(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514684
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】口腔内細菌増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20190425BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20190425BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20190425BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20190425BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20190425BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20190425BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q11/00
A61K8/9789
A61K36/82
A61P1/02
A61P31/04
A61K31/353
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-510183(P2016-510183)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2015056157
(87)【国際公開番号】WO2015146505
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2017年12月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-65000(P2014-65000)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033145
【氏名又は名称】焼津水産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】上野 友哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 潤
【審査官】
松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−219484(JP,A)
【文献】
特開平03−086814(JP,A)
【文献】
国際公開第03/045328(WO,A1)
【文献】
特開2000−178157(JP,A)
【文献】
特開2010−095478(JP,A)
【文献】
特開平08−291013(JP,A)
【文献】
特開平03−297352(JP,A)
【文献】
渋谷耕司, 林理恵子,ハーブのオーラルケア製品への応用と課題,フレグランスジャーナル臨時増刊No.12,1992年12月15日,p.150-155,ISSN 0289-1840
【文献】
坂本 彬ほか,12種類の紅茶の化学成分,日本食品科学工学会誌,2012年 7月,第59巻,第7号,p.326-330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアフラビン、テアフラビン−3−O−ガレート、テアフラビン−3’−O−ガレート、及びテアフラビン−3,3’−O−ジガレートの4種からなるテアフラビン類化合物を、固形分当たり40〜100質量%含有する茶抽出物を有効成分とし、う蝕(虫歯)の原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)と、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)及び/又はフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)の生育阻害のために用いられ、前記テアフラビン類化合物が、口腔に100〜400μg/mLの濃度で投与されるように用いられるものであることを特徴とする口腔内細菌増殖抑制剤。
【請求項2】
前記テアフラビン類化合物の含有量が、固形分中10〜100質量%である請求項1記載の口腔内細菌増殖抑制剤。
【請求項3】
前記茶抽出物が、茶抽出成分に、ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、前記茶抽出成分に含まれるカテキン類からテアフラビン類化合物を生成させたものである請求項1又は2記載の口腔内細菌増殖抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアフラビン類化合物を有効成分とする口腔内細菌増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔に関する代表的な疾患は、う蝕(虫歯)と歯周病であり、それぞれ、その原因菌・メカニズムの研究が進められてきた。う蝕の主な原因菌はストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)であり、歯周病の主な原因菌はポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)やフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)である。これまでに、これらの原因菌に対して殺菌、静菌効果を示す成分やプラーク形成阻害成分に関する研究が多数報告されている。一方で、その抗菌性により、同時に、口腔内や腸内の常在細菌叢に影響を及ぼし、全体の菌叢バランスが崩れてしまうことが課題とされている。
【0003】
このような課題に対して、下記特許文献1には、口腔内や腸内の常在細菌叢に影響を及ぼさずに、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)のプラークの形成のみを特異的に阻害することを目的として、紅茶の溶媒抽出物を合成吸着樹脂で処理して得た吸着成分を有効成分とするプラーク形成阻害剤の発明が開示されている。
【0004】
一方、下記特許文献2には、口腔関連疾患において特に歯周病疾患の予防改善のために、歯周組織破壊に関与するマトリックスプロテアーゼ(MMP)の阻害及び/または産生阻害に優れた物質であって、渋味や苦味の強いエピガロカテキン−3−O−ガレートに代わる、風味がよく、かつ人体に対して安全性が高いものを提供することを目的とした発明が開示され、紅茶抽出物又はラッカーゼ処理緑茶エキスに含まれるエピテアフラガリン、エピテアフラガリン−3−O−ガレート、テアフラビン−3−O−ガレートに、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の阻害効果及び/又は産生阻害効果があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−344642号公報
【特許文献2】特開2009−219484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のプラーク形成阻害剤は、紅茶の溶媒抽出物を合成吸着樹脂で処理して、有機溶媒または含水有機溶媒で溶出して得られた成分が有効成分であるので、カテキン類は除かれ、歯周病の原因菌等に対する殺菌や静菌の効果は期待できなかった。また、特許文献2では、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)酵素に対する酵素活性阻害効果や、IL−1βにより誘導される歯肉繊維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)産生能に対する抑制効果が試験されたものの、歯周病の原因菌自体に対する殺菌や静菌の効果を見出すには至らなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術に鑑み、茶に含まれる成分を利用して、優れた口腔内細菌増殖抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究した結果、テアフラビン類化合物が、口腔内細菌の増殖を抑制する効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、テアフラビン類化合物を有効成分とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤においては、前記テアフラビン類化合物の含有量が、固形分中10〜100質量%であることが好ましい。
【0011】
また、前記テアフラビン類化合物が、口腔に25〜400μg/mLの濃度で投与されるように用いられることが好ましい。
【0012】
また、本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、テアフラビン類化合物を、固形分中10〜100質量%含有する茶抽出物からなることが好ましい。
【0013】
また、前記茶抽出物が、茶抽出成分に、ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、前記茶抽出成分に含まれるカテキン類からテアフラビン類化合物を生成させたものであることが好ましい。
【0014】
また、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、及びフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)からなる群から選ばれた1種又は2種以上の増殖を抑制するために用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、テアフラビン類化合物を有効成分とするので、口腔内細菌の増殖を抑制する効果に優れている。具体的には、う蝕(虫歯)の原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)や、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)やフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)に対して優れた生育阻害効果を示す。一方で、口腔内の常在菌であるStreptococcus mitis、Streptcoccus salivarius等の善玉菌に対しては弱い抗菌性しか示さず、口腔内や腸内の常在細菌叢の全体の菌叢バランスが崩れてしまうことがない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、テアフラビン類化合物を有効成分とする。本発明において、テアフラビン類化合物としては、テアフラビン、テアフラビン−3−O−ガレート、テアフラビン−3’−O−ガレート、テアフラビン−3,3’−O−ジガレートから選ばれた1種又は2種以上が用いられる。
【0017】
テアフラビン類化合物は、茶葉を紅茶に加工する発酵の過程で生成する、赤色を呈するポリフェノールである。茶葉中に含まれるカテキン類が、ポリフェノールオキシダーゼ活性やペルオキシダーゼ活性などを有する酵素による酸化を受けて生成する。
【0018】
テアフラビン類化合物としては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−ガレート、エピガロカテキン−3−ガレートなどのカテキン類を原料にしてフェリシアン化カリウムで酸化して合成した化学合成品などを用いてもよいが、テアフラビン類化合物を含有する茶抽出物を用いることが好ましい。以下、テアフラビン類化合物を含有する茶抽出物の例を挙げる。
【0019】
(紅茶抽出物)
紅茶発酵の過程を経た茶葉(強発酵茶)を、水、含水アルコール等の溶媒により、加熱もしくは常温条件で、数分から数時間撹拌することにより抽出し、紅茶抽出物を得ることができる。この紅茶抽出物は、精製、濃縮、粉末化などの加工度が進んだものであってもよい。このような紅茶抽出物において、テアフラビン類化合物の含量を高めるためには、例えば、紅茶発酵の過程で発酵時間を延長する方法の他、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−ガレート、エピガロカテキン−3−ガレートなどのカテキン類を紅茶抽出物に追加で投入し、ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素を添加して、加熱もしくは常温条件で、数分から数時間反応させる方法が挙げられる。ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素としては、リンゴ、バナナなど果実に由来するものや、該酵素を含む茶葉抽出物、該酵素を含む茶葉粉砕物、該酵素を含む植物細胞培養液などを利用することができる。また、上記カテキン類としては、茶由来カテキン製剤やカテキンを高濃度に含む茶抽出物など茶由来のものの他、カカオ等のその他の植物由来のカテキン製剤やカテキンを高濃度に含む抽出物を利用してもよい。
【0020】
(茶抽出成分の酵素処理物)
水等の溶媒に溶解し又は溶解された茶抽出成分に、ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素を添加して、加熱もしくは常温条件で、数分から数時間反応させる。これにより、茶抽出成分に含まれるカテキン類からテアフラビン類化合物が生成する。ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素としては、リンゴ、バナナなど果実に由来するものや、該酵素を含む茶葉抽出物、該酵素を含む茶葉粉砕物、該酵素を含む植物細胞培養液などを利用することができる。このようにして得られた茶抽出成分の酵素処理物は、精製、濃縮、粉末化などの加工度が進んだものであってもよい。
【0021】
(茶葉発酵抽出物)
茶葉を粉砕してスラリー状に調製し、必要に応じて水等の溶媒を添加して、加熱もしくは常温条件で、数分から数時間発酵させる。これにより、茶葉に含まれるカテキン類から、茶葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素の作用により、テアフラビン類化合物が生成する。発酵後は、必要に応じて、固液分離したり、更に水、含水アルコール等の溶媒により、加熱もしくは常温条件で、数分から数時間撹拌することにより抽出したりしてもよい。このようにして得られた茶葉発酵抽出物は、精製、濃縮、粉末化などの加工度が進んだものであってもよい。
【0022】
(カテキン類の酵素処理物)
エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−ガレート、エピガロカテキン−3−ガレートなどのカテキン類を原料にして、水等の溶媒中で、ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素を添加して、加熱もしくは常温条件で、数分から数時間反応させる。これにより、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−ガレート、エピガロカテキン−3−ガレートなどのカテキン類からテアフラビン類化合物が生成する。ポリフェノールオキシダーゼ活性及び/又はペルオキシダーゼ活性を有する酵素としては、リンゴ、バナナなど果実に由来するものや、該酵素を含む茶葉抽出物、該酵素を含む茶葉粉砕物、該酵素を含む植物細胞培養液などを利用することができる。また、上記カテキン類としては、茶由来カテキン製剤やカテキンを高濃度に含む茶抽出物など茶由来のものの他、カカオ等のその他の植物由来のカテキン製剤やカテキンを高濃度に含む抽出物を利用してもよい。このようにして得られたカテキン類の酵素処理物は、精製、濃縮、粉末化などの加工度が進んだものであってもよい。
【0023】
なお、本発明に用いられる「茶抽出物」とは、上記に例示の調製法以外でも、茶を原料にしてその成分として、あるいはその成分であるカテキン類から生成させた、茶由来のテアフラビン類化合物を含むものであればよく、その全般を包含する意味である。
【0024】
上記茶抽出物の原料となる茶としては、ツバキ科の多年性植物である茶の樹から得られるものであればよく、特に制限はない。一般に栽培されている茶品種としては、例えば、あさつゆ、おおいわせ、おくひかり、おくみどり、かなやみどり、こまかげ、さみどり、はつもみじ、やまとみどり、まきのはらわせ、みねかおり、めいりょく、やぶきた、やまなみ等の緑茶品種、烏龍、色種、水仙、鉄観音等のウーロン茶品種、からべに、ひめみどり、べにひかり、べにふうき、べにふじ、べにほまれ等の紅茶品種などが挙げられる。茶葉の採取時期は、1番茶、2番茶、3番茶などのいずれでもよく、また、その栽培国・地域に特に制限はない。
【0025】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、テアフラビン類化合物を、固形分中10〜100質量%含有するものであることが好ましく、25〜100質量%含有するものであることがより好ましく、40〜100質量%含有するものであることが最も好ましい。テアフラビン類化合物の含有量が、固形分中に10質量%未満では、口腔内に投与した際のテアフラビン類化合物の濃度が低くなるので、口腔内細菌の増殖抑制作用が低減する傾向がある。
【0026】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤として、前述した茶抽出物を用いる場合、該茶抽出物は、その固形分中に、テアフラビン類化合物を、10〜100質量%含有するものであることが好ましく、25〜100質量%含有するものであることがより好ましく、40〜100質量%含有するものであることが最も好ましい。
【0027】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、テアフラビン類化合物を含む原料の他に、他の原料を含んでいてもよい。例えば、砂糖、果糖、糖アルコールなどの糖類や、タンパク質、脂質、ミネラルなどを含むことができる。また、必要に応じて、防腐剤、増粘剤、乳化剤、着色剤、着香剤などを含むこともできる。
【0028】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、口腔内に投与することにより、口腔内細菌の増殖を抑制する作用をもたらす。その投与方法は、特に限定されないが、口腔内細菌増殖抑制剤又はそれを含有する組成物を口腔内に投与した際、唾液等と混じって形成される流動物中のテアフラビン類化合物の濃度として、25〜400μg/mLの濃度となるように用いられることが好ましく、100〜400μg/mLの濃度となるように用いられることがより好ましい。口腔内におけるテアフラビン類化合物の濃度が、10μg/mL未満であると、口腔内細菌の増殖抑制作用が低減する傾向となる。
【0029】
また、本発明の口腔内細菌増殖抑制剤は、口中に一定時間以上留まるよう摂取又は使用するために、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば歯磨き剤、うがい剤、含そう剤、口中スプレー剤、トローチ錠剤、ガム状剤、飴状剤、口腔内溶解錠剤、ゼリー状剤、グミ状剤等の剤形とし、それらの剤形に適した通常の摂取又は使用形態で用いることができる。
【0030】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤の有効成分は、口腔内細菌のなかでも、特にう蝕(虫歯)や歯周病の原因菌に対して優れた生育阻害効果を示すので、それらの増殖を抑制するために用いられることが好ましい。
【0031】
例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)は代表的なう蝕原因菌であり、普段歯牙表面からは検出されにくいが、う蝕病巣からは必ず検出される。菌体外グルカンを生成したり、バイオフィルムを形成したり、乳酸産生によりエナメル質の喪失を引き起こしたりすることが知られている。また、グラム陰性の偏性嫌気性細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)は代表的な歯周病原因菌であり、歯肉溝、所謂、歯周ポケットに生息するコラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ等の分解酵素の発現誘導や、菌由来のリポポリサッカライドが炎症を引き起こすことが知られている。また、近年の研究では口臭の原因菌として、注目されている。同じく歯周病原因菌のフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)と同じ機構で疾病を引き起こす菌であり、大腸がんのリスク因子としても知られている。その他の歯周病原因菌としては、Tannerella forsythia、Actinobacillis actinomycetemcomitans、Campylobacter rectus、Prevotella intermedia、Treponema denticolaなどが挙げられる。
【0032】
ここで、口腔内には500種を超える菌が存在しており、その細菌叢バランスについては、口腔内細菌は食生活や生活習慣によって大きく変動があるが、常在菌と呼ばれる正常細菌叢の代表的な菌種としては、例えば、Streptococcus salivariusは舌表面、Streptococcus mitisは頬粘膜および歯牙表面の最優勢菌種である。また、Streptococcus sanguinisは歯牙表面に生息する口腔レンサ球菌であり、同じく口腔レンサ球菌のStreptococcus mitiorも存在が認められている。
【0033】
本発明の口腔内細菌増殖抑制剤の有効成分は、口腔内細菌のなかでも、Streptococcus mitis、Streptcoccus salivarius等の身体に影響の少ない善玉菌に対しては弱い抗菌性しか示さない。よって、口腔内や腸内の常在細菌叢の全体の菌叢バランスが崩れてしまうことがない。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
<製造例1> テアフラビン含有粗抽出物 その1
緑茶由来カテキン製剤(カテキン含量90%以上、商品名「サンフェノン90」、太陽化学株式会社)0.3gを水400mLに溶解した。別途、茶葉3gに水100mLを加えて、粉砕し、茶粉砕物を得た。この茶粉砕物に上記のカテキン溶液を合わせ、30〜35℃で3時間反応させた。反応後の反応液を合成吸着剤「セパビーズSP−700」(商品名、三菱化学株式会社製)に通して精製を行い、フリーズドライにより粉末化して、テアフラビン含有粗抽出物0.1gを得た。HPLCで分析したところ、このテアフラビン含有粗抽出物中にはテアフラビンが6質量%、テアフラビン−3−O−ガレートが14質量%、テアフラビン−3’−O−ガレートが4質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレートが18質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は42質量%であった。
【0036】
<製造例2> テアフラビン含有精製抽出物
製造例1と同様の調製により得たテアフラビン含有粗抽出物の4gを、20%アセトンに溶解し、同じく20%アセトンで膨潤したゲル濾過カラム「SephadexLH−20」(商品名、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に供して分画し、テアフラビン含有抽出液を得た。このテアフラビン含有抽出液をフリーズドライにより粉末化して、テアフラビン含有精製抽出物1.5gを得た。HPLCで分析したところ、このテアフラビン含有精製抽出物中にはテアフラビンが16質量%、テアフラビン−3−O−ガレートが27質量%、テアフラビン−3’−O−ガレートが7質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレートが40質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は90質量%であった。
【0037】
<製造例3> テアフラビン含有粗抽出物 その2
緑茶用茶葉50gに熱水400mLを添加し、撹拌した後、固液分離して緑茶抽出液を得た。別途、緑茶用茶葉3gに水100mLを加えて、粉砕し、緑茶粉砕物を得た。この緑茶粉砕物に上記の緑茶抽出液を合わせ、30〜35℃で3時間反応させた。反応後の反応液を合成吸着剤「セパビーズSP−700」(商品名、三菱化学株式会社製)に通して精製を行い、フリーズドライにより粉末化して、テアフラビン含有粗抽出物0.1gを得た。HPLCで分析したところ、このテアフラビン含有粗抽出物中にはテアフラビンが4質量%、テアフラビン−3−O−ガレートが10質量%、テアフラビン−3’−O−ガレートが3質量%、テアフラビン−3,3’−O−ジガレートが14質量%含まれており、テアフラビン類化合物の合計含量は31質量%であった。
【0038】
<試験例1> (口腔内細菌に対する増殖抑制効果)
[試験方法]
(1)細菌及び培地
Streptococcus mutans(NBRC13955、以下、S.mutansと略)、Streptococcus mitis(NBRC106071、以下、S. mitisと略)、及びStreptococcus salivarius(NBRC13956、以下、S. salivariusと略)の培養には、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地を用いた。また、偏性嫌気性菌であるPorphyromonas gingivalis(ATCC33277、以下、P. gingivalisと略)とFusobacterium nucleatum(ATCC25586、以下、F. nucleatumと略)の培養には、Yeast Extract 1mg/mL、Hemin 1μg/mL、Menadion 5μg/mLを含むBHI培地を用いた。各菌を各培地に植菌後1日間培養し、以下の試験に供した。
【0039】
(2)被検試料
製造例1で得たテアフラビン含有粗抽出物(以下、TF crude 1と略)、製造例2で得たテアフラビン含有精製抽出液(以下、TF fineと略)、製造例3で得たテアフラビン含有粗抽出液(以下、TF fine 2と略)、テアフラビン(以下、TF-1と略)、テアフラビン−3,3’−O−ジガレート(以下、TF-3と略)、及び緑茶由来カテキン製剤(カテキン含量90%以上、商品名「サンフェノン90」、太陽化学株式会社)(以下、CCと略)を被検試料とした。各試料は、1%DMSOを含むPBSに5mg/mLとなるように溶解し、除菌の為、0.20μmフィルターをパスしたものを、以下の試験に供した。
【0040】
(3)最小発育阻止濃度の測定
被検試料と1%DMSO含有PBSを混合し、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.50、0.25mg/mLの希釈系列を作成し、更に菌を含む培地で10倍希釈することで、最終濃度を500、400、300、200、100、50、25μg/mLに調整した。各菌は、培養開始時におよそ1.0×10
5cfu/mLとなるように、上記希釈に用いた培地中の菌数を調整した。
【0041】
培養には96wellプレートを用い、嫌気培養条件下で静置培養を行い、プレートリーダーを用いて経時的に濁度(OD630nm)を測定した。濁度は3well分の結果を平均し、濁度の測定を菌の増殖曲線がプラトーに達するまで継続した。発育阻止の基準として、菌の増殖曲線がプラトーに達したときの濁度上昇幅について、被検試料を添加しないコントロール群の濁度上昇幅に対して10%未満の値に抑えることと設定し、その発育阻止を示す最小濃度である最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration ;MIC)を求めた。
【0042】
[結果]
結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、う蝕原因菌であるS.mutansに対しては、TF fineが最も生育阻害の効果が高く、TF crude 1とTF-3が2番目に効果が高く、TF crude 2が3番目に効果が高かった。歯周病の原因菌であるP. gingivalisに対しては、TF fineが最も生育阻害の効果が高く、TF crude 1とTF-3が2番目に効果が高く、TF crude 2が3番目に効果が高かった。歯周病の原因菌であるF. nucleatumに対しては、いずれの被検試料にも生育阻害の効果がみられた。口腔内常在菌であるS. mitisに対しては、TF-3に若干効果が認められたが、その他の被検試料では効果が乏しかった。口腔内常在菌であるS. salivariusに対しては、いずれの被検試料でも効果が乏しかった。
【0045】
以上の結果から、テアフラビン類化合物を含む被検試料では、口腔内常在菌に対してよりも、う蝕(虫歯)や歯周病の原因菌に対してのほうが、全体として生育阻害の効果が高くなり、そのように選択的な抗菌性があることが明らかとなった。これに対し、緑茶由来カテキン製剤では、F. nucleatumに対する以外は、一様に弱い効果しか認められなかった。よって、カテキン製剤については、例えばS.mutansに対する有効濃度まで高めて用いようとすると、常在菌まで生育阻害する可能性があると考えられた。