(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514650
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】鍛造プレス
(51)【国際特許分類】
B30B 15/12 20060101AFI20190425BHJP
B30B 1/26 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
B30B15/12
B30B1/26 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-22695(P2016-22695)
(22)【出願日】2016年2月9日
(65)【公開番号】特開2017-140627(P2017-140627A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森藤 真
【審査官】
飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭37−008657(JP,B1)
【文献】
実開平06−042000(JP,U)
【文献】
特開2011−038615(JP,A)
【文献】
特開昭59−089831(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0202345(US,A1)
【文献】
中国実用新案第206690611(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/12
B30B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインモータで回転駆動されるフライホイールの回転をクラッチ機構を介してクランク軸に伝達してスライドを昇降動作させて鍛造作業を行う鍛造プレスにおいて、
上記クラッチ機構は、
上記クランク軸に回転一体のクラッチ板と、
上記クラッチ板に接触する摩擦ブロックと、
上記摩擦ブロックを上記クラッチ板に押さえ付ける流体圧シリンダと、
上記流体圧シリンダに高圧流体を送り込む流体入口ポートと、
上記流体入口ポートが設けられたロータリジョイントと、
上記クラッチ板及び摩擦ブロックの少なくとも一方を冷却する、上記高圧流体と異なる冷却水が通過する冷却水用通路とを備えており、
上記冷却水用通路は、上記流体入口ポートよりも半径方向外側に配置されており、
上記冷却水用通路の冷却水入口ポート及び冷却水出口ポートは、同一の上記ロータリジョイントに設けられている
ことを特徴とする鍛造プレス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造プレスに関し、特にそのクラッチの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クランク軸を回転駆動してスライドを昇降動作させる機械式の鍛造プレスが知られている。例えば、特許文献1のように、クランク軸に、メインモータで回転駆動されるフライホイールの回転を伝達可能とし、フライホイールの回転をクランク軸に伝達して、スライドを昇降動作させて鍛造作業を行うようにしている。
【0003】
この種の鍛造プレスでは、クラッチ接続時に停止状態から定格回転まで一気に上昇するので、クラッチ板や摩擦ブロックのクラッチ面に滑りによる熱が発生する。この熱によって摩耗率が上昇し、クラッチ面を構成する部材(ライニング等)の寿命が低下する。また、熱による歪みにより、クラッチが変形して動作不良を起こし、ライニングの片当たりが発生する。さらに、クラッチ面を駆動させるためのシリンダのパッキン類が熱により硬化して漏れが発生するという問題がある。
【0004】
このため、クラッチ面を強制的に冷やす必要がある。例えば、特許文献1のように、ブレーキ機構やクラッチ機構を駆動する作動油を用いてクラッチ面を冷却する方法が知られている。
【0005】
また、ブレーキ機構やクラッチ機構を駆動する高圧エアやブロワーを用いたり、クラッチケースに羽根を設けて空気を吹き付けてクラッチ面を空冷する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−38615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クラッチ面の耐久性を上げるためにクラッチのサイズを上げてライニング面積を増やして面圧を下げる方法もあるが、そうするとクラッチ機構全体のサイズが大きくなるという問題がある。
【0008】
上記特許文献1の方法では、ブレーキ機構やクラッチ機構を駆動する作動油を大量に用いてクラッチ面を冷却するので、依然として油圧ポンプや電動モータが大型化してしまう。また、油の管理が必要となり、設備導入費用も高くなるという問題がある。
【0009】
一方、空冷を用いたものでは、冷却効率が低く、発熱を抑えきれない。また、ブロワーで工場内の異物を含んだ空気をクラッチ機構内部に送り込んでライニング面に異物が付着して滑りが発生するという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クラッチ機構のサイズを大きくすることなく、クラッチ面を適切に冷却して発熱を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明では、クラッチ板及び摩擦ブロックの少なくとも一方を冷却水にて冷却するようにした。
【0012】
具体的には、第1の発明では、メインモータで回転駆動されるフライホイールの回転をクラッチ機構を介してクランク軸に伝達してスライドを昇降動作させて鍛造作業を行う鍛造プレスにおいて、
上記クラッチ機構は、
上記クランク軸に回転一体のクラッチ板と、
上記クラッチ板に接触する摩擦ブロックと、
上記摩擦ブロックを上記クラッチ板に押さえ付ける流体圧シリンダと、
上記流体圧シリンダに高圧流体を送り込む流体入口ポートと、
上記流体入口ポートが設けられたロータリジョイントと、
上記クラッチ板及び摩擦ブロックの少なくとも一方を冷却する、上記高圧流体と異なる冷却水が通過する冷却水用通路とを備えて
おり、
上記冷却水用通路は、上記流体入口ポートよりも半径方向外側に配置されている。
【0013】
上記の構成によると、冷却水用通路を通る冷却水によってクラッチ板及び摩擦ブロックの少なくとも一方が、空冷の場合よりも効率よく冷やされる。作動油を用いて冷却しないので、作動油の管理が不要で設備導入費用も高くならない。また、冷却水は、冷却水用通路や接続された配管のみを通るので、空冷の時のように工場内の異物がライニング面に付着することもない。さらに流体圧シリンダを作動させる高圧流体とは異なる冷却水によって冷却を行っているので、例えば高圧流体が高圧エアの場合、高圧エアを送り込むコンプレッサ等の能力を上げる必要はない。
【0014】
第2の発明では、第1の発明において、
上記冷却水用通路の冷却水入口ポート及び冷却水出口ポートは、
同一の上記ロータリジョイントに設けられている。
【0015】
上記の構成によると、高圧流体を送り込むためのロータリジョイントを回転体を含むクラッチ機構内への冷却水の導入及び排出に利用できるので、部品点数が減り、コストアップも避けられる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、摩擦ブロックをクラッチ板に押さえ付ける高圧流体と異なる冷却水でクラッチ板及び摩擦ブロックの少なくとも一方を冷却するようにしたことにより、クラッチ機構のサイズを大きくすることなく、クラッチ面を適切に冷却して発熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明の実施形態に係る鍛造プレスの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図2は本発明の実施形態に係る鍛造プレス10を示し、この鍛造プレス10は、例えば機械式の熱間鍛造プレスであり、金型(図示省略)が取り付けられるスライド1とボルスタ2とがフレーム3内の上下に対向するように設けられている。また、鍛造プレス10は、回転駆動されるクランク軸4にコンロッド5で連結されたスライド1が昇降動作するように構成されている。そして、メインモータ6でベルト7によって回転駆動されるフライホイール8が、クランク軸4の一端側にクラッチ機構としてのクラッチ9を介して接続されている。クランク軸4には、クランク軸4の回転を止めてスライド1を停止させるブレーキ装置12が取り付けられている。この鍛造プレス10は、メインモータ6でフライホイール8を所定の速度で回転駆動し、クラッチ9を入として、フライホイール8の回転をクランク軸4に伝達することによってスライド1を昇降させて鍛造するように構成されている。鍛造プレス10は、制御装置13によって制御される。
【0020】
図1に拡大して示すように、クラッチ9は、クランク軸4と回転一体のフライホイール8に固定されたクラッチ板20を備えている。クラッチ9を覆うクラッチケース9aには、クラッチ板20に接触する摩擦ブロック21を駆動する空圧シリンダ22が設けられている。空圧シリンダ22は、摩擦ブロック21が固定されたピストン22aと高圧エアが導入される圧力室22bとを備え、圧力室22bには、エア配管22cが連通している。クラッチケース9aを覆うフライホイールカバー8aの中心には、ロータリジョイント23が設けられている。ロータリジョイント23には、空圧シリンダ22に高圧流体を送り込む流体入口ポート22dが設けられており、この流体入口ポート22dがエア配管22cに接続されている。流体入口ポート22dには、
図2に示すように、コンプレッサ14からの高圧エアがエアバルブ15を介して供給されるようになっている。エアバルブ15は、制御装置13によって制御され、それにより、クラッチ9が制御されるようになっている。
【0021】
そして、このロータリジョイント23には、
図1に示す冷却水用通路24に冷却水を導入するための冷却水入口ポート24aと、冷却水用通路24から戻ってきた暖かくなった冷却水を戻すための冷却水出口ポート24bが設けられている。冷却水用通路24は、本実施形態では、フライホイール8に固定されたクラッチ板20の、摩擦ブロック21と反対側に設けられている。但し、摩擦ブロック21側にも設けてもよい。冷却水用通路24は、クラッチ板20のできるだけ広範囲に設けるのが冷却効率を上げる点で有利である。
図3に太線で示すように、冷却水用通路24には、ロータリジョイント23からフライホイール8側へ延びる冷却水配管24cによって給水装置16からの冷却水が供給されるようになっている。冷却水用通路24から戻ってきた冷却水は、戻り側の冷却水配管24cを通ってロータリジョイント23に戻るようになっている。例えば本実施形態では、供給側の冷却水配管24cが2本、戻り側の冷却水配管24cが2本設けられているが、これに限定されず、1本ずつでもよいし、3本ずつ設けてもよい。そして、給水装置16からの冷却水は、切換バルブ17を介して冷却水入口ポート24aに供給され、暖かくなった冷却水は、冷却水出口ポート24bから切換バルブ17を介して給水装置16に戻され、再冷却されるようになっている。切換バルブ17は、制御装置13によって制御される。
【0022】
なお、本実施形態では、摩擦ブロック21を直接冷却水で冷やしていないので、
図1に二点鎖線で示すように、クラッチケース9aの内面に羽根25を設けてクラッチ9が繋がった時の摩擦ブロック21及びその周辺の温度上昇を抑えるようにしてもよい。
【0023】
このように構成したので、本実施形態では、冷却水用通路24を通る冷却水によってクラッチ板20及び摩擦ブロック21が、空冷の場合よりも効率よく冷やされる。作動油を用いて冷却しないので、作動油の管理が不要で設備導入費用も高くならない。また、空冷の時のように工場内の異物がライニング面に付着することもない。さらに空圧シリンダ22を作動させる高圧エアとは異なる冷却水によって冷却を行っているので、高圧エアを送り込むコンプレッサ等の能力を上げる必要はない。
【0024】
本実施形態では、回転体であるフライホイール8側に高圧エアを送り込むロータリジョイント23に冷却水の入口及び出口を設けたので、部品点数が減り、コストアップも避けられる。
【0025】
したがって、本実施形態に係る鍛造プレス10によると、摩擦ブロック21をクラッチ板20に押さえ付ける高圧エアと異なる冷却水でクラッチ板20を冷却するようにしたことにより、クラッチ9のサイズを大きくすることなく、クラッチ板20を適切に冷却して発熱を抑えることができる。
【0026】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0027】
すなわち、上記実施形態では、冷却水用通路24には、工業用水を供給するようにしてもよいし、クーラントを供給してもよい。冷却水用通路24は、空圧シリンダ22によって駆動されるピストン22a側に設けてもよい。この場合、駆動部での水漏れ対策が必要となる。
【0028】
また、上記実施形態では、流体圧シリンダは、空圧シリンダ22として高圧エアを供給するようにしているが、これを油圧シリンダとして高圧油を供給するようにしてもよい。しかし、その場合、油圧ユニットが必要になる上、作動油の管理が必要となる。
【0029】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0030】
1 スライド
2 ボルスタ
3 フレーム
4 クランク軸
5 コンロッド
6 メインモータ
7 ベルト
8 フライホイール
8a フライホイールカバー
9 クラッチ(クラッチ機構)
9a クラッチケース
10 鍛造プレス
12 ブレーキ装置
13 制御装置
14 コンプレッサ
15 エアバルブ
16 給水装置
17 切換バルブ
20 クラッチ板
21 摩擦ブロック
22 空圧シリンダ
22a ピストン
22b 圧力室
22c エア配管
22d 流体入口ポート
23 ロータリジョイント
24 冷却水用通路
24a 冷却水入口ポート
24b 冷却水出口ポート
24c 冷却水配管
25 羽根