特許第6514561号(P6514561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6514561半導体装置の製造方法および接着剤組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514561
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法および接着剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20190425BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20190425BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20190425BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20190425BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190425BHJP
   H01L 25/065 20060101ALI20190425BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20190425BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20190425BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   H01L21/52 C
   C09J201/00
   C09J133/00
   C09J163/00
   C09J11/06
   H01L25/08 E
   H01L21/78 M
【請求項の数】5
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-90733(P2015-90733)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-207944(P2016-207944A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 功
(72)【発明者】
【氏名】土山 さやか
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英明
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−026707(JP,A)
【文献】 特開2011−124495(JP,A)
【文献】 特開2012−153804(JP,A)
【文献】 特開2015−000959(JP,A)
【文献】 特開2002−144506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 25/00−18
H01L 21/301
C09J 7/00−50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記数式(1)および下記数式(2)を満たすように配合した接着剤組成物を含む接着剤層を有する半導体チップを基板の所定位置に接着する工程と、
ワイヤーボンディング工程の加熱条件によって前記半導体チップの端子と、前記基板の端子とをワイヤによって接続する工程と、
モールド封止工程、またはモールド封止工程及び後硬化工程の加熱条件によって前記半導体チップおよび前記ワイヤを封止する工程と、を備える、
半導体装置の製造方法。
【数1】
【数2】
(前記数式(1)において、
ΔTは、プロトンパルスNMR測定により測定される横緩和時間の変化率であり、
ΔTの単位は、%であり、
(s)(A)は、前記半導体チップと前記ワイヤとを接続する工程に即した第一の加熱
条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第一の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、
前記第一の加熱条件は、175℃、2時間であり、
前記数式(1)および(2)において、
(s)(B)は、前記半導体チップおよび前記ワイヤを封止する工程に即した第二の加
熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、
前記第二の加熱条件は、175℃、5時間であり、
(s)(A)およびT (s)(B)の単位は、ミリ秒である)。
【請求項2】
前記基板に接着された前記半導体チップに、さらに第二の半導体チップを接着する工程を有し、
前記第二の半導体チップは、前記数式(1)および前記数式(2)を満たすように配合した第二の接着剤組成物を含む第二の接着剤層を有する、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤組成物は、アクリル重合体と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、を含む、
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
プロトンパルスNMR測定の測定温度は、95℃である、
請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
下記数式(3)および下記数式(4)を満たすように複数の化合物を配合する、
接着剤組成物の製造方法。
【数3】
【数4】
(前記数式(3)において、
ΔTは、プロトンパルスNMR測定により測定される横緩和時間の変化率であり、
ΔTの単位は、%であり、
(s)(a)は、第一の加熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第一の
熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、
前記第一の加熱条件は、175℃、2時間であり、
前記数式(3)および(4)において、
(s)(b)は、第二の加熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、
前記第二の加熱条件は、175℃、5時間であり、
(s)(a)およびT (s)(b)の単位は、ミリ秒である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および接着剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイボンディングシートは、半導体素子を基板の所定位置に載置する際、仮接着する接着剤として機能し、これを加熱することにより、接着剤組成物中の熱硬化性樹脂が接着力を発現し、半導体素子と基板とが接着される。またダイシングダイボンディングシートは、半導体ウエハを個片化する際に半導体素子(半導体チップ)を保持するためのダイシングシートとして機能する。さらに、半導体素子を有機基板やリードフレームに固定する際には、ダイシングダイボンディングシートは、ピックアップされた半導体素子の裏面に接着剤組成物を転写させる機能を有し、この接着剤組成物がダイボンド材料となる。接着剤組成物を含む接着剤層を伴った半導体素子は、基板の所定位置に載置される。その後、接着剤層を加熱することにより、接着剤組成物中の熱硬化性樹脂が接着力を発現し、半導体素子と基板とが接着される。ダイシングダイボンディングシートは、例えば、特許文献1〜3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−194102号公報
【特許文献2】特開2013−194103号公報
【特許文献3】特開2012−144667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイボンディングシートに接着性を付与する手法として、ダイボンディング直後に熱硬化工程を施し、この熱硬化工程とモールド封止時の条件を主に利用して熱硬化するタイプと、ダイボンディング直後の熱硬化工程を省略し、モールド封止時の条件を主に利用して熱硬化するタイプとに大別される。後者のタイプのダイボンディングシートは、モールド封止工程および封止後に行われる後硬化(ポストモールドキュア)の熱および圧力を利用することにより、強い接着力を発現するので、モールド封止工程の圧力が加わった状態で熱硬化性樹脂を硬化させることが重要である。
【0005】
後者のタイプのダイボンディングシートを用いて半導体装置を製造するプロセスにおいても、ダイボンディング後の半導体素子上の電極部と、基板および基板上の導体などとを電気的に接続するためのワイヤボンディング工程が実施される。ワイヤボンディング工程においても、電気的接続のために加熱が必要であるので、その加熱によりモールド封止前に接着剤層中の接着剤組成物の硬化が進行してしまうおそれがある。ワイヤボンディング工程のように圧力が十分加わっていない状態で接着剤組成物が硬化してしまうと、十分な接着力が発現しないおそれがある。ワイヤボンディング工程において接着剤組成物の硬化が進行してしまうと、その後のモールド封止工程では硬化済み接着剤組成物の硬化は進行しない。その結果、半導体素子や基板に対する接着剤層の接着強度が十分に得られず、半導体装置としての長期駆動時の信頼性(半導体パッケージ信頼性)が低下するおそれがある。
【0006】
近年、電子部品の接続において実施されているリフロー法などの表面実装法では、半導体パッケージ全体が半田融点以上の高温下に曝される。さらに、環境負荷の低減を目的に、接続に使用される半田は、従来使用されていた鉛を含む半田、例えば、Pb−Sn半田等から、Pbを含まない高融点の半田、例えば、Ag−Sn−Cu半田等へ移行している。このような使用される半田種の移行により、実装温度が従来の240℃から260℃へ上昇している。実装時の温度がより高温になったため、複合材料部品である半導体パッケージ内において、構成材料の線膨張差に起因した内部応力が発生する。この内部応力によって半導体素子と基板との接着界面において剥離が発生したり、パッケージクラックが発生してしまうこともある。
【0007】
以上のように、半導体装置の製造プロセスにおいては、接着信頼性の向上が求められており、接着信頼性を向上させるには、ワイヤボンディング工程およびモールド封止工程における接着剤組成物の硬化特性を制御する必要がある。ところが、両工程における加熱温度は、175℃前後であるため、硬化特性の定量評価とその制御は容易ではない。
例えば、エポキシ樹脂硬化系材料のFT−IR測定において、917cm−1付近に検出されるグリシジル基の逆対称伸縮の吸収強度が変化する挙動を追跡する方法が検討されている。また、例えば、特許文献3には、DSC測定(Differential scanning calorimetry;示差走査熱量測定)で発熱反応のピーク温度が所定温度以上である接着剤組成物を用いて半導体装置を製造することで、高いパッケージ信頼性が得られる旨が記載されている。しかしながら、FT−IR測定やDSC測定では、接着剤組成物の硬化特性をより詳細に解析するための情報が十分に得られない。接着剤組成物の信頼性をさらに向上させるには、FT−IR測定やDSC測定よりも詳細に解析可能な方法を採用し、接着剤組成物の材料設計を行うことが求められている。
【0008】
本発明の目的は、半導体装置の製造プロセスにおいて、接着信頼性を向上させることのできる半導体装置の製造方法、および接着剤組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、接着剤層を有する半導体チップを基板の所定位置に接着する工程と、前記半導体チップの端子と、前記基板の端子とをワイヤによって接続する工程と、前記半導体チップおよび前記ワイヤを封止する工程と、を備え、前記接着剤層は、下記数式(1)および下記数式(2)を満たす接着剤組成物を含む、半導体装置の製造方法が提供される。
【0010】
【数1】
【0011】
【数2】
【0012】
(前記数式(1)において、ΔTは、プロトンパルスNMR測定により測定される横緩和時間の変化率であり、ΔTの単位は、%であり、T(s)(A)は、前記半導体チップと前記ワイヤとを接続する工程における第一の加熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第一の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、前記数式(1)および(2)において、T(s)(B)は、前記半導体チップおよび前記ワイヤを封止する工程における第二の加熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、T(s)(A)およびT(s)(B)の単位は、ミリ秒である)。
【0013】
また、本発明の別の一態様によれば、下記数式(3)および下記数式(4)を満たすように複数の化合物を配合する、接着剤組成物の製造方法が提供される。
【0014】
【数3】
【0015】
【数4】
【0016】
(前記数式(3)において、ΔTは、プロトンパルスNMR測定により測定される横緩和時間の変化率であり、ΔTの単位は、%であり、T(s)(a)は、第一の加熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第一の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、前記数式(3)および(4)において、T(s)(b)は、前記第一の加熱条件よりも加熱温度が高いこと、および第一の加熱条件よりも加熱時間が長いことの少なくともいずれかを満たす第二の加熱条件で、前記接着剤組成物を加熱処理して得られる第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間であり、T(s)(a)およびT(s)(b)の単位は、ミリ秒である)。
【発明の効果】
【0017】
上述の本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法および接着剤組成物の製造方法によれば、半導体装置の製造プロセスにおいて、接着信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第一実施形態に係る接着剤組成物のプロトンパルスNMR測定によって得られるFID曲線の一例を示すグラフである。
図2】第一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の概略を示す図である。
図3】第二実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第一実施形態〕
本実施形態に係る接着剤組成物およびその製造方法、並びに半導体装置の製造方法について説明する。
【0020】
(接着剤組成物)
本実施形態に係る接着剤組成物は、複数の化合物が配合されてなる。本実施形態に係る接着剤組成物は、下記数式(3)および下記数式(4)を満たす。
【0021】
【数5】
【0022】
【数6】
【0023】
前記数式(3)および(4)におけるΔT、T(s)(a)およびT(s)(b)について、説明する。
ΔTは、プロトンパルスNMR測定により測定される横緩和時間の変化率である。ΔTの単位は、%である。プロトンパルスNMR測定法については後述する。
(s)(a)は、第一の加熱条件で、接着剤組成物を加熱処理して得られる第一の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間である。T(s)(a)の単位は、ミリ秒(ms)である。
(s)(b)は、第一の加熱条件よりも加熱温度が高いこと、および第一の加熱条件よりも加熱時間が長いことの少なくともいずれかを満たす第二の加熱条件で、接着剤組成物を加熱処理して得られる第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間である。T(s)(b)の単位は、ミリ秒(ms)である。
【0024】
第一の加熱条件は、接着剤組成物の硬化前の耐性が要求される熱処理の条件であり、第二の加熱条件は、第一の加熱条件の熱処理後にさらに時間を延長したり、加熱温度を上げたりして過剰に熱処理を行う条件である。例えば、接着剤組成物をダイボンディングシートの接着剤層に用いる場合、第一の加熱条件は、ワイヤボンディング工程における加熱条件を考慮した条件であることが好ましく、第二の加熱条件は、モールド封止工程およびこれに続く後硬化(ポストモールドキュア)工程における加熱条件を考慮した条件であることが好ましい。
ワイヤボンディング工程における加熱条件としては、例えば、加熱温度が160℃以上200℃以下である。ワイヤボンディング工程における加熱時間は、近年の高密度化した半導体素子において数百本から千本のワイヤをボンディングするのに要する時間を考慮して、1時間以上が好ましく、2時間以上であることがより好ましく、8時間以内であることが好ましい。
モールド封止工程およびこれに続く後硬化(ポストモールドキュア)工程における加熱条件としては、例えば、加熱温度が160℃以上190℃以下である。また、加熱時間としては、モールド封止工程で一般に行われている加熱時間および樹脂封止後に行われる後硬化工程で一般に行われている加熱時間を考慮すると、4時間以上8時間以下であることが好ましい。
【0025】
前記数式(3)は、第一の加熱条件および第二の加熱条件で熱処理した後の第一の熱処理物および第二の熱処理物のそれぞれの最も短い横緩和時間T(s)の変化率ΔTを表す。プロトンパルスNMRにより求められる横緩和時間Tは、組成物中に含まれるプロトンの運動性の指標となる。横緩和時間Tが短い結果を示すプロトンは、接着剤組成物の運動性が低いリジットな(硬い)構造中に存在し、横緩和時間Tが長い結果を示すプロトンは、接着剤組成物の運動性が高いフレキシブルな(柔らかい)構造中に存在する。よって、接着剤組成物に含まれる熱硬化成分の硬化が進むに伴って、横緩和時間Tが短くなる。変化率ΔTが15%以上であれば、目的とする熱処理条件後でも硬化反応が過剰に進行せず、接着剤組成物中には未反応の硬化可能な成分がより多く存在する。その後、過剰な熱処理条件により当該未反応の硬化可能な成分を硬化させて、一方の接着目的物(例えば、半導体チップなど)をもう一方の接着目的物である被着体(例えば、基板など)の接着面に対して接着させることができる。変化率ΔTが15%未満であると、耐性が要求される熱処理により接着剤組成物の硬化が進行していると考えられ、その後の圧力を利用した硬化および接着時に十分な接着力が発現しないおそれがある。
【0026】
前記数式(3)における変化率ΔTは、15%以上であることが好ましく、17%以上であることがより好ましい。変化率ΔTは、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。変化率ΔTが90%以下であれば、接着材の硬さが要求されるワイヤボンディング工程において、当該工程の温度以下での前処理により高弾性化を成し得るので好ましい。つまりワイヤボンディングによる電気的導通性の品質が向上する観点で好ましい。
【0027】
前記数式(4)は、第二の加熱条件で熱処理した後の最も短い横緩和時間T(s)(b)を表す。第一の加熱条件よりも厳しい熱処理条件である第二の加熱条件で処理した後、接着剤組成物の柔らかい成分が硬い成分に変化すれば、横緩和時間T(s)(b)が短くなる。T(s)(b)が0.030ms以下であれば、熱硬化により発現する接着剤組成物の強度が高く、接着剤層自体の強度も高くなる。T(s)(b)が0.030msを超えると、硬化物中の組成物分子は、運動性が高いフレキシブルな構造を有している。そのため、接着剤組成物を半導体プロセス用の接着剤として用いた場合に、接着剤層内部で破壊する凝集破壊が発生するおそれがある。
【0028】
前記数式(4)におけるT(s)(b)は、0.030ms以下であることが好ましく、0.029ms以下であることがより好ましい。T(s)(b)は、0.020ms以上であることがより好ましい。T(s)(b)が0.020ms以上であれば、接着界面に発生する応力を緩和する機能を持ち合わせることができる。
【0029】
前記数式(3)および前記数式(4)を満たすことにより、耐性が要求される熱処理が接着剤組成物に施された場合であっても十分な接着力が発現し、さらに、硬化後の接着剤組成物自体の強度が十分に発現し、接着剤層自体の破壊不良が抑制される。
例えば、本実施形態の接着剤組成物を半導体装置の製造方法に用いる場合、当該接着剤組成物は、ワイヤボンディング工程を想定した175℃程度の熱履歴に対して耐性を有し、薄型化および平坦化した半導体素子の基板に対する接着信頼性を向上させることができる。さらに、本実施形態に係る接着剤組成物を用いて製造された半導体装置においては、高温および高湿度の条件下においても半導体素子と基板との接着状態を維持することができる。そのため、本実施形態に係る接着剤組成物によれば、半導体装置の表面実装工程やその後の高温放置や高湿度下での耐久性評価試験においても接着信頼性を向上させることができる。
【0030】
・プロトンパルスNMR測定法
プロトンパルスNMRの測定においては、磁場中で歳差運動しているプロトンの電磁波パルスに対する応答信号を検出する。試料に電磁波パルスを照射すると、核スピンの回転運動の位相が揃うことにより横磁化が発生する。電磁波パルスの照射を止めると、再度、位相がランダムな状態に戻り磁化が消失する。この磁化の緩和挙動は、自由誘導減衰 (free induction decay:FID)と呼ばれる。自由誘導減衰が起こる時の緩和時間は、特に横緩和時間Tと呼ばれる。系中のプロトンごとに運動性の差があるとき、横緩和時間Tが異なる。プロトンごとに横緩和時間Tを分離し、それぞれの緩和時間と量比を定量的に求めることができる。硬い構造中に存在するプロトンほど横緩和時間Tが短く、柔らかい構造中に存在するプロトンほど位相の揃った状態を保つため横緩和時間Tが長くなる。
【0031】
横緩和時間Tの長短に応じたより適切な測定条件があり、電磁波パルスの照射方法の異なる測定法が種々検討されている。プロトンパルスNMRの測定方法としては、例えば、ソリッドエコー(Solid Echo)法、ハーンエコー法、CPMG法等が挙げられる。測定装置の観測不能時間を克服するため、エコー現象を利用するソリッドエコー法が好ましい。パルスNMR測定用試料管のみを、測定試料の測定と同条件で測定し、試料管のみの測定結果をバックグラウンドとして、試料(接着剤組成物)の各測定結果から差し引くことにより、試料(接着剤組成物)のみのFID曲線を求めることができる。
【0032】
プロトンパルスNMRによる接着剤組成物の横緩和時間Tの測定温度は、特に限定されないが、接着剤組成物に含まれる有機物の成分数に応じて下記の通り設定することが好ましい。
1成分系では、硬化物のガラス転移温度以上の温度で横緩和時間Tを測定することが好ましい。1成分系の場合、有機物は当該測定温度下でゴム状態となり、プロトンの運動性が高まる。プロトンの運動性の高まりを利用し、緩和時間の絶対値を大きくすることで、緩和時間の変化がより明瞭に測定される。
2成分系では、一方の成分のガラス転移温度以下であり、かつ他方の成分のガラス転移温度以上の温度で横緩和時間Tを測定することが好ましい。2成分系の場合、当該測定温度下で測定することにより、ガラス状態である一方のリジットな構造中のプロトン成分と、ゴム状態である他方のフレキシブルな構造中のプロトン成分の運動性の差がより明瞭に測定される。例えば、接着剤組成物にエポキシ成分およびアクリル成分を含み、アクリル共重合体単体のガラス転移温度が約35℃であり、エポキシ熱硬化成分単体の硬化物のガラス温度が約150℃である場合、両成分のガラス転移温度の中間温度付近で横緩和時間Tを測定することが好ましく、例えば、95℃の温度条件で測定してもよい。
3成分以上の系については、それぞれの成分の示すガラス転移温度のなかで最も高いガラス転移温度と、二番目に高いガラス転移温度との間の温度で横緩和時間Tを測定することが好ましい。
【0033】
接着剤組成物に含まれる有機物の各成分のガラス転移温度は、硬化物のDMA測定(動的粘弾性測定)結果におけるtanδのピークを与える温度として求めることができる。また、2成分以上の系において各成分の明瞭なピークを得ることができない場合は、各成分の単体についてDMA測定を行ってガラス転移温度を求めることもできる。この場合の硬化条件は、前述の第二の加熱条件であることが好ましい。
【0034】
・プロトンパルスNMR測定結果解析法
短い緩和時間を持つ硬い構造中に存在するプロトン成分について、磁化の緩和は、ガウス型関数で表され、具体的には、下記数式(1A)で表される。
【0035】
【数7】
【0036】
長い緩和時間を持つ柔らかい構造中に存在するプロトン成分について、磁化の緩和は、ローレンツ型関数で表され、具体的には、下記数式(2A)で表される。
【0037】
【数8】
【0038】
前記数式(1A)および数式(2A)において、tは時間を表し、M(t)は磁化信号を表し、Mはt=0の時の磁化強度を表し、Tは横緩和時間を表す。
硬い構造中に存在するプロトン成分と、柔らかい構造中に存在するプロトン成分とが混在する組成物については、プロトンパルスNMR測定により得られたFID曲線を前記数式(1A)および前記数式(2A)の線形和である下記数式(3A)で回帰することにより、硬い構造中のプロトン成分の緩和時間および柔らかい構造中のプロトン成分の緩和時間が求まり、並びに各プロトン成分の量比占有率が求まる。
【0039】
【数9】
【0040】
前記数式(3A)において、tは時間を表し、M(t)は磁化信号を表し、T(s)は最も短い横緩和時間を表し、T(l)は長い横緩和時間を表し、F(s)は最も短い横緩和時間の成分の比率を表し、F(l)は、長い横緩和時間の成分の比率を表す。
なお、FID曲線を回帰する方法としては、例えば、測定データと前記数式(3A)とを最小二乗法により回帰できる方法であれば、特に限定されない。本実施形態では、例えば、マイクロソフト社製エクセル(登録商標)が備えるソルバー機能を利用して、各測定結果中の各々の測定点と前記数式(3A)の差の自乗和が最小になるように、T(s)、T(l)、F(s)およびF(l)を求めることができる。
【0041】
図1には、接着剤組成物の硬化物についてのFID曲線の一例が示されている。ここでの接着剤組成物は、エポキシ成分およびアクリル成分を含んでおり、硬化条件は、175℃および5時間であり、プロトンパルスNMRの測定温度は95℃である。図1においては、その硬化物のFID曲線について前記数式(3A)を用いてフィッティング曲線、ローレンツ型関数成分およびガウス型関数成分の曲線を得た。
【0042】
前記数式(3A)を用いて精度良く解析できない場合、例えば、R値が0.95以下となる場合、前記数式(3A)におけるローレンツ型関数成分を増やし、下記数式(4A)を用いてFID曲線を回帰することもできる。
【0043】
【数10】
【0044】
前記数式(4A)を用いて回帰することにより、T(s)、およびF(s)を求めることができる。前記数式(4A)を用いて回帰する場合、R値が0.95を超える最も小さいnにより回帰する。なお、R値は、下記数式(5A)で表される。
【0045】
【数11】
【0046】
前記数式(5A)において、yは実測値を表し、fは推測値を表し、yavgはyの平均値を表す。
【0047】
本実施形態に係る接着剤組成物に含まれる化合物は、組み合わせる化合物の数や種類や含有量は特に限定されず、化合物を配合して得た接着剤組成物が、接着性を示し、前記数式(3)および前記数式(4)を満たせばよい。また、接着剤組成物の用途に応じた接着性を満たすように、前記数式(3)および前記数式(4)を満たす範囲で配合する化合物が選択される。
【0048】
本実施形態の接着剤組成物は、第1の樹脂成分と、第2の樹脂成分と、硬化剤を含むことが好ましい。本実施形態の接着剤組成物に含まれる第1の樹脂成分としては、アクリル重合体であることが好ましい。第2の樹脂成分としては、エポキシ樹脂であることが好ましい。硬化剤としては、熱硬化剤であることが好ましい。本実施形態の接着剤組成物は、硬化前は粘着性を有し、加熱により硬化、または加熱および加圧により硬化して接着強度が向上する粘接着型の接着剤組成物であることが好ましい。
【0049】
以下において示される接着剤組成物に含まれ得る各成分は、一例に過ぎない。
(アクリル重合体(A))
アクリル重合体(A)としては、従来公知のアクリル重合体を用いることができる。
アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上200万以下であることが好ましく、10万以上150万以下であることがより好ましく、40万以上100万以下であることがさらに好ましい。アクリル重合体(A)の重量平均分子量Mwが1万以上であれば、接着剤組成物を半導体用材料としてのダイボンディングシート等に用いた場合に接着剤層と基材との接着力が強過ぎて生じる半導体チップのピックアップ不良等を低減できる。アクリル重合体(A)の重量平均分子量Mwが200万以下であれば、被着体の凹凸へ接着剤層が追従し易くなり、ボイド等の発生を抑制できる。
アクリル重合体(A)の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnの比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.3以上であることが好ましい。
アクリル重合体(A)の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0050】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、−60℃以上70℃以下であることが好ましく、−30℃以上50℃以下であることがより好ましい。アクリル重合体(A)のTgが−60℃以上であれば、前述と同様、半導体チップのピックアップ不良を低減できる。アクリル重合体(A)のTgが70℃以下であれば、接着剤組成物をダイボンディングシート等に用いた場合にウエハを固定するための接着力が十分得られる。
なお、アクリル重合体(A)のTgは、アクリル重合体(A)成分のみDMA測定(動的粘弾性測定)し、そのDMA測定結果におけるtanδのピークを示す温度として求めた値である。
【0051】
アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル基を有するアクリル酸エステル、および不飽和カルボン酸等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、「アクリル酸アルキルエステル」および「メタアクリル酸アルキルエステル」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0052】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1以上18以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、より具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、および(メタ)アクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0053】
環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、およびイミドアクリレート等が挙げられる。
【0054】
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、および2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
グリシジル基を有するアクリル酸エステルとしては、例えば、グリシジルアクリレート、およびグリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0056】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0057】
アクリル重合体(A)を構成するモノマーは、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0058】
アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、少なくとも水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いることが好ましい。アクリル重合体(A)を構成するモノマーとして、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いることで、エポキシ樹脂(B)との相溶性が向上する。
この場合、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位は、アクリル重合体(A)において、1質量%以上20質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、3質量%以上15質量%以下の範囲で含まれることがより好ましい。
アクリル重合体(A)は、具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であることが好ましい。
【0059】
また、上記(メタ)アクリル酸エステルおよびその誘導体などと共に、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、およびスチレン等をアクリル重合体(A)の原料モノマーとして用いてもよい。
アクリル重合体は、上記原料モノマーを用いて、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0060】
アクリル重合体単体についてのプロトンパルスNMR測定を行い、その解析結果から得られる当該アクリル重合体の0.1ミリ秒以下の横緩和時間T(s)(ac)を有するプロトン成分の割合F(s)(ac)が83%以上であることが好ましい。アクリル重合体の当該割合F(s)(ac)が83%以上であれば、耐性付与を目的とする熱処理条件下であっても、接着剤組成物中の熱硬化成分の移動度および衝突頻度が抑制され、その結果として硬化反応の進行が抑制されると考えられる。アクリル重合体単体の横緩和時間T(s)(ac)および割合F(s)(ac)は、アクリル重合体のガラス転移温度より高い温度でプロトンパルスNMR測定を実施することにより得られる。アクリル重合体の当該割合F(s)(ac)は、90%以上であることがより好ましい。当該F(s)(ac)の上限値としては限定がなく、100%である。
【0061】
(エポキシ樹脂(B))
エポキシ樹脂(B)としては、従来公知の種々のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂(B)としては、1分子中に2つ以上の官能基を含むエポキシ樹脂が挙げられ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、および縮合環芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂等、並びにこれらエポキシ樹脂のハロゲン化物等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されないが、150g/eq以上1000g/eq以下であることが好ましい。なお、エポキシ当量は、JISK7236に準じて測定される値である。
【0063】
本実施形態の接着剤組成物において、エポキシ樹脂(B)の含有量は、アクリル重合体(A)100質量部に対して、1質量部以上1500質量部以下であることが好ましく、3質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがさらに好ましい。
エポキシ樹脂(B)の含有量が1質量部以上であれば、より高い接着力を有する接着剤層が得られる。また、エポキシ樹脂(B)の含有量が1500質量部以下であれば、前述と同様、ダイボンディングシート等に用いた場合に基材と接着剤層との接着力が強すぎて生じる半導体チップのピックアップ不良等を低減できる。
【0064】
(熱硬化剤(C))
熱硬化剤(C)は、エポキシ樹脂(B)に対する熱硬化剤として機能する。
熱硬化剤(C)としては、分子中にエポキシ基と反応し得る官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。そのエポキシ基と反応し得る官能基としては、例えば、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、および酸無水物基などが挙げられる。これらの中では、フェノール性水酸基、アミノ基、および酸無水物基が好ましく、フェノール性水酸基およびアミノ基がより好ましい。
【0065】
熱硬化剤(C)の具体例としては、フェノール系熱硬化剤およびアミン系熱硬化剤が挙げられる。フェノール系熱硬化剤としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、多官能系フェノール樹脂、およびアラルキルフェノール樹脂などが挙げられる。アミン系熱硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド(DICY)などが挙げられる。
熱硬化剤(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本実施形態の接着剤組成物において、熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂(B)100質量部に対して、0.1質量部以上500質量部以下であることが好ましく、1質量部以上200質量部以下であることがより好ましい。
熱硬化剤(C)の含有量が0.1質量部以上であれば、接着剤組成物の硬化性が不足することを防止でき、その結果、より高い接着力を有する接着剤層が得られる。熱硬化剤(C)の含有量が500質量部以下であれば、接着剤組成物の吸湿性が高まることを抑制でき、例えば、接着剤組成物をダイボンディングシート等の接着剤層に用いた場合に吸湿による半導体パッケージの信頼性低下を抑制できる。
【0067】
(シラン化合物(D))
本実施形態の接着剤組成物は、さらに、シラン化合物(D)を含んでいることが好ましい。接着剤組成物がシラン化合物(D)を含んでいれば、被着体に対する接着力をさらに向上させることができる。また、シラン化合物(D)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、吸湿処理を行った場合であっても硬化物の接着特性を維持することができる。
【0068】
シラン化合物(D)としては、アクリル重合体(A)やエポキシ樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。シラン化合物(D)としては、シランカップリング剤が好ましい。
【0069】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、およびイミダゾールシランなどが挙げられる。
【0070】
また、アルコキシ基の加水分解および脱水縮合により縮合した生成物であるオリゴマータイプのシランカップリング剤であってもよい。例えば、アルコキシ基を2つまたは3つ有する低分子シラン化合物と、アルコキシ基を4つ有する低分子シラン化合物とが脱水縮合して生成されるオリゴマーが、アルコキシ基の反応性に富み、かつ十分な数の有機官能基を有しているので好ましい。
アルコキシ基を2つまたは3つ有する低分子シラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、およびγ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
アルコキシ基を4つ有する低分子シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
共重合体であるオリゴマーとしては、例えば、ポリ3−(2,3−エポキシプロポキシ)プロピルメトキシシロキサンとポリジメトキシシロキサンの共重合体であるオリゴマーが挙げられる。
シランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本実施形態の接着剤組成物において、シラン化合物(D)の含有量は、アクリル重合体(A)およびエポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。シラン化合物(D)の含有量が、0.1質量部以上であれば、被着体に対する接着力をさらに向上させることができる。シラン化合物(D)の含有量が、20質量部以下であれば、アウトガスの発生を抑制できる。
【0072】
(硬化促進剤(E))
本実施形態の接着剤組成物は、硬化促進剤(E)を含有してもよい。硬化促進剤(E)は、接着剤組成物の硬化速度を調整するために用いられる。硬化促進剤(E)としては、好ましくは、エポキシ基とフェノール性水酸基やアミン等との反応を促進し得る化合物である。この化合物としては、具体的には、3級アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、および有機ホスフィン化合物のテトラフェニルボロン塩等が挙げられる。
3級アミン類としては、例えば、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、およびトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
イミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、および2−フェニル−4,5−ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
有機ホスフィン類としては、例えば、トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、およびトリフェニルホスフィン等が挙げられる。
有機ホスフィン化合物のテトラフェニルボロン塩としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、およびトリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等が挙げられる。
なお、本発明の接着剤組成物に含まれる硬化促進剤(E)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0073】
本実施形態の接着剤組成物には、エポキシ樹脂(B)と熱硬化剤(C)の合計100質量部に対して、硬化促進剤(E)が、0.001質量部以上100質量部以下含まれることが好ましく、0.01質量部以上50質量部以下含まれることがより好ましく、0.1質量部以上10質量部以下含まれることがさらに好ましい。
【0074】
(無機充填材(F))
本実施形態の接着剤組成物は、さらに無機充填材(F)を含んでいてもよい。
無機充填材(F)を接着剤組成物に配合することにより、該組成物の硬化物の熱膨張係数を調整し易くなる。半導体チップ、リードフレームおよび有機基板に対して硬化後の接着剤層の熱膨張係数を最適化することで、半導体パッケージの信頼性をより向上させることができる。また、接着剤硬化物の吸湿率を低減させることもできる。
【0075】
無機充填材(F)としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、および窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、並びにガラス繊維などが挙げられる。
これらの中でも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。無機充填材(F)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の接着剤組成物において、無機充填材(F)の含有量は、接着剤組成物全体に対して、通常は、0質量%以上80質量%以下である。
【0076】
(その他の成分(G))
本実施形態の接着剤組成物は、上記各成分(A)〜(F)の他に、その他の成分(G)として各種添加剤が必要に応じて含まれていてもよい。各種添加剤としては、例えば、エネルギー線重合性化合物、光重合開始剤、ポリエステル樹脂等の可とう性成分、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、顔料、および染料などが挙げられる。
【0077】
(接着剤組成物の製造方法)
本実施形態に係る接着剤組成物は、前記数式(3)および前記数式(4)を満たすように複数の化合物を配合することで得られる。
接着剤組成物の製造方法は、前記数式(3)および前記数式(4)を満たす複数の化合物の組み合せを、プロトンパルスNMR測定およびその測定結果の解析によって選択する工程と、選択された複数の化合物を配合する工程とを備えることが好ましい。
接着材料組成物の各成分を配合する際は、各成分を予め溶媒で希釈してから混合してもよいし、溶媒を加えながら混合してもよい。また、接着剤組成物を溶媒で希釈してから使用してもよい。溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、およびヘプタン等が挙げられる。
【0078】
本実施形態の接着剤組成物は、接着シートの接着剤層に用いることができる。接着シートとしては、例えば、基材と、前述の本実施形態に係る接着剤組成物を含む接着剤層を有する構成が挙げられる。接着剤層は、基材上に形成されている。接着シートの形状は、例えば、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとり得る。
【0079】
接着シートの基材としては、例えば、合成樹脂フィルムなどのシート材料などを用いることができる。合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、およびフッ素樹脂フィルム等が挙げられる。その他、接着シートの基材としては、これらの架橋フィルムや積層フィルム等が挙げられる。また、基材の表面には、粘着剤が塗布されて粘着処理が施されていてもよい。基材の粘着処理に用いられる粘着剤としては、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコーン系、およびウレタン系等の粘着剤が挙げられる。
粘着剤として、再剥離性の粘着剤を用いることが好ましい。再剥離性の粘着剤としては、微弱な粘着性を示す粘着剤、表面凹凸を有する粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、および熱膨張成分を含有する粘着剤などが挙げられる。再剥離性の粘着剤を用いることで、被着体を加工している間は基材と接着剤層間を強固に固定し、その後、接着剤層を被着体に固着残存させて基材から剥離することが容易となる。
【0080】
本実施形態の接着シートは、半導体ウエハなどの被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、接着剤層を被着体に固着残存させて基材から剥離する。すなわち、接着剤層を、基材から被着体に転写する工程を含むプロセスに好適に使用される。このため、基材の接着剤層に接する面の表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、37mN/m以下であることがより好ましく、35mN/m以下であることがさらに好ましい。基材の接着剤層に接する面の表面張力の下限値は、通常、25mN/m程度である。このような表面張力が低い基材は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材の表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0081】
接着シートにおける基材の厚みは、10μm以上500μm以下であることが好ましく、15μm以上300μm以下であることがより好ましく、20μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。
接着シートにおける接着剤層の厚みは、1μm以上500μm以下であることが好ましく、5μm以上300μm以下であることがより好ましく、10μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。
【0082】
接着シートの製造方法は、特に限定されない。
例えば、接着剤組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させて接着剤層を形成させることにより、接着シートを製造してもよい。また、接着剤層を剥離フィルム上に形成し、この接着剤層を基材に転写することにより、接着シートを製造してもよい。
【0083】
接着シートは、接着剤層を保護するための保護層を有していてもよい。保護層は、基材上の接着剤層を覆うように設けられていることが好ましい。保護層としては、剥離フィルムであることが好ましく、接着剤層の上に剥離フィルムが積層されていてもよい。また、接着シートが半導体製造工程で用いられる場合、接着剤層の表面外周部には、リングフレーム等の他の治具を固定するために、別途、接着剤層や接着テープが設けられていてもよい。
【0084】
(半導体装置の製造方法)
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、接着剤層を有する半導体チップを基板の所定位置に接着する工程と、前記半導体チップの端子と、前記基板の端子とをワイヤによって接続する工程と、前記半導体チップおよび前記ワイヤを封止する工程と、を備える。
【0085】
図2には、本実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の一部を示す概略図が示されている。
図2(A)および(B)は、接着剤層10を有する半導体チップCPを基板20の所定位置に接着する工程(ダイボンディング工程)を示す概略図である。
図2(C)は、半導体チップCPの端子と基板20の端子とをワイヤ30によって電気的に接続する工程(ワイヤボンディング工程)を示す概略図である。
図2(D)は、基板20に電気的に接続された半導体チップCPおよびワイヤ30をモールド封止する工程を示す概略図である。
【0086】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、接着剤層10は、下記数式(1)および下記数式(2)を満たす接着剤組成物を含む。
【0087】
【数12】
【0088】
【数13】
【0089】
前記数式(1)および(2)におけるΔT、T(s)(A)およびT(s)(B)について、説明する。
ΔTは、プロトンパルスNMR測定により測定される横緩和時間の変化率である。ΔTの単位は、%である。
(s)(A)は、半導体チップCPとワイヤ30とを接続する工程(ワイヤボンディング工程)における第一の加熱条件で、接着剤組成物を加熱処理して得られる第一の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間である。T(s)(A)の単位は、ミリ秒(ms)である。
(s)(B)は、半導体チップCPおよびワイヤ30を封止する工程(モールド封止工程)における第二の加熱条件で、接着剤組成物を加熱処理して得られる第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定により測定して得た最も短い横緩和時間である。T(s)(B)の単位は、ミリ秒(ms)である。
【0090】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において使用する接着剤組成物は、前記数式(1)および前記数式(2)を満たすように複数の化合物を配合することで得られる。なお、前記数式(3)および前記数式(4)における第一の加熱条件および第二の加熱条件が、それぞれワイヤボンディング工程およびモールド封止工程の加熱条件に即した条件である場合、前記数式(1)は、実質的に前記数式(3)と同義であり、前記数式(2)は、実質的に前記数式(4)と同義である。したがって、前述の本実施形態に係る接着剤組成物を半導体装置の製造方法に用いることもできる。また、前記数式(1)および前記数式(2)を満たすように複数の化合物を配合することで得られる接着剤組成物も、前述の接着シートに用いることができる。
【0091】
ダイボンディング工程の前には、回路が形成された半導体ウエハの裏面を研削するバックグラインド工程や、半導体ウエハを個片化するダイシング工程が実施されていてもよい。ダイシング工程において半導体ウエハを保持する接着シートとして、本実施形態に係る接着剤組成物(前記数式(1)および(2)を満たす接着剤組成物、または前記数式(3)および(4)を満たす接着剤組成物)を含む接着シートを用いることができる。半導体ウエハを接着シートの接着剤層に載置し、半導体ウエハを接着シートに貼着する。ダイシングソーなどの切断手段を用いて半導体ウエハを個片化することで半導体素子(半導体チップCP)が得られる。ダイシングにより接着剤層も半導体チップCPごとに切断される。
【0092】
ダイシング後、接着シートを引き延ばして、複数の半導体チップCP間の間隔を拡げるエキスパンド工程を実施してもよい。エキスパンド工程を実施することで、図2(A)に示すようなコレットCL等の搬送手段を用いて半導体チップCPをピックアップすることができる。また、エキスパンド工程を実施することで、接着シートの接着剤層と基材との間の密着力が減少し、半導体チップCPがピックアップし易くなる。
接着剤組成物、または接着剤層にエネルギー線重合性化合物が配合されている場合には、接着剤層に基材側からエネルギー線を照射し、エネルギー線重合性化合物を硬化させる。エネルギー線重合性化合物を硬化させると、接着剤層の凝集力が高まり、接着剤層と基材との間の接着力を低下させることができる。エネルギー線としては、例えば、紫外線(UV)や電子線(EB)等が挙げられ、紫外線が好ましい。エネルギー線の照射は、半導体ウエハの貼付後、半導体チップの剥離(ピックアップ)前のいずれの段階で行ってもよい。例えば、ダイシングの前もしくは後にエネルギー線を照射してもよいし、エキスパンド工程の後にエネルギー線を照射してもよい。
【0093】
・ダイボンディング工程
本実施形態では、個片化された半導体チップCPの裏面に接着剤層10を貼着させたまま、接着シートの基材から半導体チップCPを剥離できる。図2(A)に示すようにコレットCLにより半導体チップCPが保持および搬送され、基板20の実装位置に載置される。半導体チップCPは、接着剤層10を介して基板20に貼着される。ダイボンディング工程では、半導体チップCPが基板20に載置される前、または載置後に加熱される。半導体チップCPを基板20に圧着(ダイボンド)する際の加熱温度は、通常、80℃以上200℃以下であり、100℃以上180℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましく、100℃以上130℃以下であることが更に好ましい。ダイボンド時の加熱時間は、通常、0.1秒以上5分以下であり、0.5秒以上3分以下であることが好ましい。ダイボンド時の圧力は、通常、1kPa以上1000MPa以下である。
【0094】
・ワイヤボンディング工程
半導体チップCPと基板20とを電気的に接続するためのワイヤ30の本数は、図示された本数に限定されない。ワイヤボンディング工程における加熱温度は、通常、100℃以上であり、150℃以上であることが好ましく、160℃以上200℃以下であることがより好ましい。ワイヤボンディング工程における加熱時間は、通常、5分以上3時間以下であり、1時間以上が好ましく、2時間以上であることがより好ましく、8時間以内であることが好ましい。ワイヤボンディング工程では、接着剤層10に含まれる接着剤組成物を完全硬化させない加熱条件に設定される。
【0095】
・モールド封止工程
本実施形態では、図2(D)に示されているように、半導体チップCPおよびワイヤ30は、封止樹脂40により封止されている。モールド封止工程においては、ワイヤボンディング工程後の半導体チップCPを封止装置内に載置し、次いでモールド樹脂を封止装置内に注入し、加熱および加圧することによって、半導体チップCPおよびワイヤ30が封止される。モールド封止の加熱温度条件は、通常、150℃以上であり、160℃以上190℃以下であることが好ましい。モールド封止の加圧条件は、通常、4MPa以上15MPa以下である。モールド封止の加熱および加圧時間の条件は、通常、30秒以上300秒以下である。
【0096】
・後硬化(ポストモールドキュア)工程
本実施形態では、樹脂封止された半導体チップCPは、モールド封止工程を行った後、封止装置内に固定されたまま、又はオーブンなどの加熱装置に移し換えられて、さらに高温条件を継続して封止樹脂とともに接着剤層10の熱硬化(ポストモールドキュア)が行われる。後硬化工程における加熱温度は、通常、160℃以上190℃以下であり、加熱時間は、通常、4時間以上8時間以下である。
【0097】
以上のようにして本実施形態に係る半導体装置が製造される。
なお、モールド封止工程後、基板20の半導体チップCPの実装面と反対側の面には、図示を省略した半田バンプ等の外部電極が設けられる。
【0098】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、前記数式(1)および前記数式(2)を満たす接着剤組成物を用いて半導体装置を製造する。本実施形態で用いる接着剤組成物は、ワイヤボンディング工程の加熱条件に対する耐性を備えるように設計されている。それゆえ、ダイボンディング工程の後のワイヤボンディング工程において熱が加わった場合でも、加圧が不足した状態で接着剤組成物が完全に硬化することを防止し、未硬化の状態を残しておき、モールド封止工程および後硬化(ポストモールドキュア)工程の加熱および加圧条件の下で完全硬化させることができる。したがって、本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、薄型化および平坦化した半導体チップCPの基板20に対する接着信頼性を向上させることができる。
さらに、本実施形態に係る接着剤組成物を用いて製造された半導体装置においては、高温および高湿度の条件下においても半導体チップCPと基板20との接着状態を維持することができる。そのため、本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、半導体装置の表面実装工程やその後の高温放置や高湿度下での耐久性評価試験においても接着信頼性を向上させることができる。
【0099】
〔第二実施形態〕
第二実施形態は、半導体装置において複数の半導体チップが積層されている点で、第一実施形態と相違する。第二実施形態は、その他の点において第一実施形態と同様であるため、説明を省略または簡略化する。
【0100】
図3には、本実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の一部を示す概略図が示されている。
図3(A)は、基板21上に積層された複数の半導体チップCP1,CP2,CP3と基板21の端子とをワイヤ30によって電気的に接続する工程(ワイヤボンディング工程)を示す概略図である。
図3(B)は、基板21上に電気的に接続された半導体チップCP1,CP2,CP3およびワイヤ30をモールド封止する工程を示す概略図である。
図3(C)は、基板21の実装面21Aと反対側の面21Bに半田バンプ等の外部電極50を設ける工程を示す概略図である。
【0101】
本実施形態では、基板21の実装面21Aの実装位置に、接着剤層11(第一の接着剤層)を介して半導体チップCP1(第一の半導体チップ)がダイボンドされている。半導体チップCP1の上に接着剤層12(第二の接着剤層)を介して半導体チップCP2(第二の半導体チップ)がダイボンドされている。半導体チップCP2の上に接着剤層13(第三の接着剤層)を介して半導体チップCP3(第三の半導体チップ)がダイボンドされている。図3(A)に示されている半導体チップの積層(スタック)構造では、半導体チップCP1よりも半導体チップCP2が小さく、半導体チップCP2よりも半導体チップCP3が小さい。本発明は、このような態様に限定されず、積層される半導体チップのサイズが同じであってもよく、例えば、複数の半導体チップを階段状にずらしながら積層させた構造であってもよい。また、積層される半導体チップの数は、本実施形態のように3つに限定されず、2つでもよいし、4つ以上であってもよい。
【0102】
本実施形態においても、第一実施形態と同様、接着剤層11,12,13は、それぞれ独立に、前記数式(1)および前記数式(2)を満たす接着剤組成物を含む。接着剤層11,12,13に含まれる接着剤組成物は、互いに同じ組成であってもよいし、互いに異なる組成であってもよい。
【0103】
本実施形態においても、第一実施形態と同様、前記数式(1)および前記数式(2)を満たす接着剤組成物を含む接着剤層と、基材とを備える接着シートを用いて、ダイシング工程、エキスパンド工程、およびダイボンディング工程を実施する。
本実施形態においても、第一実施形態と同様、ダイシングにより個片化された半導体チップCP1,CP2,CP3の裏面に、それぞれ接着剤層11,12,13を貼着させたまま、接着シートの基材から剥離できる。ダイボンディング工程では、半導体チップCP1が基板21に載置される前、または載置後に加熱され、半導体チップCP2,CP3は、下段の半導体チップの表面に載置される前、または載置後に加熱される。ダイボンディング工程の条件は、第一実施形態と同様である。
【0104】
本実施形態では、半導体チップが仮着された状態で、順次、半導体チップを積層させ、ワイヤボンディング工程を経て、モールド封止工程および後硬化(ポストモールドキュア)工程の加熱および加圧処理により接着剤組成物を本硬化させることができる。そのため、本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、接着剤層11,12,13を一括して硬化させることができる。
また、接着剤層11,12,13に含まれる接着剤組成物は、前記数式(1)および前記数式(2)を満たす。
ゆえに、本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、スタック構造の半導体装置の製造効率および接着信頼性を向上させることができる。
【0105】
〔実施形態の変形〕
本発明は、上述の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲で、上述の実施形態を変形した態様などを含む。
【0106】
本発明に係る接着剤組成物は、半導体装置の製造方法における半導体チップを接着する用途に限定されず、例えば、半導体化合物、ガラス、セラミックス、および金属などを接着する用途にも適合し得る。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0108】
〔1〕接着剤組成物の硬化物の評価
調製した接着剤組成物について第一の加熱条件で熱処理して第一の熱処理物を得た。第一の加熱条件は、175℃および2時間とした。
また、別途、調製した接着剤組成物について第二の加熱条件で熱処理して第二の熱処理物を得た。第二の加熱条件は、175℃および5時間とした。
各接着剤組成物の第一の熱処理物および第二の熱処理物について、プロトンパルスNMR測定を行った。本実施例では、プロトンパルスNMR測定装置として、BRUKER社製のMinispec(製品名)を使用した。
プロトンパルスNMRの測定条件は、以下のとおりである。
・測定法 :Solid echo法 (パルス系列90°x−τ−90°y)
・測定温度:95℃(アクリル共重合体単体のガラス転移温度(約35℃)とエポキシ熱硬化成分単体硬化物のガラス転移温度(約150℃)の中間である95℃とした。)
・測定試料:第一の熱処理物または第二の熱処理物を約1.3g、NMR測定用試料管に入れた。
・パルス幅:26μs
・測定時間:2ms
・測定繰り返し回数:300回
【0109】
アクリル重合体単体についてもプロトンパルスNMR測定を実施した。ただし、測定温度は、アクリル重合体単体のガラス転移温度(約35℃)以上である40℃とした。
【0110】
また、測定試料を入れずにプロトンパルスNMR測定用試料管のみを測定試料と同じ条件で測定し、試料管のみの測定結果をバックグラウンドとして、測定試料(第一の熱処理物または第二の熱処理物)の各測定結果から差し引くことにより測定試料のみのFID曲線を求めた。
FID曲線の解析には、前記数式(3A)を用いた。本実施例では、マイクロソフト社製エクセルが備えるソルバー機能を利用して、各測定結果中の各々の測定点と前記数式(3A)の差の自乗和が最小になるように、T(s)、T(l)、F(s)およびF(l)を求めた。
また、アクリル重合体単体のプロトンパルスNMR測定結果から、0.1ミリ秒以下の横緩和時間T(s)(ac)を有するプロトン成分の割合F(s)(ac)を求めた。
【0111】
〔2〕接着剤層付き半導体チップの作製
ウエハバックサイドグラインド装置((株)ディスコ製、DGP8760)により、シリコンウエハの表面にドライポリッシュ処理を施した。接着シートを、処理後のシリコンウエハ(200mm径、厚さ75μm)のドライポリッシュ処理面に、テープマウンター(リンテック(株)製、Adwill RAD−2500 m/8)を用いて貼付する
とともに、リングフレームに固定した。
次に、ダイシング装置((株)ディスコ製、DFD651)を使用し、シリコンウエハを8mm×8mmのサイズのチップにダイシングした。ダイシングの際の切り込み量は、接着シートの基材に対してチップ側から20μmの深さで切り込むようにした。ダイシング後、接着シートの接着剤層とともにチップを基材からピックアップして、下段チップを得た。Adwillは、登録商標である。
【0112】
〔3〕半導体パッケージの製造
チップをダイボンドする配線基板として、銅箔張り積層板の銅箔に回路パターンが形成され、該パターン上にソルダーレジストを有している2層両面基板を用いた。具体的には、銅箔張り積層板は、三菱ガス化学(株)製のBTレジンCCL−HL832HSを用い、ソルダーレジストは、太陽インキ製造(株)製のPSR−4000 AUS303を用い、2層両面基板は、日本CMK(株)製のLNTEG0001(サイズ:157mm×70mm×0.22t、最大凹凸15μm)を用いた。なお、水分を除去するため、2層両面基板を125℃の雰囲気下に20時間静置して、乾燥させた。
【0113】
前記〔2〕でピックアップして得た接着剤層付き半導体チップ(下段チップ)を、接着剤層が2層両面基板とチップとの間に介在するように、乾燥後の2層両面基板の上に載置した。載置時、125℃、2.45N/チップ(≒250gf/チップ)、および0.5秒間の条件で下段チップを2層両面基板にダイボンドした。さらに、接着剤層付き半導体チップ(上段チップ)を前記〔2〕と同様にしてピックアップし、既にダイボンドした下段チップの上に載置した。上段チップの載置時、125℃、2.45N/チップ、および0.5秒間の条件で上段チップを下段チップの上にダイボンドした。
上段チップのダイボンド後、接着剤層付半導体チップが搭載された2層両面基板を、ワイヤボンディング工程を想定した175℃および2時間の加熱条件(第一の加熱条件)で熱処理した。
【0114】
第一の加熱条件で熱処理後、上段チップおよび下段チップが実装された2層両面基板を、封止厚さが400μmになるようにモールド樹脂で封止した。封止は、封止装置を用いて、180℃、樹脂注入圧力6.9MPa、および120秒の条件で、トランスファー成型によって行い、その後、常圧下、175℃、および5時間(第二の加熱条件)の条件でモールド樹脂を充分に硬化させた。モールド樹脂として、京セラケミカル(株)製のKE−G1250を用いた。封止装置として、アピックヤマダ(株)製のMPC−06M Trial Pressを用いた。
【0115】
半導体チップの封止後、封止された前記2層両面基板をダイシングテープ(リンテック(株)製、AdwillD−510T)に貼付して、ダイシング装置((株)ディスコ製、DFD651)を使用して15.25mm×15.25mmサイズにダイシングすることで、表面実装性評価用の半導体パッケージを得た。
【0116】
〔4〕半導体パッケージの表面実装性の評価
前記〔3〕で得られた半導体パッケージを、85℃および60%RHの条件下で、168時間放置して吸湿させた。吸湿後の半導体パッケージを、最高温度260℃、および加熱時間1分間の条件でIRリフローを3回行った。なお、IRリフローは、(株)相模理工製のリフロー炉(WL−15−20DNX型)を用いて行った。
IRリフロー後の半導体パッケージについて、上段チップと下段チップとの接合部の剥がれの有無、およびパッケージクラック発生の有無を、走査型超音波探傷装置および断面観察により評価した。上段チップと下段チップとの接合部に面積5.0mm以上の剥離を観察した場合に、剥がれが発生していると判断した。また、チップ接合部の外周の封止樹脂部に面積5.0mm以上の割れを観察した場合に、パッケージクラックが生じていると判断した。走査型超音波探傷装置としては、日立建機ファインテック(株)製のHye−Focusを用いた。
評価した半導体パッケージの数は、接着シートごとに25個とした。25個中、接合部の剥がれ、およびパッケージクラックが生じていない半導体パッケージの個数を数えて、良品数を求めた。
【0117】
〔5〕接着剤組成物の調製
実施例および比較例に係る接着剤組成物の調製に用いた化合物を以下に示す。
【0118】
(5−1)アクリル重合体(A)
(A1)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=95質量%/5質量%
重量平均分子量68万
Mw/Mn=2.0
ガラス転移温度35℃
【0119】
(A2)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=95質量%/5質量%
重量平均分子量71万
Mw/Mn=1.8
ガラス転移温度34℃
【0120】
(A3)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=85質量%/15質量%
重量平均分子量70万
Mw/Mn=1.3
ガラス転移温度32℃
【0121】
(A4)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=95質量%/5質量%
重量平均分子量45万
Mw/Mn=1.6
ガラス転移温度35℃
【0122】
(A5)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=85質量%/15質量%
重量平均分子量13万
Mw/Mn=1.3
ガラス転移温度32℃
【0123】
(A6)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=85質量%/15質量%
重量平均分子量37万
Mw/Mn=1.3
ガラス転移温度32℃
【0124】
(A7)アクリル重合体
メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=95質量%/5質量%
重量平均分子量30万
Mw/Mn=1.3
ガラス転移温度35℃
【0125】
・ガラス転移温度(Tg)の評価;
アクリル重合体をメチルエチルケトンに溶解させてアクリル重合体溶液を製造した。製造したアクリル重合体溶液を剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムの上に塗布し、塗膜を乾燥させた。アクリル重合体溶液の塗布および塗膜の乾燥を繰り返して膜を積層することにより、厚さ200μmのTg評価用フィルムを製造した。
このTg評価用フィルムを約20mm×5mmの短冊状に切断して試験片を製造した。
この試験片を、粘弾性測定装置(TAインスツルメント(株)製、DMA Q800)に供し、試験片のtanδ(損失弾性率と貯蔵弾性率との比)を、周波数11Hz、0〜300℃の温度条件で測定した。さらに、得られたtanδ(損失弾性率と貯蔵弾性率との比)のピーク温度から、Tgを求めた。
【0126】
(5−2)エポキシ樹脂(B)
アクリロイル基付加クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、製品名:CNA−147)
【0127】
(5−3)熱硬化剤(C)
アラルキルフェノール樹脂(三井化学(株)製、製品名:ミレックスXLC−4L)
【0128】
(5−4)シリカフィラー(D)
メタクリル基修飾のシリカフィラー(アドマテックス(株)製、製品名:YA050C−MJE、平均粒径0.05μm)
【0129】
(5−4)架橋剤(E)
芳香族性ポリイソシアナート(日本ポリウレタン工業(株)製、製品名:コロネートL)
【0130】
(5−5)カップリング剤(F)
シランカップリング剤(信越化学(株)社製、製品名:KBM403)
【0131】
実施例1〜3および比較例1〜4において調製した接着剤組成物の組成を表1に示す。表1中、各化合物の配合量の値は、固形分換算の質量部を示す。本明細書において固形分とは、溶媒以外の全成分をいう。
【0132】
【表1】
【0133】
表1に記載の実施例および比較例に係る接着剤組成物を、メチルエチルケトンにて固形分濃度が20質量%となるように希釈した。希釈した接着剤組成物をシリコーン処理が施された剥離フィルム(リンテック(株)製、SP−PET381031)上に塗布して塗膜を形成した。塗布後、塗膜をオーブンで100℃、および2分間の条件で加熱して乾燥させて、厚みが約20μmの接着剤層を形成させた。その後、接着剤層と基材であるポリエチレンフィルム(厚み100μm、表面張力33mN/m)とを貼り合わせ、接着剤層を基材上に転写させることで、接着シートを得た。
以上のようにして得られた接着剤組成物および接着シートを用いて前述の各種試験を行った。プロトンパルスNMRの解析結果、および表面実装性の評価結果を表2に示す。
【0134】
【表2】
【0135】
表2に示すように実施例1〜3の接着剤組成物は、横緩和時間の変化率ΔTが15%以上であり、第二の加熱条件で得た第二の熱処理物の最も短い横緩和時間T(s)(B)が、0.030ミリ秒以下であった。表2に示すように、実施例1〜3の接着剤組成物を用いて作製した半導体パッケージにおいては、接合部の剥がれおよびパッケージクラックが発生しなかった。一方で、比較例1〜4の接着剤組成物を用いて作製した半導体パッケージにおいては、剥がれおよびパッケージクラックが発生し、良品数が半数未満であった。ゆえに、実施例1〜3の接着剤組成物によれば、接着信頼性を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、半導体装置の製造方法および接着剤組成物の製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0137】
10,11,12,13…接着剤層、20,21…基板、30…ワイヤ、40…封止樹脂、50…外部電極、CP,CP1,CP2,CP3…半導体チップ。
図1
図2
図3