【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、金属酸化物のナノ構造物の製造条件について種々検討を重ねた結果、出発原料について、アルカリで溶出する両性元素と、ナノ構造物を構成するための金属元素及び任意でドーピング剤としての非金属元素とを含む合金に着目し、これにアルカリ処理をしたところ、室温などの極めて穏和な条件で金属酸化物のナノ構造物を得られることを見出した。このナノ構造物の形状等を電子顕微鏡等で確認したところ、得られたナノ構造物は非常に細いワイヤー形状を有し、中には複数のくびれを有するものもあった。また、高温での耐性が高く且つ高い比表面積を有するものであった。本発明はこのような興味深い知見に基づきなされたものである。
従って、本発明に係る金属酸化物ナノワイヤーの製造方法は、少なくとも1種の金属元素(M)と、少なくとも1種の両性金属元素(A)とを含み、任意でドーピング剤としての非金属元素(D)を含む合金を、アルカリ処理する工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に
関するナノワイヤーは、本発明に係る金属酸化物ナノワイヤーの製造方法によって得られる、金属酸化物及び/又はその塩からなることを特徴とする。本発明に
関するナノワイヤーは、複数のくびれを有し、当該くびれ部分の直径が2〜4nmであることが好ましい。本願明細書では、このような形状を有するナノワイヤーを「モーグル型ナノワイヤー」ということがある。
本発明に係るナノワイヤーは、
直径が2〜4nmで、BET比表面積が
600〜670m
2/gである酸化チタンナノワイヤー
、または、セリアジルコニア固溶体から成り、直径2〜4nmで、600℃〜800℃の何れかの温度での焼成後のBET比表面積が85〜171m2/gであることを特徴とする。また、本発明に関するナノワイヤーは、BET比表面積が200〜400m
2/gである、酸化チタン塩ナノワイヤー、400℃〜800℃の何れかの温度での焼成後BET比表面積が80〜300m
2/gである酸化セリウムのナノワイヤ
ーであってもよい。
【0017】
本発明に係る金属酸化物ナノワイヤーの製造方法によれば、非常に穏和な条件で金属酸化物のナノワイヤーを製造することができ、典型的には室温、常圧の条件で製造することができる。
また、得られる金属酸化物は、ナノワイヤー形状を有することから、耐久性、機械的強度、導電性及び耐熱性に優れ、例えば500℃を超える高温下でもワイヤー形状を維持し、温度上昇に伴う比表面積の減少が緩やかであるといった特性を有する。また、ナノチューブとの比較では、触媒担体として利用する際に担持面が総て外を向いていることから、触媒利用効率を高める面で利点を有する。
加えて、得られる金属酸化物のナノワイヤーは、非常に細く、中には従来のナノワイヤーでは見られなかったくびれを有するものがあり、従来のナノワイヤーでは達成できなかった高い比表面積を有する。その値は、従来のナノチューブに匹敵又はこれを超えるものであり、これらと同レベル以上の高い触媒活性、吸着能等の特性を期待することができる。
【0018】
本明細書において「ナノワイヤー」とは、3つの次元のうち、2つの次元のサイズがあまり違わず、かつナノスケール(およそ1nmから100nmまでの大きさの範囲)であり、残る1つの次元のサイズがそれらより著しく大きいナノ物質を意味する。また、本明細書において「両性元素」とは、少なくともアルカリ(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)に溶解する元素を意味する。また、本明細書において「ナノワイヤーを構成する金属元素」とは、アルカリ処理の際に、アルカリによって溶出せずにナノワイヤー形状の金属酸化物を形成する金属元素を意味する。また、本明細書において「非金属元素」とは、ナノワイヤーを構成する金属酸化物の特性を変化させるためのドーピング剤として含有される金属以外の微量成分を意味する。
本明細書において「ナノワイヤーの直径」とは、例えばくびれなどを有しナノワイヤーの位置によって値が異なる場合には、小さな値となる部分の直径を意味するものとする。
【0019】
本発明の製造方法で用いる合金は、アルカリ処理で溶出する両性元素とアルカリ処理後に金属酸化物を構成する所望の金属元素とを含むものであればよく、適宜目的とするナノワイヤーに応じて種々の組成の合金を選択することができる。
【0020】
両性元素としては、例えば、Al、Zn、Sn、Pb、Ga、及びHgを挙げることができ、これらの元素の1種又は2種以上を含むことができる。価格が比較的安く、アルカリと速やかに反応し、融点及び沸点が扱い易く合金化が容易である点からは、アルミニウムが好ましい。
【0021】
ナノワイヤーを構成する金属元素としては、例えば、Ti、Ce、Zr、Pd、La、Fe、Co、V、Mn、Ag、Pt、Y、Mo、Cr、Cu、Ni、Nb、Ru、Rh、Ta、In、Au、Hf、Ir、Ge、Bi、及びWを挙げることができ、これらの元素の1種又は2種以上を含むことができる。これら金属元素は、形成するナノワイヤーに応じて適宜選択すればよく、求める特性に応じて2種以上の元素を適宜組合せることができる。例えば、Ti又はCeと共にZrを含む合金を利用して、高温(例えば600℃を超える温度)に対する耐性が増大したナノワイヤーを得ることができる。また、Ti又はCeと共にNb及び/又はTaを含む合金を利用して、導電性が向上したナノワイヤーを得ることができる。また、Ti又はCeと共にCo及び/又はCuを含む合金を利用して可視光吸収を持ち、可視光応答性の光触媒への応用が期待し得るナノワイヤーを得ることができる。また、酸化タングステンは触媒として有用であり、酸化セリウムは担体として有用であるので、Ceと共にWを含む合金を利用してCeO
2−WO
3複合体を形成し、浄化触媒や液相反応触媒へ応用できる。
【0022】
本発明においては、合金を用いてナノワイヤーを製造することから、上述した両性金属及びナノワイヤーを構成する金属元素と共に、N、Si、B、As、S、Sb、及びP等の非金属元素をドーピング剤として微量含む合金を利用してナノワイヤーを容易に製造することができ、従来の水熱法では困難であった各種特性(耐熱性、比表面積、導電性、可視光吸収能等)をナノワイヤーに付与し得る。例えば、Ti又はCeなどの金属元素にSiをドーピングした合金を利用して、より比表面積が大きなナノワイヤーを得ることができる。また、Ti又はCeなどの金属元素にNやPをドーピングした合金を利用して、可視光を吸収可能なナノワイヤーを得ることができ、光触媒としての利用が期待できる。また、Ti又はCeなどの金属元素にBをドーピングした合金を利用して、電気伝導性が大きなナノワイヤーを得ることができる。
【0023】
本発明において、金属元素(M)と両性元素(A)との原子数比(M:A)は、所望の直径及び比表面積を有するワイヤー形状とするために目的とするナノワイヤーに応じて調整することが好ましく、細く比表面積の大きなナノワイヤーを形成する点からは、これらの原子数比(M:A)を50:50〜2:98とすることが好ましく、25:75〜2:98とすることがより好ましく、20:80〜3:97とすることが更に好ましく、10:90〜5:95とすることが特に好ましい。
また、複数の金属元素を組合せる場合には、目的とする特性が得られるように適宜組合せる金属元素の原子数比を調整することが好ましい。例えば、Ti、Ceなどのナノワイヤーを構成する主たる(原子数比で総金属元素の50%を超える量含有する)金属元素(M1)にZr(M2)を組合せる場合には、典型的には原子数比(M1:M2)を30:1〜3:1程度とすることが好ましく、1:20〜1:5程度とすることがより好ましい。また、Ti、Ceなどのナノワイヤーを構成する主たる金属元素(M1)にTa、Nb、Co、Cu等の他の金属元素を組合せる場合には、典型的には原子数比(M1:M2)を100:1〜10:1程度にすることが好ましく、50:1〜5:1程度にすることがより好ましい。
【0024】
非金属元素(D)は、上述の通り、ドーピング剤として、ナノワイヤーを構成する金属元素に対して任意で微量含有されるものである。非金属元素の量も、目的の特性が得られるように、ナノワイヤーを構成する金属元素の種類及び非金属元素の種類に応じて変わり得るが、金属元素(M)と、非金属元素(D)との原子数比(M:D)を100:0〜50:50とすることが好ましく、100:0〜75:25程度とすることがより好ましく、100:0〜95:5程度とすることが更に好ましい。
また、金属元素(M)及び非金属元素(D)と、両性金属元素(A)との原子数比(M+D:A)を、90:10〜1:99とすることが好ましい。
【0025】
本発明の方法で用いられる合金の例としては、例えばTi
aAl
d(式中、a:dは、好ましくは25〜1:75〜99であり、より好ましくは10〜2:90〜98である)、Ti
aN
cAl
d(式中、a:c:dは、好ましくは25〜1:2〜5:70〜97であり、より好ましくは10〜2:1〜2:88〜96である)、Ti
aZr
bAl
d(式中、a:b:dは、好ましくは25〜1:1〜25:50〜98であり、より好ましくは10〜2:10〜2:80〜96である)、Ti
aSi
bAl
d(式中、a:b:dは、好ましくは25〜1:1〜5:70〜98であり、より好ましくは10〜2:1〜2:88〜96である)Ti
aNb
bAl
d(式中、a:b:dは、好ましくは25〜1:2〜5:73〜94であり、より好ましくは10〜2:1〜2:88〜96である)、Ti
aB
bAl
d(式中、a:b:dは、好ましくは25〜1:1〜5:70〜98であり、より好ましくは10〜2:1〜2:88〜96である)、Ce
aAl
d(式中、a:dは、好ましくは25〜1:75〜99であり、より好ましくは10〜2:90〜98である)、Ce
aSi
cAl
d(式中、a:c:dは、好ましくは25〜1:2〜5:70〜97であり、より好ましくは10〜2:1〜2:88〜96である)、Ce
aZr
bAl
d(式中、a:b:dは、好ましくは25〜1:1〜25:50〜98であり、より好ましくは10〜2:10〜2:80〜96である)、W
aAl
d(式中、a:dは、好ましくは25〜1:75〜99であり、より好ましくは10〜2:90〜98である)、W
aZr
bAl
d(式中、a:b:dは、25〜1:1〜25:50〜98であり、より好ましくは10〜2:10〜2:80〜96である)を挙げることができる。
【0026】
なお、合金を調製するための各物質は、如何なる原料又は方法で得られたものでもよい。
【0027】
合金は、市販されているものを用いてもよく、既知の方法を利用して製造してもよい。製造方法としては、例えば、単純に2種類以上の金属及び任意でドーピング物質を溶かして混ぜ合わせる方法や、2種類以上の金属等の原料粉末を混合して融点以下で加熱する焼結法、共沈法等の化学的手法による方法、ボールミル装置を使用して機械的に混合する機械的方法等を挙げることができる。
【0028】
また、溶融物を固化する際には、急冷により固化することが好ましい。急冷固化によれば微結晶が得られ易いためアルカリ処理での両性金属の溶出が速やかに進み、高比表面積のワイヤーが得られ易い。特にTiを含有する合金(典型的には、合金全体に対するTiの原子百分率が94以上である合金)では微結晶が得られ易く有効である。
急冷方法については特に制限はなく、例えば、メルトスピニング法、回転電極法(REP法)、アトマイズ法(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法、プラズマアトマイズ法を含む)等を挙げることができる。
【0029】
また、アルカリ物質との接触面積が大きな程アルカリ処理による両性金属の溶出がより短時間で進行し、形成されるナノワイヤーの比表面積が増大することから、合金は、リボン状、微粒子状といった比表面積の大きな形状とすることが好ましい。リボン状の合金は、厚さ約1μm〜1mmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。同様に、微粒子状合金は、直径約0.01〜100μmであることが好ましく、約1〜50μmであることがより好ましい。合金のリボン化は、例えば、メルトスピニング法により行うことができ、微粉化は、例えば、ミリングやアトマイズ法により行うことができる。
【0030】
メルトスピニング法は、アルゴンや窒素等の不活性雰囲気下で金属を溶解し、金属などからなるローラーに噴射することで瞬間冷却を行い、金属のリボンを得る手法である。具体的には石英管等の容器に母合金を入れ、例えば、アルゴン雰囲気下で誘導加熱して、溶解温度(例えば、1000℃程度)まで昇温して溶解する。溶解した金属を、好ましくは高速(例えば、約500rpm〜約2200rpm)で回転する銅などの金属材料からなるローラー(ローラー温度は通常100℃以下とする)に噴射することで急冷化し、リボン状の合金を作成する。
【0031】
本発明においては、上述した合金を、アルカリ処理して、金属酸化物ナノワイヤーを形成する。本発明の合金では、両性金属元素を含んでいるため、アルカリ処理により両性物質が溶出し、それと同時に金属原子が、酸素原子と結合して酸化物を形成し、これらの反応の際にワイヤー状の形態に至る。
なお、現段階では、ワイヤー形状に至る機構は明らかではないが、後述する通り、形成されるナノワイヤーの構造は、水熱法で形成される物とは異なることから、ワイヤー形状に至る機構も異なることが想定される。
【0032】
アルカリ処理は、種々の様式で行うことができるが、通常は、アルカリ物質をイオン交換水、蒸留水、メタノール、エタノール、又はこれらの2種以上の混合物等の溶媒に溶解したアルカリ溶液に合金を浸漬したり、合金を水に分散した分散液をこれら溶媒の何れかに添加混合したりして行う。溶媒としては、イオン交換水又は蒸留水が好ましい。アルカリ物質としては、両性物質を溶出可能なものであれば足り、例えば、RbOH、CsOH、Ca(OH)
2、Sr(OH)
2、NaHCO
3、K
2CO
3、KHCO
3、NH
3、NaOH、KOH、LiOH、Ba(OH)
2、Na
2CO
3及びNaOCl等が挙げられるが、NaOH、KOH、LiOH、Ba(OH)
2、Na
2CO
3及びNaOCl等のアルカリ金属水酸化物がアルカリ金属の溶解性に優れ比表面積の大きなナノワイヤーが得られ易い点で好ましく、NaOH又はKOHが特に好ましい。
【0033】
アルカリ溶液を用いる場合、アルカリ物質の濃度は、比較的低濃度でもよく、例えば0.01M以上の濃度でも可能であるが、0.1M以上にすることが好ましく、1.0M以上がより好ましい。
また、アルカリ物質の合金に対する量は、モル比(アルカリ:合金)で3:1以上であればよいが、5:1〜20:1が好ましく、より好ましくは8:1〜15:1である。
【0034】
本発明においては、アルカリ処理の温度について特に制限はなく、種々の温度を選択することができる。もっとも、水熱法と違って高温での反応を要さず比較的低温でアルカリ処理を行うことができるのみならず、比表面積の大きなナノワイヤーを形成できると共にナノチューブの併産を回避する点からは、0度以上100度未満の温度で行うことが好ましく、5〜50℃の温度で行うことがより好ましく、10〜40℃の温度で行うことが更に好ましく、室温が特に好ましい。
【0035】
アルカリ処理は、加圧下で行ってもよいが、本発明においては特段そのような条件で行う必要はなく、常圧で行うことができる。
また、本反応ではアルカリとアルミニウムとの反応で水素ガスが発生するため、発生した水素を反応系から分離して回収することが好ましい。
【0036】
アルカリ処理の時間についても特に制限はなく、通常は、1時間〜3日程度アルカリ処理を行えばよい。もっとも、合金材料の構造等に応じて変えることが好ましく、例えば、大きめの粒子(200〜400μm程度)では12時間、好ましくは24時間以上のアルカリ処理を行うことが好ましい。一方、メルトスピニング法などで急速冷却を行って固化した合金の場合には、粒径が小さいため3時間以下の時間でアルカリ処理を行うことができる。
【0037】
本発明の製造方法においては、上記のアルカリ処理によって、ナノワイヤーが形成されるが、アルカリ処理にアルカリ金属溶液を用いる場合には、アルカリ処理後にNa、K、Li等のアルカリ金属が残存し、塩を形成する。このような塩は、後述するイオン吸着剤としての用途には好適である。一方、アルカリ金属を除去すると、より高い比表面積のナノワイヤーが得られやすいために、生産物を洗浄してアルカリ金属を除去してもよい。従って、ナノワイヤーを形成した後の洗浄は、その用途に応じて、種々選択することができる。例えば、洗浄は、蒸留水や酸性溶液で行うことができ、酸及びアルカリ金属を除去する場合には、例えば、蒸留水で洗浄後、酸性溶液で洗浄し、その後水洗するプロセスを実施すればよい。
酸性溶液としては、アルカリ金属イオンとプロトンを交換できるプロトン酸の溶液が好ましく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、シュウ酸等の一般的な無機酸又は有機酸の水溶液が挙げられ、塩酸、硝酸、酢酸、シュウ酸等がより好ましい。これらの酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0038】
洗浄方法は、生成物を浸漬する方法の他、洗浄液を噴霧したり、洗浄液の流れを利用するものでもよい。
特殊なケースでは、K等のアルカリ金属を意図的に若干残存させて耐熱性を向上させることがあるので、このような場合には、洗浄の程度を調整したり、洗浄工程を省略したりすることもできる。
【0039】
洗浄後は、乾燥して水分を除くことが好ましく、例えば、アセトン、アルコール等の水溶性揮発性物質で水を置換した後、放置、フリーズドライ法、真空乾燥、加熱乾燥など種々の方法で乾燥すればよい。
【0040】
上述した本発明の方法によって、ナノワイヤー形状の金属酸化物が得られ、例えば、Ti、Ce、Zr、Pd、La、Fe、Co、V、Mn、Ag、Pt、Y、Mo、Cr、Cu、Ni、Nb、Ru、Rh、Ta、In、Au、Hf、Ir、Ge、Bi、及びWからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又はその塩と、任意でN、Si、B、As、S、Sb、及びPからなる群から選択される少なくとも1種のドーピング物質とを含有するナノワイヤーを提供することができる。金属酸化物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、セシウム塩、ストロンチウム塩、アンモニウム塩、次亜塩素酸塩等を挙げることができる。
ナノワイヤーを構成する金属元素は、目的とする用途、特性に応じて種々の組成とすることができ、複数の金属元素を組合せることで多様な特性を付与することができる。例えば、Ti、Ceなどのナノワイヤーを構成する主たる(原子数比で総金属元素の50%を超える量含有する)金属元素と共にZrを含有する金属酸化物では高温(例えば600℃を超える温度)での耐性の大きなナノワイヤーとすることができる。また、Ti又はCeなどの主たる金属元素と共にNb及び/又はTaを含有する金属酸化物では導電性が向上したナノワイヤーとすることができる。また、Ti又はCeなどの金属元素と共にCo及び/又はCuを含有する金属酸化物では可視光吸収を持ち、可視光応答性の光触媒への応用が期待し得るナノワイヤーとすることができる。また、酸化タングステンは触媒として有用であり酸化セリウムは担体として有用であるので、これらを組合せたCeO
2−WO
3複合体は浄化触媒や液相反応触媒へ応用できる。
Ti、Ceなどのナノワイヤーを構成する主たる金属元素(M1)と共にZr(M2)を含有する金属酸化物では、典型的には原子数比(M1:M2)を30:1〜3:1程度であることが好ましく、1:20〜1:5程度であることがより好ましい。また、Ti、Ceなどのナノワイヤーを構成する主たる金属元素(M1)と共にTa:Nb、Co、Cu、W等の他の金属元素を組合せる場合には、典型的には原子数比(M1:M2)を100:1〜10:1程度にすることが好ましく、50:1〜5:1程度にすることがより好ましい。
【0041】
非金属元素(D)も、金属酸化物の特性を変化させるためのドーピング剤として、任意で微量含有されるものである。非金属元素の種類も、目的とする特性に応じて選択され、例えば、可視光域での吸収を付与するためにNやPがドーピングされ、比表面性の大きなナノワイヤーを得るためにSiがドーピングされる。
非金属元素の量も、目的の特性が得られるように、ナノワイヤーを構成する金属元素の種類及び非金属元素の種類に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、NでTi、Ce等の金属元素をドーピングする場合には、金属元素(M)と、非金属元素(D)との原子数比(M:D)が99:1〜75:25程度であることが好ましく、99:1〜95:5程度であることがより好ましい。また、Siでチタンやセリウム等の金属元素をドーピングする場合にも、金属元素(M)と、非金属元素(D)との原子数比(M:D)が99:1〜75:25程度であることが好ましく、99:1〜95:5程度であることがより好ましい。また、Pでチタンやジルコニウム等の金属元素をドーピングする場合にも、同様に金属元素(M)と、非金属元素(D)との原子数比(M:D)がを99:1〜75:5程度であることが好ましく、99:1〜95:5程度であることがより好ましい。
【0042】
なお、本発明の製造方法では、室温での酸化反応により金属酸化物を得ることから酸素欠損が生じ易いため、可視光吸収能を有するナノワイヤーが得られることがある。
【0043】
本発明の方法で得られるナノワイヤーは、非常に細く、構成する金属酸化物の種類によって異なるが、複数の括れを有するものがあり、概して比表面積が大きいという特徴を有する。
【0044】
具体的な一例では、本発明に係るナノワイヤーは、括れを有し、括れ部分の直径が2〜4nmであり、多くは2〜3nmである。また、括れは、ほぼ等間隔で形成されており、ほぼ3〜5nm毎に1個のくびれを有する。他の一例では、本発明に係るナノワイヤーは、括れを有しないが、それでも直径は、2〜4nmであり、多くは2〜3nmである。本発明者の検討したところによると、酸化チタンナノワイヤーに括れを有するものが多く、その他のナノワイヤーでは括れを有するものが少ない。
各ナノワイヤーの両端を電子顕微鏡で確認することが困難であったため、正確に把握できていないが、酸化チタンのナノワイヤーではアスペクト比(長さ/直径)は、60以上であり、酸化セリウムのではアスペクト比(長さ/直径)は、30以上である。
【0045】
比表面積については、製造条件を最適化することで、従来の金属酸化物ナノワイヤーでは達成できない比表面積を有する。例えば、本発明に係る酸化チタンナノワイヤーで
は、650m
2/g程度(600〜670m
2/g又は610〜660m
2/g)のBET比表面積を有することできる。また、本発明に
関する酸化チタン塩ナノワイヤーでは、200〜400m
2/gのBET比表面積を有することができ、特に好ましくは、380m
2/g程度(350〜395m
2/g又は360〜390m
2/g)のBET比表面積を有することできる。
また、本発明に
関する酸化セリウムナノワイヤーでは、200〜260m
2/gのBET比表面積を有することができ、特に好ましくは、240m
2/g程度(230〜250m
2/g又は235〜245m
2/g)のBET比表面積を有することできる。また、本発明に係る酸化セリウムジルコニアの場合では、150〜200m
2/gのBET比表面積を有するナノワイヤーを得ることができ、特に好ましい条件で製造することでBET比表面積が180m
2/g程度(170〜190m
2/g)のナノワイヤーを得ることできる。
【0046】
アルカリ処理後の段階で得られるナノワイヤーは、例えば酸化チタンではアモルファス構造を含み、酸化セリウムの場合は蛍石型の結晶構造を主体とし、セリアジルコニア固溶体でも蛍石型の結晶構造を主体とする。また、100℃以下でアルカリ処理した場合では、酸素欠損を比較的多く含み、可視光吸収能を有するナノワイヤーが得られることがある。もっとも、本発明の方法で得られるナノワイヤーは、アルカリ処理後又は更に洗浄処理後に、更に加熱処理、典型的には焼成処理に供してもよく、加熱処理により結晶性が向上して触媒活性が向上し、酸素欠損も減少する。
【0047】
加熱処理は、例えば、空気雰囲気中で行い、3℃/分程度(例えば1〜5℃/分)の速度で50℃以上、典型的には150℃以上の所定の温度まで上昇させ、2時間程度(約1〜3時間)所望の温度とした後に自然冷却して行うことができる。ナノワイヤーを構成する材料によって異なるが、例えば50℃〜2000℃の範囲から任意の1又は複数の温度まで昇温して処理を行うことができる。また、ナノワイヤーを構成する材料の結晶構造を考慮して温度を選択してもよい。例えば、酸化チタンでは、400℃〜600℃でほぼ均一のアナターゼ型の結晶構造となり、800℃以上でほぼ均一のルチル型の結晶構造となるため、所望の結晶構造に変換される温度を選択することができる。
また、例えば酸化セリウム又はセリアジルコニア固溶体では、焼成後も蛍石型の結晶構造を主体とするが、400〜800℃で焼成することで結晶性を向上させることができる。
【0048】
本発明の方法で得られるナノワイヤーは、焼成前において非常に大きな比表面積を持ち、且つ中実のワイヤー構造であるため、従来の金属酸化物ナノチューブ、ナノワイヤーといったナノ構造物と比べて、焼結後の比表面積が比較的大きいという特性を有する。例えば、本発明の方法で得られた酸化チタンナノワイヤーでは、400℃で2時間程度焼成した後において(アナターゼ型結晶構造を含む)、直径が5nm程度(観察した範囲では3〜6nm)、BET比表面積は200〜300m
2/g、典型的には220m
2/g〜250m
2/gであり、非特許文献9で得られた酸化チタンナノチューブに比べて、比表面積が大きい。
また、例えば、本発明の方法で得られた酸化セリウムのナノワイヤーでは、400℃〜800℃の何れかの温度で2時間程度焼成した後において(蛍石型結晶構造)、BET比表面積は80〜300m
2/g、典型的には85〜210m
2/gであり、本発明の方法で得られたセリアジルコニア固溶体ナノワイヤーでは、400℃〜800℃の何れかの温度で2時間程度焼成した後において(蛍石型結晶構造)、BET比表面積は80〜300m
2/g、典型的には82〜175m
2/g程度である。これらナノワイヤーは、非特許文献5に記載する方法で得られたナノチューブに比べて、600℃を超える温度でのBET比表面積が大きい。
【0049】
本発明の方法で得られるナノワイヤーは、その特性を生かし、金属酸化物の種類に応じて、色素増感太陽光電池、光触媒、浄化触媒、化学合成用触媒、触媒担体、蛍光体、固形酸化燃料電池、除湿剤、吸着剤(脱臭剤)、酸素吸蔵材等に用いることができる。
【0050】
例えば、色素増感太陽光電池では、本発明の方法で得られるナノワイヤーを含む薄膜を電極として利用することができ、このような色素増感太陽光電池は、本発明の方法で得られる酸化チタン等からなるナノワイヤーを含む組成物を基板上に塗布、乾燥して当該ナノワイヤーを含む薄膜を形成し、この薄膜を負極として用い、これに色素を担持させ、更に対抗電極を設け、両電極間に電解液が満たして作製することができる。
【0051】
また、光触媒としても本発明の方法で得られるナノワイヤーを含む薄膜を利用することができる。例えば、本発明の方法で得られる酸化チタン等からなるナノワイヤーを含む組成物を対象物に塗布、乾燥して当該ナノワイヤーを含む薄膜を形成することで対象物に光触媒活性を付与することができる。光触媒としての利用態様は種々あり、例えば、抗菌剤、防カビ剤、消臭剤、鏡やガラスのコーティング剤、セルフクリーニング用外壁塗装剤としての利用がある。
【0052】
触媒の担体としては、白金、ニッケル、銀、ロジウム、パラジウム、金等の触媒を担持する担体を挙げることができる。例えば、酸化チタン、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化コバルト、及び酸化ニオブからなる群から選択される金属酸化物で構成される、本発明の方法で得られたナノワイヤーの分散液と、触媒金属の分散液とを、所定の温度で加熱混合し、分散媒を除去しての触媒を担持させることができる。
【0053】
蛍光体としては、例えば本発明の方法で得られる酸化セリウムのナノワイヤーを利用することができる。例えば、このようなナノワイヤーを含む組成物を対象物に塗布、乾燥して当該ナノワイヤーを含む薄膜を形成することで紫外線発光蛍光特性を対象物に付与することができる。
【0054】
吸着剤としては、例えば、本発明によるナノワイヤーを、ストロンチウム、バリウム、セシウム、ラジウム並びにこれらの放射性同位体(イオン)を除去するために利用することができる。従って、本発明によれば、本発明によるナノワイヤーを充填した吸着カラム若しくはペレット、又はこれらを備える上記物質を除去するための装置を提供することができる。また、本発明によれば、本発明によるナノワイヤーを処理対象の水溶液と接触させる工程を含む、上記物質を除去する方法を提供することができる。
吸着剤としては、酸化チタン、又はそのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、セシウム塩、ストロンチウム塩、アンモニウム塩、次亜塩素酸塩等の酸化チタン塩からなるナノワイヤーを含むことが好ましく、酸化チタンナトリウム、又は酸化チタンカリウムからなるナノワイヤーが特に好ましい。吸着処理は、除去対象の物質を含む水溶液とナノワイヤーを接触させれば足りる。溶液の条件についても特に制限は無く、例えば溶液pHは極端な酸性条件以外であれば適用可能である。
【0055】
酸素吸蔵材としては、例えば、本発明に係る金属酸化物ナノワイヤーの製造方法により製造された、酸化セリウムから成るナノワイヤーを利用することができる。