(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514911
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】優れた香味と旨味が持続する容器詰茶飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/16 20060101AFI20190425BHJP
【FI】
A23F3/16
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-35714(P2015-35714)
(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公開番号】特開2016-154500(P2016-154500A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002447
【氏名又は名称】キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】塩野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】四元 祐子
(72)【発明者】
【氏名】長沼 広幸
【審査官】
松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−077067(JP,A)
【文献】
特開2005−143467(JP,A)
【文献】
国際公開第2001/032212(WO,A1)
【文献】
特開2002−084973(JP,A)
【文献】
特開2012−130314(JP,A)
【文献】
特開2014−014315(JP,A)
【文献】
Fragrance Journal,1990年,Vol.18, No.11,p.71-76
【文献】
文部科学省科学技術学術審議会資源調査分科会報告書 五訂増補 日本食品標準成分表[online],2015年 1月24日, [検索日 2018.12.28],インターネット: <URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002/016.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00−5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰茶飲料の製造方法において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の殺菌条件で、加熱殺菌を行うことを特徴とする容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項2】
メチルメチオニンスルホニウム塩が、メチルメチオニンスルホニウムクロライドであることを特徴とする請求項1に記載の容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項3】
メチルメチオニンスルホニウムクロライドが、ケール、キャベツ、又は、ブロッコリー由来の抽出物であることを特徴とする請求項2に記載の容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項4】
UHT殺菌による加熱温度が、110℃〜145℃の範囲で設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項5】
茶飲料が緑茶飲料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器詰茶飲料の製造方法。
【請求項6】
容器詰茶飲料の製造において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の条件で、加熱殺菌を行うことにより、保存時の劣化臭の増加を抑えつつ、優れた香味と旨味を持続させることを特徴とする容器詰茶飲料における飲料の香味及び旨味の増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰茶飲料の製造時の加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強した上で、その優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、製造後も長期間持続できる容器詰茶飲料を製造する方法、及び該方法によって製造された優れた香味と旨味が持続する容器詰茶飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
茶飲料の中でも手軽に飲用できる容器詰茶飲料は近年の主流となっており、多くの商品が市場に流通、販売されている。消費者の嗜好の多様化に伴い、茶飲料の香味の差別化ならびに高付加価値化が望まれており、容器詰茶飲料が製造後一定期間の間に消費されるという点を鑑みると、当該香味品質の持続、ということに関しても関心が高い。
【0003】
上記ニーズに伴い、容器詰茶飲料の製造に際して、茶飲料の香味や呈味を増強する試みは以前より行われている。茶原料の中には高級玉露のように、もともと旨味の強い茶もあるが、これらの茶葉を用いても加熱殺菌による風味低下は十分に抑制できない一方、生産量や価格の面でも容器詰茶飲料用の原料として工業的に使用することは難しい。
【0004】
従来より、茶系飲料の旨味や香味を増強する手段として、茶葉抽出に際して酵素剤を添加して抽出する方法や、グルタミン酸、核酸等の香味成分を添加する方法等が知られている。酵素剤を添加して抽出する方法としては、例えば、特公昭46−17958号公報には、プロトペクチナーゼとセルラーゼを併用して茶葉を抽出する方法が、特公昭52−42877号公報には、紅茶葉をタンナーゼで処理する方法が、特公平1−47979号公報には、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、セルラーゼ、及びプロテアーゼから選択した酵素の混合物により処理して抽出する方法が開示されている。
【0005】
特開2003−144049号公報には、茶葉原料を、プロテアーゼ及びタンナーゼの存在下で処理する方法が、特開2008−67631号公報には、緑茶葉をプロテアーゼ存在下で抽出処理し、得られた抽出液に更にプロテアーゼを作用させて茶エキスを得る方法が、特開2009−95333号公報には、茶葉からカテキン類の少なくとも一部を除去し、この茶葉をプロテアーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼから選択される1種以上の酵素を用いて酵素抽出する方法が開示されている。
【0006】
また、香味成分を添加する方法としては、例えば、特開2007−110988号公報には、テアニンや3−ガロイルキナ酸、コハク酸を添加することによる茶の風味増強方法が開示されている。しかし、これらの方法でも加熱殺菌処理後の風味低下は十分には抑えられず、加熱殺菌処理後の香味品質としては十分満足いくものではなかった。他には、加熱殺菌処理後の風味低下を考慮して、上記物質を大量に配合することが考えられるが、風味そのものが人工的になり、自然な茶の風味とはかけ離れるといった点が課題であった。
【0007】
容器詰茶飲料において、加熱殺菌処理工程などの加熱工程で、茶飲料が有している香味が消失又は変質してしまうという課題を解決するための方法も各種提案されている。例えば、特開2005−160416号公報には、茶の生の葉或いは酵素を失活した葉を摘採後凍結処理し、該凍結した茶葉を水蒸気蒸留して得られる留出液を配合してフレッシュで耐熱性のある香気・香味が付与された密閉容器入り緑茶飲料が、特開平05−317013号公報には、フィチン酸を添加することによって、加熱殺菌条件を軽減し、原料の新鮮な風味をより多く保持した茶飲料等の製造方法が、特開2009−89641号公報には、茶葉を熱水で抽出して、花香成分であるホトリエノール(3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オール)を含む抽出液を得、該抽出液にアスコルビン酸類を添加して調合液を得て、該調合液を加熱殺菌したものを、容器に充填する茶飲料の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの方法も、その工程が複雑であったり、また、加熱殺菌処理後の茶飲料が、茶飲料の自然な茶の風味及び呈味を保持するという点では十分なものではなかったりしていた。したがって、容器詰茶飲料の製造方法において、製造時の加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完し、茶飲料が自然な茶の風味を保持し、香味及び旨味が増強された容器詰茶飲料を提供する観点からは満足のいくものではなかった。また、その香味及び旨味を持続するという観点では具体的な技術の提案はなされていない状況であった。
【0009】
他方で、メチルメチオニンスルホニウム関連物質ならびにそれを含む植物体を用いて、緑茶の香味改善等を行う方法が開示されている。例えば、特開昭50−40796号公報には、緑茶の香味改良法として、メチルメチオニンスルホニウムと、有機酸、酸性アミノ酸及び5’−ヌクレオタイドから選択された化合物との塩を調製し、該成分を緑茶に噴霧したり、或いは、緑茶製造工程における茶葉の揉捻時に添加したりすることにより、緑茶の飲用に際して60〜80℃の湯を加えた時に香味を発生せしめる、緑茶の香味改良方法が開示されている。しかし、この方法は、緑茶葉の処理による香味改善方法であって、容器詰等の茶飲料の製造における香味改善技術に関するものではない。また、茶飲料の製造に際して、キャベツや、ケール等を添加する方法も開示されている。例えば、特開平11−332530号公報には、ケールの微粉末と、不発酵茶、半発酵茶微粉末を含有させ、栄養成分を補給した、ケール含有飲料について、特開2005−151856号公報には、大麦、ハト麦とタマネギを含有する茶飲料に、キャベツやアスパラガスを含有させた茶飲料が開示されている。これらの飲料は、茶飲料等に、ケールや、キャベツ等の野菜の栄養成分を補給させているだけのものであり、メチルメチオニンスルホニウムのような特定成分を含有せしめて、容器詰茶飲料の製造における香味の改善を図る技術に関するものではない。
【0010】
また、本発明者らは、先に、容器詰茶飲料の製造方法において、メチルメチオニンスルホニウム塩を茶抽出液に含有させ、加熱殺菌することで、加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完し、香味及び旨味を増強した容器詰茶飲料を製造する方法を開発し、開示した(特開2012−130314号公報)。該方法により、容器詰茶飲料の製造時の加熱殺菌処理による香味の劣化や、旨味の低下に対する香味及び旨味の補完や、改善についての成果は得られたものの、該製造方法により得られた容器詰茶飲料を長期間保存した場合に、増強した香味及び旨味が著しく減少するという新たな課題を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭46−17958号公報。
【特許文献2】特公昭52−42877号公報。
【特許文献3】特公平1−47979号公報。
【特許文献4】特開昭50−40796号公報。
【特許文献5】特開平05−317013号公報。
【特許文献6】特開平11−332530号公報。
【特許文献7】特開2003−144049号公報。
【特許文献8】特開2005−151856号公報。
【特許文献9】特開2005−160416号公報。
【特許文献10】特開2007−110988号公報。
【特許文献11】特開2008−67631号公報。
【特許文献12】特開2009−89641号公報。
【特許文献13】特開2009−95333号公報。
【特許文献14】特開2012−130314号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、容器詰茶飲料の製造時の加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強した上で、その優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、長期間持続できる容器詰茶飲料、及び、該容器詰茶飲料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、先に、容器詰茶飲料の製造方法において、メチルメチオニンスルホニウム塩を茶抽出液に含有させ、加熱殺菌することで、加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完し、香味及び旨味を増強した容器詰茶飲料を製造する方法を見出し、開示した(特開2012−130314号公報)。しかし、該製造方法により得られた容器詰茶飲料を長期間保存した場合に、増強した香味及び旨味が著しく減少するという新たな課題を見出した。そこで、本発明者らは、該開示の方法を、更に発展させ、茶飲料の製造時の加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強し、その香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、長期間維持できる効果的方法について鋭意検討する中で、メチルメチオニンスルホニウム塩を特定量含有させた茶抽出液を、特定の加熱殺菌手段により、特定の条件下で加熱殺菌処理をするか、或いは、該メチルメチオニンスルホニウム塩の含有の下に、更に、特定の成分を添加し、特定の加熱殺菌手段により、特定の条件下で加熱殺菌処理をすることにより、加熱殺菌処理で低下する茶飲料の香味及び旨味の補完、増強を効果的に行うことが可能であり、そして、保存時の劣化臭の増加が抑えられた、優れた香味及び旨味を長期間持続できる容器詰茶飲料を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、容器詰茶飲料の製造方法において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の条件で、加熱殺菌を行うことにより、保存時の劣化臭の増加が抑えられた、優れた香味と旨味を長期間持続できる容器詰茶飲料を製造する方法からなる。
【0015】
本発明の容器詰茶飲料の製造方法において、茶飲料に含有させるメチルメチオニンスルホニウム塩、特にメチルメチオニンスルホニウムクロライドは、ケール、キャベツ、又は、ブロッコリー由来の抽出物として調製することができる。本発明の容器詰茶飲料の製造方法において、UHT殺菌による加熱温度は、適宜の温度範囲で設定することができるが、通常、110℃〜145℃の範囲で設定することができる。
【0016】
本発明の容器詰茶飲料の製造方法において、UHT殺菌の条件として用いられるF値とは、基準温度(121.1℃)で一定数の微生物を死滅させるのに要する加熱時間(分)であって、121.1℃における加熱時間として定義される。例えば、F=1と同等の殺菌条件とは、111.1℃では10分、121.1℃では1分、F=20と同等の殺菌条件とは、121.1℃では20分、137.2℃では30秒のように設定できる。
【0017】
容器詰茶飲料の製造方法は、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶等の各種茶飲料の製造に対して適用できるが、特に望ましい茶飲料としては、緑茶飲料を挙げることができる。
【0018】
本発明は、本発明の容器詰茶飲料の製造方法によって製造された、優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、長期間持続できる容器詰茶飲料の発明を包含する。
【0019】
また、本発明は、容器詰茶飲料の製造において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の条件で、加熱殺菌を行うことにより、保存時の劣化臭の増加を抑えつつ、優れた香味及び旨味を長期間持続させることを特徴とする容器詰茶飲料における飲料の香味及び旨味の増強方法の発明を包含する。
【0020】
すなわち具体的には本発明は、[1]容器詰茶飲料の製造方法において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の殺菌条件で、加熱殺菌を行うことを特徴とする容器詰茶飲料の製造方法や、[2]メチルメチオニンスルホニウム塩が、メチルメチオニンスルホニウムクロライドであることを特徴とする上記[1]に記載の容器詰茶飲料の製造方法や、[3]メチルメチオニンスルホニウムクロライドが、ケール、キャベツ、又は、ブロッコリー由来の抽出物であることを特徴とする
上記[2]に記載の容器詰茶飲料の製造方法や、[4]UHT殺菌による加熱温度が、110℃〜145℃の範囲で設定されることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の容器詰茶飲料の製造方法や、[5]茶飲料が緑茶飲料であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の容器詰茶飲料の製造方法からなる。
【0021】
また、本発明は
、[6]容器詰茶飲料の製造において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の条件で、加熱殺菌を行うことにより、保存時の劣化臭の増加を抑えつつ、優れた香味と旨味を持続させることを特徴とする容器詰茶飲料における飲料の香味及び旨味の増強方法からなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、容器詰茶飲料のような茶飲料の製造時の加熱殺菌処理により低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強し、かつ、その優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、長期間持続できる容器詰茶飲料を製造することができ、優れた香味と旨味を持続できる容器詰茶飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、容器詰茶飲料の製造方法において、(1)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値10〜20の条件で、加熱殺菌を行うか、或いは、(2)茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部のメチルメチオニンスルホニウム塩を含有させ、更に、茶飲料に対して、0.001〜0.1v/v%のエタノール、又は、0.001〜0.1v/v%のプロピレングリコールを添加して、該茶飲料を、UHT殺菌により、F値1〜20の条件で、加熱殺菌を行うことにより、加熱殺菌処理で低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強し、かつ、その優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、長期間持続できる容器詰茶飲料を製造し、提供することからなる。
【0024】
<茶飲料>
本発明で、茶飲料の製造に用いる原料溶液は、通常の方法に従い茶葉から抽出した茶抽出液を用いて調製することができる。原料となる茶葉は特に限定されないが、Camellia sinensisに属する茶葉等を用いることができ、緑茶葉のような不発酵茶に限らず烏龍茶のような半発酵茶や紅茶のような発酵茶、プーアル茶のような後発酵茶なども用いることができる。本発明の効果がより発揮できるという点で緑茶葉が好ましい。なお茶抽出液の代わりに市販の茶エキスやパウダーを用いてもよく、茶抽出液とエキスやパウダーを混合して用いてもよい。茶飲料に含有される茶由来の総ポリフェノール量は任意に決めることができるが、好ましくは20〜150mg/100mL、より好ましくは40〜100mg/100mLのとき、加熱殺菌処理後の容器詰茶飲料において、より旨味が強く、緑茶らしい自然な風味を得ることができる。そのほか、通常の茶飲料を製造する際に使用する食品添加物などは適宜使用することができる。
【0025】
<メチルメチオニンスルホニウム塩>
本発明の茶飲料で、該茶飲料に含有させるメチルメチオニンスルホニウム塩は、キャベツジュース中の潰瘍抑制効果を研究する中でその有効成分の一つとして見出された化合物群であり、キャベツなどのアブラナ科植物に含有される。メチルメチオニンスルホニウム塩は、メチルメチオニンスルホニウムと、無機酸、有機酸、酸性アミノ酸、および5’−ヌクレオタイドから選択された化合物との塩であることが好ましい。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。また、有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸などが挙げられる。さらに、酸性アミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸などが挙げられる。加えて、5’−ヌクレオタイドとしては、5’−イノシン酸、5’−アデニル酸、5’−グアニル酸、などが挙げられる。メチルメチオニンスルホニウム塩の添加量は、茶飲料中に含まれる茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部、好ましくは0.007〜0.06重量部、より好ましくは、0.01〜0.06重量部添加するのがよい。
【0026】
<メチルメチオニンスルホニウムクロライド(MMS)>
メチルメチオニンスルホニウム塩は、飲料に用いることができる化合物であれば特に限定されないが、好ましくは、メチルメチオニンスルホニウムと無機酸との塩であり、さらに好ましくは、メチルメチオニンスルホニウムクロライドである。メチルメチオニンスルホニウムクロライドは、ケールやキャベツ、及びブロッコリー等に含まれるアミノ酸の一種であり、それらの植物体の抽出物若しくはその抽出物から分画濃縮したものを使用することができる。メチルメチオニンスルホニウムクロライドは食品添加物として市販されており、本発明では該市販のメチルメチオニンスルホニウムクロライドを使用することができる。該市販のメチルメチオニンスルホニウムクロライドを使用することで、香味の調整やコストの面で有利となることがある。メチルメチオニンスルホニウムクロライドの添加量は、茶飲料中に含まれる茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.001〜0.15重量部、好ましくは0.007〜0.06重量部、より好ましくは、0.01〜0.06重量部添加するのがよい。
【0027】
<総ポリフェノール>
ここで茶由来の総ポリフェノールとは、茶由来成分のうち、以下に示す酒石酸鉄法で定量されたものを指す。茶由来ポリフェノールには、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等や、カテキン類の酸化2量体であるテアフラビン類、さらにはカテキン類やテアフラビン類を構成単位とする多量体のタンニン類などが含まれる。茶由来の総ポリフェノール量は、日本食品分析センター編、「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」、中央法規、2001年7月、p.252に記載の公定法(酒石酸鉄試薬法)にしたがって測定する。
【0028】
<エタノール・プロピレングリコール>
本発明の容器詰茶飲料の製造方法においては、メチルメチオニンスルホニウム塩の含有に加えて、特定量のエタノール、若しくは、プロピレングリコールを含有させることにより、殺菌条件の適正範囲を広げることができる。具体的には、エタノール又はプロピレングリコールを0.001〜0.1v/v%の範囲で含有させる。該エタノール及びプロピレングリコールは、茶飲料調合の際に抽出液に対して添加すればよく、メチルメチオニンスルホニウム塩と同時に添加してもよい。なお、これらエタノール及びプロピレングリコールの両者を併用して添加することもできる。
【0029】
<UHT殺菌>
本発明では、容器詰茶飲料の製造において用いられる加熱殺菌手段として、UHT殺菌が用いられる。UHT殺菌は、超高温短時間で殺菌する方法であり、PETボトル詰清涼飲料製造の際などの殺菌方法として広く用いられている。本発明の容器詰茶飲料の製造方法においては、このUHT殺菌をおこなう際に、特定のF値範囲で加熱殺菌することが必要となる。F値とは、基準温度で一定数の微生物を死滅させるのに要する加熱時間(分)であって、通常121.1℃における加熱時間をいう。たとえば、F=1と同等の殺菌条件とは、111.1℃では10分、121.1℃では1分、F=20と同等の殺菌条件とは、121.1℃では20分、137.2℃では30秒のように設定できる。なお本発明でUHT殺菌をおこなう際には、加熱温度は110℃〜145℃程度に設定することが好ましく、124℃〜145℃程度に設定することがより好ましい。UHT殺菌機を用いて上記条件で殺菌を行う場合は、上記条件を実際に担保できる温度と時間を設定する。
【0030】
<UHT殺菌条件>
本発明の容器詰茶飲料の製造においては、以下のUHT殺菌条件において、加熱殺菌が行われる。
(1)メチルメチオニンスルホニウム塩添加(エタノール、プロピレングリコール無添加):F値10〜20の条件で、加熱殺菌。
上記加熱殺菌の範囲以外では、保存するに従い、旨味が漸減するほか、同時に劣化臭が増加するので、製造後、長期間に渡って流通、販売される容器詰茶飲料としては相応しくない。
(2)メチルメチオニンスルホニウム塩添加+エタノール(0.001〜0.1v/v%)添加:F値1〜20の条件で、加熱殺菌。
上記加熱殺菌の範囲以外では、保存するに従い、旨味が漸減するほか、同時に劣化臭が増加するので、製造後、長期間に渡って流通、販売される容器詰茶飲料としては相応しくない。
(3)メチルメチオニンスルホニウム塩添加+プロピレングリコール(0.001〜0.1v/v%)添加:F値1〜20の条件で、加熱殺菌。
上記加熱殺菌の範囲以外では、保存するに従い、旨味が漸減するほか、同時に劣化臭が増加するので、製造後、長期間に渡って流通、販売される容器詰茶飲料としては相応しくない。
【0031】
<容器詰茶飲料>
UHT殺菌した茶飲料を、常法に従って、PETボトル、紙容器、ビン容器、缶容器などの容器に充填することで、容器詰茶飲料を製造することができる。本発明方法で製造した茶飲料は、長期間保存しても、劣化臭が増加しにくく、香味、旨味に優れている。なお、UHT殺菌の特性を生かす面からPETボトルに充填することが最も好ましい。
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
[実施例1〜2、比較例1〜5]
【0034】
<調製例(1)>茶飲料調合液の調製
緑茶葉200gに対して70℃の熱水8000gを添加し、適宜攪拌しながら6分間抽出した。固液分離し、10℃まで冷却した後に遠心分離処理を行った後、イオン交換水で8000gに調整して緑茶抽出液を得た。さらに、この得られた緑茶抽出液1000gに対して、L−アスコルビン酸を40mg/茶飲料100mLとなるように添加してから、炭酸水素ナトリウムでpHを6.5に調整後、最終的に2500gとなるようにイオン交換水を添加して、茶飲料調合液(対照)を調製した。一方、使用する緑茶抽出液を6000gにする点、メチルメチオニンスルホニウムクロライド(MMS)(浜理薬品工業株式会社製)を0.001w/w%となるように添加する点、最終液量を15000gとする点以外は全く同様にして茶飲料調合液(試験区)を調製した。これら茶飲料調合液の総ポリフェノール量は70mg/100mlであり、メチルメチオニンスルホニウムクロライドの添加量は茶飲料中に含まれる茶由来の総ポリフェノール1重量部に対して、0.0143重量部に相当する。
【0035】
<UHT殺菌条件>
【0036】
(実施例1〜2、比較例1〜4)
得られたそれぞれの茶飲料調合液を用いて、表1に示す条件でUHT殺菌をおこなった。UHT殺菌機の条件は、表1の殺菌条件を実際に担保できるように温度と時間を設定した。UHT殺菌はF値が1〜40の範囲で行い、殺菌後は、PETボトルに充填して容器詰茶飲料とした。
【0037】
【表1】
【0038】
(比較例5)
得られた茶飲料調合液(試験区)をレトルト缶に充填した後、表2に示す条件でレトルト殺菌をおこなった。レトルト殺菌機の条件は、表2の殺菌条件を実際に担保できるように温度と時間を設定した。
【0039】
【表2】
【0040】
<官能評価(1)>
製造した容器詰緑茶飲料を訓練されたパネリスト5名により官能評価を行った。また、45℃保存庫に保存して、製造2週間後、4週間後にも同様に官能評価をおこなった。香味評価(旨味)は、比較例1の製造後保存0週間を対照(5点満点中の1点)として、緑茶飲料の香味を構成する旨味の強度を評価した。すなわち、評価素点は次の通りである:1点は「旨味が対照と同等である」、2点は「旨味が対照より若干強い程度」、3点は「旨味が対照より強いまたは優れている」、4点は「旨味が対照より明らかに強いまたは優れている」、5点は「旨味が対照より著しく強いまたは優れている」とした。これらの評価素点はさらに、下記の評価基準でレベル分けした。香味の評価基準は次の通りである:◎が最も緑茶飲料としての旨味が優れており、○、△、及び×の順に従って、旨味の強度が弱くなり、△及び×は、緑茶飲料として旨味増強効果が不十分なものである。また、香味評価(劣化臭)は、比較例1の製造後保存0週間を対照(5点満点中の1点)として、保存期間中に生成される緑茶飲料の劣化臭の強度を評価した。
【0041】
すなわち、評価素点は次の通りである:1点は「対照と同等である」、2点は「対照より微妙な劣化臭を感じるが許容できる」、3点は「対照より強い劣化臭を感じる」、4点は「対照より明らかに強い劣化臭を感じる」、5点は「対照より著しく強い劣化臭を感じる」とした。これらの評価素点はさらに、下記の評価基準でレベル分けした。香味の評価基準は次の通りである:◎が最も対照の香味に近く、○、△、及び×の順に従って、対照からの香味の変化が大きくなるものであり、△及び×は、緑茶飲料として劣化臭が許容しがたいものである。
【0042】
<評価基準(旨味)>
◎:(5段階評価で3.5点以上)
○:(5段階評価で3点以上3.5点未満)
△:(5段階評価で2.5点以上3点未満)
×:(5段階評価で2.5点未満)
【0043】
<評価基準(劣化臭)>
◎:(5段階評価で2.5点未満)
○:(5段階評価で2.5点以上3.0点未満)
△:(5段階評価で3.0点以上3.5点未満)
×:(5段階評価で3.5点以上)
【0044】
香味評価の結果を表3に示す。メチルメチオニンスルホニウムクロライドを添加した茶飲料において、比較例4及び5は、製造直後はいずれも旨味が増強されていたが、保存するに従って旨味の強度が著しく低下してしまった。また同時に劣化臭が増加していた。比較例2及び3は、製造直後の旨味の増強が十分ではなかった。一方、実施例の容器詰茶飲料においては、製造直後だけでなく、一定期間保存後も旨味の増強が維持されており、劣化臭の増加も抑えられていた。
【0045】
【表3】
【0046】
[実施例3〜14、比較例6〜8]
【0047】
<調製例(2)(エタノール添加茶飲料調合液の調製[1])>
エタノールを最終液量に対して0.001v/v%となるように添加した以外は、調製例(1)の茶飲料調合液(試験区;MMS0.001w/w%添加)と同様に調合液を調製した。
【0048】
<調製例(3)(エタノール添加茶飲料調合液の調製[2])>
エタノールを最終液量に対して0.01v/v%となるように添加した以外は、調製例(1)の茶飲料調合液(試験区;MMS0.001w/w%添加)と同様に調合液を調製した。
【0049】
<調製例(4)(エタノール添加茶飲料調合液の調製[3]>
エタノールを最終液量に対して0.1v/v%となるように添加した以外は、調製例(1)の茶飲料調合液(試験区;MMS0.001w/w%添加)と同様に調合液を調製した。
【0050】
<UHT殺菌条件>
得られた茶調合液について、表4の条件でUHT殺菌を行ってPETボトルに充填して容器詰茶飲料を製造した。UHT殺菌機の条件は、表4の殺菌条件を実際に担保できるように温度と時間を設定した。
【0051】
【表4】
【0052】
<官能評価(2)>
実施例3〜14および比較例6〜8の容器詰茶飲料について官能評価(1)と同様に官能評価をおこなった。結果を表5に示す。エタノールを0.001v/v%、0.01v/v%若しくは0.1v/v%添加すると、F値が1〜10であっても、エタノールを添加しない場合のF値10〜20と同様に、メチルメチオニンスルホニウムクロライド添加により増強された優れた香味、旨味が製造直後だけでなく、一定期間保存後も持続していた。また劣化臭の増加も抑えられていた。
【0053】
【表5】
【0054】
[実施例15〜18、比較例9]
【0055】
<調製例(5)(プロピレングリコール添加茶飲料調合液の調製)>
プロピレングリコール(PG)を最終液量に対して0.1v/v%となるように添加した以外は、調製例(1)の茶飲料調合液(試験区;MMS0.001w/w%添加)と同様に調合液を調製した。
【0056】
<UHT殺菌条件>
得られた茶調合液について、表6の条件でUHT殺菌を行ってPETボトルに充填して容器詰茶飲料を製造した。UHT殺菌機の条件は、表6の殺菌条件を実際に担保できるように温度と時間を設定した。
【0057】
【表6】
【0058】
<官能評価(3)>
実施例15〜18及び比較例9の容器詰茶飲料について官能評価(1)及び(2)と同様に官能評価を行った。結果を表7に示す。プロピレングリコールを添加すると、F値が1〜10であっても、プロピレングリコールを添加しない場合のF値10〜20と同様に、メチルメチオニンスルホニウムクロライド添加による増強された優れた香味および旨味が製造直後だけでなく、一定期間保存後も持続していた。また、劣化臭の増加も抑えられていた。
【0059】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、容器詰茶飲料の製造時の加熱殺菌処理により低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強し、かつ、その優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、製造後も長期間持続できる、容器詰茶飲容器詰茶飲料を提供する。