特許第6516240号(P6516240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516240
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】リチウム抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20190513BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20190513BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20190513BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20190513BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20190513BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C22B26/12
   H01M10/54ZAB
   C22B7/00 C
   C22B3/12
   B09B3/00 303Z
   B09B3/00 Z
   B09B5/00 A
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-177287(P2015-177287)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-52997(P2017-52997A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常世田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】笹井 亮
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−017832(JP,A)
【文献】 特開2012−036419(JP,A)
【文献】 特開2014−055312(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102903985(CN,A)
【文献】 特開2016−191143(JP,A)
【文献】 特開2015−203131(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0222020(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/00−11/04
B01J 3/00−3/04
B01J 19/00
C22B 1/00−61/00
B09B 1/00−5/00
H01M 10/54
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池を焙焼してリンを含有する焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物を篩分けして、粒径1.0[mm]以下の粉粒体を得る篩分け工程と、
前記粉粒体を添加した2族元素化合物水溶液を水熱処理する水熱処理工程とを備え、
前記2族元素化合物水溶液中の2族元素化合物は、下記(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物であるリチウム抽出方法。
(1)マグネシウムのハロゲン化物、カルシウムのハロゲン化物、ストロンチウムのハロゲン化物、及びバリウムのハロゲン化物からなる群から選択された少なくとも1つのハロゲン化物
(2)硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、及び硝酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの硝酸塩
(3)酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、及び酢酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの酢酸塩
【請求項2】
請求項1記載のリチウム抽出方法であって、
前記粉粒体中のリンに対する、前記2族元素化合物水溶液中の2族元素のモル比が0.2〜3.5になるように調製するリチウム抽出方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリチウム抽出方法であって、
前記水熱処理工程は、120[℃]〜200[℃]の範囲の温度で、前記2族元素化合物水溶液を水熱処理するリチウム抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、家庭用電気製品、自動車等の産業分野でリチウムイオン電池の需要が増大している。また、リチウムイオン電池の正極材料として、リン酸鉄を使用するリチウムイオン電池が開発されている。
【0003】
リチウムは高価な有価金属であり、不良品又は使用後のリン酸鉄を含有するリチウムイオン電池からリチウムを回収するために、リチウムイオン電池を400℃以下の温度で予備焙焼して得られた粉状品を400℃以上の温度で酸化焙焼し、その後、400〜750℃の温度で還元焙焼して還元焙焼品を生成し、アルカリ土類金属の水酸化物を懸濁させた水溶液に還元焙焼品を浸漬させて還元焙焼品中のリチウムを水に溶出させ、リチウムを回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、コバルト酸リチウム(LiCoO)をアルミ箔に塗布した正極材料に対して水のみを用いた水熱処理によってリチウムを抽出する方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−229481号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Waste Management and the Environment III,92,3−12(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたリチウムを回収する方法では、リチウムイオン電池に含まれるコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有価金属を分別して回収するため、複数回の焙焼処理と、アルカリ土類金属の水酸化物を懸濁させた水溶液に還元焙焼品を浸漬させる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、浸漬後の水溶液中に還元焙焼品から溶出したリチウムの濃度が低く、リチウム濃度を高める必要性が生じる。そのため、回収方法が複雑化し、回収するための時間が長くなり、回収コストの上昇を招くおそれがある。
【0009】
また、非特許文献1に記載されたリチウムの抽出方法では、廃棄されるリチウムイオン電池には種々の正極材料が混在するため、水熱処理における水溶液中の性状が変化することによりリチウムの抽出率が低下するおそれがある。そのため、各種正極材料、特にLiCoO以外の正極材料、負極材料、電解質等の構成材料が混在したリチウムイオン電池からリチウムを抽出できるリチウム抽出技術の確立が必要である。
【0010】
そこで、本発明は、リンを含有するリチウムイオン電池であっても、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出できるリチウム抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]〜[3]のリチウム抽出方法を提供する。
[1]リチウムイオン電池を焙焼してリンを含有する焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物を篩分けして、粒径1.0[mm]以下の粉粒体を得る篩分け工程と、前記粉粒体を添加した2族元素化合物水溶液を水熱処理する水熱処理工程とを備え、前記2族元素化合物水溶液中の2族元素化合物は、下記(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物であるリチウム抽出方法。
(1)マグネシウムのハロゲン化物、カルシウムのハロゲン化物、ストロンチウムのハロゲン化物、及びバリウムのハロゲン化物からなる群から選択された少なくとも1つのハロゲン化物
(2)硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、及び硝酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの硝酸塩
(3)酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、及び酢酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの酢酸塩
[2][1]記載のリチウム抽出方法であって、前記粉粒体中のリンに対する、前記2族元素化合物水溶液中の2族元素のモル比が0.2〜3.5になるように調製するリチウム抽出方法。
[3][1]又は[2]記載のリチウム抽出方法であって、前記水熱処理工程は、120[℃]〜200[℃]の範囲の温度で、前記2族元素化合物水溶液を水熱処理するリチウム抽出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウム抽出方法によれば、リンを含有するリチウムイオン電池であっても、リチウムイオン電池を焙焼して得られたリンを含有する粉粒体を分散させた所定の2族元素化合物水溶液を水熱処理することにより、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出し、回収できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者等は、上述の課題を解決するため、リンを含有するリチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出する方法について種々の検討を行った結果、リチウムイオン電池の焙焼物から得られたリンを含有する粉粒体を添加した所定の2族元素化合物水溶液を水熱処理することにより、リチウムの抽出率を向上させることができることを見出し、本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、リチウムイオン電池を焙焼してリンを含有する焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物を篩分けして、粒径1.0[mm]以下の粉粒体を得る篩分け工程と、前記粉粒体を添加した2族元素化合物水溶液を水熱処理する水熱処理工程とを備え、2族元素化合物水溶液中の2族元素化合物が、(1)マグネシウムのハロゲン化物、カルシウムのハロゲン化物、ストロンチウムのハロゲン化物、及びバリウムのハロゲン化物からなる群から選択された少なくとも1つのハロゲン化物、(2)硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、及び硝酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの硝酸塩、(3)酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、及び酢酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの酢酸塩、からなる群から選択された少なくとも1つの化合物であることを特徴とするリチウム抽出方法を提供するものである。
【0015】
以下、本発明の実施形態として、製造工程から排出される不良品、使用済のリチウムイオン電池等の廃棄されるリチウムイオン電池からリチウムを抽出するリチウム抽出方法について説明する。
【0016】
[焙焼工程]
本実施形態のリチウム抽出方法では、まず、リチウムイオン電池を焙焼して焙焼物を得る(焙焼工程)。リチウムイオン電池中の電解液、ポリフッ化ビニリデン等の正極材料及び負極材料中のバインダー等、比較的低温度で熱分解する有機物質をガス化燃焼し、系外に除去するためである。
【0017】
リチウムイオン電池を焙焼して得られた焙焼物は、リチウムイオン電池の正極材料のLiFePO、LiMnPO等のオリビン型化合物、電解質に添加されるLiFP等に含まれているリンを含有する焙焼物である。
【0018】
リチウムイオン電池の正極材料は、オリビン型化合物以外に、リンを含まないLiCoO、LiNiO等の層状岩塩型化合物、LiMn、Li[Ni0.5Mn0.5]O等のスピネル型化合物等などもあるが、焙焼し得られた粉粒体中にリンが含まれていればよい。
【0019】
焙焼温度は、400[℃]〜700[℃]の範囲の温度であることが好ましい。焙焼温度が400[℃]未満の場合、リチウムイオン電池中の電解液等に含まれる有機物質の熱分解、そして系外除去が不十分となり、焙焼工程により得られる焙焼物である焙焼灰が塊状に形成される。そのため、後工程の篩分け工程において、所望の粒径の粉粒体を得ることが困難になる場合があり、リチウムの抽出率を低下させる可能性がある。
【0020】
また、焙焼温度が700[℃]を超える場合、リチウムイオン電池中のアルミ箔及び銅箔が溶融するため、正極材料を含む焙焼物である焙焼灰が塊状に形成される。そのため、篩分け工程において、所望の粒径の粉粒体を得ることが困難になる場合があり、リチウムの抽出率を低下させる可能性がある。
【0021】
リチウムイオン電池が焙焼される焙焼炉として、電気炉、トンネル炉、ロータリーキルン等の炉が挙げられる。尚、焙焼工程で使用される炉の雰囲気として、大気雰囲気、並びに、CO、H等の還元ガス種を含む還元雰囲気、N、Ar等の不活性ガスからなる不活性雰囲気、及び真空雰囲気を含む非酸化雰囲気が挙げられる。リチウムイオン電池の筐体が樹脂製の場合、樹脂の着火による熱上昇を抑えるために、還元雰囲気又は不活性雰囲気が好ましい。
【0022】
[破砕工程]
次に、焙焼工程により得られた焙焼物を破砕して破砕物を得る(破砕工程)。リチウムイオン電池を構成する正極材料と、金属製容器と、金属製部品又は樹脂製部品と、アルミ箔、銅箔等の塊状物等とを破砕し、後工程の篩分け工程で所定の粒径の粉粒体を分級するためである。破砕工程の「破砕」の意味は、焙焼物を破砕することだけでなく、焙焼物を解体することも含む。尚、リチウムイオン電池を破砕した後に焙焼するために、焙焼工程の前工程として破砕工程を備えてもよい。
【0023】
本実施形態の破砕工程の破砕は、破砕機を含む破砕設備を用いて行われるが、せん断力、衝突、圧縮等による公知の方法を用いてもよい。
【0024】
[篩分け工程]
次に、破砕工程により得られた破砕物を篩分けして、所定の粒径の粉粒体を得る(篩分け工程)。具体的には、振動篩、回転篩等の篩を用いて、金属製部品、銅、アルミニウム、鉄、燃え残った樹脂等を含む塊状物と、正極材料等に含有されるリチウム、カーボン等を含む焙焼灰の粉粒体とを分別する。
【0025】
篩分け工程により得られる粉粒体の粒径は、1.0[mm]以下が好ましい。粉粒体の粒径が1.0[mm]を超える場合、後工程の水熱処理工程においてリチウムが溶出し難くなるからである。
【0026】
尚、粉粒体以外の篩分け工程により得られた塊状物は、比重選別、磁力選別等の公知の分別操作により、銅、アルミニウム、鉄等を回収することができる。
【0027】
[水熱処理工程]
次に、所定量の粉粒体を添加した2族元素化合物水溶液を圧力容器に投入し混合した後、当該2族元素化合物水溶液が亜臨界状態になるように加熱して、水熱処理する(水熱処理工程)。尚、本実施形態における「水熱処理」とは、所定量の粉粒体を添加した2族元素化合物水溶液を密閉状態の圧力容器内で加熱することをいう。
【0028】
篩分け工程により得られた粉粒体(焙焼灰)からリチウムを水溶液中に溶出させるとともに、粉粒体に含まれるリンを2族元素の化合物と反応させ、水に対する溶解度の低いリン酸化合物(例えば、Ca10(PO(OH)、CaHPO・2HO、Ca(PO)、Mg(PO等)を生成して溶液中に沈殿させて、リンを除去する。
【0029】
その結果、粉粒体から溶出するリンとリチウムに由来するLiPOの生成反応を抑え、水溶液中のリチウム濃度を高めて、水溶液中にリチウムを選択的に抽出するためである。
【0030】
2族元素化合物水溶液は、2族元素化合物を水に溶解した溶液に、所定量の粉粒体を添加して調製される。尚、粉粒体、水及び2族元素化合物を混合する方法として、水に粉粒体と2族元素化合物を添加して混合する方法、所定濃度に調製された2族元素化合物水溶液に粉粒体を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0031】
尚、2族元素化合物として、マグネシウムのハロゲン化物、カルシウムのハロゲン化物、ストロンチウムのハロゲン化物、及びバリウムのハロゲン化物からなる群から選択された少なくとも1つのハロゲン化物;硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、及び硝酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの硝酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、及び酢酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1つの酢酸塩等が挙げられる。尚、2族元素化合物として、上記ハロゲン化物のうち、塩化物が好ましい。
【0032】
水熱処理工程は、120[℃]〜200[℃]の範囲の温度で行われることが好ましい。水熱処理工程の温度が120[℃]未満の場合、水溶液中に溶出するリチウム量が低下し、リチウムの抽出率が低下する。一方、水熱処理工程の温度が200[℃]を超える場合、例えば、加熱用の熱媒体の蒸気圧が高くなり、高価な圧力容器を使用する必要性が生じ、リチウムの抽出コストの上昇の原因になる。
【0033】
水熱処理工程の処理時間は、4[時間]〜48[時間]が好ましい。処理時間が4[時間]未満の場合、粉粒体からリチウムが十分に溶出できず、水熱処理工程後の水溶液中のリチウム濃度が低くなる。この結果、リチウムの抽出率が低下する。一方、処理時間を長くすることにより水溶液中へのリチウムの溶出量を増加させることができるが、処理時間が48[時間]を超える場合、リチウムの抽出率の増加はわずかであるため、リチウムの抽出コストの観点から好ましくない。
【0034】
2族元素化合物水溶液中の2族元素化合物は、添加、混合する2族元素化合物の量により調製することができ、粉粒体に含まれるリンに対して、モル比(2族元素化合物中の2族元素のモル数/粉体中のリンのモル数)で、0.2〜3.5の範囲の値であることが好ましい。
【0035】
モル比が0.2未満である場合、粉粒体から溶出したリンとリチウムとからLiPOを生成し、リチウムの抽出率を低下させ得るからである。一方、モル比が3.5を超える場合、リチウムの抽出率は高くならず、リンの抽出率は低くならないこと、及び2族元素化合物の濃度が水溶液中に溶出したリンの濃度よりもかなり過剰となるため、添加する2族元素化合物の添加量削減の観点から好ましくない。
【0036】
2族元素化合物水溶液の液量に対する粉粒体の質量、すなわち、固液比(粉粒体[g]/2族元素化合物水溶液[l(リットル)])は、2.0[g/l]〜20[g/l]が好ましい。
【0037】
固液比が2.0[g/l]未満の場合、粉粒体の量が少なく、リチウムの含有量が少ないため、水熱処理工程後の水溶液中のリチウム濃度が低くなる。この結果、リチウムの抽出率が低下する。一方、固液比が20[g/l]を超える場合、2族元素化合物中の粉粒体量が多くなり、水溶液中に溶出するリチウム量が低下する。この結果、リチウムの抽出率が低下する。
【0038】
[回収工程]
水熱処理工程の加熱処理を停止した後、圧力容器内の2族元素化合物水溶液を冷却する。その後、冷却した水溶液に対してろ過を行い、ろ液中のリチウムを回収する(回収工程)。冷却後の水溶液をろ過することにより、水に対する溶解度が低いリン酸化合物を固形分(残渣)として除去し、溶解度の高いリチウム塩としてろ液側に移行させることができる。従って、ろ液に、炭酸ガスを吹き込む方法、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩を添加する方法等の公知の方法を用いた炭酸化反応により、簡易な操作で炭酸リチウムとしてリチウムを高収率で回収することができる。
【0039】
また、ろ液のpHを調整することにより、水酸化リチウムとしてリチウムを回収することができる。
【0040】
尚、単にろ液中の水分を蒸発させるだけで、ろ液から塩化リチウムや硝酸リチウムなどのリチウム塩としてリチウムを回収することができる。尚、水溶液中のリチウム濃度が低い場合、水を蒸発して濃縮等を行い、リチウムを水溶液から回収してもよい。
【0041】
また、本方法によれば、高価な薬剤を必要とせず、複雑な設備及び操作を必要としないので、リチウムの回収コストの低減化及び容易に装置の大型化を図ることができる。
【0042】
また、ろ過により得られた固形分から、固形分中に含まれる鉄等の金属を、磁力選別、酸処理及びアルカリ処理により水酸化物沈殿、金属製錬等を用いて回収することができる。
【0043】
以下に、本実施形態のリチウム抽出方法を用いて、廃棄された自動車用のリチウムイオン電池からリチウムを抽出した実施例及び比較例を示す。
【0044】
(実施例1)
廃棄された自動車用のリチウムイオン電池をN雰囲気で600[℃]の温度で焙焼した後、剪断破砕機を用いて破砕し、分級機を用いて得られた破砕物を篩分けし、粒径1.0[mm]以下の粉粒体を得た。表1に粉粒体の組成比率を示す。尚、表1のその他の欄は、負極材料のカーボン、正極材料に含まれる酸素等を含む微量成分である。
【0045】
【表1】
【0046】
次に、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で1.0になるように、塩化カルシウム水溶液に粉粒体を添加した。具体的には、塩化カルシウム41.4[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体を0.1[g]を添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で24[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された塩化カルシウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
【0047】
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を以下の計算式に従って求めた。リチウム抽出率は75[%]、リン抽出率は2.5[%]であった。
リチウム抽出率[%] =ろ液中に溶解しているリチウム[質量mg]/粉粒体中のリチウム[質量mg]×100
リン抽出率[%] = ろ液中に溶解しているリン[質量mg]/粉粒体中のリン[質量mg]×100
【0048】
(実施例2)
水熱処理の保持時間を6[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は71[%]、リン抽出率は2.6[%]であった。
【0049】
(実施例3)
水熱処理の保持時間を48[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は76[%]であった。リン抽出率は2.5[%]であった。
【0050】
(実施例4)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、塩化カルシウム82.8[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体を0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は80[%]、リン抽出率は1.1[%]であった。
【0051】
(実施例5)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で3.0になるように、塩化カルシウム124.2[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は82[%]、リン抽出率は1.4[%]であった。
【0052】
(実施例6)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で0.5になるように、塩化カルシウム20.7[g]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は78[%]、リン抽出率は3.9[%]であった。
【0053】
(実施例7)
処理温度を150[℃]、処理圧力を0.47[MPa]にした以外は、実施例4と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は67[%]、リン抽出率は2.1[%]であった。
【0054】
(実施例8)
実施例1で用いられた塩化カルシウムに代えて、硝酸カルシウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で1.0になるように、硝酸カルシウム61.2[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した硝酸カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は74[%]、リン抽出率は0.7[%]であった。
【0055】
(実施例9)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、硝酸カルシウム122.4[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した硝酸カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例8と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は76[%]、リン抽出率は2.8[%]であった。
【0056】
(実施例10)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で3.0になるように、硝酸カルシウム183.6[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した硝酸カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例8と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は79[%]、リン抽出率は2.0[%]であった。
【0057】
(実施例11)
水熱処理の保持時間を6[時間]にした以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は73[%]であった。リン抽出率は1.3[%]であった。
【0058】
(実施例12)
固液比を16.7[g/l]にした以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。具体的には、具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、硝酸カルシウム612.0[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した硝酸カルシウム水溶液に、固液比が16.7[g/l]となるように粉粒体0.5[g]を添加して分散させた以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は68[%]、リン抽出率は2.8[%]であった。
【0059】
(実施例13)
実施例1で用いられた塩化カルシウムに代えて、酢酸カルシウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で1.0になるように、酢酸カルシウム59.0[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した酢酸カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は70[%]、リン抽出率は0.2[%]であった。
【0060】
(実施例14)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、酢酸カルシウム118.0[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した酢酸カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例13と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は71[%]、リン抽出率は0.1[%]であった。
【0061】
(実施例15)
実施例1で用いられた塩化カルシウムに代えて、塩化マグネシウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリン量に対してマグネシウム量がモル比で2.0になるように、塩化マグナシウム71.0[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化マグネシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた。また、水熱処理時間を6時間とした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は71[%]、リン抽出率は0.4[%]であった。
【0062】
(実施例16)
実施例1で用いられた塩化カルシウムに代えて、塩化バリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリン量に対してバリウム量がモル比で2.0になるように、塩化バリウム155.3[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化バリウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた。また、水熱処理時間を6時間とした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は73[%]、リン抽出率は0.0[%]であった。
【0063】
(実施例17)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で0.2になるように、塩化カルシウム8.3[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は実施例1と同様に行った。リチウム抽出率は62[%]、リン抽出率は7.1[%]であった。
【0064】
(実施例18)
処理温度を120[℃]、処理圧力を0.20[MPa]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は52[%]、リン抽出率は4.8[%]であった。
【0065】
(実施例19)
固液比を2.5[g/l]にした以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、硝酸カルシウム91.8[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した硝酸カルシウム水溶液に、固液比が2.5[g/l]となるように粉粒体75.0[mg]を添加して分散させた以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は73[%]、リン抽出率は3.0[%]であった。
【0066】
(実施例20)
固液比を20.0[g/l]にした以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、硝酸カルシウム734.4[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した硝酸カルシウム水溶液に、固液比が20.0[g/l]となるように粉粒体0.6[g]を添加して分散させた以外は、実施例9と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は64[%]、リン抽出率は2.7[%]であった。
【0067】
(実施例21)
水熱処理の保持時間を4[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は67[%]、リン抽出率は2.6[%]であった。
【0068】
(実施例22)
粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で3.5になるように、塩化カルシウム144.8[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した塩化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は83[%]、リン抽出率は1.4[%]であった。
【0069】
(比較例1)
カルシウム化合物を添加しなかった以外は実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は48[%]、リン抽出率は52.0[%]であった。
【0070】
(比較例2)
実施例1で用いられた塩化カルシウムに代えて、水酸化カルシウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で1.0になるように、水酸化カルシウム27.6[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した水酸化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は42[%]、リン抽出率は18[%]であった。
【0071】
(比較例3)
実施例1で用いられた塩化カルシウムに代えて、水酸化カルシウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリン量に対してカルシウム量がモル比で2.0になるように、水酸化カルシウム55.3[mg]を蒸留水30[ml]に溶解させて調製した水酸化カルシウム水溶液に、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.1[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は20[%]、リン抽出率は0.3[%]であった。
【0072】
表2に、粉粒体中のリンに対する、水溶液中の2族元素のモル比[−]、添加した2族化合物、水熱処理を行った処理時間[時間]、水熱処理における圧力容器内部の温度(処理温度)[℃]、及び、粉粒体が添加された2族元素化合物水溶液の固液比[g/l]からなるリチウム回収条件と、リチウム抽出率[%]及びリン抽出率[%]とを示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2の実施例1〜実施例22に示されるように、リチウムイオン電池を焙焼して得られたリンを含有する粉粒体を添加した塩化カルシウム水溶液等の2族元素化合物水溶液を水熱処理するという工程数の少ない簡易な方法で、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に回収できることがわかる。特に、リチウムイオン電池に含まれる正極材料、負極材料、電解質、導電剤等を分離処理することなく、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に回収でき、リチウム回収コストの低減化を図ることができる。
【0075】
比較例1に示されるように、2族元素化合物水溶液を添加しない場合、粉粒体から溶出したリンとリチウムに由来するLiPOの生成反応が進行し、粉粒体から溶出したリンとリチウムとから生成したLiPOがろ過後の固形分(残渣)として除去される。従って、ろ液中のリチウム抽出率が低下し、リン抽出率が増加していることがわかる。
【0076】
比較例2及び比較例3に示されるように、水酸化カルシウム水溶液を添加した場合、塩化物、硝酸塩、酢酸塩の2族元素化合物と比較して、リチウム抽出率が顕著に低下することがわかる。