性フィルムは、例えば、軟磁性フィルムの単層のみからなる単層構造、コア材の片面または両面に軟磁性フィルムが積層された多層構造、軟磁性フィルムの片面または両面にセパレータが積層された多層構造などの形態とすることができる。
【0090】
また、上記の実施形態では、半硬化状態の軟磁性フィルムを複数枚積層させて熱プレスしたが、例えば、半硬化状態の軟磁性フィルム1枚(単層)に対して熱プレスを実施してもよい。
【0091】
また、上記の実施形態では、半硬化状態の軟磁性フィルムを熱プレスしたが、熱プレスを実施しなくてもよい。すなわち、軟磁性フィルムを半硬化状態のまま使用することもできる。半硬化状態の軟磁性フィルムは、その表面に接着性を備えるため、例えば、接着剤を使用せずに、回路基板に直接積層させることができる。その後、必要に応じて、加熱硬化させて、硬化状態の軟磁性フィルムとすることもできる。
【0092】
この軟磁性フィルムは、例えば、アンテナ、コイル、またはこれらが表面に形成された回路基板に積層するための軟磁性フィルム(磁性フィルム)として好適に用いることができる。より具体的には、スマートフォン、パソコン、位置検出装置などの用途に用いることができる。
【0093】
軟磁性フィルムを回路基板に積層させるためには、硬化状態の軟磁性フィルムを接着剤層を介して回路基板に固定する方法、半硬化状態の軟磁性フィルムを回路基板に直接貼着させた後、半硬化状態の軟磁性フィルムを加熱硬化させて回路基板に固定する方法などが挙げられる。
【0094】
接着剤層が不要であり電子機器を小型化できる観点からは、好ましくは、半硬化状態の軟磁性フィルムを回路基板に直接貼着させた後、軟磁性フィルムを加熱硬化させる方法が挙げられる。
【0095】
また、絶縁性の観点からは、好ましくは、硬化状態の軟磁性フィルムを接着剤層を介して回路基板に固定する方法が挙げられる。
【0096】
接着剤層は、回路基板の接着剤層として通常使用される公知のものが用いられ、例えば、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤、アクリル系接着剤などの接着剤を塗布および乾燥することにより形成される。接着剤層の厚みは、例えば、10〜100μmである。
【0097】
そして、この軟磁性樹脂組成物によれば、扁平状の軟磁性粒子および樹脂成分を含有し、軟磁性粒子のタップ密度が、1.1g/cm
3以下である。そのため、その軟磁性樹脂組成物から得られる軟磁性フィルムは、高い充填率で、扁平状の軟磁性粒子を含有することができる。
【0098】
通常、タップ密度が高い軟磁性粒子、例えば、扁平率が大きい軟磁性粒子を用いる方が、より高い充填率の軟磁性フィルムを得ることができると考えられていた。しかし、予想外にも、このタップ密度が1.1g/cm
3以下の扁平状軟磁性粒子を備える軟磁性樹脂組成物を用いて軟磁性フィルムを作製すると、軟磁性フィルム中における気泡を低減させることができることが分かった。すなわち、軟磁性樹脂組成物中における軟磁性粒子の体積含有量(仕込み充填量)と、得られる軟磁性フィルム中における軟磁性粒子の体積含有量との差(乖離)を小さくできる。そして、得られる軟磁性フィルムは、高い充填率で軟磁性粒子を含有することができる。
【0099】
これは、タップ密度が所定の小さい軟磁性粒子を用いることにより、単位重量当たりの軟磁性粒子の数を小さくなるため、軟磁性フィルム作製時において、軟磁性フィルム内における気泡の排出パスを単純化および確保でき、プレス成形時などで気泡をより確実に排出できるためと推察される。
【0100】
また、この軟磁性フィルムは、高い充填率で軟磁性粒子を含有するため、比透磁率が良好となる。さらには、扁平状の軟磁性粒子が、軟磁性フィルムの2次元の面内方向に配列されているため、軟磁性フィルムの薄膜化を図ることができる。
【0101】
また、この軟磁性フィルムでは、軟磁性粒子への表面処理を必要とせずに、比透磁率を良好とすることができる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何らそれらに限定されない。以下に示す実施例の数値は、上記の実施形態において記載される数値(すなわち、上限値または下限値)に代替することができる。
【0103】
実施例1
(軟磁性粒子)
扁平状の軟磁性粒子としてセンダスト(Fe−Si−Al合金、商品名「SP−7」、扁平状、真比重6.8g/cm
3、メイト社製)を用いた。乾式分級器(日清エンジニアリング社製、ターボクラシファイアTC−15NS)を用いて、回転羽根の回転速度2090rpm、風量1.3m
3/minの条件で、この軟磁性粒子に送風することにより、タップ密度1.0g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0104】
なお、この軟磁性粒子のタップ密度は、タップ密度法流動性付着力測定器(「タップデンサーKYT−4000」、セイシン企業社製)を用いて求めた。
【0105】
次いで、この軟磁性粒子の平均粒子径D
50の測定を、レーザー回折式の粒度分布測定器(Sympatec社製、HELOS&RODOS)によって実施した。この結果を表1に示す。
【0106】
(軟磁性フィルム)
次いで、軟磁性樹脂組成物(仕込み充填量)における軟磁性粒子の含有割合(仕込み充填量:固形分)が65体積%となるように、上記で得た軟磁性粒子1150質量部(92質量%)、アクリル酸エステル系ポリマー50質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(1)20質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(2)12質量部、フェノールアラルキル樹脂18質量部、および、熱硬化触媒0.5質量部を混合することにより、軟磁性樹脂組成物を得た。
【0107】
この軟磁性樹脂組成物をメチルエチルケトンに溶解させることにより、固形分濃度12質量%の軟磁性樹脂組成物溶液を調製した。
【0108】
この軟磁性樹脂組成物溶液を、シリコーン離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータ(平均厚みが50μm)上にアプリケータを用いて塗布し、その後、130℃で2分間乾燥させた。
【0109】
これにより、セパレータが積層された半硬化状態の軟磁性フィルム(軟磁性フィルムのみの平均厚み、35μm)を製造した。
【0110】
この軟磁性フィルム(半硬化状態)を2枚製造し、これらの軟磁性フィルム(セパレータは除く)を積層した。この2枚の積層された軟磁性フィルムを100MPa、175℃、30分間条件で熱プレスすることにより、厚み60μmの軟磁性フィルム(硬化状態)を製造した。
【0111】
実施例2
乾式分級器において、回転羽根の回転速度1650rpm、風量1.5m
3/minの条件に変更した以外は実施例1と同様に分級して、タップ密度0.9g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0112】
この軟磁性粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。この結果を表1に示す。
【0113】
実施例3
乾式分級器において、回転羽根の回転速度1140rpm、風量1.3m
3/minの条件に変更した以外は実施例1と同様に分級して、タップ密度0.7g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0114】
この軟磁性粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。この結果を表1に示す。
【0115】
実施例4
実施例1において、軟磁性樹脂組成物(仕込み充填量)における軟磁性粒子の含有割合(仕込み充填量:固形分)が55体積%となるように、軟磁性粒子の配合割合を、850質量部(88質量%)とした以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。
【0116】
実施例5
実施例3において、軟磁性樹脂組成物(仕込み充填量)における軟磁性粒子の含有割合(仕込み充填量:固形分)が58体積%となるように、軟磁性粒子の配合割合を、960質量部(90質量%)とした以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。
【0117】
実施例6
扁平状の軟磁性粒子としてセンダスト(Fe−Si−Al合金、商品名「FME3DH」、扁平状、真比重6.8g/cm
3、山陽特殊製鋼社製)を用い、乾式分級器において、回転羽根の回転速度2900rpm、風量1.4m
3/minの条件に変更した以外は実施例1と同様に分級して、タップ密度0.8g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0118】
この軟磁性粒子を用いて、軟磁性樹脂組成物(仕込み充填量)における軟磁性粒子の含有割合(仕込み充填量:固形分)が58体積%となるように、軟磁性粒子の配合割合を、960質量部(90質量%)とした以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。
【0119】
実施例7
乾式分級器において、回転羽根の回転速度2750rpm、風量1.3m
3/minの条件に変更した以外は実施例6と同様に分級して、タップ密度0.6g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0120】
この軟磁性粒子を用いた以外は実施例6と同様にして軟磁性フィルムを製造した。
【0121】
比較例1
乾式分級器において、回転羽根の回転速度1000rpm、風量1.3m
3/minの条件に変更した以外は実施例1と同様に分級して、タップ密度1.3g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0122】
この軟磁性粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。この結果を表1に示す。
【0123】
比較例2
乾式分級器において、回転羽根の回転速度800rpm、風量1.3m
3/minの条件に変更した以外は実施例1と同様に分級して、タップ密度1.7g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0124】
この軟磁性粒子を用いて、軟磁性樹脂組成物(仕込み充填量)における軟磁性粒子の含有割合(仕込み充填量:固形分)が55体積%となるように、軟磁性粒子の配合割合を、850質量部(88質量%)とした以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。この結果を表1に示す。
【0125】
比較例3
乾式分級器において、回転羽根の回転速度900rpm、風量1.3m
3/minの条件に変更した以外は実施例1と同様に分級して、タップ密度1.4g/cm
3の軟磁性粒子を得た。
【0126】
この軟磁性粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして軟磁性フィルムを製造した。この結果を表1に示す。
【0127】
(充填率)
各実施例および各比較例で製造した軟磁性フィルムの充填率(体積割合)を求めた。具体的には、得られた軟磁性フィルムの密度をアルキメデスの原理を利用して実測し、この実測した密度(実測密度)を用いて下記の式により算出した。この結果を表1に示す。
【0128】
【数1】
【0129】
(比透磁率)
各実施例および各比較例で製造した軟磁性フィルムの比透磁率は、インピーダンスアナライザ(Agilent社製、商品番号「4294A」)を用いて、インピーダンスを測定することにより求めた。この結果を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
なお、実施例および比較例における各成分は下記の材料を用いた。
・アクリル酸エステル系ポリマー:商品名「パラクロンW−197CM」、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチルを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー、根上工業社製
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(1):商品名「エピコート1004」、エポキシ当量875〜975g/eq、JER社製、
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(2):商品名、「エピコートYL980」、エポキシ当量180〜190g/eq、JER社製
・フェノールアラルキル樹脂:商品名「ミレックスXLC−4L」、水酸基当量170g/eq、三井化学社製
・熱硬化触媒:商品名「キュアゾール2PHZ−PW」、2−フェニル−1H−イミダゾール4,5−ジメタノール、四国化成社製