(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516086
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ダブルラッセル地、及びこれを用いたシューズ用アッパー材
(51)【国際特許分類】
D04B 21/14 20060101AFI20190513BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20190513BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
D04B21/14 Z
D01F6/62 302E
D01F6/62 303F
A43B23/02 101A
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-196391(P2014-196391)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-67367(P2016-67367A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】手島 宏一
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−255894(JP,A)
【文献】
特開2011−144945(JP,A)
【文献】
特開平11−241211(JP,A)
【文献】
特開2005−290587(JP,A)
【文献】
特開2005−102933(JP,A)
【文献】
特開平10−000103(JP,A)
【文献】
特開2016−069736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−1/28
21/00−21/20
A43B1/00−23/30
A43C1/00−19/00
A43D1/00−999/00
B29D35/00−35/14
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面、裏面、及びそれらをつなぐ中間層を有するダブルラッセル地において、該中間層の少なくとも一部に十字断面を有するモノフィラメントが用いられることを特徴とするダブルラッセル地。
【請求項2】
前記十字断面を有するモノフィラメントがポリエステル繊維及び/またはポリアミド繊維からなることを特徴とする、請求項1に記載のダブルラッセル地。
【請求項3】
前記十字断面を有するモノフィラメントが10〜60dTexの繊度であることを特徴とする、請求項1または2に記載のダブルラッセル地。
【請求項4】
前記ダブルラッセル地において、前記十字断面を有するモノフィラメントが中間層全体に対して50wt%以上用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のダブルラッセル地。
【請求項5】
厚みが1.3〜3mmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のダブルラッセル地。
【請求項6】
前記ダブルラッセル地において、用いられるすべての糸がポリエステル繊維からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のダブルラッセル地。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のダブルラッセル地を用いたシューズ用アッパー材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間層に十字断面糸を使用することを特徴とするダブルラッセル地、及びこれを用いたシューズ用アッパー材に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルラッセル地は表面、裏面、そして表面と裏面とをつなぐ中間層の3層構造を持ち、生地自体にクッション性があることで、それを活かしてベッドマット、椅子地、シューズ等に広く用いられている。例えば、特許文献1にはダブルラッセル地を用いたシューズが開示されている。
【0003】
しかしながら、クッション性を大きくしようとすれば、中間層に使用する糸の単糸繊度を大きく、また密度を大きくすればよいが、裏面から表面、表面から裏面への液体の移動が阻害されたり、コストが大きくなったり、重くなったりするという課題がある。一方で、裏面から表面、表面から裏面への液体の移動の向上を意図する場合、中間層に使用する糸の単糸繊度を小さく、また密度を大きくすればよいが、クッション性が損なわれたり、コストが大きくなったり、重くなったりするという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−230151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、表面から裏面、裏面から表面への液体の大きな移動性を有しつつ、かつ、優れたクッション性を兼ね備える軽量なダブルラッセル地、及びこれを用いたシューズ用アッパー材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の構成は、表面、裏面、及びそれらをつなぐ中間層を有するダブルラッセル地において、該中間層の少なくとも一部に十字断面を有するモノフィラメントが用いられることを特徴とするダブルラッセル地である。
【0007】
本発明のダブルラッセル地は、前記十字断面を有するモノフィラメントがポリエステル繊維及び/またはポリアミド繊維からなることを特徴とすることが好ましい。
【0008】
また、本発明のダブルラッセル地は、前記十字断面を有するモノフィラメントが10〜60dTexの繊度であることを特徴とすることが好ましい。
【0009】
前記ダブルラッセル地において、前記十字断面を有するモノフィラメントが中間層全体に対して50wt%以上用いられることを特徴とすることが好ましい。
【0010】
また、前記ダブルラッセル地は、厚みが1.3〜3mmであることを特徴とすることが好ましい。
【0011】
さらに、前記ダブルラッセル地において、用いられるすべての糸がポリエステル繊維からなることを特徴とすることが好ましい。
【0012】
本発明の第二の構成は、前記ダブルラッセル地を用いたシューズ用アッパー材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、表面から裏面、裏面から表面への液体の大きな移動性を有しつつ、かつ、クッション性も有する軽量なダブルラッセル地を提供し、その特長を活かし、特にシューズ用に使用することができる。なお、本発明における液体としては、シューズ用途の場合に足の部分に発生した汗等の水分を想定しており、本発明のダブルラッセル地は液体移動性が大きいために、乾きやすく、足の蒸れを軽減することができるといった効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明においてダブルラッセル地とは、2列のニードルをもつダブルラッセル機で編み立てられた生地であり、表面、中間層、裏面の3層に区分されていることを特徴としている。8ゲージから28ゲージまでのダブルラッセル機が一般的であり、本発明に使用される機械は特に限定されない。前記の2列のニードル間は通常「釜間」と呼ばれているが、この釜間についても制約は特になく、通常は1.5〜10mmが、生地厚、クッション性等から適宜選ばれる。特に、シューズ用アッパー材等に使用する場合、染色加工後の生地の厚みが1.3〜3mmとなるように、釜間は1.5〜5mmの間で選ばれることが好ましい。
【0015】
本発明のダブルラッセル地において、表面、及び裏面に使用される糸の種類は特に限定されないが、シューズ用アッパー材等に使用される場合、機械的強度、耐薬品性、変色のしにくさ等からポリエステル繊維の使用が好ましい。また、表面、及び裏面に使用される糸の繊度についても特に限定されないが、56〜700dTexが一般的である。さらに、断面形状についても特に限定はなく、丸断面、異形断面いずれも用いることができる。
【0016】
一方、本発明のダブルラッセル地の中間層に用いられる糸は、ポリエステル繊維及び/またはポリアミド繊維であることが好ましい。例えば、ポリプロピレン繊維では耐熱性が小さく好ましくないが、それらと比較して、耐熱性、機械的強度、耐薬品性に優れている点でポリエステル繊維、あるいはポリアミド繊維が好ましく、変色のしにくさから、ポリエステル繊維がより好ましい。すなわち、特に好ましいのは、表面、裏面、及び中間層に用いられるすべての糸がポリエステル繊維からなる態様である。
【0017】
本発明のダブルラッセル地は、中間層に用いられる糸の少なくとも一部が十字断面を有するモノフィラメントであることが必要である。本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、丸断面に比べて軽量であること、中間層に用いたときにクッション性に優れること、さらに表面と裏面との間で液体の移動等が大きいことを見出し、断面形状が十字であるモノフィラメントを用いることが重要であることに到達した。
【0018】
前記十字断面を有するモノフィラメントは、中間層全体に対して50wt%以上用いられることが好ましい。50wt%未満の場合には、クッション性、軽量性、液体の移動性が不十分となるおそれがあり好ましくない。
【0019】
また、前記十字断面を有するモノフィラメントの繊度は、10〜60dTexであることが好ましい。繊度が10dTexより小さいとクッション性に劣り、60dTexより大きいと重量が大きくなるため好ましくない。
【0020】
前記十字断面を有するモノフィラメントの製造方法は特に限定されるものでなく、公知の方法を用いて丸断面のモノフィラメントと同様に生産できる。例えば、1ホールのノズルから溶融紡糸して巻き取る方法で作成しても構わないし、複数、具体的には10のホール数を持つノズルから溶融紡糸して巻き取り、その後分繊工程で作成しても構わない。
【0021】
本発明のダブルラッセル地は、上記機械、及び上記繊維を用いて生地を作成するが、その糸の組み合わせ、組織等に特に制約はない。例えば、シューズ用アッパー材用途では、表面にはハニカム構造が好適に使用され、裏面において、クサリ、テンビ、ハーフ、サテン、二目編等の組織、またはそれらを組み合わせた組織の無地構造が好適に使用される。また、該用途に用いる場合、厚みが1.3〜3mmであることが好ましい。
【0022】
それらで得られた生地を染色加工して仕上げることが多く、それらの手法について特に制約はない。必要に応じ、染色工程を省いたり、抗菌、撥水等の付帯加工を施したりする場合もある。
【0023】
本発明のダブルラッセル地は、表面と裏面との間の液体移動性とクッション性を兼ね備えた軽量の生地であることから、シューズ用アッパー材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に何ら限定されるものではない。
【0025】
[クッション性]
10人のパネラーによる官能試験を行い、生地を手で押さえた際に「クッション性に優れている」と判断したパネラーの人数により、下記のように評価した。
○:7人以上がクッション性に優れていると判断
△:4〜6人がクッション性に優れていると判断
×:3人以下がクッション性に優れていると判断
【0026】
[液体移動性]
水溶性赤色インクを含んだ蒸留水を片面にスポイドで1滴静かに落とし、10秒経過後、反対側の面に移動した液体による円の直径を測定し、比較した。該直径が大きい値となるほど生地の液体移動性が高いと判断した。
【0027】
[実施例1及び2、比較例1及び2]
釜間3mmの22ゲージダブルラッセル機にて、表面にはポリエステル繊維167dTex/36フィラメントを用い、ハニカムメッシュ構造で編み立て、中間層にて表1に記載したポリエステル繊維からなるモノフィラメントを用いて表面と裏面をつなぎ、裏面にはポリエステル繊維167dTex/48フィラメントを用い、クサリ編×ハーフ組織で編み立てをすることで、それぞれの例についてダブルラッセル生機を得た。この生機を190℃でプレセットした後、130℃の染色温度で染色し、140℃の仕上げセットをし、24ウェール/2.54cm、48コース/2.54cmの密度に仕上げた。
【0028】
得られた生地の目付、クッション性、液体移動性は表1の通りで、中間層に十字断面を有するモノフィラメントを用いた実施例1及び2は、丸断面のモノフィラメントのみの比較例に対してクッション性及び液体移動性の点で優れる結果となった。
【0029】
【表1】