(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN),Google Scholar,UniProt/GeneSeq
止血を調節する第Xa因子変異体であって、該第Xa因子変異体が、軽鎖および重鎖を含み、該軽鎖が、配列番号:3を含み、該重鎖が、キモトリプシンナンバリングシステムにおける16位(配列番号:5の1位)のIleがMetで置換され、および/またはキモトリプシンナンバリングシステムにおける17位(配列番号:5の2位)のValがThrまたはSerで置換される配列番号:5を含む、第Xa因子変異体。
止血関連疾患が、血友病A、血友病B、阻害抗体を伴う血友病AおよびB、凝固因子欠損症、混合FV/FVIII欠損症、ビタミンKエポキシド還元酵素C1欠損症、ガンマカルボキシラーゼ欠損症;外傷、傷害、血栓症、血小板減少症、脳卒中、凝固障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)に伴う出血;過剰抗凝固処置疾患;ベルナール・スーリエ症候群、グランツマンの血小板無力症および貯蔵プール欠乏症から選ばれる請求項7に記載の医薬組成物。
プロトロンビン由来のプロペプチド配列をさらに含み、細胞内プロテアーゼ切断部位がアミノ酸RKRを含み、該細胞内プロテアーゼ切断部位が活性化ペプチドを置換し、そして、16位のIleがThrである請求項11に記載の核酸分子。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な記載
第X因子(FX)は、セリンプロテアーゼチモーゲンであり、FXの切断可能なArg
15-Ile
16結合を切断し、FXaを生成する52アミノ酸活性化ペプチドを放出する外因性(組織因子/FVIIa)および内因性(FVIIIa/FIXa)テナーゼ酵素複合体の両方に対する基質である。第Xa因子は、プロトロンビンからトロンビンへの変換に関与するプロテアーゼである。すべてのセリンプロテアーゼチモーゲンは、基質結合部位の部分を含むそれらの構造の一部(すなわち、活性化ドメイン)が乱されており、容易にリガンドが結合することができないので、不活性である。非常に特異的な部位(キモトリプシンナンバリングシステムを用いて16位)における限定されたタンパク質分解によるこれらのチモーゲンの活性化は、この「活性化ドメイン」を整え、この領域における強いリガンド結合を許容する大規模なコンホメーション変化をもたらす。(たとえば、Furieら(1976) J.Biol.Chem.、251:6807-6814;Robisonら(1980) J.Biol.Chem.、255:2014-2021;Keytら(1982) J.Biol.Chem.、257:8687-8695;Perssonら(1991) J.Biol.Chem.、266:2458;Perssonら(1993) J.Biol.Chem.、268:22531-22539;Dahlbackら(1978) Biochem.、17:4938-4945を参照)。このチモーゲンからプロテアーゼへの転移は、一般に、すべてのセリンプロテアーゼについて同じであり、16位における切断が、次いで活性化ドメイン内の特異的部位(Asp194)に分子内で結合する新しいN末端(たとえば、野生型第X因子のための配列 IVGG(配列番号:1)を開放するメカニズムにしたがっている。強力なリガンドが、チモーゲンの活性化ドメインに結合し、この領域を安定化させ、次いでチモーゲンからプロテアーゼへの転移に見られる変化を少なくとも部分的に模倣することが明らかにされている。さらに、IVGG(配列番号:1)ペプチドが、16位における切断の不在下で、トリプシノーゲン(チモーゲン)を少なくとも部分的に活性化しうることが明らかにされている。
【0010】
近年、このチモーゲンからプロテアーゼへの転移を変更し、さらに、血友病におけるトロンビン生成を効率的に回復させるFXa変異体が生産されている。これらの誘導体は、重鎖の始まりにおいて、16または17位(キモトリプシンナンバリングシステム)に突然変異を有する(PCT/US2006/060927)。生化学的特徴決定は、変異体FXaI16LおよびFXaV17Aが、「チモーゲン様」であり、活性部位機能が乏しく、生理的インヒビターアンチトロンビンIII(ATIII)および組織因子経路インヒビター(TFPI)に対する反応性が低いことを明らかにする。しかしながら、驚くべきことに、該変異体の生物活性は、プロトロンビを形成するために、補因子FVAを伴う場合に完全に救済されうる。データは、FXaI16Lが、血友病血漿においてトロンビン生成を回復させることができ、長い半減期を有することを明らかにする(〜120分 vs. wt-FXaでは1分;Tosoら(2008) JBC 283:18627-35;Bunceら(2011) Blood、117:290-298)。さらに、血友病B(HB)マウスにおけるインビボ実験は、チモーゲン-様FXaI16Lが、安全性を示し、多数の傷害モデルにおいて適切な止血を提供することを明らかにする(L.Ivanciu and R.Camire、ASH Abstract、2008;ISTH Abstract、2009)。
【0011】
しかしながら、修飾および妨げられる分子転移の性質に基づいて、16または17位におけるアミノ酸に応じて、多かれ少なかれ「チモーゲン様」特徴を有する一連のFXa変異体を生成することが可能であることが本明細書において決定された。FXaI16Lと比べて、より多くチモーゲン様である変異体の潜在的利点は、半減期の延長であり、FVaの不在下での変異体としての安全性プロファイルは、活性が低く、より乱された活性部位を有する。しかしながら、凝固の開始に続いて、いったんFVaが利用可能になると、補因子が変異体を結合し、変異体を安定化させ、よって、その活性を救済する。
【0012】
本発明は、所望の特性(たとえば、より長いインビボ半減期、傷害モデルにおける高い有効性)を有する新規な一連のチモーゲン様FX変異体を提供する。FXa変異体は、16、17、18、19および/または194位(キモトリプシンナンバリングに基づく)に少なくとも一つの変化/置換を含むことができる。さらに詳しくは、FXa-I16Lと比べて有利な特性を有する、16および/または17位にアミノ酸置換を有するFXa変異体を提供する。これらの特性は、薬物動態/薬動力学(PK/PD)、インビボ凝固促進活性および/または安全性プロファイルにおいて、影響を与え、異なる治療域を提供する可能性がある。
【0013】
本発明は、FXa変異体、FX変異体、FXプレプロペプチド変異体およびFXプロペプチド変異体などの変異FX分子を包含する。単純化するために、本明細書を通して、一般に変異体をFXaとの関連で記載する。しかしながら、本発明は、同じアミノ酸置換を有するFX、FXプレプロペプチドおよびFXプロペプチド分子を意図し、包含する。
【0014】
本発明のFXa変異体は、任意の哺乳類種から得ることができる。特定の実施態様において、FXa変異体はヒトである。GenBank Accession No. NP_000495は、野生型ヒトFXプレプロタンパク質の例を提供する。
図9Aは、ヒトFXプレプロタンパク質のアミノ酸配列の例である配列番号:2を提供する。FXプレプロペプチドは、アミノ酸1-23からのシグナルペプチドおよびアミノ酸24-40からのプロペプチドを含む。プロペプチドの切断により、新たな末端配列Ala-Asn-Serを有するタンパク質が得られる。FXプレプロペプチドはまた、トリペプチドRKRにおける切除によって、成熟二本鎖形態(軽鎖および重鎖)に切断され、第X因子チモーゲンを生成する。二本の鎖はジスルフィド結合を介して連結される。
図9Bは、それぞれヒトFX軽鎖および重鎖のアミノ酸配列の例である配列番号:3および4を提供する。第X因子は、野生型FXa重鎖のための新たなアミノ末端配列IVGG(配列番号:1)を得るための52アミノ酸活性化ペプチドの切断によって活性化される。
図9Cは、ヒトFXa軽鎖および重鎖のアミノ酸配列の例である配列番号:3および5を提供する。特に、上記タンパク質分解的切断イベントは、不明確であり、その結果、切断部位におけるアミノ酸の付加または欠失を導く。
図9Dは、FXプレプロタンパク質をコードする核酸配列(配列番号:6)を提供する。FXをコードする核酸分子およびFXaは、提供されたアミノ酸およびヌクレオチド配列から容易に決定することができる。
【0015】
特定の実施態様において、本願発明の変異体は、配列番号:2と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性(同一性)、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有する。特定の実施態様において、本願発明の変異体は、配列番号:2のアミノ酸24-488と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有する。特定の実施態様において、本願発明の変異体は、配列番号:2のアミノ酸41-488と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有する。特定の実施態様において、変異体は、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、配列番号:3と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有し、重鎖は、配列番号:4と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有する。特定の実施態様において、変異体は、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、配列番号:3と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有し、重鎖は、配列番号:5と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または100%の相同性、特に、少なくとも90%、95%、97%または99%の相同性を有する。上記相同性パーセンテージは、16および/または17位において挿入された置換は除外する。
【0016】
本発明の変異体は、翻訳後に修飾されてもよい(γ−カルボキシル化)。変異体は、細胞内またはインビトロで翻訳後修飾されてもよい。
【0017】
特定の実施態様において、本発明の変異体は、増加した血漿(たとえば、血友病血漿)中半減期を有する。特定の実施態様において、本発明の変異体は、FVa不在下ですべての活性部位機能が無効であり、弱いアクチベーターである。該変異体は、FVaの存在下で活性を示す。
【0018】
本発明のFXa変異体は、16、17、18、19および/または194位(キモトリプシンナンバリング:
図9A(配列番号:2)中の235-239および418位)において少なくとも一つの置換を含む。特定の実施態様において、16位のイソロイシンは、メチオニン、トレオニンまたはセリンで置換される。特定の実施態様において、16位のイソロイシンは、トレオニンまたはメチオニンで置換される。特定の実施態様において、16位のイソロイシンは、トレオニンで置換される。特定の実施態様において、17位のバリンは、メチオニン、トレオニンまたはセリンで置換される。特定の実施態様において、17位のバリンは、ヒドロキシルアミノ酸トレオニンまたはセリンで置換される。特定の実施態様において、17位のバリンは、トレオニンで置換される。本発明の変異体は、16および/または17位において少なくとも一つの上記置換を有する。本発明の変異体はさらに、少なくとも一つの他の置換を含む(たとえば、18、19および/または194位に)。たとえば、194位のAspは、AsnまたはGluで置換されうる。
【0019】
上記変異体をコードする核酸分子もまた本発明に包含される。変異体をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の任意の方法によって製造することができる。核酸分子は、任意の都合のよいベクター、特に、発現ベクター内に維持されうる。
【0020】
少なくとも一つの変異体ポリペプチドおよび少なくとも一つの担体を含む組成物もまた、本発明に包含される。少なくとも一つの変異体核酸分子および少なくとも一つの担体を含む組成物もまた、本発明に包含される。任意の都合の良い担体は、投与される変異体と不適合である場合を除いて、医薬組成物におけるその使用が企図される。特定の実施態様において、担体は、静脈内投与用の医薬的に許容しうる担体である。
【0021】
定義
本発明の生体分子に関連する様々な用語が、上記および本明細書ならびに特許請求の範囲を通して用いられる。
語句「変異体チモーゲン/プロテアーゼ」は、FXaに変換されたときに、特定の補因子の不在下で、そのプロテアーゼ活性が低下するか、または「チモーゲン様」であるように遺伝子的に変更された修飾されたFXチモーゲンまたはFXaプロテアーゼを意味する。
【0022】
語句「止血関連疾患」は、血友病A、血友病B、阻害抗体をもつ血友病AおよびB患者、少なくとも一つの凝固因子(たとえば、第VII、IX、X、XI、V、XII、II因子および/またはフォン・ヴィレブランド因子)の欠損症、混合FV/FVIII欠損症、ビタミンKエポキシド還元酵素C1欠損症、ガンマカルボキシラーゼ欠損症;外傷、傷害、血栓症、血小板減少症、脳卒中、凝固障害(凝固性低下)、播種性血管内凝固症候群(DIC)に伴う出血;ヘパリン、低分子量ヘパリン、五糖類、ワルファリン、小分子抗血栓薬(すなわち、FXaのインヒビター)に伴う過剰抗凝固;およびベルナール・スーリエ症候群、グランツマンの血小板無力症および貯蔵プール欠乏症などの血小板障害などの出血障害を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の核酸に関して、用語「単離された核酸」を用いることもある。この用語は、DNAに適用される場合、由来する生物の天然のゲノムにおいて(5’および3’方向に)直接隣接する配列から分離されているDNA分子を意味する。たとえば、「単離された核酸」は、プラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターに挿入されたDNAまたはcDNA分子、または原核生物もしくは真核生物のDNAに組み込まれたDNAまたはcDNA分子を含んでもよい。
【0024】
本発明のRNA分子に関して、用語「単離された核酸」は、上記で定義した単離されたDNA分子によってコードされるRNA分子を意味する。あるいは、この用語は、「実質的に純粋な」形態で存在するように、その天然の状態(すなわち、細胞または組織内)において付随するRNA分子から十分に分離されているRNA分子を意味してもよい。
【0025】
タンパク質に関して、本明細書では、用語「単離されたタンパク質」を用いることもある。この用語は、本発明の単離された核酸分子の発現によって生成されたタンパク質を意味してもよい。あるいは、この用語は、天然において付随する他のタンパク質から十分に分離されているタンパク質を意味してもよい(たとえば、「実質的に純粋な」形態で存在するように)。
【0026】
用語「ベクター」は、核酸配列が、それが複製される宿主細胞へ導入されるために挿入されうる担体核酸分子(たとえば、DNA)を意味する。「発現ベクター」は、宿主細胞において発現するために必要な調節領域とともに遺伝子または核酸配列を含む特殊化されたベクターである。
【0027】
用語「機能的に連結された」は、コード配列の発現を達成するにように、コード配列の発現に必要な調節配列が、コード配列に関連する適当な位置でDNA分子内に置かれることを意味する。この同じ定義が、発現ベクターにおけるコード配列および転写調節エレメント(たとえば、プロモーター、エンハンサーおよび終結エレメント)のアレンジメントに適用されることもある。この定義はまた、ハイブリッド核酸分子が生成される第一および第二核酸分子の核酸配列のアレンジメントに適用されることもある。
【0028】
用語「実質的に純粋な」は、少なくとも50〜60重量%の対象化合物(たとえば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質など)、特に少なくとも75重量%、あるいは少なくとも90〜99重量%もしくはそれ以上の対象化合物を含む調製物を意味する。純度は、対象化合物に適した方法(たとえば、クロマトグラフィー法、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析など)によって測定することができる。
【0029】
「医薬的に許容しうる」は、連邦または州政府の監督官庁による承認、または米国薬局方、もしくは動物、さらに詳しくはヒトに用いるための一般に認識された薬局方に記載された承認を意味する。
【0030】
「担体」は、本発明の活性物質とともに投与される、たとえば、希釈剤、補助薬、保存剤(たとえば、チメロサール、ベンジルアルコール)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、可溶化剤(たとえば、Tween 80、ポリソルベート80)、乳化剤、緩衝液(たとえば、トリスHCl、アセテート、ホスフェート)、抗菌剤、増量剤(たとえば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、助剤または媒体を意味する。医薬的に許容しうる担体は、石油、動物、植物または合成起源のものなどの水および油といったような滅菌液体でありうる。水または水性食塩水溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液を担体として、特に注射液のために用いるのが好ましい。適当な医薬担体は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E. W. Martin(Mack Publishing Co.、イーストン、ペンシルバニア);Gennaro、A. R.、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、(Lippincott、WilliamsおよびWilkins);Libermanら編、Pharmaceutical Dosage Forms、Marcel Decker、ニューヨーク、ニューヨーク;およびKibbeら編、Handbook of Pharmaceutical Excipients、American Pharmaceutical Association、ワシントンに記載されている。
【0031】
核酸およびポリペプチドをコードする変異体の製造
A.核酸分子
本発明の変異体をコードする核酸分子は、組換えDNAテクノロジーを用いて製造することができる。ヌクレオチド配列情報の利用可能性は、様々な手段による本発明の単離された核酸分子の製造を可能にする。たとえば、変異体をコードする核酸配列を、当技術分野で公知の標準的プロトコルを用いて、適当な生物源から単離することができる。
【0032】
本発明の核酸は。任意の都合のよいクローニングベクター中でDNAとして維持することができる。好ましい実施態様において、クローンは、適当な大腸菌宿主細胞中で繁殖するプラスミドクローニング/発現ベクター(たとえば、pBluescript (Stratagene、ラホーヤ、カリフォルニア))中で維持される。別法として、核酸は、哺乳類細胞中で発現するのに適したベクター中で維持することができる。翻訳後修飾が変異体機能に影響を及ぼす場合、分子を哺乳類細胞中で発現させるのが好ましい。
【0033】
一つの実施態様において、本発明の変異体をコードする核酸は、細胞内タンパク質分解切断部位を挿入して、さらに修飾してもよい(本発明はまた、切断前および切断後に得られるポリペプチドの両方を包含する)。哺乳類細胞中でFXa変異体を発現させるために、変異体FXの15位Argと16位Ileの間に、細胞内タンパク質分解切断部位を挿入することができる。このような切断部位として、Arg-Lys-Arg or Arg-Lys-Arg-Arg-Lys-Argが挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの切断部位は、細胞内のプロテアーゼ(PACE/フーリン様酵素)によって効率的に認識され、除去される。これによって、分子の重鎖が16位で始まる切断された変異体FXaがもたらされる。この位置におけるこの切断部位の導入により、FXからFXaへの細胞内変換が可能になる。もう一つの実施態様において、完全52アミノ酸活性化ペプチドを除去し、細胞内プロテアーゼ切断部位をその場所に導入し、変異体FXaを得ることができる。
【0034】
最後に、これらのタイプの修飾は、修飾変異体FXを発現する、細胞からの変異体FXの「活性」プロセシング体の分泌を可能にする。切断された因子の分泌は、血液凝固中またはタンパク質の単離後のタンパク質分解切断の必要性を未然に防ぐ。
【0035】
本発明の核酸分子をコードする変異体として、cDNA、ゲノムDNA、RNAおよび一本鎖または二本鎖であるそのフラグメントが挙げられる。したがって、本発明は、少なくとも一つの本発明の核酸分子の配列とハイブリダイズする能力がある配列を有するオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNAのセンスまたアンチセンス鎖)を提供する。このようなオリゴヌクレオチドは、変異体発現を検出するためのプローブとして有用である。
【0036】
B.タンパク質
本発明の変異体は、公知の方法に従って、様々な方法で製造することができる。タンパク質は、たとえば、免疫親和性精製によって、適当な源(たとえば、形質転換細菌または動物培養細胞または変異体を発現する組織)から精製することができる。しかしながら、どの時点においても所定の細胞型において存在する可能性のあるタンパク質の量が少ないので、これは好ましい方法ではない。
【0037】
変異体をコードする核酸分子の利用可能性は、当技術分野で公知のインビトロ発現方法を用いる変異体の精製を可能にする。たとえば、cDNAまたは遺伝子を、インビトロ転写用のpSP64またはpSP65などの適当なインビトロ転写ベクターにクローニングし、次いで、小麦胚芽またはラビット網赤血球溶解液などの適当な無細胞翻訳系において無細胞翻訳を行なうことができる。インビトロ転写および翻訳系は、Promega Biotech、マディソン、ウィスコンシンまたはBRL、ロックビル、メリーランドから購入することができる。
【0038】
別法として、適当な原核または真核発現系中で発現させることによって、より多い量の変異体を製造することができる。たとえば、変異体をコードする一部またはすべてのDNA分子を、大腸菌などの細菌細胞またはCHOまたはHela細胞などの哺乳類細胞における発現に適合させたプラスミドベクターに挿入することができる。別法として、変異体を含むタグ付けした融合タンパク質を製造することができる。このような変異体−タグ付け融合タンパク質は、大腸菌などの細菌細胞または酵母細胞および哺乳類細胞(これらに限定されるものではない)などの真核細胞における発現に適合させたプラスミドベクターに挿入されている一部またはすべての所望のポリペプチドタグをコードするヌクレオチド配列に対する正確なコドンリーディングフレームにライゲートされた、DNA分子の一部またはすべてによってコードされる。上述したようなベクターは、宿主細胞におけるDNAの発現を可能にするような様式で位置する、宿主細胞におけるDNAの発現に必要な調節エレメントを含む。発現に必要なこのような調節エレメントとして、プロモーター配列、転写開始配列およびエンハンサー配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
組換え原核または真核系における遺伝子発現によって製造された変異体タンパク質は、当技術分野で公知の方法によって精製することができる。特定の実施態様において、市販の発現/分泌系を用いることができ、それによって、組換えタンパク質が発現され、その後、宿主細胞から分泌され、周囲の培地から容易に精製される。もし発現/分泌ベクターを用いないならば、別のアプローチはN-末端またはC-末端において6−8ヒスチジン残基にタグ付けされた組換えタンパク質に特異的に結合する抗体との免疫学的相互作用によるなどの親和性分離によって組換えタンパク質を精製することを含む。別のタグは、FLAGエピトープ、GSTまたはヘマグルチニンエピトープを含んでもよい。このような方法は、当業者によって通例用いられる。
【0040】
上述の方法によって製造された変異体タンパク質は、標準的手順によって分析することができる。たとえば、公知の方法に従って、このようなタンパク質をアミノ酸配列分析に付すことができる。
【0041】
上述したように、本発明のポリペプチドを製造する簡便な方法は、発現系における核酸の使用によって、それをコードする核酸を発現させることである。本発明方法に有用な様々な発現系は、当技術分野で公知である。
【0042】
したがって、本発明はまた、ポリペプチドをコードする核酸(一般に、核酸)からの発現を含む、ポリペプチドの製造方法を包含する(開示したように)。これは、ポリペプチドの生成を引き起こすかまたは可能にする適切な条件下で、このようなベクターを含む宿主細胞を培養することによって簡便に達成されうる。ポリペプチドはまた、網赤血球溶解液中などのインビトロ系において製造することができる。
【0043】
変異体タンパク質および変異体をコードする核酸の使用
本発明に従って、変更されたプロテアーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異体核酸を、たとえば、血液凝固カスケードを調節する治療および/または予防剤(タンパク質または核酸)として用いることができる。本明細書において、変異体分子が凝固を増加させ、有効な止血を提供することが実証される。
【0044】
A.変異体ポリペプチド
本発明の特定の実施態様において、生物学的に適合した担体中での注入、好ましく配列番号静脈内注射により、変異体ポリペプチドを患者に投与することができる。本発明の変異体は、分子の安定性を増加させるために、必要に応じて、リポソームにカプセル封入されるか、または他のリン脂質もしくはミセルと混合されてもよい。変異体は、単独または止血を調節することがわかっている他の作用剤(たとえば、第因子V、第Va因子またはその誘導体)と組み合わせて投与することができる。変異体ポリペプチドをデリバリーするのに適した組成物は、患者の状態および血行動態状態など(これらに限定されるものではない)の様々な生理的変数を考慮して、医師によって決定される。異なる適用および投与経路によく適した様々な組成物は、当技術分野で公知であり、以下に記載する。
【0045】
精製変異体を含む調製物は、生理的に許容しうるマトリックスを含み、医薬調製物として製剤されるのが好ましい。調製物は、当技術分野で実質的に公知の方法を用いて製剤することができ、NaCl、CaCl
2などの塩およびグリシンおよび/またはリシンなどのアミノ酸を含み、pH6−8の緩衝剤と混合することができる。変異体を含む精製調製物は、最終溶液の形態または凍結乾燥もしくは冷凍形態で保管することができる。特定の実施態様において、調製物は、凍結乾燥形態で保管され、適当な戻し溶液を用いて、溶解されて、視覚的に透明な溶液になる。別法として、本発明の調製物はまた、液体調製物または冷凍液体としても利用可能である。本発明の調製物は、特に安定しており、すなわち、適用前に長期間溶解した形態で保管することができる。
【0046】
FXaまたはFXa変異体にFX変異体を活性化させうる第XIa因子またはその誘導体と組み合わせてFX変異体を含む本発明の調製物は、潜在的にミニヂュアカラムまたは注射器の形態であるマトリックス上に固定化された第XIa因子を入れることができる容器、および第X因子を含む医薬調製物を含む容器を含む組合せ調製物の形態で利用可能にすることができる。第X因子変異体を活性化するために、たとえば、第X因子変異体含有溶液を固定化プロテアーゼ上で押すことができる。本発明の調製物の保管中、第X因子変異体含有溶液をプロテアーゼから空間的に分離しておくのが好ましい。本発明の調製物は、プロテアーゼと同じ容器内で保管することができるが、成分は、本発明の調製物の投与前に容易に除去されうる不浸透性の仕切りによって空間的に分離される。溶液はまた、別々の容器に保管することができ、投与直前に互いに接触させることができる。
【0047】
使用直前に、すなわち、患者への投与の直前に、第X因子変異体を活性化して第Xa因子にすることができる。第X因子変異体を固定化プロテアーゼに接触させるか、またはプロテアーゼを含んでいる溶液と第X因子変異体を含んでいる溶液とを混合することによって、活性化を行なうことができる。したがって、二つの成分を溶液中で別々に維持し、通過する際に成分が互いに接触し、それによって第Xa因子または第Xa因子変異体への活性化を引き起こす適当な注入デバイスを用いることによってそれらを混合することが可能である。このように、患者は、第Xa因子および、追加で、活性化の原因であるセリンプロテアーゼの混合物の投与を受ける。これに関連して、セリンプロテアーゼの追加投与もまた、内因性第X因子を活性化させ、凝固時間を短縮させうるので、投与量に細心の注意を払うことが特に重要である。
【0048】
本発明の調製物は、一成分調製物の形態で、または多成分調製物の形態で他の因子と組み合わせて、第Xa因子活性をもつ医薬調製物として利用可能にすることができる。
【0049】
精製タンパク質を医薬調製物に加工する前に、精製タンパク質を従来の品質管理を行い、治療用の調製物形態を作ってもよい。特に、遺伝子組換え製造時、特にEP 0 714 987で報告されるような方法を用い、精製調製物に細胞核酸および発現ベクター由来の核酸がないことを検証する。
【0050】
本発明のもう一つの特徴は、高い安定性と構造的完全性を持つ第Xa因子変異体を含み、特に不活性第X/Xa因子変異体の中間体と自己タンパク質分解生成物がなく、上述のタイプの第X因子変異体を活性化し、適切な調製物に製剤化することによって作成可能な調製物を利用可能にすることに関する
【0051】
医薬調製物は、変異体ポリペプチド約10〜1000μg/kg、約10〜500μg/kg、特に約10〜250μg/kg、10〜75μg/kg、または約40μg/kgの用量を含む。この量を、少なくとも一日一回投与することができる。患者は、出血を伴って診療所で受診した直後か、あるいは出血を引き起こす切り傷/創傷を受ける前に治療されうる。あるいは、患者は、本明細書に記載の変異体のボーラス注入を1〜3時間ごとに受けるか、または十分な改善が認められた場合は、1日1回の注入を受けることができる。
【0052】
B.変異体をコードする核酸
本発明に従って、変異体をコードする核酸を、様々な目的で利用することができる。本発明の特定の実施態様において、血液凝固を調節するための核酸のデリバリー媒体(すなわち、発現ベクター)が提供され、発現ベクターは、変異体ポリペプチドまたは本明細書に記載するその機能的フラグメントをコードする核酸配列を含む。変異体をコードする発現ベクターを患者に投与すると、凝固カスケードを変化させる役割を果たす変異体ポリペプチドが発現される。本発明に従って、変異体をコードする核酸配列は、本明細書に記載する変異体ポリペプチドをコードすることができ、その発現により止血が促される。特定の実施態様において、核酸配列は、ヒト第Xa因子ポリペプチド変異体をコードする。
【0053】
変異体酸配列を含む発現ベクターは、単独、あるいは止血の調節に有用な他の分子と併用で投与することができる。本発明に従って、発現ベクターまたは併用治療薬は、単独、あるいは医薬的に許容しうるか、または生物学的に適合しうる組成物として投与することができる。
【0054】
本発明の特定の実施態様において、変異体をコードする核酸配列を含む発現ベクターは、ウイルスベクターである。本発明で用いることができるウイルスベクターとして、アデノウイルスベクター(組織特異的プロモーター/エンハンサーの有無によらない)、複数の血清型のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(たとえば、AAV-2、AAV-5、AAV-7およびAAV-8)およびハイブリッドAAVベクター、レンチウイルスベクターおよび偽型レンチウイルスベクター[例えば、エボラウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)および猫免疫不全ウイルス(FIV)]、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明の特定の実施態様において、変異体またはその機能的フラグメントをコードする核酸配列を含むウイルスベクターの投与方法が提供される。本発明の方法で有用なアデノウイルスベクターとして、好ましくは、少なくともアデノウイルスベクターDNAの必須の部分を含む。本明細書に記載のとおり、そのようなアデノウイルスベクターの投与後に変異体ポリペプチドが発現することは、止血の調節、特にプロテアーゼの凝固前活性を亢進するのに役立つ。
プロテアーゼ。
【0056】
組換えアデノウイルスベクターは、様々な遺伝子療法の適用のために広範な有用性が見出されてきた。そのような適用での有用性は、主として、様々な臓器で達成されるインビボ遺伝子導入の効率が高いことによる。
【0057】
アデノウイルス粒子は、適切な遺伝子デリバリーのための媒体として有利に用いることができる。そのようなビリオンは、二本鎖DNA非エンベロープウイルスであることに関連した構造上の特徴およびヒトの呼吸系および消化管指向性などの生物学的特徴を含む、多数のそのような適用に望ましい特徴を有する。さらに、アデノウイルスは、受容体を介したエンドサイトーシスにより、インビボおよびインビトロで広範な細胞タイプに感染することが知られている。アデノウイルスベクターの全体的な安全性を証明するように、アデノウイルスが感染することによるヒトでの疾患状態は最小限であり、軽度のインフルエンザ様症状を含む。
【0058】
サイズが大きいため(〜36キロベース)、アデノウイルスのゲノムは遺伝子治療の媒体として利用する上で十分適しており、これは、複製に重要なアデノウイルス遺伝子および重要ではない領域を除去後、外来DNAの挿入に対応できるためである。そのような置換により、複製機能および感染性を弱めたウイルスベクターができる。注目すべきことに、アデノウイルスは遺伝子治療および異種遺伝子発現用のベクターとして利用されている。
【0059】
たとえば、所望の遺伝子の複数のコピーを提供することができ、その遺伝子生成物の量が多くなるベクターを導入することが望ましい。改良されたアデノウイルスベクターとこれらのベクターを作成する方法は、MitaniおよびKubo(2002、Curr Gene Ther. 2(2):135-44);Olmsted-Davisら(2002、Hum Gene Ther. 13(11):1337-47);Reynoldsら(2001、Nat Biotechno. 19(9):838-42);米国特許第5,998,205号(複数のDNAコピーを含む腫瘍特異的複製ベクターが提供されている);第6,228,646号(ヘルパーを含まない全く不完全なアデノウイルスベクターが報告されている);第6,093,699号(遺伝子療法に用いられるベクターと方法が提供されている);第6,100,242号(導入遺伝子を挿入した複製が不完全なアデノウイルスベクターが、末梢血管疾患および心疾患のインビボ遺伝子療法において効果的に利用された)号;および国際出願 WO 94/17810およびWO 94/23744を含む多数の参考文献、特許および特許出願に詳細に報告されている。
【0060】
一部の適用のために、発現構築物は、さらに、特定の細胞または組織タイプでの発現を駆動させるように働く調節エレメントを有することもできる。そのような調節エレメントは当業者に周知であり、Sambrookら(1989)およびAusubelら(1992)が徹底的に議論している。本発明の発現構築物に組織特異的な調節エレメントを組み込むと、変異体またはその機能的フラグメントの発現において、少なくとも部分的な組織指向性を提供する。たとえば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下、変異体をコードする核酸配列を含むE1欠失型5アデノウイルスベクターを使用して、本発明の方法に利用することができる。
【0061】
組換え遺伝子発現のためのアデノウイルスベクターは、ヒト胚性腎細胞株293において作成されてきた(Grahamら、1977、J. Gen. Virol. 36:59-72)。この細胞株は、アデノウイルス5ゲノムの左端を含み、そのためE1タンパク質を発現するので、E1機能が欠損したアデノウイルス2(Ad2)およびアデノウイルス5変異体の増殖が可能である。これらの遺伝子が欠失したウイルスベクターを増殖するための発現系としてこれらの細胞の利用が促されるレベルで、293細胞の細胞ゲノムに組み込まれたE1遺伝子が発現される。293細胞は、E1変異体の単離と繁殖、ヘルパー非依存的クローニングおよびアデノウイルスベクターの発現に広範に利用されてきた。したがって、293細胞株などの発現系は、トランスに欠くことのできないウイルス機能を提供し、それによって、外因性核酸配列がE1遺伝子と置換されたウイルスベクターの繁殖が可能となる。Youngら、The Adenoviruses、Ginsberg編、Plenum Press、ニューヨークおよびロンドン(1984)、pp.125-172を参照。アデノウイルスベクターの繁殖に十分適した他の発現系は当業者に既知であり(たとえばHeLa細胞)、別の文献等で再検討されている。
【0062】
また、止血を調節する方法であって、変に体ポリペプチドをコードする核酸デリバリー媒体を用いて患者の細胞を提供する工程と、変異体ポリペプチドが発現される条件下で細胞を増殖させる工程を含む方法も、本発明に包含される。
【0063】
前述の考察から、変異体ポリペプチド、および変異体ポリペプチドを発現した核酸ベクターは、異常血液凝固に関連した障害の治療に用いることができる。
【0064】
C.医薬組成物
本発明の発現ベクターは、生物学的に活性なタンパク質(たとえば、変異体ポリペプチドまたはその機能的フラグメントもしくは誘導体)の産生が可能となるように、被験者へのデリバリー可能な医薬組成物に組み込むことができる。本発明の特定の実施態様において、レシピエントが治療有効量の変異体ポリペプチドを産生するのを可能にする、十分な遺伝物質を含む医薬組成物は、被験者の止血に影響を及ぼすことができる。あるいは、上記に議論したとおり、有効量の変異体ポリペプチドを、それを必要とする患者に直接注入してもよい。該組成物は、単独投与するか、または安定化化合物などの、生理食塩水,緩衝食塩水,デキストロースおよび水などの(これらに限定されるものではない)滅菌された生体適合性の薬学的担体に添加して投与することができる少なくとも一種の他の作用剤と併用投与することができる。該組成物は患者に単独投与するか、または止血に影響する他の作用剤(たとえば補因子)と併用投与することができる。
【0065】
特定の実施態様において、医薬組成物は、医薬的に許容しうる賦形剤/担体を含む。そのような賦形剤は、それ自体が組成物を投与する患者に有害な免疫反応を誘導せず、過度の毒性を生じることなく投与可能な医薬品を含む。医薬的に許容しうる賦形剤として、水、生理食塩水、グリセロール、糖およびエタノールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その中に、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩などの医薬的に許容しうる塩を含むことも可能である。さらに、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などの補助剤が、そのような媒体に存在することも可能である。医薬的に許容しうる賦形剤に関する詳細な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co.、18版、イーストン、ペンシルバニア[1990])において利用可能である。
【0066】
非経口投与に適した薬学的製剤は、水溶液、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液または緩衝食塩水などの生理的に適合する緩衝液に製剤化することができる。水性注射用懸濁液は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含むことができる。さらに、活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射用懸濁液として調製されてもよい。適切な親油性溶媒または媒体として、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが挙げられる。必要に応じて、懸濁液は、高濃度溶液の本発明調製物を可能にする、化合物の溶解度を増加させる適切な安定化剤または作用剤を含んでもよい。
【0067】
医薬組成物は、塩として提供することができ、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸など(これらに限定されるものではない)の多くの酸を用いて製造することができる。塩は対応する遊離塩基の形態よりも、水性または他のプロトン性溶媒に溶けやすい傾向がある。他の実施態様において、本発明の調製物は、pH範囲4.5〜5.5で、1〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%スクロースおよび2〜7%マンニトールのいずれかまたはすべてを含み、使用前に緩衝液を混合する凍結乾燥粉末とすることができる。
【0068】
医薬組成物を調製した後、適切な容器に入れ、治療用のラベルを貼ることができる。変異体を含むベクターまたはポリペプチドの投与用には、そのようなラベルに投与量、投与頻度、投与法を含むことになる。
【0069】
本発明での使用に適した医薬組成物として、活性成分が、意図する治療目的の達成に有効な量で含まれる組成物が挙げられる。治療有効量は、本発明で提供される技術および指針を用いて、熟練した医師の能力の範囲内で十分決定される。治療用量は、他の因子の中では、被験者の年齢および全身的状態、異常な血液凝固表現型の重篤度、および変異体ポリペプチドの発現レベルを制御する制御配列の強度に依存する。そのため、ヒトの治療有効量は比較的広範囲となり、ベクターを基本とした変異体治療に対する個々の患者の反応に基づき、医師が決定することができる。
【0070】
D.投与
変異体ポリペプチドは、単独または他の薬物と併用し、上述のとおり適切な生物学的担体に添加した状態で、患者に直接注射することができる。変異体またはその機能的フラグメントをコードする核酸配列を有する本発明の発現ベクターは、様々な方法で(下記参照)患者に投与し、変異体ポリペプチドの予防および/または治療有効レベルを達成および維持することができる。当業者であれば、特定の患者を治療するため、本発明の変異体をコードする発現ベクターを用いる具体的なプロトコルを容易に決定できるであろう。アデノウイルスベクターを作成し、患者に投与するプロトコルは、米国特許第5,998,205号、第6,228,646号、第6,093,699号、第6,100,242号明細書;および国際特許出願第WO 94/17810号および第WO 94/23744号に報告されており、これらは、その全体において参照することによって本明細書に援用される。
【0071】
本発明の変異体をコードするアデノウイルスベクターは、既知の任意の方法で患者に投与することができる。医薬組成物のインビボでの直接投与は、一般に、従来のシリンジを用いる注射により達成することができるが、対流強化送達(convection-enhanced delivery)などの他の投与法も想定される(例えば米国特許第5,720,720号明細書を参照)。この点に関し、該組成物は皮下、表皮、経皮、くも膜下腔内、眼窩内、粘膜内、腹腔内、静脈内、動脈内、経口、肝内または筋肉内投与が可能である。他の投与方法として、経口および肺投与、坐剤および経皮投与が挙げられる。血液凝固障害患者の治療を専門とする臨床医は、患者の状態および治療の目的(たとえば、血液凝固の促進または抑制)を含む(これらに限定されるものではない)多数の基準に基づいて、変異体核酸配列を有するアデノウイルスベクターの最適な投与経路を決定することができる。
【0072】
本発明は、変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を有するAAVベクターも包含する。本発明はまた、変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を有するレンチウイルスベクターおよび偽型レンチウイルスベクターを提供する。本発明は、さらに、変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を含む裸のプラスミドまたは発現ベクターも包含する。
以下の実施例は、本発明の様々な実施態様を説明するために提供される。実施例は、説明であって、本発明をいかなる方法によっても限定するものではない。
【実施例】
【0073】
本発明のFXa変異体のチモーゲン性(zymogenicity)を決定した。具体的には、以前に記載されたように(Camire、R.M. (2002) J.Biol.Chem.、277:37863-37870)、スペクトロザイム(登録商標)FXaの加水分解の初速度から、FXa発色基質活性を測定した。簡単に述べると、20 mm Hepes、0.15 m NaCl、0.1%(w/v) ポリエチレングリコール8000、2 mm CaCl
2、pH 7.5(アッセイ緩衝液)中、反応速度測定を行なった。野生型または突然変異FXaをスペクトロザイム(登録商標)FXaとともにインキュベートした。405 nmにおける吸光度の経時増加をモニターすることによって発色活性を評価した。基質の濃度の増加を用いて、ペプチジル基質加水分解の反応速度を測定し、FXaで開始した。適当な方程式への初速度データの最小二乗フィッティングによって、速度論的パラメーターを決定した。
【0074】
図1から明らかなように、本発明のFXa変異体は、野生型FXaよりも活性が低い。FXa変異体の相対活性は、次のように決定された:FXa-V17M>FXa-I16L>FXa-V17T>FXa-I16M>FXa-V17S>FXaI16T。
【0075】
次いで、血友病B血漿中のFXa変異体の半減期を測定した。血友病B血漿に、野生型FXaとFXa変異体を異なる時点で加え、混合物のアリコートを回収し、aPTTベースアッセイにて検定した。血友病B血漿を用いた結果(
図2)は、野生型FXaが、t
1/2=1分で非常に迅速に阻害されたことを明らかにする。対照的に、FXa変異体の活性は、より長時間持続した。FXa-I16Lの半減期は、50分であった。FXa-V17Mの半減期は、野生型とFXa-I16Lの間であった(t
1/2=13分)。しかしながら、FXa-I16M、FXa-V17TおよびFXa-V17Sはすべて、約100分より長い半減期を示した。さらに、FXa-I16Tは、約240分という予期せぬ優れた半減期を示した。これらの結果は、酵素の特徴が、長い血漿中半減期を有し、血友病血漿の凝固時間を正しくすることができるように調節されうることを示す。
【0076】
アンチトロンビンIIIによるFXa変異体の阻害も決定した。アンチトロンビンIIIは、血漿中およびインビボにおけるFXaの重要なインヒビターである。表1は、アンチトロンビンIIIによる阻害速度定数を提供する。これらのデータは、一般に、
図2に示す半減期データとよく相関し、長い半減期を有する変異体(たとえば、FXa
V17SおよびFXa
I16T)が、それらの変更された活性部位により、アンチトロンビンIIIに耐性を示す。
【0077】
表1:アンチトロンビンによる阻害速度定数。FXaおよび変異体を、異なる量のアンチトロンビンIIIとともにインキュベートし、FXaの残留活性を経時モニターした。実験は、Bunceら(2011) Blood 117:290-298に詳述されているように行なった。ND:正確な値を決定することができなかった。
【0078】
様々な突然変異によるプロトロンビン活性化の反応速度も決定した。結果を
図3に示す。特に、FXa
V17MおよびFXa
I16Lは、野生型反応速度よりも速いことが実証され、FXa
I16Mは、野生型の反応速度と類似しており、FXa
V17S、FXa
V17TおよびFXa
I16Tは、野生型よりも遅かった。これらのデータは、小さい基質(Spec Xa;
図1)との変更された反応性およびアンチトロンビンIIIによる阻害への耐性(表1)にもかかわらず、プロトロンビナーゼへのチモーゲン様変異体の組み込み(たとえば、アニオン性膜上のFVaへの結合)が、プロトロンビン活性化に関し、大きくそれらの機能を回復させたことを示す。
【0079】
血友病B血漿においてトロンビン生成を回復させるためのFXa変異体の能力も評価した。特に、トロンビン生成アッセイ(TGA)を行い、内因性トロンビン生成能(ETP:endogenous thrombin potential)を測定した。TGAアッセイは、全体的凝固能の測定を提供し、トロンビン生成能の定量のための機能的アッセイである。
図4Aは、異なる濃度での野生型FXaおよびFXa変異体内因性トロンビン生成能を明らかにする。
図4Bは、異なる濃度での野生型FXaおよびFXa変異体のトロンビン生成におけるラグタイム(トロンビンバーストまでの時間)を提供する。結果は、チモーゲン様変異体が多いと、トロンビン生成の初期バーストへのラグタイムが長くなることを示す。
【0080】
血友病B血漿中のFXa変異体の凝固パラメーターを表2に示す。血友病B血漿に0.1 nMの野生型FXaを添加し、これらの血漿の凝固時間(活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT))を訂正する。野生型FXaの凝固時間は、〜32秒である。同じ濃度のFXa変異体の添加により、〜41から94秒で変化する凝固時間が得られた。血友病B血漿中の構築物の半減期(
図2)およびETPデータ(
図4)も表2に示す。
【0081】
表2:血友病B血漿中のFXa変異体の凝固パラメーター。すべての実験において、ヒト血友病B血漿中、FXa変異体 0.1 nMおよびFVa 10 nMである。HB=血友病B血漿。NHP=正常ヒト血漿。
【0082】
FXa変異体の有効性をインビボでさらに試験するために、尾部への傷害後の血友病BマウスにおいてFXa変異体の失血を減少させる能力を決定した(Schlachtermanら、(2005) J. Thromb. Haemost.、3:2730-2737)。6〜12週齢のマウスの尾の末端部を切開した後10分間の失血を測定した。このタイプのアッセイにおいて、尾の傷害後の失血は、正常な野生型BALB/cマウス(PBS注射)において最少であり、PBSを注射された血友病Bマウス(BALB/c)においてかなり多量である(
図5)。対照的に、尾の傷害後2分間のFXa変異体、特に、FXa-I16L、FXa-I16M、FXa-V17T、FXa-V17SおよびFXa-I16Tの注射は、傷害後の失血の総量を有意に減少させた(
図5)。
【0083】
FXa変異体を前注入した場合の、尾への傷害後の血友病Bマウスの出血時間を是正するFXa変異体の能力も評価した。さらに詳しくは、6〜12週齢のC57BL/6マウスまたは血友病BのC57BL/6マウスに、PBSまたはFXa変異体を尾への傷害前に5分間(
図6)または30分間(
図7)注射した。傷害前に5分間FXa変異体を、特にFXa-I16L、FXa-I16M、FXa-V17T、FXa-V17SおよびFXa-I16Tを注射した場合、尾の傷害後の失血量の有意な低下が見られた。しかしながら、傷害前に30分間FXa変異体を注入した場合、FXa-I16Tのみが、尾の傷害後の失血量を、野生型レベル近くまで有意に低下させた(
図7)。この結果は、血友病B血漿において観察されたFXa-I16T活性の半減期の増加が、インビボにおいて関連し、注入後長く創傷の適切な凝血を可能にすることを実証している。
【0084】
FXa
I16Tをさらに特徴付けるために、テールクリップアッセイにおける用量反応試験を行った。
図8に示されるように、傷害前5分間、異なる用量で投与されたFXa
I16Tは、尾の傷害後の血友病Bマウスの失血を用量依存的に減少させた。濃度450 μg/kgにおいて、失血は、野生型マウスに見られるレベルまで低下した。
【0085】
別のモデルにおいて、Ivanciuら(2011) Nature Biotechnology 29:1028-1033に詳述されている手順にしたがって、FeCl
3(7.5%)適用後の頸動脈への傷害後、選ばれたFXa変異体を試験した。このモデルでは、FeCl
3で頚動脈を傷つけ、ドップラー血流プローブを用いて失血をモニターし、血管閉塞までの時間を記録する。傷害後、HBマウスは、頚動脈に血栓を形成しないが、野生型マウスは、〜15分において閉塞を形成する(表3)。タンパク質を傷害後10分間注入する場合、wt-FVaは効果がなかったが、FXa-I16MおよびFXa-I16Tは〜2-3分で閉塞性血栓を生じさせた。タンパク質を傷害前15分間注入する場合、FXa-I16Tのみが、半減期が長いために依然として有効であった。
表3:FeCl
3誘発性障害後の頚動脈閉塞までの時間
【0086】
本発明の好ましい実施態様の特定のものが上述の通り記載され、詳しく例示されているが、本発明をこのような実施態様に限定することを意図するものではない。以下の特許請求の範囲に記載する、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な変更を行なうことができる。