特許第6515433号(P6515433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6515433
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】汚水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/10 20060101AFI20190513BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C02F3/10 A
   C02F3/34 101D
   C02F3/34 101B
   C02F3/34 101C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-178142(P2018-178142)
(22)【出願日】2018年9月21日
【審査請求日】2018年9月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518185026
【氏名又は名称】松本工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 秀治
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−062225(JP,A)
【文献】 特開2016−077954(JP,A)
【文献】 特開2000−170227(JP,A)
【文献】 特開2009−172469(JP,A)
【文献】 特開2007−160210(JP,A)
【文献】 特開2000−093997(JP,A)
【文献】 特開2003−190982(JP,A)
【文献】 特開平10−131258(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2001−0095849(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0209988(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00− 3/34
E03D 1/00− 7/00
E03D 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水の導入部、前記導入部より導入された汚水を処理する処理部、前記処理部において処理された汚水を排出する排出部、外部から前記処理部にエアーを導入するエアー導入部を有する汚水処理ユニットを用いた汚水処理方法において、前記エアー導入部にエアーの導入量を制御するエアー制御機構を有しており、前記処理部には細孔分布ピークが水銀圧入法において0.1μm以上、1.0μm以下にある竹炭に硝化菌及び/又は脱窒菌が担持された有機物分解菌担持竹炭を充填し、汚水が導入された前記処理部に前記エアー導入部からエアーを導入し、前記汚水の硝化が進んだ状態になったら前記エアー導入部からエアーの導入を制限して嫌気的な環境にすることを特徴とする汚水処理方法
【請求項2】
請求項に記載の汚水処理ユニットを用いた汚水処理方法において、前記処理部の汚水中の成分を検出する検出部、前記検出部の検出値に応じて前記エアー制御制御機構を制御する制御部を有することを特徴とする汚水処理方法
【請求項3】
トイレと、汚水を処理する処理設備と、前記トイレと前記処理設備を結ぶ汚水流路と、前記処理設備と前記トイレを結ぶ処理再生水流路を備える汚水処理システムを用いた汚水処理方法において、前記処理設備が少なくとも、硝化処理槽、前記硝化処理槽で硝化処理された水を脱窒化処理する脱窒化処理槽を有し、前記硝化処理槽、前記脱窒化処理槽の全部又は一部において、請求項1又は2に記載の汚水処理ユニットを用いた汚水処理方法を行うことを特徴とする汚水処理方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚水(トイレ排泄物を含んだ洗浄水)の処理・再生・循環に利用可能な汚水処理ユニット及び有機物分解菌担持用竹炭を用いた汚水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排泄物をバチルス菌等の微生物により処理するいわゆるバイオトイレは上下水道が整っていない地域や災害時の活用が期待されている。バイオトイレの排泄物処理には、微生物の繁殖に適した木質チップやおがくず等が一般的に用いられる。すなわち、木質チップやおがくず等に排泄物を混合し、攪拌等することで排泄物を発酵分解するものである。
【0003】
しかしながら、一般的な乾式バイオトイレは微生物による分解に時間がかかることから臭気の問題や木質チップやおがくずの腐植によって定期的な交換が必要であるという問題がある。また、使用した洗浄水を再びトイレの洗浄に利用する湿式循環型トイレとするためには排泄物(有機物)を完全に分解処理することが必要である。
【0004】
ここで、汚水中の有機物を分解し、汚水を再利用するための工程をおおまかに見ると、
COHNS(有機物)+O+栄養塩→CO+NH+CNO+他の最終産物
NO+5O→5CO+2HO+NH+エネルギー
NH+3/2O→NO+HO+2H+
NO+1/2O→NO
という硝化プロセス、さらに、
2NO+2H→2NO+2H
2NO+3H→N+2HO+2OH
脱窒化プロセスが必要である(上記反応に介在する微生物等については省略)。本発明において、好気的、嫌気的のいずれの雰囲気であるかに関わらず硝化、脱窒化反応に関わる微生物を有機物分解菌とする。
【0005】
汚水を循環利用するためには、上記の硝化、脱窒化プロセスを十分かつ効率的に行う必要があり、そのためには微生物の繁殖と汚水処理に適した環境が重要になる。微生物を多孔質体に担持する発明は数多くあり、例えば、孔径が約10〜1000μmの多孔質担体に硝化菌を担持するもの(特許文献1)、孔径が0.001〜10mmの多孔質担体に脱窒菌又は硝化菌を担持するもの(特許文献2)、孔径が5〜100μm以下の多孔質担体に脱窒菌又は硝化菌を担持するもの(特許文献3)がある。
【0006】
特許文献1に係る発明は、多孔質担体に付着生成させた微生物を、フロックを形成する微生物の培養液中で、処理してなるフロックに被覆された固定化微生物群に関するものである。これは多孔性セラミックス等の細孔に付着した微生物を表面から離脱することなく、その機能を持続するというものである。
【0007】
特許文献2に係る発明は、脱窒菌を固定化した担体を浮遊状態にした脱窒槽および硝化菌を固定化した担体を浮遊状態にした硝化槽をこの順序に配列し、硝化槽流出液の一部を脱窒槽流入部へ返送して汚水のBOD除去と脱窒化を同時に行う汚水処理装置であって、脱窒槽内に流動板を二重底状に配置して脱窒槽の底部側に圧力水室を形成するとともに、圧力水室に被処理水を圧入する圧入手段を設け、流動板に圧力水室から上方に向けて被処理水を噴出する複数の噴出孔を設け、流動板の上面側に噴出孔の上方を覆うキャップを設けたことを特徴とする汚水処理装置に関するものである。
【0008】
特許文献3に係る発明は、生活排水、工場排水、下水処理排水等の窒素含有排水を、窒素化合物を分解する微生物が担持された微生物担体に接触させて水浄化を行う排水処理方法であって、前記微生物担体が廃ガラスを粉砕したガラス粉を原料として製造される多孔質材料からなり、前記微生物が前記窒素含有排水中のアンモニア態窒素を亜硝酸イオン又は硝酸イオンに酸化させる硝化反応の触媒として作用する硝化菌であることを特徴とする排水処理方法に関するものである。
【0009】
前記特許文献1〜3に係る発明はいずれも汚水等の脱窒化や硝化に関するものであるが、いずれも脱窒菌や硝化菌を脱窒化、硝化のために多孔質体に担持するという従来的な効果を達成するのにとどまるものであり、担持体と担持菌の関係に新たな作用や効果を見出すものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−202382号公報
【特許文献2】特開平5−269489号公報
【特許文献3】特開2000−117291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、汚水の硝化、脱窒化を持続的、かつ、効率的に行うための微生物担持用多孔体、及び、前記微生物担持用多孔体に微生物を担持した微生物担持体を用いた汚水処理ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、汚水の導入部、前記導入部より導入された汚水を処理する処理部、前記処理部において処理された汚水を排出する排出部、外部から前記処理部にエアーを導入するエアー導入部を有する汚水処理ユニットを用いた汚水処理方法において、前記エアー導入部にエアーの導入量を制御するエアー制御機構を有しており、前記処理部には細孔分布ピークが水銀圧入法において0.1μm以上、1.0μm以下にある竹炭に硝化菌及び/又は脱窒菌が担持された有機物分解菌担持竹炭を充填し、汚水が導入された前記処理部に前記エアー導入部からエアーを導入し、前記汚水の硝化が進んだ状態になったら前記エアー導入部からエアーの導入を制限して嫌気的な環境にすることを特徴とする汚水処理方法である。また、第の発明は、第の発明の汚水処理ユニットを用いた汚水処理方法において、前記処理部の汚水中の成分を検出する検出部、前記検出部の検出値に応じて前記エアー制御制御機構を制御する制御部を有することを特徴とする汚水処理方法である。また、第の発明は、トイレと、汚水を処理する処理設備と、前記トイレと前記処理設備を結ぶ汚水流路と、前記処理設備と前記トイレを結ぶ処理再生水流路を備える汚水処理システムを用いた汚水処理方法において、前記処理設備が少なくとも、硝化処理槽、前記硝化処理槽で硝化処理された水を脱窒化処理する脱窒化処理槽を有し、前記硝化処理槽、前記脱窒化処理槽の全部又は一部に前記第1又は2の発明の汚水処理ユニットを用いた汚水処理方法を行うことを特徴とする汚水処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、細孔分布ピークが水銀圧入法において0.1μm以上、1.0μm以下にある竹炭に硝化菌及び/又は脱窒菌を担持して汚水処理に用いることで好気的環境における処理だけでなく、竹炭充填環境を嫌気的にすることで汚水を効率的に処理することができる。ま、竹炭を用いることで、竹炭表面から供与されたプロトン(H+)によって脱窒化作用を促進する効果と有機物分解菌の長期担持効果(長寿命化)と発生臭気の低減を期待できる。また、汚水の導入部、前記導入部より導入された汚水を処理する処理部、前記処理部において処理された汚水を排出する排出部、外部から前記処理部にエアーを導入するエアー導入部を有する汚水処理ユニットにおいて、前記エアー導入部にエアーの導入量を制御するエアー制御機構を有しており、前記処理部には有機物分解菌担持竹炭を充填ることで、有機物分解菌担持竹炭を充填した処理槽において硝化反応処理及び脱窒化反応処理を同時に行うだけでなく、エアーの導入を停止して嫌気的雰囲気にすることで選択的に脱窒化反応を促進できる効果が期待できる。また、前記汚水処理ユニットにおいて、前記処理部の汚水中の成分を検出する検出部、前記検出部の検出値に応じて前記エアー制御機構を制御する制御部を有することで汚水処理状況等に応じてエアー導入量を制御し、好気的又は嫌気的な雰囲気にし、硝化反応及び脱窒化反応の同時処理、脱窒化反応のみ処理の自動化を期待できる。また、これらの汚水処理ユニットを汚水処理システムに導入することで、省エネルギーでトイレからの汚水を処理・再生し、循環利用できる効果が期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は汚水処理システムの構成図である。
図2図2は640℃で炭化した孟宗竹炭等の細孔分布である。
図3図3は640℃で炭化した孟宗竹炭のメソ細孔分布である。
図4図4は640℃で炭化した孟宗竹炭のマイクロ細孔分布である。
図5図5は脱窒化検証における硝酸態窒素濃度の経時変化である。
図6図6は竹炭内部のイメージ図である。
図7図7は補足の脱窒化検証における硝酸態窒素濃度の経時変化である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
(1)有機物分解菌担持多孔体
含水率10%以下の孟宗竹を640℃で約2時間(予備加熱を含めると約5時間)かけて炭化した孟宗竹炭を有機物分解菌担持用多孔体として用いた。評価に供した孟宗竹炭は大きさ10〜15cmの小札状のものであり、細孔データは以下の通りである。また、細孔分布を図2〜4に示す。
<1nm〜1mmの孔分布(水銀圧入法)(図2のデータ)>
・(a)(孟宗竹)分布ピーク 0.1〜1.0μm
・(b)(廃木材)分布ピーク 0.1〜1.0μm(比較対象)
・(c)(コーンコブ)分布ピーク 10〜100μm(比較対象)
<メソ孔(DH法)(図3のデータ)>
・積算細孔容積 0.0358 cm/g
・分布ピーク直径 2.43 nm
・積算細孔面積 32.04 cm2/g
<マイクロ孔(HK法)(図4のデータ)>
・積算細孔容積 0.154 cm/g
・分布ピーク直径 0.54 nm
<全ての孔(図3図4のデータ)>
・比表面積 371.4 m/g
孟宗竹炭の特性に最も影響を与える要因として最大炭化温度を挙げることができる。この温度が600〜650℃の範囲内であれば有機物分解菌担持に関して特性に大きな差がないことが繰り返しの検証でわかっている。物理的な観点から、担持する有機物分解菌よりも大きな孔径の孔内には有機物分解菌の担持が可能である。微生物分解菌として硝化処理に用いられることが多いバチルス菌は一般に好気性の硝化菌であり、その大きさは(0.7〜0.8)×(2〜3)μmである。すなわち、2〜3μmより小さい孔径の孔内にバチルス菌を担持するのは物理的に困難であると考えられる。多孔質体に担持する有機物分解菌をバチルス菌とした場合、バチルス菌の大きさを基準として、バチルス菌よりも孔径が大きい領域を担持領域、バチルス菌よりも孔径が小さい領域を非担持領域として、両方の領域を有するものを用いることになる。ここで、バチルス菌よりも孔径が大きい、小さい、とはバチルス菌が実質的に孔内に侵入できるか否かを意味するものである。バチルス菌の大きさを考慮すると、20μm程度の孔径であれば容易に孔内に侵入が可能である。この孔径の多孔体にバチルス菌を担持した場合、菌と孔径の大きさの関係上、どの孔内も好気的な雰囲気であり、担持に適した領域だと考えられる(後述する脱窒化性能の検証試験で比較対象に用いた市販の微生物担体は、孔径が20μm前後であり、好気性微生物の担持に適している)。担持する微生物と同等程度未満の孔径の孔内は微生物が入っていけず、また、微生物によって外気が遮断され、嫌気的な雰囲気の領域となる。なお、硝化菌とはNHをNOに酸化する亜硝酸菌、NOをNOに酸化する硝酸菌がある。前者はNitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属の、後者はNitrobacter属、Nitrospira属の細菌が挙げられる。本発明では担持する有機物分解菌としては前記硝化菌に限定されるものではない。
【0017】
(2)脱窒化性能の検証試験
前記(1)の竹炭の脱窒化性能の検証を行った。比較対象として市販の微生物担体(商品名:クラゲール(登録商標)(クラレアクア株式会社)(孔径約20μm前後))を用いた。
(ア)模擬排泄物
以下の材料を混合した後、20Lの密封容器中にて37℃で10ヶ月培養し、模擬排泄物とした。
<模擬排泄物原料>
・米糠 1200g
・糠床 50g
・ヨーグルト 150g(恵)(登録商標)(雪印メグミルク株式会社)
・純水 2320mL
(イ)馴養
上記模擬排泄物に微生物担体を入れないもの(試験区A)、竹炭200gを入れたもの(試験区B)、市販微生物担体を入れたもの(試験区C)の各試験区についてマグネチックスターラーによる攪拌、エアーポンプによる曝気の下、それぞれ3カ月間馴養した。
(ウ)結果(硝酸態窒素の経時変化)
上記(イ)の各試験区のpHを7〜8に調節し、溶存酸素(DO)が安定していることを確認してから以下の基質を入れ、pH、DO、亜硝酸態窒素(NO−N)、硝酸態窒素(NO−N) を測定し、硝酸ナトリウム(NaNO)に含まれているNO−Nの経時変化を確認した。
<基質>
・Glucose 5.0000g
・NaNO 0.1252g
・MgSO 0.0085g
・CaCl 0.0052g
・KHPO 0.1573g
<水質測定>
・pH pHメーター(株式会社堀場製作所)
・溶存酸素 溶存酸素計(DO計) MonoLine Oxi 3310 IDS(セントラル科学株式会社)
・亜硝酸イオン濃度 RQフレックスプラス10(関東化学株式会社)
・硝酸イオン濃度 RQフレックスプラス10(関東化学株式会社)
<結果>
NO−N濃度に関しては、試験区Aが9時間、試験区Bが6時間、試験区Cが11時間で検出できなくなり、試験区Bにおいて最も早くNO−Nが消失することが確認された(図5)。なお、DOに関して試験区Aでは0時間で8.28mg/L、9時間で8.03mg/L、試験区Bでは0時間で8.12mg/L、6時間で7.89mg/L、試験区Cでは0時間で7.84mg/L、11時間で7.79mg/Lであった。pHに関しては、試験区Aで0.3増加、試験区Bで0.5増加、試験区Cで0.05減少した。NO−N濃度に関しては試験区Bが0〜0.2mg/Lで、試験区A、Cが0mg/Lであった。
<考察>
脱窒化反応は、NO→NO→Nの順に進行することからNOの減少で脱窒化現象が起きていると考えられる。試験区Bが最も早くNO−Nが無くなったのは、竹炭の複雑な孔に微生物が付着することで非担持孔内の酸素を消費することで嫌気的雰囲気ができ、これが脱窒化に寄与した可能性があることを示唆するものである(図6)。竹炭及び市販品に付着した微生物の様子を走査電子顕微鏡(SEM)により1000〜10000倍のスケールで観察したところ、竹炭では表面への付着が多く、竹炭を割って観察した内部には表面ほど多く付着していなかった。すなわち、内部ほど孔径が小さくなり、微生物にとって嫌気的な雰囲気になっていることを示唆するものである。一方、市販品では内部においても多くの微生物が付着しており、好気的な環境であることが示唆された(いずれも写真は省略)。なお、DO値から各試験区ともに十分に好気的であることが認められる。このように硝化菌を担持する担持体に、好気的雰囲気だけでなく嫌気的雰囲気(硝化菌よりも孔径が小さい硝化菌非担持領域)が存在することで、硝化反応だけでなく脱窒化反応が起こることが示唆された。さらに脱窒化反応は有機物分解菌よりも小さい孔径の孔内領域、あるいは孔径1μm以下の孔内領域が多いほど効果があると考えられる。なお、いずれの試験区においても最終的にNO−Nが無くなったのは、沈殿物(活性汚泥)中の脱窒化反応によるものである。
【0018】
(3)脱窒化性能の検証試験(補足試験)
上記(2)の検証試験では活性汚泥による脱窒化効果が微生物担体の効果を比較する上でのノイズとなったので、この活性汚泥を濾過によって取り除いた場合の効果を確認した(図7)。NO−Nは試験区Bにおいてのみ減少し、無くなった。この結果から試験区Bにおいてのみ脱窒化反応が起こっていることが示唆された。本結果は上記考察を補強するものである。
【0019】
(4)汚水処理システム実証試験
<試験>
自然由来の硝化菌を担持した乾燥竹炭約50kgをトイレに連結した汚水処理システムに適用した場合の実証試験を行った。
試験期間:2017年1月から継続試験中
試験場所:松本工業株式会社ビル
装置:図1(竹炭槽に本発明の竹炭を使用)(各槽の有効容量は汚水の経路順に第1槽が1.4m、第2槽が1.0m、第3槽が1.4m、第4槽が0.5m、竹炭槽が0.5m、オゾン槽が0.6m、処理水槽(貯留槽)が0.3m
洗浄水:0.2m/人・日
エアー:80L/分
トイレ使用者:約7人/日
汚水処理システムは一次処理槽(バチルス菌を担持したクラゲール(登録商標)を充填した第1、第2担体槽、活性汚泥槽、沈殿槽)(第1槽は、当初、微生物担体を充填しない好気槽としていたが、第2槽の浮遊担体が第1槽にも拡散したため途中から第1、第2槽を担体槽とした)、二次的な微生物処理を行う竹炭槽、微生物処理後にオゾン殺菌処理を行うオゾン槽、洗浄水量の調整を行う処理水槽から構成される。また、一次処理槽の第1、第2担体槽、活性汚泥槽、竹炭槽にはエアーポンプを通じて常時曝気する構成である(沈殿槽は脱窒化強化のために途中から嫌気的状態に変更)。この竹炭槽に本発明に係る硝化菌担持竹炭を用いた。
<結果>
本汚水処理システムにより1年以上試験を行い、汚水を再生利用できることがわかった。また、当初、竹炭槽では硝化反応促進を目的として設けていたのに対し、硝化反応と脱窒化反応の両方の反応が起こっていることが見出された。そこで(記載が前後するが)上記(2)(3)の脱窒化検証試験等を通じて硝化菌の担持と脱窒効果を得るための硝化菌担持の条件等を明らかにした。また、竹炭槽の曝気を停止し、嫌気的状態とすることでも脱窒槽として十分な機能を有することを確認した。なお、竹炭槽に充填した竹炭の性能等に劣化は確認されなかった。また、官能的に竹炭槽からの臭気も認められなかった。
<考察>
本実施例では汚水処理システムの一次処理後の汚水を完全に硝化するため追加的に竹炭槽を設けたところ、硝化反応だけでなく脱窒化反応も同時に起こっていることが見出された。これは好気的な竹炭表面や硝化菌よりも孔径が大きい孔内においては硝化反応が起こり、孔径がより小さい嫌気的な孔内において脱窒化反応が起こっている可能性を示唆するものである。評価を重ねたところ、1μm以下の孔径領域を有する硝化菌担持竹炭に硝化、脱窒化性能が確認された。また、当該竹炭のマイクロ細孔分布のピークは0.2〜1.0nmにあることが確認された。すなわち、これらの範囲の孔径を有することが脱窒化反応に直接又は間接的に影響している可能性が示唆される。また、本実施例では竹炭を用いたが、一般的に竹炭表面にはプロトン(H)が豊富であることから硝化菌による脱窒化(還元反応)に加えて竹炭からプロトンが供与される還元反応も脱窒化に寄与している可能性が考えられる。一次処理後の汚水を上記のように好気的雰囲気下で処理する利点として、嫌気的処理では大きな問題となる臭気を抑えることできることが挙げられる。また、硝化菌担持体として竹炭そのものには量的変化がないことから半永久的に使用し続けることができることが挙げられる。今回の実証試験では官能的に臭気の発生、竹炭の減少ともに認められず、竹炭の有用性についても確認された。このように本発明の硝化菌担持竹炭はトイレに連結した汚水処理システムとして利用できることが示唆された。本実施例では硝化菌担持竹炭を二次的処理に用いるにとどまるが、本発明に係る硝化菌担持多孔体を一次処理に用いても効果を示すものと考えられる。
【0020】
上記結果から硝化菌を担持した竹炭を汚水処理システムに組み込み、汚水を再生利用できることが確認された。また、硝化と脱窒化の両方の効果を有する硝化菌担持体を汚水処理システムにおいて汚水の状態等に応じた利用が可能である。例えば、同一槽内において、汚水の硝化が進んだ状態になったらエアーを制限することでより嫌気的な環境とし、脱窒化に反応をシフトさせる等、状況に応じた処理を行うことができる。また、汚水中の成分を検出する検出器の検出値とエアー制御を連動させることで硝化、脱窒化を自動的に行うことが可能になる。例えば、脱窒化反応が進行すると処理水のpHが上昇することが経験的にわかっており、pH計を検出器として反応の進行状況に応じてエアー制御することが挙げられる。検出器としてはpH計に限らず、溶存酸素計でもよいし、その他の特定成分の検出を目的としたものであってもよい。また、エアーを制限して嫌気的雰囲気にしても竹炭の脱臭効果によって周囲の環境に臭気の拡散を防止できることが確認されており、脱窒化と脱臭を両立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によれば、硝化菌を担持した硝化菌担持体を用いて汚水を硝化、脱窒化の効果が得られ、汚水を完全に処理し、再生、循環する汚水処理システムに利用することができる。
【要約】
【課題】汚水の硝化、脱窒化を持続的、かつ、効率的に行うための微生物担持用多孔体、及び、前記微生物担持用多孔体に微生物を担持した微生物担持体を用いた汚水処理ユニットを提供すること。
【解決手段】表面に担持する硝化菌よりも孔径が大きい硝化菌担持領域を有し、さらに前記硝化菌担持領域内に前記硝化菌よりも径が小さい硝化菌非担持領域を有する多孔体を硝化菌担持用とし、硝化菌を担持した硝化菌担持体を汚水の硝化や脱窒化処理に用いる。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7