(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る神経刺激システムの第1実施形態を、
図1から
図15を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率を調整している。
図1に示すように、本神経刺激システム1は、弾性を有する材料で形成された固定部10と、固定部10に設けられた一対の電極部20と、線状に形成され先端部41が固定部10に取付けられたリード部40と、リード部40が挿通されたシース部50と、シース部50とリード部40との間を水密に封止するOリング(封止部材、
図7参照)60と、リード部40の基端部に取付けられた刺激供給装置であるパルスジェネレータ70とを備えている。
【0013】
図2及び3に示すように、固定部10は、線状に形成されて互いの先端部が接続されるとともに互いの基端部が接続された複数の付勢部11を有している。各付勢部11は、不図示のワイヤと、このワイヤの周囲を被覆する絶縁性の被膜12を備えている。各ワイヤは、生体適合性を有する材料からなる形状記憶合金や超弾性ワイヤなどで形成されている。ワイヤを形成する材料には、ワイヤに外力を加えて変形させた後に外力を除去すると、ワイヤが元の形状に戻るための復元力を発揮するものが用いられる。ワイヤの外径は例えば0.2〜0.5mm程度に設定され、ワイヤの長手方向に直交する断面形状は円形、楕円形、四角形などのものが用いられる。
ワイヤの周囲に被膜12を付けることで、ワイヤの外周面の滑らかさを向上させ、ワイヤに血栓低減効果や絶縁性を付与することができる。被膜12には、例えばポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂、フッ素樹脂などを用いることができる。被膜12の厚さは、例えば50〜500μm(マイクロメートル)である。なお、ワイヤに被膜12を設けなくてもよい。
【0014】
各付勢部11は、リード部40の軸線C周りに互いに離間するとともに、軸線C周りに等角度ごとに(付勢部11の数が例えば4本であれば90°ごとに)配置されている。各ワイヤの軸線C方向の中間部は、軸線Cから離間する方向に向かって凸となるように湾曲し、複数の付勢部11で構成される固定部10は、全体として略球状となる。
固定部10の重力以外の外力を加えない自然状態での外径は、上大静脈の内径よりも大きなφ20〜40mm程度である。
【0015】
このように構成された固定部10は、
図2に示すように、上大静脈P1などの血管内に挿入されると、上大静脈P1の血管壁P2により付勢部11が仮想線L1で示すように変形することで軸線C側に弾性的に圧縮(変形)される。この血管壁P2の圧縮力に対する反力として、固定部10は血管壁P2に対して弾性変形により生じる弾性力、すなわち上大静脈P1の内面を径方向外側に付勢する押圧力を発生させる。この押圧力によって生じる血管壁P2と固定部10の付勢部11との間の摩擦力により、固定部10は上大静脈P1内の所望の位置で固定される。なお、固定部10は、仮想線L1で示すように軸線C側に圧縮されると軸線C方向に伸びる。
各付勢部11を軸線C周りに等角度ごとに配置すると、固定部10の良好な操作性が得られる。しかしながら、例えば特定の生体構造によりフィットさせるなどの理由で、各付勢部11を軸線C周りに等角度ごとに配置しなくてもよい。
【0016】
複数の付勢部11のうちの1つには、前述の一対の電極部20が設けられている。各電極部20は、ワイヤと被膜12との間に配置される。電極部20は、白金や白金イリジウム合金などで形成される。
電極部20とワイヤとの間には図示しない絶縁性の仕切り被膜が存在し、ワイヤと電極部20とが電気的に絶縁されている。電極部20は、例えば仕切り被膜上に環状形成され、電極部20を覆う被膜12の一部を除去して露出させることで形成される。すなわち、後述するように血管内に固定部10を留置したときに、電極部20は血管内で露出している。
この際、付勢部11における軸線Cとは反対側に電極部20が露出するように形成するなど、電極部20を設ける位置に方向性を持たせることも可能である。電極部20の露出面積は、例えば1〜5mm
2程度である。一対の電極部20は、付勢部11の長手方向に沿って例えば3〜20mm程度の間隔を空けて配置される。
【0017】
各電極部20には、電気配線14(
図3参照)の先端部が電気的に接続されている。電気配線14としては、耐屈曲性を有するニッケルコバルトクロム合金(35NLT20%Ag材、または35NLT41%Ag材)からなる撚り線を、電気的絶縁材(例えば厚さ20μmのETFEやPTFEなど)で被覆したものを好適に用いることができる。
【0018】
リード部40は、生体適合性を有する材料(例えば、ポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂)などで形成されたチューブからなる。リード部40は、
図1に示すように、前述の先端部41と、先端部41よりも基端側に設けられた軟性領域42と、軟性領域42よりも基端側に設けられた硬性領域43とを有している。
先端部41と軟性領域42とでは硬さが異なり、軟性領域42よりも先端部41の方が硬い。先端部41は、上大静脈P1などの血管に対して固定部10を、前述の摩擦力に抗して移動させる大きさの弾性力を伝達させる硬さである。なお、ここで言う血管に対する固定部10の移動とは、血管の長手方向に沿う移動と、血管の長手方向周りの移動(回転)の両方を意味する。一方で、軟性領域42は、自身が変形しても血管に対して固定部10を移動させない大きさの弾性力しか伝達しない硬さの領域である。
【0019】
先端部41を形成する材料は金属でもよく、樹脂でもよい。先端部41を樹脂で形成する場合には、先端部41を軟性領域42よりも硬くする。
具体的には、JIS K7215に従い、タイプDデュロメータを用いて測定したショア硬さ(以下、「ショア硬さ(D)」と略して示す)は、先端部41では押込み操作(プッシュビリティ)および回転操作に対する十分な硬さを有する50以上であり、55以上70以下であることがより好ましい。軟性領域42のショア硬さ(D)は、20以上40以下であり、十分に軟らかいものである。軟性領域42のショア硬さ(D)は30以下であることがより好ましい。
先端部41と軟性領域42、軟性領域42と硬性領域43の接合は、公知の接着剤による接着や、熱溶着、超音波溶着などを適宜選択して用いることができる。
【0020】
リード部40の外径は例えば2mm程度であり、軸線C方向の長さは500〜800mm程度である。軟性領域42の軸線C方向の長さは、体動などによる外力を吸収するのに十分な長さにする。本神経刺激システム1を例えば外頚静脈または内頚静脈から埋植した場合は50〜200mm程度、鎖骨下静脈から埋植した場合は50〜250mm程度というように、挿入位置によって軟性領域42の適した長さは変化する。
なお、軟性領域42の軸線C方向の長さが100mm程度あれば、最低限外力を吸収できることを確認している。
リード部40が全長に渡り硬い場合、留置後に体動などの患者の動きによる外力が、血管内の所望の位置に設置した固定部10に伝わり、固定部10の位置移動が生じる。位置移動が生じると、神経を刺激する効果が低減、もしくは消失する恐れがある。
【0021】
図2に示すように、複数の付勢部11の基端部はリード部40の先端部41に取付けられている。
図3及び4に示すように、先端部41の軸線Cに直交する断面は、正方形状に形成されている。
先端部41には、基端側の外径が縮径されることで縮径部41aが形成されている。縮径部41aの軸線Cに直交する断面は、正方形状である。縮径部41aの先端には、軸線Cに直交する突き当て面41bが全周にわたり形成されている。
先端部41には、軸線C方向に延びる貫通孔41cが形成されている。貫通孔41cの軸線Cに直交する断面は、円形である。先端部41の貫通孔41cには、電気配線14が挿通されている。
先端部41の縮径部41aおよび突き当て面41bで、係合部41eを構成する。
なお、
図4中にはリード部40の係合部41eに係合する、シース部50の後述する被係合部51dを二点鎖線で示している。
【0022】
図4及び5に示すように、軟性領域42には軸線C方向に延びる管路42aが形成されている。軟性領域42の管路42aには、電気配線14が挿通されている。軟性領域42の先端部は、先端部41の貫通孔41c内に挿通された状態で、公知の接着剤45により先端部41に固定されている。
図6に示すように、硬性領域43には軸線C方向に延びる管路43aが形成されている。硬性領域43の管路43aには、電気配線14が挿通されている。
なお、リード部40の外面に任意の被膜を施すことで、抗血栓性や摺動性を付与しても良い。リード部40の引っ張り強度を高めるために、先端部41の貫通孔41c、軟性領域42の管路42a、及び硬性領域43の管路43aに、金属ワイヤ等のテンションメンバを挿通してもよい。
【0023】
図1、5及び6に示すように、シース部50は、シース部50の先端部を構成するシース先端部51と、シース先端部51よりも基端側に配置されたシース本体部52とを有している。シース本体部52は、接続部材54と、接続部材54よりも基端側に配置されたハブ55とを有している。
図1及び5に示すように、シース先端部51の先端部の軸線Cに直交する断面は正方形の縁部状に形成されている。シース先端部51の基端部の軸線Cに直交する断面は、円形の縁部状に形成されている。シース先端部51の先端部の内径は、リード部40の縮径部41aの外径よりもわずかに大きい。シース先端部51の外周面には、軸線Cに平行に延びる溝部51aがシース先端部51の全長にわたり形成されている。溝部51aは、シース先端部51の外周面からシース先端部51の内周面側に凹むように形成されている。より詳しくは、溝部51aは、シース先端部51の内周面に近づくにしたがって、幅(シース部50の周方向の長さ)が狭くなるように形成されている。溝部51aは、シース先端部51に軸線Cを挟んで一対形成されている。
【0024】
シース先端部51の先端部の内周面51bに先端部41の縮径部41aの角部が係合する(引っ掛かる)ことで、シース先端部51の先端部の内周面51bは先端部41の縮径部41aに軸線C周りに係合可能である。先端部41の縮径部41aおよびシース先端部51の先端部の断面形状が円形状ではないことで、シース部50の基端部に加えたトルクをシース部50の先端部から固定部10に伝えることができる。
図4に示すように、シース先端部51の先端面51cは、先端部41の突き当て面41bに軸線C方向の先端側に係合可能である。シース先端部51の先端部の内周面51b、及び先端面51cで、被係合部51dを構成する。
【0025】
図1及び6に示すように、接続部材54の軸線Cに直交する断面は、円形の縁部状に形成されている。接続部材54の外周面には、軸線Cに平行に延びる溝部54aが接続部材54の全長にわたり形成されている。溝部54aは、接続部材54に軸線Cを挟んで一対形成されている。
シース先端部51及び接続部材54は、例えばポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂などの生体適合性を有する材料で一体に形成されている。接続部材54の溝部54aは、シース先端部51の溝部51aに連なっている。
【0026】
図7に示すように、ハブ55の外周面の先端部には、外径が縮径されることで段部55aが形成されている。
図1に示すように、ハブ55の外周面には、軸線Cに平行に延びる溝部55bがハブ55の外周面の全長にわたり形成されている。溝部55bは、ハブ55に軸線Cを挟んで一対形成されている。
ハブ55の段部55aには接続部材54の基端部が取付けられ、ハブ55と接続部材54とが図示しない接着剤等により接合されている。ハブ55の溝部55bは、接続部材54の溝部54aに連なっている。接続部材54の溝部54a、ハブ55の溝部55bは、シース先端部51の溝部51aと同様に形成されている。シース先端部51の溝部51a、接続部材54の溝部54a、及びハブ55の溝部55bで、シース溝部50aを構成する。この例では、シース部50にはシース溝部50aが一対形成されている。
【0027】
シース部50の外径は例えば2.5〜2.9mm程度、内径は1.5〜2.5mm程度であり、シース部50の長さは300mm程度である。シース部50のショア硬さ(D)は、例えば55以上70以下程度という回転操作に十分な硬度とする。
シース部50内にステンレスやタングステンを用いた金属ブレードを封入し、シース部50の剛性を向上させたり、耐キンク性を向上させたりしてもよい。この場合、シース溝部50aを避けるように金属ブレードを配置して、後述するようにシース部50を周方向に引張り軸線C方向に裂けるようにする。シース部50は、硬性領域43と同一の硬さか硬性領域43よりも硬くすることが好ましい。
シース部50は、リード部40の外に(リード部40を囲うように)配置されていて、リード部40に対して軸線C方向に摺動可能である。
【0028】
ハブ55には、シース部50経由で生理食塩水等を注入するための流路を備えることが望ましい。この場合、流路の基端側には公知のルアーロックコネクタが具備され、このルアーロックコネクタにシリンジ等の装着が可能となっている。シリンジを操作することで、シース部50の先端からシリンジに収容された薬液を放出することが可能である。
【0029】
Oリング60は、ゴムなどで形成された公知の構成のものであり、
図7に示すようにハブ55の内周面に設けられている。Oリング60の内径は、リード部40の硬性領域43の外径よりもわずかに小さい。Oリング60の孔内には、リード部40が挿通されている。
リード部40は、Oリング60との間を水密に保ったままシース部50に対して軸線C方向に移動することができる。Oリング60は血液の逆流を防ぐ。
【0030】
パルスジェネレータ70は、不図示の電気刺激供給部を有しており、定電流方式または定電圧方式による電気的刺激を発生させることができる。この例では、電気的刺激として、
図8に示すように、定電流方式であって位相が切り替わるバイフェージック波形群を、所定の間隔を有して発生させる。具体的な波形としては、例えば周波数10〜20Hz(ヘルツ)、パルス幅50〜400ms(秒)で、プラスの最大電流0.25〜10mA(アンペア)からマイナスの最大電流−0.25〜−10mAの間で電流が変化するものを挙げることができる。パルスジェネレータ70は、このようなバイフェージック波形を1分間あたり任意の秒数の間印加する。例えば3〜10秒間、集中的に印加したい場合には60秒間などである。
【0031】
パルスジェネレータ70は一対の電気配線14に接続され、一対の電極部20間に電気的刺激を印加する。このとき、一対の電極部20のうちの一方がプラス電極として作用し、他方がマイナス電極として作用する。
この例では、パルスジェネレータ70からリード部40が取外せない。
【0032】
次に、以上のように構成された神経刺激システム1の固定部10を上大静脈P1に留置する手技について説明する。
図9は、本神経刺激システム1の留置方法を示すフローチャートである。
まず、術者は、患者(生体)の体外において
図4に示すようにリード部40の係合部41eにシース部50の被係合部51dを軸線C方向および軸線C周りに係合させる(ステップS10)。より詳しくは、係合部41eに対して被係合部51dを軸線C周りの両側にそれぞれ係合させ、係合部41eに対して被係合部51dを先端側に係合させる。Oリング60の孔内ではリード部40が摺動可能であるため、リード部40に対してシース部50を軸線C方向及び軸線C周りに移動させることができる。
図10に示すように、患者Pの図示しない頸部近傍の皮膚を小切開して開口を形成する。この開口に、公知のイントロデューサやダイレータ(不図示)を設置し、内頚静脈(血管)P5にイントロデューサの先端部を挿入する。
【0033】
次に、リード部40の係合部41eにシース部50の被係合部51dを係合させた状態で、設置したイントロデューサを介して、内頚静脈P5内に固定部10及びリード部40の先端側を挿入する(ステップS12)。このとき、固定部10をイントロデューサに挿入可能な外径まで弾性的に変形(縮径)させてから挿入する。挿入時には、X線透視下で神経刺激システム1の電極部20、固定部10のワイヤ、電気配線14の位置を確認する。
Oリング60によりシース部50とリード部40との間が封止されているため、血液などの体液がシース部50とリード部40との間を通して体外に流れ出ることはない。
【0034】
術者は、必要に応じてX線透視下でシース部50の基端部を操作して、シース部50の基端部を押込んだり軸線C周りに回転させたりする(ステップS14)。シース部50および先端部41は、血管に対して固定部10を血管との間に作用する摩擦力に抗して移動させる大きさの弾性力を伝達させる硬さに形成されている。このため、シース部50の基端部を押込むことで内頚静脈P5に対して固定部10が軸線C方向に押込まれ、シース部50の基端部を軸線C周りに回転させることで内頚静脈P5に対して固定部10が軸線C周りに回転する。
【0035】
図10に示すように、固定部10を上大静脈(血管)P1に概略配置する。このときも、固定部10の自然状態での外径が前述のように設定されているため、それぞれの付勢部11は上大静脈P1により軸線C側に押し付けられる。すなわち、軸線C側に弾性的に変形された固定部10は、上大静脈P1の内面を付勢する。
一対の電極部20は、付勢部11における軸線Cとは反対側に露出するように形成されているため、各電極部20が上大静脈P1の血管壁P2(
図2参照)側に向くように配置され、各電極部20を血管壁P2に確実に接触させることができる。
電極部20が上大静脈P1内の血液に接触するのを抑え、後述するように一対の電極部20間に印加した電気的刺激が血液側に漏洩するのを抑制することができる。
図10に示すように、この上大静脈P1に隣接して迷走神経(神経組織)P6が併走している。
【0036】
続いて、術者は、パルスジェネレータ70を操作し、電気的刺激を一対の電極部20間に印加する。これは、電気的刺激を生体に印加することになる。電気的刺激を印加した状態で、シース部50の基端部を押込んで上大静脈P1の長手方向に沿う固定部10の位置を調節するとともに、シース部50の基端部を軸線C周りに回転させることで固定部10を軸線C周りに回転させる。固定部10を移動させながら、患者に取付けた心電計などにより心拍数を計測する。一対の電極部20が迷走神経P6に近づいて、対向するように配置され、一対の電極部20から迷走神経P6に印加される電気的刺激が最も大きくなったときに、患者の心拍数が最も低下する。術者は、心拍数が最も低下するように、すなわち、一対の電極部20が迷走神経P6側を向くように、固定部10を移動させる。
以上の手順により、上大静脈P1に対する固定部10の位置および向きを決める。
【0037】
次に、リード部40の基端部を把持して、上大静脈P1内における固定部10の位置を保持する。
リード部40に対してシース部50の基端部を基端側に移動させて(引き戻して)、リード部40の係合部41eとシース部50の被係合部51dとの係合を解除させる(ステップS16)。シース先端部51の先端面51cは、先端部41の突き当て面41bに軸線C方向の基端側には係合しない。このため、リード部40に対してシース部50を引き戻すことで、係合部41eと被係合部51dとの係合が容易に解除される。
シース部50を引き戻すときに、リード部40を押込む操作を織り交ぜると、固定部10の位置ずれを防ぎ、固定部10の位置を確実に保持することができる。
【0038】
係合部41eと被係合部51dとの係合を解除した後で、
図11に示すように、シース溝部50aの基端側からシース本体部52及びシース先端部51を周方向に引張り軸線C方向に引き裂くことで、シース本体部52、シース先端部51の長手方向の全長にわたり本体側切れ目52a、先端側切れ目51eをそれぞれ形成する。
本体側切れ目52aは、シース本体部52の外周面から内周面まで形成されている。先端側切れ目51eは、シース先端部51の外周面から内周面まで形成されている。
シース部50の本体側切れ目52aおよびシース先端部51の先端側切れ目51eを通して、シース部50の外部にリード部40を取出す(ステップS18)。このようにして、シース部50をピールオフする。
【0039】
リード部40を押込んで血管内に送り込み、血管内に位置するリード部40に一定のたるみをもたせる。
リード部40のたるませ方は、不規則な形状で構わないが、螺旋形状のように規則的な形状でも構わない。リード部40のたるませ量(長さ)としては、外力を吸収するのに十分な長さが好ましく、例えば50mm程度以上たるませれば良い。
神経刺激システム1の上大静脈P1内への留置が完了したら、イントロデューサを除去する。
【0040】
本神経刺激システム1により一定期間、迷走神経P6に電気的刺激を印加し続ける。この間に、患者Pの体動によりリード部40が動いた場合でも、リード部40の軟性領域42が、自身が変形しても血管に対して固定部10を移動させない大きさの弾性力しか伝達しない硬さである。このため、リード部40に作用して軟性領域42に伝達された力がさらに固定部10に伝達された場合であっても、上大静脈P1に対して一対の電極部20が動くのを抑えられる。
【0041】
前述の一定期間が経過したら、パルスジェネレータ70を操作して電気的刺激の発生を停止させる。固定部10は容易に外径が変化するため、リード部40を引き戻すことで、頸部近傍の小さな開口からでも神経刺激システム1を抜去することができる。本システム1の抜去のために、外科的な再手術は必要としない。
この後で、開口を縫合するなど適切な処置を行い、一連の手技を終了する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の神経刺激システム1によれば、リード部40の係合部41eとシース部50の被係合部51dとを軸線C方向および軸線C周りに係合させることで、シース部50の基端部を操作する力がシース部50および先端部41を介して固定部10に伝達される。すなわち、シース部50の基端部を押込むと血管内に固定部10が押込まれ、シース部50の基端部を軸線C周りに回転させると血管内で固定部10が軸線C周りに回転する。このため、留置時の神経刺激システム1の操作性を従来並みに維持することができる。
上大静脈P1に対して固定部10を位置決めしたら、係合部41eと被係合部51dとの係合を解除させる。このようにすることで、患者Pの体動によりリード部40が動いた場合でも、リード部40の軟性領域42が伝達された力を低減させるため、上大静脈P1に対して一対の電極部20が動くのを抑えることができる。
【0043】
シース部50は、シース部50をシース溝部50aから周方向に引張り軸線C方向に裂いてシース部50の長手方向の全長にわたり本体側切れ目52aおよび先端側切れ目51eを形成することができる。そして、本体側切れ目52aおよび先端側切れ目51eを通してシース部50の外部にリード部40を取出す。したがって、神経刺激システム1を留置するときにパルスジェネレータ70からリード部40が取外せない場合でも、シース部50を裂いてリード部40からシース部50を取外すことができる。これにより、迷走神経P6に電気的刺激を印加し続ける一定期間、患者Pに与える負担を低減させることができる。
【0044】
シース部50は固定部10の位置調整の操作性を向上させるために用いられるので、リード部40の剛性よりもシース部50の剛性を高く設定している。そのため、比較例として
図12に示すシース部50の先端側を患者P内に残す場合、患者P内に比較的硬い材料で形成されたシース部50が残り、リード部40の柔軟性を生かしにくくなる。
これに対して本実施形態の神経刺激システム1では、シース部50を周方向に引張り軸線C方向に裂ける構成とすることで患者の快適性を損なうことなく、リード部40の柔軟な軟性領域42を露出して患者Pの体動を吸収することで、固定部10の移動を防止することができる。
このように、固定部10との係合および分離が可能なシース部50を用いることで、固定部10を容易に操作し、かつ柔軟な状態で留置が可能な神経刺激システム1を提供することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、
図13及び14に示す神経刺激システム1Aのように、シース部50Aのハブ71に、径方向外側突出した取っ手72を設けてもよい。この変形例では、取っ手72はハブ71を挟むように一対形成されている。
ハブ71は、本実施形態のハブ55よりも外径および内径が大きく形成されている。ハブ71の外周面には、前述の溝部55bが形成されている。
接続部材54の基端面には、接続部材54の外周面から内周面まで達する切欠き54bが形成されている。接続部材54において、切欠き54bは溝部54aに連なっている。
このように構成された神経刺激システム1Aによれば、一対の取っ手72を把持してハブ71を溝部55bから裂くことで、ハブ71が裂きやすくなる。ハブ71を裂くと、裂かれたハブ71により接続部材54が切欠き54bや溝部54aから裂かれる。
【0046】
なお、本実施形態の神経刺激システム1では、シース部50にシース溝部50aは形成されなくてもよい。この場合、本神経刺激システム1の留置方法では、ステップS18において
図15に示すように患者P内からシース部50の全体を取出す。
【0047】
また、シース部50に、シース部50の外周面からシース部50の内周面側に凹むように形成されたシース溝部50aが形成されていることで、シース部50を周方向に引張り軸線C方向に裂いてシース部50に本体側切れ目を形成できるとした。しかし、シース本体部52の基端面に、シース本体部52の外周面から内周面まで達する、前述の接続部材54における切欠き54bのような切欠きを形成し、この切欠きを起点としてシース本体部52を周方向に引張り軸線C方向に裂いてシース本体部52に本体側切れ目を形成してもよい。
シース本体部52の長手方向の全長にわたり本体側切れ目52aを形成するとしたが、本体側切れ目52aはシース本体部52の長手方向の少なくとも一部に形成されればよい。
【0048】
先端部41の縮径部41aおよびシース先端部51の先端部の断面形状が正方形の縁部状であるとした。しかし、これらの断面形状は、楕円形や多角形の縁部状でもよい。
また、シース部の先端に切欠きを設けて、シース部の先端とリード部40の先端部41とが係合し、軸線C周りのトルクを伝達する方法でも良い。
シース部50にはシース溝部50aが一対形成されているとしたが、シース部50に形成されるシース溝部50aの数は特に限定されず、1つでもよいし3つ以上でもよい。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図16から
図18を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図16及び17に示すように、本実施形態の神経刺激システム2が備えるシース部80は、第1実施形態のシース部50のシース先端部51に代えてシース先端部81を備えている。
シース先端部81は、軸線C方向に見たときにU字形に形成された係合片82、83を互いの凹部を対向させるように配置させて構成されている。係合片82、83は、接続部材54よりも硬い金属や樹脂材料で形成されている。係合片82、83の先端面82a、83a、及び内周面82b、83bで被係合部81aを構成する。シース先端部81と接続部材54とは、接着や一体成形などにより接合される。
【0050】
シース先端部81をこのように構成することで、リード部40の先端部41により大きなトルクを伝達させることができる。さらに、係合片82と係合片83との隙間が切れ目81bとなり、シース部80のシース本体部52を引き裂いたときに、シース先端部81を係合片82と係合片83とに分離することができる。
【0051】
なお、
図18に示すように、本実施形態では、シース部80Aがシース先端部81に代えてシース先端部86を有するように構成してもよい。シース先端部86は、軸線Cに直交する断面は正方形の縁部状に形成されている。シース先端部86は係合片82、83と同一の材料で形成することができる。シース先端部86は軸線C方向に裂くことができない。
このように構成されたシース部80Aは、血管内からシース部80Aの全体を取出し、シース本体部52を引き裂いてシース本体部52をシース先端部86から分離する。このとき、シース先端部86を引き裂くことはできず、リード部40からシース先端部86を取外すことはできない。しかし、シース先端部86の軸線C方向の長さは短いため、シース先端部86が体外に出たとしてもリード部40の柔軟さを損ねることはない。
【0052】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について
図19を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図19に示すように、本実施形態の神経刺激システム3は、第1実施形態のシース部50のハブ55に代えてリード部保持機構96を有している。なお、接続部材54およびリード部保持機構96でシース本体部91を構成し、図示しないシース先端部51およびシース本体部91でシース部90を構成する。すなわち、リード部保持機構96はシース本体部91の基端側に配置されている。
【0053】
リード部保持機構96は、管状に形成された本体97を有している。本体97の内周面には、Oリング60を保持するための凹部97aが形成されている。
本体97における凹部97aよりも先端側、基端側には、本体97の管路に連通する側孔97b、97cがそれぞれ形成されている。側孔97cには、図示しない雌ネジ部が形成されている。本体97の内周面の側孔97cに対向する位置には、本体97の内周面から側孔97c側に突出した受け部97dが設けられている。
本体97の外周面には、軸線Cに平行に延びる溝部97fが本体97の外周面の全長にわたり形成されている。本体97の溝部97fは、接続部材54の溝部54aに連なっている。
本体97は、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)やPC(ポリカーボネート樹脂樹脂)などで形成することができる。
本体97は接続部材54に接着剤などで固定されている。
【0054】
側孔97bには、チューブ99が接続される。このチューブ99には、図示はしないがヘパリンなどの薬液が収容されたシリンジが接続される。
側孔97cの雌ネジ部には、ネジ部材100が螺合している。ネジ部材100が雌ネジ部に螺合する長さを長くすることで、本体97の管路に挿通されたリード部40が、ネジ部材100の先端と受け部97dと間で挟持される。これにより、リード部保持機構96は、本体97に対するリード部40の位置を軸線C方向に保持する。
ネジ部材100が雌ネジ部に螺合する長さを短くする(ネジ部材100を緩める)ことで、リード部40の保持が解除される。
【0055】
リード部40の係合部41eとシース部90の被係合部51dとを係合させた状態で、リード部保持機構96でリード部40を保持することで、係合部41eから被係合部51dが意図せずに外れることがなくなる。これにより、術者はリード部保持機構96を押込んだり引き戻したりして、固定部10を操作することができる。
【0056】
シース部90を軸線C方向に裂くときには、ネジ部材100を緩めてシース部90を引き戻す。本体97を溝部97fから軸線C方向に裂いて本体97の長手方向の全長にわたり保持側切れ目97gを形成する。そして、保持側切れ目97gを通してリード部保持機構96の外部にリード部40を取出す。
【0057】
(第4実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図20を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図20に示すように、本実施形態の神経刺激システム4は、第1実施形態のシース部50のハブ55に代えて封止力調整機構116を有している。なお、接続部材54および封止力調整機構116でシース本体部111を構成し、図示しないシース先端部51およびシース本体部111でシース部110を構成する。すなわち、封止力調整機構116はシース本体部111の基端側に配置されている。
【0058】
封止力調整機構116は、管状に形成された本体117を有している。本体97の基端部は、内径が拡径されることで大径部117aが形成されている。本体117の大径部117aよりも先端側は、大径部117aよりも内径の小さな小径部117bとなっている。
小径部117bと大径部117aとの間には段部117cが形成され、大径部117aの基端部には、図示しない雌ネジ部が形成されている。
本体117における段部117cよりも先端側には、本体117の管路に連通する側孔117dが形成されている。
本体117の外周面には、軸線Cに平行に延びる溝部117fが本体117の外周面の全長にわたり形成されている。本体117の溝部117fは、接続部材54の溝部54aに連なっている。
本体117は、本体97と同一の材料で形成することができる。
【0059】
側孔117dには、前述のチューブ99が接続される。
Oリング60は、段部117cに配置されている。大径部117aの雌ネジ部には、筒状に形成された押圧部材119の外周面に形成された雄ネジ部119aが螺合している。押圧部材119の基端部には、フランジ119bが設けられている。フランジ119bを把持することで、押圧部材119が操作しやすくなる。
Oリング60および押圧部材119内には、リード部40が挿通されている。
【0060】
このように構成された本神経刺激システム4は、押圧部材119が雌ネジ部に螺合する長さを長くする(押圧部材119をきつく締める)ことで、Oリング60が軸線C方向に潰れてリード部40とOリング60との間に作用する力が増加する。一方で、押圧部材119が雌ネジ部に螺合する長さを短くする(押圧部材119を緩める)ことで、Oリング60が軸線C方向に広がりリード部40とOリング60との間に作用する力が減少する。
【0061】
リード部40の係合部41eとシース部90の被係合部51dとを係合させた状態で押圧部材119をきつく締め、係合部41eから被係合部51dが外れないようにする。
係合部41eと被係合部51dとの係合を解除するときには、押圧部材119を緩めるとリード部40に対してOリング60が軸線C方向に移動しやすくする。
Oリング60によるリード部40の締め付け力を変えることができるので、リード部40上でのシース部110の移動操作をより抵抗の少ない状態で操作することが可能となる。
【0062】
シース部110を軸線C方向に裂くときには、押圧部材119を緩めてシース部110を引き戻す。本体117を溝部117fから軸線C方向に裂いて本体117の長手方向の全長にわたり封止側切れ目117gを形成する。そして、封止側切れ目117gを通して封止力調整機構116の外部にリード部40を取出す。
【0063】
以上、本発明の第1実施形態から第4実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態から第4実施形態では、固定部10は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
【0064】
図21に示す固定部130は、先端部41から先端側に延びる棒状の支持部材131と、支持部材131から軸線Cに対する一方側(片側)に向かって凸となるように湾曲した付勢部11が設けられている。この変形例では、一対の電極部20は支持部材131に設けられている。支持部材131は、絶縁性を有する樹脂などで形成する。
図22に示す固定部140は、絶縁性および弾性を有する樹脂などで形成された、いわゆるステント状(円筒状)の付勢部材141を有している。付勢部材141の側面には、多数の孔141aが形成されている。この付勢部材141を縮径させた状態で上大静脈P1内に配置することで、上大静脈P1に固定部140を位置決めする。
【0065】
図23に示す固定部150では、支持ワイヤ151、152は自然状態では同一平面上に形成されている。支持ワイヤ151、152は、超弾性ワイヤを折り曲げることで形成することができる。支持ワイヤ151、152を畳んで縮径させた状態で血管内に導入し、上大静脈P1内で支持ワイヤ151、152を広げて血管壁P2を付勢することで、上大静脈P1に固定部150を位置決めする。
図24に示す固定部160では、第1実施形態の固定部10の各構成に加えて、各付勢部11の先端側に、先端側に向かって突出する針部161を設けるとともに、各付勢部11の基端側に、基端側に向かって突出する針部162を設けている。このように構成された固定部160では、血管壁P2を針部161、162で穿刺することで、上大静脈P1に固定部160を位置決めすることができる。
【0066】
なお、これら固定部130、140、150、160の図示しないワイヤに溝または突起を設けることで、固定部の固定力を高め、固定部の移動を防止することができる。
【0067】
前記実施形態では、複数の付勢部11の基端部の凹凸形状を利用することで、係合部が固定部10に設けられていてもよい。この場合には、リード部の先端部は軟性領域42と同一の硬さでもよい。また、係合部は、リード部40の先端部41及び固定部10の両方に設けられてもよい。
リード部40の硬性領域43の基端部に、パルスジェネレータ70に着脱可能に接続するためのコネクタを備えてもよい。このコネクタには、例えば公知のIS−1コネクタやその他の防水型コネクタなどを用いてもよい。この場合、パルスジェネレータ70にコネクタが接続されると、一対の電気配線14を介して電極部20間に電気的刺激が発生する。
【0068】
固定部10が3以上の電極部20を備えるように構成してもよい。
前記実施形態では、リード部40は、先端部41、軟性領域42および硬性領域43を有し、互いに硬さが異なる2種類の材料で形成されているとした。しかし、リード部が全て軟性領域と同一の材料で形成されていてもよいし、リード部が互いに硬さが異なる3種類以上の材料で形成されていてもよい。
一対の電極部20が、互いに異なる付勢部11に設けられていてもよい。
本実施形態の神経刺激システムは、例えば心臓ペーシングリードなどにも使用できる。
【0069】
さらに、本発明は、以下の技術思想を含むものである。
(付記項1)
弾性を有する材料で形成され、弾性的に変形された状態で血管内に留置されることで前記血管の内面を付勢する固定部と、
線状に形成され先端部が前記固定部に取付けられたリード部と、
前記リード部が挿通され、前記リード部の前記先端部および前記固定部の少なくとも一方に設けられた係合部と前記リード部の軸線方向および前記軸線周りに係合可能な被係合部が先端部に設けられたシース部とを備え、前記リード部の前記先端部よりも基端側には、自身が変形しても前記血管に対して前記固定部を移動させない大きさの弾性力しか伝達しない軟性領域が設けられた神経刺激システムを生体内に留置する神経刺激システムの留置方法であって、
前記係合部に前記シース部の前記被係合部を係合させ、
前記血管内に弾性的に変形させた前記固定部を挿入し、
前記シース部の基端部を操作することで、前記固定部を前記軸線方向に押込んだり、前記軸線周りに回転させたりし、
前記シース部を引き戻して、前記係合部と前記シース部の前記被係合部との係合を解除させ、
前記生体内から前記シース部の全体を取出す神経刺激システムの留置方法。