特許第6516175号(P6516175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 下村 恭一の特許一覧

特許6516175グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法
<>
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000005
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000006
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000007
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000008
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000009
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000010
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000011
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000012
  • 特許6516175-グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6516175
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減するグラビア印刷版、及びグラビア印刷版の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/06 20060101AFI20190513BHJP
   B41C 1/00 20060101ALI20190513BHJP
   B41N 1/20 20060101ALI20190513BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   B41N1/06
   B41C1/00
   B41N1/20
   G03F7/00 505
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-216722(P2018-216722)
(22)【出願日】2018年11月19日
【審査請求日】2018年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2018-212226(P2018-212226)
(32)【優先日】2018年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714011259
【氏名又は名称】下村 恭一
(72)【発明者】
【氏名】下村恭一
【審査官】 長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−145952(JP,A)
【文献】 特開2017−001325(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0137907(US,A1)
【文献】 特開平11−342679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00−99/00
B41C 1/00− 1/18
B41M 1/10
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非画線部及び、セル部と土手部を1画素として形成される画線部を有するグラビア印刷版の前記非画線部には、前記1画素面積当たり2個から400個の凹部が、前記グラビア印刷版の銅メッキ層に設けられ、前記非画線部に前記凹部が占める面積比率は1%から60%であり、前記凹部の表面形状は概四角形又は概円形又は概楕円形で、さらに前記銅メッキ層表面にクロムメッキ層が形成されているグラビア印刷版にあって、グラビア版面に設ける前記凹部の領域は、被印刷物が製品となる有効幅以上で被印刷基材幅未満の範囲であり、前記範囲外には凹部を設けないこと、又は前記範囲外の凹部数は、非画線部の凹部数よりも少ない、及び又は、前記範囲外の凹部の表面積は、前記非画線部の凹部の表面積よりも小さいことを特徴とするグラビア印刷版。
【請求項2】
セル部と土手部で形成される画線部の1画素が、正方形、六角形、又は平行四辺形であって、前記1画素の前記土手部には、土手の外周部に交わらない複数個の凹部が銅メッキ層に設けられ、複数個の全凹部が占める面積比率は、1%から40%であり、前記凹部の表面形状は概四角形又は概円形又は概楕円形で、凹部1個の表面積は、20μm〜250μmで、深さは、0.1μm〜5μmで、1画素面積当たりの凹部は2個から400個あり、さらに前記銅メッキ層表面にクロムメッキ層が形成されていることを特徴とするグラビア印刷版。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の何れかに記載のグラビア印刷版の製造方法であって、銅メッキが施され、研磨により表面が平滑にされたグラビア印刷版に感光膜を塗布してレーザー露光により絵柄を形成するに際し、前記各凹部となる箇所には、レーザーを当てないパターンでもって露光し、続いて現像により非露光感光膜を除去した後、前記各凹部及び前記セル部を腐食により形成し、次いで前記表面にクロムメッキを施すことを特徴とするグラビア印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷版とドクター刃との摩擦を低減することにより、ドクター摩耗を低減しグラビア印刷の安定性を向上させると共に、ドクター摩耗カスによるグラビア印刷不良、特にドクター筋、ゴミ筋の発生を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷版の版面には、微細なセルと呼ばれる凹部が設けられる。セルはグラビア印刷において印刷を行う絵柄を再現するものであり、微細な凹部が求められる。セルを形成する方法としては、グラビア印刷シリンダーに設けられた銅メッキ層を、レジスト膜で セル部以外を保護し化学的に塩化第二鉄溶液により銅メッキ層を腐食することによりセル を形成する方法、又銅メッキ層に直接ダイヤモンド針を用い物理的に彫刻を行うことによ りセルを形成する方法がある。
【0003】
どちらの方法においても、グラビア印刷版の版面の状態はグラビア印刷の印刷品質を左右するものであり、グラビア印刷版の製作過程において版面の研磨は大切な工程となる。
【0004】
グラビア印刷版の製作過程は、まず芯材となる円筒の素材の両サイドにグラビア印刷機にチャッキング出来るようドーナツ状の側板を一体化される。ここで使用される素材は、 鉄又はアルミニームが一般的に使用される。芯材の段階で、旋盤を用い版面下地として、平面に仕上げられる。
【0005】
銅メッキの厚さは、150ミクロンから300ミクロン程度が一般的である。銅メッキはセルを形成するに十分な厚みを有し、メッキ表面には微細な凹凸や、グラビア印刷シリンダーの両サイド、中央でメッキ厚みにバラつきが発生するため、砥石研磨機にセットし銅メッキされたグラビア印刷シリンダーを回転させ、ドーナツ状の砥石を回転させながら左右に往復させメッキ面の研磨を行い、表面の微細な凹凸の研磨や、両サイド・中央でのメッキ厚みのバラつきの修正が行われる。この研磨により、真円で表面が平滑なシリンダーとすることができる。更に表面をより平滑にするため、研磨剤を塗布してバフで研磨しシリンダー表面を鏡面状に仕上げるバフ研磨機が使用されることがあ
【0006】
次いで感光膜を塗布し絵柄を形成するセルをレーザー露光により焼き付け現像し腐食によりセルを形成するダイレクト版、又はダイアモンド針により銅メッキ層を切削する電子彫刻版が作られ、更に耐刷力を向上すためにクロムメッキが施される。クロムメッキ後、クロムメッキ面にペーパー研磨機により、グラビア印刷版の全面にペーパー傷を設けられグラビア印刷に使用される。
【0007】
クロムメッキ面にペーパー研磨を施す理由については、諸説があり1)クロムメッキによるブツを研磨する。2)クロムメッキの表面クラックを研磨する。等であるが、本願発明者はドクターとグラビア印刷版の接点の研磨傷(溝)にインキ溶剤を供給してドクターの滑りを良くすることでドクターの摩耗を低減しているのではないかと考察する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−201563
【特許文献2】特開2003−80662
【特許文献3】特開2005−153201
【非特許文献】
【0009】
地方独立行政法人東京都立技術センター開発本部開発第二部先端加工グループ中村健太「潤滑油による摩擦低減技術」摩擦の基本と摩擦低減の例
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
グラビア印刷において、ドクターの摩耗はグラビア印刷品質を不安定にするものであり、ドクターの摩耗を低減することで、ドクター交換の作業負荷やドクター摩耗によるインキ中に混入するドクター粉及びドクター片を少なくすること、また、クロムメッキへのペーパー研磨は、非画線部においては微細な溝でありドクターの滑りを良くする効果があるが、画線部の土手部特に土手部エッジにおいては何十倍もの圧力でのペーパー研磨となりドクターの摩耗及びグラビア印刷版の摩耗の一因であることを考慮し、これらの点を防止しグラビア印刷の安定性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のグラビア印刷版は、非画線部及び、セル部と土手部を1画素として形成される画線部を有するグラビア印刷版の前記非画線部、及び又は、前記土手部には、複数個の凹部が、前記グラビア印刷版の銅メッキ層に設けられ、前記非画線部、及び又は、前記土手部の前記凹部の占める面積比率は1%から60%であり、前記凹部の表面形状は概四角形又は概円形又は概楕円形で、凹部1個の表面積は、20μm〜250μmで、深さは、0.1μm〜8μmであり、1画素面積当たりの凹部は2個から400個であり、さらに前記銅メッキ層表面にクロムメッキ層が形成されていることを特徴とする。(以下、本発明を発明1と言う)
【0012】
本発明者は鋭意研究の結果、グラビア印刷版面の非画線部及び画線部の土手に、選択的に微細な凹部(ミクロプール)を設けることにより、ドクターとグラビア印刷版との境界を境界潤滑部(境界潤滑膜を形成)と流体潤滑部として、(ドクターとグラビア印刷版との)凝着部を少なくして摩擦を小さくできるとの結論に至ったものである。
【0013】
非引用文献に示した「潤滑油による摩擦低減技術」と、グラビア印刷のドクターとグラビア印刷版の関係で異なる点は、ドクターが弾性を有する薄板であり凝着部が多くなればドクターのタワミで境界潤滑部を形成しようと作用する点である。従って、実施例1で示すように、非画線部において凝着部が多くなることによりドクターの振動の振幅が大きくなるものと考える。
【0014】
従来のペーパー研磨においては、版面の非画線部と画線部に同様に加圧研磨を行うため前者に十分な研磨傷を設けドクターとグラビア印刷版との摩擦を小さくすると、後者の土手には高圧力での研磨であるため土手部へのダメージは非画線部の何十倍となり土手の損傷が激しく、グラビア印刷版の耐刷力の低下や意匠再現性の低下を招くものであった。
【0015】
本発明1は、グラビア印刷版の非画線部、又は、及び、セル部と土手部で形成される画線部の前記土手部において複数個の凹部を、セルの形成と同時に設けることを可能としたものである。非画線部でグラビア印刷版とドクターの滑りを安定にする凹部を設けるにはこのましい。絵柄を表現する画線部において、土手のエッジと凹部が交差することで土手の直線性が得られないことも想定でき、画線部でグラビア印刷版とドクターの滑りを安定にできず悪化する事もあるため、発明1は単一濃度%又は2段階濃度%、更には低濃度%の絵柄(50%濃度以下)で構成されるグラビア印刷版に使用し、画線部に適した凹部の設定をするのが好ましい。
【0016】
ここで、ダイレクト版のセル形成の特徴を述べると、感光膜の有無により銅メッキ部に腐食液が供給されることで銅が腐食されセルが形成されるが、セルの大小により腐食液のセル部での交換率が異なり、大きなセルは新鮮な腐食液が供給されやすく小さなセルは新鮮な腐食液が供給されにくいため、セルの深度は異なる。本発明はこの現象を利用して非画線部に腐食による深さ(深度)が浅く微細な凹部(ミクロプール)を形成するものである。
【0017】
図1の(A)に、感光膜を形成した100%セル部の平面概念図、(B)に、A図のイ−−−イの断面概念図、(C)に、感光膜を形成した50%セル部の断面概念図、(D)に、本発明の凹部(ミクロプール)を非画線部に形成した断面概念図、(E)に、C図の土手部に本発明の凹部(ミクロプール)を形成した断面概念図を示す。(E図の凹部の数は描画の関係で少ないが、1画素に100個を想定する。)(F)に、1画素に設ける最小の凹部数である2個の場合の平面概念図を示す。(F)に示した太線部が1画素を、太丸が1画素中の凹部である。(A)〜(F)図中に示した数字について、1は1画素、2は感光膜、3は銅メッキ層、4は腐食により形成されたセル、5は腐食により形成された凹部(ミクロプール)を示す。尚、図1は、1画素を正方形の形状としたセルで示したが、1画素は正方形、六角形、平行四辺形であってもよい。
【0018】
図2に、グラビア版の銅メッキ面に、正方形スクリーン175線で線比が1対4において、100%濃度のセル部、土手部に1画素中に100個の凹部を設けた感光膜の状態を平面概念図示す。更に、図3に、銅メッキ層を腐食によりセルと凹部を形成した図2のロ−−−ロの断面概念図を示す。図中に表記したが、セル部のサイドエッチングによりセルと凹部が繋がった部位を示したが、繋がることで土手のエッジは直線でなく波状になりドクターの摩耗は大きくなる。図4に、50%濃度の1画素セルの平面概念図を示す。
【0019】
図2図4において感光膜においては、セル部と土手部に設けた凹部は交われないが、異なる濃度%においては、交差することがある。また、セルの腐食によるサイドエッチングにより交差する場合が考えられ土手部エッジが波状になることもある。尚、サイドエッチングは、セルの版深(セル中央で深く腐食された部分を測定した数値)により異なり、一般的なグラビア印刷版は25μm程度の版深であるが、最近は版深が10μm程度のグラビア印刷版もあり、このような版については、サイドエッチング幅は少なく2μm程度である。
【0020】
非画線部、又は、及び、セル部と土手部で形成される画線部の前記土手部に設ける凹部は、1画素当たり25個から400個を設ければ良いが、凹部を形成する非感光部が微細になると現像に時間を要すること、凹部が少ないとドクターと版面との間に凝着部が多くなりドクターの滑りを阻害することより、1画素中に100個から225個の凹部をもうけるのが好ましい。尚、この1画素中の凹部の個数は175線/インチの線数を想定したもので、線数が異なれば1画素の面積も異なるため適宜1画素中の凹部個数を決めればよい。また、本発明1に適するスクリーン線数は、80線/インチ〜400線/インチの腐食によりセルを形成するダイレクトグラビア印刷版である。
【0021】
また、凹部の形成は、非画線部へはレーザー露光が全面に行われるが、本発明の凹部を形成するするには、非画線部のレーザー露光パターンを凹部が有るパターンとすればよく、合せて絵柄パターンを絵柄濃度に応じて非露光部とすればよい。(100%濃度部から50%濃度部では、セルを形成する土手エッジが長く、土手エッジが波状になるとドクターへの負担が大きくなるため画線部においては、50%濃度部以下に凹部を設けるようにしてもよい。)更に、非画線部と画線部を選択して凹部を設けることで、本発明の画線部と非画線部を有するグラビア印刷版であって、グラビア印刷版の非画線部、又は及び、セル部と土手部で形成される画線部の前記土手部において複数個の凹部を設けることが出来る。
【0022】
非画線部に凹部を設けることで、凹部に塗布されたインキが被印刷物に転移すれば、汚れやカブリの印刷不良となるため、インキが被印刷基材に転移しないよう、インキに使用する溶剤の乾燥性や印刷の速度を考慮すること、被印刷基材がインキ転移の良好なフィルムであるか、ライト部のインキ転移が劣る紙であるかなどを考慮することで、適宜、凹部の表面積を選択すればよい。
【0023】
グラビア印刷版に微細な凹部又は線状溝を設ける方法としては次のような方法がある。クロムメッキ後に付与する方法としては、従来のペーパー研磨を行う、サンドブラストにより凹部或は溝の形成を行うことが出来る。銅メッキ層に凹部を付与する方法としては、本発明の他に、絵柄部となるセルを形成する前又は後にサンドブラストにより凹部を付与することが出来る。但し銅メッキ層は塑性変形し易い素材でありサンドブラストの吹き付け速度とサンドの粒径、形状の管理は難しいものである。
【0024】
また、本発明は絵柄を表現するためのセル形成時に、銅メッキ層の腐食により凹部を設けることが出来るため製造コストへの影響はなく、従来行われていたペーパー研磨の工程を省略することも可能であり合理的な生産方法と言える。
【0025】
本発明のグラビア印刷版は、セル部と土手部で形成される画線部の1画素が、正方形、六角形、又は平行四辺形であって、前記1画素の前記土手部には、土手の外周部に交わらない複数個の凹部が銅メッキ層に設けられ、複数個の全凹部が占める面積比率は、1%から40%であり、前記凹部の表面形状は概四角形又は概円形又は概楕円形で、凹部1個の表面積は、20μm〜250μmで、深さは、0.1μm〜5μmで、1画素面積当たりの凹部は2個から400個あり、さらに前記銅メッキ層表面にクロムメッキ層が形成されていることを特徴とする。(以下、本発明を発明2と言う)
【0026】
本発明2は、画線部に設けられる土手部において、セルの腐食によりサイドエッチングにより土手部が狭くなっても、土手エッジに凹部が係らないように凹部を土手中央部に配することで、土手の両エッジが直線になるようにするものである。従って、本発明2においては、濃度範囲に応じて1画素中の凹部の個数を変える事で、上記の凹部を土手中央部に配し土手エッジに凹部が係らないように出来るものである。
【0027】
図5に、グラビア版の銅メッキ面に、正方形スクリーン175線で線比が1対4において、100%濃度の1画素中土手部に40個の凹部を設けた感光膜の状態を平面概念図示す。
【0028】
100%濃度のセルを図5に示したが、図6に、50%濃度の1画素セルの平面概念図を示す。本発明2の特徴は、カラーなどの広範囲の濃度%で表現される絵柄に対応した感光膜を設け、次いで腐食によるセルと土手の形成において、土手部の両端エッジ(土手エッジ)に、凹部が掛からないよう凹部を土手中央部に配し、セル濃度%により土手部に設ける凹部の列数と間隔を決めておけばよい。
【0029】
本発明2においても、1画素当たり25個から400個を設ければ良いが、凹部を形成する非感光部が微細になると現像に時間を要することは前記発明1と同じであるが、本発明2は画線部に限るものであり、セルは大きな凹部(流体潤滑部)であると考えれば境界潤滑部(境界潤滑膜を形成)への潤滑剤(インキ溶剤等)の供給があるため、1画素中に36個から250個程度の凹部をもうけるのが好ましい。尚、この1画素中の凹部の個数は175線/インチの線数を想定したもので、線数が異なれば1画素の面積も異なるため適宜1画素中の凹部個数を決めればよい。
【0030】
本発明2の説明を上記の通り、1画素が正方形のセル形状について記述したが、次に平行四辺形のセル形状の場合について説明を加える。図7は、平行四辺形の形状を1画素とする平面概念図で、100%濃度のセル及び太い土手とそれに交わる細い土手を示し、太い土手の中央部に5列の凹部を設けた概念図である。
【0031】
図7に平行四辺形の形状を1画素とする平面概念図を示すが、特許第6233942号及び特許第6319859号に記載した発明と、本発明2を併用して実施することも出来る。この場合、円周方向の太い土手がドクター圧を安定して受け止めること、土手幅を狭くできることにより、正方形のセル形状と比較して同濃度の平行四辺形の形状において、よりドクターの滑りが良くなり、ドクターの摩耗を少なくする効果を得ることが出来る。亀甲形状を1画素とする平面概念図は示さないが特許第6319859号に記載した発明に、凹部を設ければよい。
【0032】
本発明は、請求項1又は請求項2に記載のグラビア印刷版において、グラビア版面に設ける前記凹部の領域は、被印刷物が製品となる有効幅以上で被印刷基材幅未満の範囲であり、前記範囲外には凹部を設けないこと、又は前記範囲外の凹部数は、非画線部の凹部数よりも少ない、及び又は、前記範囲外の凹部の表面積は、前記非画線部の凹部の表面積よりも小さいことを特徴とする。(以下、本発明を発明3と言う)
【0033】
図8を持って説明をする。グラビア印刷版(6)とニップ圧胴(7)の間に被印刷基材(8)を通し、グラビア印刷版(6)に設けた絵柄(セル)にインキを充填し、被印刷基材(8)に転写することでグラビア印刷は行われる。本発明の凹部(ミクロプール)は、被印刷基材(8)の製品となる有効幅(9)での印刷欠点の発生を防止するものであり、グラビア印刷版に凹部を形成する領域は、被印刷基材が製品となる有効幅(9)以上で被印刷基材幅(8)未満の範囲であればよい。グラビア印刷版(6)に凹部を設けない領域(10)、又は該凹部を設けない領域(10)を示す。また、前記凹部を設けない領域(10)に、全く凹部を設けないのではなく非画線部に設ける凹部に比べ凹部数が少ない、及び又は、凹部の表面積が小さい凹部を設けることもできる。
【0034】
因みに、被印刷基材両端の外はグラビア印刷版とニップ圧胴が常に接触するため、版面は平滑であることが望ましい。画線部におけるドクターの摩耗と比較し、該部分でのドクターの摩耗は殆んどなくい。また、ニップ圧胴への凹部からのインキ転移を防止することが出来る。ペーパー研磨を施したグラビア印刷版においては、ニップ圧胴のインキ汚れ(インキの蓄積)による、ニップ圧胴の洗浄は煩雑な作業であり、この作業負荷の低減がはかれる。
【0035】
補足ではあるが、被印刷基材幅(8)から製品となる有効幅(9)を除いた、被印刷基材の両端部には、見当マークや版に付与された絵柄の製品名など印刷及び印刷製品の管理に必要なマークが印刷される部分であり、一般的には片側10mmから15mmの幅で設けられる。
【0036】
本発明は、発明1から3の何れか(段落0011、0025、0032)に記載のグラビア印刷版の製造方法であって、銅メッキを施され、研磨により表面が平滑にされたグラビア印刷版に感光膜を塗布してレーザー露光により絵柄を形成するに際し、前記各凹部となる箇所には、レーザーを当てないパターンでもって露光し、続いて現像により非露光感光膜を除去した後、前記各凹部及び前記セル部を腐食により形成し、次いで前記表面にクロムメッキを施すことを特徴とする。(以下、本発明を発明4と言う)
【0037】
グラビア印刷版の製造方法としては、画像データーを1)ダイヤモンド針の振動に変換して直接銅メッキ層を彫刻することでセルを形成する電子彫刻グラビア印刷版、2)銅メッキ層に感光膜を塗布し、レーザー露光により画像を焼き付け所望にセル部分は非露光として感光膜を洗浄現像し、銅メッキ層を露出させ腐食液でセル形成を行うダイレクト網グラビア印刷版、の2製造方法がある。
【0038】
本発明4はダイレクト網グラビア印刷版の製造方法において、セル形成のための露光と同時に、凹部(ミクロプール)を形成する箇所には、レーザーを当てないパターンでもって露光しするものである。従って、露光データーを準備しておけば、作業負荷が増えるものではない。ただ、レーザー露光後の現像の為の洗浄は、凹部を形成する非感光部が微細であるので洗浄時間を長めに取るのが好ましい。
【0039】
前者(電子彫刻グラビア印刷版)においては、彫刻は1列でのセル形成であり本発明者が所望する微細な凹部はセル幅に2個から25個程度を設けるものであり、凹部個数に比例して彫刻時間が増加するため生産に適さない。
【発明の効果】
【0040】
非画線部及び、セル部と土手部を1画素として形成される画線部を有するグラビア印刷版の前記非画線部、及び又は、前記土手部に、複数個の微細な凹部(ミクロプール)を設けることで、ドクターとグラビア印刷版の滑りが良くなり、両者の摩耗を低減しドクター交換などの作業負荷が少なくなり、またドクター摩耗粉、片の発生が減り印刷不良を少なくすることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】(a)感光膜を形成した100%セル部の平面概念図 (b)(a)図のイ−−−イの断面概念図 (c)感光膜を形成した50%セル部の断面概念図 (d)凹部(ミクロプール)を非画線部に形成した断面概念図 (e)(c)図の土手部に凹部(ミクロプール)を形成した断面概念図 (f)1画素に2個の凹部を設けた平面概念図
図2】100%濃度の土手に100個/1画素の凹部を設けた感光膜の平面概念図(発明1)
図3】銅メッキ層を腐食によりセルを形成した図2のロ−−−ロの断面概念図
図4】50%濃度の土手に凹部を設けた感光膜の1画素平面概念図(発明1)
図5】100%濃度の土手中央部に凹部を設けた感光膜の1画素の平面概念図(発明2)
図6】50%濃度の土手中央部に凹部を設けた感光膜の1画素平面概念図(発明2)
図7】平行四辺形の形状を1画素とする平面概念図(発明2)
図8】グラビア印刷版とニップ圧胴と被印刷基材との位置関係図
図9】振動測定の図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0042】
本発明1、及び本発明1,2を併用したグラビア印刷版(B、C、Dの3版)とクロム研磨後ペーパー研磨を施した従来方法で作成したグラビア印刷版(A)を作成した。1画素は、175線、線比1:4のスクリーンを用い、セル深度の目標を24ミクロンとした。尚、B,C,Dの非画線部には、1画素に凹部を100個設け、Cの画線部は図2に示す均等に凹部を配し、Dの画線部は図5に示す土手中央部に凹部を配したグラビア印刷版とした。
【0043】
A〜Dの4版を用い各15万mの印刷(ドクターを当て空回し・・・ドクター摩耗状態の検証。インキは、ウレタン系ノントルエンタイプの白インキを使用し、回転速度は250m/分、粘度をザンカップ#3で15秒に調整した。)を行なった。グラビア印刷版に設けた絵柄は、版中央部に、10cm幅の100%濃度部と非画線部を円周方向で交互に5列設けて、100cm幅の絵柄幅を設けたグラビア印刷版とした。。
【0044】
従来方法のペーパー研磨を行ったAのグラビア印刷版、及び本発明の凹部を設けたB、C、Dのグラビア印刷版に設けた凹部の詳細について、表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
A〜Dの4版を用い各15万m通しを目標に空回しを行い、ドクター摩耗の状態を観察した。(但し、画線部のドクター刃先が、0.7mm以上摩耗した時点で空回しの検証を中断した。)A〜Dの4版のドクター摩耗状況及びドクターと非画線部の版面との滑り状況を簡易的に比較するためにドクターを押える厚刃の先端に振動測定端子を取付け、振動振幅を振動計で確認しドクターの滑り評価とした。これらの結果を、表2に示す。ドクターの振動を測定した振動測定装置図を図9に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
以上の結果より、ペーパー研磨は、非画線部への研磨傷付与が少なく、画線部(特に100%濃度部)への研磨傷は版の摩耗に悪影響を与えると判断できた。また、表2においてCは良好な結果が得られた。1画素中の凹部は画線部、非画線部を問わず同一であるため、画線部の印刷濃度%(セル面積の違い)によっては土手のエッジに凹部が配置されると土手エッジが波打ち状態になる場合があり、階調のある柄については好ましくない。
【0049】
上記の点も踏まえ、本発明の凹部を設けたグラビア印刷版について整理し、まとめると表3となる。Dが最良の結果となり、ドクターの摩耗は、Aの3倍以上低減されている。また、B、Cにおいても、Aより優れた結果が得られた。
【0050】
【表3】
【実施例2】
【0051】
図7の平行四辺形のセル形状で、発明2のグラビア印刷版Eを作成し、実施例1と同様に空回しの検証を行った。非画線部は、実施例1のBとし、絵柄も同様に、版中央部に、10cm幅の100%濃度部と非画線部を円周方向で交互に4列設けた。
【0052】
グラビア印刷版Eのセル深度は25μm、版幅方向のセル幅は80μm、土手幅は45μm、土手中央部に5列の凹部を設け、凹部直径は3〜4μ、凹部深度は1〜2μであった。また、1画素中のセル面積、土手面積は、実施例1の正方形セルと同様にした。
【0053】
絵柄部のドクター摩耗は、15万mの空回し時点で、0.4mmと最良の結果(Dより大幅に優れる)を得ることが出来た。実施例1と比較し、セル幅が正方形セルの最大幅の約50%に狭くなっていること、ドクターが円周方向に設けられた直線状の太い土手に沿って移動すること、によると判断できる。
【符号の説明】
【0054】
1 1画素
2 感光膜
3 銅メッキ層
4 セル
5 凹部(ミクロプール)
6 グラビア印刷版
7 ニップ圧胴
8 被印刷基材幅
9 製品になる有効幅
10 凹部を設けない領域
11 ドクター
12 厚刃
13 ドクターホルダー
14 振動測定端子
15 振動計
【要約】      (修正有)
【課題】グラビア印刷において、ドクターの摩耗の低減を図り、摩耗に起因する種々の問題を解決することを課題とする。
【解決手段】ドクターがグラビア印刷版と摩擦する非画線部及び画線部の土手に微細な凹部(ミクロプール)5を設けることで、グラビア印刷版とドクターの滑りを良くしてドクターの摩耗の低減を図った。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9