【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 STARCワークショップ2014のショートプレゼンテーションおよびポスターセッションにおいて、2014年9月3日に公開した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記カオス発振モードは、上記半導体チップの第1及び第2の共振回路と、上記パッケージの第3の共振回路との結合係数に対する、上記半導体チップの第1及び第2の共振回路の抵抗の抵抗値の領域において、上記結合係数が0を超える領域で存在することを特徴とする請求項2記載の発振回路装置。
上記発振回路は、上記第1の共振回路が上記第3の共振回路を介して上記第2の共振回路に非接触で結合することで発振することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の発振回路装置。
上記第1の共振回路と、上記第2の共振回路と、上記第3の共振回路はそれぞれ、LCR共振回路であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の発振回路装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−525255号公報
【特許文献2】特開2008−108003号公報
【特許文献3】特開2010−026732号公報
【特許文献4】特開2013−143909号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE Spectrum Magazine, published by IEEE in October, 2013, pp. 37-41.
【非特許文献2】スティーヴン・ストロガッツ著,蔵本由紀監修,長尾力訳,「Syncc(シンク):なぜ自然はシンクロしたがるのか」,早川書房,2005年
【非特許文献3】郡宏,「振動と同期の数学的思考法I」,時間生物学,Vol.18,No.1,2012年
【非特許文献4】Masanori Shinriki et al., "A Simultaneous Asynchronous Oscillator with both Nonlinear Positive and Negative Conductance Connected in Series," Proceedings of The IEEE, published by IEEE, Vol. 67, No. 2, February 1979.
【非特許文献5】Noriyuki Miura et al., "A 2.7 Gb/s/mm2 0.9pJ/b/Chip 1 Coil/Channel ThruChip Interface with Coupled-Resonator-Based CDR for NAND Flash Memory Stacking," Proceedings of 2011 International Solid-State Circuits Conference (ISSCC 2011), Session 28, DRAM & High-speed I/O, 28.2, pp. 490-491, February 2011.
【非特許文献6】Yasuhiro Take et al., "3D Clock Distribution Using Vertically/Horizontally-Coupled Resonators," Proceedings of 2013 International Solid-State Circuits Conference (ISSCC 2013), Session 14, Digital PLLs and Building Blocks, 14.6, pp. 258-259, February 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、インクトナーカートリッジの偽造防止用の認証ICを不正に複製した模造トナーカートリッジが販売されていたり、映像コンテンツを管理するためのセキュリティICが複製及び販売されて映画や音楽等の著作権データの不正なダウンロードとコピーが実際に行われており、莫大な損害を出している。サプライチェーンの信頼性は、企業の信用と利益に直結する極めて重要な基盤要素であり、半導体業界においては、デバイスの真正性を確保できる、高信頼サプライチェーンの確立が急務である。
【0007】
例えば特許文献1〜3では、共振回路を用いてセキュリティ機能を実現するセキュリティタグ等が提案されているが、回路構成がきわめて簡単であってセキュリティレベルが低いという問題点があった。
【0008】
また、特許文献4では、近接場で通信している装置間に周辺装置が存在する場合、近接場の変化に基づいて周辺装置の存在を検出する近接場通信セキュリティ方法及びその装置を提供するために、近接場の磁場の変化に基づいて信号の送受信が相互約束された通信装置ではない周辺装置の存在を検出する検出部と、前記周辺装置の存在を検出すると、前記周辺装置で前記信号の送受信が相互約束された通信装置間にて送受信する信号の解読ができないように前記通信装置から送信するエネルギーの量を制御する制御部とを備える。しかし、送信するエネルギーの量を制御するという複雑な制御方法を必要とするという問題点があった。
【0009】
本発明の目的は、従来技術に比較して高いセキュリティレベルでかつ簡単な回路を用いて、半導体装置が真正品であるか否かを検出して真正性を確保することができる半導体装置のための発振回路
装置及びそれを用いた半導体装置、並びに半導体装置の真正性検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る発振回路
装置は、半導体チップをパッケージでカバーすることにより構成される半導体装置を認証するための発振回路
装置であって、
上記半導体チップに設けられ、負性抵抗回路を有する第1の共振回路を備え複数の発振モードで発振する発振回路と、第2の共振回路とを備える第1の回路部と、
上記パッケージに設けられ、上記第1及び第2の共振回路に非接触で結合された第3の共振回路を備える第2の回路部とを備えることを特徴とする。
【0011】
上記発振回路
装置において、上記複数の発振モードは、同期発振モードと、カオス発振モードとを含むことを特徴とする。
【0012】
また、上記発振回路
装置において、上記カオス発振モードは、上記半導体チップの第1及び第2の共振回路と、上記パッケージの第3の共振回路との結合係数に対する、上記半導体チップの第1及び第2の共振回路の抵抗の抵抗値の領域において、上記結合係数が0を超える領域で存在することを特徴とする。
【0013】
さらに、上記発振回路
装置において、上記発振回路は、上記第1の共振回路が上記第3の共振回路を介して上記第2の共振回路に非接触で結合することで発振することを特徴とする。
【0014】
またさらに、上記発振回路
装置において、上記第1の共振回路と、上記第2の共振回路と、上記第3の共振回路はそれぞれ、LCR共振回路であることを特徴とする。
【0015】
第2の発明に係る半導体装置は、半導体チップをパッケージでカバーすることにより構成される半導体装置において、
上記発振回路
装置と、
上記発振回路
装置で発生される発振信号を上記第2の共振回路で検出する発振検出回路と、
上記発振信号の発振モードに基づいて、上記半導体チップ及び上記パッケージを含む半導体装置を認証するか否かを検出する制御回路とを備えることを特徴とする。
【0016】
第3の発明に係る半導体装置の真正性検出方法は、半導体チップをパッケージでカバーすることにより構成される半導体装置が真正性を有することを検出する半導体装置の真正性検出方法であって、
上記半導体装置は、
上記発振回路
装置を備え、
上記発振回路
装置で発生される発振信号を上記第2の共振回路で検出するステップと、
上記発振信号の発振モードに基づいて、上記半導体チップ及び上記パッケージを含む半導体装置を認証するか否かを検出するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る半導体装置によれば、従来技術に比較して高いセキュリティレベルでかつ簡単な回路を用いて、半導体装置が真正品であるか否かを検出して真正性を確保することができる半導体装置のための発振回路
装置及びそれを用いた半導体装置、並びに半導体装置の真正性検出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の構成例を示す縦断面図である。
【
図2】従来例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の第1の構成例を示す縦断面図である。
【
図3】従来例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の第2の構成例を示す縦断面図である。
【
図4A】比較例に係る起動認証鍵のセキュリティ機能を有する連結振り子の構成を示す正面図である。
【
図4B】
図4Aの連結振り子が同期発振して認証成功する場合を示す正面図である。
【
図4C】
図4Aの連結振り子がカオス発振して認証失敗する場合を示す正面図である。
【
図5A】比較例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の結合線路である二層直交配線コイルの構成例であって、第1の配線層を示す平面図である。
【
図5B】
図5Aの二層直交配線コイルの第1及び第2の配線層を示す平面図である。
【
図6】比較例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置を試作したときの初期評価用テスト半導体チップの写真である。
【
図7】(a)は
図6の半導体チップの回路を用いてシミュレーションにより発生した同期発振の発振信号波形を示す波形図であり、(b)は
図6の半導体チップの回路を用いてシミュレーションにより発生したカオス発振の発振信号波形を示す波形図である。
【
図8A】比較例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置のための発振回路を示す回路図である。
【
図8B】
図8Aの発振回路の負性抵抗回路10の構成を示す回路図である。
【
図9】(a)は
図8の発振回路を用いて発生した弱振幅発振の発振信号波形を示す波形図であり、(b)は
図8の発振回路を用いて発生したカオス発振の発振信号波形を示す波形図であり、(c)は
図8の発振回路を用いて発生した強振幅発振の発振信号波形を示す波形図である。
【
図10】本発明の実施形態1に係るセキュリティ機能を有する半導体装置のための発振回路を示す回路図である。
【
図11】
図10の発振回路における、チップコイルとパッケージコイルとの間の結合係数k’に対するチップコイルの寄生抵抗Rの領域において各種発振が発生する領域を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態2に係るセキュリティ機能を有する半導体装置のための発振回路を示す回路図である。
【
図13】
図12の発振回路における、チップコイルとパッケージコイルとの間の結合係数k’に対するチップコイルの寄生抵抗Rの領域において各種発振が発生する領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0020】
1.本発明の目的及び特徴
本発明の目的は、チップ及びパッケージ内の既存配線層により形成した非接触結合路で両者を相互認証することで、セキュリティデバイスの偽造や改竄を検知し、模造品デバイスの流通を根絶するチップ・パッケージインタラクティブ回路技術を開発することにある。
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の構成例を示す縦断面図である。
図1において、半導体チップ1上にパッケージ2がカバーされて例えば接着されて一体化されて例えばLSIなどの半導体装置として出荷される。半導体チップ1には、外部接続用の線路導体L11,L12と、内部の既存配線の線路導体L13とが設けられ、本発明では、半導体チップ1の線路導体L13に接続された既存配線の線路導体L21と、パッケージ2内の既存配線の線路導体L22との間で非接触結合路を形成して、当該非接触結合路の結合路特性を非接触で検出して、半導体チップ1とパッケージ2との間の相互認証を行うことを特徴とし、特に、当該非接触結合路により発振回路を形成し、その発振モードを用いて上記相互認証を行うことを特徴としている。そして、本発明では、チップ及びパッケージの標準製造プロセスで用いられている既存配線層における未使用の配線リソースを最大限に利活用した結合路と、標準CMOSプロセスにおける小面積・低消費電力のデジタルセンサ回路技術を駆使することにより、コストアップなし(または限りなくゼロ)のデバイス真正性確保技術の確立を目指す。
【0022】
2.本発明の意義及び位置づけ
本発明が取り上げている研究テーマは、全世界の全半導体企業の共通課題である。現在セキュリティに強く関わる半導体を製造している企業だけの問題ではない。例えば、電子化が急速に進む自動車産業は、現在ほぼ全ての国内半導体企業が参入している市場であり、レーダー、車々間通信、自動走行を中心に今後も間違いなく拡大していく分野である。これらの分野で使用される車載ICは、人命に関わるゆえに強固なセキュリティレベルが必要であり、模造品の流通は絶対に許されない。また、近い将来到来するIoT(Internaet of Things)、IoE(Internet of Everythings)の時代には、センサ機能を有する半導体ICを搭載したあらゆるモノがネットワークを形成し、人間のプライバシーに深く関わるセンシティブな情報を膨大に取得して、インターネット上でやり取りする世界になる。このようなIoT、IoE時代では半導体ICの全てがセキュリティデバイスになる。つまり、将来の全半導体企業において、強固なセキュリティと高信頼のサプライチェーンは必須である。わが国は、特に近年、先端半導体チップの製造やパッケージ組み立て工程を国外にアウトソースするオフショア化(ファブレス、OSAT)が進み、デバイスの偽造や改竄を防止する上で非常に脆弱になっており、チップ設計またはデバイス起動の段階での真正性確保技術が必要不可欠である。
【0023】
図2は従来例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の第1の構成例を示す縦断面図であり、
図3は従来例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の第2の構成例を示す縦断面図である。
【0024】
これまでの対策技術は、パッケージの充填材に特殊な誘電体や磁性体等の特殊材料3を混ぜてパッケージの開封を検知する方式(
図2)や、トランジスタと配線層を分けて個別のチップを製造しTSVでパッケージの再配線層4と合わせて接続する方式(
図3)などで、いずれも特殊な材料や追加プロセスが必要であり、余分な追加コストがかかっている。防衛システム等の特殊用途では問題とならなくても、大多数の民生用途には低コストなデバイス破壊技術及び改竄対策技術が必要である。新材料及び新構造のメリットは大きいが、製品利益の向上のためにも、製造コスト低減に向けた不断の努力が不可欠である。
【0025】
これに対して、本発明では、半導体チップ1とパッケージ2内の配線間に形成する非接触の結合路特性を起動鍵のように用いて相互認証することで、正規のチップと正規のパッケージと正規の組み立て工程のセットをもってはじめて、流通させて起動するセキュリティデバイスをコストアップなしに製造する点にオリジナリティがある(
図1)。従って、ハイボリュームの民生用途から付加価値の高い特殊用途まで適用範囲を制限することなく幅広く使用可能であり、サプライチェーンの標準モデルともなりえる。標準プロセスに準拠した完全回路ソリューションによるコストの低減は製品の利益に直結する極めて重要な技術として産業的に大きな意義がある。本発明のブレークスルーのポイントは、正規の結合状態でのみ再現性高くかつユニークな電磁気的特性を発現する結合路の構造と、攻撃者からの外乱の下でもロバストに結合路特性を計測できる小面積及び低消費電力のセンサ回路にある。
【0026】
3.本発明の課題
本発明のブレークスルーのポイントは、前述の通り結合路の構造とセンサ回路の構成にある。結合路の構造検討においては、正規の結合状態でのみ再現性高くかつユニークな電磁気的特性を発現できる物理現象の利用とその物理メカニズムへの理解が課題となる。また、その結合路自体を複製するのが非常に困難な構造を考案する必要がある。センサ回路の設計においては、攻撃者からの外乱の下でも結合路特性を正確に計測できるロバストなセンサ回路が課題となる。また、ゼロコスト化のために、対策技術をチップとパッケージに搭載する上でのハードウェアのオーバーヘッド低減技術を構築する必要がある。具体的には、結合路で消費される配線リソースの低減と、センサ回路の消費する電力及び面積の低減である。
【0027】
4.課題を解決するための第1のプロセス(結合路の構造検討)
結合路の構造については、結合共振現象を応用する。複数の結合した共振器の間に生じる物理現象は、自然界の物理現象にも広く観測されるもので、ゲンジボタルの同期発光や机上メトロノームの同期振動現象などに見られる(例えば、非特許文献2,3参照)。結合共振による同期現象は、第一の物理現象である。結合共振には、カオス発振という第二の物理現象がある(例えば、非特許文献4参照)。
【0028】
物理の3体問題にも見られるように、複数の結合共振器の発振状態(周波数と位相)は、各発振器の初期位相状態に依存するカオス特性を持つ。例えば、初期位相状態を秘密鍵とし、同期発振するかカオス発振するかを判別することによりチップとパッケージの結合線路間の相互認証を行う。どちらの発振状態になるかは、結合線路の物理特性(インピーダンスの周波数特性)、結合強度(結合距離)、発振開始位相の組み合わせセットを知る回路及び実装設計者のみである。例えばユーザーは、サプライヤの提示した発振開始位相で結合共振を開始する(認証コマンドの送信)。チップ内の相互認証用センサ回路が想定される発振状態を検出できなければ、模造品と判断して回路を起動しない(チップとパッケージの相互認証)。この起動認証鍵の原理は、
図4A〜
図4Cを参照して以下に示す2連結振り子のアナロジーにより説明できる)。
【0029】
図4Aは比較例に係る起動認証鍵のセキュリティ機能を有する連結振り子の構成を示す正面図である。
図4Bは
図4Aの連結振り子が同期発振して認証成功する場合を示す正面図である。
図4Cは
図4Aの連結振り子がカオス発振して認証失敗する場合を示す正面図である。
図4A〜
図4Cにおいて、連結振り子は、2つのアームA1,A2が関節Jで連結されて構成され、アームA1の一端は関節Jに連結され、その他端は固定端Oで固定されている。
【0030】
例えば、各アームA1,A2の長さ及び連結部分の関節Jに働く力及び初期位置を、各結合線路のインピーダンス、結合強度、発振開始位相と考える。連結振り子の物理特性を全て把握していない限り、動機発振させることは極めて困難である。連結振り子については、形状の目視や連結部分の強度の確認が可能であり、数回の試行により任意の発振状態を再現できる。しかし、結合線路については形状を目視しても特性の推測は困難であり、非接触結合強度の測定も困難であるため、起動鍵の予測や複製は極めて難しい。また、配線の材料や周囲の誘電率によって特性が異なるため、目視形状が同一でも製造プロセスが異なれば、やはり模造品として判別できる。このように結合共振現象の物理的特長を利用して、再現性とユニーク性を併せもつ認証特性を追及でき、結合共振状態をチップ上のセンサ回路で検出して相互認証できる。なお、本発明者らは、誘導結合した多段LC発振器の結合共振現象を用いたスキューレスの三次元積層チップ間クロック分配技術を世界に先駆けて確立し、それに関する論文(非特許文献5,6参照)を発表している。
【0031】
5.課題を解決するための第2のプロセス(結合路のオーバーヘッド低減)
図5Aは比較例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置の結合線路である二層直交配線コイルの構成例であって、第1の配線層を示す平面図である。また、
図5Bは
図5Aの二層直交配線コイルの第1及び第2の配線層を示す平面図である。ここで、第1の配線層は配線導体M1,M2を備えて構成される。
【0032】
結合線路には、
図1の半導体チップ1及びパッケージ2内で使用されている既存の配線層を用いることで、追加の製造コストがかからないようにする。さらに結合線路を搭載する上でのオーバーヘッドを低減するためには、結合線路で消費される配線リソースを最小限に抑える必要がある。本発明者らは、
図5A及び
図5Bに示すように、縦横に直交するコイルの配線に2層の異なる配線層を用いるレイアウト技術を考案した。この技術により、コイルはデジタル信号配線をブロックすることなくデジタル信号配線の中に埋没させることができる。必要な配線リソースは、コイルの各辺を形成する最小限の配線トラックに抑えることができる。類似の技術を用いて可能な限り未使用の配線リソースで結合路を形成することで、コストアップなし(限りなくゼロ)で結合路を搭載できると考えている。また、この技術を用いれば、結合路を配線の海の中に隠匿して、セキュリティ強度を高めることも可能である。類似の技術は、半導体チップ1内の多層配線だけでなく、パッケージ2内の多層配線でも適用可能である。また、本発明方式は、その他のインタポーザ、フリップチップ、チップオンボード等の実装形態に依らず、幅広く適用可能である。
【0033】
6.課題を解決するための第3のプロセス(センサ回路の構造検討とオーバーヘッド低減)
結合路特性を同期発振とカオス発振の異なる2つの発振現象として計測するセンサ回路は、発振周波数状態の安定度を検出すればよく、最も単純にはデジタルカウンタで実現できる。デジタル志向設計を追及したセンサ回路は、電源電圧や温度変動及びノイズ注入等の攻撃者の意図的な外乱に対してロバストであり、かつ電力・面積等のハードウェアオーバヘッドの低減も可能である。
【0034】
7.比較例
図6は比較例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置を試作したときの初期評価用テスト半導体チップの写真である。また、
図7(a)は
図6の半導体チップの回路を用いてシミュレーションにより発生した同期発振の発振信号波形を示す波形図であり、
図7(b)は
図6の半導体チップの回路を用いてシミュレーションにより発生したカオス発振の発振信号波形を示す波形図である。
【0035】
誘導結合を利用した三次元積層チップ間のクロック分配は、結合同期発振現象を利用したもので、回路技術としては安定的に同期発振するように制御を加えているものである。本発明では、非接触結合路の結合状態と発振開始位相に応じて、結合カオス発振と結合同期発振の二種類の動作を再現性よく発現する結合路を構成する必要がある。そのための事前準備として、まずは結合共振の物理特性を正しく理解するための
図6の初期評価用テストチップを試作した。また、この初期評価用テストチップの設計と平行して行った回路シミュレーションにより、誘導結合を用いた結合共振器において、
図7に示すように、
図7(a)の同期発振と、
図7(b)のカオス発振を確認できた。
【0036】
図8Aは比較例に係るセキュリティ機能を有する半導体装置のための発振回路を示す回路図である。また、
図8Bは
図8Aの発振回路の負性抵抗回路10の構成を示す回路図である。さらに、
図9(a)は
図8の発振回路を用いて発生した弱振幅発振の発振信号波形を示す波形図であり、
図9(b)は
図8の発振回路を用いて発生したカオス発振の発振信号波形を示す波形図であり、
図9(c)は
図8の発振回路を用いて発生した強振幅発振の発振信号波形を示す波形図である。
【0037】
図8Aの発振回路は従来からよく知られている結合共振型カオス発振回路であり、当該発振回路は、端子T1,T2を有する負性抵抗回路10と、ダイオードD1〜D4と、互いに結合係数kで電磁的に結合された1対のコイルL1,L2と、コイルL1の寄生抵抗R1,R2と、コイルL2の寄生抵抗R3,R4と、キャパシタC1,C2とを備えて構成される。ここで、コイルの寄生抵抗R1〜R4に加えて実体のある通常の抵抗を備えてもよい。ダイオードD1,D2は互いに方向が逆方向で互いに並列に接続され、ダイオードD3,D4は互いに方向が逆方向で互いに並列に接続される。コイルL1のインダクタと、抵抗R1、キャパシタC1と、抵抗R2の順序で直列に接続されてLCR共振回路41を構成する。また、コイルL2のインダクタと、抵抗R3、キャパシタC2と、抵抗R4の順序で直列に接続されてLCR共振回路42を構成する。
【0038】
負性抵抗回路10の端子T1は、ダイオードD1のカソード、ダイオードD2のアノード、抵抗R1の一端及びキャパシタC1の一端の接続点に接続され、負性抵抗回路10の端子T2は、ダイオードD3のカソード、ダイオードD4のアノード、抵抗R2の一端及びキャパシタC1の他端の接続点に接続される。また、発振検出回路5の入力端子T11は、ダイオードD1のアノード、ダイオードD2のカソード、抵抗R3の一端及びキャパシタC2の一端の接続点に接続され、発振検出回路5の入力端子T12は、ダイオードD3のアノード、ダイオードD4のカソード、抵抗R4の一端及びキャパシタC2の他端の接続点に接続される。発振検出回路5は入力される発振信号の信号電圧を検出する。
【0039】
なお、
図8Aの発振検出回路5は、キャパシタC2の両端から発振信号電圧を得ているが、本発明はこれに限らず、コイルL2又はL1の両端もしくはコイルL1,L2に対して別のコイルを用いて電磁的に疎結合して発振信号電圧を得てもよい。また、LCR共振回路41,42において抵抗値が実質的に0であるときはLC共振回路となる。
【0040】
図8Bの負性抵抗回路10は負性抵抗回路の一例であって、クロスカップルペア回路を構成する4つのMOSトランジスタQ1〜Q5と、端子T3に印加されるゲート電圧VGによりソース電流が制御されるMOSトランジスタQ5と、端子T1,T2とを備えて構成される。
【0041】
以上のように構成された結合共振型カオス発振回路は、負性抵抗回路10を有するLCR共振回路41(これにより、発振回路を構成する)に別のLCR共振回路42を電磁的に結合させることによって実現できる。このとき、2つのLCR共振回路41,42の結合を双方向のダイオードD1〜D4にて結合させ、非線形の結合路を形成することで、結合共振型カオス発振回路を実現することができる。各LCR共振回路41,42は単純には、配線で形成したコイルL1,L2によって形成できるが、各コイルL1,L2の寄生抵抗R1〜R4の合計抵抗値R(=R1+R2+R3+R4)によって、この結合型共振回路は、同期発振するかカオス発振するかが選択されることになる。抵抗値Rが小さい場合は、
図9(c)に示すように、強振幅発振モードで比較的大きな振幅で両共振回路41,42は同期発振する。また、抵抗値Rが大きい場合は、
図9(a)に示すように、弱振幅発振モードで比較的小さな振幅で両共振回路41,42は同期発振する。抵抗が大きすぎる場合は、両共振回路41,42ともに発振しない。この強振幅発振モードと弱振幅発振モードの境界付近でランダムな発振を伴うカオス発振モードが
図9(b)に示すように発現する。
【0042】
例えば、コイルL1,L2を別の金属材質を用いて作成すると抵抗値Rが変動するため、所望の発振を得ることができない。つまり別の工場で異なる材質で作成された模造品を検知できる。また、この適切な抵抗の境界領域は、非線形結合の強度やその他の回路パラメータによっても変動するため、ダイオードD1〜D4の大きさや負性抵抗用のMOSトランジスタQ1〜Q4のサイズなどの正しい構成パラメータを知らない場合にも所望の発振を導き出すのは難しい。ただし、この構成の発振回路を直接半導体チップ1とパッケージ2間の非接触相互認証に適用することはできない。なぜなら非線形結合のためのダイオード接続が有線接続になるため、この回路構成では、非接触で実現するのが困難なためである。
【0043】
8.実施形態1.
図10は本発明の実施形態1に係るセキュリティ機能を有する半導体装置のための発振回路を示す回路図である。なお、
図12の負性抵抗回路10は例えば
図8Bの回路を用いる。また、
図11は
図10の発振回路における、チップコイルとパッケージコイルとの間の結合係数k’に対するチップコイルの寄生抵抗Rの領域において各種発振が発生する領域を示す図である。
図10において、実施形態1に係る発振回路は、
図8Aの発振回路に比較して以下の点が異なる。
(1)半導体チップ1において、
図8Aの結合型発振回路を有する第1の回路部31と、発振検出回路5に加えて、認証制御回路6とを備える。ここで、認証制御回路6は、発振検出回路5により検出された発振信号電圧に基づいて、半導体チップ1及びパッケージ2間で相互認証させて、半導体チップ1及びパッケージ2からなる半導体装置が真正品であるか否かを判断して(すなわち、真正性を有するか否かを検出して)真正品であるときは半導体装置を例えば動作状態にする一方、真正品ではないときは半導体装置を例えば非動作状態にする。
(2)パッケージ2において、コイルL11のインダクタと、コイルL11の寄生抵抗R11と、キャパシタC11と、コイルL11の寄生抵抗R12との順序で直列に接続することでLCR共振回路43を備えた第2の回路部32を構成する。なお、寄生抵抗R11,R12の抵抗値が実質的に0であるときはLC共振回路を構成する。ここで、コイルL1とコイルL11との間、並びに、コイルL2とコイルL11との間は電磁的に結合係数k’で結合するように構成される。
【0044】
実施形態1においては、
図10のカオス発振回路のコイルL1,L2に対して、パッケージ2側配線で形成したLCR共振回路43のコイルL11を非接触結合させる3体結合型共振回路を用いる。当該3体結合型共振回路は、半導体チップ1側の配線プロセスで入れ子構造上に結合した二つのコイルL11,L12を形成し、
図10のカオス発振回路を形成し、パッケージ2側の配線でそれらのオンチップコイルL1,L2と結合する単一コイルL11を形成するものである。
【0045】
図12に示すように、結合の強度を表す結合係数k’の大小によって、3つの発振モードを発現できることが分かる。特に半導体チップ1−パッケージ2間の結合が強すぎるとカオス発振モードが発現しない状態も発生させることができる。
【0046】
認証制御回路6は、発振信号電圧の振幅及び周波数に基づいて3つの発振モードのうちのいずれの発振モードであるかを以下のようにして判断できる。
(1)周波数が一定であって発振信号電圧が所定の第1のしきい値電圧Vth1以上であるときは、強振幅発振モードと判断する。
(2)周波数が一定であって発振信号電圧が所定の第2のしきい値電圧Vth2(<Vth1)以下であるときは、弱振幅発振モードと判断する。
(3)周波数が所定の変化値以上変化するときは、カオス発振モードと判断する。
【0047】
そして、認証制御回路6はカオス発振モードであるときに、当該半導体装置を認証して動作状態にする一方、他の発振モードであるときに当該半導体装置を非動作状態にするように制御する。
【0048】
なお、実施形態1に係る発振回路も相互認証に使用するには不十分な場合がある。なぜなら、結合係数k’が0の場合、すなわちパッケージ2側のコイルL11がない場合においても3つの発振モードを発現できるからである。これでは、半導体チップ1の真正性は認証することができても、パッケージ2及び半導体チップ1とパッケージ2の組立工程の真正性は、認証により確認することができないという問題点があった。この問題点を解決するために以下の実施形態2を提案する。
【0049】
9.実施形態2.
図12は本発明の実施形態2に係るセキュリティ機能を有する半導体装置のための発振回路を示す回路図である。なお、
図12の負性抵抗回路10は例えば
図8Bの回路を用いる。
図13は
図12の発振回路における、チップコイルとパッケージコイルとの間の結合係数k’に対するチップコイルの寄生抵抗Rの領域において各種発振が発生する領域を示す図である。実施形態2に係る発振回路は、
図10の実施形態1に係る発振回路に比較して以下の点が異なる。
(1)ダイオードD2、D4を削除した。
(2)結合係数kを実質的に0に設定した。
【0050】
すなわち、実施形態2は、実施形態1の問題点を改善した半導体チップ1−パッケージ2間での結合共振を用いた相互認証用のカオス発振回路の一例であって、半導体チップ1内のカオス発振回路における双方向ダイオードD1〜D4のうち、負性抵抗回路10を有する共振回路41により構成された発振回路から共振回路42に対して整流方向を有するダイオードD2,D4を削除し、かつ半導体チップ1内のコイルL1,L2間の結合係数を実質的に0にする。パッケージ2側のコイルL11を、半導体チップ1上の2つのコイルL1,L2と電磁的に非接触で結合したとき、共振回路41の発振回路からの発振信号が共振回路43のコイルL11を介して共振回路42のコイルL2に到達してはじめて非線形結合が有効になるようにしたものである。
【0051】
半導体チップ1上の2つのコイルL1,L2を物理的に近距離に配置(重ねてもよい)した上で、結合係数kを実質的に0にする方法として、2つのD字形状コイルを互いに重ねて構成した周知技術のコイルである、いわゆるダブルDコイル形状などが利用できる(これは金属探知機用の結合コイルなどに使われている技術である)。この3体結合型カオス発振回路により、
図13に示すように、半導体チップ1とパッケージ2間の結合がない場合には、カオス発振が発現せず、一定の結合をもってはじめて3つの発振モードを発現できる回路を構成できる。すなわち、結合係数k’が0を超える領域でカオス発振モードが存在することを特徴としている。結合係数k’は、コイル形状(直径や開口部面積や巻き数や配線幅等)とコイル間の距離(チップの厚さや接着剤層の厚さ)に依存するため、これより半導体チップ1の真正性だけでなく、パッケージ2及び半導体チップ1とパッケージ2の組み立て行程の全ての真正性を非接触の相互認証により確認することができる。
【0052】
なお、本発明の本質は、はっきりと区別することが可能な、同期(周期)発振とカオス(非周期ランダム)発振のいずれのモードになるかを認証の手段としていることにある(デジタル的回路により実現される)。ランダム性の品質には依拠していないため、発振モードの区別に複雑な信号解析は不要である。また、上記の実施形態の説明では、カオス発振を認証成功としているが、逆に同期発振を認証成功とするような方式も本発明の範囲である。
【0053】
10.実施形態のまとめ
以上説明したように、本実施形態によれば、半導体チップ1、パッケージ2とそれらの組み立て工程が正規の工場で行われた真正品であることを認証する方式を考案した。半導体チップ1とパッケージ2内の既存配線層内の未使用リソースを用いて形成する非接触の結合路の電気的特性を半導体チップ内の特性検知回路によって測定する。正規チップと正規のパッケージと正規の組み立て工程でなければ発現しない所定の電気的特性を検知できなければ、偽造もしくは改竄された非正規品と判断して回路を起動しない。結合路において発生する結合共振現象を利用して、電気的特性の差異を検出する。結合共振には、一定のリズムで発振する結合同期発振モードと、予測不可能なランダムな信号を発振する結合カオス発振モードの二つの異なる発振状態があり、どちらの発振状態を発現するかは、結合路のインピーダンスと結合強度と発振開始位相に応じて選択的に制御することができる。これらの結合路の電気的特性を設計段階で正しく把握している回路及び組み立て実装設計者のみが正しい発振状態を発現するデバイスを製造することができる。
【0054】
以上詳述したように、従来技術は、特殊な材料や特殊な追加プロセスを必要とするもので、追加のコストが必要であった。本実施形態に係る結合路は、既存の配線層を利用し、かつその内の未使用リソースを使用して半導体チップ1とパッケージ2内に形成できるため、コストアップがなし(もしくは限りなく0)にすることができる。また、結合路を視認できても、結合路の電気的特性は把握するのが極めて困難である。電気的特性を測定できなければ、把握できないが、半導体チップ1及びパッケージ2内に集積された極めて小さな結合路なので電気的特性の測定は困難である。結合路の材質(製造工場のみ正確に把握可能)、結合の強度(組み立て工程及び半導体チップ1とパッケージ2の材質を把握している実装設計者のみが正確に把握可能)及び発振開始位相(電気的特性を把握した上で正しい発振位相を設定しなければならない)の無限の組み合わせを正確に把握しなければ制御できないため、網羅的に探索するのも困難である。
【0055】
結合共振を電気的特性の把握に利用することで、検出精度を高められる。同期発振(一定リズムの発振)とカオス発振(ランダムな信号の発生)は、デジタルの0と1の違いのように根本から異なるため、周波数特性の変化割合を検出するようなアナログ測定とは違い、発信状態の見分けが容易である。最も基本的には、極めて小さなデジタルのカウンタ回路のみで見分けることが可能なので、検知回路のオーバーヘッド(コスト)は、ほぼ無視できるほどに小さい。検知回路がデジタル回路なので、電圧や温度などの変動に対してもロバストに正確な特性の検知が可能である。かつ、悪意ある攻撃者が電磁波などを利用して強い外乱を注入してくるような場合には、結合器の発振状態が変動するので、攻撃そのものの検知も可能である。なお、結合路は既存の半導体チップ1もしくはパッケージ2内の多層配線形成プロセスで形成できる。発振検出回路5についても標準のデジタル集積回路プロセスにしたがって半導体チップ内に製造できる。