(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一の実施の形態>
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の第一の実施の形態における緩衝装置Dは、
図1に示すように、シリンダ1と、リザーバRと、シリンダ1内に作動室を区画するとともに作動室WとリザーバRとを仕切る仕切部材2と、シリンダ1内に移動自在に挿入され作動室Wを伸側室R1と圧側室R2に区画するピストン3と、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与える伸側減衰弁EVと、伸側減衰弁
EVを迂回する第一バイパス路B1と、第一バイパス路B1の途中に設けた第一圧力室PR1と、第一圧力室PR1内に移動自在に挿入される第一フリーピストンF1と、第一フリーピストンF1を附勢する第一ばねS1と、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与える圧側減衰弁CVと、圧側減衰弁CVを迂回する第二バイパス路B2と、第二バイパス路B2の途中に設けた第二圧力室PR2と、第二圧力室PR2内に移動自在に挿入される第二フリーピストンF2と、第二フリーピストンF2を附勢する第二ばねS2とを備えている。この緩衝装置Dは、たとえば、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するため、車両のサスペンションに適用されて使用される。なお、伸側室R1とは、緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。そして、伸側室R1、圧側室R2、第一圧力室PR1および第二圧力室PR2内には作動油等の液体が充填され、また、リザーバR内には、液体と気体が充填されている。なお、前記した伸側室R1、圧側室R2、第一圧力室PR1、第二圧力室PR2およびリザーバR内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0017】
シリンダ1は、有底筒状の外筒5内に挿入されており、この外筒5とシリンダ1の間の環状隙間でリザーバRが形成されている。ピストン3は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の一端に連結され、ピストンロッド4は、シリンダ1の図中上端部から外方へ突出されている。
【0018】
シリンダ1と外筒5の上端は、環状であって内方に挿入されるピストンロッド4の軸方向の移動を案内するロッドガイド6によって閉塞されている。また、シリンダ1の下端は、仕切部材2によって閉塞されており、仕切部材2によってシリンダ1内の作動室WとリザーバRとが仕切られている。なお、ピストンロッド4とロッドガイド6との間、シリンダ1および外筒5とロッドガイド6との間には、図示しないシールが設けられており、シリンダ1および外筒5内が封止されている。
【0019】
そして、シリンダ1内に挿入されたピストン3は、シリンダ1の内周に摺接して、シリンダ1内の作動室Wを
図1中上方の伸側室R1と下方の圧側室R2とに区画している。
【0020】
また、ピストン
3には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側通路7および圧側通路8とが設けられている。伸側通路7には、伸側減衰弁EVが設けられており、伸側減衰弁EVは、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容してこの流れに抵抗を与えるようになっている。伸側減衰弁EVは、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れを阻止する一方通行の弁とされているが、双方向の流れを許容する絞り弁等とされてもよいし、たとえば、周知のオリフィスとリーフバルブとを並列した構成としてもよい。圧側通路8には、圧側逆止弁9が設けられており、圧側逆止弁9は、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容するようになっている。なお、伸側通路7、圧側通路8、伸側減衰弁EVおよび圧側逆止弁9は、本例ではピストン3に設けられているが、他所へ設けるようにしてもよい。
【0021】
仕切部材2には、圧側室R2とリザーバRとを連通する排出通路10および吸込通路11とが設けられている。排出通路10には、圧側減衰弁CVが設けられており、圧側減衰弁CVは、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容してこの流れに抵抗を与えるようになっている。圧側減衰弁CVは、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れを阻止する一方通行の弁とされているが、双方向の流れを許容する絞り弁等とされてもよいし、たとえば、周知のオリフィスとリーフバルブとを並列した構成としてもよい。吸込通路11には、吸込用逆止弁12が設けられており、吸込用逆止弁12は、リザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容するようになっている。なお、排出通路10、吸込通路11、圧側減衰弁CVおよび吸込用逆止弁12は、本例では仕切部材2に設けられているが、他所へ設けるようにしてもよい。
【0022】
このように、緩衝装置Dは、いわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積分の作動油がリザーバRによって給排されて補償される。なお、リザーバRは、シリンダ1と外筒5での形成に代えて、シリンダ1とは別個にタンクを設けて当該タンクでリザーバRを形成するようにしてもよい。
【0023】
つづいて、第一バイパス路B1は、この実施の形態の場合、ピストン3に設けられており、一端が伸側室R1へ、他端が圧側室R2に接続されて、伸側通路7に並列されている。したがって、第一バイパス路B1は、伸側減衰弁EVを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通している。
【0024】
この第一バイパス路B1の途中には、第一圧力室PR1が設けられている。具体的には、ピストン3をハウジングとして第一圧力室PR1が設けられているが、第一圧力室PR1は、ピストンロッド4に設けてもよい。また、第一圧力室PR1は、図示はしないが、ピストンロッド4の先端に螺着されてピストン3をピストンロッド4に固定するピストンナットに設けてもよい。
【0025】
そして、第一圧力室PR1には、第一フリーピストンF1が
図1中上下方向に摺動自在に挿入されており、この第一フリーピストンF1により第一圧力室PR1が伸側室R1に連通される第一上方室UR1と圧側室R2に連通される第一下方室LR1とに区画されている。第一フリーピストンF1は、第一圧力室PR1内で
図1中上下方向に変位することができるようになっている。
【0026】
また、第一圧力室PR1における第一上方室UR1と第一下方室LR1には、第一フリーピストンF1を挟持して中立位置に位置決める一対のばね13,14が収容されており、これらばね13,14で第一ばねS1を構成している。第一ばねS1は、第一フリーピストンF1が前記中立位置から変位すると、その変位量に応じて第一フリーピストンF1を中立位置へ戻す方向の附勢力を発生する。前記した中立位置は、第一フリーピストンF1が第一圧力室PR1に対して第一ばねS1によって位置決められる位置である。この第一フリーピストンF1は、第一下方室LR1側へ変位すると、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流量の一部が第一バイパス路B1を通過するようになり、この流量の一部が伸側減衰弁EVを迂回する。そのため、緩衝装置Dの伸長作動時における第一フリーピストンF1の第一下方室LR1側へのストローク量を大きくしたいので、前記中立位置をなるべく
図1中上方に配置するとよい。
【0027】
緩衝装置Dの収縮作動時には、圧側逆止弁9が開いて、液体はほとんど抵抗なく圧側室R2から伸側室R1へ移動できる。よって、この収縮作動時は、第一フリーピストンF1が第一上方室UR1側へ変位しても伸側室R1と圧側室R2の圧力に差はほとんど生じないので、液体に第一バイパス路B1を積極的に通過させる必要はない。したがって、本例では、一対のばね13,14で第一ばねS1を構成しているが、第一ばねS1は、第一フリーピストンF1の第一下方室LR1側への変位を抑制する附勢力を発揮できればよいので、一つのばねで構成されてもよい。
【0028】
なお、第一フリーピストンF1は、第一圧力室PR1内を
図1中上下方向に移動するようになっており、緩衝装置Dが伸縮する振動方向と第一フリーピストンF1の移動方向が一致している。緩衝装置D全体が
図1中上下方向に振動することによって、第一フリーピストンF1の上下方向の振動が励起されるのを避けたい場合には、第一フリーピストンF1の移動方向を緩衝装置Dの伸縮方向と直交する方向にしてもよい。
【0029】
第一バイパス路B1の途中には、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与える第一弁要素としてのオリフィス15と、オリフィス15と並列されて圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する第一逆止弁16が設けられている。よって、緩衝装置Dが伸長作動を呈して、液体が第一バイパス路B1を伸側室R1から圧側室R2へ通過する場合には、オリフィス15によって抵抗が与えられる。反対に、緩衝装置Dが収縮作動を呈して、液体が第一バイパス路B1を圧側室R2から伸側室R1へ通過する場合には、第一逆止弁16が開いてほとんど抵抗を与えないようになっている。したがって、第一フリーピストンF1が第一下方室LR1側へ変位する場合には、オリフィス15によって液体の流れに抵抗が与えられるために、第一フリーピストンF1の変位が抑制される。他方、第一フリーピストンF1が第一上方室UR1側へ変位する場合には、第一逆止弁16が開いて液体がオリフィス15を迂回して第一逆止弁16を優先的に通過するため、第一フリーピストンF1の変位は抑制されずに速やかに変位する。なお、第一弁要素は、チョークその他の弁とされてもよいし、可変オリフィスとされてもよい。オリフィス15と第一逆止弁16は、第一バイパス路B1の第一圧力室PR1よりも伸側室R1側に設けてもよいし、圧側室R2側に設けてもよい。
【0030】
第一バイパス路B1にオリフィス15と第一逆止弁16を設けるには、
図2に示すように、ピストン3に螺着した軸部材17の外周に軸方向移動に装着されて環状であって外周にオリフィスとして機能する切欠18aを備えたディスクバルブ18と、軸部材17の頭部17aとディスクバルブ18との間に介装されてディスクバルブ18をピストン3へ向けて附勢する円錐ばねSP1とを設け、同じくピストン3に設けた第一バイパス路B1の一部を構成するポート19をディスクバルブ18で開閉する構成を採用できる。ディスクバルブ18は、第一圧力室PR1を形成する中空部20内に収容され、この中空部20に通じるポート19の外周に設けた環状の弁座21に離着座してポートを開閉するようになっている。第一圧力室PR1の圧力が圧側室R2の圧力よりも高いと、ディスクバルブ18はポート19を閉じた状態となるため、液体は、切欠18aを通過して第一圧力室PR1から圧側室R2へ移動する。反対に、圧側室R2の圧力が第一圧力室PR1の圧力よりも高いと、ディスクバルブ18が圧側室R2の圧力により押し上げられて、円錐ばねSP1を縮ませる。すると、ディスクバルブ18がピストン3から離間するように後退してポート19が開き、液体は、このポート19を介して圧側室R2から第一圧力室PR1へ移動する。このように構成すると、切欠18aがオリフィス15として機能し、ディスクバルブ18が第一逆止弁16として機能する。また、このように構成すると、ディスクバルブ18がピストン3内に収容されるため、緩衝装置Dを構成する他の部材との干渉も避けられる。また、円錐ばねSP1を用いてディスクバルブ18を附勢してポート19を閉じる構成を採用すると、ディスクバルブ18の内周が軸部材17に固定されて外周の撓みでポート19を開放する逆止弁に比較して開弁圧を低くでき液体通過時の抵抗を非常に小さくできる。なお、オリフィス15は、ディスクバルブ18の外周の切欠18aで形成するのではなく、ディスクバルブ18が離着座する弁座21に設けてもよい。また、第一圧力室PR1がピストンロッド4やピストンナットに設けられる場合、ディスクバルブ18、ポート19および弁座21についても同様にピストンロッド4やピストンナットに設ければよい。
【0031】
さらに、第二バイパス路B2は、この実施の形態の場合、仕切部材2に設けられており、一端が圧側室R2へ、他端がリザーバRに接続されて、排出通路10に並列されている。したがって、第二バイパス路B2は、圧側減衰弁CVを迂回して圧側室R2とリザーバRとを連通している。
【0032】
そして、第二圧力室PR2には、第二フリーピストンF2が
図1中上下方向に摺動自在に挿入されており、この第二フリーピストンF2により第二圧力室PR2が圧側室R2に連通される第二上方室UR2とリザーバRに連通される第二下方室LR2とに区画されている。第二フリーピストンF2は、第二圧力室PR2内で
図1中上下方向に変位することができるようになっている。
【0033】
また、第二圧力室PR2における第二上方室UR2と第二下方室LR2には、第二フリーピストンF2を挟持して中立位置に位置決める一対のばね22,23が収容されており、これらばね22,23で第二ばねS2を構成している。第二ばねS2は、第二フリーピストンF2が前記中立位置から変位すると、その変位量に応じて第二フリーピストンF2を中立位置へ戻す方向の附勢力を発生する。前記した中立位置は、第二フリーピストンF2が第二圧力室PR2に対して第二ばねS2によって位置決められる位置である。この第二フリーピストンF2は、第二下方室LR2側へ変位すると、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流量の一部が第二バイパス路B2を通過するようになり、この流量の一部が圧側減衰弁CVを迂回する。そのため、緩衝装置Dの収縮作動時における第二フリーピストンF2の第二下方室LR2側へのストローク量を大きくしたいので、前記中立位置をなるべく
図1中上方に配置するとよい。
【0034】
緩衝装置Dの伸長作動時には、吸込用逆止弁12が開いて、液体はほとんど抵抗なくリザーバRから圧側室R2へ移動できる。よって、この伸長作動時は、第二フリーピストンF2が第二上方室UR2側へ変位しても圧側室R2とリザーバRの圧力に差はほとんど生じないので、液体に第二バイパス路B2を積極的に通過させる必要はない。したがって、本例では、一対のばね22,23で第二ばねS2を構成しているが、第二ばねS2は、第二フリーピストンF2の第二下方室LR2側への変位を抑制する附勢力を発揮できればよいので、一つのばねで構成されてもよい。
【0035】
なお、第二フリーピストンF2は、第二圧力室PR2内を
図1中上下方向に移動するようになっており、緩衝装置Dが伸縮する振動方向と第二フリーピストンF2の移動方向が一致している。緩衝装置D全体が
図1中上下方向に振動することによって、第二フリーピストンF2の上下方向の振動が励起されるのを避けたい場合には、第二フリーピストンF2の移動方向を緩衝装置Dの伸縮方向と直交する方向にしてもよい。
【0036】
第二バイパス路B2の途中には、圧側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れに抵抗を与える第二弁要素としてのオリフィス24と、オリフィス24と並列されてリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する第二逆止弁25が設けられている。よって、緩衝装置Dが収縮作動を呈して、液体が第二バイパス路B2を圧側室R2からリザーバRへ通過する場合には、オリフィス24によって抵抗が与えられる。反対に、緩衝装置Dが伸長作動を呈して、液体が第二バイパス路
B2をリザーバRから圧側室R2へ通過する場合には、第二逆止弁25が開いてほとんど抵抗を与えないようになっている。したがって、第二フリーピストンF2が第二下方室LR2側へ変位する場合には、オリフィス24によって液体の流れに抵抗が与えられるために、第二フリーピストンF2の変位が抑制される。他方、第二フリーピストンF2が第二上方室UR2側へ変位する場合には、第二逆止弁25が開いて液体がオリフィス24を迂回して第二逆止弁25を優先的に通過するため、第二フリーピストンF2の変位は抑制されずに速やかに変位する。なお、第二弁要素は、チョークその他の弁とされてもよいし、可変オリフィスとされてもよい。オリフィス24と第二逆止弁25は、第二バイパス路B2の第二圧力室PR2よりも圧側室R2側に設けてもよいし、リザーバR側に設けてもよい。
【0037】
第二バイパス路B2にオリフィス24と第二逆止弁25を設けるには、
図3に示すように、仕切部材2に螺着した軸部材26の外周に軸方向移動に装着されて環状であって外周にオリフィスとして機能する切欠27aを備えたディスクバルブ27と、軸部材26の頭部26aとディスクバルブ27との間に介装されてディスクバルブ27を仕切部材2へ向けて附勢する円錐ばねSP2とを設け、同じく仕切部材2に設けた第二バイパス路B2の一部を構成するポート28をディスクバルブ27で開閉する構成を採用できる。ディスクバルブ27は、第二圧力室PR2を形成する中空部29内に収容され、この中空部29に通じるポート28の外周に設けた環状の弁座30に離着座してポートを開閉するようになっている。第二圧力室PR2の圧力がリザーバRの圧力よりも高いと、ディスクバルブ27はポート28を閉じた状態となるため、液体は、切欠27aを通過して第二圧力室PR2からリザーバRへ移動する。反対に、リザーバRの圧力が第二圧力室PR2の圧力よりも高いと、液体は、ディスクバルブ27がリザーバRの圧力により押し上げられて、円錐ばねSP2を縮ませる。すると、ディスクバルブ27が仕切部材2から離間するように後退してポート28が開き、液体は、このポート28を開いてポート28を介してリザーバRから第二圧力室PR2へ移動する。このように構成すると、切欠27aがオリフィス24として機能し、ディスクバルブ27が第
二逆止弁25として機能する。また、このように構成すると、ディスクバルブ27が仕切部材2内に収容されるため、緩衝装置Dを構成する他の部材との干渉も避けられる。また、円錐ばねSP2を用いてディスクバルブ27を附勢してポート28を閉じる構成を採用すると、ディスクバルブ27の内周が軸部材26に固定されて外周の撓みでポート28を開放する逆止弁に比較して開弁圧を低くでき液体通過時の抵抗を非常に小さくできる。なお、オリフィス24は、ディスクバルブ27の外周の切欠27aで形成するのではなく、ディスクバルブ27が離着座する弁座30に設けてもよい。
【0038】
つづいて、緩衝装置Dの作動について説明する。緩衝装置Dがシリンダ1に対してピストン3が
図1中上方へ移動する伸長作動を呈すると、ピストン3によって伸側室R1が圧縮され、圧側室R2が拡大される。液体は、圧縮される伸側室R1から拡大される圧側室R2へ移動しようとするが、伸側減衰弁EVが抵抗を与えるので伸側室R1の圧力が上昇する。シリンダ1内からピストンロッド4が退出するため、伸側室R1から圧側室R2へ液体が供給されても、ピストンロッド4の退出体積分の液体が不足するため、不足分の液体はリザーバRから供給される。よって、圧側室R2の圧力はほぼリザーバ圧となる。このように、伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じると、差圧によってピストン3を
図1中押し下げる方向の減衰力が発揮され、緩衝装置Dは伸長作動を妨げる伸側減衰力を発揮する。また、伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じると、第一フリーピストンF1が伸側室R1の導かれる第一上方室UR1の圧力によって押されて変位する。第一フリーピストンF1は、第一上方室UR1の圧力による
図1中下向きの力と、第一下方室LR1の圧力による
図1中上向きの力および第一フリーピストンF1の変位によって発生する第一ばねS1の上向きの力の合力とが釣り合うまで
図1中下方へ変位する。第一フリーピストンF1が変位すると、その変位量に第一フリーピストンF1の断面積を乗じた量の液体が伸側減衰弁EVを迂回して第一バイパス路B1を通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動したと看做せる。このように伸側減衰弁EVを通過する流量に対して、伸側減衰弁EVを迂回して第一バイパス路B1を通過する流量と看做せる流量の比率が大きくなればなるほど、伸側減衰力は小さくなる。
【0039】
対して、緩衝装置Dがシリンダ1に対してピストン3が
図1中下方へ移動する収縮作動を呈すると、ピストン3によって圧側室R2が圧縮され、伸側室R1が拡大される。液体は、圧縮される圧側室R2から圧側逆止弁9を通じて伸側室R1へ移動するが、シリンダ1内へピストンロッド4が侵入するため、ピストンロッド4の侵入体積分の液体が過剰となるため、過剰分の液体はリザーバRへ圧側減衰弁CVを通じて排出される。よって、伸側室R1と圧側室R2の圧力(シリンダ内圧力)はほぼ等圧となるが、シリンダ1からリザーバRへ移動する液体の流れに圧側減衰弁CVが抵抗を与えるのでシリンダ内圧力は上昇する。このように、伸側室R1と圧側室R2の圧力が等圧であってもシリンダ内圧力が上昇すると、ピストン3を
図1中押し上げる方向の減衰力が発揮され、緩衝装置Dは収縮作動を妨げる圧側減衰力を発揮する。また、圧側室R2とリザーバRの圧力に差が生じると、第二フリーピストンF2が圧側室R2の導かれる第二上方室UR2の圧力によって押されて変位する。第二フリーピストンF2は、第二上方室UR2の圧力による
図1中下向きの力と、第二下方室LR2の圧力による
図1中上向きの力および第二フリーピストンF2の変位によって発生する第二ばねS2の上向きの力の合力とが釣り合うまで
図1中下方へ変位する。第二フリーピストンF2が変位すると、その変位量に第二フリーピストンF2の断面積を乗じた量の液体が圧側減衰弁CVを迂回して第二バイパス路B2を通過して圧側室R2からリザーバRへ移動したと看做せる。このように圧側減衰弁CVを通過する流量に対して、圧側減衰弁CVを迂回して第二バイパス路B2を通過する流量と看做せる流量の比率が大きくなればなるほど、圧側減衰力は小さくなる。
【0040】
ここで、緩衝装置Dの伸縮の周波数が低周波であっても高周波であっても、緩衝装置Dのピストン速度が同じである場合、低周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅は、高周波振動入力時の振幅よりも大きくなる。このように緩衝装置Dに入力される振動の周波数が低い場合、振幅が大きいため、伸縮一周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う液体の流量は多くなる。流量に略比例して、伸長行程時における第一フリーピストンF1の第一下方室LR1側への変位および収縮行程時における第二フリーピストンF2の第二下方室LR2側への変位は大きくなる。
【0041】
また、第一フリーピストンF1は第一ばねS1によって附勢されており、第一フリーピストンF1の変位が大きくなると、第一フリーピストンF1が受ける第一ばねS1から受ける附勢力も大きくなる。つまり、変位が大きくなるほど第一上方室UR1と第一下方室LR1の差圧が大きくなるが、伸側室R1と第一上方室UR1との差圧および圧側室R2と第一下方室LR1の差圧が小さくなるので、第一バイパス路B1を通過する液体の流量は少なくなる。この第一バイパス路B1を通過する流量が少ないと、伸側減衰弁EVを通過する液体の流量が相対的に大きくなり、緩衝装置Dが発生する伸側減衰力は高くなる。反対に、第一バイパス路B1を通過する流量が多いと、伸側減衰弁EVを通過する液体の流量が相対的に少なくなるので、緩衝装置Dが発生する伸側減衰力は低減されて低くなる。
【0042】
同様に、第二フリーピストンF2は第二ばねS2によって附勢されており、第二フリーピストンF2の変位が大きくなると、第二フリーピストンF2が受ける第二ばねS2から受ける附勢力も大きくなる。つまり、変位が大きくなるほど第二上方室UR2と第二下方室LR2の差圧が大きくなるが、圧側室R2と第二上方室UR2との差圧およびリザーバRと第二下方室LR2の差圧が小さくなるので、第二バイパス路B2を通過する液体の流量は少なくなる。この第二バイパス路B2を通過する流量が少ないと、圧側減衰弁CVを通過する液体の流量が相対的に大きくなり、緩衝装置Dが発生する圧側減衰力は高くなる。反対に、第二バイパス路B2を通過する流量が多いと、圧側減衰弁CVを通過する液体の流量が相対的に少なくなるので、緩衝装置Dが発生する圧側減衰力は低減されて低くなる。
【0043】
整理すると、緩衝装置Dの伸縮周波数が低いと、第一フリーピストンF1と第二フリーピストンF2の振幅は大きいが、伸側減衰弁EVと圧側減衰弁CVを通過する流量に比して第一バイパス路B1および第二バイパス路B2を通過する液体の流量は少なくなる。反対に、緩衝装置Dの伸縮周波数が高いと、第一フリーピストンF1と第二フリーピストンF2の振幅は小さいが、伸側減衰弁EVと圧側減衰弁CVを通過する流量に比して第一バイパス路B1および第二バイパス路B2を通過する液体の流量が多くなる。よって、緩衝装置Dに入力される振動の周波数が低いと、緩衝装置Dは大きな減衰力を発揮し、周波数が高いと、緩衝装置Dは減衰力低減効果を発揮して小さな減衰力を発揮する。
【0044】
そして、流量に対する差圧の周波数伝達関数の周波数に対するゲイン特性は、
図4に示すが如くの特性となる。また、振動周波数の入力に対する減衰力のゲインを示す緩衝装置Dにおける減衰力の特性は、
図5に示すように、低周波数域の振動に対しては高い減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を低くすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。なお、緩衝装置Dは、液体が伸側減衰弁EVを迂回して第一バイパス路B1を通過でき、圧側減衰弁CVを迂回して第二バイパス路B2を通過できるので、収縮作動時にあっても減衰力低減効果を十分に発揮できる。そして、
図5の減衰特性において折れ点周波数を調整することで、緩衝装置Dは、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生ができ、車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせない。また、緩衝装置Dは、ばね下共振周波数の振動が入力されると低い減衰力を発揮し、車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好にできる。なお、緩衝装置Dの伸側の減衰特性の設定は、第一弁要素の流路抵抗、第一ばねS1のばね定数、第一フリーピストンF1の断面積によって任意に設定できる。同様に、緩衝装置Dの圧側の減衰特性の設定は、第二弁要素の流路抵抗、第二ばねS2のばね定数、第二フリーピストンF2の断面積によって任意に設定できる。
【0045】
そして、本緩衝装置Dでは、伸側減衰力を発揮する伸側減衰弁EVに対しては第一バイパス路B1、第一圧力室PR1、第一フリーピストンF1および第一ばねS1を設けて伸側減衰弁EVを迂回できるようにし、圧側減衰力を発揮する圧側減衰弁CVに対しては第二バイパス路B2、第二圧力室PR2、第二フリーピストンF2および第二ばねS2を設けて圧側減衰弁CVを迂回できるようにしている。したがって、本発明の緩衝装置Dでは、伸長作動時に減衰力を発揮する伸側減衰弁EVと収縮作動時に減衰力を発揮する圧側減衰弁CVのいずれの流量も周波数に感応して少なくできる。よって、本発明の緩衝装置Dでは、高周波振動の入力で収縮作動する際においても、十分な減衰力低減効果を得られ、圧側減衰力の低減幅を大きくできる。
【0046】
また、本緩衝装置Dにあっては、第一バイパス路B1に第一弁要素を設け、第二バイパス路B2に第二弁要素が設けられているので、緩衝装置Dの伸側および圧側の減衰力低減効果が得られる周波数を任意に設定できる。この緩衝装置Dにあっては、第一バイパス路B1の途中に第一弁要素に並列して第一逆止弁16を設け、第二バイパス路B2の途中に第二弁要素に並列して第二逆止弁25を設けている。第一逆止弁16は、緩衝装置Dの収縮作動時において、第一フリーピストンF1が第一上方室UR1側への変位する際に開弁して、前記変位を第一弁要素が邪魔しないように機能する。第二逆止弁25は、緩衝装置Dの伸長作動時において、第二フリーピストンF2が第二上方室UR2側へ変位する際には開弁して、前記変位を第二弁要素が邪魔しないように機能する。よって、緩衝装置Dが収縮すると第一フリーピストンF1が中立位置に戻され、伸長すると第二フリーピストンF2が中立位置に戻される。これにより、第一フリーピストンF1が中立位置よりも第一下方室LR1側に偏らず、第二フリーピストンF2が中立位置よりも第二下方室LR2側に偏らない。第一フリーピストンF1が中立位置よりも第一下方室LR1側に偏ると、第一フリーピストンF1の第一下方室LR1側への最大許容変位量が小さくなる。第二フリーピストンF2が中立位置よりも第二下方室LR2側に偏ると、第二フリーピストンF2の第二下方室LR1側への最大許容変位量が小さくなる。第一フリーピストンF1が第一下方室LR1を最圧縮するストロークエンドまで到達すると、緩衝装置Dの伸側減衰力の低減効果が失われる。同様に、第二フリーピストンF2が第二下方室LR2を最圧縮するストロークエンドまで到達すると、緩衝装置Dの圧側減衰力の低減効果が失われる。第一逆止弁16および第二逆止弁25を設けると、第一フリーピストンF1および第二フリーピストンF2の偏りを防止できるので、緩衝装置Dは、高周波で伸縮作動を呈する際に減衰力低減効果を確実に発揮できる。よって、本緩衝装置Dでは、第一バイパス路B1に第一弁要素と第一逆止弁16を並列に設け、第二バイパス路B2に第二弁要素と第二逆止弁25を並列に設けたので、伸縮両側の減衰力低減効果が発揮される周波数の設定と当該低減効果の確実な発揮が可能となる。なお、第一弁要素を設けずとも第一バイパス路B1における流路抵抗により減衰力低減効果が発揮される周波数が所望の周波数になるようであれば省略できる。第二弁要素についても同様に省略可能である。さらに、第一逆止弁16および第二逆止弁25についても省略しても、減衰力低減効果を発揮できるので、これらを省略してもよい。
【0047】
さらに、この緩衝装置Dでは、伸側減衰弁EVに並列される圧側逆止弁9と、圧側減衰弁CVに並列される吸込用逆止弁12を備えている。この緩衝装置Dでは、伸側減衰力を発揮する伸側減衰弁EVに対し第一バイパス路B1が対応して伸側減衰力を低減し、圧側減衰力を発揮する圧側減衰弁CVに対し第二バイパス路B2が対応して圧側減衰力を低減できる。よって、緩衝装置Dによれば、伸側減衰力の設定とその低減効果、圧側減衰力の設定とその低減効果を別個独立に設定できる。
【0048】
<第二の実施の形態>
第二の実施の形態の緩衝装置D1は、
図6に示すように、前述した緩衝装置Dの圧側逆止弁9の代わりに、伸側減衰弁EVに並列して圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに抵抗を与える圧側
副減衰弁SCVを設けた構成とされている。また、緩衝装置D1では、第一逆止弁16を廃止している。第一バイパス路B1は、緩衝装置D1の伸長作動時では第一フリーピストンF1の変位によって伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流量の一部の通過を許容して伸側減衰弁EVを迂回させるだけでなく、収縮作動時には圧側副減衰弁SCVを迂回させる。
【0049】
詳しくは、第一フリーピストンF1は、第一ばねS1であるばね13,14によって中立位置に位置決めされており、緩衝装置D1の伸長作動時には、第一下方室LR1側へ変位するが、緩衝装置Dの収縮作動時には、第一上方室UR1側へ変位できる。また、第一ばねS1は、第一フリーピストンF1の中立位置からの上下両方への変位に対して附勢力を発揮して当該変位を抑制するようになっている。
【0050】
緩衝装置D1が伸長作動を呈する場合には、液体が圧側副減衰弁SCVを通過しないので、圧側副減衰弁SCVは緩衝装置D1の伸長作動時における減衰力の発生に関与しない。よって、緩衝装置D1が伸長作動する際には、緩衝装置Dが伸長作動するのと同様の作動を呈し、低周波振動の入力に対しては高い伸側減衰力を発揮し、高周波振動の入力に対しては低い伸側減衰力を発揮する。
【0051】
対して、緩衝装置D1がシリンダ1に対してピストン3が
図6中下方へ移動する収縮作動を呈すると、ピストン3によって圧側室R2が圧縮され、伸側室R1が拡大される。液体は、圧縮される圧側室R2から圧側副減衰弁
SCVを通じて伸側室R1へ移動するが、シリンダ1内へピストンロッド4が侵入するため、ピストンロッド4の侵入体積分の液体が過剰となるため、過剰分の液体はリザーバRへ圧側減衰弁CVを通じて排出される。よって、この緩衝装置D1の場合、収縮作動時には、圧側減衰弁CVと圧側副減衰弁SCVによって圧側室R2の圧力が上昇せしめられ、圧側室R2の圧力と伸側室R1の圧力に差が生じる。このように、緩衝装置D1では、収縮作動時に伸側室R1と圧側室R2の圧力が等圧となる緩衝装置Dに比較して、圧側室R2の圧力を伸側室R1の圧力よりも大きくしてより大きな圧側減衰力を発揮できるとともに、圧側減衰力発生応答性を向上できる。
【0052】
このように圧側副減衰弁SCVを設けていても、緩衝装置D1の収縮作動時には第一フリーピストンF1が第一上方室UR1を圧縮する方向へ変位して第一ばねS1がこの変位を抑制するので、液体は、圧側副減衰弁SCVを迂回して第一バイパス路B1を通過できる。そして、緩衝装置D1の収縮作動時において高周波振動の入力に対しては、圧側副減衰弁SCVを通過する流量に比して第一バイパス路B1を通過する流量の割合が多くなる。すると、高周波振動入力時にあっては、低周波振動入力時に比して、圧側室R2と伸側室R1の差圧が小さくなる。そのため、緩衝装置D1が高周波数の振動が入力されると収縮作動時にも第一バイパス路B1による減衰力低減効果が発揮され、高周波振動入力時における圧側減衰力は低周波振動入力時に比して小さくなる。
【0053】
よって、緩衝装置D1によれば、圧側減衰力を大きく設定できるともに圧側減衰力発生応答を向上できるだけでなく、圧側減衰力の低減効果を十分に得られて圧側減衰力の低減幅を大きくできる。
【0054】
なお、第一バイパス路B1における第一弁要素は、オリフィス15とされており、緩衝装置D1の伸縮両側での第一フリーピストンF1の変位量を決定づける要素の一つである。
図7に示すように、第一弁要素を第一バイパス路B1に直列に設けたオリフィス15,31とし、第一バイパス路B1に圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁32をオリフィス15に対して並列に設けるとともに、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁33をオリフィス31に対して並列に設けるようにしてもよい。
【0055】
このようにすると、第一フリーピストンF1が第一下方室LR1を圧縮する方向へ移動する際にはオリフィス15のみが有効に機能し、第一フリーピストンF1が第一上方室UR1を圧縮する方向へ移動する際にはオリフィス31のみが有効に機能する。よって、緩衝装置D1の伸長作動時と収縮作動時とで第一フリーピストンF1の変位量を個別にチューニングできるようになり、伸長作動時の減衰力低減効果が得られる周波数と、収縮作動時の減衰力低減効果が得られる周波数とを個別に設定できる。
【0056】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。