特許第6514979号(P6514979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6514979-工業用シールおよびシール装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514979
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】工業用シールおよびシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20190425BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-141376(P2015-141376)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2017-20639(P2017-20639A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【弁理士】
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【弁理士】
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】青木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】石崎 洋治
(72)【発明者】
【氏名】青木 堅一郎
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭46−011454(JP,Y1)
【文献】 特開2005−214220(JP,A)
【文献】 実開平04−099459(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0193647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が被シール部に接触する板状のリップ部と、
磁石と、
一端が前記リップ部の一端から距離D1の位置にあり、他端が前記磁石の両磁極のうち一方に接触している状態で、前記リップ部の片面に積層されている板状の外側ヨークと、
一端が前記リップ部の一端から距離D2の位置にあり、他端が前記磁石の両磁極のうち他方に接触している状態で、前記リップ部の他面に積層されている板状の内側ヨークと、を備え、
前記距離D1および前記距離D2は、D1>D2の関係を有する、工業用シール。
【請求項2】
前記リップ部は、弾性材料を含浸させた繊維からなる、請求項1に記載の工業用シール。
【請求項3】
リング状である、請求項1または2に記載の工業用シール。
【請求項4】
磁性体捕集機能を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の工業用シール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の工業用シールと、
異物侵入方向に対して前記工業用シールよりも下流に位置しているメインシールと、を備える、シール装置。
【請求項6】
前記工業用シールおよび前記メインシールが、互いに離れて位置している、請求項5に記載のシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用シールおよびそれを備えるシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤、研削盤などの機械で鉄などの磁性体を加工するときには、加工面に切削油または水などをかけて、加工面を冷却および洗浄しながら加工することが多い。そのため、機械の回転部または直動案内部などには、研削粉または切粉などの異物の侵入を抑制するうえで、シールが取り付けられる。このようなシールとしては、回転部などの被シール部に接触するリップ部を複数備えるものも知られている。
【0003】
しかし、一般的なシールのリップ部はゴムなどで構成されているため、鋭利な形状の研削粉などが切削油などに混ざってリップ部と被シール部の間に侵入すると、リップ部が早期に損傷してしまうという問題があった。
【0004】
上述の問題を解決するため、磁力を利用して切削粉などの磁性を有する異物を捕集するようにしたシールが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
しかし、特許文献1、2に記載されているような従来のシールが有する異物の捕集機能は、必ずしも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−210212号公報
【特許文献2】特開2005−214220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、磁性を有する異物の捕集機能に優れる工業用シールおよびそれを備えるシール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)一端が被シール部に接触する板状のリップ部と、磁石と、一端が前記リップ部の一端から距離D1の位置にあり、他端が前記磁石の両磁極のうち一方に接触している状態で、前記リップ部の片面に積層されている板状の外側ヨークと、一端が前記リップ部の一端から距離D2の位置にあり、他端が前記磁石の両磁極のうち他方に接触している状態で、前記リップ部の他面に積層されている板状の内側ヨークと、を備え、前記距離D1および前記距離D2は、D1>D2の関係を有する、工業用シール。
(2)前記リップ部は、弾性材料を含浸させた繊維からなる、前記(1)に記載の工業用シール。
(3)リング状である、前記(1)または(2)に記載の工業用シール。
(4)磁性体捕集機能を有する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の工業用シール。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の工業用シールと、異物侵入方向に対して前記工業用シールよりも下流に位置しているメインシールと、を備える、シール装置。
(6)前記工業用シールおよび前記メインシールが、互いに離れて位置している、前記(5)に記載のシール装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切削粉などの磁性を有する異物の捕集機能に優れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る工業用シールおよびシール装置を示す破断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る工業用シール(以下、「シール」と言うことがある。)およびシール装置について、図1を参照して詳細に説明する。
【0011】
<工業用シール>
図1に示すように、本実施形態のシール1は、機械100に取り付けられる。機械100は、加工面に切削油または水などをかけて、加工面を冷却および洗浄しながら鉄などの磁性体を加工するものである。このような機械100としては、例えば、旋盤、研削盤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の機械100は、回転軸Sを基準として所定方向に回転する円柱状のシャフト101を備えている。本実施形態のシール1は、シャフト101に研削粉または切粉などの磁性を有する異物が侵入するのを抑制するため、ボルト102を介して機械100に取り付けられる。このような本実施形態のシール1は、その全体の形状がシャフト101を取り囲むリング状に構成されている。
【0013】
また、本実施形態のシール1は、その構成部材として、リップ部2、磁石3、外側ヨーク4および内側ヨーク5を備えている。以下、本実施形態のシール1の各構成部材について、順に説明する。
【0014】
(リップ部)
本実施形態のリップ部2は、その一端2aが被シール部(摺動部)であるシャフト101に接触して、シャフト101をシールする板状の部材である。リップ部2は、研削粉などの磁性を有する異物が混ざった切削油などを堰き止める部位として機能する。なお、上述のとおり、本実施形態のシール1はリング状であることから、リップ部2もリング状である。したがって、本実施形態では、リップ部2の一端2aは内周面になり、リップ部2の他端2bは外周面になる。この点は、後述する外側ヨーク4および内側ヨーク5についても同様である。
【0015】
本実施形態のリップ部2は、弾性材料を含浸(ディップ)させた繊維からなる。このような構成によれば、柔軟性を有しつつ切削粉などの異物が接触してもリップ部2が損傷しにくくなることから、優れた耐久性を発揮することができる。また、シャフト101に対する摩擦係数が下がり、耐摩耗性も向上することから、優れた耐摩耗性および低発熱性ならびに低い摺動抵抗を発揮することができる。なお、含浸に代えて、弾性材料を塗布することによって、繊維の隙間に弾性材料を含有させることもできる。弾性材料を含浸または塗布するときには、これらの処理をスムーズに行ううえで、弾性材料を溶剤などで溶解して液状にするのが好ましい。また、液状の樹脂接着剤などを含浸または塗布することもできる。
【0016】
弾性材料としては、例えば、ゴム、エラストマーなどが挙げられる。ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加ニトリルブタジエンゴム(H−NBR)などが挙げられる。エラストマーとしては、例えば、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。例示したこれらの弾性材料は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
繊維としては、例えば、脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ウレタン繊維、アセテート繊維、フッ素繊維などの合成繊維、木綿、絹、麻などの天然繊維、レーヨン、ガラス繊維、比較的硬度の低い金属繊維維などが挙げられる。例示したこれらの繊維は、1種または2種以上を混合して使用することができる。繊維の形態としては、例えば、織布、不織布、編布などが挙げられる。織布は、帆布を含む。
【0018】
リップ部2の厚さは、0.4〜3.0mmであるのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0019】
(磁石)
本実施形態の磁石3は、異物侵入方向Aに対して上流側から順に磁極3aおよび磁極3bを有する。磁極3a、3bは、互いに反対の極性を有する。すなわち、磁極3aがS極であるとき、磁極3bはN極である。また、磁極3aがN極であるとき、磁極3bはS極である。
【0020】
本実施形態の磁石3は、リップ部2の他端2bに位置している。なお、磁石3は、後述する外側ヨーク4および内側ヨーク5に接触し、磁力のループ回路を形成できる限り、リップ部2の他端2bに位置する構成に限定されるものではく、磁力のループ回路の所望の位置に配置することができる。
【0021】
(外側ヨークおよび内側ヨーク)
本実施形態の外側ヨーク4および内側ヨーク5はいずれも、磁性材料によって構成されている。磁性材料としては、例えば、鉄、鋼などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
また、外側ヨーク4および内側ヨーク5はいずれも、板状の部材である。外側ヨーク4および内側ヨーク5のそれぞれの厚さは、0.8〜3.6mmであるのが好ましいが、これに限定されるものではない。外側ヨーク4および内側ヨーク5のそれぞれの厚さは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
外側ヨーク4および内側ヨーク5はいずれも、リップ部2に積層されている。具体的に説明すると、上述したリップ部2は、異物侵入方向Aに対して上流側から順に片面21および他面22を有する。そして、リップ部2の片面21に外側ヨーク4が、リップ部2の他面22に内側ヨーク5がそれぞれ積層されている。
【0024】
ここで、本実施形態では、外側ヨーク4および内側ヨーク5が、特定の状態でリップ部2に積層されている。具体的に説明すると、外側ヨーク4は、その一端4aがリップ部2の一端2aから距離D1の位置にあり、他端4bが磁石3の両磁極のうち一方に、すなわち磁極3a、3bのうち磁極3aに接触している状態で、リップ部2の片面21に積層されている。また、内側ヨーク5は、その一端5aがリップ部2の一端2aから距離D2の位置にあり、他端5bが磁石3の両磁極のうち他方に、すなわち磁極3a、3bのうち磁極3bに接触している状態で、リップ部2の他面22に積層されている。これらの構成によれば、磁極3aがS極、磁極3bがN極であるときには、外側ヨーク4がS極、内側ヨーク5がN極になる。また、磁極3aがN極、磁極3bがS極であるときには、外側ヨーク4がN極、内側ヨーク5がS極になる。そして、いずれの場合においても、外側ヨーク4および内側ヨーク5が磁力を導くヨークとして機能するようになり、結果としてシール1が磁性体捕集機能を有するようになる。したがって、リップ部2によって堰き止めた切削油中の磁性を有する異物を、外側ヨーク4の一端4aおよび内側ヨーク5の一端5aの間に発生する磁力によって捕集することができる。
【0025】
また、本実施形態では、リップ部2の一端2aから外側ヨーク4の一端4aまでの距離D1が、リップ部2の一端2aから内側ヨーク5の一端5aまでの距離D2よりも大きい。すなわち、距離D1および距離D2が、D1>D2の関係を有する。このような構成によれば、リップ部2の片面21のうち外側ヨーク4が積層されていない領域であって、外側ヨーク4の一端4aから内側ヨーク5の一端5aに対応して位置している部位211にかけて、段差6を形成することができる。段差6は異物の堆積部として機能するので、外側ヨーク4の一端4aおよび内側ヨーク5の一端5aの間に発生する磁力によって捕集した切削油中の異物を、段差6に堆積させて集めることができる。したがって、本実施形態のシール1によれば、研削粉などの磁性を有する異物が混ざった切削油などをリップ部2によって堰き止め、堰き止めた切削油中の異物を外側ヨーク4の一端4aおよび内側ヨーク5の一端5aの間に発生する磁力によって捕集し、さらに捕集した異物を段差6に堆積させて集めることが可能となり、結果として優れた異物捕集機能を発揮することができる。しかも、リップ部2のシール面に異物が近づくことを減らすことができ、リップ部2が損傷する確率を低減することができる。
【0026】
リップ部2の一端2aから外側ヨーク4の一端4aまでの距離D1は、2.0〜10.0mmであるのが好ましく、リップ部2の一端2aから内側ヨーク5の一端5aまでの距離D2は、0.5〜3.0mmであるのが好ましく、これらの数値範囲内で距離D1、D2がD1>D2の関係を有するのが好ましい。なお、距離D1、D2は、例示した数値範囲に限定されるものではない。
【0027】
上述した本実施形態のシール1は、弾性材料を含浸させた繊維をリップ部2の形状に加工し、外側ヨーク4および内側ヨーク5のそれぞれをリップ部2に積層し、外側ヨーク4の他端4bおよび内側ヨーク5の他端5bに接触するように磁石3を取り付けることによって得られる。
【0028】
<シール装置>
本実施形態のシール装置10は、上述した本実施形態のシール1と、異物侵入方向Aに対してシール1よりも下流に位置しているメインシール11と、を備えている。メインシール11は、シール1から漏出した切削油などの液体をシールする部材であり、少なくとも1つのリップ部を備えている。本実施形態のメインシール11は、異物侵入方向Aに対して上流側から順に第1リップ部12および第2リップ部13を備えている。
【0029】
本実施形態のシール装置10は、上述した磁性体捕集機能を有するシール1を備えていることから、メインシール11の第1リップ部12および第2リップ部13を損傷させる研削粉などの磁性を有する異物を、第1リップ部12および第2リップ部13の手前で捕集することができる。その結果、第1リップ部12および第2リップ部13が摩耗損傷するのを抑制することができ、長期にわたって安定したシール性を保つことが可能となる。
【0030】
本実施形態の第1リップ部12および第2リップ部13はいずれも、弾性材料からなる。第1リップ部12および第2リップ部13を構成する弾性材料は、上述したリップ部2で例示したのと同じ弾性材料が挙げられる。
【0031】
また、本実施形態のメインシール11は、その内部に埋設されている補強材14をさらに備えている。補強材14は、メインシール11の形状を維持する部材である。補強材14を構成する材料としては、例えば、鉄などが挙げられる。
【0032】
本実施形態では、シール1およびメインシール11が、互いに離れて位置している。このような構成によれば、メインシール11の補強材14に対して、シール1の磁力が影響するのを抑制することができる。なお、例えば、メインシール11が補強材14を備えていないような場合には、必要に応じて、シール1およびメインシール11を互いに接触させることもできる。
【符号の説明】
【0033】
1 工業用シール
2 リップ部
2a 一端
2b 他端
21 片面
211 部位
22 他面
3 磁石
3a 磁極
3b 磁極
4 外側ヨーク
4a 一端
4b 他端
5 内側ヨーク
5a 一端
5b 他端
6 段差
10 シール装置
11 メインシール
12 第1リップ部
13 第2リップ部
14 補強材
100 機械
101 シャフト
102 ボルト
図1