特許第6514682号(P6514682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6514682グラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514682
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】グラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/46 20060101AFI20190425BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20190425BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20190425BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   C08F8/46
   C08L23/26
   C08L77/00
   C08L23/10
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-504119(P2016-504119)
(86)(22)【出願日】2015年2月18日
(86)【国際出願番号】JP2015054376
(87)【国際公開番号】WO2015125802
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2017年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-29449(P2014-29449)
(32)【優先日】2014年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】吉本 洸哉
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀健
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−163289(JP,A)
【文献】 特開2000−345098(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119536(WO,A1)
【文献】 特開2007−246871(JP,A)
【文献】 特開平09−278956(JP,A)
【文献】 特開2007−039645(JP,A)
【文献】 特開2000−344972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
C08F6/00−301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン由来の構成単位(C3)50〜90モル%および炭素数4〜8のα-オレフィン由来の構成単位(Cα)10〜50モル%からなるプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)(ここで、C3とCαとの構成単位の合計は100モル%である。)に、不飽和カルボン酸およびその酸無水物、酸ハライド、アミド、イミドならびにエステルから選ばれるモノマーをグラフト反応させて得られ、以下の要件(i)〜(iv)を同時に満たすグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む水性ディスパージョン
(i)前記モノマーのグラフト量が0.4〜1.5重量%である。
(ii)残留モノマーの含有量が1000ppm以下である。
(iii)140℃キシレンに不溶なゲル含量が2.5重量%以下である。
(iv)揮発性炭化水素化合物の含有量が10ppm以下である。
【請求項2】
135℃のデカリン中で測定される極限粘度が0.5〜1.0(dl/g)である前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1に記載の水性ディスパージョン
【請求項3】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)が、下記要件(1)〜(3)を満たす前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1または2に記載の水性ディスパージョン
(1)135℃のデカリン中で測定される極限粘度が0.1〜12(dl/g)である。
(2)ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるポリスチレ
ン換算の分子量分布(Mw/Mn)が3.0以下である。
(3)共重合モノマー連鎖分布のランダム性を示すパラメーターB値が1.0〜1.5である。
【請求項4】
前記炭素数4〜8のα-オレフィンが1-ブテンである前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の水性ディスパージョン
【請求項5】
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)がさらに下記要件(4)および(5)を満たす前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項4に記載の水性ディスパージョン
(4)示差走査型熱量測定(DSC)によって得られる融点Tmが60〜140℃であり、かつ該融点Tm(T℃)と、1-ブテンから導かれる構成単位の含有量(Mモル%)との関係が、−2.6M+130≦T≦−2.3M+155である。
(5)X線回折法により測定される結晶化度(C%)と、1-ブテンから導かれる構成単位の含有量(Mモル%)との関係が、 C≧−1.5M+75である。
【請求項6】
前記モノマーが、マレイン酸またはマレイン酸の無水物である前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の水性ディスパージョン
【請求項7】
前記モノマーのグラフト量が0.69〜1.5重量%である前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1〜のいずれかに記載の水性ディスパージョン
【請求項8】
前記モノマーのグラフト量が1.23〜1.5重量%である前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1〜のいずれかに記載の水性ディスパージョン
【請求項9】
留モノマーの含有量が860ppm以下である前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む、請求項1〜のいずれかに記載の水性ディスパージョン
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載のグラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)を水中に投入し、攪拌する、揮発性炭化水素化合物を用いない、水性ディスパージョンの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜のいずれかに記載のグラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と界面活性剤との混合物を溶融混練し、次いで水中に投入し、攪拌する、水性ディスパージョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気が問題にならず、溶剤に溶かしたときに不溶成分がなく、さらに水系ディスパージョンにしたときの乳化性が安定であり、プライマーとしての接着強度が強いグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンと1-ブテンとのランダム共重合体であるプロピレン系重合体は、耐熱性、透明性、耐スクラッチ性などに優れているため、フィルム、シートなどに使用されている。
【0003】
このようなプロピレン系重合体は、従来固体状チタン系触媒あるいはジルコニウム、ハフニウムなどのメタロセン化合物とアルキルアルミノオキサンとからなるメタロセン系触媒を用いて製造されている。
【0004】
しかしながら上記のように製造される従来のプロピレン系重合体、たとえば固体状チタン系触媒を用いて製造されるプロピレン系重合体は、一般的に分子量分布が広く、フィルムなどの成形体はベタつくなどの問題点があった。またメタロセン系触媒を用いて製造されるプロピレン系重合体は、分子量分布は狭いが、耐熱性、ヒートシール性は必ずしも充分とはいえない。
【0005】
またプロピレン系重合体は、その分子構造に起因して金属あるいは極性樹脂などに対する密着性に劣るので、これら金属等の素材との複合積層体を形成する際には、プロピレン系重合体に、火炎処理、コロナ処理、プライマー処理などの表面処理を施す必要があった。
【0006】
プロピレン系重合体などのポリオレフィンの物性を改良するためにポリオレフィンをマレイン酸等の極性モノマーでグラフト変性させたグラフト変性ポリオレフィンも利用されている。
【0007】
特開平9−278956号公報には、ポリオレフィン100重量部に対して、無水マイレン酸を0.1〜20重量部および半減期1分となる分解温度が150〜200℃である有機過酸化物を0.01〜20重量部を配合してなる混合物を、二軸混練押出機を使用して溶融混練することにより変性処理をすることを特徴とする無水マレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法が記載されているが、この製造方法により得られた無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、臭気が問題になり、またこの変性ポリオレフィンから水系ディスパージョンを調製する際、白濁が発生する問題もある。
【0008】
また、この変性プロピレン・α-オレフィン共重合体をトルエン等の溶剤に溶かしてプライマーにした際、プライマー中に溶剤不溶成分が存在し、歩留まりの低下につながるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−278956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、臭気が問題にならず、水系ディスパージョンを調製する際に白濁が発生せず、水系ディスパージョンの乳化性が安定であるグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体、また、プライマーにした際、溶剤不溶成分が存在せず、高い歩留まりを確保でき、接着強度の強いプライマーが得られるグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、プロピレン系ポリマーに対して特定のラジカル開始剤を選択してグラフト変性を行なうことにより、前記課題を解決できる、残留マレイン酸量が少なく、さらに架橋ゲル(以下の説明では、単にゲルと呼ぶ場合がある)を含有せず、接着強度に優れたプライマーを与えるグラフト変性プロピレン系ポリマーを製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち本発明は、プロピレン由来の構成単位(C3)50〜90モル%、炭素数4〜8のα-オレフィン由来の構成単位(Cα)10〜50モル%からなるプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)(ここで、C3とCαとの構成単位の合計は100モル%である。)に極性モノマーをグラフト反応させて得られ、以下の要件(i)〜(iv)を同時に満たすことを特徴とするグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)である。
(i)極性モノマーによる変性量が0.4〜1.5重量%である
(ii)極性モノマーの含有量が1000ppm以下である
(iii)140℃キシレンに不溶なゲル含量が2.5重量%以下である
(iv)揮発性炭化水素化合物の含有量が10ppm以下である
本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の極限粘度は好ましくは0.5〜1.0(dl/g)である。
【0013】
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)は、下記要件(1)〜(3)を満たすことが好ましい。
(1)135℃のデカリン中で測定される極限粘度が0.1〜12(dl/g)である。
(2)ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるポリスチレン換算の分子量分布(Mw/Mn)が3.0以下である。
(3)共重合モノマー連鎖分布のランダム性を示すパラメーターB値が1.0〜1.5である。
【0014】
前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)においては、前記α-オレフィンが1-ブテンであることが好ましい。
【0015】
前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)においては、前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)がさらに要件(4)および(5)を満たすことが好ましい。
(4)示差走査型熱量測定(DSC)によって得られる融点Tmが60〜140℃であり、かつ該融点Tm(T℃)と、1-ブテンから導かれる構成単位の含有量(Mモル%)との関係が、−2.6M+130≦T≦−2.3M+155である。
(5)X線回折法により測定される結晶化度(C%)と、1-ブテンから導かれる構成単位の含有量(Mモル%)との関係が、 C≧−1.5M+75である。
【0016】
前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)においては、極性モノマーがマレイン酸またはマレイン酸の無水物であることが好ましい。
【0017】
前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)に、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)100重量部に対して0.1〜20重量部の無水マイレン酸(B)と、0.1〜1.0重量部の、半減期1分となる分解温度が150〜190℃である有機過酸化物(C)とを配合してなる混合物を120〜220℃の温度で溶融混練して、変性処理をすることにより製造されたものであることが好ましい。
【0018】
他の発明は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)に、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)100重量部に対して0.1〜20重量部の無水マイレン酸(B)と、0.1〜1.0重量部の、半減期1分となる分解温度が150〜190℃である有機過酸化物(C)とを配合してなる混合物を120〜220℃の温度で溶融混練することにより、変性処理をすることを特徴とするグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の製造方法である。
【0019】
本発明は、さらにグラフト変性ポリプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)、並びにポリアミド樹脂およびポリプロピレン樹脂から選ばれる一種以上の樹脂を含んでなる樹脂組成物に係る。
【発明の効果】
【0020】
本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体は、臭気が問題にならず、また水系ディスパージョンを調製する際に白濁の発生を抑制することができ、得られた水系ディスパージョンの乳化性が安定である。また、プライマーにした際、溶剤不溶成分が少なく、高い歩留まりを確保でき、プライマーとしての接着強度が強い。本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体の製造方法によれば、前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体を効率よく製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のグラフト変性プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)は、プロピレン由来の構成単位(C3)50〜90モル%、炭素数4〜8のα-オレフィン由来の構成単位(Cα)10〜50モル%からなるプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)(ここで、C3とCαの各構成単位の合計は100モル%)に極性モノマーをグラフト反応させて得られ、以下の要件(i)〜(iv)を同時に満たすことを特徴とするグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)である。
(i)極性モノマーによる変性量が0.4〜1.5重量%である
(ii)極性モノマーの含有量が1000ppm以下である
(iii)140℃キシレンに不溶なゲル含量が2.0重量%以下である
(iv)揮発性炭化水素化合物の含有量が10ppm以下である
<プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)>
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)(以下、共重合体(a)ともいう)は、プロピレンと炭素原子数4〜8のα-オレフィンとの共重合体である。α-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセンを挙げることができ、好ましくは1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンであり、さらに好ましくは1-ブテンである。α-オレフィンは、1種類であっても、複数種類であっても構わない。後述するように、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のα-オレフィン成分の代わりにエチレンを用いて得られるプロピレン・エチレン共重合体や、α-オレフィンの一部にエチレンを用いて得られるプロピレン・エチレン・α-オレフィン三元共重合体のグラフト変性体では、変性時に溶媒不溶のゲル分の生成が多い場合があるので好ましくない。
【0022】
また、プロピレン・エチレン共重合体やプロピレン・エチレン・α-オレフィン三元共重合体のグラフト変性体は、本発明のプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のグラフト変性体に比べて、耐溶剤性に劣る場合があったり、塗膜とした場合の耐傷付き性が低下したり、ポリプロピレン樹脂基材に積層する場合に接着性に劣る場合があったり、融点と融解熱のバランスが作業性を低下させたりする場合があるので好ましくない。
【0023】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)は、プロピレンから導かれる構成単位(C3)とα-オレフィンから導かれる構成単位(Cα)との合計を100モル%とするとき、プロピレンから導かれる構成単位を50〜90モル%の量で、α-オレフィンから導かれる構成単位を10〜50モル%の量で含有し、プロピレンから導かれる単位を好ましくは60〜90モル%、より好ましくは70〜90モル%の量で、α-オレフィンから導かれる単位を好ましくは10〜40モル%、より好ましくは10〜30モル%の量で含有する。プロピレンから導かれる構成単位(C3)の含有比が上記範囲にあると、極性モノマーとのグラフト反応を低温にて実施できるため、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の熱劣化による分子量低下を抑制することが可能となる点で好ましい。
【0024】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)は、下記要件(1)〜(3)のすべてを満たすことが好ましい。プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)が要件(1)〜(3)を満たすことにより、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)に極性モノマーがグラフト共重合されてなるグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、剛性、耐熱性、透明性、耐スクラッチ性、金属または極性樹脂との密着性に優れるとともに、ヒートシール性にも優れる。
要件(1)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の135℃、デカリン中で測定される極限粘度[η]は0.1〜12(dl/g)である。前記極限粘度[η]は、好ましくは0.5〜12(dl/g)、より好ましくは1〜12(dl/g)である。極限粘度[η]が上記範囲にあるとき、極性モノマーとのグラフト反応時にプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)が熱劣化しても、耐ブロッキング性悪化の要因となる低分子量成分の生成を抑制できる点で好ましい。
要件(2)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるポリスチレン換算の分子量分布(Mw/Mn)は、3.0以下である。前記分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.0〜3.0、より好ましくは2.0〜2.5である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲にあるとき、耐ブロッキング性悪化の要因となる低分子量成分含有量が少ないという点で好ましい。
要件(3)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の共重合モノマー連鎖分布のランダム性を示すパラメーターB値は1.0〜1.5である。前記B値は、好ましくは1.0〜1.3、より好ましくは1.0〜1.2である。
【0025】
このパラメーターB値はコールマン等(B.D.Cole-man and T.G.Fox, J. Polym.Sci., Al, 3183 (1963) )により提案されており、以下のように定義される。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、P1 、P2 はそれぞれ第1モノマー、第2モノマー含量分率であり、P12は全二分子中連鎖中の(第1モノマー)・(第2モノマー)連鎖の割合である。
【0028】
このB値は1のときベルヌーイ統計に従い、B<1のとき共重合体はブロック的であり、B>1のとき交互的である。
【0029】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)においては、前述のとおりα-オレフィンが1-ブテンであることが好ましく、α-オレフィンが1-ブテンである場合、さらにプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)は、上記要件に加えて下記要件(4)および(5)を満たすことが好ましい。
要件(4)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の示差走査型熱量計によって測定される融点Tmは60〜140℃である。融点Tmは、好ましくは70〜130℃である。またこの融点Tm(T℃)と、1-ブテンから導かれる構成単位の含有量(Mモル%)との関係が−2.6M+130 ≦ T ≦ −2.3M+155であることが望ましい。この関係が満たされると、低温分解型過酸化物を用いた低温での変性処理が可能である。
要件(5)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のX線回折法により測定される結晶化度(C%)と、1-ブテンから導かれる構成単位の含有量(Mモル%)との関係がC ≧ −1.5M+75であることが望ましい。この関係が満たされると、変性処理したグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体の結晶化速度が比較的速いため、ペレット化等の後処理を簡素化できる。
【0030】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)はさらに下記の他の要件(6)を満たすことが好ましい。
要件(6)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のトリアドタクティシティ(mm分率)は、90%以上であり、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上である。
【0031】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の立体規則性の尺度であるmm分率は、ポリマー鎖中に存在する3個の頭−尾結合したプロピレン単位連鎖を表面ジグザグ構造で表したとき、そのメチル基の分岐方向が同一である割合として定義され、13C−NMRスペクトルから求められる。
【0032】
具体的に、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のmm分率を13C−NMRスペクトルから求める際には、ポリマー鎖中に存在するプロピレン単位を含む3連鎖のうち、(i) 頭−尾結合したプロピレン単位3連鎖、および(ii)頭−尾結合したプロピレン単位とブテン単位とからなりかつ第2単位目がプロピレン単位であるプロピレン単位・ブテン単位3連鎖が対象とされる。
【0033】
これら3連鎖(i) および(ii)中の第2単位目(プロピレン単位)の側鎖メチル基のピーク強度(面積)を下記式に代入してmm分率が求められる。
【0034】
【数2】


【0035】
以下に詳細に説明する。本発明のプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)においてトリアドタクティシティ(mm分率)が上記の範囲にあると、極性モノマーとグラフト反応させた後のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の固化速度(結晶化速度)が速く、生産速度を上げられるという点で好ましい。
【0036】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の13C−NMRスペクトルは、サンプル管中でプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)をロック溶媒として少量の重水素化ベンゼンを含むヘキサクロロブタジエンに完全に溶解させた後、120℃においてプロトン完全デカップリング法により測定される。測定条件は、フリップアングルを45°とし、パルス間隔を3.4T1 以上(T1 はメチル基のスピン格子緩和時間のうち最長の値)とする。メチレン基およびメチン基のT1 は、メチル基より短いので、この条件では試料中のすべての炭素の磁化の回復は99%以上である。ケミカルシフトは、テトラメチルシランを基準として頭−尾結合したプロピレン単位5連鎖(mmmm)の第3単位目のメチル基炭素ピークを21.593ppm として、他の炭素ピークはこれを基準とする。
【0037】
このように測定されるプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の13C−NMRスペクトルのうち、プロピレン単位の側鎖メチル基が観測されるメチル炭素領域(約19.5〜21.9ppm)は、第1ピーク領域(約21.0〜21.9ppm)、第2ピーク領域(約20.2〜21.0ppm )、第3ピーク領域(約19.5〜20.2ppm )に分類される。そしてこれら各領域内には、下記表1に示すような頭−尾結合3連鎖(i) および(ii)中の第2単位目(プロピレン単位)の側鎖メチル基ピークが観測される。
【0038】
【表1】










【0039】
表中、Pはプロピレンから導かれる単位、Bは1-ブテンから導かれる単位を示す。上記表に示される頭−尾結合3連鎖(i) および(ii)のうち、(i) 3連鎖がすべてプロピレン単位からなるPPP(mm)、PPP(mr)、PPP(rr)についてメチル基の方向を下記に表面ジグザグ構造で図示する。(ii)ブテン単位を含む3連鎖(PPB、BPB)のmm、mr、rr結合は、このPPP結合(i)に準ずる。
【0040】
【化1】







【0041】
第1領域では、mm結合したPPP、PPB、BPB3連鎖中の第2単位(プロピレン単位)目のメチル基が共鳴する。第2領域では、mr結合したPPP、PPB、BPB3連鎖中の第2単位(プロピレン単位)目のメチル基およびrr結合したPPB、BPB3連鎖中の第2単位(プロピレン単位)目のメチル基が共鳴する。第3領域では、rr結合したPPP3連鎖の第2単位(プロピレン単位)目のメチル基が共鳴する。したがってプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のトリアドタクティシティ(mm分率)は、上記式で示されるように、19.5〜21.9ppm (メチル炭素領域)に表れるピークの全面積を100%とした場合に、21.0〜21.9ppm (第1領域)に表れるピークの面積の割合(百分率)として求められる。
【0042】
なおプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)は、上記のような頭−尾結合した3連鎖(i) および(ii)以外にも、下記構造(iii) 、(iv)および(v) で示されるような位置不規則単位を含む部分構造を少量有しており、このような他の結合によるプロピレン単位の側鎖メチル基に由来するピークも上記のメチル炭素領域 (19.5〜21.9 ppm) 内に観測される。
【0043】
【化2】









【0044】
上記の構造(iii) 、(iv)および(v) に由来するメチル基のうち、メチル基炭素Aおよびメチル基炭素Bは、それぞれ17.3ppm 、17.0ppm で共鳴するので、炭素Aおよび炭素Bに基づくピークは、前記第1〜3領域 (19.5〜21.9ppm) 内には現れない。さらにこの炭素Aおよび炭素Bは、ともに頭−尾結合に基づくプロピレン3連鎖に関与しないので、上記のトリアドタクティシティ(mm分率)の計算では考慮する必要はない。
【0045】
またメチル基炭素Cに基づくピーク、メチル基炭素Dに基づくピークおよびメチル基炭素D’に基づくピークは、第2領域に現れ、メチル基炭素Eに基づくピークおよびメチル基炭素E’に基づくピークは第3領域に現れる。
【0046】
したがって第1〜3メチル炭素領域には、PPE-メチル基(プロピレン-プロピレン-エチレン連鎖中の側鎖メチル基)(20.7ppm 付近)、EPE-メチル基(エチレン-プロピレン-エチレン連鎖中の側鎖メチル基)(19.8ppm付近)、メチル基C、メチル基D、メチル基D’、メチル基Eおよびメチル基E’に基づくピークが現れる。
【0047】
このようにメチル炭素領域には、頭−尾結合3連鎖(i) および(ii)に基づかないメチル基のピークも観測されるが、上記式によりmm分率を求める際にはこれらは下記のように補正される。
【0048】
PPE-メチル基に基づくピーク面積は、PPE-メチン基(30.6ppm 付近で共鳴)のピーク面積より求めることができ、EPE-メチル基に基づくピーク面積は、EPE-メチン基(32.9ppm 付近で共鳴)のピーク面積より求めることができる。
【0049】
メチル基Cに基づくピーク面積は、隣接するメチン基(31.3ppm 付近で共鳴)のピーク面積より求めることができる。メチル基Dに基づくピーク面積は、前記構造(iv)のαβメチレン炭素に基づくピーク(34.3ppm 付近および34.5ppm 付近で共鳴で共鳴)のピーク面積の和の1/2より求めることができ、メチル基D’に基づくピーク面積は、前記構造(v) のメチル基E’のメチル基の隣接メチン基に基づくピーク(33.3ppm付近で共鳴)の面積より求めることができる。メチル基Eに基づくピーク面積は、隣接するメチン炭素(33.7ppm 付近で共鳴)のピーク面積より求めることができ、メチル基E’に基づくピーク面積は、隣接するメチン炭素(33.3ppm 付近で共鳴)のピーク面積より求めることができる。
【0050】
したがってこれらのピーク面積を第2領域および第3領域の全ピーク面積より差し引くことにより、頭−尾結合したプロピレン単位3連鎖(i) および(ii)に基づくメチル基のピーク面積を求めることができる。
【0051】
以上により頭−尾結合したプロピレン単位3連鎖(i) および(ii)に基づくメチル基のピーク面積を評価することができるので、上記式に従ってmm分率を求めることができる。
〔プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の調製方法〕
本発明に用いられるプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)は、チーグラー触媒のようなマルチサイト触媒を用いても、メタロセン触媒のようなシングルサイト触媒を用いても調製することができる。プロピレンとα-オレフィンとの重合は、懸濁重合、溶液重合などの液相重合法または気相重合法のいずれの方法で行っても良い。
<極性モノマー>
本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、上記のようなプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)に、極性モノマーをグラフト重合させることにより得られる。
【0052】
この極性モノマーとしては、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸およびその誘導体、ビニルエステル化合物、塩化ビニルなどが挙げられるが、不飽和カルボン酸またはその誘導体を用いることが好ましい。
【0053】
不飽和カルボン酸およびその誘導体としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸およびこれらの誘導体、たとえば酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、エステルなどが挙げられる。これらの中では、マレイン酸およびマレイン酸の無水物が好ましい。
<変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の製造方法>
本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)(以下、変性共重合体(A)ともいう。)の製造に際しては、極性モノマーは、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)100重量部に対して、通常0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜25重量部、さらに好ましくは0.1〜20重量部の量で使用される。極性モノマーが無水マレイン酸である場合、無水マレイン酸は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)100重量部に対して通常0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部の量で使用される。極性モノマーの配合量が上記範囲にあると、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)中に極性モノマーを均一分散できるという点で好ましい。
【0054】
このグラフト重合は、ラジカル開始剤の存在下で行なわれる。ラジカル開始剤としては、半減期1分となる分解温度が150〜190℃である有機過酸化物が用いられる。
【0055】
半減期1分となる分解温度(以下、単に分解温度ともいう)が150〜190℃である有機過酸化物としては、たとえば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(分解温度153.8℃)、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン(分解温度153.8℃)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(分解温度155.0℃)、t-ブチルパーオキシマレイン酸(分解温度167.5℃)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノネート(分解温度166.0℃)、t-ブチルパーオキシラウレート(159.4℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(分解温度158.8℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(分解温度161.4℃)、t-ヘキシルパーオキシベンゾネート(分解温度160.3℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾリルパーオキシ)ヘキサン(分解温度158.2℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(分解温度159.9℃)、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン(分解温度159.9℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(分解温度166.8℃)、n-ブチル 4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート(分解温度172.5℃)、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(分解温度175.4℃)、ジクミルパーオキサイド(分解温度175.2℃)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(分解温度176.7℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(分解温度179.8℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(分解温度173.3℃)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(分解温度185.9℃)を挙げることができる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0056】
半減期1分となる分解温度が150〜190℃である有機過酸化物の添加量は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)100重量部に対して、通常0.1〜1.0重量部であり、0.2〜0.9重量部の範囲内にあることが好ましい。0.1重量部未満ではグラフト反応が充分に進行しない場合があり、1.0重量部を超える場合は共重合体(a)の分子鎖(主鎖)のβ-開裂による分子切断による分子量低下や、その結果として変性共重合体(A)の機械的特性の低下を招くことがあるので好ましくない。
【0057】
ラジカル開始剤としての有機過酸化物は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)や極性モノマーとそのまま混合して使用することもできるが、有機溶媒に溶解して使用することもできる。
【0058】
このときに用いられる有機溶媒としては、ラジカル開始剤を溶解し得る有機溶媒であれば特に限定されないが、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびデカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレンなどの脂環族炭化水素系溶媒、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素およびテトラクロルエチレンなどの塩素化炭化水素、メタノール、エタノール、n-プロピノール、i-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、i-ブタノールおよびt-ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルおよびジメチルフタレートなどのエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-アミルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキシアニソールのようなエーテル系溶媒を挙げることができる。
【0059】
またプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)に極性モノマーをグラフト重合させる際には、還元性物質を用いてもよい。還元性物質を用いると、極性モノマーのグラフト量を向上させることができる。
【0060】
還元性物質としては、鉄(II)イオン、クロムイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、さらには−SH、SO3H、−NHNH2、−COCH(OH)−などの基を含む化合物が挙げられる。
【0061】
このような還元性物質としては、具体的には、塩化第一鉄、重クロム酸カリウム、塩化コバルト、ナフテン酸コバルト、塩化パラジウム、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N-ジメチルアニリン、ヒドラジン、エチルメルカプタン、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などが挙げられる。
【0062】
還元性物質は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部の量で用いることができる。
【0063】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の極性モノマーによるグラフト変性は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)、極性モノマーおよびラジカル開始剤を配合してなる混合物を押出機等に投入して溶融混練して行われる。
【0064】
この反応は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a)の融点以上、通常120〜220℃、好ましくは120〜210℃の温度で、0.5〜10分間行なわれることが望ましい。この温度範囲で混練することにより、分子量の低下を抑制できるとともにゲル副生量も低減できるので好ましい。このようにして得られるグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の変性量(極性モノマーのグラフト量)は、通常0.4〜1.5重量%、好ましくは0.4〜1.4重量%、より好ましくは0.5〜1.3重量%、さらに好ましくは0.6〜1.2重量%、とりわけ好ましくは0.6〜1.0重量%である。
<グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)>
本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は以下の要件(i)〜(iv)を同時に満たす。
要件(i)
上で述べたように、極性モノマーによる変性量(グラフト量)は0.4〜1.5重量%である。変性量が0.4重量%に満たない場合は、接着強度が十分に発現しないので好ましくない。一方、変性量が1.5重量%を超えるグラフト変性共重合体は、一般的にはグラフト変性時の極性モノマーや有機過酸化物の仕込み量を増加することにつながり、このことはひいては、本願発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)が備えるべき要件の一つである低ゲル含量を満たさなくなったり、主鎖切断による極限粘度低下を引き起こしたり、あるいは例えば変性共重合体(A)をプライマーとして用いる場合にプライマーに異物が混入する事態につながる場合もあるので好ましくない。
要件(ii)
変性共重合体(A)に含まれる極性モノマーの含有量が1000ppm以下である。
【0065】
極性モノマーの含有量とは、本発明のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)に残存する未反応極性モノマーの含有量、すなわちプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)と極性モノマーとを反応させて製造されたグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)中に占める未反応の残留極性モノマーの含有量である。極性モノマーの含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下である。極性モノマーの含有量が1000ppm以下であると、変性共重合体(A)の臭気を問題にならないレベルに低減することができ、また変性共重合体(A)から水系ディスパージョンを調製する際、白濁の発生が抑制される。
要件(iii)
グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)に含まれる、140℃キシレンに不溶なゲル含量が2.5重量%以下である。前記ゲル含量は、好ましくは2.0重量%である。ゲル含量が2.5重量%を超えると、変性共重合体(A)を溶剤に溶解して使用する場合や水分散体として用いる場合に、精密濾過工程等の精製工程を追加する必要があり、プロセスが長くなるという欠点を招く。また変性共重合体(A)をプライマーにする際、溶剤不溶成分となる変性共重合体(A)の割合が高くなり、歩留まりが低下する。該変性共重合体(A)の製造時の歩留まりの低下にもつながる。
要件(iv)
グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)に含まれる、揮発性炭化水素化合物の含有量は10ppm以下である。揮発性炭化水素化合物の含有量が10ppm以下であると、変性共重合体(A)の臭気を問題にならないレベルに低減することができ、作業者の労働安全性を向上することができ、VOC排出規制に順応させることができる。揮発性炭化水素化合物の含有量は、好ましくは5ppm以下である。なお揮発性炭化水素とは、1気圧下で沸点が180℃以下の炭化水素化合物である。このような化合物としては、n-ヘキサンおよびその位置異性体、n-ヘプタンおよびその位置異性体、n-オクタンおよびその位置異性体、トルエン、p-キシレンおよびその異性体を例示することができる。
【0066】
上記「変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の製造」において示した、ラジカル開始剤として半減期1分となる分解温度が150〜190℃である有機過酸化物を用いた製造方法により得られた変性プロピレン・α-オレフィン共重合体は、上記要件を満たすので、該共重合体をトルエン等の溶剤に溶かしてプライマーにする際、溶剤不溶成分が少なく、歩留まりの低下を防止できる。
【0067】
グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の135℃、デカリン中で測定される極限粘度[η]は、通常0.1〜5(dl/g)、より好ましくは0.2〜3(dl/g)、さらに好ましくは0.5〜1.0(dl/g)である。極限粘度[η]が0.1(dl/g)に到達しない場合は、変性共重合体(A)の強度が十分に発現しない場合があり、一方で極限粘度[η]が5(dl/g)を超えてしまう場合は、例えば変性共重合体(A)の水分散液を調製した場合のエマルジョン安定性に劣ったり、エマルジョン中に白濁が生じる場合がある。
【0068】
グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の融点は、60〜140℃、好ましくは70〜130℃であり、結晶化度は、20〜60%、好ましくは30〜55%である。
【0069】
グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)のB値(B値はプロピレン単位と1-ブテン単位とから求められる)は、変性前のプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のB値とほぼ同値である。また分子量分布(Mw/Mn)は変性前と大きく変らないことが望ましい。
【0070】
また本発明は、前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)、並びにポリアミド樹脂(P)およびポリプロピレン樹脂(Q)から選ばれる一種以上の樹脂を含んでなる樹脂組成物に係る。その具体的な形態は次の通りである。
(1)グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)とポリアミド樹脂(P)からなる樹脂組成物(X)
(2)グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)とポリプロピレン樹脂(Q)からなる樹脂組成物(Y)
(3)グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)とポリアミド樹脂(P)とポリプロピレン樹脂(Q)からなる樹脂組成物(Z)
樹脂組成物(X)は、ポリアミド樹脂(P)50〜99重量%、好ましくは60〜90重量%、および(A)グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)1〜50重量%、好ましくは10〜40重量%を含む(ただし、前記(P)および(A)の合計を100重量%とする)。樹脂組成物(X)は、ポリミド樹脂(P)が固有に備える耐熱性を大きく損なうことなく、柔軟性や耐衝撃性が付与された樹脂組成物である。
【0071】
樹脂組成物(Y)は、プロピレン樹脂(Q)1〜60重量%、好ましくは5〜50重量%、および(A)グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)40〜99重量%、好ましくは50〜95重量%を含む(ただし、前記(Q)および(A)の合計を100重量%とする)。樹脂組成物(Y)は、ポリプロピレン樹脂(Q)がバランスよく備える剛直性と耐熱性を大きく損なうことなく、柔軟性や耐衝撃性が付与された樹脂組成物である。樹脂組成物(Y)は、水分散液の原料として、あるいは溶剤溶解型のポリプロピレンとアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂とのプライマー層として好適に用いられる。
【0072】
樹脂組成物(Z)は、ポリアミド樹脂(P)20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、ポリプロピレン樹脂(Q)10〜50重量%、好ましくは20〜45重量%および(A)グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%を含む(ただし、前記(P)、(Q)および(A)の合計を100重量%とする)。樹脂組成物(Z)は、前記グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を相溶化剤として含むため、該樹脂組成物においては、ポリアミド樹脂(P)とポリプロピレン樹脂(Q)とが良好に相溶化されており、前記樹脂組成物(Z)は、引張強度および耐衝撃性に優れ、かつ外観に優れる。また樹脂組成物(Z)においては、ポリミド樹脂(P)およびポリプロピレン樹脂(Q)が本来有する物性、例えば低吸水性、耐熱性、耐薬品性、曲げ弾性を損なわれていない。
【0073】
本発明の樹脂組成物には、前記(A)、(P)および(Q)以外に、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、抗ブロッキング剤、スリップ剤、帯電防止剤など所望の用途に応じ任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0074】
このような添加剤は、樹脂組成物100重量%に対して、通常は0.01〜1重量%、好ましくは0.02〜0.6重量%の範囲で含まれる。
【0075】
本発明の樹脂組成物の調製方法としては特に限定はなく、従来公知の任意の方法を採用することができ、例えば、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機により混合する方法、および、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により混練する方法が挙げられる。これらの方法は、組み合わせてもよいし、単独で採用してもよい。
【0076】
得られた、本発明の樹脂組成物は、押出機等を用いてペレット状ないし顆粒状などに調製してもよく、そのまま成形を行い、成形体を得てもよい。
【実施例】
【0077】
以下の実施例において、重合体の物性等は下記のように測定した。
(1)1-ブテン含量
1-ブテン含量は13C-NMRを利用して求めた。
(2) メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、ASTM D 1238に準拠し、230℃で2.16kg荷重の条件下で測定した。
【0078】
(3) 分子量分布(Mw/Mn)
分子量分布(Mw/Mn)は、ミリポア社製GPC−150Cを用い、以下のようにして測定した。
【0079】
分離カラムは、TSK GNH HTであり、カラムサイズは直径27mm、長さ600mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo-ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025重量%を用い、1.0ml/分で移動させ、試料濃度は0.1重量%とし、試料注入量は500マイクロリットルとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、Mw<1000、およびMw>4×106については東ソー社製を用い、1000<Mw<4×106についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。
【0080】
(4) B値
共重合モノマー連鎖分布のランダム性を示すパラメーターB値は、直径10mmの試料管中で約200mgの共重合体を1mlのヘキサクロロブタジエンに均一に溶解させて得られた試料の13C−NMRのスペクトルを、測定温度120℃、測定周波数25.05MHz、スペクトル幅1500Hz、フィルター幅1500Hz、パルス繰り返し時間4.2sec、積算回数2000〜5000回の測定条件の下で測定し、このスペクトルからP1、P2、P12を求めることにより算出した。
【0081】
(5) 融点(Tm)
試料約5mgをアルミパンに詰め10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持したのち10℃/分で−100℃まで降温し、次いで10℃/分で昇温する際の吸熱曲線より融点を求めた。測定にはセイコーインスツル社製DSC−RDC220を用いた。
【0082】
(6)無水マレイン酸グラフト量
無水マレイン酸グラフト量は、FT-IRにてカルボニル基に帰属される1780cm-1ピーク強度に基づき、別途作成した検量線から求めた。
【0083】
(7)残留マレイン酸量
残留マレイン酸量は、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体約1gをキシレン/水混合溶媒で抽出し、抽出溶液のポリマーを除去した後、逆相カラムを用いた液体クロマトグラフでマレイン酸を分離し、別途作成した検量線から求めた。
【0084】
(8)極限粘度[η]
極限粘度は135℃のデカリン中で測定した。
【0085】
(9)結晶化度
結晶化度は、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体を厚さ1.0mmのプレスシートに成形し、成形してから少なくとも24時間経過した後にX線回折測定をすることにより求めた。
【0086】
(10)臭気の有無
グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体の臭気の有無は官能検査により評価した。すなわち、ガラス蓋付きシャーレ中にペレット状のグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体を入れ、50℃恒温槽中に1時間保管し室温まで冷却後約5分間静置した。その後、蓋を少し開いてにおいを嗅ぎ、以下の2段階で臭気の強度を評価した。
臭気無し:臭いを全く感知できないか、やっと感知できる程度の臭い
臭気有り:容易に感知できる臭いあり
(11)ゲル含量
1リットルの攪拌機付き三ツ口フラスコに、精秤した約10gのグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体と和光純薬工業製の特級p-キシレン500mlを投入し、撹拌下にリフラックスを3時間行った。溶液温度を維持したまま、溶液全体をG4ガラスフィルターで熱濾過し、フィルター板に残った固形状のゲルを濾別、乾燥し、その重量およびグラフト変性共重合体に占める含有率(重量%)を求めた。含有率が2.0重量%以下である場合をA判定、2.0重量%を超え、2.5重量%以下である場合をB判定、2.5重量%を超える場合をC判定としてゲル含量を評価した。
【0087】
グラフト反応に供したプロピレン・α-オレフィン共重合体(a)のうち、プロピレン・1-ブテン共重合体(a−1)〜(a−3)は、下記製造例1〜3で調製した。また、比較例で使用したプロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体は、既に公開されているWO2004/106430Aの実施例に記載された方法に準じて調製した(製造例4および5)。その他の、変性原料としての各種重合体については、市販品をそのまま使用した。
[製造例1]
充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを900ml、1-ブテンを90g仕込み、トリイソブチルアルミニウムを1ミリモル加え、70℃に昇温した後、プロピレンを供給して全圧7kg/cm2Gにし、メチルアルミノキサン0.30ミリモル、rac-ジメチルシリレン-ビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロライドをZr原子に換算して0.001ミリモル加え、プロピレンを連続的に供給して全圧を7kg/cm2Gに保ちながら30分間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、110℃で12時間減圧乾燥した。
【0088】
得られたプロピレン・α-オレフィン重合体(a−1)は39.7gであり、重合活性は79kg・ポリマー/ミリモルZr・hrであった。このポリマーは、プロピレンから導かれる単位74モル%と1-ブテンから導かれる単位26モル%を含有していた。MFRは7g/10分、融点は75℃、Mw/Mnは2.1、B値は1.0、極限粘度[η]は1.9(dl/g)、結晶化度は41であった。得られた重合体(a−1)の物性を表2に示す。プロピレン・α-オレフィン重合体(a−1)は、要件(5)に規定される−2.6M+130≦T≦−2.3M+155の関係、および要件(6)に規定されるC≧−1.5M+75の関係を満たす。
[製造例2〜3]
1-ブテン仕込み量を変更したこと以外は製造例1と同様にしてプロピレン・α-オレフィン重合体(a−2)および(a−3)を得た。重合体(a−2)および(a−3)における1-ブテン仕込み量は表2に示したとおりである。重合体(a−2)を得た製造例を製造例2、重合体(a−3)を得た製造例を製造例3とした。得られた重合体(a−2)および(a−3)の物性を表2に示す。プロピレン・α-オレフィン重合体(a−2)および(a−3)は、要件(5)に規定される−2.6M+130≦T≦−2.3M+155の関係、および要件(6)に規定されるC≧−1.5M+75の関係を満たす。
【0089】
[製造例4]
充分に窒素置換した2リットルの重合装置に、833mlの乾燥ヘキサン、1-ブテン100gとトリイソブチルアルミニウム(1.0ミリモル)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を40℃に昇温し、プロピレンで系内の圧力を0.76MPaになるように加圧した後に、エチレンで、系内圧力を0.8MPaに調整した。次いで、ジメチルメチレン(3-t-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロライド0.001ミリモルとアルミニウム換算で0.3ミリモルのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温40℃、系内圧力を0.8MPaにエチレンで保ちながら20分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、2リットルのメタノール中で重合溶液からポリマーを析出し、真空下130℃、12時間乾燥した。得られたプロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体(a―4)は、36.4gであり、極限粘度[η]が1.8(dl/g)であり、ガラス転移温度Tgは−29℃であり、エチレン含量は16モル%であり、ブテン含量は6.5モル%であり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。またDSC測定による融解熱量は明瞭な融解ピークは観測されなかった。得られた重合体(a―4)の物性を表2に示す。
【0090】
[製造例5]
充分に窒素置換した2リットルの重合装置に、917mlの乾燥ヘキサン、1-ブテン85gとトリイソブチルアルミニウム(1.0ミリモル)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を65℃に昇温し、プロピレンで系内の圧力を0.77MPaになるように加圧した後に、エチレンで、系内圧力を0.78MPaに調整した。次いで、ジメチルメチレン(3-t-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロライド0.002ミリモルとアルミニウム換算で0.6ミリモルのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温65℃、系内圧力を0.78MPaにエチレンで保ちながら20分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、2リットルのメタノール中で重合溶液からポリマーを析出し、真空下130℃、12時間乾燥した。得られたプロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体(a―5)は、60.4gであり、極限粘度[η]が1.81(dl/g)であり、ガラス転移温度Tgは−27℃であり、エチレン含量は13モル%であり、ブテン含量は19モル%であり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)は2.4であった。またDSC測定による融解熱量は明瞭な融解ピークは観測されなかった。得られた重合体(a―5)の物性を表2に示す。
【0091】
[その他の原料重合体]
・重合体(a―6):Vistamaxx3000(Exxon Mobile Chemical社製のプロピレン・エチレン共重合体、MFR(230℃,2.16kg荷重):7g/10分、エチレン含量:16モル%、融点:76℃、Mw/Mn:2.1)
・重合体(a―7):Adsyl5C30F(LyonDell Basell社製のランダムポリプロピレン、MFR(230℃,2.16kg荷重):5.5g/10分、ブテン含量:7モル%、エチレン含量:2モル%、融点Tm:138℃)
・重合体(a―8):プライムポリプロF327(プライムポリマー社製のランダムポリプロピレン、MFR(230℃,2.16kg荷重):7.3g/10分、ブテン含量:4モル%、エチレン含量:1.5モル%、融点Tm:139℃)
・重合体(a―9):プライムポリプロF107(プライムポリマー社製のプロピレン単独重合体、MFR(230℃,2.16kg荷重):7.2g/10分、融点Tm:168℃)
重合体(a―6)〜(a−9)の物性を表2に示す。
【0092】
【表2】







【0093】
[実施例1]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−1)の製造
押出機TEX30(日本製鋼所社製)に、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)100重量部、無水マレイン酸 2重量部、パーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、日本油脂(株)製、半減期1分となる分解温度:179.8℃)0.3重量部を投入し以下の条件で運転して、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−1)を得た。得られた重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に記載した。
【0094】
押出機の運転条件
シリンダー温度C2/C3/C4/C5/C6=50℃/170℃/200℃/200℃/200℃
スクリュー回転数 240rpm
フィーダー回転数 65rpm
なお、上記変性共重合体(A−1)を、塩化メチレン中に24時間浸漬後の抽出液をガスクロマトグラフィー( カラム充填剤:BX-10 、カラム長さ3m 、キャリアガス: 窒素、島津GC-2014、C-R8A)で分析した結果、揮発性炭化水素化合物に基づくピークは全く検出されなかった。すなわち、揮発性炭化水素化合物濃度は検出限界である1ppm未満であった。
【0095】
(接着力評価)
厚み3mmのブロックポリプロピレン(プライムポリマー社製のプライムポリプロJ739E、以下bPPとも記す)の射出角板上に、上記の方法で得られたグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−1)のトルエン溶液(濃度;35重量%)であるプライマーを塗布し、乾燥した後に、その上に更に透明アクリル樹脂トップコートし、120℃、0.1MPaで、30分間接着させ、bPP層/プライマー層/トップ層からなる構成の積層体サンプルを作製した。次いで、積層体の一方の端においてプライマー層とbPP層とを剥がして、剥がしたそれぞれの端をTピール強度試験機のチャックに挟み、剥離速度100mm/minで剥離強度を測定した結果、Tピール強度は1100g/cmであった。
(水分散体の安定性試験)
上記方法で得られたグラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−1)100重量部と、界面活性剤(C)として、オレイン酸カリウム4重量部とを混合した。この混合物を加圧型ニーダー中に投入し、180℃で、30分間溶融混練した。このニーダー内に20%水酸化カリウム水溶液を、全カルボン酸を中和するのに必要な量注入し、30分間混練をした。これを取出し、温水中に投入して十分撹拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度が45%、pHが12であり、乳化性は良好であった。また斑状の白濁も観測されなかった。
【0096】
[実施例2]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−2)の製造
パーヘキサ25Bを0.5重量部使用した以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−2)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0097】
[実施例3]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−3)の製造
パーヘキサ25Bを0.7重量部使用した以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−3)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0098】
[実施例4]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−4)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−2)を用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−4)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0099】
[実施例5]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−5)の製造
パーヘキサ25Bを0.5重量部用いた以外は実施例4と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−5)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0100】
[実施例6]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−6)の製造
実施例4で、パーヘキサ25Bを0.7重量部用いた以外は実施例4と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−6)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0101】
[実施例7]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−7)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−3)を用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−7)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0102】
[実施例8]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−8)の製造
パーヘキサ25Bを0.5重量部用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−8)を得た。得られた重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0103】
[実施例9]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−9)の製造
パーヘキサ25Bを0.7重量部用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−9)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。
【0104】
[実施例10]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−10)の製造
パーヘキサ25Bを1.0重量部用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−10)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。また、実施例1に記載した方法で、Tピール強度を測定した結果、400g/cmであった。
【0105】
[実施例11]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−11)の製造
パーヘキサ25Bを1.5重量部用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−11)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表3に示した。また、実施例1に記載した方法で、Tピール強度を測定した結果、300g/cmであった。またプライマー層の一部は凝集破壊していることが認められた。
【0106】
[比較例1]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−12)の製造
パーヘキサ25Bの代わりにパーヘキシン25B(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、日本油脂(株)製、半減期1分となる分解温度:194.3℃)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−12)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表4に示した。
【0107】
[比較例2]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−13)の製造
パーヘキシン25Bを0.5重量部用いた以外は比較例1と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−13)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表4に示した。
【0108】
[比較例3]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−14)の製造
パーヘキシン25Bを0.7重量部用いた以外は比較例1と同様の操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−14)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)、残留マレイン酸量、および極限粘度を測定し、結果を表4に示した。また、実施例1に記載した方法では水分散体を調製することができなかった。
【0109】
[比較例4]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−15)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−6)(Vistamaxx3000)を用いた以外は実施例2と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−15)を得た。該重合体の臭気の有無とゲル含量を測定し、結果を表4に示した。
【0110】
[比較例5]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−16)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、製造例4で調製したプロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体(a―4)を用いた以外は実施例2と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−16)を得た。該重合体の臭気の有無とゲル含量を測定し、結果を表4に示した。
【0111】
[比較例6]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−17)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、製造例5で調製したプロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体(a―5)を用いた以外は実施例2と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−17)を得た。該重合体の臭気の有無とゲル含量を測定し、結果を表4に示した。
【0112】
[比較例7]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−18)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a―7)(Adsyl5C30F)を用いた以外は実施例2と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−18)を得た。該重合体の臭気の有無とゲル含量を測定し、結果を表4に示した。
【0113】
[比較例8]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−19)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、プロピレン・α-オレフィン共重合体(a―8)(プライムポリプロF327)を用いた以外は実施例2と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−19)を得た。該重合体の臭気の有無とゲル含量を測定し、結果を表4に示した。
【0114】
[比較例9]グラフト変性プロピレン重合体(A−20)の製造
プロピレン・α-オレフィン共重合体(a−1)の代わりに、重合体(a―9)(プライムポリプロF107)を用いた以外は実施例2と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン重合体(A−20)を得た。該重合体の臭気の有無とゲル含量を測定し、結果を表4に示した。
【0115】
[比較例10]グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−21)の製造
無水マレイン酸を1.0重量部、パーヘキサ25Bを0.2重量部用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、グラフト変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A−20)を得た。該重合体の臭気の有無、ゲル含量、無水マレイン酸グラフト量(変性量)および残留マレイン酸量を測定し、結果を表4に示した。また、実施例1に記載した方法で、Tピール強度を測定した結果、320g/cmであった。
【0116】
【表3】





【0117】
【表4】