【実施例】
【0079】
試験方法
試験は、国際規格(ISO/CD12468 Test method for external fire exposure to roofs)に準拠した国土交通省指定性能評価 指定業者制定「防耐火性能試験・評価業務方法書」4.13屋根藁葺き材の飛び火性能試験・評価方法に記載の対象地域が「防火地域及び準防火地域内の建物(建築基準法第63条)」に指定のブナ材を用いたクリブ(
図1)を使用した。
【0080】
クリブ単木寸法は縦19mm×横19mm×幅180mmであり、
図1のように各段3本使用して3段組にした時の組み立て寸法は、縦60mm×横80mm×幅80mmである。
【0081】
このクリブの規定重量は155±10gである。
【0082】
含水率を10%以下に調節したクリブをガスコンロにて着火し、所定時間燃焼させた。燃焼中のクリブを消火実験箇所に移動させ、K型熱電対を燃焼中のクリブに設置した。燃焼熱を熱電対が捉えたことを確認した後、調製した消火液を燃焼クリブに供給し、消火した。
【0083】
消火実験は動画記録し、この時の消火状況、温度変化及び消火前後の消火液量データを記録した。
【0084】
消火効果の評価は、高橋の評価方法(非特許文献2〜5)を基に行った。
【0085】
非特許文献3及び4によると、次式が成り立つ。
【0086】
Q
0=M
0φλμ
0 (1)
式(1)で、Q
0は消火に必要な水の量、M
0はクリブの初重量、φはクリブの重量減率、λはクリブ燃焼時の重量減1に対する木炭収率(0.29)及びμ
0は頂部注水法における単位重量の木炭の消火に必要な水の量(3.4)である。
【0087】
また、サブスクリプトの「0」は高橋の実験系によって与えられた係数及び計算値である。
【0088】
また、非特許文献5で次式の消火剤の能力について提示している。
【0089】
η=μ
meas/μ
0 (2)
式(2)で、サブスクリプトの「meas」は実験結果である。
【0090】
つまり、ηの値を求めることで、消火効果の比較を可能にしている。
【0091】
μは消火に必要なその方法特有の必要な水量と定義されているため、異なる消火方法及び異なる消火剤の影響を含めて比較することができる。本実験では、消火液を噴霧して消火実験しているため、高橋の実験方法と異なる。そこで、消火剤を同一にした水の場合の操作定数を求め、その操作定数を基に本実験系と同じ噴霧速度条件での消火液の評価を以下のように行った。
【0092】
本実験にてクリブの重量減率が0.62の時に消火に使用した水量は54[g]であった。この実測値は、高橋の実験方法から算出したQ
0の値の約半分であった。
【0093】
そこで、本実験系の操作定数を得るために、同じクリブ重量減率(ここで、サブスクリプトの「wo」として示す)の実験環境において、水を消火剤として本実験系と同じ噴霧速度にて噴霧して用いた場合の消火水の量Q’w
0を、高橋の頂部注水法での消火水の必要消火水量Qw
0で除し、η1とすると次式で表される。
【0094】
η1=Q’w
0/Qw
0
=Q’w
0/Mw
0φλμw
0 (3)
η1は実験結果を基に解析した結果0.52と決定した。
【0095】
η1を、頂部注水法の必要消火量Q
0に乗じることで、本実験系で必要な消火水の量Q
ccが得られる。
【0096】
Q
cc=η1Q
0 (4)
消火効果Efは、本実験系で使用した液量をQ
ccで除すことで、実験で使用した消火液の消火効果が水の消火効果の倍数として示される。
【0097】
Ef=Q
meas/Q
cc (5)
式(5)で、Q
measは実験に使用した消火液の量である。
【0098】
よって、燃焼しているクリブへの消火剤の噴霧速度を一定にした場合、必要消火量の実験値と(1)、(3)、(4)及び(5)式を使用すれば、本実験系で水の消火能力を1とした場合の調製した消火剤の消火能力を評価することができる。
【0099】
被覆物形成の含水率の影響については、調製した各種サンプルをスライドガラスに噴霧し、電気炉にて予め空気雰囲気下で700℃に保温した炉内へ投入した。加熱による消火液の変化を動画記録した後、電気炉から取り出し、目視にて固体の膜又は泡の形成状態を観察した。
【0100】
含水率の異なる被覆物の熱安定性については、調製したサンプルをスライドガラスに塗布し、夫々含水率が異なるように予備乾燥させた。電気炉に各サンプルを設置した後、空気雰囲気下で20℃/min.の昇温速度により加熱し、任意温度ごとに写真撮影した。
【0101】
含水率の異なる被覆形成物の潮解の影響については、調製した各種サンプルをスライドガラスに塗布し、自然乾燥させたものを、電気炉を用いて絶乾状態にする。その後、電気炉から取り出した時間を潮解実験の開始時とし、潮解現象が平衡状態になるまで任意時間にて写真撮影を行った。
【0102】
ここで、絶乾状態とは、電気炉にて、空気雰囲気下で室温から20℃/min.の速度で600℃まで温度を上げ、600℃で4時間保持する熱処理を行った状態をいう。
【0103】
固形分率は、絶乾状態の固形分量(絶乾重量)をサンプル採取量(固形分と水分の双方を含む)で除し、100を乗じることによって求めた。固形分率は固形分濃度と記す場合もある。
【0104】
含水率は、100から固形分率を差し引くことで求めた。
【0105】
潮解現象に関しては、電気炉から取り出した時点で時間の計測を開始し、潮解現象が平衡状態になるまで写真撮影を行った。
【0106】
[実施例1]各消火液の特性:手動スプレーにて消火
比較例
消火液の水は水道水を使用した。
【0107】
実施例1-1の調製方法
炭酸カリウムの10gを46gの水に溶解し、pH12.11の強化液を模したサンプル1-1を調製した。
【0108】
実施例1-2の調製方法
JIS規格3号ケイ酸ナトリウム水溶液と同体積の水を混合し、粘度3.87[mPas]、固形分濃度18.6%のサンプル1-2を調製した。
【0109】
実施例1-3の調製法
炭酸カリウム30gを231gの水に溶解し、pH11.99の水溶液を得た。JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液と同体積の前記炭酸カリウム水溶液を混合し、粘度4.71[mPas]、固形分濃度20.2%のサンプル1-3を調製した。
【0110】
実験方法
以上のように各サンプルを調製し、3分間燃焼したクリブに
図1に示すクリブの△の位置に熱電対を設置し、手動スプレーを用いて消火した。消火実験は動画記録し、この時の消火状況、温度変化及び消火前後の消火液量データを記録した。
【0111】
試験結果
試験結果を表1及び
図2に示す。
【0112】
表1は、実施例1において、消火実験で使用した消火液粘度、消火に使用した液量、消火効果及び50℃を下回った到達時間を示す。
【0113】
図2には、各消火液を手動スプレーにて消火した実験の熱挙動の経時変化を示す。
【0114】
図2-1に比較例を示す。比較例では、燃焼クリブの火炎が噴霧する度に逃げ、消炎するまで14分要した。噴霧してクリブに水が付着した箇所は一旦消炎するものの、燃焼している周りの熱の影響で、水が蒸発する事により再燃を相次いで繰り返した。12.5分後にはクリブの崩壊が始まり、14.5分後には完全に崩壊した。崩壊後に噴霧すると再燃する事無く、消火が完了した。
【0115】
図2-2に実施例1-1を示す。サンプル1-1を噴霧すると、最初の消炎が2分後であったが、水場合と同様に、燃焼している周りの熱の影響で、サンプル1-1の水分が蒸発すると再燃した。その後消炎と再燃を繰り返し、9分後にはクリブの崩壊が始まった。しかしながら、使用した消火液量は水の場合よりも少なく、消火効果も比較例より良かった。
【0116】
実施例1-1において、比較例よりも消火剤使用量が少なかった事から、炭酸カリウムの熱分解による効果が現れた事が分かった。
【0117】
図2-3に実施例1-2を示す。サンプル1-2を噴霧すると、最初の消炎は消火開始から5分後であった。そのまま2分間放置すると、再燃した。再燃箇所は噴霧したサンプル1-2が熾火に届いていない箇所からの再燃であった。7.5分後に再噴霧し、消炎した。再び放置するとクリブ内の温度が上昇し始めた。見えない箇所の熾火を消火するため、温度が下がるまで噴霧を続けた。
【0118】
実施例1-2では、クリブの崩壊は無かった。実施例1-2において、サンプルが消火時に燃焼物に対して被覆し、クリブの温度を保持する効果と同時に、窒息効果も現れた。
【0119】
図2-4に実施例1-3を示す。サンプル1-3を噴霧すると、消火開始から3.5分後に消炎した。実施例1-3では消火剤使用量が最も少なかった。3.5分後以降は再燃する事無く、比較的急激にクリブ内の温度が下がった。実施例1-3では、クリブの崩壊は無かった。
【0120】
実施例1-3において、消火時に燃焼物に対して被覆し、クリブの温度を保持する効果と同時に、窒息効果も現れた。尚且つ、炭酸カリウムの熱分解による効果が現れることにより、最も良い結果となった。この様にケイ酸化合物と金属炭酸塩の成分を併用することで消火効果が高くなることが明らかとなった。
【0121】
ケイ酸化合物と金属炭酸塩を混合すると、消火効果が高くなることが分かった。金属炭酸塩の添加量の上限は、各炭酸塩の飽和溶解量が限度である。そのため消火能力の向上を果たす目的では、金属炭酸塩だけに頼ると消火効果の向上は望めない。
【0122】
さらなる消火効果の向上を図るためには、ケイ酸化合物の消火効果も高めた方がより効果的である。なぜなら、ケイ酸化合物で高めた消火効果に、金属炭酸塩の消火効果をさらに付加できるからである。そのため以後の実験では、ケイ酸化合物由来の消火効果の増強開発を行った。
【0123】
【表1】
【0124】
[実施例2]固体膜と固体泡の形成
実施例2-1から実施例2-7の調製方法
JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分の100重量部に対し、0.1重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して調製した消火母剤(以下、「母剤」と表記する。)を適宜水で希釈し、表2に示す粘度の異なる各サンプルを調製した。
【0125】
試験結果
試験結果を表2及び写真1(
図5)に示す。表2は、実施例2において、各サンプルをスライドガラスに噴霧し、その直後スライドガラスが濡れた状態で電気炉に投入した様子と夫々の粘度及び固形分率を示す。
【0126】
また、加熱後に取り出したサンプルの様子を写真1に示す。
【0127】
【表2】
【0128】
実施例2は、濡れた状態で熱源に投入しているため、消火剤を燃焼物に噴霧した状態を模している。また、スライドガラスを使用しているため、高温物体に対して感温性無機組成消火剤がどのような状態で反応するか良く観察できる。
【0129】
写真1に熱源に投入した噴霧液の発泡状態の様子を示す(写真1中の「数字-数字」はサンプル「数字-数字」と同じである)。ここで、実施例2-3(写真1の左から3番目)は、実験時にスライドガラスが割れた。消火液の粘度の増加と共に固体泡の発泡嵩高さが増し、固体膜エリアが狭くなっている。
【0130】
一方、消火液の粘度の減少と共に固体泡の発泡嵩高さは低くなり、固体膜エリアが広くなっている。ここで、固体膜とは、スライドガラス上に形成した膜が積層すること無く、横に広がった状態を指す。
【0131】
本発明品を消火液とした立場での働きを考慮すると、燃焼物の表面を効率よく覆えば良く、無駄に嵩高くなる必要は無い。そのため、消火液が同じ体積ならば、粘度が低ければ被覆面積が大きくなるため消火効率が良い。
【0132】
一方、粘度が高い消火液に関しては、噴霧器の取扱いが困難になる事を加味すると、噴霧タイプの消火液には向かない。しかしながら、用途を別にすれば、高粘度の消火液をパックに充填し延焼予測地点に設置することで、高粘度の特徴である嵩高さを利用した遮熱性を発揮し、延焼を抑止できる。
【0133】
以上の結果のように、ケイ酸化合物の固形分濃度を調節することによって、火災の熱で変化する状態(固体膜あるいは固体泡あるいは混成体の形状)が制御できることを明らかにした。
【0134】
[実施例3]固体泡の高温安定性
実施例3の調製方法
JIS規格3号ケイ酸ナトリウム水溶液の固形分の100重量部に対し、25.8重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して調製した母剤(この時の固形分濃度は36.3%)をスライドガラスに塗布後、水分調節し、各サンプルを調製した。
【0135】
試験結果
写真2(
図6)に熱源に投入した消火液の噴霧液の発泡状態の様子(実施例3)を示す。実施例3では、電気炉にサンプルを投入する前に、予め消火液の含水量を調節し、スライドガラス上に成膜した。サンプル3-1(左側)は含水率40%、サンプル3-2(右側)は7%である。両サンプルに熱が加えられ、100℃を超えると水の蒸発と共に泡を形成し始め、固体泡となった。
【0136】
発泡開始後、固体泡の状態は750℃まで嵩をほぼ維持した。750℃を超えると次第に嵩が低くなるが、泡の形状は保持したままである。また、750℃を超えるとガラスの軟化点を超えることから、固体泡は次第に柔軟化する。しかしながら、少なくとも850℃までは溶融劣化すること無く、また固体泡の流れだしも無く、スライドガラスに強く接着していることを確認した。
【0137】
この加熱変化の様子は、火災時に消火液を燃焼物に供給した直後から火災熱により固体泡がどのような熱経緯を辿るかを模式的に表している。このように本消火剤は液体泡と異なり、非常に耐熱性が高いことを表している。
【0138】
また、溶融して流れ出すまで本消火剤は付着した物体に強く接着していることから、非常に高い温度まで窒息効果が持続・発揮することができ、尚且つ延焼抑制効果があることが明らかとなった。また、林野火災での残火処理において、再燃防止にも効果がある事が分かった。
【0139】
[実施例4]固体膜と固体泡の潮解
実施例4の調製方法
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分の100重量部に対し、3.5重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して母剤を調製した。
【0140】
母剤を水で希釈することにより12.0、6.03及び2.27[mPas]の粘度に調節し、夫々スライドガラス上にほぼ同量塗布後、予備乾燥した。
【0141】
その後、600℃、4時間、空気雰囲気下で加熱し、絶乾状態とした各サンプルを調製した。
【0142】
試験結果
写真3(
図7)に600℃の熱源から取り出した直後を実験開始時とした場合の実施例4-1から4-3の各サンプルの経時変化を示す。実験日は平均気温23.6℃、平均湿度82%の実験環境であった。
【0143】
実験開始時の状態として、写真3の左側(サンプル4-1)では固体泡のみ、中(サンプル4-2)では固体泡と固体膜の混成体、右側(サンプル4-3)では固体膜のみの状態であった。時間の経過と共に全てのサンプルで潮解し、固体から液体へと変化した。
【0144】
実施例4-1の固体泡の状態が最も液状化するのが遅く、3.5時間程度かかっている。固体膜の液状化は色彩変化が無く判定しづらいが、積層化した固体泡よりは液状化に至る時間短い。これら潮解に要する時間は、発泡バルク層の嵩高さや発泡密度によって異なる事が写真3に現れている。
【0145】
また、絶乾状態で実験を開始したことから、(各サンプル中には水を含まない状態の乾燥シリケート層から開始した意を有している)大気中の湿気から水分を吸収し、液体化する潮解現象が発現したことを示しているのであって、予め被覆物中に含まれた水分が潮解現象に影響を及ぼしているのではない事を示している。
【0146】
後述する実施例5及び6では一部の潮解が見られ、ケイ酸ナトリウム系化合物との混合物においても一部の潮解現象が見られた。この事より、シリケート層を形成した後に発現する潮解現象を消火剤の組成を調節することで、制御できることが分かった。
【0147】
[実施例5]消火液の性能:粘度の影響
実施例5の調製方法
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、3.5重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して母剤を調製した。母剤を水で希釈することで11.4、6.24及び2.08[mPas]の粘度に調節し、各サンプルを調製した。
【0148】
試験結果
表3に消火実験で使用した消火剤粘度、消火した液量、消火効果及びクリブの温度が50℃を下回った到達時間を示す。消火液同組成では、噴霧可能な粘度が下がるとともに使用した消火液量が減り、消火効果が高くなった。
【0149】
これは、消火に有効な固体膜で燃焼物を被覆した面積の効果と、水の気化熱を利用して急激に被消火物の温度を下げる効果が発現したためである。
【0150】
【表3】
【0151】
図3-1に実施例5-1(粘度11.4[mPas]の場合)の消火実験のクリブ内温度の経時変化を示す。
【0152】
サンプル5-1は、計測開始から102秒で消火液を燃焼クリブに2秒間噴霧すると消炎し、直ちにクリブ内の温度が急激に下がった。消炎確認後、開始から127秒で1秒間熾火に対して消火液を噴霧し、噴霧停止した。
【0153】
噴霧停止後は、クリブ内の温度が一旦は木材の燃焼温度260℃に迫ったものの、その後温度が緩やかに低くなった。噴霧停止後にクリブ内の温度が上がる現象は、発泡層がクリブの放熱を阻害したためである。
【0154】
この様に発泡によって被被覆物内の温度が保持されることから、外熱に対しても抗温度変化作用がある事が明らかとなった。噴霧可能なサンプル5-1(粘度11.4[mPas])では発泡層の厚みを適正に制御していることから、木材の燃焼温度に満たず、比較的緩やかに放熱できており、良好な結果を示した。
【0155】
図3-2に実施例5-2(粘度6.24[mPas]の場合)の消火実験のクリブ内温度の経時変化を示す。
【0156】
サンプル5-2は、計測開始から84秒で消火液を燃焼クリブに1秒間噴霧すると消炎し、直ちにクリブ内の温度が急激に下がった。消炎確認後、開始から227秒まで任意時間で約1秒間熾火に対して消火液を4回噴霧し、噴霧停止した。
【0157】
噴霧停止後は、消火液の発泡はあまり見られず、クリブ内の温度が比較的速やかに低くなった。噴霧停止後にクリブ内の温度が比較的速やかに低くなるのは固体膜と固体泡の混成体であるため、実施例5-1よりも効率的にクリブ内の熱をクリブ外へ逃がしたためである。
【0158】
この様に固体泡及び固体膜の混成体が燃焼物に被覆することで、良好な消火の結果を示した。
【0159】
図3-3に実施例5-3(粘度2.08[mPas]の場合)の消火実験のクリブ内温度の経時変化を示す。
【0160】
サンプル5-3は、計測開始から61秒で消火液を燃焼クリブに1秒間噴霧すると消炎し、直ちにクリブ内の温度が急激に下がった。消炎確認後、開始から153秒まで任意時間で約1秒間熾火に対して消火液を4回噴霧し、噴霧停止した。
【0161】
噴霧停止後は、消火液の発泡は見られず、クリブ内の温度が速やかに低くなった。噴霧停止後にクリブ内の温度が速やかに低くなるのは固体膜を形成しているため、実施例5-1及び実施例5-2よりも効率的にクリブ内の熱をクリブ外へ逃がしたためである。
【0162】
この様に固体膜が燃焼物に被覆することで、良好に消火し、尚且つ消火後のクリブの温度降下も最も早かった。
【0163】
[実施例6]消火液の性能:ケイ酸アルミの濃度
実施例6-1と実施例6-2及び実施例6-3の調製方法
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、0.1重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して実施例6-1の母剤を調製した。
【0164】
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、1.0重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して実施例6-2の母剤を調製した。
【0165】
JIS規格1号ケイ酸カリウム水溶液の固形分と、JIS規格2号ケイ酸カリウム水溶液の固形分を合計した100重量部(体積比1:3)に対し、3.5重量部の重量部のケイ酸アルミニウムを混合して実施例6-3の母剤を調製した。
【0166】
夫々の母剤を水で希釈し、約2.10[mPas]の粘度に揃え、各サンプルを調製した。なお実施例6-3は、実施例5-3と同一物である。
【0167】
試験結果
表4に消火実験で使用した消火剤の量と消火効果を示す。ここで、サンプル6-3は、表3中のサンプル5-3と同一物である。同粘度においては、ケイ酸アルミの濃度が高くなるとともに使用した消火液量が減り、消火効果が高くなった。
【0168】
また、クリブ内の温度が50℃を下回る時間はケイ酸アルミの量が増加すると共に短くなった。これは、燃焼物に対する被覆効果と水の気化熱冷却と、ケイ酸アルミによる被膜の高温安定性が発現したためである。
【0169】
【表4】
【0170】
図4-1にサンプル6-1の粘度2.18[mPas]の場合の消火実験のクリブ内温度の経時変化を示す。計測開始から76秒で消火液を燃焼クリブに3秒間噴霧すると消炎し、直ちにクリブ内の温度が下がった。消炎確認後、開始から129秒まで任意時間で約1秒間熾火に対して消火液を2回噴霧し、噴霧停止した。
【0171】
噴霧停止後は、消火液の発泡は見られず、クリブ内の温度が低くなった。ここで、底面の計測温度が緩やかな降下を辿っている。これはクリブ底面に存在する熾火の全面ではなく、クリブ底面の熾火周辺に消火液がかかっている状態である。つまり窒息効果のある固体膜が熾火周辺を取り囲んでいるため、熾火に酸素が供給されにくく自然鎮火している。しかしながら、
図4-1を見ると50℃を下回るクリブ全体の温度低下にはほとんど影響が出ていない。
【0172】
この様に熾火の周辺を固体膜で取り囲むと、自然鎮火しやすい状態を作る事が出来る事も分かった。また、固体膜が燃焼物に被覆することで、良好に消火し、尚且つ消火後の温度低下も早い結果も得られた。
【0173】
図4-2にサンプル6-2の粘度2.07[mPas]の場合の消火実験のクリブ内温度の経時変化を示す。計測開始から75秒で消火液を燃焼クリブに2秒間噴霧すると消炎し、直ちにクリブ内の温度が下がった。消炎確認後、開始から192秒まで任意時間で約1秒間熾火に対して消火液を3回噴霧し、噴霧停止した。
【0174】
噴霧停止後は、消火液の発泡は見られず、クリブ内の温度が速やかに低くなった。噴霧停止後にクリブ内の温度が速やかに低くなるのは固体膜を形成しているためである。
【0175】
この様に固体膜が燃焼物に被覆することで、良好に消火し、尚且つ消火後の温度低下も早い結果を得た。
【0176】
サンプル6-3はサンプル5-3と同一物であり、実験結果も
図3-3と同じである。
【0177】
サンプル6-1及び6-2と比較すると、各測定温度のばらつきが小さく、速やかにクリブの温度が下がっている事が分かる。
【0178】
このようにケイ酸アルミの濃度が高くなるとともに消火効果が高くなる事が分かった。