特許第6515245号(P6515245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6515245
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】吸収体および吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/532 20060101AFI20190425BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   A61F13/532 200
   A61F13/53 300
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-228293(P2018-228293)
(22)【出願日】2018年12月5日
(62)【分割の表示】特願2016-122732(P2016-122732)の分割
【原出願日】2011年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-34229(P2019-34229A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2018年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-287970(P2010-287970)
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻 誠
(72)【発明者】
【氏名】大西 玲子
【審査官】 ▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−119154(JP,A)
【文献】 特開2010−279568(JP,A)
【文献】 特開2011−136034(JP,A)
【文献】 特開2002−045395(JP,A)
【文献】 特開2009−061063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15−13/84
A61L 15/16−15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプと吸水性ポリマーとを有する吸収体であって、
前記吸収体は交差する方向に延びる複数の凹部を有し、該複数の凹部は、互いにつながっていて、前記吸収体における排せつ液の流路溝をなし、前記吸収体の厚みの20%以上95%以下の深さを有し、
前記凹部の底部にある前記吸収体の密度が、該凹部の底部に隣接する部分を含む前記凹部の底部以外の部分の前記吸収体の密度より低く、
前記吸収体における[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比が1/3以上1/0.01以下であり、
前記吸水性ポリマーは、吸水量が30g/g以上45g/g以下であり、2kPaの加圧下における液体の吸収量が20g/g以上40g/g以下である吸収体。
【請求項2】
前記吸水性ポリマーは、2kPaの加圧下における液体の吸収量が20g/g以上35g/g以下である請求項1記載の吸収体。
【請求項3】
前記凹部は、平面視した前記吸収体の面積に対して平面視した前記凹部の総面積が10%以上40%以下となる請求項1または請求項2記載の吸収体。
【請求項4】
前記吸収体の厚みが0.5mm以上20mm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の吸収体。
【請求項5】
前記凹部の幅が1mm以上10mm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の吸収体。
【請求項6】
肌当接面側を配置される液透過性の表面シートと、
非肌当接面側を配置される液不透過性の裏面シートと、
前記両シートに介在配置された吸収体とを備え、
前記吸収体は請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の吸収体である吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収体および吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ等の吸収性物品においては、各部材の材料や構造を改良し、その機能や着用感の向上が図られてきた。吸収性物品に用いる吸収体についても、かかる改良を企図して開発がなされ、使用状況や物品の種類に応じて機能性を高めたものが種々提案されてきた。
【0003】
特許文献1には、緻密化されていない低密度の区域であるタフト区域と、このタフト区域間を相互に分離し包囲するチャンネルとを含み、タフト区域とチャンネルとが連続している吸収性パッドが開示されている。このチャンネルは貯蔵区域と輸送区域とを含み、貯蔵区域はタフト区域より大なる密度を有し、輸送区域は貯蔵区域より大なる密度を有している。また輸送区域は貯蔵区域によって相互に分離され包囲されている。これにより、浸透能力が向上され、柔らかさが付与されている。
しかしながら、特許文献1に開示された吸収性物品では、浸透能力は向上するものの、通常の吸水性ポリマーでは繰り返しの排せつによる吸収において吸収速度が低下し、高い吸収性能を期待するにはまだ不十分であった。
【0004】
特許文献2に開示された使い捨ておむつは、透液性表面シートと不透液性裏面シートと、これら両シート間に介在する吸液性コアとを備えている。そして、前胴周り域と、後胴周り域と、これら両域間に位置する股下域とを有し、前胴周り域から股下域を経て後胴周り域へ延びる仮想線に沿って、吸液性コアの少なくとも一部が分割されている。このような使い捨ておむつにおいて、吸液性コアは、粉砕パルプを主体として高吸水性ポリマー粒子を1質量%以上10質量%以下含む第1繊維層および第2繊維層と、繊維層間に配された高吸水性ポリマー粒子を主体として吸液性コア質量の5%以上50%以下を占める粒子層とからなる積層品である。そして第1繊維層の厚みが第2繊維層の厚みの1.5倍以上となっている。分割されている部位における吸液性コアの側面には、第1および第2繊維層と粒子層とがのぞき、分割されて互いに対向する吸液性コアの側面同士の間では、表面シートが側面に沿って垂下して裏面シートに当接し、その当接する部位において表裏面シートが互いに接合している。体液は、吸液性コアの頂面から吸収されるだけではなく、吸液性コアの側面から粒子層や、その粒子層の下側に位置する繊維層にも直接吸収される。それゆえ、このおむつでは、粒子層の吸液能力を有効に利用するだけでなく、この粒子層がゲルブロックを形成した場合でも、粒子層下側の繊維層の吸液能力を有効に利用する。
【0005】
特許文献3に開示された紙おむつは、吸収体中に荷重下での人工尿に対する吸水性に優れる吸水性ポリマーを含んでいる。しかしながら、吸収体に複数の溝が配置されてないので、速い吸収速度を達成することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64-45801号公報
【特許文献2】特開平11-216161号公報
【特許文献3】特開平11-60975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、長時間使用により繰り返し放出される液体(水性液体、または尿、経血もしくは汗などの体液等)に対して良好な吸収性能を有する、すなわち、高吸収量と高吸収速度とを両立し、繰り返しの排せつ液の吸収においても吸収速度が低下せず、高い吸収性能を発揮することができる吸収体および吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、パルプと吸水性ポリマーとを有する吸収体であり、該吸収体の厚みの20%以上100%以下の深さの凹部(以降、溝ともいう。)を有する吸収体であって、前記吸収体における[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比が1/3以上1/0.01以下であり、前記吸水性ポリマーは、吸水量が30g/g以上50g/g以下であり、2kPaの加圧下における液体の吸収量が20g/g以上40g/g以下である吸収体を提供する。
【0009】
また本発明は、肌当接面側を配置される液透過性の表面シートと、非肌当接面側を配置される液不透過性の裏面シートと、両シートに介在配置された吸収体とを備え、この吸収体に本発明の上記吸収体を用いた吸収性物品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸収体および吸収性物品は、荷重負荷下でも吸収性に優れた吸水性ポリマーを使用していることにより、吸収性ポリマーがつぶれることが防止され、吸収体に配された溝が塞がれることなく確保される。このため、高吸収量と高吸収速度とが両立し、繰り返しの排せつによる吸収においても吸収速度が低下しにくく、使用開始から使用末期に至るまで高い吸収性能を発揮するという優れた作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の吸収体の好ましい一実施形態を示した図面であり、(1)図は吸収体の概略を示した斜視図であり、(2)図は吸収体の詳細を示した模式的断面図である。
図2】吸水性ポリマーの偏在を説明する吸収体の平面図である。
図3】吸収体に排せつ液が供給された場合の吸収過程の一例を示した斜視図である。
図4】本発明の吸収性物品の好ましい一実施形態を示した展開平面図である。
図5】本発明の吸収性物品の別の好ましい一実施態様を示した概略構成断面図である。
図6】加圧下吸収量を測定する測定装置を示した概略構成断面図である。
図7】サンプルの吸収性物品の製造方法を示した製造工程図である。
図8】実施例および比較例における溝の位置を示した概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る吸収体の好ましい一実施形態について、図1を参照しながら、以下に説明する。
図1に示すように、本発明の吸収体10は、パルプ21と吸水性ポリマー22とを有し、[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比が1/3以上1/0.01以下であり、好ましくは1/2.5以上1/0.1以下であり、より好ましくは1/2以上1/0.5以下である。この吸収体10は、例えば、積繊して成形されるパルプ21間に吸水性ポリマー22が分散されているものである。または、積繊して成形されるパルプ21の層間に吸水性ポリマー22が分散されているものであってもよい。上記質量比が低すぎる場合にはパルプ量が少なすぎてパルプ21中に吸水性ポリマー22を保持することが困難となり、上記質量比が高すぎる場合には吸水性ポリマー22の量が少なくなりすぎるので液体の吸収量が不十分になる。よって、上記吸収量は上記範囲とした。
【0013】
また、吸水性ポリマー22の吸水量は、製品の液体の吸収性を考慮し、生理食塩水に換算して、30g/g以上50g/g以下、好ましくは30g/g以上45g/g以下、さらに好ましくは31g/g以上40g/g以下、特に好ましくは32g/g以上36g/g以下である。上記吸水性ポリマー22の吸水量が少なすぎる場合には、液体を十分に吸収することが困難となり、吸収体10の吸収容量が少なく液戻り量が多くなる。一方、吸水性ポリマー22の吸水量が多すぎる場合(言い換えると、吸水性ポリマー22の架橋が弱く、ゲル強度が低い場合)、一般的な吸収体では、吸収性ポリマーは吸水してゲル化してゲルブロッキングを引き起こすためにゲル間の通液性が悪くなり、吸収体の吸収性能は低下する。図1に示すように凹部(溝11)を有する吸収体10では、吸水性ポリマー22がある程度ゲルブロッキングを引き起こしても溝11(液の流路)が塞がれることなく通液性が確保される。しかし、程度を越えてゲルブロッキングが起きると吸収体10の吸収速度は遅く液戻り量が多く、吸収容量も少なくなる。よって、上記吸水性ポリマー22の吸水量は上記範囲とした。
【0014】
また、所定の加圧下における排せつ液(試験は模擬液として人工尿または生理食塩水)の吸収量は、2kPaの加圧下において、20g/g以上40g/g以下であり、好ましくは20g/g以上35g/g以下であり、より好ましくは21g/g以上30g/g以下、特に好ましくは22g/g以上28g/g以下である。なお、加圧値の2kPaは、乳児が吸収体10の着用時に吸収体10を加圧するときの平均的な圧力の一例である。
上記吸水性ポリマー22の加圧下での吸収量が少なくなるケースとして、一般に(1)ポリマーの架橋が非常に強くゲル強度が高すぎる場合と、(2)ポリマーの架橋が非常に弱くゲル強度が低すぎる場合がある。(1)の場合、加圧下では吸水性ポリマー自体は潰れ難いが、吸水性ポリマーの液体を吸収するという能力が不十分であるため、加圧下での吸収量が少なくなり、液体は吸収体10中に吸収されず広がって漏れることになる。(2)の場合、加圧下では吸水性ポリマーは潰れやすく、程度を越えてゲルブロッキングを引き起こすと、吸収体10の吸収速度は遅く液戻り量が多く、吸収容量が少なくなる。
加圧下での吸収量が多い吸水性ポリマーは、一般に(1)ポリマーの架橋が非常に強く、加圧下では吸水性ポリマー自体が潰れないが吸水量は少ない。もしくは、(2)ポリマーの架橋が弱く、吸水時に弾性を示さず、加圧下では吸水性ポリマー自体が潰れやすい、場合がある。(1)の場合、吸水性ポリマーの液体を吸収するという能力が不十分であるため、液体は吸収体10中に吸収されず漏れることになる。(2)の場合、加圧下で吸水性ポリマーが程度を越えてゲルブロッキングを引き起こすと、吸収体10の吸収速度は遅く液戻り量が多く、吸収容量が少なくなる。
加圧下における排せつ液の吸収量を上記範囲に設定された吸水性ポリマー22は、架橋が適度に強いので吸水性ポリマー22自体が潰れにくい。したがって、液体(例えば、尿)が排出された状況の下、着用者の荷重が吸収体10にかけられた加圧下において潰れることがないので、後述する溝11の内側に吸水性ポリマー22がはみ出し吸水性ポリマー22によって溝11が塞がれることが抑制され、溝11(液体の通り道)が確保される。よって、溝11における通液性が確保され維持されるので、溝内の通液が速くなる。すなわち、液体を素早く拡散させることができるので、拡散速度が速くなり、液体の吸収時間が短くなる。しかも、液戻りが起こりにくい。
さらに、着用者の行動,流通状況等によって、吸水性ポリマー22が吸収体10のどこかに偏在する場合がある(例えば、図2に示した吸収体10の場合、中央部の吸収体ブロック12に偏在:着用者の股間部周辺に相当。)。一般に、加圧下の吸水量が低い吸水性ポリマーは、一定荷重下でも、パッキング密度(偏在状態に相当)が高いと膨潤阻害を受け、吸水量が低下する傾向にある。しかし、凹部を有する吸収体10では、凹部(溝11)の空間によって、ある程度、膨潤阻害を緩和することができる。
よって、吸水性ポリマー22の2kPaの加圧下での吸収量の下限は上記範囲とした。
また、上記吸水性ポリマー22の加圧下での吸収量が多すぎる場合、吸水性ポリマー22は程度を越えて膨潤し、凹部(溝11)が埋没または閉塞し、繰り返しの排泄時に液体の通り道が確保されなくなる可能性があるため、2kPaの加圧下での吸収量の上限は上記範囲とした。
【0015】
上記吸収体10の厚みは0.5mm以上20mm以下である。好ましくは、1mm以上10mm以下であり、より好ましくは1.5mm以上5mm以下である。吸収体10の厚みが薄すぎると十分な吸収量を確保することが難しくなって長時間の着用が困難になり、厚すぎると吸収体の身体へのフィット感(身体適合性)が低下する。よって、吸収体10の厚みは上記範囲とした。
【0016】
上記吸収体10は、その一面側に溝11を有している。溝11は、例えば、吸収体10の長手方向(Y方向)に複数本の縦溝11Aを有し、長手方向と直交する幅方向(X方向)に複数本の横溝11Bを有する。この横溝11Bは、例えば、長手方向の1列ごとに長手方向の配置位置をずらして配置されている。これらの縦溝11Aおよび横溝11Bは繋がっており連続した溝となっている。なお、溝11の配置形態は種々の形態を採用することが可能であり、例えば、一部が斜め格子状に配置されていてもよいし、曲線状であってもよい。
【0017】
上記溝11の深さDは、吸収体10の厚みTの20%以上100%以下であり、好ましくは25%以上95%以下であり、より好ましくは30%以上90%以下、さらに好ましくは30%以上85%以下である。また図示はしていないが、その深さDが100%の場合には吸収体10は溝11によって複数の吸収体ブロックに分離される。図示のように深さDが100%未満の場合には溝11の側部に複数の吸収体ブロック12が分立され、その溝11の底部に吸収体10の一部が残される。この場合、複数の吸収体ブロック12同士は、溝11の底部に存する吸収体10Bによって繋がっている。溝11の深さが上記範囲より浅い場合、吸収体10に供給される液体の吸収が不十分となる。よって、溝11の深さは上記範囲とする。
【0018】
また、平面視した吸収体10の表面積(分立した各ブロック12の総表面積と溝11の総表面積の和)に対して平面視した溝11の開口部の総面積は、10%以上40%以下であり、好ましくは15%以上35%以下であり、より好ましくは20%以上30%以下である。溝11の総面積が10%よりも少なすぎると、溝11を通液できる液体の量が少なくなるので液体の拡散性が低下し、吸収体10の広い範囲に液体を広げることが難しくなる。一方、溝11の総面積が大きくなりすぎると、液体の拡散性は高まるが、液体を溜め置く吸収体10の体積が少なくなりすぎて、液体を十分に吸収しておくことが困難になる。また、液体の流路としての機能も低下する。
【0019】
上記溝11の幅は、1mm以上10mm以下であり、好ましくは2mm以上8.5mm以下であり、より好ましくは3mm以上7mm以下である。溝11の幅が広すぎると溝としての機能を有さなくなり、狭すぎると通液性が低下して溝11を通して液体を拡散させる範囲が狭くなり、また液体の吸収量が少なくなって吸収体表面に液戻りされることになる。
【0020】
また、溝11の底部に吸収体10がある場合、上記溝11の底部に吸収体10の密度は、溝11の底部以外の吸収体10の密度より低いことが好ましい。このように溝11底部の吸収体10の密度をそれ以外の吸収体10の密度より低くしたことから、溝11内に供給された液体は溝11内を広がりやすくなり、また溝11底部の吸収体10に吸収されやすくなる。なお、溝11底部の吸収体10の密度と溝11側壁部の吸収体10の密度とが同等の場合には、溝11内に供給された液体は溝11底部および側壁部から吸収体10内に吸収される。一方、溝11底部の吸収体10の密度をそれ以外の吸収体10の密度よりも高くすると、溝11に供給された液体は、溝11の側壁部から吸収体10中に吸収され、溝11を伝わって広く拡散されにくくなる。このため、液体の吸収量が低下する。よって、上記のような密度範囲とした。
【0021】
本発明の吸収体10は、溝11を縦横に複数配置したこと、および荷重下においても吸収性に優れた吸水性ポリマー22を使用したことにより、液体の高吸収量と高吸収速度とを両立し、繰り返しの排せつによる排せつ液の吸収においても吸収速度が低下しにくく、使用開始から使用末期に至るまで高い吸収性能を発揮するという優れた作用効果を奏する。
【0022】
例えば、上述した吸収体10に排せつ液が供給された場合の吸収過程の一例を概念図である図3によって説明する。
図3(1)に示すように、吸収体10に排せつ液(例えば尿)60が供給される。すると、図3(2)に示すように、排せつ液60は、吸収体10の溝11内に素早く流れ込み、溝11の流路が確保されているので、すばやく溝11を伝わって四方に広がっていく。このとき、溝11底部や側壁部の吸収体10にも拡散していく。なお吸収体ブロック12が溝11底部の吸収体10Bよりも高密度になっている場合には、主に溝11底部の吸収体10Bに拡散される。そして、図3(3)に示すように、排せつ液60が溝11を流路として広がり、かつ溝11底部の吸収体10Bに拡散されていき、やがて毛管力によって吸収体ブロック12に吸収され、排せつ液は吸収体ブロック12に溜められ固定化される。このようにして、吸収体10では、高吸収性能と高吸収速度が実現されている。
【0023】
また上述した吸水性ポリマー22を使用することにより、吸収体10の液吸収量が向上するので、従来品と同一吸収量とした場合、吸水性ポリマー22の使用量を低減し、吸収体10の薄膜化が可能になる。よって、本発明の吸収体10を用いた吸収性物品の薄型化および小型化等の利点もある。
さらに、吸収体10の一面側に縦横に溝11を有することから、吸収体10の変形に対する自由度が高められる。このため吸収体10の身体適合性が高まり、また吸収体10の端部まで通液が可能になるので、吸収体10の液吸収量を向上させることができる。
【0024】
以下、上記吸水性ポリマー22について詳細に説明する。
吸水性ポリマー22は、吸水性を有する重合体粒子であり、製造法は限定されない。その形状は、特に問わず、球状、塊状、ブドウ状、不定形状、多孔状、粉末状または繊維状であり得る。この吸水性ポリマー22の平均粒子径は、製品からの脱落、移動の抑制や使用感悪化(ざらつき感)の抑制のために、100μm以上1000μm以下であり、好ましくは150μm以上650μm以下であり、より好ましくは200μm以上500μm以下である。また、吸水性ポリマー22の吸水量および加圧下の吸収量は上述した通りである。
【0025】
一例として、上記吸水性ポリマー22は、以下のモノマーから選ばれる1種類以上を重合する。また、必要に応じて架橋する。重合方法は、特に限定されるものではなく、逆相懸濁重合法や水溶液重合法などの一般的に知られた吸水性ポリマーの種々の方法を採用することができる。その後、この重合体に対して必要に応じて粉砕、分級などの操作を行って、所望の平均粒子径に調整し、必要に応じて無機微粒子処理することにより得られる。
【0026】
吸水性ポリマー22を製造する際に用いられるモノマーは、水溶性で、重合性の不飽和基を有するモノマーである。具体的には、オレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩、オレフィン系不飽和カルボン酸エステル、オレフィン系不飽和スルホン酸またはその塩、オレフィン系不飽和リン酸またはその塩、オレフィン系不飽和リン酸エステル、オレフィン系不飽和アミン、オレフィン系不飽和アンモニウム塩、オレフィン系不飽和アミドなどの重合性不飽和基を有するビニルモノマーが例示される。
【0027】
オレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸などの不飽和カルボン酸、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0028】
オレフィン系不飽和カルボン酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
オレフィン系不飽和スルホン酸またはその塩としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸またはその塩等が挙げられる。
【0030】
オレフィン系不飽和リン酸またはその塩としては、(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシエチレンリン酸エステルまたはその塩等が挙げられる。
【0031】
オレフィン系不飽和アミンとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0032】
オレフィン系不飽和アンモニウム塩としては、上記オレフィン系不飽和アミンの4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0033】
オレフィン系不飽和アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体やビニルメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0034】
他のモノマーの具体例としては、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピロリジン、N−ビニルアセトアミドなどのノニオン性の親水基含有不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0035】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味し、(メタ)アクリロイルとはアクリロイルまたはメタクリロイルを意味する。
【0036】
これらモノマーの中では、オレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、それらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩がより好ましく、アクリル酸、アクリル酸アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アクリル酸アンモニウム塩がさらに好ましい。
【0037】
次に本発明に係る吸収性物品の好ましい一実施形態として、上述の吸収体10を適用した使い捨ておむつ(以下、おむつという)50について、図4を参照しながら、以下に説明する。なお、図4において、おむつ50の長手方向Yの中央部分の表面シート16を切欠している。
【0038】
図4に示すように、おむつ50は、全体として股下部に相当する長手方向Yの中央部がくびれた形状となっている。表面シート16および裏面シート17はそれぞれ、吸収体10の左右両側縁および前後両端部から外方に延出している。表面シート16は、その幅方向Xの寸法が、裏面シート17の幅方向Xの寸法より小さくなっている。
このおむつ50は、展開型のおむつであり、長手方向Yの一方の端部においては、その両側縁部に一対のファスニングテープFTが取り付けられている。また、他方の端部においては、裏面シート17上にランディングテープLTが取り付けられている。
表面シート16は、吸水性ポリマー22が十分に膨潤しやすくなる観点から、吸収体10の溝11と接合されていないことが好ましい。
【0039】
おむつ50は、吸収体10の幅方向Xの側縁部上方に立ち上がることができる立体ギャザーを備えている。すなわち、おむつ50における長手方向Yの両側のそれぞれには、ギャザー弾性部材56を有する立体ギャザー用のシート材(サイドシート)18が配されて、立体ギャザーが構成されている。また、おむつ50における長手方向Yの両側には、レッグギャザー用の左右一対の一本または複数本(本図面では2本)のレッグ弾性部材58、58が配されて、レッグギャザーが構成されている。レッグギャザー用のレッグ弾性部材58は、吸収体10の長手方向Yの両側縁それぞれの外方に延出するレッグフラップにおいて、伸長状態で略直線状に配されている。この場合、おむつ50における長手方向Yと吸収体10における長手方向Yは同一方向となっている。
【0040】
立体ギャザー用のシート材18は、その一側縁に、ギャザー弾性部材56が一本または複数本(本図面では2本ずつ)、伸長状態で固定されている。シート材18は、吸収体10の左右両側縁よりも幅方向Xの外方の位置において、おむつ50の長手方向Yに沿って表面シート16に接合されており、その接合部が、立体ギャザーの立ち上がり基端部となっている。シート材18は、立ち上がり基端部からおむつ50の幅方向Xの外方に延出し、その延出部において裏面シート17と接合されている。シート材18は、おむつ50の長手方向Yの前後端部において、表面シート16上に接合されている。
【0041】
立体ギャザー用のシート材18としては、液不透過性または撥水性で且つ透湿性のものが好ましく用いられる。シート材18としては、例えば、液不透過性または撥水性の多孔性樹脂フィルム、液不透過性または撥水性の不織布、もしくは該多孔性樹脂フィルムと該不織布との積層体等が挙げられる。該不織布としては、例えば、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布、スパンボンド−メルトブローン−メルトブローン−スパンボンド(SMMS)不織布等が挙げられる。シート材18の坪量は、好ましくは5g/m以上30g/m以下、さらに好ましくは10g/m以上20g/m以下である。
【0042】
表面シート16としては、この種のおむつにおいて従来用いられている各種のものを用いることができ、尿などの液体を透過させることができるものであれば制限はなく、液透過性であり肌への当りのソフトな材料からなることが好ましい。例えば、合成繊維または天然繊維からなる織布や不織布、多孔性シート等が挙げられる。その一例として、コットン等の天然繊維を材料とする不織布や、各種合成繊維に親水化処理を施したものを材料とする不織布を用いることができる。例えば、芯成分にポリプロピレンやポリエステル、鞘成分にポリエチレンを用いた、芯鞘構造型(サイドバイサイド型も含む)複合繊維をカーディングによりウエブ化した後、エアースルー法によって不織布(この後所定箇所に開孔処理を施しても良い)としたものが挙げられる。また、透液性の高さの点(ドライ感)から、低密度ポリエチレン等のポリオレフィンからなる開孔シートも好ましく用いることができる。
【0043】
裏面シート17としては、この種のおむつにおいて従来用いられている各種のものを用いることができ、液不透過性または撥水性で、かつ透湿性のものが好ましく用いられる。具体的に十分な水蒸気透過性を得るために、炭酸カルシウム等のフィラーからなる微粉を分散させたポリエチレン等の合成樹脂製のフィルムを延伸し、微細な孔をあけた多孔質フィルムを用いることが好ましい。例えば、上述した立体ギャザー形成用のシート材18として使用可能なものを用いることができる。また、裏面シート17の幅を吸収体10の幅と同程度にして該吸収体10の非肌当接面側に配置し、さらに、該裏面シート17の非肌当接面側に、不織布や不織布とフィルムとの積層体等を、おむつの外形を構成するシートとして配してもよい。
上記非肌当接面は、おむつ装着時に着衣側(装着者の肌側とは反対側)に向けられる面である。また、以下、肌当接面という語句を使用することがあるが、肌当接面は、おむつ装着時に装着者の肌側に向けられる面である。
【0044】
サイドシートとしては、不織布、フィルムシート、紙等が挙げられる。防漏性の観点からは、サイドシートを液不透過性または難透過性である疎水性不織布、防漏性のフィルムシート等により形成することが好ましい。上記シートは一枚でもよいし、さらに機能性のシート等と組み合わせて2枚以上のものとしてもよい。
【0045】
さらに、表面シート16、吸収体10、裏面シート17およびサイドシートの他にも用途や機能に合わせ適宜、部材が存在してもよい。
またさらに図5に示すように、上記表面シート16と上記吸収体10との間に中間シート19(台紙)が配置されていてもよい。
中間シート19としては、排泄された液の引き込みおよび拡散機能や保持機能を有するもの、液戻り量を軽減するもの、吸水性ポリマーの漏れを抑制するもの、吸収体の崩れを抑制するもの等が用いられる。
そのような性能を有するシートとしては、例えば親水性を有する繊維を含むか、もしくは親水性油剤等で処理した繊維を含む不織布やフィルム、または多孔質体等が挙げられる。中間シート用の繊維の例として、(1)針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ等の木材パルプや木綿パルプ、ワラパルプ等の非木材パルプ等の天然セルロース繊維、(2)レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、(3)ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の親水性合成繊維、(4)ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維を界面活性剤により親水化処理したもの等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
中間シート19としては、例えば、ティッシュペーパーなどの紙、織布、不織布、編布、パーチメント、パピルス、パルプ積繊体等を用いることができる。不織布としては、例えば、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、ニードルパンチ不織布、ステッチボンド不織布等が挙げられる。
これらのシートは単層の状態でもよく、あるいは複数層が積層されて1枚のシートとなっている多層構造のものでもよい。また、伸縮性を有するシート(例えば弾性樹脂を含む繊維を構成繊維として含む不織布(弾性不織布)や、弾性樹脂を含むフィルム(弾性フィルム)や、発泡などの手段によって構造中に3次元ネットワークを形成させた弾性樹脂からなる弾性多孔質体など)でもよい。
中間シート19の坪量は5g/m以上80g/m以下が好ましく、特に10g/m以上30g/m以下が好ましい。また、厚みは0.05mm以上5.0mm以下が好ましく、特に0.1mm以上3.0mm以下が好ましい。
中間シート19は、上記表面シート16と吸収体10の間のみに配されてもよいし、吸収体10と裏面シート17との間にも配されていてもよく、また、吸収体10を包むように配されていてもよい。
【0046】
本発明の吸収性物品としてのおむつ50は、吸収体10の作用により、高吸収量と高吸収速度とを両立し、吸収体10の基盤シート(図示せず)に伸縮性のシートを用いることにより、複雑に起伏する肌面に合わせて変形し、隙間なく面で当接する人体適合性と、着用者の身体の動きに合わせて変形し、その肌面と面で当接した状態を維持する動作追随性とを持ち合わせている。そしておむつ50は、通常の展開型のおむつと同様に使用できるという汎用性を有している。
【0047】
上記吸収性物品は、上記の実施形態に制限されるものではなく、別の実施形態として、この種の吸収性物品、例えば使い捨ておむつ、失禁パッド、失禁ライナ等に適用することができる。また、尿に限らずその他、経血、オリモノ、軟便等に対しても効果的である。また、表面シート16、吸収体10、裏面シート17およびサイドシートの他にも用途や機能に合わせ適宜部材を組み込んでもよい。なお、上記実施形態の表面シート16、吸収体10および裏面シート17の材料、製法における条件や、製品の寸法諸元は特に限定されず、通常に用いられている各種材料を用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
まず、吸水性ポリマーの平均粒子径の算出方法を以下に説明する。
平均粒子径の算出方法は、吸水性ポリマー100gをJIS Z−8801−1982準拠の篩(ふるい)を用いて分級し、各フラクションの質量分率より平均粒子径を求める。
【0050】
次に、吸水性ポリマーの吸水量の測定法を以下に説明する。
吸水量の測定は、室温(20±5℃)で、吸水性ポリマー1.00gを室温(20±5℃)の生理食塩水(0.9%NaCl水溶液、大塚製薬製)150mLで30分間膨潤させた後、250メッシュの不織布袋に入れ、遠心分離機にて143Gで10分間脱水し、脱水後の総質量(全体質量)を測定する。そして、次式(1)に従って、遠心脱水後の生理食塩水の保持量を測定し、この値を吸水量とする。
【0051】
【数1】

ここで、不織布袋液残り量=(遠心脱水後の不織布袋質量)−(不織布袋質量)である。
【0052】
次に、図6を参照して加圧下吸収量の測定法を実施する測定装置を説明する。
図6(1)に示すように、垂直に立てた円筒211(内径30mm)の下端開口部212にメッシュ213(250メッシュ)を貼ったカラム210を用意する。その中に吸水性ポリマー22(粒子)0.500gを均一な厚みになる様に入れる。次いで、外径30mmよりやや小さいおもり221(2.0kPaの圧力を加えられるおもり)を吸水性ポリマー22の上に載せる。
100mLビーカー230に、室温(20±5℃)の生理食塩水231(0.9質量%塩化ナトリウム水)100mLを注ぐ。そしてメッシュ213をビーカー230の底に着けない様にして、生理食塩水231中にカラム210を浸漬させ、この状態で1時間放置する。
その後、ビーカー130からカラム210を取り出し、図6(2)に示すように、吸水性ポリマー22上におもり221を載せた状態で15分間水切りする。この試験雰囲気の温度は室温(20±5℃)である。
そして、次式(2)に従って、加圧下吸収量を算出する。
【0053】
【数2】
【0054】
次に、吸水性ポリマーの合成例を以下に説明する。
合成例1として、吸水性ポリマーIの合成を以下のように行った。
合成例1では、まず、撹拌機、還流冷却管、モノマー滴下口、窒素ガス導入管、温度計を取り付けたSUS304製5L容反応容器(アンカー翼使用)に分散剤として花王(株)製ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(商品名エマール20C)0.11%[対アクリル酸質量]を仕込み、シクロヘキサン1600mLを加えた。窒素雰囲気下で撹拌し、内温77℃まで昇温した。
【0055】
一方、2L容三つ口フラスコ中に、東亞合成(株)製80%アクリル酸、イオン交換水を仕込み、氷冷しながら旭硝子(株)製48%苛性ソーダ水溶液を滴下し、モノマー水溶液としてのアクリル酸ナトリウム水溶液(72%中和品,濃度約48%)1054gを得た。このモノマー水溶液に、味の素(株)製N−アシル化グルタミン酸ソーダ(商品名アミソフトGS−11F)0.18gをイオン交換水3gに溶解させたものを添加し、暫く撹拌した後、264g(以下、モノマー水溶液A)、264g(以下、モノマー水溶液B)、528g(以下、モノマー水溶液C)に三分割した。
【0056】
次いで、和光純薬工業(株)製2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(商品名V−50)0.12g、花王(株)製ポリエチレングリコール(PEG6000)0.20g、イオン交換水14gを混合溶解し、開始剤(A)水溶液を調製した。また、和光純薬工業(株)製過硫酸ナトリウム0.49gをイオン交換水10gに溶解し、開始剤(B)水溶液を調製した。さらに、クエン酸チタン水溶液(50%クエン酸と硫酸チタニル水溶液を20/27の質量比で混合)を調製した。
モノマー水溶液Aに開始剤(A)水溶液7.2gを加えてモノマーAを調製し、モノマー水溶液Bに開始剤(A)水溶液7.2gとクエン酸チタン水溶液1.5gを加えてモノマーBを調製し、モノマー水溶液Cに開始剤(B)水溶液10.5gとクエン酸チタン水溶液3gを加えてモノマーCを調製した。
【0057】
前述の5L容反応容器のモノマー滴下口からマイクロチューブポンプを用いて、5分以上静置したモノマーA、モノマーB、モノマーCを順に約60分かけて滴下し重合した。モノマー滴下終了後、脱水管を用いて共沸脱水を行い、吸水性ポリマー(ハイドロゲル)の含水量を60%に調整し、架橋剤としてナガセ化成工業(株)製エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名デナコールEX−810)0.33gを水10gに溶解したものを添加した。その後、さらに共沸脱水を行い、冷却後、シクロヘキサンを除き、減圧乾燥させることにより吸水性ポリマーを得た。850ミクロンの目開きの篩で粗大粒子を除去した後、この重合体粒子100部に対し日本アエロジル(株)製アエロジル200の0.5部をドライブレンドすることにより吸水性ポリマーIを得た。
【0058】
合成例2として、吸水性ポリマーIIの合成を以下のように行った。
合成例2は、前述の合成例1において、架橋剤としてナガセ化成工業(株)製エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名デナコールEX−810)0.33gを0.18gに変更し、吸水性ポリマーを得た。この吸水性ポリマーに、花王(株)製第四級アンモニウム塩(商品名コータミン86W)1%(吸水性ポリマーの重質量に対して)を水希釈して添加し乾燥した。850ミクロンの目開きの篩で粗大粒子を除去した後、この重合体粒子100部に対し日本アエロジル(株)製、商品名アエロジル200の0.5部をドライブレンドすることにより吸水性ポリマーIIを得た。
【0059】
合成例3として、吸水性ポリマーIIIの合成を以下のように行った。
合成例3は、前述の合成例2において、架橋剤としてナガセ化成工業(株)製エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名デナコールEX−810)0.18gを0.25gに変更した以外は同様の操作を行い、吸水性ポリマーIIIを得た。
【0060】
合成例4として、吸水性ポリマーIVの合成を以下のように行った。
撹拌機,還流冷却管,モノマー滴下口,窒素ガス導入管,温度計を取り付けたSUS304製5L容反応容器(アンカー翼使用)に分散剤として日本油脂(株)製ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(商品名パーソフトEL)0.06%[対アクリル酸重質量]と日光ケミカルズ(株)製ステアロイルメチルタウリンナトリウム(商品名ニッコールSMT)0.04%[対アクリル酸質量]を仕込み、ヘプタン1600mLを加えた。窒素雰囲気下で撹拌し、内温88℃まで昇温した。
【0061】
一方、2L容三つ口フラスコ中に、東亞合成(株)製80%アクリル酸、イオン交換水を仕込み、氷冷しながら旭硝子(株)製48%苛性ソーダ水溶液を滴下し、モノマー水溶液としてのアクリル酸ナトリウム水溶液(72%中和品,濃度約48%)1054gを得た。このモノマー水溶液に、味の素(株)製N−アシル化グルタミン酸ソーダ(商品名アミソフトGS−11F)0.25gをイオン交換水3gに溶解させたものを添加し、暫く撹拌した後、264g(以下、モノマー水溶液D)、264g(以下、モノマー水溶液E)、528g(以下、モノマー水溶液F)に三分割した。
【0062】
次いで、和光純薬工業(株)製2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(商品名V−50)0.041g、花王(株)製ポリエチレングリコール(PEG6000)0.20g、イオン交換水9gを混合溶解し、開始剤(C)水溶液を調製した。また、和光純薬工業(株)製過硫酸ナトリウム0.49gをイオン交換水10gに溶解し、開始剤(D)水溶液を調製した。さらに、クエン酸チタン水溶液(50%クエン酸と硫酸チタニル水溶液を20/54の質量比で混合)を調製した。
モノマー水溶液Dに開始剤(C)水溶液2.3gを加えてモノマーAを調製し、モノマー水溶液Eに開始剤(C)水溶液6.9gとクエン酸チタン水溶液1.5gを加えてモノマーEを調製し、モノマー水溶液Fに開始剤(D)水溶液10.5gとクエン酸チタン水溶液3gを加えてモノマーFを調製した。
【0063】
前述の5L容反応容器のモノマー滴下口からマイクロチューブポンプを用いて、5分以上静置したモノマーD、モノマーE、モノマーFを順に約60分かけて滴下し重合した。重合終了後、脱水管を用いて共沸脱水を行い、吸水性ポリマー(ハイドロゲル)の含水量を60%に調整し、架橋剤としてナガセ化成工業(株)製エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名デナコールEX−810)0.12gを水10gに溶解したものを添加した。その後、更に共沸脱水を行い、冷却後、ヘプタンを除き、減圧乾燥させることにより吸水性ポリマーを得た。850μmの目開きの篩で粗大粒子を除去した後、この重合体粒子100部に対し日本アエロジル(株)製、商品名アエロジル200の0.5部をドライブレンドすることにより吸水性ポリマーIVを得た。
【0064】
上述の合成例1ないし4における吸水性ポリマーI,II,IIIおよびIVのそれぞれの平均粒子径、吸水量および2kPa加圧下の吸収量は、表1のようになった。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1として、以下のようにして図7に示す形状の吸収体を具備する吸収性物品を作製した。
図7(1)に示すように、吸水性ポリマー22として、合成例3で得た吸水性ポリマーIIIを用い、パルプシート21Sと吸水性ポリマー22との積層体23(坪量50g/mのパルプシート21Sの4層の各層間に吸水性ポリマー22を各層100g/mの坪量で3層散布)を作製した。この積層体23を、図7(2)に示すように、横幅h2=30mm、縦幅h1=50mmとなる様に切断して吸収体ブロック24を作製した。ホットメルト剤(図示せず)を塗布した坪量16g/mのティッシュペーパーを基盤シート13として用い、その基盤シート13上に上記カットした吸収体ブロック24を横隙間e=5mm、縦間隔d=5mmで、横3×縦7個で配列させ固定した。
次に、各吸収体ブロック24の上側(肌当接面側)に、ホットメルト剤を塗布した坪量16g/mのティッシュペーパー(図示せず)を載せて、マングルでプレス加工した。
[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比は、1/1.5であった。また、吸収体の厚みは3mmであった。
図示しないが、プレス加工して得た吸収体を表面シートと裏面シートの間に配置し、吸収性物品を得た。肌当接面である表面シートには、花王(株)製の商品名メリーズの表面材を用い、液不透過性の裏面シートには、花王(株)製の商品名メリーズのバックシートを用いた。
【0067】
実施例2,3,4および比較例
実施例2として、実施例1において、吸水性ポリマーIIIを合成例4で得た吸水性ポリマーIVに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、吸収性物品を得た。
【0068】
実施例3として、実施例1において、基盤シート13上に上記カットした吸収体ブロック24を横3×縦7個で配列させ固定した後、吸収体ブロック24間の溝(幅5mm)の部分の坪量が50g/mとなるように、その溝内を実施例1で使用した坪量50g/mのパルプシート21S(幅5mm)1枚を配して吸収体ブロック24間を繋ぎ、基盤シート13側にパルプシート1層分の厚さを有するパルプ連続層を配した。
次に、各吸収体ブロック24の上側(肌当接面側)に、ホットメルト剤を塗布した坪量16g/mのティッシュペーパー(図示せず)を載せて、マングルでプレス加工した。[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比は、1/1.4であった。また、吸収体の厚みは3mm、凹部の深さは1.5mm(50%)であった。
以下、実施例1と同様の操作を行い、吸収性物品を得た。プレス加工した吸収体を表面シートと裏面シートの間に配置する際、裏面シート側にパルプ連続層を配した。
【0069】
実施例4として、前述の実施例3において、プレス加工した吸収体を表面シートと裏面シートの間に配置する際、上下を逆転させて、表面シート側にパルプ連続層を配した。
【0070】
比較例1として、実施例1において、吸水性ポリマーIIIを合成例1で得た吸水性ポリマーIに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、吸収性物品を得た。
吸収体中の[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比は、1/1.5で、吸収体の厚みは3mmであった。
比較例2として、実施例1において、吸水性ポリマーIIIを合成例2で得た吸水性ポリマーIIに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、吸収性物品を得た。
吸収体中の[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比は、1/1.5で、吸収体の厚みは3mmであった。
比較例3として、実施例1において、作成したパルプと吸水性ポリマーとの積層体(坪量50g/mのパルプシート4層の間に吸水性ポリマーIIIを各層80g/mの坪量で3層散布)を横幅100mm、縦幅375mmとなる様にカットし吸収性物品を得た。なお、実施例1より吸収体の面積が広くなった分、吸水性ポリマーの坪量を下げ、吸水性ポリマーの使用量は実施例1と同量にした。
吸収体中の[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比は、1/1.2で、吸収体の厚みは3mmであった。
比較例4として、比較例1において、作成したパルプと吸水性ポリマーとの積層体(坪量50g/mのパルプシート4層の間に吸水性ポリマーIを各層90g/mの坪量で3層散布)を横幅100mm、縦幅375mmとなる様にカットし吸収性物品を得た。なお、比較例1よりも吸収体の面積が広くなっており、また吸水性ポリマーの坪量を下げ、吸水性ポリマーの使用量は実施例1の約1.13倍としている。
吸収体中の[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比は、1/1.4で、吸収体の厚みは3mmであった。
【0071】
次に、吸収性物品の吸収速度と液戻り量の測定法を説明する。一例として、乳幼児用紙おむつ(Mサイズ)の場合を説明する。
吸収性物品の長手方向において腹側端縁部から150mm、幅方向において中央部に内径35mmのアクリル製円筒を置き、吸収性物品全体に2.0kPaの荷重を加えながら、着色した人工尿40gを高さ10mmになるように液を維持しながら注入した。なお、円筒最下部には吸収性物品全体を覆う大きさのアクリル板が備えられている。この時、吸収に要した時間を測定した(吸収時間1)。吸収時間が短いのほど性能が良好であることを示している。吸収開始から10分後に、再度40gを注入、吸収時間を測定した(吸収時間2)。この操作をさらに2回繰り返し、計160gの生理食塩水を注入し、吸収時間を測定した(吸収時間3,4)。試験雰囲気の温度は室温(20±5℃)、人工尿の温度は室温(20±5℃)のものを使用した。
注入完了から10分後に、アドバンテック社製のろ紙No.4A(100mm×100mm,質量測定W1)を10枚重ねたものを、注入点を中心として吸収性物品上に置いた。
厚さ5mm、100mm×100mmのアクリル板を介して、3.5kPaの圧力を掛け、2分後にろ紙の質量を測定し(W2)、次式のようにして、液戻り量を算出した。
【0072】
液戻り量(g)=加圧後のろ紙の質量(W2)−最初のろ紙の質量(W1)
【0073】
測定した吸収速度および液戻り量を、下記評価基準により3段階評価した。
吸収時間が30秒未満の場合○、30秒以上60秒未満の場合を△、60秒以上の場合を×とした。また、液戻り量が1.0g未満の場合○、1.0g以上1.5g未満の場合を△、1.5g以上の場合を×とした。
【0074】
次に、吸収性物品の吸収量に関する評価方法を以下に説明する。
20度に傾けたアクリル板の上に作製した吸収性物品を載せ(腹側端縁部が下方側)、その上にアクリル板と錘をのせて吸収性物品全体に2.0kPaの荷重を加えた。この状態で、吸収性物品の上方側の端部から200mmの位置に着色した人工尿を一定量、一定間隔ごとに繰り返し注入し、吸収体の下方側の端部から漏れ出すまでの注入量を比較した。試験雰囲気の温度は室温(20±5℃)、人工尿は室温(20±5℃)のものを使用した。
比較例4の吸収容量を1.0とした時の相対値を以下の計算式を用いて算出した。
【0075】
吸収容量(相対値)=(サンプルの吸収容量)/(比較例4の吸収容量)
【0076】
人工尿の組成は表2の通りである。
【0077】
【表2】
【0078】
上記評価方法により、実施例1ないし4および比較例1ないし4を評価した。その結果を表3ないし表5に示す。なお、表3〜5中の「溝の位置」については、図8に吸収性物品50の概略構成断面図によって示した。図中に示した符号は前述した各構成部品の符号と同様である。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
上記表3ないし表5に示すように、実施例1ないし4では、いずれも1回目は液体の吸収時間が30秒未満であり、2回目から4回目の吸収でも吸収時間が60秒未満であった。一方、比較例においては、比較例1は、吸収時間に関しては実施例とほぼ同等の評価結果が得られたが、加圧下吸収量が低い吸水性ポリマーを用いた比較例2、および溝を有していない吸収体を用いた比較例3、4では2回目以降の吸収時間が60秒以上かかり、吸収時間が長くなった。この結果、実施例の液体の吸収性能が使用開始から繰り返し吸収末期まで高く維持されることがわかった。
【0083】
このように、本発明の吸収体10に用いる吸水性ポリマー22は、例えば、乳児の尿が1回あたり40cc程度であるとして、1回目の排せつ(排尿)、2回目、3回目、4回目の排せつであっても、吸水性ポリマー22が排せつ液(尿)を吸収しても膨潤しにくいので、1回目の排せつ時の溝11の状態を保持している。このため、吸水性ポリマー22によって溝11が閉塞されることはなく、溝11の通液性が確保される。その結果、排せつ液の吸収速度が速くなる。
【0084】
また、実施例1ないし4では液戻り量が1.5g未満であり、吸水量が少ない吸水性ポリマーを用いた比較例1、加圧下吸収量が低い吸水性ポリマーを用いた比較例2、および吸収体に溝を有さない比較例3では液戻り量が1.5g以上であった。この結果、各実施例の液戻り量が少ないことがわかった。
【0085】
このように、比較例2のように加圧下における吸収量が低い従来の吸水性ポリマーでは、1回目の排尿では溝11の通液が可能である。しかし、2回目以降の排尿では、1回目の排尿で膨潤した吸水性ポリマーに着用者の荷重がかかることによって、吸水性ポリマーがつぶされ、溝11内にはみ出して、最悪の場合、溝11を塞いでしまうため、溝11を通しての通液が困難になる。このため、2回目以降の排せつでは、溝11内を排せつ液が流れにくくなる、もしくは流れなくなるので、液の拡散が十分にできなくなり、液戻り量が多くなる。
一方、各実施例で用いた吸収体ポリマーでは2回目以降の排せつに対しても吸水性ポリマーが膨潤することがほとんどないので、溝11を塞ぐこともなく、吸収体全体に排せつ液を拡散させ、吸収させることができるので、液戻り量を1.5g未満にすることができる。
【0086】
さらに、実施例1ないし4の吸収容量は、吸水性ポリマーの使用量が実施例1よりも1.13倍多い比較例4に対して、いずれも1.0であり、比較例4と同等の吸収容量であることがわかった。すなわち、各実施例は十分な吸収容量を有することがわかった。
このように、各実施例が十分な吸収容量を有することから、各実施例においては、液戻り量が1.5g未満と少なくなっており、一方、比較例1では、吸収容量が0.8と低くなっているので、液戻り量が多くなる。また、比較例3では、実施例1と同じ吸水性ポリマーIIIを同量用いているが、溝を有していないため、吸収体としての吸収容量も0.8と低くなり、液戻り量が多くなる。
【0087】
以上説明したように、本発明の吸収体10およびその吸収体10を用いた吸収性物品50によれば、長時間使用により繰り返しの排せつ液の吸収において、高吸収量と高吸収速度とを両立し、液戻り量が少なく、高い吸収性能を発揮することができる。
【符号の説明】
【0088】
10 吸収体
11 溝
12 吸収体ブロック
16 表面シート
17 裏面シート
19 中間シート
21 パルプ
22 吸水性ポリマー
50 吸収性物品(おむつ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8