特許第6514985号(P6514985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6514985
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】土留め壁補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20190425BHJP
【FI】
   E02D17/20 106
   E02D17/20 103A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-148538(P2015-148538)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-25678(P2017-25678A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高崎 秀明
(72)【発明者】
【氏名】池本 宏文
(72)【発明者】
【氏名】金田 淳
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−147930(JP,A)
【文献】 特開2005−009210(JP,A)
【文献】 特開2005−226222(JP,A)
【文献】 米国特許第04674921(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め壁の背面側の地盤に設置した補強杭と、
前記補強杭の上端部と前記土留め壁の上端部とを連結している連結部材と、
前記土留め壁の前面から前記補強杭に達するように貫入され、前記土留め壁と前記補強杭とを連結している一体化部材と、
前記土留め壁の前面を覆う被覆部材と、
を備え
前記被覆部材は、前記一体化部材の一端部に固定されていることを特徴とする土留め壁補強構造。
【請求項2】
前記補強杭は、前記地盤に鉛直方向に埋設されており、
前記一体化部材は、それぞれの高さ位置が異なるように前記補強杭に向けて複数貫入されていることを特徴とする請求項1に記載の土留め壁補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の土留め壁を補強する土留め壁補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地山や盛土などの側壁面に設けられている既設の土留め壁を補強するため、土留め壁の背面側の地盤に設置した補強杭に、土留め壁の前面を覆うように設置した補強ネットを固定してなる補強構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−259660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の補強構造の場合、地震により地盤が揺さぶられると、土留め壁には通常よりも高い土圧が作用するので、土留め壁が損傷してしまうことがあった。この土留め壁は補強ネットで覆われているので大崩れしないようになってはいるが、より効果的に土留め壁を補強することが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、土留め壁をより好適に補強することができる土留め壁補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明は、土留め壁補強構造であって、
土留め壁の背面側の地盤に設置した補強杭と、
前記補強杭の上端部と前記土留め壁の上端部とを連結している連結部材と、
前記土留め壁の前面から前記補強杭に達するように貫入され、前記土留め壁と前記補強杭とを連結している一体化部材と、
前記土留め壁の前面を覆う被覆部材と、
を備え
前記被覆部材は、前記一体化部材の一端部に固定されているようにした。
【0007】
かかる構成の土留め壁補強構造であれば、連結部材と一体化部材とによって既設の土留め壁をその背面側に設置した補強杭に連結することで、土圧が作用する土留め壁を補強杭で支えるようにして好適に補強することができる。
特に、この土留め壁補強構造であれば、土留め壁と補強杭の間の地盤がこの補強構造と一体となって挙動する疑似擁壁とすることができる。
つまり、この土留め壁補強構造は、既設の土留め壁を連結部材と一体化部材とによって補強杭に連結したことで、土留め壁と補強杭の間に挟んだ地盤を土留め壁と一体化するようにして、その土留め壁の厚みを増すのと同等の補強を行うことができる。こうすることで、既設の土留め壁の耐震性を向上させることができる。
また、土留め壁の前面を補強ネットなどの被覆部材で覆うようにすれば、土留め壁の一部が損傷して部分的に崩壊しそうになってもその箇所を被覆部材で押さえることができる。また、崩壊してしまったものを被覆部材の張力によって拘束することができる。こうして崩壊に伴う被害を抑えることができる。
また、被覆部材を一体化部材の一端部に固定するようにすれば、土留め壁の前面を覆う被覆部材を一体化部材を介して補強杭に連結し、土圧が作用する土留め壁を補強杭側に引き留めて支えることができ、既設の土留め壁をより好適に補強することができる。
【0008】
また、望ましくは、
前記補強杭は、前記土留め壁が延在する範囲の地盤に所定間隔をあけて複数配設され、その補強杭は、前記地盤に鉛直方向に埋設されており、
前記一体化部材は、それぞれの高さ位置が異なるように前記補強杭に向けて複数貫入されているようにした。
こうすることで、土留め壁と補強杭の間に挟んだ地盤をより安定した状態で保持することができ、その地盤をより強固に土留め壁に一体化するようにして、土留め壁の補強を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、土留め壁をより好適に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の土留め壁補強構造を示す概略斜視図である。
図2】本実施形態の土留め壁補強構造を示す概略側面図(a)と、上面図(b)である。
図3】土留め壁補強構造の変形例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る土留め壁補強構造の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0014】
図1は、本実施形態の土留め壁補強構造100を示す概略斜視図である。図2(a)はその土留め壁補強構造100を示す概略側面図、図2(b)は上面図である。
本実施形態の土留め壁補強構造100は、地山や盛土などの側壁面に設けられている既設の土留め壁50を補強するためのものである。
土留め壁50は、モルタル又はコンクリートからなり(場合によっては鉄筋が併用されている)、地山や盛土、切土法面などの側壁面を覆う板状に形成されている。そして、この土留め壁50は、地山や盛土、切土法面などに対して自重によってもたれながら安定性を確保できるような形状を有している。
なお、土留め壁50の前面側には、鉄道の軌道Rが敷設されている。また、土留め壁50の背面側には、地盤Gの用地境界Lが設定されている。
【0015】
土留め壁補強構造100は、図1図2に示すように、土留め壁50の背面側の地盤Gに設置した補強杭10と、補強杭10の上端部10aと土留め壁50の上端部50aとを連結している連結部材20と、土留め壁50の前面から補強杭10に達するように貫入され、土留め壁50と補強杭10とを連結している一体化部材30と、を備えている。
【0016】
補強杭10は、地盤Gに鉛直方向に埋設されており、用地境界Lよりも土留め壁50側に設置されている。また、補強杭10は、土留め壁50が延在する範囲に所定間隔をあけて複数設けられている。
この補強杭10は、地盤Gに鉛直向きに形成された掘削孔にモルタル又はコンクリートを打設して設けられた杭であり、杭の内部には鉄筋や鉄骨など(図示省略)が配設されている。
【0017】
連結部材20は、モルタル又はコンクリートからなる部材であり、補強杭10と一体化させるように補強杭10の上端部10aに被せて設けられている。
また、土留め壁50の上端部50aに、補強杭10側に突出するアンカー20aを予め定着させておき、そこへモルタル又はコンクリートを打設して連結部材20を形成することで、連結部材20内にアンカー20aを取り込むようにして、連結部材20と土留め壁50を接続している。
こうして、補強杭10と土留め壁50は連結部材20を介して連結されている。
【0018】
一体化部材30は、土留め壁50の前面から補強杭10に向けて斜め下方に傾斜するように形成された掘削孔にモルタル又はコンクリートを打設して設けられた部材であり、その内部には鉄筋33が配設されている。
この一体化部材30は、1本の補強杭10に対し複数(本実施形態では3つ)設けられており、複数の一体化部材30は、それぞれの高さ位置が異なるように補強杭10に向けて貫入されている。補強杭10に貫入した一体化部材30は、その補強杭10と一体化している。
なお、本実施形態では一体化部材30は補強杭10を貫通しておらず、一体化部材30の先端側が用地境界Lを超えないように設けられている。
【0019】
この土留め壁補強構造100を構成する補強杭10、連結部材20、一体化部材30と、既設の土留め壁50は、いずれも主要部がモルタル又はコンクリートからなる構造体であるので、各部材はそれぞれ親和性よく接合している。
【0020】
このように、本実施形態の土留め壁補強構造100は、既設の土留め壁50と、その土留め壁50の背面側に設置した補強杭10とを、連結部材20と一体化部材30とで連結して一体化した構造を有している。
このような土留め壁補強構造100であれば、土留め壁50と補強杭10の間の地盤も補強構造の一部とすることができ、その地盤を含んだ土留め壁補強構造100を疑似擁壁100aと見なすことができる。そして、土留め壁50と補強杭10の間の地盤が土留め壁補強構造100と一体となって挙動することで、土留め壁補強構造100がより重厚な疑似擁壁100aとなる。
【0021】
以上のように、本実施形態の土留め壁補強構造100であれば、連結部材20と一体化部材30とによって、土留め壁50をその背面側に設置した複数の補強杭10に連結することで、土圧が作用する土留め壁50を補強杭10で支えるように好適に補強することができる。
特に、この土留め壁補強構造100であれば、土留め壁50と補強杭10の間の地盤がこの補強構造と一体となって挙動する疑似擁壁100aとすることができる。
【0022】
つまり、土留め壁補強構造100は、既存の土留め壁50を、連結部材20と一体化部材30とによって複数の補強杭10に連結したことで、土留め壁50と補強杭10の間に挟んだ地盤を土留め壁50と一体化するようにして、その土留め壁50の厚みを増すのと同等の補強を行うことができる。こうすることで、既存の土留め壁50の耐震性を向上させることができる。
このような補強構造によれば、土留め壁50の前面側に張り出すような厚みを有する補強部材を設置することなく、土留め壁50の厚みを増すのと同等の補強を行うことができるので、土留め壁50の前面側に施工用地がない場合でも、土留め壁50をより効果的に補強することができる。
【0023】
また、この土留め壁補強構造100であれば、用地境界Lよりも土留め壁50側に補強杭10を設置し、用地境界Lを超えないように一体化部材30を設けるようにして、疑似擁壁100aを構築することができるので、既存の土留め壁50と用地境界Lとの間が狭隘な箇所であっても、土留め壁50をより効果的に補強することができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、図3に示すように、土留め壁補強構造100は、土留め壁50の前面を覆う被覆部材40を備えてもよい。
被覆部材40は、一体化部材30の一端部30aに固定されている。具体的に、被覆部材40は土留め壁50の前面に突出するように配設された鉄筋33の一端部33aに固定されている。
被覆部材40は、耐候性を有する高強度のものであれば、樹脂製の補強ネットや補強シートであっても、金属製の補強ネットや補強シートであってもよい。なお、樹脂製の補強ネットや補強シートは、樹脂繊維からなる複数本の紐を交織あるいは交編して製造することができる。金属製の補強ネットや補強シートは、複数本のワイヤーやワイヤー撚り線を交織あるいは交編して製造することができる。
この被覆部材40を土留め壁50の前面に設ける場合、被覆部材40の上端と下端を土留め壁50に固定するように、一体化部材30の一端部30aが土留め壁50の上端側と下端側に露出する位置に、それぞれ一体化部材30を設けるようにすることが好ましい。
このように、土留め壁50の前面を覆う被覆部材40が一体化部材30の一端部30aに固定されていれば、一体化部材30を介して被覆部材40が補強杭10に接続されるので、土圧が作用する土留め壁50を被覆部材40で補強杭10側に引き留めて支え、その土留め壁50をより好適に補強することができる。
【0025】
なお、以上の実施の形態においては、一体化部材30が補強杭10を貫通していない場合を例に説明したが、一体化部材30は補強杭10を貫通していてもよい。その場合でも一体化部材30の先端側が用地境界Lを超えないように設けられているようにする。
【0026】
また、以上の実施の形態において、土留め壁50は、モルタル又はコンクリートからなる板状の擁壁としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、土留め壁50は、コンクリートブロック積み擁壁であっても、石積み擁壁であってもよい。
なお、土留め壁50がコンクリートブロック積み擁壁や石積み擁壁である場合、その土留め壁50の前面を覆う被覆部材40を備えることが好ましい。
【0027】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
10 補強杭
10a 上端部
20 連結部材
30 一体化部材
30a 一端部
33 鉄筋
33a 一端部
40 被覆部材
50 土留め壁
50a 上端部
100 土留め壁補強構造
100a 疑似擁壁
G 地盤
L 用地境界
R 軌道
図1
図2
図3