特許第6514905号(P6514905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6514905トコロテン食品の製造方法及びトコロテン食品
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  • 特許6514905-トコロテン食品の製造方法及びトコロテン食品 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514905
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】トコロテン食品の製造方法及びトコロテン食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20190425BHJP
【FI】
   A23L17/60 101
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-24703(P2015-24703)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-146769(P2016-146769A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】397044429
【氏名又は名称】株式会社はりまや
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】山本 良文
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−174359(JP,A)
【文献】 特開昭52−015849(JP,A)
【文献】 特開昭64−002561(JP,A)
【文献】 特開平02−145160(JP,A)
【文献】 特開昭57−005654(JP,A)
【文献】 特開2011−103820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料となる海藻を煮る煮作業工程と、
煮作業工程により煮たものを冷やし固める冷却凝固工程と、
凝固したものを細長い形状のトコロテンにする突出工程と、
前記トコロテンを真水とともに容器に充填し密閉する充填包装工程と、
充填包装されたものを80〜85℃の加熱温度、10〜25分の加熱時間で加熱する加熱殺菌工程と、
からなることを特徴とするトコロテン食品の製造方法。
【請求項2】
前記容器の大きさが、縦130mm×横130mm×高さ42mmであることを特徴とする請求項1に記載のトコロテン食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゴノリやテングサ科のマクサ等の海藻を原料に工場で作られるトコロテン食品のトコロテン本来の風味や食感を損なわない製造方法及びトコロテン食品に関する。
【背景技術】
【0002】
オゴノリやテングサ科のマクサ、オオブサ、オニクサ等(以下、たんにテングサと記す)の海藻を原料にしたトコロテンは、広く昔から知られている。トコロテンは、日本全国で食べられており、容器内に密閉されたトコロテン食品として工場で大量かつ効率的に製造されている。
【0003】
工場で製造されているトコロテン食品の一般的な製造方法について図を用いて説明する。図2は、従来のトコロテン食品を製造する製造工程図である。まず原料となるテングサを洗浄し、テングサに着いた細かい砂やゴミを取り除く洗浄工程が行われる(ステップ110)。その後、水でテングサを1〜2時間程度煮る煮作業工程が行われる(ステップ111)。次に煮たテングサを布等で濾過し、残ったテングサや不純物を取り除く濾過工程が行われる(ステップ112)。そして濾過した液体状のものを容器に入れて冷やし固める冷却凝固工程が行われる(ステップ113)。この後、柵状に切断したものを突き器(天突き器と呼ばれたりもする)で突き出す突出工程が行われる(ステップ114)。突出工程が行われることで、細長いトコロテンが出てくる。そして、出てきたトコロテンを酢水とともに容器に充填し密閉する充填包装工程が行われる(ステップ115)。そして、製品であるトコロテン食品が完成する(ステップ116)。
【0004】
工場で製造されるトコロテン食品は、家庭で手作りされるトコロテンとは違って流通時間を考量する必要があり、ある程度の保存期間が必要となる。そのため、充填包装工程でトコロテンとともに酢水を充填するのは、pHの調整によるトコロテンの保存のためである。
【0005】
酢水を用いたトコロテンの保存は、煮作業工程を経て一度高温に加熱しているトコロテンに対して安く簡単に行うことができる。そのため、工業で製造されるトコロテン食品の保存方法は、現在ほとんどが酢水の充填による方法となっている。
【0006】
一方、酢水によるトコロテンの保存は、海藻の香りが苦手な人にとって、海藻の香りを和らげるために好まれることもあるが、トコロテン本来の海藻の香りが損なわれたり、トコロテンの食感が損なわれたりする等の問題がある。そのため、酢水によるトコロテンの保存方法の問題を解決するために、特許文献1に記載されているトコロテン食品の製造方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−75784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酢水によるトコロテンの保存方法の問題に対して特許文献1のような方法も知られているが、発明者の知る限りでは特許文献1のような製造方法により製造されたトコロテン食品は現実の製品として見当たらない。そして、工場で製造されるトコロテン食品の保存方法は、安く簡単な酢水の充填が現在でも主流となっている。
【0009】
本発明は、酢水を充填することによりトコロテン本来の風味が損なわれる等、酢水によるトコロテンの保存方法の問題点に鑑みてなされたものであり、工場で製造されるトコロテン食品に対してトコロテン本来の風味や食感を損なわないトコロテン食品の製造方法及びトコロテン食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のトコロテン食品の製造方法は、原料となる海藻を煮る煮作業工程と、煮作業工程により煮たものを冷やし固める冷却凝固工程と、凝固したものを細長い形状のトコロテンにする突出工程と、前記トコロテンを真水とともに容器に充填し密閉する充填包装工程と、充填包装されたものを80〜85℃の加熱温度、10〜25分の加熱時間で加熱する加熱殺菌工程と、からなることを特徴とする。
【0011】
本発明のトコロテン食品の製造方法によれば、容器内にトコロテンとともに真水を充填しておくので、トコロテンの本来の風味や食感が失われない。また、充填包装されたものを加熱するため、従来のような酢水を用いたトコロテン食品と同等の保存期間を得ることができる。
【0013】
本発明のトコロテン食品の製造方法によれば、加熱によるトコロテン本来の風味や食感が損なわれることを抑えることができる。
【0014】
また、本発明のトコロテン食品の製造方法は、前記容器の大きさが、縦130mm×横130mm×高さ42mmであることを特徴とする。
【0015】
本発明のトコロテン食品の製造方法によれば、加熱温度が80〜85℃、加熱時間が10〜25分の加熱温度条件でも容器内の中心まで十分に加熱殺菌を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のトコロテン食品を製造する製造工程図である。
図2】従来のトコロテン食品を製造する製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例を示すものであり、本発明をこの実施形態に特定することを意図するものではない。本発明は、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態にも適応できるものである。
【0022】
図1は本発明の実施形態にかかるトコロテン食品を製造する製造工程図である。トコロテン食品は、工場内でまず原料となるテングサの洗浄工程が行われる(ステップ10)。テングサの洗浄工程は、海藻に着いた砂やゴミ等を取り除くために行われる。なお、既に海藻に着いた砂等が取り除かれている海藻であれば、工場内での洗浄工程を省略することができる。
【0023】
次に、洗浄を行ったテングサを水とともに圧力釜や開放釜等で1〜2時間程度煮る煮作業工程が行われる(ステップ11)。煮作業工程により、テングサからトコロテンの成分が抽出されることになる。なお、煮作業工程において、トコロテンの成分を煮出し易くするために、水とともに少量の酢を加えても構わない。
【0024】
次に、煮作業工程によりトコロテンの成分が抽出されている液体を網や布等で濾過する濾過工程が行われる(ステップ12)。濾過工程により、残っているテングサやゴミ等が取り除かれる。なお、原料に海藻を直接用いないで、粉状に加工された原料を用いて製造するトコロテンもある。したがって、濾過不要の材料でトコロテンを作る場合には、濾過工程を省略することができる。
【0025】
次に、濾過工程により濾過されたものを大型の容器に入れて冷却し、内容物を凝固させる冷却凝固工程が行われる(ステップ13)。冷却は、例えば冷蔵庫内で行ったり、容器に水を当てたりする等の方法で行われる。
【0026】
次に、凝固したものを天突き器に入る適当な大きさに切断し、突き器により突き出す突出工程が行われる(ステップ14)。突出工程により、よく知られている細長い形状のトコロテンが出てくる。なお、本工程では突出工程としているが、必ずしも突き器を用いた工程に限定されるものではない。冷却凝固工程で凝固したものを、例えば細く長く切断することで細長い形状のトコロテンにする作業であっても本工程の突出工程に含まれる。
【0027】
次に、突き出されたトコロテンを空の容器の中に真水とともに隙間なく充填し、容器開口部をフィルムで塞ぐことにより容器内のトコロテンと真水を密閉する充填包装工程が行われる(ステップ15)。具体的には、空の容器内にまず適量のトコロテン入れ、次に真水を容器内に注入し、容器内をトコロテンと真水で隙間なく満たす。次に容器の開口縁に蓋材となるフィルムを熱溶着等により固着することで、容器内のトコロテンと真水が密封状態で包装される。なお、真水は水道水で構わない。
【0028】
なお、後述するように、充填包装工程の後で容器ごと加熱するため、容器は熱に強いものがよい。本実施形態においては、ポリプロピレン製の容器を用いている。また同様に、容器開口を塞ぐフィルムも熱に強いものがよく、ポリプロピレン製のフィルムを用いている。
【0029】
また、後述の加熱条件による殺菌を行うために、容器の大きさは、縦130mm×横130mm×高さ42mm程度のものが好ましい。なお、容器の大きさの数値は目安としての数値であり厳密な数値ではない。また、縦横の長さが多少異なっていても構わない。
【0030】
ここで、上記のように従来のトコロテン食品では容器内に充填されるのはトコロテンと酢水であるが、本実施形態においてはトコロテンと真水を充填している。したがって、酢水によるトコロテン本来の風味が損なわれたり、食感が損なわれたりすることがなく、本実施形態のトコロテン食品は、トコロテン本来の風味や食感を楽しむことができる。
【0031】
次に、トコロテンと真水が充填された容器を、容器ごと温水内で加熱する加熱殺菌工程が行われ(ステップ16)、製品としてのトコロテン食品が完成する(ステップ17)。上記のように従来のトコロテン食品では容器内に酢水を充填することでpHを調整し、トコロテンの保存期間(だいたい2ヶ月程度)を確保していた。一方、本実施形態のトコロテン食品では容器内に酢水を用いず真水を用いているため、このままでは十分な保存期間を確保することができないおそれがある。そのため、更に加熱殺菌工程を行うことで、容器内のトコロテンと真水の殺菌を行っている。
【0032】
なお、加熱殺菌を行う温水の加熱条件として、本実施形態では加熱温度が80℃、加熱時間が15分で行った。殺菌のためには加熱温度は高い方が好ましいが、あまり高過ぎると返ってトコロテンの風味が損なわれてしまい、また加熱温度が低過ぎると殺菌効果が損なわれてしまう。したがって、加熱温度は80〜85℃の範囲が好ましい。また、殺菌のためには加熱時間が長い方が好ましいが、同様にあまり長過ぎると返ってトコロテンの風味や食感が損なわれてしまい、また加熱時間が短過ぎると殺菌効果が損なわれてしまう。したがって、加熱時間は10〜25分の範囲が好ましい。
【0033】
また、加熱温度80〜85℃、加熱時間10〜25分で容器内のトコロテンと真水を殺菌する場合には、容器内のトコロテンや水の量が多過ぎると中心部まで十分な加熱を行うことができない。したがって、本加熱条件で十分な殺菌効果を得るには、縦130mm×横130mm×高さ42mm程度の容器を用いて、この容器内にトコロテンと水を充填するのがよい。
【0034】
そして、本実施形態により製造したトコロテン食品について、保存状態を調べたとこと、従来と同等の保存期間を確保することができた。具体的には、製造したトコロテン食品を5〜10℃の庫内に68日間保管しておいた検体の試験を行った。その結果、一般生菌数は300未満(cfu/g)であり、大腸菌群数は陰性であり、食品の安全性としては問題ない結果となった。
【0035】
以上のように、従来のトコロテン食品のように酢水を用いるのではなく、真水を用いたことにより本実施形態のトコロテン食品は、トコロテン本来の風味や食感を楽しむことができるものとなった。また、トコロテンを生姜醤油で食べられたり黒蜜で食べられたりと、様々な食べ方が知られているが、従来のように酢水を用いたトコロテン食品を黒蜜で食べる場合にはトコロテンを水洗いしても酢の風味がどうしても多少残ってしまい、黒蜜との相性があまり良くなかった。しかしながら、本実施形態のトコロテン食品は、真水が使われているため、酢の風味がなく、実食してみたところ黒蜜との相性も非常に良いものとなっていた。
【0036】
また、トコロテンを真水とともに容器に充填し密閉する充填包装工程の後、容器ごと加熱する加熱殺菌工程を行うことで本実施形態のトコロテン食品は、従来の酢水を用いたトコロテン食品と同程度の保存期間を確保することができた。
【符号の説明】
【0037】
S10、S110…洗浄工程
S11、S111…煮作業工程
S12、S112…濾過工程
S13、S113…冷却凝固工程
S14、S114…突出工程
S15、S115…充填包装工程
S16…加熱殺菌工程
S17、S116…製品
図1
図2