(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物である、請求項1又は2に記載の溶液。
前記環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含み、環状アミド化合物以外の溶媒は、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、炭化水素系溶媒、エーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、トリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、プロピレングリコールジアルキル化合物、ジプロピレングリコールジアルキルおよびトリプロピレングリコールジアルキル化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶液。
【背景技術】
【0002】
可視光線に対して高い透過性を有する透明な酸化亜鉛薄膜は、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、CIGS、有機薄膜太陽電池のバッファ層、色素増感太陽電池の電極膜、帯電防止膜、薄膜トランジスタ、化合物半導体発光素子、蛍光体素子、抗菌・脱臭膜、圧電膜、バリスタ膜、メッキ膜、等に使用され、幅広い用途を持つ(非特許文献1)。
【0003】
透明な酸化亜鉛薄膜の製造方法として種々の方法が知られている(非特許文献2)が、真空容器を用いる必要がなく装置が簡便で、膜形成速度が速いため生産性も高く膜製造コストが低い塗布法による製造が望ましい。
【0004】
塗布法として、スピンコート法(特許文献1)、ディップコート法(非特許文献3)、スプレー熱分解法(非特許文献4)等がある。
【0005】
上記スピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法では、それぞれ塗布後に基板温度を350℃以上に加熱することで酸化亜鉛薄膜を得ている。
【0006】
しかし、透明な酸化亜鉛薄膜は、基板としてプラスチック基板を用いるようになってきている。そのため、透明な酸化亜鉛薄膜の形成時に適用される加熱は、プラスチック基板の耐熱温度以下で実施される必要がある。しかるに、上記スピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法では、プラスチックの耐熱温度以下の加熱では、透明な酸化亜鉛薄膜を得ることはできない。
【0007】
そこで、本発明者らの検討により、ジアルキル亜鉛と水を反応させたジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を用いることで、300℃以下の温度でも透明な酸化亜鉛薄膜を形成する方法が見出された(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2に記載のジエチル亜鉛部分加水分解物含有溶液は、水又は水分との反応性があり、そのため、透明な酸化亜鉛薄膜を形成するためには、通常、乾燥状態で供給される窒素、アルゴン等の不活性ガスや乾燥処理を施した空気中で製膜をする必要がある。不活性ガスや空気の乾燥状態を維持しつつ操作をするには、不活性ガス、不活性ガス供給設備、または空気の乾燥装置、さらにはグローブボックス等のガス保持設備を必要とし、酸化亜鉛薄膜の形成コストが通常の塗布法よりやや高くなるという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、空気(大気)に含まれる水分(湿気)対する安定性が高く、乾燥処理を施していない空気(大気)中での自然発火性が実質的に無い、乾燥処理を施していない空気(大気)中での取扱いが可能であり、酸化亜鉛薄膜の形成を乾燥処理を施していない空気(大気)中で行うことが可能なジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を提供することである。加えて本発明は、空気中での実施も可能な、酸化亜鉛薄膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の通りである。
[1]
下記一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛の部分加水分解物及び溶媒を含有する、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液であって、
前記溶媒は、沸点が160℃以上であり、下記一般式(2)で示すアミド構造を有し、かつ、環状構造を有する有機化合物(以下、環状アミド化合物と呼ぶ)であり、
前記部分加水分解物は、前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対して、モル比が0.4〜0.9の範囲の水で加水分解したものである、
前記溶液。
【化1】
(式中、R
1は炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基である。)
【化2】
[2]
前記環状アミド化合物は、沸点が160℃以上の化合物である、[1]に記載の溶液。
[3]
ジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対してモル比で1以上の前記環状アミド化合物を含有する、[1]又は[2]に記載の溶液。
[4]
前記環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の溶液。
[5]
前記ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の溶液。
[6]
前記環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含み、環状アミド化合物以外の溶媒は、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、炭化水素系溶媒、エーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、トリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、プロピレングリコールジアルキル化合物、ジプロピレングリコールジアルキルおよびトリプロピレングリコールジアルキル化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の溶液。
[7]
[1]〜[6]のいずれか1項に記載のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を基材に塗布し、次いで300℃以下の温度で基材を加熱することにより酸化亜鉛薄膜を得ることを特徴とする、酸化亜鉛薄膜の製造方法。
[8]
前記塗布を空気中で行うことを特徴とする、[7]に記載の製造方法。
[9]
前記酸化亜鉛薄膜は、550nmの可視光線に対して80%以上の透過率を有する、[7]又は[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気中で安定であり、そのため取扱いが容易であり、空気中で透明な酸化亜鉛薄膜を形成しうるジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を提供することができ、かつ、本発明のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を用いれば、300℃以下の基材温度で加熱することにより透明な酸化亜鉛薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ジアルキル亜鉛加水分解物含有溶液]
本発明の第一の態様は、一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛の部分加水分解物及び溶媒を含有する、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液である。前記溶媒は、沸点が160℃以上であり、下記一般式(2)で示すアミド構造を有し、かつ、環状構造を有する有機化合物(環状アミド化合物と呼ぶことがある)である。さらに、前記部分加水分解物は、前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対して、モル比が0.6〜0.9の範囲の水で加水分解したものである。前記部分加水分解物は、前記ジアルキル亜鉛と前記環状アミド化合物との混合物に対して水を添加してジアルキル亜鉛を加水分解することで得られる物であることが、加水分解の操作により、本発明のジアルキル亜鉛加水分解物含有溶液を得ることができることから適当である。
【0016】
【化3】
(式中、R
1は炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基である。)
アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基を挙げることができるが、これらに限定される意図ではない。
【0018】
環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン(NMPと略記することがある。沸点204℃)、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン(沸点220℃)、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(沸点約245℃)、又はそれらの混合物であることができる。
【0019】
前記溶媒として前記環状アミド化合物を用いることで、空気に対する安定性ガラス向上する理由は定かではなく、また理論に拘泥する意図はないが、前記環状アミド化合物は、比較的高沸点で揮発しにくい、アミド構造中の酸素、窒素の非共有電子対の亜鉛への配位結合、環状構造による嵩高さの減少、環状構造によるリジッド性の増加により空気に対する安定性が大きく向上すると推定される。アミド構造を有する化合物は、ジアルキル亜鉛と反応することが通常である。そのため、事前の予想では、前記環状アミド化合物と混合することでジアルキル亜鉛は化学変化を起こすと推察していた。しかし、予想外にジアルキル亜鉛と前記環状アミド化合物は反応せず、ジアルキル亜鉛の状態を保持するとともに、ジアルキル亜鉛を部分加水分解した後にも、部分加水分解物の空気に対する安定性を向上させることを見出して、本発明を完成させた。
【0020】
一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛の例としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ジ−tert−ブチル亜鉛等をあげることができる。価格が安価であるという観点から、ジエチル亜鉛が好ましい。但し、これらの化合物に限定される意図ではない。
【0021】
前記環状アミド化合物は、前記ジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対するモル比で1以上とすることが、化学的に安定な部分加水分解物含有溶液を得るとの観点から好ましい。好ましくは、前記ジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対するモル比は、2以上、さらに好ましくは3以上である。上限は、ジアルキル亜鉛または部分加水分解物の溶液中の濃度や、環状アミド化合物以外の溶媒の有無や含有量などに応じて適宜設定できる。尚、ジアルキル亜鉛を部分加水分解物とすることで、空気に対する化学的安定性はジアルキル亜鉛に比べれば向上するが、依然として安定性に欠けることから、化学的により安定な部分加水分解物含有溶液を得るという観点から、上記所定量の環状アミド化合物との混合物とすることが好ましい。
【0022】
本発明の部分加水分解物含有溶液は、環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含むことができる。環状アミド化合物以外の溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、オクタン、n−デカン、等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル、等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサラン、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル化合物;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のトリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;プロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキル化合物;ジプロピレングリコールジメチル等のジプロピレングリコールジアルキル;トリプロピレングリコールジメチル等のトリプロピレングリコールジアルキル化合物、等を挙げることができる。環状アミド化合物以外の溶媒の添加量は、環状アミド化合物の効果を妨げない範囲であれば制限はなく、例えば、環状アミド化合物100質量部に対して100質量部以下とすることができる。但し、ジアルキル亜鉛の種類、環状アミド化合物及び環状アミド化合物以外の溶媒の種類により添加可能な範囲は変化する。また、本発明においては、ジアルキル亜鉛部分加水分解物の化学的安定性は、ジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対する環状アミド化合物のモル比に依存する傾向があり、環状アミド化合物以外の溶媒の量は、ジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対する環状アミド化合物のモル比が、化学的安定性を確保できるに十分な量であれば、限定されるものではない。
【0023】
ジアルキル亜鉛部分加水分解物の調製は、前記ジアルキル亜鉛に対するモル比が0.4〜0.9の範囲で、水、又は水を含有する溶液を用いて行う。ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.4未満では、溶媒を乾燥除去した後も液状になり易く(固体になりにくく)均一な酸化亜鉛薄膜を形成することが困難である。均一な酸化亜鉛薄膜を形成するという観点からは、ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.6以上であることがより好ましい。一方、ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.9を超えると溶媒に不溶なゲル、固体が析出し、ゲル、固体による均一な酸化亜鉛薄膜の形成が困難になる。析出したゲルや固体は、ろ過除去することも可能であるが、亜鉛分の損失に繋がるので好ましくない。
【0024】
前記ジアルキル亜鉛部分加水分解物の調製は、具体的には、ジアルキル亜鉛との反応性を考慮すると、例えば、乾燥雰囲気(例えば、乾燥状態で供給される不活性ガス雰囲気)下、前記ジアルキル亜鉛を前記環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒に溶解した溶液、又は前記ジアルキル亜鉛を環状アミド化合物以外の溶媒に溶解した溶液に、水、又は水を含有する溶液を添加して行うことができる。水自身(溶媒との混合物ではない純粋な水)を添加してもよいが、ジアルキル亜鉛と水の反応時の発熱制御の点からは水を含有する溶液を添加して行うことが好ましい。水を含有する溶液の溶媒は、環状アミド化合物、環状アミド化合物と環状アミド化合物以外の溶媒の混合溶媒、または環状アミド化合物以外の溶媒の何れであっても良いが、水の溶媒への溶解度、製造の簡易さ、という観点から、環状アミド化合物を用いることが好ましい。また、前記ジアルキル亜鉛を環状アミド化合物以外の溶媒に溶解した溶液に、水、又は水を含有する溶液を添加する場合には、水を含有する溶液の溶媒を環状アミド化合物とすること、あるいは、部分加水分解が終了後に、環状アミド化合物を添加することで、本発明の組成物を調製することができる。
【0025】
水、又は水を含有する溶液を添加する前記ジアルキル亜鉛溶液中のジアルキル亜鉛の濃度は、0.1〜50質量%とすることができ、0.1〜30質量%の範囲であることが、塗布における造膜性(形成された膜の密着性、均一性等)の容易さという観点から好ましい。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0026】
前記ジアルキル亜鉛溶液への水、又は水を含有する溶液の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分〜10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は−20〜150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると−20〜80℃の範囲であることが好ましい。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0027】
水、又は水を含有する溶液の添加後に、前記ジアルキル亜鉛の水による部分加水分解をさらに進行させるために、0.1〜50時間熟成させることができる。熟成温度は−20〜150℃の間で任意の温度を選択できる。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0028】
前記環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒、ジアルキル亜鉛、水、又は水を含有する溶液は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。加水分解反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0029】
上記部分加水分解により、上記ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液が得られる。部分加水分解物の組成についての解析は古くから行われている。しかし、報告により生成物の組成結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されていない。また、溶媒、濃度、水の添加モル比、添加温度、反応温度、反応時間、等によっても生成物の組成は変化する。
【0030】
本発明の方法におけるジアルキル亜鉛部分加水分解物は下記一般式(3)で表される構造単位を含む化合物の混合物であると推定される。
【0031】
【化5】
(式中、R
1は一般式(1)におけるR
1と同じであり、mは1〜20の整数である。)
【0032】
前記部分加水分解は、固体(ゲル)等が析出しない条件で行うことが好ましく、固体(ゲル)等は、ジアルキル亜鉛の加水分解が進んだ、完全加水分解物(酸化亜鉛)であるか、または、上記一般式(3)におけるmが20を超え、分子中のアルキル基R
1の量が低下して、溶媒に対する溶解度が低下した部分加水分解物である。部分加水分解終了後、このような固体(ゲル)等が析出している場合には、ろ過、遠心分離、デカント等の方法により精製することで固体等を除去することができ、この除去操作により、溶媒に溶解した部分加水分解物のみを実質的に含有し、透明性が良好な酸化亜鉛薄膜調製に適したジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を得ることができる。
【0033】
上記ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液は、例えば、濃縮(溶媒除去)により固形分濃度を調整する(増大させる)ことができる。また、濃縮後または濃縮することなく、加水分解反応に使用した溶媒、加水分解反応に使用したものとは異なる溶媒を添加して、固形分濃度、極性、粘度、沸点、経済性等を適宜調整することもできる。
【0034】
加水分解反応に使用したものとは異なる溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、オクタン、n−デカン、等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル、等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサラン、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル化合物;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のトリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;プロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキル化合物;ジプロピレングリコールジメチル等のジプロピレングリコールジアルキル;トリプロピレングリコールジメチル等のトリプロピレングリコールジアルキル化合物、等を挙げることができる。尚、加水分解反応に使用したものとは異なる溶媒を用いる場合にも、得られるジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液中の環状アミド化合物の量は、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液中の亜鉛に対してモル比で1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上であることを維持することが本発明の効果を維持するという観点から適当である。
【0035】
本発明のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液におけるジアルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、用途に応じて適宜決定できる。含有量は、環状アミド化合物の量及び/又は環状アミド化合物以外の溶媒の量を調整することで調整できる。ジアルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、例えば、0.1〜50質量%の範囲で、後述する酸化亜鉛薄膜の製造に適した性状等も考慮して、適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0036】
[酸化亜鉛薄膜の製造方法]
本発明の第2の態様は、酸化亜鉛薄膜の製造方法であり、この方法は、前記本発明のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を基材に塗布することを含む、酸化亜鉛薄膜を得る方法である。
【0037】
前記基材への前記溶液の塗布は、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、スリットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法、等の慣用の方法で行うことができる。
【0038】
前記基材への前記溶液の塗布は、不活性雰囲気下でも空気雰囲気下でも行うことができるが、経済性の観点から、空気雰囲気下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0039】
前記基材への前記溶液の塗布は、加圧下や減圧下でも実施できるが、経済性の点から、大気圧下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0040】
前記基材は、特に制限はないが、例えば、鉛ガラス、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、等のガラス;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、複合酸化物、等の酸化物;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン(COP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリウレタン、トリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)、セロファン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、等の高分子、等を挙げることができる。
【0041】
前記基材の形状は、特に制限はないが、例えば、粉、フィルム、板、又は三次元形状を有する立体構造物を挙げることができる。
【0042】
前記ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を塗布した基材は、所定の温度において溶媒を乾燥し、次いで所定の温度で焼成するか、または所定の温度で乾燥と焼成を並行して行うことにより酸化亜鉛薄膜を形成させることができる。尚、塗布を、スプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法により行う場合には、塗布前に基材を所定の温度に加熱できるため、塗布と同時に溶媒を乾燥、または、乾燥と同時に焼成させることができる。
【0043】
前記溶媒を乾燥させるための所定の温度は、基材の耐熱性を考慮すると300℃以下が好ましく、20〜250℃の間がさらに好ましい。前記溶媒を、例えば、0.5〜60分かけて乾燥させることができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0044】
前記酸化亜鉛を形成させるための焼成は、例えば、50〜550℃の範囲の任意の温度で実施することができる。但し、基材の種類(耐熱性)を考慮して、基材がダメージを受けない温度に設定することが適当であり、耐熱性の低い基材に対しても基材にダメージを与えることなく酸化亜鉛薄膜を形成させることができるという観点からは、本発明の方法においては、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の塗布膜を300℃以下の温度で焼成することより、酸化亜鉛薄膜を形成させることが適当である。焼成させる所定の温度が、溶媒を乾燥させる所定の温度と同一な場合、溶媒の乾燥と焼成を並行して行うことができる。焼成時間は、溶媒を乾燥して前駆膜を得た後に異なる温度で焼成する場合、および溶媒乾燥と焼成を並行して行う場合の何れの場合にも、例えば、0.5〜300分かけて焼成させることができ、焼成時間は、焼成温度、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の組成、塗布膜の膜厚などにより適宜設定できる。
【0045】
前記のようにして得られる酸化亜鉛薄膜の膜厚は、例えば、0.005〜3μmであることができる。1回の操作で成形される酸化亜鉛薄膜の膜厚は、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の組成や濃度、塗布方法や条件を調整することで調整でき、さらに必要に応じ、前記の塗布、乾燥、焼成の工程を複数回繰り返すことにより、より厚いものを得ることもできる。
【0046】
必要に応じて前記のようにして得られた酸化亜鉛薄膜を、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、多量に水分が存在する水蒸気雰囲気下、またはアルゴン、窒素、酸素等のプラズマ雰囲気下で、所定の温度で加熱することにより酸化亜鉛の結晶性、緻密性を向上させることもできる。紫外線等の光照射やマイクロ波処理により得られた酸化亜鉛薄膜中の残存有機物等を除去することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0048】
本発明のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の調製は、窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0049】
<物性測定>
本発明のジアルキル亜鉛含有溶液、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液をC
6D
6に溶解させた後、NMR装置(JEOL RESONANCE社製「JNM−ECA500」)にて1H−NMR測定を実施した。
【0050】
本発明の製造方法により作成された酸化亜鉛薄膜は、FT−IR分光装置(日本分光社製「FT/IR−4100」)にてZnSeプリズムを用いたATR(Attenuated Total Reflection:全反射)法によりATR補正なしで相対的にIR測定を実施した。
【0051】
本来ZnSeプリズムを用いた場合、屈折率が1.7を超える薄膜の測定は難しく、一般的な酸化亜鉛の屈折率が1.9であることを考えると測定は難しいと想定された。しかし、驚くべきことに測定が可能であった。
【0052】
本発明の製造方法により作成された酸化亜鉛薄膜の膜厚測定は、膜の一部をナイフで削り取り、触針式表面形状測定装置(ブルカーナノ社製、DektakXT−S)を用いて実施した。
【0053】
[参考例1]
N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)5.0gにジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)2.15gを25℃で加え、十分攪拌することにより30質量%のジエチル亜鉛NMP溶液を得た。NMRスペクトルは
図1のようになり、24時間後再測定したところ全く同じスペクトルが得られた。
【0054】
NMR(1H,C
6D
6,ppm)
ジエチル亜鉛
【化6】
【化7】
【0055】
[実施例1]
NMP90.0gにジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)10.0gを25℃で加え、十分攪拌した(NMP/ジエチル亜鉛(モル比)=11.2)。−15℃に冷却した後、11.5質量%水含有NMP溶液11.6g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を90分かけて滴下して加えた。−15℃で30分熟成した後、25℃まで昇温した後5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物NMP溶液を得た。空気(湿度約40%)中に少量取り出したところ自然発火性はなかった。NMR測定したところ
図2のようなスペクトルが得られ、実施例1のスペクトルと比較してジエチル亜鉛のエチル基由来のピークの消失したことから、原料のジエチル亜鉛の消失が確認された。
【0056】
[実施例2]
NMP90.0gにジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)10.0gを25℃で加え、十分攪拌した(NMP/ジエチル亜鉛(モル比)=11.2)。−15℃に冷却した後、11.5質量%水含有NMP溶液15.4g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.8)を90分かけて滴下して加えた。−15℃で30分熟成した後、25℃まで昇温した後5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物NMP溶液を得た。空気(湿度約40%)中に少量取り出したところ自然発火性はなかった。
【0057】
[実施例3]
NMP80.0gに、混合キシレン10.0g、ジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)10.0gを25℃で加え、十分攪拌した(NMP/ジエチル亜鉛(モル比)=9.97)。−15℃に冷却した後、11.5質量%水含有NMP溶液11.5g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を90分間かけて滴下して加えた。−15℃で30分熟成した後、25℃まで昇温した後5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物NMPキシレン混合溶液を得た。空気(湿度約40%)中に少量取り出したところ自然発火性はなかった。
【0058】
[参考例1]
NMP90.0gにジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)10.0gを25℃で加え、十分攪拌した(NMP/ジエチル亜鉛(モル比)=11.2)。−15℃に冷却した後、11.5質量%水NMP溶液19.4g([水]/[ジエチル亜鉛]=1.0)を90分かけて滴下して加えた。−15℃で30分熟成した後、25℃まで昇温した後5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物NMP溶液を得た。しかし、数日以内にゲル化し、薄黄色透明な固体になり、塗布困難な組成物となった。
【0059】
[実施例4]
実施例1で得られたジエチル亜鉛部分加水分解組成物NMP溶液を、空気雰囲気下、15mm角のガラス基板(コーニング社製、EagleXG)上に100μl滴下し、スピンコーターにより2000rpm、20秒間スピンして塗布した。100℃で5分乾燥を兼ねた加熱を実施することで薄膜を形成させた。
【0060】
垂直透過率を測定したところ、
図3のようなスペクトルが得られ、550nmの光の垂直透過率は99%であった。紫外領域の垂直透過率が低いことから酸化亜鉛の形成が確認された。ATR法によるIR測定したところ、
図4のようなスペクトルが得られた。550から1500cm
-1付近にブロードなZn−O−Znの振動ピーク、2500から4000cm
-1付近にブロードなZn−OHの振動ピークが確認され、Zn−O−Zn、Zn−OH結合の形成が確認できた。したがって、酸化亜鉛薄膜の形成が確認された。3000cm
-1付近の有機物の振動ピークがほとんどないため、残存有機物が少ないことが確認できた。ガラス基板自体のATR法によるIRスペクトルは
図5であり明らかに
図4と異なる。膜厚は323nmであった。
【0061】
[実施例5]
実施例2で得られたジエチル亜鉛部分加水分解組成物NMP溶液を滴下した以外は実施例4と同様にして薄膜を形成させた。
【0062】
垂直透過率を測定したところ、
図6のようなスペクトルが得られ、550nmの光の垂直透過率は82%であった。紫外領域の垂直透過率が低いことから酸化亜鉛の形成が確認された。ATR法によるIR測定したところ、
図7のようなスペクトルが得られた。550から1500cm
-1付近にブロードなZn−O−Znの振動ピーク、2500から4000cm
-1付近にブロードなZn−OHの振動ピークが確認され、Zn−O−Zn、Zn−OH結合の形成が確認できた。したがって、酸化亜鉛薄膜の形成が確認された。3000cm
-1付近の有機物の振動ピークがほとんどないため、残存有機物が少ないことが確認できた。ガラス基板自体のATR法によるIRスペクトルは
図5であり明らかに
図7と異なる。膜厚は815nmであった。
【0063】
[比較例1]
テトラヒドロフラン90.0gにジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム社製)10.0gを25℃で加え、十分攪拌した。−15℃に冷却した後、11.5質量%水含有テトラヒドロフラン(以下、THF)溶液11.5g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を90分かけて滴下して加えた。−15℃で30分熟成した後、25℃まで昇温した後5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物THF混合溶液を得た。
【0064】
前記混合溶液を滴下した以外は実施例4と同様にして薄膜を形成させた。垂直透過率を測定したところ、550nmの光の垂直透過率は63%であり、80%未満の不透明な薄膜になった。