特許第6515909号(P6515909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6515909
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20190513BHJP
【FI】
   H04R1/10 103
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-232181(P2016-232181)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-88661(P2018-88661A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大内 貴史
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−082738(JP,A)
【文献】 実開昭58−034485(JP,U)
【文献】 実開昭48−037627(JP,U)
【文献】 特開2016−082349(JP,A)
【文献】 実開昭58−096390(JP,U)
【文献】 特開2011−082851(JP,A)
【文献】 特開2010−050647(JP,A)
【文献】 特開2016−015609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーユニットを収容するハウジングと、ヘッドバンドと、一端側が該ハウジングまたは該ヘッドバンドのいずれか一方に連結し、他端側が該ハウジングまたは該ヘッドバンドのいずれか他方に対して摺動可能に保持されるスライダと、を備え、
該ヘッドバンドまたは該ハウジングの少なくともいずれか一方が、該スライダの被保持部を摺動可能に保持するスライダ保持部を有し、
該スライダ保持部が、貫通孔を有し該スライダの該被保持部の第1当接部に当接して第1付勢力を与える第1弾性部材と、貫通孔を有し第2当接部に当接して該第1付勢力とは略直交する方向に第2付勢力を与える第2弾性部材と、該貫通孔を通過する凸状部を有して該第1弾性部材並びに該第2弾性部材を固定する固定部材と、を有する、
ヘッドホン。
【請求項2】
前記スライダが、短冊状の基体に長孔状のスリットが形成されて、前記スライダ保持部に保持される前記被保持部を有し、
前記第2弾性部材が、該スリットを通過するとともに前記第2当接部に当接して前記第2付勢力を与える略柱状の部材である、
請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記スライダの前記被保持部の前記第1当接部が、前記基体の凹凸を有さない平面部であり、前記第2当接部が、前記スリットを規定する凹凸を有さない端面部である、
請求項2に記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記スライダ保持部の前記第1弾性部材が、金属材料または樹脂材料により形成される板バネ状の部材であり、前記第2弾性部材が、シリコン樹脂材料またはゴム材料により形成される部材である、
請求項1から3のいずれかに記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーの耳に装着されて音声再生するヘッドホンに関し、特に、ハウジングまたはヘッドバンドのいずれかに対して摺動可能に保持されるスライダを備えるヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドバンドを有するユーザーの頭部に載置するオーバーヘッドタイプのヘッドホンは、ヘッドバンドと、スピーカーユニットと、スピーカーユニットの背面側を囲むハウジングと、スピーカーユニットの前面側に設けられる耳接触部を備えている。ここでいうヘッドホンは、左右一対のハウジングがヘッドバンドなどで連結されているステレオ型のものだけでなく、ユーザーの片耳にのみハウジングを装着させるモノラル型のものや、ハウジングがマイク装置を備える所謂ヘッドセットを含んでいる。
【0003】
このようなヘッドバンドを有するヘッドホンは、ハウジングとヘッドバンドとの間の相対的な位置関係を装着するユーザーの頭部および耳部に合わせて調整することができるように、調整機構を設ける場合がある。代表的には、ヘッドバンド側もしくはハウジング側に摺動する動作が可能なスライダ構造、または、旋回動作が可能なポールジョイント構造、などを採用することにより、ユーザーが安定してヘッドホンを装着して使用できるようにしているものがある。
【0004】
ヘッドホンのスライダ構造では、ハウジングとヘッドバンドとの間の相対的な位置関係を予め定めている複数の位置から段階的に選択できるように、例えば、相互に嵌合する凹凸を設けて、クリック動作により移動および固定が可能なスライダ構造を採用するものがある(特許文献1、第3図〜第5図)。一方で、所定の範囲において無段階的に位置を定めるスライダ構造を採用するものがある(特許文献1、第1図)。
【0005】
スライダ構造において、複数の位置から段階的に選択する方式は、無段階的に位置を定める方式に比較して、ユーザーの好みに応じた位置に最終的に調整できない場合が生じ得るという問題がある。一方で、無段階的に位置を定める方式は、相互に嵌合する凹凸がないので、相対的な位置関係が変わりやすく、ずれやすくなるという問題がある。
【0006】
上記のようなヘッドホンのスライダ構造では、相対的な位置関係が変わらないように、嵌合部分に適度な嵌合力または摩擦力が生じるように板バネ等の弾性材料を配するものがある。特に、相互に嵌合する凹凸を設けずに無段階的に位置を定める方式の場合には、接触する部材を強く押し当てるようにして、強い摩擦力を与える必要がある。したがって、このようなスライダ構造を採用するヘッドホンは、ユーザーが安定して装着することができる一方で、スライダ構造が複雑になり易いという問題がある。
【0007】
また、オーバーヘッドタイプのヘッドホンは、ハウジングに収容されたスピーカーユニットが振動する場合に、この振動がヘッドバンドに伝わって不要な振動が発生し、ヘッドホンの再生音質に悪影響を与えるという問題がある。特に、スライダ構造が、金属材料で形成された板バネ等の部材を含むような場合には、スピーカーユニットからの振動に起因して共振の鋭さQが高い機械系の共振が発生することがある。このような共振は、不要な放射音を発生させて、ヘッドホンの再生音質を悪化させる場合があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭57−1515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、ハウジングまたはヘッドバンドのいずれかに対して摺動可能に保持されるスライダを備えるヘッドホンに関し、ユーザーが相対的な位置を調整して安定して装着できるとともに、スライダにおける不要な振動を抑制して、再生音質に優れるヘッドホンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のヘッドホンは、スピーカーユニットを収容するハウジングと、ヘッドバンドと、一端側がハウジングまたはヘッドバンドのいずれか一方に連結し、他端側がハウジングまたはヘッドバンドのいずれか他方に対して摺動可能に保持されるスライダと、を備え、ヘッドバンドまたはハウジングの少なくともいずれか一方が、スライダの被保持部を摺動可能に保持するスライダ保持部を有し、スライダ保持部が、貫通孔を有しスライダの被保持部の第1当接部に当接して第1付勢力を与える第1弾性部材と、貫通孔を有し第2当接部に当接して第1付勢力とは略直交する方向に第2付勢力を与える第2弾性部材と、貫通孔を通過する凸状部を有して第1弾性部材並びに第2弾性部材を固定する固定部材と、を有する。
【0011】
好ましくは、本発明のヘッドホンは、スライダが、短冊状の基体に長孔状のスリットが形成されて、スライダ保持部に保持される被保持部を有し、第2弾性部材が、スリットを通過するとともに第2当接部に当接して第2付勢力を与える略柱状の部材である。
【0012】
また、好ましくは、本発明のヘッドホンは、スライダの被保持部の第1当接部が、基体の凹凸を有さない平面部であり、第2当接部が、スリットを規定する凹凸を有さない端面部である。
【0013】
また、好ましくは、本発明のヘッドホンは、スライダ保持部の第1弾性部材が、金属材料または樹脂材料により形成される板バネ状の部材であり、第2弾性部材が、シリコン樹脂材料またはゴム材料により形成される部材である。
【0015】
以下、本発明の作用について説明する。
【0016】
本発明のヘッドホンは、スピーカーユニットを収容するハウジングと、ヘッドバンドと、一端側がハウジングまたはヘッドバンドのいずれか一方に連結し、他端側がハウジングまたはヘッドバンドのいずれか他方に対して摺動可能に保持されるスライダと、を備える。ここで、ヘッドバンドまたはハウジングのいずれか一方が、スライダを摺動可能に保持するスライダ保持部を有する。つまり、スライダは、ハウジングまたはヘッドバンドのいずれかに対して摺動可能に保持されていればよく、スライダ保持部に保持される被保持部を有している。したがって、このヘッドホンは、ハウジングとヘッドバンドとの間の相対的な位置関係を、装着するユーザーの頭部および耳部に合わせて調整することができる。
【0017】
ここで、スライダ保持部は、スライダの被保持部の第1当接部に当接して第1付勢力を与える第1弾性部材と、第2当接部に当接して第1付勢力とは略直交する方向に第2付勢力を与える第2弾性部材と、第1弾性部材並びに第2弾性部材を固定する固定部材と、を有する。したがって、第1当接部に当接する第1弾性部材と第2当接部に当接する第2弾性部材とを適切に設計して、略直交する方向からスライダの被保持部に付勢力を与えて、容易に相対位置がずれないように安定して装着できるようにするとともに、一方の弾性部材を含む機械共振系で共振が発生するような場合にも、他方の弾性部材が共振を抑制するようにすることができる。したがって、スライダにおける不要な振動を抑制して、再生音質に悪影響を与えにくいヘッドホンを構成することができる。
【0018】
スライダは、短冊状の基体に長孔状のスリットが形成されて、スライダ保持部に保持される被保持部を有する。これに応じて、第2弾性部材は、このスリットを通過するとともに第2当接部に当接して第2付勢力を与える略柱状の部材とすることができる。好ましくは、スライダの被保持部の第1当接部が、基体の凹凸を有さない平面部であり、第2当接部が、スリットを規定する凹凸を有さない端面部である。したがって、スライダの被保持部およびこれに対応するスライダ保持部を比較的に小さくすることができ、無段階的に位置を定めるようにすることができる。また、第1弾性部材とスリットを通過する第2弾性部材とが、スライダの被保持部の基体を直交する方向から保持することになるので、スライダにおける不要な振動を抑制して、再生音質が優れるヘッドホンを構成することができる。
【0019】
スライダ保持部の第1弾性部材は、金属材料または樹脂材料により形成される板バネ状の部材とする場合には、第2弾性部材は、シリコン樹脂材料またはゴム材料により形成される略柱状の部材で構成するのが好ましい。異なる形状の異なる弾性材料を用いることで、共振の鋭さQが高い機械系の共振を抑制する損失を与えるダンプ材としてそれぞれが機能するからである。第1弾性部材は、固定部材の凸状部が通過する貫通孔を有しているので、固定部材によって容易に固定することができる。さらに、第2弾性部材は、略柱状の部材で形成されて被保持部のスリットを通過するのに適する形状にできるとともに、固定部材の凸状部が通過する貫通孔を有しているので、固定部材によって容易に固定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のヘッドホンは、ユーザーがハウジングとヘッドバンドとの相対的な位置を調整して安定して装着できるとともに、スライダにおける不要な振動を抑制して、再生音質に優れるヘッドホンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るヘッドホンの外観図である。
図2】本発明の一実施形態に係るヘッドホンのスライダ構造の具体的な構造を示した説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係るヘッドホンのスライダ構造の具体的な構造を示した説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係るヘッドホンのスライダ構造の具体的な構造を示した説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係るヘッドホンのスライダ構造の具体的な構造を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態によるヘッドホンについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるヘッドホン1について説明する図である。具体的には、図1は、ヘッドホン1の外観を示す斜視図である。本実施例のヘッドホン1は、左右のヘッドホンユニット1A、1Bと、これらヘッドホンユニット1A、1Bを連結するヘッドバンド1Cを備えている。ヘッドホンユニット1A、1Bは、スピーカーユニットを収容するハウジング2と耳接触部3をそれぞれ備えている。
【0024】
ハウジング2は、スピーカーユニットの少なくとも背面側を囲んで、スピーカーユニットの振動板の背面に空気室等の音響容量を規定する。ハウジング2の側部には、空気室に連通する孔部が設けられている場合がある。孔部によってハウジング2の内部空間によるコンプライアンスを調整して、周波数特性、特に低音域の周波数特性を調整することができる。
【0025】
ヘッドホン1は、ヘッドバンド1Cの両端にスライダ1Eを保持するスライダ保持部20を備えている。ヘッドバンド1Cは、外観視されない内部にスライダ1Eを収容する溝部と、スライダ1Eを保持するスライダ保持部20と、を備えており、スライダ1Eは、溝部およびスライダ保持部20により、ヘッドバンド1Cに対して摺動可能に保持される。それぞれのスライダ1Eの他端側は、ハンガー1Dと連結しており、ハンガー1D、1Dは各ハウジング2、2に連結されている。したがって、ヘッドホン1は、ハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を、装着するユーザーの頭部および耳部に合わせて調整することができる。
【0026】
なお、図1では、ステレオ再生に対応するヘッドホン1のコードおよびプラグ部は図示を省略されている。本発明の説明に不要な他のヘッドホン1の構成については、以下では図示及び説明を省略する。また、ヘッドホン1の形態は、本実施例の場合に限定されない。ヘッドホン1は、音声信号を供給するコードおよびプラグ部を備えない無線信号を受信する受信部を備えるワイヤレスヘッドホンであってもよい。
【0027】
図2図5は、本発明の一実施形態に係るヘッドホン1のスライダ構造の具体的な構造を示した説明図である。具体的には、図2は、ヘッドバンド1C並びにスライダ保持部20の一部の部品の図示を省略して、ヘッドバンド1Cの内部の溝部に収容されたスライダ1Eの構成を説明する斜視図である。図3は、一方のスライダ保持部20の構成部品を説明する展開斜視図である。また、図4および図5は、一方のスライダ構造を説明する拡大図である。図4では、スライダ保持部20の一部の部品の図示を省略している。また、図5は、図4におけるA−A’断面図であり、図4の視点の方向とは直交する横方向からスライダ保持部20の構造を図示している。
【0028】
本実施例のヘッドホン1では、スライダ1Eは、ヘッドバンド1Cの内部の溝部に収容され、または、ヘッドバンド1Cの端部から出現することで、ハウジング2をヘッドバンド1Cに近づける、もしくは遠ざける様に摺動する動作を可能にしている。スライダ1Eは、ヘッドバンド1Cの端部に設けられるスライダ保持部20に保持される被保持部10を有する。被保持部10は、スライダ1Eのヘッドバンド1C側であって、湾曲したアルミニウム合金製の短冊状の基体を有する。被保持部10には、スライダ1Eが摺動可能な範囲に渡って長孔状のスリット11が形成されている。
【0029】
スライダ1Eの被保持部10には、スライダ保持部20に保持される際に嵌合するような凹凸が設けられていない。また、スライダ1Eの被保持部10の短冊状の基体において、スリット11が形成される場合に、スリット11を規定する端面12にも凹凸は設けられていない。したがって、ヘッドホン1では、スライダ1Eおよびスライダ保持部20は、ハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を、スリット11が形成されている所定の範囲内で無段階的に位置を定めるように動作する。
【0030】
スライダ保持部20は、スライダ1Eの被保持部10を保持するように、複数の部品から構成されている。スライダ保持部20は、外側固定部材21と内側固定部材25とを複数のネジ28で連結して形成する筐体の内部に、スライダ1Eの被保持部10を通過させて、被保持部10に付勢力を与える弾性部材を有している。スライダ保持部20の筐体は、相対的に摺動する被保持部10の短冊状の基体を通過させてその位置を決める位置決め部材29を、外側固定部材21と内側固定部材25との間に挟むようにして固定している。外側固定部材21並びに内側固定部材25、位置決め部材29は、樹脂材料により形成されている。
【0031】
スライダ保持部20は、スライダ1Eの被保持部10に摩擦による付勢力を与える弾性部材として、板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、を備えている。板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、は、外側固定部材21並びに内側固定部材25に、それぞれが有する突起を介して固定されている。
【0032】
板バネ部材22および24は、弾性変形可能な樹脂材料により形成されており、両端の平面部分が固定され、その間に曲面部を形成してその頂部が弾性変形で変位する構造を有する。板バネ部材22および24の固定される平面部には、外側固定部材21または内側固定部材25に設けられる突起26が通過する貫通孔を有している。また、板バネ部材24の固定される平面部には、円柱弾性部材23が通過するU字状の凹部が形成されている。もう一方の板バネ部材22の固定される平面部には、円柱弾性部材23を固定する突起30が通過するU字状の凹部が形成されている。
【0033】
板バネ部材22は、被保持部10の短冊状の基体に対して外側から付勢力を与えるように、固定部側が外側固定部材21に固定されて、板バネの頂部が被保持部10の外側平面に当接する。また、板バネ部材24は、板バネ部材22とほぼ同一形状の板バネであって、固定部側が内側固定部材25に固定されて、板バネの頂部が被保持部10の内側平面に当接する。したがって、板バネ部材22および24は、被保持部10の短冊状の基体を挟み込むように第1の付勢力を与える。板バネ部材22および24は、弾性変形可能な金属材料により形成されていてもよい。
【0034】
一方で、円柱弾性部材23は、外形が略円筒形状となる弾性変形可能なシリコン樹脂材料により形成されており、外側曲面部と、中心軸部分に貫通孔を規定する内側曲面部と、両端の平面部と、を有する。円柱弾性部材23の貫通孔には、外側固定部材21の突起30と、内側固定部材25の突起27と、がそれぞれ挿入されて、円柱弾性部材23は外側固定部材21並びに内側固定部材25に対して固定される。したがって、円柱弾性部材23の外側曲面部は、力が加わると弾性変形で変位する構造を有する。柱弾性部材23は、ゴム材料により形成されていてもよい。
【0035】
スライダ保持部20において、円柱弾性部材23は、スライダ1Eの被保持部10に形成されている長孔状のスリット11を通過するように組み立てられる。円柱弾性部材23の直径寸法は、スリット11の幅寸法とほぼ一致する、あるいはそれよりも若干大きく設定されているので、弾性変形する円柱弾性部材23の外側曲面部は、スリット11を規定する端面12に当接して、スライダ1Eの被保持部10に対して第2の付勢力を与える。スリット11は、スライダ1Eが摺動可能な範囲に渡って設けられているので、スリット11を通過する円柱弾性部材23は、スライダ1Eの摺動範囲を規制するように機能する。
【0036】
スライダ保持部20において、スライダ1Eの被保持部10に対して、板バネ部材22および24が短冊状の基体を挟み込むように与える第1の付勢力と、スリット11を通過する円柱弾性部材23が端面12に与える第2の付勢力と、は略直交する方向にそれぞれ作用する。第1の付勢力および第2の付勢力が、略直交する方向に被保持部10に加わるので、スライダ1Eの被保持部10はスライダ保持部20に強く保持されることになる。少なくともいずれか一方のみが作用する場合に比べて、容易に相対位置がずれないようにできる。
【0037】
また、スライダ1Eの被保持部10に対する、板バネ部材22および24の摩擦係数と、円柱弾性部材23の摩擦係数は異なるので、与える第1の付勢力および第2の付勢力は、相互に異なるものになる。スライダ保持部20は、スライダ1Eの被保持部10の材料、表面処理、および寸法構造と、板バネ部材22および24の材料および寸法構造と、円柱弾性部材23の材料および寸法構造と、を適切に設計することで、適度な付勢力を与えて、容易にスライダ保持部20とスライダ1Eの被保持部10との相対位置がずれないようにすることができる。
【0038】
スライダ1Eの被保持部10を保持するスライダ保持部20は、上記の通りに板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、を備えているので、例えば一方の板バネ部材22および24のいずれかを含む機械共振系で共振が発生するような場合にも、他方の円柱弾性部材23が共振を抑制するように作用する。その逆の場合も同様である。したがって、スライダ保持部20は、ヘッドバンド1Cおよびスライダ1Eにおける不要な振動を抑制するので、この振動がハウジング2に伝達しにくくなる。その結果、ヘッドホン1は、再生音質に優れるものになる。ヘッドホン1は、装着するユーザーの頭部および耳部に合わせてハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を調整することができるだけで無く、スライダ1Eにおける不要な振動が再生音質に影響を与えることを防ぐことができる。
【0039】
上記実施例では、スライダ保持部20は、板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、を備えているが、第1の付勢力を与える弾性部材と、この第1の付勢力と略直交する方向に作用する第2の付勢力を与える弾性部材と、は、他の弾性変形可能な弾性体・弾性構造体を用いることができる。もちろん、同一の弾性材料を用いてもよく、第1の付勢力と第2の付勢力とが略直交する方向にスライダ1Eの被保持部10に対して作用するようにすればよい。例えば、板バネ部材22および24に代えて円柱弾性部材23と同じ弾性材料で円柱状に形成する弾性部材を用意して、一端側を外側固定部材21又は内側固定部材25に固定し、他端側を被保持部10の外側平面又は内側平面に当接するようにしてもよい。
【0040】
また、スライダ1Eの被保持部10に対して第1の付勢力を与える板バネ部材22を備えていれば、スライダ1Eの被保持部10にスリット11を設けなくてもよい。例えば、スリット11を規定する端面12と同様に、第2の付勢力が作用する略直交する角度になる被保持部10の短冊状の基体の側面に対して、弾性変形する円柱弾性部材23の外側曲面部が当接するようにして、第2の付勢力を与えるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施例では、スライダ1Eの被保持部10と、スリット11を規定する端面12と、にはスライダ保持部20に保持される際に嵌合するような凹凸が設けられていない。ただし、それぞれに複数の段階的に配置する凹または凸を設け、また、スライダ保持部20の第1の付勢力を与える弾性体と、第2の付勢力を与える弾性体と、にこれらの凹または凸に嵌合するような凸または凹を設けて、ハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を、段階的に定めるようなものにしてもよい。
【0042】
また、上記実施例のヘッドホン1では、ヘッドバンド1Cがその両端にスライダ1Eを保持するスライダ保持部20を備えているが、スライダ保持部20をハウジング2の側に設けて、スライダ1Eをヘッドバンド1Cに連結するように設けてもよい。上記実施例のようにハンガー1Dを備えるような場合には、スライダ保持部20をハンガー1Dに設けて、スライダ1Eをヘッドバンド1Cに連結するように設けてもよい。ヘッドバンド1Cがスライダ1Eを備えるような場合であっても、スライダ1Eにおける不要な振動がハウジング2に伝搬するのを抑制することができるので、再生音質に悪影響を与えにくいヘッドホンを構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のヘッドホンは、図示するようなオーバーヘッドタイプのヘッドホンに限らず、ハウジングとヘッドバンドとの間の相対的な位置関係を調整するスライド構造を備えるヘッドホンであってもよい。また、ヘッドバンドに相当する部材を含めば、ヘッドホンに限らず、イヤホン、カナル型のイヤホン等にも適用が可能である。また、本発明のヘッドホン並びにイヤホンは、家庭用のステレオ再生、もしくはマルチチャンネルサラウンド再生に限られず、車載用のオーディオ機器や、映画館等の音響再生設備にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 ヘッドホン
1C ヘッドバンド
1E スライダ
10 被保持部
11 スリット
12 端面
2 ハウジング
20 スライダ保持部
21 外側固定部材
22、24 板バネ部材
23 円柱弾性部材
25 内側固定部材
26、27、30 突起
3 耳接触部
図1
図2
図3
図4
図5