特許第6516258号(P6516258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516258
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】ZnO系半導体構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/28 20100101AFI20190513BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20190513BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20190513BHJP
   C23C 14/22 20060101ALI20190513BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   H01L33/28
   H01L21/363
   C23C14/08 C
   C23C14/22 Z
   C23C14/58 A
   C23C14/58 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-144585(P2015-144585)
(22)【出願日】2015年7月22日
(65)【公開番号】特開2017-28077(P2017-28077A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(72)【発明者】
【氏名】佐野 道宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有香
【審査官】 島田 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−46593(JP,A)
【文献】 特開2015−32680(JP,A)
【文献】 特開2015−115566(JP,A)
【文献】 特開2015−73041(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004657(WO,A1)
【文献】 米国特許第7723154(US,B1)
【文献】 欧州特許出願公開第2009683(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00−33/64
H01L21/363
C23C14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)B,Al,Ga,Inからなる群より選択された少なくとも1種の3B族元素、およびAgをドープしたZnO系半導体層を形成する工程と、
(b)活性酸素が存在する、圧力が10−2Pa未満の環境で、前記ZnO系半導体層表面に酸素ラジカルビームを断続的に照射しながらアニールし、前記3B族元素とAgがドープされたp型ZnO系半導体層を形成する工程と、
を含むZnO系半導体構造の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、前記少なくとも1種の3B族元素をドープしたZnO系半導体層と、AgO層とを交互に積層した交互積層構造を形成する、請求項1に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
【請求項3】
前記交互積層構造の形成が分子線エピタキシ(MBE)で行われる、請求項2に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)、(b)が、同一のMBE装置内で行われ、前記工程(b)は、基板温度750℃〜950℃で行われる、請求項3に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
【請求項5】
(x)、前記工程(a)の前に、前記MBE装置内にZnO系半導体基板を装荷し、前記ZnO系半導体基板の上にn型ZnO系半導体層を形成し、さらにその上にZnO系半導体の発光層を形成する工程を含む請求項4に記載のZnO系半導体構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギを持つ直接遷移型の半導体で、励起子の束縛エネルギが60meVと比較的大きい。また原材料が安価であるとともに、環境や人体への影響が少ないという特徴を有する。このためZnOを用いた高効率、低消費電力で環境性に優れた発光素子の実現が期待されている。
【0003】
ZnOにMgOを添加したMgZn1−xOはバンドギャップエネルギが増大する。MgZn1−xO(ZnO系とも呼ぶ)は、ZnO類似の物性を有する。基板上にZnO系半導体層をエピタキシャル成長し、発光装置等を作成することが可能である。
【0004】
しかし、ZnO系半導体は、強いイオン性に起因する自己補償効果を有し、通常の熱拡散手法など熱平衡的不純物ドープ手法による結晶成長法では、p型の導電型制御が困難である。例えば、アクセプタ不純物として、N、P、As、Sb等のVA(5A)族元素、Li、Na、K等のIA(1A)族元素、Cu、Ag、AuなどのIB(1B)族元素を用い、実用的な性能を持つp型ZnO系半導体の研究が行われている。
【0005】
2種類の不純物の共ドープ等の技術が考察されている。Cu,Ag等のアクセプタをGa等のドナーと共に共ドープしてp型層を得る技術(例えば特許文献1)が提案されている。
【0006】
本願発明者らは、IIIB(3B)族n型不純物、例えばGa、をドープしたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)層とCuまたはAgを含む層とを交互に積層した交互積層構造を成長し、交互積層構造をアニールし、p型MgZn1−xO(0≦x≦0.6)層を製造する技術(例えば特許文献2)を提案している。
【0007】
さらに、本願発明者らは、GaドープされたZnO結晶層とAgO層とが交互に積層された交互積層構造を分子線エピタキシ(MBE)により形成し、活性酸素が存在する、圧力が10-2Pa未満の環境で、交互積層構造をその場アニール(in-situ annealing)してp型化する技術(特願2014-147283号)等を出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−221132号公報
【特許文献2】特開2013−211513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ZnO系半導体層で得られるp型不純物密度は、未だ十分高いとは言えない。高いアクセプタ密度を実現することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施例によれば、
(a)B,Al,Ga,Inからなる群より選択された少なくとも1種の3B族元素、およびAgをドープしたZnO系半導体層を形成する工程と、
(b)活性酸素が存在する、圧力が10−2Pa未満の環境で、前記ZnO系半導体層表面に酸素ラジカルビームを断続的に照射しながらアニールし、前記3B族元素とAgがドープされたp型ZnO系半導体層を形成する工程と、
を含むZnO系半導体構造の製造方法
が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】、および
図1-2】図1Aは、MBE装置を示す概略的な断面図、図1Bはサンプルの概略的な断面図、図1Cはサンプル中の交互積層構造を示す概略的な断面図である。
図2図2は、サンプル作成プロセスの温度プロファイルと行われるプロセスの内容とを示すグラフである。
図3図3は、酸素ラジカル断続照射アニールの例を示すタイミングチャートである。
図4図4は、従来技術と本願実施例によるサンプルのAg濃度のデプスプロファイルの例を示すグラフである。
図5図5は、サンプルに対して行ったC−V測定の1/C−V特性、及び不純物濃度のデプスプロファイルを得られたアクセプタ濃度と共に示すグラフである。
図6図6Aは、実施例による製造方法で製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図であり、図6Bは、活性層15の他の構成例を示す概略的な断面図である。
図7図7は、従来技術による製造方法で製造されたAgドープZnO系半導体層の成長直後(as-grown)および酸素雰囲気中アニール後の深さ方向Ag濃度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、Ga等の3B族n型不純物を添加したZnO系半導体層(Gaを添加したZnOをZnO:Gaと表す)とAgO等のp型不純物Agを含む層(1原子層以下の厚さのものも、層と呼ぶ)の交互積層を成長し、アニール等によりp型化する技術について、本発明者らが行った検討内容を説明する。
【0013】
ZnO中でZnサイトに位置するAgがp型不純物として機能するアクセプタとなる。n型不純物Gaとp型不純物AgとをドープしたZnO層を成長しても、それだけではp型とならず、アニールして初めてp型となる。Agをp型不純物として機能させるには、まずAgを熱拡散等によりZn空孔まで移動させることが必要であると考えられる。先願においても、n型不純物GaをドープしたZnO:Ga層とp型不純物であるAgを含むAgO層の交互積層をアニールしてp型化する方法を開示している。
【0014】
Agは、ZnO系結晶中で大きい径を有し、格子間を移動することは考えにくい。Agの移動には酸素空孔等の格子欠陥の存在が望まれる。ZnO系結晶を加熱アニールすれば、構成原子を動かして格子欠陥を生じさせ、Ag原子移動可能な状況を実現できると考えられる。Agの移動制御を行う際は、酸素が存在しない真空雰囲気を用いた時の結果から、本願発明者らは、活性酸素が存在する雰囲気が好ましいと考えている。
【0015】
一方、酸素空孔は活性化エネルギの低いドナーとして機能する。多量の酸素空孔が存在すると、アクセプタを補償するドナーが多量に存在することになり、高いアクセプタ濃度は期待できないであろう。また、多量の酸素空孔の存在は、多量の格子欠陥の存在であり、結晶の質を劣化させることにもなろう。Agをp型不純物として機能させるには、結晶中の酸素空孔の量を制御しながらAgの移動制御を行うことが望ましいであろう。
【0016】
ZnO系結晶を加熱アニールして酸素空孔を発生させる一方、結晶表面に酸素ラジカルを照射することを考える。加熱されたZnO系結晶中の酸素原子は移動可能となり、酸素空孔が発生し得る。格子位置を離れた酸素原子は結晶中を移動し得、表面に到達した酸素原子は表面から雰囲気中に蒸発し得る。結晶表面に酸素ラジカルが飛来すると、結晶中から雰囲気中に酸素原子が蒸発する現象は抑制されよう。結晶表面に飛来、付着した酸素原子が結晶中に入り込み、酸素空孔を消滅させることも考えられる。
【0017】
ZnO系結晶中の酸素空孔を抑制する効果が考えられる。表面に付着した酸素原子は、気相となって、表面から容易に離脱するであろう。酸素ラジカルの供給を停止すれば、酸素空孔抑制の効果は消滅するであろう。
【0018】
活性酸素が存在する雰囲気中で、Ga等の3B族n型不純物とAgとをドープしたZnO系半導体層表面に、酸素ラジカルを断続的に照射しつつアニールを行うことを考える。酸素ラジカル照射無しの期間には、酸素空孔の生成、移動と共に、Agの移動が生じ得るであろう。酸素ラジカル照射有りの期間には、酸素空孔の抑制、消滅が生じ得るであろう。これら2種類の期間で異なる現象が生じ得るので、取り敢えず、ZnO系半導体層表面に、酸素ラジカルを断続的に照射しつつ行うアニールを混成アニールと呼ぶ。
【0019】
Ga等の3B族元素、およびAgをドープしたZnO系半導体層を形成し、活性酸素が存在する雰囲気中でZnO系半導体層表面に酸素ラジカルビームを断続的に照射しつつ、混成アニールを行う実験を行った。以下、実験に用いた装置及びサンプルを説明する。
【0020】
ZnO系半導体層の成長は、分子線エピタキシ(molecular beam epitaxy;MBE)により行う。半導体層成長の後、上述のような混成アニールを、MBE装置内のその場アニールで行うこととする。
【0021】
図1Aは、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Agソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。MBE装置稼働中の背圧は、10−8Pa〜10−2Paである。
【0022】
Znソースガン72、Mgソースガン74、Agソースガン75、Gaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Ag(6N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Agビーム、Gaビームを出射する。
【0023】
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でOガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカルビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用できる。
【0024】
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが直接照射される状態と直接照射されない状態とを切り替え可能である。基板78の前にもシャッタを備える。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長できる。基板上に堆積する膜の厚さを計測するための膜厚計79がステージ77の側方に配置されている。ステージ77を挟んで、電子ビームを出射するRHEED用ガン80と基板78で反射された電子ビームを受け画像化するスクリーン81が対向配置されている。
【0025】
図1Bを参照して、サンプルの構成を説明する。図1Aに示すMBE装置を用い、n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板51上に、MBEにより、ZnOバッファ層52、アンドープZnO層53、交互積層54が形成される。
【0026】
図1Cは、交互積層54の構成を示す部分拡大断面図である。GaをドープしたZnO層(ZnO:Ga層)54aとAgO層54bとが交互に積層されて、例えば30対の交互積層54を構成している。「AgO」は、AgO(酸化銀(II))、AgO(酸化銀(I))等、AgOと表すことのできる銀酸化物を表わす。以下、サンプルの製造プロセスを説明する。
【0027】
図2に示すように、ZnO(0001)基板51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51の温度を250℃まで下げる。その温度(成長温度250℃)で、ZnフラックスFZnを0.14nm/s(JZn=9.2×1014atoms/cms)、Oラジカルビーム照射条件を、O流量1.0sccm、RFパワー150W(J=1.0×1015atoms/cms)とし、ZnO基板51上にZnOバッファ層52を成長する。VI/IIフラックス比は約0.92となる。
【0028】
ZnOバッファ層52の成長後、成長層の結晶性及び表面平坦性の改善のため、950℃に昇温し、30分間のアニールを行う。アニール後、950℃のまま、ZnOバッファ層52上に、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O流量1.0sccmとして、アンドープZnO層53をエピタキシャル成長する。アンドープZnO層53はn型となる。
【0029】
アンドープZnO層53の成長後、基板温度を下げ、250℃に設定する。アンドープZnO層53の上に、厚さ約50nmのZnO:Ga/AgO交互積層構造54を形成する。ZnO:Ga層54aは、ZnフラックスFZnを0.14nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O流量1.0sccm、Gaのセル温度TGaを550℃(FGaは検出下限値以下)として1層当たり10秒間成長する。AgO層54bは、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー150W、O流量1.0sccm、Agセルの温度TAgを825℃(AgフラックスFAgは0.005nm/s)として1層当たり25秒間成長する。1対の厚さ約1.7nmで、30対の交互積層で、厚さ約50nmとなる。ZnO:Ga/AgO交互積層構造54は、n型を示す。
【0030】
続いて、交互積層構造54に混成アニール処理を行う。混成アニールはMBE装置内(圧力が10−2Pa未満の環境)で、エピタキシャル層の成長に引き続いて、酸素ラジカルビームを断続的に照射して実施する。基板を加熱し、810℃で20分間の混成アニールを実施する。
【0031】
図3に示すように、混成アニールにおいては、無電極放電管内でOガスをプラズマ化(RFパワー300W、O流量2.0sccm)し、基板シャッタ、Oセルシャッタをオープンとした15秒の酸素ラジカルビーム照射有り期間と、基板シャッタ、Oセルシャッタをクローズとした10秒の酸素ラジカルビーム照射無し期間とを繰り返す。
【0032】
なお、基板シャッタ、Oセルシャッタをクローズとしても、酸素ラジカルは、シャッタオープンの状態の約1/4の量、基板上に到達する。活性酸素の存在する、圧力が10−2Pa未満の環境で、酸素ラジカルビーム照射無しの状態で、(酸素、Agを移動させ得ると考えられる)アニールが秒単位で行われ、結晶表面に酸素ラジカルビーム照射有りの状態で、(酸素空孔を抑制、消滅させ得ると考えられる)アニールが秒単位で行われる。混成アニール全体として20分間のアニールを行った。
【0033】
図4は、混成アニール後のサンプルSで測定した、深さ方向のAg濃度(cm−3)の分布Sを示す。参考のため、従来技術による酸素雰囲気中のアニール後の深さ方向のAg濃度(cm−3)の分布Cも示す。従来技術のサンプルCにおいては、深さ方向に沿って表面に向ってAg濃度の減少が顕著である。本実験のサンプルSにおいては、深さ方向に沿うAg濃度の勾配は大幅に減少し、平坦化したAg濃度分布が得られている。混成アニールによってAg濃度分布が平坦化されうることが判明した。
【0034】
図5は、混成アニール後のサンプルSに対するC−V測定の1/C−V特性、及び不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフである。混成アニール後のサンプルSは、p型導電性を得ていることが判る。6.0×1020cm−3程度と、1020cm−3を超える高いアクセプタ密度が得られている。
【0035】
アニールによって生じていたAgの深さ方向濃度分布が、酸素ラジカルの断続的照射を伴う混成アニールによって抑制されることが判った。具体的にどのような現象が生じるのかは未だ不明であるが、ひとつの考察として、断続的に酸素を供給し、酸素空孔或いはZn空孔等の欠陥を制御し、母体であるZnO結晶の質を維持することにより、ZnO中のAgの拡散を制御可能となり、表面からのAgの離脱を抑制できたのではないかと考える。結果として得られているAgの濃度勾配抑制の効果は大きい。
【0036】
酸素ラジカルの断続的照射を伴う混成アニールによって高いアクセプタ密度が得られている。酸素ラジカルの照射によって、酸素空孔が減少することは当然とも考えられよう。断続的な酸素未照射(酸素空孔生成=Agの拡散及びZn格子の置換)、照射(酸素空孔の抑制及び補完)アニールによりAg原子のZn置換とn型不純物である酸素空孔の抑制(減少)を同時に成り立たせたことで、結果として高いアクセプタ密度が得られたと考える。
【0037】
上述の実験においては、混成アニールを810℃の温度で行っている。ZnO系結晶の構成原子を移動させることのできるアニール温度として、750℃〜950℃を用いることができるであろう。また、酸素ラジカル照射無しの期間と酸素ラジカル照射有りの期間を10秒と15秒に設定した。これらの期間は制限的でなく種々変更可能である。酸素照射無し時間tnrと酸素照射有り時間troの組み合わせ例として、(10s、10s)、(10s、15s)、(10s、20s)、(10s、30s)を用いて、p型化を行うことができている。
【0038】
なお、n型不純物としてGaを用いたが、3B族の元素B,Al,Ga,Inであれば、ほぼ同様の結果が期待できよう。p型不純物はAgのみを対象とする。
【0039】
以上説明した混成アニールを用いて、半導体発光装置を作成することができる。混成アニールは、Ga等のn型不純物と、p型不純物としてのAgとを含むZnO系半導体層を、酸素ラジカル照射無しのアニールと、酸素ラジカルビーム照射有りのアニールを交互に行うアニールである。
【0040】
図6Aは、製造されるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。
【0041】
ZnO基板11上に、例えば厚さ30nmのZnOバッファ層12を成長させる。ZnOバッファ層12の結晶性及び表面平坦性の改善のため、アニールを行う。






ZnOバッファ層12上に、例えば厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させる。n型ZnO層13のGa濃度は、たとえば1.5×1018cm−3である。n型ZnO層13上に、例えば厚さ30nmのn型MgZnO層14を成長させる。n型MgZnO層14のMg組成は、例えば0.3である。n型MgZnO層14上に、例えば厚さ10nmのZnO活性層15を成長させる。ZnO活性層15上にMgZnO:Ga/AgO交互積層を形成する。交互積層は、当初n型を示す。交互積層に上述のような混成アニールを行って、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16を形成する。



Mg追加


なお、図6Bに示すように、活性層15として、単層のZnO層ではなく、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wが交互に積層された量子井戸構造を用いることもできる。
【0042】
その後、ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、Ag、Ga共ドープp型MgZnO層16上にp側電極17pを形成する。また、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。たとえばn側電極17nは、Ti層上にAu層を積層して形成し、p側電極17pは、Ni層上に、Au層を積層して形成する。ボンディング電極18はAu層で形成する。このようにして、ZnO系半導体発光素子が作製される。
【0043】
以上、ZnO基板11を用いたが、MgZnO基板、GaN基板、SiC基板、Ga基板等の導電性基板を使用することが可能である。その他種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは、当業者に自明であろう。なお、アニールを行う外部電気炉は不要であり、半導体発光素子の製造時間を短縮することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
例による製造方法で製造されるp型ZnO系半導体層は、たとえば短波長(紫外〜青色波長領域)の光を発光する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)に利用でき、また、これらの応用製品(各種インジケータ、LEDディスプレイ、CV/DVD用光源等)に利用可能である。更に、白色LEDやその応用製品(照明器具、各種インジケータ、ディスプレイ、各種表示器のバックライト等)に利用できる。また、紫外センサに利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
11 ZnO基板、12 ZnOバッファ層、13 n型ZnO層、14 n型MgZnO層、15 活性層、16 Ag,Ga共ドープp型MgZnO層、17 電極、18 ボンディング電極、51 ZnO基板、52 ZnOバッファ層、53 アンドープZnO層、54 交互積層構造、71 真空チャンバ、72 Znソースガン、73 Oソースガン、74 Mgソースガン、75 Agソースガン、76 Gaソースガン、77 ステージ、78 基板、79 膜厚計、80 RHEED用ガン、81 スクリーン。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7