【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のグラビア印刷版は、非画線部及び、セル部と土手部を1画素として形成される画線部を有するグラビア印刷版の前記非画線部、及び又は、前記土手部には、複数個の凹部が、前記グラビア印刷版の銅メッキ層に設けられ、前記非画線部、及び又は、前記土手部の前記凹部の占める面積比率は1%から60%であり、前記凹部の表面形状は概四角形又は概円形又は概楕円形で、凹部1個の表面積は、20μm
2〜250μm
2で、深さは、0.1μm〜8μmであり、1画素面積当たりの凹部は2個から400個であり、さらに前記銅メッキ層表面にクロムメッキ層が形成されていることを特徴とする。(以下、本発明を発明1と言う)
【0012】
本発明者は鋭意研究の結果、グラビア印刷版面の非画線部及び画線部の土手に、選択的に微細な凹部(ミクロプール)を設けることにより、ドクターとグラビア印刷版との境界を境界潤滑部(境界潤滑膜を形成)と流体潤滑部として、(ドクターとグラビア印刷版との)凝着部を少なくして摩擦を小さくできるとの結論に至ったものである。
【0013】
非引用文献に示した「潤滑油による摩擦低減技術」と、グラビア印刷のドクターとグラビア印刷版の関係で異なる点は、ドクターが弾性を有する薄板であり凝着部が多くなればドクターのタワミで境界潤滑部を形成しようと作用する点である。従って、実施例1で示すように、非画線部において凝着部が多くなることによりドクターの振動の振幅が大きくなるものと考える。
【0014】
従来のペーパー研磨においては、版面の非画線部と画線部に同様に加圧研磨を行うため前者に十分な研磨傷を設けドクターとグラビア印刷版との摩擦を小さくすると、後者の土手には高圧力での研磨であるため土手部へのダメージは非画線部の何十倍となり土手の損傷が激しく、グラビア印刷版の耐刷力の低下や意匠再現性の低下を招くものであった。
【0015】
本発明1は、グラビア印刷版の非画線部、又は、及び、セル部と土手部で形成される画線部の前記土手部において複数個の凹部を、セルの形成と同時に設けることを可能としたものである。非画線部でグラビア印刷版とドクターの滑りを安定にする凹部を設けるにはこのましい。絵柄を表現する画線部において、土手のエッジと凹部が交差することで土手の直線性が得られないことも想定でき、画線部でグラビア印刷版とドクターの滑りを安定にできず悪化する事もあるため、発明1は単一濃度%又は2段階濃度%、更には低濃度%の絵柄(50%濃度以下)で構成されるグラビア印刷版に使用し、画線部に適した凹部の設定をするのが好ましい。
【0016】
ここで、ダイレクト版のセル形成の特徴を述べると、感光膜の有無により銅メッキ部に腐食液が供給されることで銅が腐食されセルが形成されるが、セルの大小により腐食液のセル部での交換率が異なり、大きなセルは新鮮な腐食液が供給されやすく小さなセルは新鮮な腐食液が供給されにくいため、セルの深度は異なる。本発明はこの現象を利用して非画線部に腐食による深さ(深度)が浅く微細な凹部(ミクロプール)を形成するものである。
【0017】
図1の(A)に、感光膜を形成した100%セル部の平面概念図、(B)に、A図のイ−−−イの断面概念図、(C)に、感光膜を形成した50%セル部の断面概念図、(D)に、本発明の凹部(ミクロプール)を非画線部に形成した断面概念図、(E)に、C図の土手部に本発明の凹部(ミクロプール)を形成した断面概念図を示す。(E図の凹部の数は描画の関係で少ないが、1画素に100個を想定する。)(F)に、1画素に設ける最小の凹部数である2個の場合の平面概念図を示す。(F)に示した太線部が1画素を、太丸が1画素中の凹部である。(A)〜(F)図中に示した数字について、1は1画素、2は感光膜、3は銅メッキ層、4は腐食により形成されたセル、5は腐食により形成された凹部(ミクロプール)を示す。尚、
図1は、1画素を正方形の形状としたセルで示したが、1画素は正方形、六角形、平行四辺形であってもよい。
【0018】
図2に、グラビア版の銅メッキ面に、正方形スクリーン175線で線比が1対4において、100%濃度のセル部、土手部に1画素中に100個の凹部を設けた感光膜の状態を平面概念図示す。更に、
図3に、銅メッキ層を腐食によりセルと凹部を形成した
図2のロ−−−ロの断面概念図を示す。図中に表記したが、セル部のサイドエッチングによりセルと凹部が繋がった部位を示したが、繋がることで土手のエッジは直線でなく波状になりドクターの摩耗は大きくなる。
図4に、50%濃度の1画素セルの平面概念図を示す。
【0019】
図2、
図4において感光膜においては、セル部と土手部に設けた凹部は交われないが、異なる濃度%においては、交差することがある。また、セルの腐食によるサイドエッチングにより交差する場合が考えられ土手部エッジが波状になることもある。尚、サイドエッチングは、セルの版深(セル中央で深く腐食された部分を測定した数値)により異なり、一般的なグラビア印刷版は25μm程度の版深であるが、最近は版深が10μm程度のグラビア印刷版もあり、このような版については、サイドエッチング幅は少なく2μm程度である。
【0020】
非画線部、又は、及び、セル部と土手部で形成される画線部の前記土手部に設ける凹部は、1画素当たり25個から400個を設ければ良いが、凹部を形成する非感光部が微細になると現像に時間を要すること、凹部が少ないとドクターと版面との間に凝着部が多くなりドクターの滑りを阻害することより、1画素中に100個から225個の凹部をもうけるのが好ましい。尚、この1画素中の凹部の個数は175線/インチの線数を想定したもので、線数が異なれば1画素の面積も異なるため適宜1画素中の凹部個数を決めればよい。また、本発明1に適するスクリーン線数は、80線/インチ〜400線/インチの腐食によりセルを形成するダイレクトグラビア印刷版である。
【0021】
また、凹部の形成は、非画線部へはレーザー露光が全面に行われるが、本発明の凹部を形成するするには、非画線部のレーザー露光パターンを凹部が有るパターンとすればよく、合せて絵柄パターンを絵柄濃度に応じて非露光部とすればよい。(100%濃度部から50%濃度部では、セルを形成する土手エッジが長く、土手エッジが波状になるとドクターへの負担が大きくなるため画線部においては、50%濃度部以下に凹部を設けるようにしてもよい。)更に、非画線部と画線部を選択して凹部を設けることで、本発明の画線部と非画線部を有するグラビア印刷版であって、グラビア印刷版の非画線部、又は及び、セル部と土手部で形成される画線部の前記土手部において複数個の凹部を設けることが出来る。
【0022】
非画線部に凹部を設けることで、凹部に塗布されたインキが被印刷物に転移すれば、汚れやカブリの印刷不良となるため、インキが被印刷基材に転移しないよう、インキに使用する溶剤の乾燥性や印刷の速度を考慮すること、被印刷基材がインキ転移の良好なフィルムであるか、ライト部のインキ転移が劣る紙であるかなどを考慮することで、適宜、凹部の表面積を選択すればよい。
【0023】
グラビア印刷版に微細な凹部又は線状溝を設ける方法としては次のような方法がある。クロムメッキ後に付与する方法としては、従来のペーパー研磨を行う、サンドブラストにより凹部或は溝の形成を行うことが出来る。銅メッキ層に凹部を付与する方法としては、本発明の他に、絵柄部となるセルを形成する前又は後にサンドブラストにより凹部を付与することが出来る。但し銅メッキ層は塑性変形し易い素材でありサンドブラストの吹き付け速度とサンドの粒径、形状の管理は難しいものである。
【0024】
また、本発明は絵柄を表現するためのセル形成時に、銅メッキ層の腐食により凹部を設けることが出来るため製造コストへの影響はなく、従来行われていたペーパー研磨の工程を省略することも可能であり合理的な生産方法と言える。
【0025】
本発明のグラビア印刷版は、セル部と土手部で形成される画線部の1画素が、正方形、六角形、又は平行四辺形であって、前記1画素の前記土手部には、土手の外周部に交わらない複数個の凹部が銅メッキ層に設けられ、複数個の全凹部が占める面積比率は、1%から40%であり、前記凹部の表面形状は概四角形又は概円形又は概楕円形で、凹部1個の表面積は、20μm
2〜250μm
2で、深さは、0.1μm〜5μmで、1画素面積当たりの凹部は2個から400個あり、さらに前記銅メッキ層表面にクロムメッキ層が形成されていることを特徴とする。(以下、本発明を発明2と言う)
【0026】
本発明2は、画線部に設けられる土手部において、セルの腐食によりサイドエッチングにより土手部が狭くなっても、土手エッジに凹部が係らないように凹部を土手中央部に配することで、土手の両エッジが直線になるようにするものである。従って、本発明2においては、濃度範囲に応じて1画素中の凹部の個数を変える事で、上記の凹部を土手中央部に配し土手エッジに凹部が係らないように出来るものである。
【0027】
図5に、グラビア版の銅メッキ面に、正方形スクリーン175線で線比が1対4において、100%濃度の1画素中土手部に40個の凹部を設けた感光膜の状態を平面概念図示す。
【0028】
100%濃度のセルを
図5に示したが、
図6に、50%濃度の1画素セルの平面概念図を示す。本発明2の特徴は、カラーなどの広範囲の濃度%で表現される絵柄に対応した感光膜を設け、次いで腐食によるセルと土手の形成において、土手部の両端エッジ(土手エッジ)に、凹部が掛からないよう凹部を土手中央部に配し、セル濃度%により土手部に設ける凹部の列数と間隔を決めておけばよい。
【0029】
本発明2においても、1画素当たり25個から400個を設ければ良いが、凹部を形成する非感光部が微細になると現像に時間を要することは前記発明1と同じであるが、本発明2は画線部に限るものであり、セルは大きな凹部(流体潤滑部)であると考えれば境界潤滑部(境界潤滑膜を形成)への潤滑剤(インキ溶剤等)の供給があるため、1画素中に36個から250個程度の凹部をもうけるのが好ましい。尚、この1画素中の凹部の個数は175線/インチの線数を想定したもので、線数が異なれば1画素の面積も異なるため適宜1画素中の凹部個数を決めればよい。
【0030】
本発明2の説明を上記の通り、1画素が正方形のセル形状について記述したが、次に平行四辺形のセル形状の場合について説明を加える。
図7は、平行四辺形の形状を1画素とする平面概念図で、100%濃度のセル及び太い土手とそれに交わる細い土手を示し、太い土手の中央部に5列の凹部を設けた概念図である。
【0031】
図7に平行四辺形の形状を1画素とする平面概念図を示すが、特許第6233942号及び特許第6319859号に記載した発明と、本発明2を併用して実施することも出来る。この場合、円周方向の太い土手がドクター圧を安定して受け止めること、土手幅を狭くできることにより、正方形のセル形状と比較して同濃度の平行四辺形の形状において、よりドクターの滑りが良くなり、ドクターの摩耗を少なくする効果を得ることが出来る。亀甲形状を1画素とする平面概念図は示さないが特許第6319859号に記載した発明に、凹部を設ければよい。
【0032】
本発明は、請求項1又は請求項2に記載のグラビア印刷版において、グラビア版面に設ける前記凹部の領域は、被印刷物が製品となる有効幅以上で被印刷基材幅未満の範囲であり、前記範囲外には凹部を設けないこと、又は前記範囲外の凹部数は、非画線部の凹部数よりも少ない、及び又は、前記範囲外の凹部の表面積は、前記非画線部の凹部の表面積よりも小さいことを特徴とする。(以下、本発明を発明3と言う)
【0033】
図8を持って説明をする。グラビア印刷版(6)とニップ圧胴(7)の間に被印刷基材(8)を通し、グラビア印刷版(6)に設けた絵柄(セル)にインキを充填し、被印刷基材(8)に転写することでグラビア印刷は行われる。本発明の凹部(ミクロプール)は、被印刷基材(8)の製品となる有効幅(9)での印刷欠点の発生を防止するものであり、グラビア印刷版に凹部を形成する領域は、被印刷基材が製品となる有効幅(9)以上で被印刷基材幅(8)未満の範囲であればよい。グラビア印刷版(6)に凹部を設けない領域(10)、又は該凹部を設けない領域(10)を示す。また、前記凹部を設けない領域(10)に、全く凹部を設けないのではなく非画線部に設ける凹部に比べ凹部数が少ない、及び又は、凹部の表面積が小さい凹部を設けることもできる。
【0034】
因みに、被印刷基材両端の外はグラビア印刷版とニップ圧胴が常に接触するため、版面は平滑であることが望ましい。画線部におけるドクターの摩耗と比較し、該部分でのドクターの摩耗は殆んどなくい。また、ニップ圧胴への凹部からのインキ転移を防止することが出来る。ペーパー研磨を施したグラビア印刷版においては、ニップ圧胴のインキ汚れ(インキの蓄積)による、ニップ圧胴の洗浄は煩雑な作業であり、この作業負荷の低減がはかれる。
【0035】
補足ではあるが、被印刷基材幅(8)から製品となる有効幅(9)を除いた、被印刷基材の両端部には、見当マークや版に付与された絵柄の製品名など印刷及び印刷製品の管理に必要なマークが印刷される部分であり、一般的には片側10mmから15mmの幅で設けられる。
【0036】
本発明は、発明1から3の何れか(段落0011、0025、0032)に記載のグラビア印刷版の製造方法であって、銅メッキを施され、研磨により表面が平滑にされたグラビア印刷版に感光膜を塗布してレーザー露光により絵柄を形成するに際し、前記各凹部となる箇所には、レーザーを当てないパターンでもって露光し、続いて現像により非露光感光膜を除去した後、前記各凹部及び前記セル部を腐食により形成し、次いで前記表面にクロムメッキを施すことを特徴とする。(以下、本発明を発明4と言う)
【0037】
グラビア印刷版の製造方法としては、画像データーを1)ダイヤモンド針の振動に変換して直接銅メッキ層を彫刻することでセルを形成する電子彫刻グラビア印刷版、2)銅メッキ層に感光膜を塗布し、レーザー露光により画像を焼き付け所望にセル部分は非露光として感光膜を洗浄現像し、銅メッキ層を露出させ腐食液でセル形成を行うダイレクト網グラビア印刷版、の2製造方法がある。
【0038】
本発明4はダイレクト網グラビア印刷版の製造方法において、セル形成のための露光と同時に、凹部(ミクロプール)を形成する箇所には、レーザーを当てないパターンでもって露光しするものである。従って、露光データーを準備しておけば、作業負荷が増えるものではない。ただ、レーザー露光後の現像の為の洗浄は、凹部を形成する非感光部が微細であるので洗浄時間を長めに取るのが好ましい。
【0039】
前者(電子彫刻グラビア印刷版)においては、彫刻は1列でのセル形成であり本発明者が所望する微細な凹部はセル幅に2個から25個程度を設けるものであり、凹部個数に比例して彫刻時間が増加するため生産に適さない。