【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるヘッドホン1について説明する図である。具体的には、
図1は、ヘッドホン1の外観を示す斜視図である。本実施例のヘッドホン1は、左右のヘッドホンユニット1A、1Bと、これらヘッドホンユニット1A、1Bを連結するヘッドバンド1Cを備えている。ヘッドホンユニット1A、1Bは、スピーカーユニットを収容するハウジング2と耳接触部3をそれぞれ備えている。
【0024】
ハウジング2は、スピーカーユニットの少なくとも背面側を囲んで、スピーカーユニットの振動板の背面に空気室等の音響容量を規定する。ハウジング2の側部には、空気室に連通する孔部が設けられている場合がある。孔部によってハウジング2の内部空間によるコンプライアンスを調整して、周波数特性、特に低音域の周波数特性を調整することができる。
【0025】
ヘッドホン1は、ヘッドバンド1Cの両端にスライダ1Eを保持するスライダ保持部20を備えている。ヘッドバンド1Cは、外観視されない内部にスライダ1Eを収容する溝部と、スライダ1Eを保持するスライダ保持部20と、を備えており、スライダ1Eは、溝部およびスライダ保持部20により、ヘッドバンド1Cに対して摺動可能に保持される。それぞれのスライダ1Eの他端側は、ハンガー1Dと連結しており、ハンガー1D、1Dは各ハウジング2、2に連結されている。したがって、ヘッドホン1は、ハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を、装着するユーザーの頭部および耳部に合わせて調整することができる。
【0026】
なお、
図1では、ステレオ再生に対応するヘッドホン1のコードおよびプラグ部は図示を省略されている。本発明の説明に不要な他のヘッドホン1の構成については、以下では図示及び説明を省略する。また、ヘッドホン1の形態は、本実施例の場合に限定されない。ヘッドホン1は、音声信号を供給するコードおよびプラグ部を備えない無線信号を受信する受信部を備えるワイヤレスヘッドホンであってもよい。
【0027】
図2〜
図5は、本発明の一実施形態に係るヘッドホン1のスライダ構造の具体的な構造を示した説明図である。具体的には、
図2は、ヘッドバンド1C並びにスライダ保持部20の一部の部品の図示を省略して、ヘッドバンド1Cの内部の溝部に収容されたスライダ1Eの構成を説明する斜視図である。
図3は、一方のスライダ保持部20の構成部品を説明する展開斜視図である。また、
図4および
図5は、一方のスライダ構造を説明する拡大図である。
図4では、スライダ保持部20の一部の部品の図示を省略している。また、
図5は、
図4におけるA−A’断面図であり、
図4の視点の方向とは直交する横方向からスライダ保持部20の構造を図示している。
【0028】
本実施例のヘッドホン1では、スライダ1Eは、ヘッドバンド1Cの内部の溝部に収容され、または、ヘッドバンド1Cの端部から出現することで、ハウジング2をヘッドバンド1Cに近づける、もしくは遠ざける様に摺動する動作を可能にしている。スライダ1Eは、ヘッドバンド1Cの端部に設けられるスライダ保持部20に保持される被保持部10を有する。被保持部10は、スライダ1Eのヘッドバンド1C側であって、湾曲したアルミニウム合金製の短冊状の基体を有する。被保持部10には、スライダ1Eが摺動可能な範囲に渡って長孔状のスリット11が形成されている。
【0029】
スライダ1Eの被保持部10には、スライダ保持部20に保持される際に嵌合するような凹凸が設けられていない。また、スライダ1Eの被保持部10の短冊状の基体において、スリット11が形成される場合に、スリット11を規定する端面12にも凹凸は設けられていない。したがって、ヘッドホン1では、スライダ1Eおよびスライダ保持部20は、ハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を、スリット11が形成されている所定の範囲内で無段階的に位置を定めるように動作する。
【0030】
スライダ保持部20は、スライダ1Eの被保持部10を保持するように、複数の部品から構成されている。スライダ保持部20は、外側固定部材21と内側固定部材25とを複数のネジ28で連結して形成する筐体の内部に、スライダ1Eの被保持部10を通過させて、被保持部10に付勢力を与える弾性部材を有している。スライダ保持部20の筐体は、相対的に摺動する被保持部10の短冊状の基体を通過させてその位置を決める位置決め部材29を、外側固定部材21と内側固定部材25との間に挟むようにして固定している。外側固定部材21並びに内側固定部材25、位置決め部材29は、樹脂材料により形成されている。
【0031】
スライダ保持部20は、スライダ1Eの被保持部10に摩擦による付勢力を与える弾性部材として、板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、を備えている。板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、は、外側固定部材21並びに内側固定部材25に、それぞれが有する突起を介して固定されている。
【0032】
板バネ部材22および24は、弾性変形可能な樹脂材料により形成されており、両端の平面部分が固定され、その間に曲面部を形成してその頂部が弾性変形で変位する構造を有する。板バネ部材22および24の固定される平面部には、外側固定部材21または内側固定部材25に設けられる突起26が通過する貫通孔を有している。また、板バネ部材24の固定される平面部には、円柱弾性部材23が通過するU字状の凹部が形成されている。もう一方の板バネ部材22の固定される平面部には、円柱弾性部材23を固定する突起30が通過するU字状の凹部が形成されている。
【0033】
板バネ部材22は、被保持部10の短冊状の基体に対して外側から付勢力を与えるように、固定部側が外側固定部材21に固定されて、板バネの頂部が被保持部10の外側平面に当接する。また、板バネ部材24は、板バネ部材22とほぼ同一形状の板バネであって、固定部側が内側固定部材25に固定されて、板バネの頂部が被保持部10の内側平面に当接する。したがって、板バネ部材22および24は、被保持部10の短冊状の基体を挟み込むように第1の付勢力を与える。板バネ部材22および24は、弾性変形可能な金属材料により形成されていてもよい。
【0034】
一方で、円柱弾性部材23は、外形が略円筒形状となる弾性変形可能なシリコン樹脂材料により形成されており、外側曲面部と、中心軸部分に貫通孔を規定する内側曲面部と、両端の平面部と、を有する。円柱弾性部材23の貫通孔には、外側固定部材21の突起30と、内側固定部材25の突起27と、がそれぞれ挿入されて、円柱弾性部材23は外側固定部材21並びに内側固定部材25に対して固定される。したがって、円柱弾性部材23の外側曲面部は、力が加わると弾性変形で変位する構造を有する。柱弾性部材23は、ゴム材料により形成されていてもよい。
【0035】
スライダ保持部20において、円柱弾性部材23は、スライダ1Eの被保持部10に形成されている長孔状のスリット11を通過するように組み立てられる。円柱弾性部材23の直径寸法は、スリット11の幅寸法とほぼ一致する、あるいはそれよりも若干大きく設定されているので、弾性変形する円柱弾性部材23の外側曲面部は、スリット11を規定する端面12に当接して、スライダ1Eの被保持部10に対して第2の付勢力を与える。スリット11は、スライダ1Eが摺動可能な範囲に渡って設けられているので、スリット11を通過する円柱弾性部材23は、スライダ1Eの摺動範囲を規制するように機能する。
【0036】
スライダ保持部20において、スライダ1Eの被保持部10に対して、板バネ部材22および24が短冊状の基体を挟み込むように与える第1の付勢力と、スリット11を通過する円柱弾性部材23が端面12に与える第2の付勢力と、は略直交する方向にそれぞれ作用する。第1の付勢力および第2の付勢力が、略直交する方向に被保持部10に加わるので、スライダ1Eの被保持部10はスライダ保持部20に強く保持されることになる。少なくともいずれか一方のみが作用する場合に比べて、容易に相対位置がずれないようにできる。
【0037】
また、スライダ1Eの被保持部10に対する、板バネ部材22および24の摩擦係数と、円柱弾性部材23の摩擦係数は異なるので、与える第1の付勢力および第2の付勢力は、相互に異なるものになる。スライダ保持部20は、スライダ1Eの被保持部10の材料、表面処理、および寸法構造と、板バネ部材22および24の材料および寸法構造と、円柱弾性部材23の材料および寸法構造と、を適切に設計することで、適度な付勢力を与えて、容易にスライダ保持部20とスライダ1Eの被保持部10との相対位置がずれないようにすることができる。
【0038】
スライダ1Eの被保持部10を保持するスライダ保持部20は、上記の通りに板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、を備えているので、例えば一方の板バネ部材22および24のいずれかを含む機械共振系で共振が発生するような場合にも、他方の円柱弾性部材23が共振を抑制するように作用する。その逆の場合も同様である。したがって、スライダ保持部20は、ヘッドバンド1Cおよびスライダ1Eにおける不要な振動を抑制するので、この振動がハウジング2に伝達しにくくなる。その結果、ヘッドホン1は、再生音質に優れるものになる。ヘッドホン1は、装着するユーザーの頭部および耳部に合わせてハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を調整することができるだけで無く、スライダ1Eにおける不要な振動が再生音質に影響を与えることを防ぐことができる。
【0039】
上記実施例では、スライダ保持部20は、板バネ部材22および24と、円柱弾性部材23と、を備えているが、第1の付勢力を与える弾性部材と、この第1の付勢力と略直交する方向に作用する第2の付勢力を与える弾性部材と、は、他の弾性変形可能な弾性体・弾性構造体を用いることができる。もちろん、同一の弾性材料を用いてもよく、第1の付勢力と第2の付勢力とが略直交する方向にスライダ1Eの被保持部10に対して作用するようにすればよい。例えば、板バネ部材22および24に代えて円柱弾性部材23と同じ弾性材料で円柱状に形成する弾性部材を用意して、一端側を外側固定部材21又は内側固定部材25に固定し、他端側を被保持部10の外側平面又は内側平面に当接するようにしてもよい。
【0040】
また、スライダ1Eの被保持部10に対して第1の付勢力を与える板バネ部材22を備えていれば、スライダ1Eの被保持部10にスリット11を設けなくてもよい。例えば、スリット11を規定する端面12と同様に、第2の付勢力が作用する略直交する角度になる被保持部10の短冊状の基体の側面に対して、弾性変形する円柱弾性部材23の外側曲面部が当接するようにして、第2の付勢力を与えるようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施例では、スライダ1Eの被保持部10と、スリット11を規定する端面12と、にはスライダ保持部20に保持される際に嵌合するような凹凸が設けられていない。ただし、それぞれに複数の段階的に配置する凹または凸を設け、また、スライダ保持部20の第1の付勢力を与える弾性体と、第2の付勢力を与える弾性体と、にこれらの凹または凸に嵌合するような凸または凹を設けて、ハウジング2とヘッドバンド1Cとの間の相対的な位置関係を、段階的に定めるようなものにしてもよい。
【0042】
また、上記実施例のヘッドホン1では、ヘッドバンド1Cがその両端にスライダ1Eを保持するスライダ保持部20を備えているが、スライダ保持部20をハウジング2の側に設けて、スライダ1Eをヘッドバンド1Cに連結するように設けてもよい。上記実施例のようにハンガー1Dを備えるような場合には、スライダ保持部20をハンガー1Dに設けて、スライダ1Eをヘッドバンド1Cに連結するように設けてもよい。ヘッドバンド1Cがスライダ1Eを備えるような場合であっても、スライダ1Eにおける不要な振動がハウジング2に伝搬するのを抑制することができるので、再生音質に悪影響を与えにくいヘッドホンを構成することができる。