特許第6516271号(P6516271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516271
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】波長変換部材および発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20190513BHJP
   F21V 9/45 20180101ALI20190513BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20190513BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20190513BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20190513BHJP
   H01L 33/64 20100101ALI20190513BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20190513BHJP
【FI】
   G02B5/20
   F21V9/45
   C09K11/08 G
   C09K11/80CPM
   H01L33/50
   H01L33/64
   F21Y115:30
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-528978(P2017-528978)
(86)(22)【出願日】2017年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2017001075
(87)【国際公開番号】WO2017126440
(87)【国際公開日】20170727
【審査請求日】2017年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-11098(P2016-11098)
(32)【優先日】2016年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誉史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊
【審査官】 野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/178223(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/096074(WO,A1)
【文献】 特開2006−319238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00
F21V 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換するとともに、透過した光を照射光とする透過型の波長変換部材であって、
無機材料からなり、光を透過する基材と、
前記基材上に設けられ、吸収光に対し変換光を発する蛍光体粒子と前記蛍光体粒子同士を結合する透光性セラミックスとからなる蛍光体層と、を備え、
特定範囲の波長の光源光に対し、前記光源光が5W/mmのパワー密度であるときに、前記蛍光体層の蛍光強度が、前記蛍光体層の最大蛍光強度の50%以上であり、
前記蛍光体層の、前記蛍光体粒子の最表面および前記基材と接する平面で挟まれた一定厚さの層の見かけ上の体積に対して、前記見かけ上の体積から前記見かけ上の体積内に含まれる固体成分の体積を差し引くことで算出された空隙部分の体積の割合を空隙率と定義した場合に、その前記空隙率は、30〜70%であり、
以下の条件を満たすことを特徴とする波長変換部材。
(a)前記蛍光体粒子の平均粒子径が0.6μm以上0.9μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が6.7以上13.3以下であること。
(b)前記蛍光体粒子の平均粒子径が0.9μm以上3μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2.2以上22.2以下であること。
(c)前記蛍光体粒子の平均粒子径が3μm以上6μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2.7以上13.3以下であること。
(d)前記蛍光体粒子の平均粒子径が6μm以上9μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2.3以上6.7以下であること。
(e)前記蛍光体粒子の平均粒子径が9μm以上13μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2.2以上8.9以下であること。
(f)前記蛍光体粒子の平均粒子径が13μm以上18μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が1.5以上4.6以下であること。
(g)前記蛍光体粒子の平均粒子径が18μm以上62μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が1.7以上4.4以下であること。
(h)前記蛍光体粒子の平均粒子径が62μm以上85μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が1.6以上4.8以下であること。
(i)前記蛍光体粒子の平均粒子径が85μmの場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2.4以上4.7以下であること。
【請求項2】
前記基材は、サファイアからなることを特徴とする請求項1記載の波長変換部材。
【請求項3】
特定範囲の波長の光源光を発生させる光源と、
前記光源光を吸収し、他の波長の光に変換し発光する請求項1または請求項に記載の波長変換部材と、を備えることを特徴とする発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換するとともに、透過した光を照射光とする透過型の波長変換部材および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子として、例えば青色LED素子に接触するようにエポキシやシリコーンなどに代表される樹脂に蛍光体粒子を分散させた波長変換部材を配置したものが知られている。そして、近年では、LEDに代えて、エネルギー効率が高く、小型化、高出力化に対応しやすい、レーザダイオード(LD)が用いられたアプリケーションが増えてきている。
【0003】
レーザは局所的に高いエネルギーの光を照射するため、集中的にレーザ光が照射された樹脂は、その照射箇所が焼け焦げる。これに対し、波長変換部材をリング状に形成しそれを高速で回転させながらレーザを照射することで焼け焦げを抑制する改善策が提案されている(特許文献1)。
【0004】
ところが、上記のような改善策では、器具、装置の大型化や複雑化を招き、システムは大きな制約を受ける。一方、波長変換部材を構成する樹脂に代えて無機バインダを使用し、無機材料のみで形成された波長変換部材を用いることが提案されている(特許文献2〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−94777号公報
【特許文献2】特開2015−90887号公報
【特許文献3】特開2015−38960号公報
【特許文献4】特開2015−65425号公報
【特許文献5】特開2014−241431号公報
【特許文献6】特開2015−119172号公報
【特許文献7】特開2015−138839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような無機バインダを使用した波長変換部材では、材料自体の耐熱性は向上する。しかし、レーザパワーに対する蛍光体粒子が発熱し、蓄熱が進むと、蛍光体粒子の発光性能が消失することがある。したがって、実際には、高エネルギー環境で波長変換部材の使用は困難である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱抵抗が低く、蛍光体層の温度上昇を防止でき、強度の大きい光源光を照射しても蛍光性能を維持できる波長変換部材および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の波長変換部材は、特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換するとともに、透過した光を照射光とする透過型の波長変換部材であって、無機材料からなり、光を透過する基材と、前記基材上に設けられ、吸収光に対し変換光を発する蛍光体粒子と前記蛍光体粒子同士を結合する透光性セラミックスとからなる蛍光体層と、を備え、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が30未満であることを特徴としている。これにより、熱抵抗が低く、蛍光体層の温度上昇を防止でき、強度の大きい光源光を照射しても蛍光性能を維持できる。
【0009】
具体的には、特定範囲の波長の光源光に対し、前記光源光が5W/mm2のパワー密度であるときに、前記蛍光体層の蛍光強度が、前記蛍光体層の最大蛍光強度の50%以上であることで、高出力で発光させても蛍光性能が低下しない。
【0010】
(2)また、本発明の波長変換部材は、以下の条件を満たすことを特徴としている。(a)前記蛍光体粒子の平均粒子径が1μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2以上30未満であること。(b)前記蛍光体粒子の平均粒子径が1μm以上5μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2以上15未満であること。(c)前記蛍光体粒子の平均粒子径が5μm以上10μm未満の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が2以上10未満であること。(d)前記蛍光体粒子の平均粒子径が10μm以上の場合は、前記蛍光体層の厚みと前記蛍光体粒子の平均粒子径との比が1.5以上5未満であること。
【0011】
このように、波長変換部材は、透過型として用いられた場合に、蛍光体層内の粒子数の密度が高くなりすぎず、粒界の熱抵抗を低減できる一方、蛍光体層内の構造を均質にし、均質な光を得ることができる。本発明における均質な光とは、「二次元色彩輝度計(コニカミノルタCA−2500)を用いて測定した際に面内における吸収光(励起光)のスペクトルピークの平均値に対して、局所的な吸収光(励起光)のスペクトルピーク値が2倍未満であること」とする。
【0012】
(3)また、本発明の波長変換部材は、前記蛍光体層の、前記蛍光体粒子の最表面および前記基材と接する平面で挟まれた一定厚さの層の見かけ上の体積に対して、前記見かけ上の体積から前記見かけ上の体積内に含まれる固体成分の体積を差し引くことで算出された空隙部分の体積の割合を空隙率と定義した場合に、その前記空隙率は、30〜70%であることを特徴としている。これにより、蛍光体層内に分散した気孔を多数有するため、照射された光が蛍光体層内で分散(乱反射)し、蛍光体粒子に光が照射されやすくなる。
【0013】
(4)また、本発明の波長変換部材は、前記基材が、サファイアからなることを特徴としている。これにより、高い熱伝導性を維持でき、蛍光体層の温度上昇を抑えることができる。
【0014】
(5)また、本発明の発光装置は、特定範囲の波長の光源光を発生させる光源と、前記光源光を吸収し、他の波長の光に変換し発光する上記の(1)から(4)のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴としている。これにより、強度の大きい光源光を照射しても蛍光性能を維持できる発光装置を実現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱抵抗が低く、蛍光体層の温度上昇を防止でき、強度の大きい光源光を照射しても蛍光性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の発光装置を示す模式図である。
図2】(a)、(b)、(c)それぞれ本発明の波長変換部材の作製工程を示す断面図である。
図3】(a)、(b)それぞれ波長変換部材に対する透過型、反射型の評価システムを示す断面図である。
図4】(a)、(b)それぞれ基材を変えたときの発光特性を示すグラフである。
図5】(a)、(b)それぞれ一定の蛍光体粒子径に対して蛍光体層の厚みを変えたときの発光特性を示すグラフである。
図6】(a)、(b)それぞれ蛍光体粒子の平均粒子径を変えたときの発光特性を示すグラフである。
図7】(a)、(b)それぞれ空隙率と蛍光の発光強度および飽和点の関係を示すグラフである。
図8】(a)、(b)それぞれ焼結体と波長変換部材の発光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、実際の寸法比率を表すものではない。
【0018】
[透過型の発光装置の構成]
図1は、透過型の発光装置10を示す模式図である。図1に示すように、発光装置10は、光源50および波長変換部材100を備え、波長変換部材100を透過した光源光および波長変換部材100内で光源光による励起で発生した光を合わせて照射光を放射している。照射光は例えば白色光とすることができる。
【0019】
光源50には、LED(Light Emitting Diode)またはLD(Laser Diode)のチップを用いることができる。LEDは、発光装置10の設計に応じて特定範囲の波長を有する光源光を発生させる。例えば、LEDは、青色光を発生させる。また、LDを用いた場合には波長や位相のばらつきの少ないコヒーレント光を発生できる。なお、光源50は、これらに限られず、可視光以外を発生させるものであってもよいが、紫外光、青色光、または緑色光を発生させるものが好ましく、特に青色光を発生させるものが好ましい。
【0020】
[透過型の波長変換部材の構成]
波長変換部材100は、基材110および蛍光体層120を備え、板状に形成され、光源光を透過させつつ、光源光に励起して波長の異なる光を発生させる。例えば、青色光を透過させつつ、緑と赤の蛍光や黄色の蛍光を発生させて白色光を放射できる。基材110は、板状に形成され、例えば、光源光を透過させるガラスやサファイア等の無機材料で構成できる。基材110は、高い熱伝導性を有するサファイアからなることが好ましい。その結果、蛍光体層120の蓄熱を抑え、温度上昇を抑制でき、発熱による温度消光を防止できる。
【0021】
蛍光体層120は、基材110上に膜として設けられ、蛍光体粒子122と透光性セラミックス121とで形成されている。透光性セラミックス121は、蛍光体粒子122同士を結合するとともに基材110と蛍光体粒子122とを結合している。蛍光体粒子径に対する蛍光体層120の厚みが薄いため、蛍光体層120で生じた熱を効率よく基材110へ伝導し、蛍光体層120の温度上昇を防止できる。その結果、強度の大きい光源光を照射しても蛍光性能を維持できる。
【0022】
すなわち、高エネルギー密度レーザを光源光とする場合でも、必要な色設計が可能な範囲でできるだけ薄い蛍光体層120を形成することで蛍光体粒子122の発熱(蓄熱)による温度消光を抑制できる。なお、熱伝導性を考慮すると、蛍光体層120の厚みは、下記の表の通りであることが好ましい。
【0023】
熱の伝えにくさを表す熱抵抗は蛍光体層の熱抵抗率または熱伝導率および面積を一定とした場合には厚みに依存し、厚くなるほど熱抵抗は増加する。レーザを照射した場合に熱抵抗が小さいほど、すなわち厚みが薄いほど熱は伝わりやすく蓄熱が起こりにくくなり、発熱(蓄熱)による温度消光を抑制することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
透光性セラミックス121は、蛍光体粒子122を保持するための無機バインダであり、例えばシリカ(SiO)、リン酸アルミニウムで構成される。蛍光体粒子122には、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(YAG系蛍光体)およびルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(LAG系蛍光体)を用いることができる。
【0026】
その他、蛍光体粒子は、発光させる色の設計に応じて以下のような材料から選択できる。例えば、BaMgAl1017:Eu、ZnS:Ag、Cl、BaAl:EuあるいはCaMgSi:Euなどの青色系蛍光体、ZnSiO:Mn、(Y,Gd)BO:Tb、ZnS:Cu、Al、(M1)SiO:Eu、(M1)(M2)S:Eu、(M3)Al12:Ce、SiAlON:Eu、CaSiAlON:Eu、(M1)SiN:Euあるいは(Ba,Sr,Mg)SiO:Eu,Mnなどの黄色または緑色系蛍光体、(M1)SiO:Euあるいは(M1)S:Euなどの黄色、橙色または赤色系蛍光体、(Y,Gd)BO:Eu、YS:Eu、(M1)Si:Eu、(M1)AlSiN:EuあるいはYPVO:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。なお、上記化学式において、M1は、Ba、Ca、SrおよびMgからなる群のうちの少なくとも1つが含まれ、M2は、GaおよびAlのうちの少なくとも1つが含まれ、M3は、Y、Gd、LuおよびTeからなる群のうち少なくとも1つが含まれる。なお、上記の蛍光体粒子は一例であり、波長変換部材に用いられる蛍光体粒子が必ずしも上記に限られるわけではない。
【0027】
蛍光体層120の空隙率は、30%以上70%以下であることが好ましい。気孔が蛍光体層120内に多く形成されているため、蛍光体層120が薄くても内部で光が分散し、効率よく蛍光体粒子122に光源光が照射される。
【0028】
蛍光体層120の厚みは、蛍光体粒子122の平均粒子径に応じて、その蛍光体層の厚みと蛍光体粒子の平均粒子径との比が所定範囲にあることが好ましい。蛍光体粒子の粒子径に対し、膜厚が所定倍未満であるため、蛍光体層120内の粒子数の密度が高くなりすぎず、粒界の熱抵抗を低減できる。したがって、高出力で発光させても蛍光性能が低下しない発光装置10を構成できる。このような発光装置10は、例えば工場、球場や美術館等の公共施設の照明、または自動車のヘッドランプ等に応用すると高い効果が見込める。一方、蛍光体粒子の粒子径に対し、膜厚が所定倍以上であるため、蛍光体層120内の構造を均質にし、蛍光体層120の強度を維持できるとともに、均質な光を得ることができる。
【0029】
上記のような構成により、波長変換部材100は、光源光が5W/mmのパワー密度であるときに、蛍光体層120の蛍光強度が、蛍光体層120の最大蛍光強度の50%以上であることが好ましい。このような特性の波長変換部材100は、膜の透過性が適正な範囲内であり、蛍光体層120による蛍光の変換性能を十分に活かすことができる。
【0030】
[波長変換部材の作製方法]
図2(a)、(b)、(c)は、それぞれ本発明の波長変換部材の作製工程を示す断面図である。まず無機バインダ、溶剤、蛍光体粒子を準備する。好ましい無機バインダとして、例えばエタノールにシリコンの前駆体を溶かして得られたエチルシリケートを用いることができる。
【0031】
その他、無機バインダは、加水分解あるいは酸化により酸化ケイ素となる酸化ケイ素前駆体、ケイ酸化合物、シリカ、およびアモルファスシリカからなる群のうちの少なくとも1種を含む原料を、常温で反応させるか、または、500℃以下の温度で熱処理することにより得られたものであってもよい。酸化ケイ素前駆体としては、例えば、ペルヒドロポリシラザン、エチルシリケート、メチルシリケートを主成分としたものが挙げられる。
【0032】
また、溶剤としては、ブタノール、イソホロン、テルピネオール、グリセリン等の高沸点溶剤を用いることができる。蛍光体粒子には、例えばYAG、LAG等の粒子を用いることができる。光源光に対して得ようとする照射光に応じて蛍光体粒子の種類や量を調整する。例えば、青色光に対して白色光を得ようとする場合には、青色光による励起で緑色光および赤色光または黄色光を放射する蛍光体粒子をそれぞれ適量選択する。
【0033】
図2(a)に示すように、これらの無機バインダ、溶剤、蛍光体粒子を混合してペースト(インク)410を作製する。混合にはボールミル等を用いることができる。一方で、無機材料の基材を準備する。基材には、ガラス、サファイア等を用いることができる。基材は板状であることが好ましい。また、基材にアルミニウムを用いることで反射型の波長変換部材を作製することもできる。
【0034】
次に、図2(b)に示すように、スクリーン印刷法を用いて、得られたペースト410を平均粒子径に対して上記の表に示す範囲の膜厚になるように基材110に塗布する。スクリーン印刷は、ペースト410をインキスキージ510で、枠に張られたシルクスクリーン520に押しつけて行なうことができる。スクリーン印刷法以外に、スプレー法、ディスペンサーによる描画法、インクジェット法が挙げられるが、薄い厚みの蛍光体層を安定的に形成するためにはスクリーン印刷法が好ましい。
【0035】
そして、印刷されたペースト410を乾燥させて、炉600内で熱処理することで溶剤を飛ばすとともに無機バインダの有機分を飛ばして無機バインダ中の主金属を酸化(主金属がSiの場合はSiO化)させ、その際に蛍光体層120と基材110とを接着する。このようにして、波長変換部材を得ることができる。
【0036】
そして、発光装置は、透過性セラミックスの基材を用いた波長変換部材をLEDチップ上に接着、またはLEDチップが発する光の主たる放射方向に一定の距離を空けて設置することで作製することができる。
【0037】
[実施例]
(1.基材に対する消光状態の確認)
(1−1)試料の作製方法
まず、以下のように波長変換部材を作製した。エチルシリケートとテルピネオールをYAG蛍光体粒子(平均粒子径18μm)と混合して作製されたペーストを、スクリーン印刷法を用いて40μmの厚みになるよう基材となるガラス、サファイア、アルミニウムの板にそれぞれ塗布し、熱処理して波長変換部材の試料を得た。
【0038】
(1−2)評価方法
上記作製方法により得られた波長変換部材にレーザを照射し、レーザ入力値に対する蛍光の発光強度と発光効率維持率を調べた。図3(a)、(b)は、それぞれ波長変換部材に対する透過型、反射型の評価システム700、800を示す断面図である。図3(a)に示すように、透過型の評価システム700は、光源710、平面凸レンズ720、両凸レンズ730、バンドパスフィルタ735、パワーメータ740で構成されている。なお、バンドパスフィルタ735は、波長480nm以下の光をカットするフィルタであり、蛍光の発光強度を測定する際に、透過した光源光(励起光)を蛍光と切り分けるために、両凸レンズとパワーメータの間に設置される。
【0039】
平面凸レンズ720に入った光源光は、波長変換部材100上の焦点へ集光される。そして、波長変換部材100から生じた放射光を両凸レンズ730で集光し、その集光された光について波長480nm以下をカットした光の強度をパワーメータ740で測定する。この測定値を蛍光の発光強度とする。一方、図3(b)に示すように、反射型の評価システム800は、構成要素は評価システム700と同じであるが、波長変換部材100からの反射光を集光して測定できるように各要素が配置されている。レーザ光をレンズで集光し、照射面積を絞ることで、低出力のレーザでも単位面積あたりのエネルギー密度が上げられる。このエネルギー密度をレーザパワー密度とする。
【0040】
適宜、上記の2種の評価システム700、800を使い分け波長変換部材の評価を行なった。透過型の評価システム700では、上記のガラスまたはサファイアの基材の試料を用い、反射型の評価システム800では、アルミニウムの基材の試料を用いた。なお、蛍光の発光強度とは、上記の評価システムを用いた場合に輝度計に示される数字を無次元化した相対強度であり、発光効率維持率とは、発熱や蓄熱の影響を無視できる低いレーザパワー密度における、発光効率を100%とした場合の各レーザパワー密度に対する発光効率の割合である。
【0041】
(1−3)評価結果
上記の評価結果として基材に対する発光特性を確認できた。図4(a)、(b)は、それぞれ基材を変えたときの発光特性を示すグラフである。3種の基材で一定のレーザパワー密度まではパワー密度の増加に伴い蛍光の発光強度がほぼ比例の関係で増加していくことが確認された。サファイア基材ではレーザパワー密度が48W/mm、アルミニウム基材では27W/mm、ガラス基材では11W/mm以上で発光が減少した。このことから、3種の基材のうち特にサファイア基材が蛍光体の消光を抑制できていると言える。
【0042】
蛍光体粒子は温度の上昇により温度消光で発光性能が低下する。しかし、サファイアはガラスよりも熱伝導率が高い。したがって、サファイア基材では蛍光体粒子からの発熱を波長変換部材内に蓄熱しにくく蛍光体の消光が抑制されたと考えられる。
【0043】
また、上記の結果によれば、熱伝導率の高いアルミニウム基材よりもサファイア基材のほうが消光を抑制できている。これは、透過型のサファイア基材の測定ではレーザを基材から入射するため、蛍光体へ蓄熱された熱がすぐに基材へ放熱されるためと考えられる。
【0044】
(2.サファイア基材で、蛍光体層の膜厚/平均粒子径に対する温度消光状態の確認)
(2−1)試料の作製方法
エチルシリケートとテルピネオールをYAG系蛍光体粒子(平均粒子径6μm)と混合して作製されたペーストを、スクリーン印刷法を用いてそれぞれ9、14、30、60、70μmの厚みになるよう基材となるサファイア板に塗布し、下記の表の通り、波長変換部材の試料を得た。
【0045】
【表2】
【0046】
(2−2)評価方法
上記の波長変換部材の作製方法により得られた波長変換部材について、透過型の評価システム700を用いてレーザ照射を行ない、レーザパワー密度に対する蛍光の発光強度および発光効率維持率を調べた。
【0047】
(2−3)評価結果
上記の評価結果として蛍光体層の発光特性を確認できた。図5(a)、(b)は、それぞれ一定の蛍光体粒子径に対して蛍光体層の厚みを変えたときの発光特性を示すグラフである。各条件について、レーザパワー密度に対する蛍光の発光強度および発光効率維持率をそれぞれ示している。
【0048】
図5(a)、(b)に示すように、蛍光体層の膜厚/蛍光体粒子の粒子径との比が2〜12では、低いほど蛍光の発光強度が大きくなる傾向が確認された。蛍光体層の膜厚/蛍光体粒子の粒子径が適度に小さくなることで蛍光体層の光透過性が最適となり、蛍光体による励起光の光変換性能を最大限に発揮しつつ、多くの光を透過させやすくなったと考えられる。
【0049】
一方、蛍光体層の膜厚/蛍光体粒子の平均粒子径との比が1.5の場合には、2の場合に比べ蛍光の発光強度が減少した。これは、粒子径に対して膜厚が過度に薄くなり、励起光が光変換されずに透過してしまうことが多く、蛍光体の光変換する性能を十分に発揮することができずに蛍光の発光強度が減少したと考えられる。また、粒子径に対して過度に膜厚が厚いと、蛍光体層の光透過性が減少し、励起光が進行する方向と同方向へ放出される蛍光の発光強度が減少したと考えられる。
【0050】
(3.膜厚/平均粒子径別の蛍光の発光強度および発光効率維持率の確認)
(3−1)試料の作成方法
エチルシリケートとテルピネオールをYAG系蛍光体粒子と混合して作製されたペーストを、スクリーン印刷法を用いて基材となるサファイア板(透過型)に塗布した。
【0051】
(3−2)評価方法
上記の波長変換部材の作製方法により得られた波長変換部材について、透過型の評価システム700を用いてレーザ照射を行ない、5W/mmのレーザパワー密度における蛍光の発光強度を調べた。5W/mmの低レーザパワー密度において、膜厚/平均粒子径が上記表1に示す範囲を含む適切な範囲で、同一粒径で膜厚を変化させたサンプルの発光強度を測定した。値が最大となる膜厚を有するサンプルの発光強度値を基準値(中心)として他のサンプル(基準値としたサンプルと同一粒径で膜厚が異なる)各膜厚での値が、基準値と比して50%以上であれば合格、50%未満であれば不合格とした。
【0052】
蛍光体を利用して光変換を行なった光変換光を利用する場合に、目的とする色合いを得るために励起光となる光を積極的に透過させたい場合やできるだけ透過させない場合が生じる。いずれの状況においても蛍光体から得られる蛍光の発光強度(以下、表中で蛍光強度とする)が、最大蛍光強度の50%未満となった場合には照明機器としての利用価値が得られないと判断し、基準値を50%に設定した。
【0053】
(3−3)評価結果
下表は、条件と結果をまとめた表である。
【表3】
【0054】
透過型の波長変換部材について、蛍光体粒子の平均粒子径および蛍光体層の厚み/蛍光体粒子の平均粒子径が表1の範囲内で判断基準を満たしていることが確認できた。
【0055】
(4.蛍光体粒子の種類による違い)
(4−1)試料の作製方法
エチルシリケートとテルピネオールをYAG系蛍光体粒子と混合して作製されたペーストを、スクリーン印刷法を用いて膜厚が40μmになるよう基材となるサファイア板に塗布した。蛍光体粒子は、6、13、18μmの3種の平均粒子径のものを用いた。
【0056】
(4−2)評価方法
上記の波長変換部材の作製方法により得られたサファイア基材の波長変換部材について、透過型の評価システム700を用いてレーザ照射を行ない、レーザパワー密度に対する蛍光の発光強度および発光効率維持率を調べた。
【0057】
(4−3)評価結果
図6(a)、(b)は、それぞれ蛍光体粒子の平均粒子径を変えたときの発光特性を示すグラフである。図6(a)、(b)に示すように、蛍光体粒子の平均粒子径が大きいほど蛍光の発光強度が高くなることが確認された。蛍光体粒子が大きいほど変換効率が高いこと、また、蛍光体粒子同士の接点が少なくなり蓄熱を防止できたことの双方の効果によるものと考えられる。
【0058】
(5.空隙率について)
(5−1)試料の作製方法
エチルシリケートとテルピネオールをYAG系蛍光体粒子(平均粒子径18μm)と混合して作製されたペーストを、スクリーン印刷法を用いて40μmの厚みになるよう基材となるサファイア板に塗布し波長変換部材の試料を得た。
【0059】
(5−2)評価方法
得られた波長変換部材について空隙率の計算とレーザ照射試験を行ない、空隙率と蛍光の発光強度および飽和点の関係を確認した。空隙率は、蛍光体膜上の蛍光体粒子の最表面を直線で結んだ見かけ上の体積に対する、蛍光体膜内の空隙部分の体積の割合と定義して算出した。空隙部分の体積は、見かけ上の体積から固体成分の体積を差し引き算出した。
【0060】
(5−3)評価結果
図7(a)、(b)は、それぞれ空隙率と蛍光の発光強度および飽和点の関係を示すグラフである。図7(a)、(b)に示す空隙率と蛍光の発光強度および飽和点の関係より、空隙率が30〜70%の範囲では蛍光の発光強度、飽和点が安定していることが確認された。空隙率が30%未満では製作時の熱処理により、剥離が発生してしまい、波長変換部材は製造困難である。この剥離の原因は、基材と蛍光体層との熱膨張の差によるものと考えられる。また、空隙率が70%以上では蛍光体層の構造の維持が難しく製造が困難である。
【0061】
(6.焼結体との比較)
(6−1)評価方法
上記の波長変換部材の作製方法により得られた本発明の波長変換部材(膜厚40μm)と焼結体(一辺20.0mm、厚さ1.0mmの正方板形状)の蛍光体プレートについて、透過型の評価システム700を用いてレーザ照射を行ない、レーザパワー密度に対する蛍光の発光強度を調べて空隙率による蛍光の発光強度の変化を確認した。
【0062】
空隙率は、蛍光体膜上の蛍光体粒子の最表面を直線で結んだ見かけ上の体積に対する、蛍光体膜内の空隙部分の体積の割合と定義して算出した。空隙部分の体積は、見かけ上の体積から固体成分の体積を差し引き算出した。波長変換部材の空隙率は40%、焼結体の空隙率は1%未満であった。
【0063】
(6−2)評価結果
図8(a)、(b)は、それぞれ焼結体と波長変換部材の発光特性を示すグラフである。図8(a)、(b)に示す波長変換部材のほうが、蛍光の発光強度が高いことが確認された。これは、波長変換部材の層内の空隙により光の散乱が起こり、効率よく光を変換するために蛍光の発光強度が高くなったと考えられる。一方で、空隙の少ない焼結体は、緻密であるため内部での光の散乱が少なくレーザ光を透過してしまうと考えられる。
【0064】
空隙率が少ない焼結体の場合には厚み1mm(1000μm)の厚みがあってもなおレーザを透過しているのに対し、本発明の波長変換部材は厚み40μmであるにも関わらず、最適な空隙を含み、光を散乱させて蛍光を効率よく取出すことができるため、非常に有効であると考えられる。
【符号の説明】
【0065】
10 発光装置
50 光源
100 波長変換部材
110 基材
120 蛍光体層
121 透光性セラミックス
122 蛍光体粒子
410 ペースト
510 インキスキージ
520 シルクスクリーン
600 炉
700、800 評価システム
710 光源
720 平面凸レンズ
730 両凸レンズ
735 バンドパスフィルタ
740 パワーメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8