(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(a)が、前記少なくとも1種の3B族元素をドープしたZnO系半導体層と、AgO層とを交互に積層した交互積層構造を形成する、請求項1に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
前記工程(a)、(b)、(c)が、同一のMBE装置内で行われ、前記工程(c)の活性酸素は酸素ラジカルビームである、請求項3に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
(x)、前記工程(a)の前に、前記MBE装置内にZnO系半導体基板を装荷し、前記ZnO系半導体基板の上にn型ZnO系半導体層を形成し、さらにその上にZnO系半導体の発光層を形成する工程を含む請求項4に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを持つ直接遷移型の半導体で、励起子の束縛エネルギーが60meVと比較的大きい。また原材料が安価であるとともに、環境や人体への影響が少ないという特徴を有する。このためZnOを用いた高効率、低消費電力で環境性に優れた発光素子の実現が期待されている。
【0003】
ZnOにMgOを添加したMg
xZn
1−xOはバンドギャップエネルギが増大する。Mg
xZn
1−xO(ZnO系とも呼ぶ)は、ZnO類似の物性を有する。基板上にZnO系半導体層をエピタキシャル成長し、発光装置等を作成することが可能である。
【0004】
しかし、ZnO系半導体は、強いイオン性に起因する自己補償効果を有し、通常の熱拡散手法など熱平衡的不純物ドープ手法による結晶成長法では、p型の導電型制御が困難である。例えば、アクセプタ不純物として、N、P、As、Sb等のVA(5A)族元素、Li、Na、K等のIA(1A)族元素、Cu、Ag、AuなどのIB(1B)族元素を用い、実用的な性能を持つp型ZnO系半導体の研究が行われている。
【0005】
2種類の不純物の共ドープ等の技術が考察されている。Cu,Ag等のアクセプタをGa等のドナーと共に共ドープしてp型層を得る技術(例えば特許文献1)が提案されている。
【0006】
本願発明者らは、3B族n型不純物、例えばGa、をドープしたMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層とCuまたはAgを含む層とを交互に積層した交互積層構造を成長し、交互積層構造をアニールし、p型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層を製造する技術(例えば特許文献2)を提案している。
【0007】
さらに、本願発明者らは、Zn,O,p型不純物Ag,n型不純物3B族元素を同時供給し、Agと3B族元素が共ドープされたZnO系半導体層を成長し、アニールしてp型化する技術(特願2014−12017号)、GaドープされたZnO結晶層とAgO層とが交互に積層された交互積層構造を分子線エピタキシ(MBE)により形成し、活性酸素が存在する、圧力が10
-2Pa未満の環境で、交互積層構造をその場アニール(in-situ annealing)してp型化する技術(特願2014-147283号)等を出願している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、Ga等の3B族n型不純物を添加したZnO系半導体層(Gaを添加したZnOをZnO:Gaと表す)とAgO等のp型不純物Agを含む層(1原子層以下の厚さのものも、層と呼ぶ)の交互積層を成長し、アニール等によりp型化する技術について、本発明者らが行った検討内容を説明する。
【0013】
ZnO中でZnサイトに位置するAgがp型不純物として機能するアクセプタとなる。n型不純物Gaとp型不純物AgとをドープしたZnO層を成長しても、それだけではp型とならず、アニールして初めてp型となる。Agをp型不純物として機能させるには、まずAgを熱拡散等によりZn空孔まで移動させることが必要であると考えられる。先願においても、n型不純物GaをドープしたZnO:Ga層とp型不純物であるAgを含むAgO層の交互積層をアニールしてp型化する方法を開示している。Zn空孔を作成しつつ、Agを移動させる可能性もあろう。
【0014】
アニールしてp型化したZnO:(Ga,Ag)層のアクセプタ密度は、未だ十分高いとは言えない。Znサイトを占拠したAgをさらに活性化して、アクセプタ密度を増大することが望まれる。Agを移動させてp型化する移動アニールに続いて、Agを更に活性化してアクセプタ密度を増大するアクセプタ密度増大アニールを同一温度で行うと、一旦Znサイトに収まったAgが、Znサイトから他の位置に移動してしまう可能性がある。Ag移動アニール(一次アニール)後に、Agの移動を抑制する、より低温でアクセプタ密度増大アニール(二次アニール)を行う2段階アニールが望ましいであろう。
【0015】
Agが十分移動する一次アニールにおいては、酸素も移動する可能性があろう。酸素空孔はドナーとして機能する。高いアクセプタ密度を得るためには、ドナーは低減することが望ましい。酸素空孔を低減するためには、二次アニールにおいて活性酸素を照射することが有効であろう。
【0016】
ZnO系半導体層の成長は、分子線エピタキシ(molecular beam epitaxy;MBE)により行う。半導体層成長の後、上述のような2段階アニールを、MBE装置内のその場アニールで行うこととする。以下、本発明者らが行った、実験1について説明する。
【0017】
図1Aは、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Agソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。
【0018】
Znソースガン72、Mgソースガン74、Agソースガン75、Gaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Ag(6N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Agビーム、Gaビームを出射する。
【0019】
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でO
2ガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカルビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用できる。
【0020】
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが直接照射される状態と直接照射されない状態とを切り替え可能である。基板78の前にもシャッタを備える。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長できる。基板上に堆積する膜の厚さを計測するための膜厚計79がステージ77の側方に配置されている。ステージ77を挟んで、電子ビームを出射するRHEED用ガン80と基板78で反射された電子ビームを受け画像化するスクリーン81が対向配置されている。
【0021】
図1Bを参照して、サンプルの構成を説明する。
図1Aに示すMBE装置を用い、n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板51上に、MBEにより、ZnOバッファ層52、アンドープZnO層53、交互積層54が形成される。
【0022】
図1Cは、交互積層54の構成を示す部分拡大断面図である。GaをドープしたZnO層(ZnO:Ga層)54aとAgO層54bとが交互に積層されて、例えば60対の交互積層54を構成している。「AgO」は、AgO(酸化銀(II))、Ag
2O(酸化銀(I))等、AgO
xと表すことのできる銀酸化物を表わす。以下、サンプルの製造プロセスを説明する。
【0023】
図1Dに示すように、実験1においては、ZnO(0001)基板51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51の温度を250℃まで下げる。その温度(成長温度250℃)で、ZnフラックスF
Znを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccmとし、5分間の成長で、ZnO基板51上に厚さ40nmのZnOバッファ層52を成長する。
【0024】
厚さ40nmのバッファ層52の成長条件は、以下のようにまとめられる:成長温度Tg=250℃、成長時間tg=5min、照射ビームF
Zn=0.14nm/s、O
2=1sccm/RF=150W。
【0025】
ZnOバッファ層52の成長後、成長層の結晶性及び表面平坦性の改善のため、950℃に昇温し、30分間のアニールを行う。アニール後、950℃のまま、ZnOバッファ層52上に、ZnフラックスF
Znを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccmとして、15分間の成長で、厚さ100nmのアンドープZnO層53をエピタキシャル成長する。アンドープZnO層53はn型となる。
【0026】
厚さ100nmのアンドープZnO層53の成長条件は、以下のようにまとめられる:成長温度Tg=950℃、成長時間tg=15min、照射ビームF
Zn=0.14nm/s、O
2=1sccm/RF=150W。
【0027】
アンドープZnO層53の成長後、基板温度を下げ、250℃に設定する。アンドープZnO層53の上に、厚さ約100nmのZnO:Ga/AgO交互積層構造54を形成する。ZnO:Ga層54aは、ZnフラックスF
Znを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccm、Gaのセル温度T
Gaを520℃として1層当たり10秒間成長する。AgO層54bは、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O
2流量1.0sccm、2個のAgセルの温度T
Agを750℃(AgフラックスF
Agは0.004nm/s)として1層当たり25秒間成長する。60対の交互積層で、厚さ約100nmとなる。ZnO:Ga/AgO交互積層構造54は、n型を示す。
【0028】
ZnO:Ga/AgO交互積層構造54の成長条件は、以下のようにまとめられる:成長温度Tg=250℃、成長時間tg=(ZnO:Ga/AgO=10sec/25sec)×60sets、照射ビームF
Zn=0.14nm/s、O
2=1sccm/RF=150W、T
Ag=750℃×2p(F
Ag=0.004nm/s)、T
Ga=520℃、総厚約100nm。
【0029】
続いて、交互積層構造54に一次アニール処理を行う。一次アニールはMBE装置内(圧力が10
−2Pa未満の環境)で、エピタキシャル層の成長に引き続いて実施する(in−situ annealing)。800℃で30分間の一次アニールを実施する。Agが熱拡散し、Znサイトにトラップされるとp型不純物として機能すると考えられる。一次アニールにおいては、無電極放電管内でO
2ガスをプラズマ化(RFパワー300W、O
2流量2.0sccm)し、かつ、Oセルシャッタを閉状態とした。酸素ラジカルは、シャッタを閉の状態でシャッタ開の状態の約1/4の量、基板上に到達する。すなわちAgを移動させる一次アニールを、活性酸素の存在する、圧力が10
−2Pa未満の環境で実施する。
【0030】
ここまでの製造プロセスは、先願の開示内容に重なる。実験1においては、一次アニールを行ったサンプルに、アニール温度を下げた二次アニールを行う。2次アニールは、Agの移動は抑制しつつ、Zn位置に存在するAgをp型不純物としてより活性化し、O空孔にO原子を供給してO空孔を減少させることを意図し、アニール温度を下げ、活性酸素をサンプルに直接照射して行う。
【0031】
一次アニールの温度より低い2次アニールの温度として、3×(100)℃、5×(100)℃、7×(100)℃の3温度を選択する。3×(100)等の表記は、有効数字が1桁であることを表す。一次アニールに続いて、同一MBE装置内で(in-situ annealing)二次アニールを30分間行う。二次アニール中、Oセルをエピタキシャル層成長時と同じ条件(O
2=1sccm/RF=150W)とし、シャッタを開として、活性酸素をサンプル表面に直接照射する。参考例として、一次アニールのみを行い、二次アニールを行わないサンプルも作成する。
【0032】
一次アニールのみを行うサンプルをサンプルSr,3×(100)℃の二次アニ−ルを行うサンプルをサンプルS1,5×(100)℃の二次アニールを行うサンプルをサンプルS2,7×(100)℃の二次アニールを行うサンプルをサンプルS3とする。
【0033】
図2に、各サンプルに対して行った、Ag及びGaの2次イオン質量分析(SIMS)測定のデプスプロファイルを示す。サンプルSrに対する、一次アニール後のSIMS測定によれば、Ag濃度[Ag]として、約1.0×10
21cm
−3、Ga濃度[Ga]として約3.8×10
20cm
−3が得られた。Ag/Ga=2.6、[Ag]−[Ga]:6.2×10
20cm
−3である。
【0034】
サンプルS1に対して、[Ag]=1.1×10
21cm
−3、[Ga]=4.4×10
20cm
−3が得られた。Ag/Ga=2.5、[Ag]−[Ga]:6.6×10
20cm
−3である。サンプルS2に対して、[Ag]=1.0×10
21cm
−3、[Ga]=3.9×10
20cm
−3が得られた。Ag/Ga=2.6、[Ag]−[Ga]:6.1×10
20cm
−3である。サンプルS3に対して、[Ag]=1.0×10
21cm
−3、[Ga]=3.8×10
20cm
−3が得られた。Ag/Ga=2.6、[Ag]−[Ga]:6.2×10
20cm
−3である。いずれのサンプルも、膜中のAg濃度及びGa濃度は、ほぼ同一の値であった。
【0035】
図3に、各サンプルに対して行った、C−V測定に基づく、I−V特性、1/C
2−V特性、740Hzにおける空乏層幅の測定結果を示す。サンプルSrは一次アニールのみを行っている。サンプルSrの1/C
2−V特性を示す測定結果はp型を示している。交互積層構造54は、一次アニールにより、n型からp型に反転したことを示している。5.4×10
20cm
−3程度のアクセプタ密度が得られている。
【0036】
サンプルS1とS2の測定結果は、8.1×10
20cm
−3程度、7.8×10
20cm
−3程度のアクセプタ密度を示している。一次アニールによって得られた、5.4×10
20cm
−3程度のアクセプタ密度が、二次アニールによって増大していることが判る。適切な二次アニールはアクセプタ密度を増大することが判る。サンプルS3は、二次アニールにより再びn型になった(ドナー密度:8.0×10
19cm
−3程度)ことを示している。二次アニールの温度を高くしすぎると、アクセプタ密度増大の効果は得られないことが判る。ZnサイトのAgが他の場所に移動したり、酸素空孔が増加したこと等が考えられる。これらの実験結果に基づき、以下のように考えられるであろう。
【0037】
一次アニールにおいて、Agが拡散し、Znサイトに置換することにより、p型が得られる。Znサイトに位置したAgはアクセプタとして働く。なお、Agが移動する温度では他の元素も移動することが考えられる。Oが移動して酸素空孔を形成すると、酸素空孔はドナーとして働く。GaがZnサイトに置換すると、GaとOが強い結合を形成し、酸素空孔の発生を抑制し、Ga自体はドナーとして働くと考えられる。GaドナーはAgアクセプタを補償するので、アクセプタ密度の最大値が、Ag濃度[Ag]とGa濃度[Ga]の差([Ag]−[Ga])により規定されると推測される。
【0038】
二次アニールはアクセプタ密度を増大することを意図している。Znサイトに位置するAgが動いてしまうと、アクセプタが減少するので、二次アニールはZnサイトに位置するAgをなるべく移動させないことが好ましい。このため、二次アニールの温度は一次アニールの温度より低くする。
【0039】
二次アニールにおいて、サンプルに照射する活性酸素は、酸素空孔を減らすように働くと考えられる。酸素空孔の減少はドナーの減少であり、(実効的)アクセプタ密度の増加につながる。
【0040】
サンプルSrにおいて、アクセプタ密度の最大値[Ag]−[Ga]は6.2×10
20cm
−3である。サンプルSrのアクセプタ密度Na(実際上はアクセプタ密度とドナー密度との差:N
A−N
D)として、5.4×10
20cm
−3が得られている。上記最大値との差は、O空孔(ドナー)によるものか、あるいはAgのZnサイトへの置換効率が100%でない(例えば、92%程度)ことによるもの等と考えられる。
【0041】
ところが、サンプルS1は、
図2に示すように推定されるアクセプタ密度の最大値が[Ag]−[Ga]=6.6×10
20cm
−3、
図3に示すように測定されたアクセプタ密度がNa=8.1×10
20cm
−3である。アクセプタ密度Naが、推測される最大値[Ag]−[Ga]を超えている。同様に、サンプルS2は、
図2に示すように[Ag]−[Ga]=6.1×10
20cm
−3、
図3に示すようにNa=7.8×10
20cm
−3である。アクセプタ密度Naが、推測される最大値[Ag]−[Ga]を超えている。この現象は、Ag以外の別のアクセプタが生じていることを示唆すると推察される。
【0042】
例えば、活性酸素の照射により、格子間酸素が発生することが考えられる。格子間酸素はアクセプタとして働く。活性酸素照射が、酸素空孔(ドナー)を減少させるのみでなく、格子間酸素(アクセプタ)を発生させ、アクセプタ密度の向上に寄与すると考えられる。Znサイトに置換したAgにより格子が大きくなると、格子間にOが入り易くなる可能性もあり、格子間Oが形成されることにより、エネルギー的に安定化することも考えられる。
【0043】
7×(100)℃の二次アニールを行ったサンプルS3は、n型となったが、ドナー密度は、サンプルS1,S2のアクセプタ密度より1桁近く低かった。僅かにn型化したと考えられる。異なる条件で作成したあるサンプルでは、7×(100)℃の2次アニール後もp型を保った。サンプル作成の調整により、7×(100)℃未満の温度、例えば6×(100)℃、における二次アニールによりアクセプタ密度を向上する可能性もあると推察される。7×(100)℃未満の温度で二次アニールを行う場合、一次アニールの温度は二次アニールの温度より1×(100)℃より大きく、高い温度で行うことが望ましいであろう。
【0044】
以上、一次アニールの温度より低い温度で行う二次アニールの温度依存性を検討した実験1を考察した。二次アニールでは結晶層に活性酸素を直接照射している。活性酸素発生条件(活性酸素の強度)を変化させる実験2を行った。 ZnO基板の上にMBEでエピタキシャル層を成長し、一次アニールを行うまでは実験1と同様である。
【0045】
図4は、実験2のサンプル作成プロセスの温度プロファイルを示す。左側から、900℃のサーマルクリーニング、250℃におけるバッファ層52の成長、950℃のアニール、同一温度950℃でのアンドープZnO層53のエピタキシャル成長、250℃における交互積層の形成、800℃における一次アニールまでは、実験1と同じである。その後、基板を500℃に降温し、酸素供給量1sccmで、RFパワーを100W,150W,200Wに設定して生じさせた活性酸素を基板に直接照射して二次アニールを行う。RFパワー100Wの活性酸素照射を行ったサンプルをS4,RFパワー150Wの活性酸素照射を行ったサンプルをS5、RFパワー200Wの活性酸素照射を行ったサンプルをS6とする。
【0046】
図5は、サンプルS4,S5,S6に対して行ったI−V測定のI−V波形、1/V
2−V特性、及び不純物濃度のデプスプロファイルを示す。参考例として、サンプルSrの測定結果も併せて示す。
【0047】
一次アニールのみを行った参照サンプルSrのアクセプタ密度がNa=5.4×10
20cm
−3であるのに対し、RFパワー100Wの活性酸素を直接照射したサンプルS4のアクセプタ密度はNa=8.3×10
20cm
−3であり、RFパワー150Wの活性酸素を直接照射したサンプルS5のアクセプタ密度はNa=7.8×10
20cm
−3であり、RFパワー200Wの活性酸素を直接照射したサンプルS6のアクセプタ密度はNa=8.2×10
20cm
−3であり、参照サンプルSrのアクセプタ密度より高くなった。アクセプタ密度とRFパワーとの間に明確な関係は見出せていないが、二次アニールを行うことでアクセプタ密度が増大することが判る。
【0048】
なお、n型不純物としてGaを用いたが、3B族の元素B,Al,Ga,Inであれば、ほぼ同様の結果が期待できよう。p型不純物はAgのみを対象とする。二次アニールにおける活性酸素の直接照射を、時間的に連続的な照射とせず、時間的に間欠的な照射としてもよいであろう。
【0049】
以上説明した2段階アニールを用いて、半導体発光装置を作成することができる。2段階アニールは、Ga等のn型不純物と、p型不純物としてのAgとを含むZnO系半導体層を、一次アニールでAgを拡散、移動させてp型層にし、一次アニールの温度より低い温度で、かつ活性酸素を直接半導体表面に照射して、二次アニールを行ってアクセプタ密度を増大させる、2段階のアニールを指す。
【0050】
図6Aは、製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
【0051】
ZnO基板11上に、例えば厚さ30nmのZnOバッファ層12を成長させる。ZnOバッファ層12の結晶性及び表面平坦性の改善のため、アニールを行う。
【0052】
ZnOバッファ層12上に、例えば厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させる。n型ZnO層13のGa濃度は、たとえば1.5×10
18cm
−3である。n型ZnO層13上に、例えば厚さ30nmのn型MgZnO層14を成長させる。n型MgZnO層14のMg組成は、例えば0.3である。n型MgZnO層14上に、例えば厚さ10nmのZnO活性層15を成長させる。ZnO活性層15上にMgZnO:Ga/AgO交互積層を形成する。交互積層は、当初n型を示す。交互積層に上述のような2段階アニールを行って、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16を形成する。
【0053】
なお、
図6Bに示すように、活性層15として、単層のZnO層ではなく、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wが交互に積層された量子井戸構造を用いることもできる。
【0054】
なお、MgZnO:Ga/AgO交互積層に代え、Mg,Zn,O,Ga、Agを同時供給して、Ag,Ga共ドープMgZnO層を形成することも可能であろう。ZnO層にかえ、ZnO系層を形成してもよい。MBE装置内で、Ag、Ga共ドープMgZnO系結晶層に、例えば800℃、30分間の一次アニールを施す。一次アニールにおいては、無電極放電管内でO
2ガスをプラズマ化する(活性酸素を発生させる)が、Oセルシャッタは閉状態とする。一次アニール後、基板温度を(7×100)℃未満に下げ、例えば(6×100)℃とし、Oセルシャッタを開状態として、Oラジカルビームを(発生させた活性酸素を)、Ag、Ga共ドープMgZnO単結晶層に直接照射する。MBE装置内は真空に近い環境、たとえば圧力が10
−2Pa未満の環境である。一次アニールによって、Ag、Ga共ドープMgZnO結晶層がp型化され、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16が形成され、二次アニールによって、アクセプタ密度が増大すると考えられる。
【0055】
その後、ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16上にp側電極17pを形成する。また、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。たとえばn側電極17nは、Ti層上にAu層を積層して形成し、p側電極17pは、Ni層上に、Au層を積層して形成する。ボンディング電極18はAu層で形成する。このようにして、ZnO系半導体発光素子が作製される。
【0056】
以上、ZnO基板11を用いたが、MgZnO基板、GaN基板、SiC基板、Ga
2O
3基板等の導電性基板を使用することが可能である。なお、その場アニールを行う場合、アニールを行う外部電気炉は不要となり、かつ半導体発光素子の製造時間を短縮することが可能となる。