(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の運動解析装置1を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の運動解析装置1は、検出手段10と、解析手段20と、を備えている。検出手段10は、人の体に加わる力や、人の体の変位を検出するものである。解析手段20は、検出手段10からの信号に基づいて、人の運動状況、具体的には、移動速度(つまり歩行速度や走行速度)、移動距離(例えば歩幅等)を推定する機能を有するものである。
【0012】
なお、本実施形態の運動解析装置1は、人の体に取り付けて使用するものであるが、解析手段20は人の体に取り付けて使用してもよいし、人の体に取り付けない状態で使用してもよい。
【0013】
人の体に取り付けない状態で解析手段20を使用すれば、人の体に取り付ける機器を小型化できるという利点が得られる。この場合には、検出手段10が検出した信号を記憶しておく記憶装置を検出手段10に設けておく。そして、測定終了後に、記憶装置に記憶されているデータを解析手段20に供給するようにすればよい。または、検出手段10とは別に体に取り付ける記憶装置を設けてもよい。
【0014】
一方、解析手段20を人の体に取り付ける構成とした場合には、人が身に着けている他の機器等(歩行アシスト機器等)に解析手段20の解析結果を供給することで、他の機器等の作動状態を調整することができる。すると、他の機器等の補助を受けて人が歩行や走行をする場合には、人の歩行や走行を常時安定させておくことが可能となる。
【0015】
もちろん、検出手段10や解析手段20に通信機能を設けておけば、解析手段20を人の体に取り付けない状態でも、検出手段10からの信号を解析手段20に供給できる。また、他の機器等にも通信機能を設けておけば、解析手段20の解析結果を他の機器に供給することができる。すると、解析手段20を人の体に取り付けない状態でも、解析手段20の解析結果を他の機器等に供給することもできる。
【0016】
(検出手段10)
検出手段10の詳細を説明する。
検出手段10は、人の体の回転や上下左右前後の加速度を測定する機能を有するものである。この検出手段10には、例えば、公知の姿勢センサを採用することができる。公知の姿勢センサは、一般的には、3軸加速度計、3軸ジャイロ(角速度測定)、3軸地磁気センサ(角変位測定)等を備えているので、人の体の上下左右前後の加速度や回転角度を一つのセンサで計測することができる。
【0017】
なお、検出手段10は、体幹まわりの回転や、人の体の上下方向の加速度、人の体の左右方向の加速度、人の体の前後方向の加速度を検出するセンサを、それぞれ別々に設けてもよい。
【0018】
また、検出手段10の取り付け位置は、とくに限定されない。人の体幹部のベルト位置近傍に取り付けることが好ましく、とくに、ベルト位置の背骨近傍が好ましい(
図2参照)。かかる位置に取り付ければ、人の重心の位置の近くに検出手段10を設置できるので、外乱(歩行や走行以外の運動による変動)が少ない状態で加速度や回転角度などを測定できる。すると、人の体の加速度や回転角度などを精度よく測定できるという利点が得られる。
【0019】
(静止座標系の加速度算出)
検出手段10は、その瞬時静止座標系(センサ座標系)における加速度などを測定する。ここで、検出手段10が公知の姿勢センサ(つまり、3軸加速度計、3軸ジャイロ、3軸地磁気センサ(以下単に各センサ部という)を有するセンサ)の場合、通常、各センサ部が測定した加速度や回転角度、角速度と、姿勢センサのオイラー角(姿勢角)が出力として得られる。したがって、姿勢センサのオイラー角を用いて、各センサ部の加速度や角速度を座標変換すれば、人が歩いている状態でも、静止座標系における各軸方向の加速度や、各軸方向周りの角度や角速度が得られる。つまり、センサの瞬時静止座標系(センサ座標系)の3軸の加速度などを静止座標系に座標変換して、静止座標系における各方向の加速度を算出することができる。すると、上下方向の加速度やその他の加速度などを精度よく算出することができる。
【0020】
例えば、検出手段10の出力として得られるオイラー角を用いて、センサ座標系の3軸の加速度(3軸加速度計の出力)を静止座標系に座標変換すれば、センサ座標系で得られた上下方向の加速度から静止座標系の上下方向の加速度を得ることができる。
【0021】
また、歩行方向の加速度と歩行方向と直交する方向(つまり左右方向)の加速度(つまり、水平かつ直交する2方向の加速度)は、以下の方法で求めることができる。まず、上述したようにセンサ座標系の3軸の加速度を静止座標系に座標変換したのち、静止座標系の鉛直軸まわりの角変位について、1周期分(左右2歩分)平均して、その平均値を求める。そして、この平均値分だけ、初期の静止座標系から回転した静止座標系を設定する。この設定された静止座標系に固定した状態で、その1周期の間に得られたセンサ座標系の加速度を、設定された静止座標系に座標変換する。すると、歩行方向の加速度と歩行方向と直交する方向(つまり左右方向)の加速度(つまり、水平かつ直交する2方向の加速度)が得られる。
【0022】
なお、歩行方向をリアルタイムで把握したい場合には、1周期の平均値に代えて、一歩前あるいはそれまでの数歩について、静止座標系の鉛直軸まわりの角変位の平均値を求める。そして、その平均値を用いれば、上記と同様の方法で歩行方向の加速度と歩行方向と直交する方向の加速度を得ることができる。
【0023】
なお、上述したセンサ座標系の3軸の加速度(3軸加速度計の出力)を座標変換などして静止座標系の加速度を算出する機能は、検出手段10自体が有していてもよいし、解析手段20が有していてもよく、とくに限定されない。なお、検出手段10が座標変換機能を有する場合には、検出手段10は、公知の姿勢センサと座標変換部とを有することになる。
【0024】
(解析手段20)
解析手段20の詳細を説明する。
解析手段20は、検出手段10からの信号に基づいて、検出手段10が取り付けられている人(以下被験者という)の移動速度や歩幅を解析する機能を有している。この解析手段20は、移動状況解析部21と、床反力推定部22と、を備えている。
【0025】
また、解析手段20は、検出手段10の測定したデータに基づいて、各方向の加速度を算出する加速度算出部23も備えている。つまり、加速度算出部23が、検出手段10が測定したセンサ座標系の加速度を静止座標の加速度に変換する機能を有している。この加速度算出部23によって算出される各方向の加速度が、移動状況解析部21による移動速度および/または歩幅の算出や、床反力推定部22における床反力の算出に使用される。
【0026】
(加速度算出部23)
加速度算出部23は、検出手段10によって計測されたデータに基づいて、センサ座標系の加速度を静止座標の加速度に変換する機能を有している。具体的には、加速度算出部23は、静止座標における重心の3軸方向の加速度を算出する機能を有するものである。人の体の重心位置は、一般的には、検出手段10に対して内側に位置しており、両者の加速度は一致しない。このため、加速度算出部23は、検出手段10が検出した加速度を検出手段10が検出した3軸周りの角速度を使って補正して、重心の加速度を求めている。
【0027】
例えば、通常の歩行であれば、鉛直軸周り以外の回転速度は小さいと考えられるので、鉛直軸周りの角速度だけを用いて以下の方法で補正すれば、ある程度の精度で重心の加速度を求めることができる。
【0028】
まず、人が歩行する場合に設定される静止座標系には3種類ある。絶対静止座標系(初期の座標系、上述した静止座標系)、平均歩行静止座標系(平均的歩行方向を用いる静止座標系)、検出手段10の瞬時静止座標系(センサの瞬時の姿勢における静止座標系、センサ座標系)、の3つである。
【0029】
検出手段10の計測値は、センサ座標系における計測値である。この座標系においては,検出手段10の取り付け位置と重心の位置の関係は、人が歩行しても変化しない。
【0030】
図3(A)に示すように、センサ座標系における重心の加速度は以下の数1で表すことができる。この加速度を、平均歩行静止座標系に座標変換すれば、歩行方向および横方向における重心の加速度が得られる。
なお、平均歩行静止座標系における各軸周りの重心の角加速度は、近似的に、数1の加速度を平均歩行静止座標系に座標変換して得られる平均歩行静止座標系の各軸周りの角速度を微分して求めればよい。
【数1】
【0031】
なお、上記方法は、2軸の角速度を用いて重心の加速度を補正する場合に容易に拡張できる。つまり、2軸(例えば鉛直軸とX軸または鉛直軸とY軸)の角速度を用いる場合は、検出手段10と重心を結ぶ直線を検出手段10の瞬時静止座標系のY軸とする。すると、センサ座標系における重心の加速度は以下の数2で表すことができる。この加速度を、平均歩行静止座標系に座標変換すれば、2軸の角速度を用いても、重心の歩行方向および横方向の加速度を得ることができる。
【数2】
【0032】
なお、重心位置の時間変動、つまり、重心位置における加速度をそれほど高い精度で必要としない場合であれば、検出手段10が取り付けられている位置と、重心の加速度は同じであるとしてもよい。言い換えれば、検出手段10のセンサが検出する加速度をそのまま重心の加速度として使用することも可能である。
【0033】
(床反力推定部22)
床反力推定部22は、加速度算出部23によって算出された加速度と人の等価質量に基づいて床反力を算出する機能を有している。床反力は、上下左右前後の3方向の床反力があり、各方向の床反力は、重心の3方向(静止座標系の3軸方向)の加速度に質量を乗じたものと考えられる。このため、床反力推定部22では、加速度算出部23によって算出された重心の3方向の加速度と等価質量に基づいて3方向の床反力を推定している。
【0034】
以下、各方向の床反力の推定方法を説明するが、前後方向の床反力は、人の歩行方向と一致するものとして推定されるので、まず、人の歩行方向を決定する方法を説明する。
【0035】
(歩行方向検出)
人の歩行方向は、検出手段10が検出する鉛直方向の軸(Z軸)まわりの回転の時間変動を処理することによって把握することができる。具体的には、検出手段10からの信号を解析して、歩行の一周期(2歩)または半周期(1歩)内の鉛直軸まわりの回転角度の平均値の分だけ回転した方向を歩行方向とすることができる。この場合、検出手段10を、他の運動による鉛直軸まわりの回転が少ない位置に取り付ければ、鉛直軸まわりの回転の変動を正確に検出できる。すると、上記方法で歩行方向を把握する場合に、歩行方向を正確に把握することができる。
【0036】
なお、歩行方向は、センサ座標系で得られた加速度等を静止座標系に座標変換して、静止座標系の鉛直軸まわりの角変位に基づいて判断することが望ましい。
また、この方法を採用した場合には、歩行している人の歩行方向のブレ場合を把握することも可能となる。
【0037】
また、鉛直軸まわりの角速度についても、歩行の一周期(または半周期)の平均値を求めておけば、角速度を利用して歩行方向を推定することも可能となる。例えば、次の2歩あるいは1歩の平均角度の推定値は、周期をt
iとすれば、その直前の平均角度と平均角速度から、以下の数3によって求めることができる。
【数3】
つまり、直前の歩行状態から、次の移動方向を推定することが可能となるのである。
【0038】
なお、歩行方向を決定する方法は上記のごとき方法に限られず、種々の方法を採用することができる。
【0039】
(床反力の推定)
人が歩行している状態では、手足の加速度は、左右および前後でそれぞれ逆位相的となっていると考えられる。したがって、手足の加速度は床反力に影響しないと仮定する。
すると、各方向の床反力は、体全体の質量×体幹加速度(重心の各方向の加速度)×補正係数、によって算出できる。
【0040】
体全体の質量は、被験者の体重をそのまま使用することができる。
また、体幹加速度は、加速度算出部23によって算出された各方向の加速度を使用することができる。
【0041】
補正係数は、以下の方法で求めることができる。
例えば、公知の床反力測定装置(例えば、床反力計内蔵のトレッドミルやウェアラブルセンサ等)を利用して、被験者に複数回異なる状態で歩行や走行をさせる。その時の体幹加速度と床反力との関係から、最小二乗法によって、補正係数を求めることができる。
また、被験者を撮影するカメラを設置し、かつ、被験者の体の各部にセンサを取り付けて、被験者に歩行や走行をさせる。その時の被験者の各部の加速度と位置を測定すれば、各部の慣性力の合力を求めることができる。すると、被験者の等価質量を合力/体幹加速度によって求めることができるので、この等価質量と体全体の質量から補正係数を求めることができる。つまり、補正係数は、等価質量/体全体の質量、で求めることができる。
【0042】
このような方法を用いれば、特別な機器などを使用することなく、歩行や走行している人に加わる床反力を推定することができる。すると、人が実際に歩行や走行をしている状態を把握しやすくなる。しかも、補正係数によって床反力を補正しているので、床反力の推定精度を高めることができる。
【0043】
(移動状況解析部21)
移動状況解析部21は、検出手段10が取り付けられている被験者の移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出する機能を有している。この移動状況解析部21は、検出手段10によって検出された加速度(言い換えれば加速度算出部23によって算出された加速度)に基づいて、移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出する加速度基準演算機能を備えている。また、移動状況解析部21は、床反力推定部22によって算出された床反力に基づいて移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出する床反力基準演算機能と、を有している。
【0044】
(加速度基準演算機能21a)
加速度基準演算機能21aは、歩行方向静止座標(上述した平均歩行静止座標系に相当する)において、歩行方向の加速度(前後方向の加速度)を積分して平均歩行速度を求めるものである。
以下、加速度基準演算機能21aが平均歩行速度を求める方法を説明する。
【0045】
まず、静止した状態で歩行をスタートして、ある程度歩行した後、静止して終了する。このとき、歩行する歩数や時間はとくに限定されないが、10歩以内とすることが望ましい。
【0046】
ついで、測定結果から歩行速度を以下の方法で推定する。
測定開始時から測定終了時までの時間がTの場合、初期速度をゼロとし、加速度をT時間積分して、終了時の速度を計算する。終了時は速度がゼロとなっているはずなので、積分して求めた最終速度をTで除し、加速度αを求め、計測した加速度から加速度αを差し引く(数4参照)。そして、差し引いて得られる加速度を積分すれば、最終速度は0となる。
【数4】
【0047】
そして、最終速度が0となるように求められた速度において、速度が安定している期間の平均速度を求めれば、平均歩行速度が得られる。
【0048】
なお、加速度基準演算機能21aは、単純に、歩行方向の加速度(前後方向の加速度)を積分して、歩行速度や歩幅を推定するものでもよい。しかし、上述した方法を採用したばあいには、歩行方向の加速度(前後方向の加速度)を単純に積分した場合に比べて、積分した際のドリフトに起因する、算出された平均速度の精度低下を防ぐことができる。
【0049】
(床反力基準演算機能21b)
上述したように、加速度だけからでも歩行方向の加速度や歩幅等を算出することができるが、床反力推定部22によって算出された床反力に基づいて移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出することもできる。床反力自体が加速度から算出されているため、床反力に基づいて算出される移動速度および/または移動距離(歩幅)も、実質的には、加速度から算出されているといえる。しかし、床反力を利用することにより、重心の位置や圧力中心の位置を考慮して移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出できる。すると、加速度のみから算出するよりも、歩行状態をより反映した移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出することができる。
【0050】
例えば、以下の方法で、床反力に基づいて移動速度および/または移動距離(歩幅)を算出することができる。
【0051】
図4において、人の歩行方向(
図4の左右方向)および上下方向(
図4の上下方向)を、それぞれ、x方向、y方向とする。すると、人の重心に加わる慣性力F
x、F
yと圧力中心に加わる床反力R
x、R
yの関係は以下のように表すことができる。なお、慣性力は、質量×補正係数×加速度から算出される(補正係数は、上述した方法(段落0041、0042参照)で求めたものである)。
R
x=−F
x
R
y=−F
y
【0052】
そして、圧力中心からみた重心位置は、以下のように表すことができる。
d=−(F
x×h
G)/F
y
なお、
図4は、歩行時につま先接地した場合を示している。
図4において、dは距離のように記述しているが、足先を原点とした重心のx座標としている。したがって、
図4の場合には、dは負の値を有することになる。
【0053】
なお、重心位置のh
Gは検出手段10の位置から求めるが、歩行によって人の体が上下に移動すると、検出手段10を設けた高さh
sも変動する。この検出手段10の高さh
sの変動は、検出手段10の初期の高さ(つまり人が立って静止している状態の高さ)と、上下方向の加速度を2回微分した値に基づいて求めることができる。したがって、変動する重心位置のh
Gは、検出手段10の高さh
sの変動から求めることができる。
同様に、変動する股関節位置も検出手段10の位置と姿勢角(上述した姿勢センサのオイラー角)から容易に求めることができる。
【0054】
図4では、足先接地しているので、足先がこの時点での座標の原点となり、足先が圧力中心となる。一方、
図4の状態から、圧力中心が移動していけば、圧力中心は座標の原点から移動することになる。そこで、足先から圧力中心までの距離をeとすれば,圧力中心は原点からeだけすれた状態となる。
【0055】
図4において、圧力中心が原点からeだけずれると、原点に対する重心のx座標x
Gも移動し、その座標は、x
G=d−eとなるので、この式を微分すれば、移動速度が得られる(数5)。
【数5】
【0056】
また、つま先接地の走行の場合には、e=0であり、その足が離地するときもe=0である。接地時のx座標をx
GC、離地時のx座標をx
GOとし、両足離地時の速度は離地時の速度を維持するとして、両足離地の時間をt
0とする。すると、一歩での体幹の移動量Dは以下の式で求められる。したがって、後述するような歩幅の推定式(数6)を用いれば、歩幅を求めることができる。
【数6】
【0057】
なお、eは、予め被験者の歩行を測定して把握しておくか、統計的なパターンで求めておくことができる。
【0058】
また、両足接地している状態では、両足接地している間の速度変動がないものとして近似すればよい。
【0059】
(補正機能21c)
補正機能21cは、上述した加速度基準演算機能21aによって算出された移動速度および/または移動距離と、床反力基準演算機能21bによって算出された移動速度および/または移動距離を比較して、補正する機能である。
【0060】
加速度基準演算機能21aによって算出された移動速度は、その速度変化の様子はある程度の精度で得られる。しかし、加速度基準演算機能21aによって算出された移動速度にはドリフトが生じる可能性があり、このドリフトによって算出された移動速度の誤差が大きくなる可能性がある。かかるドリフトする成分の影響は、比較する速度がないと補正できない。そこで、補正機能21cは、床反力基準演算機能21bによって算出された移動速度によって、加速度基準演算機能21aによって算出された移動速度を補正する。床反力に基づいて床反力基準演算機能21bが推定する速度は精度は高くないかもしれないがドリフトは存在しない。したがって、床反力基準演算機能21bが推定する速度を参照情報として用いれば、加速度基準演算機能21aによって算出された移動速度のドリフト成分を補正できるので、算出された移動速度の精度を高くすることができる。
【0061】
この補正機能21cによって速度を補正する方法は種々考えられるが、例えば、以下の方法を採用することができる。
【0062】
例えば、被験者の移動速度の平均速度を未定定数として、最小二乗法で各機能によって算出された速度の誤差を最小にする平均速度を求めることによって、移動速度を補正することができる。この方法では、停止時が速度ゼロであるという情報がなくても速度を補正できる。つまり、停止時に速度ゼロは、体幹にとりつけたセンサの場合には停止から停止の歩数が少ない場合には有効であり、足に取り付けたセンサであれば連続歩行でも完全接地時は速度ゼロという状態が発生する。しかし、連続歩行で体幹に取り付けたセンサの場合、速度ゼロとなるような状態がない。しかし、上記方法では、連続歩行かつ体幹にセンサを取り付けた場合でも、移動速度を補正することができる。
さらに、加速度基準演算機能21aによって算出された移動速度と床反力基準演算機能21bによって算出された移動速度の平均速度同士を比較して補正することもできる。例えば、速度ゼロの情報を用いる場合と同様に、一歩ごとに,加速度基準演算機能21aが算出する平均速度が床反力基準演算機能21bが算出する平均速度と一致するように、その期間の加速度を一定値修正してもよい。
【0063】
なお、補正する機能は上記方法に限られない。上述した最小二乗法を使用する方法の場合、バッチ処理になるが、公知の拡張カルマンフィルタを使用すれば、リアルタイムでの補正が可能になる。
【0064】
(歩幅の推定)
本実施形態の運動解析装置1では、以下の方法によって歩幅を推定している。
以下、歩幅を推定する方法を説明する。
【0065】
重心における3軸の加速度をそれぞれ以下のように設定する(数7)。
【数7】
【0066】
ここで、足が踵接地するタイミングと、足が地面から離れるタイミングにおける進行方向加速度を以下のように設定する(数8)。なお、添字aが接地するタイミングであり、添字bが足が地面から離れるタイミングを示している。
【数8】
【0067】
すると、以下の数9により、各タイミングにおえる圧力中心からみた重心位置da、dbを求めることができる。すると、歩幅Bは、数10により求めることができる。なお、数10において、fは足の長さであり、αは接地・離地パターンにより−1〜1の間で変化する係数である。例えば、つま先接地つま先離地なら0、つま先接地踵離地なら1、踵接地つま先離地なら−1に設定される。もちろん、接地状況によっては、中間の値をとる場合もある。
【数9】
【数10】
【0068】
なお、da、dbを時間で微分することによって、その区間の移動速度を求めることも可能である。
【0069】
また、上記の数10によって、歩幅Bを推定すれば、校正なしでもある程度精度が確保できるという点で好ましい。しかし、数10のDのみ,またはDとτのみで歩幅を推定してもよい。つまり、数11によって、歩幅Bを推定してもよい。この場合、両足接地時の平均重心速度や両足接地時間が不要になるので、推定が容易になる。しかし、歩幅Bの推定精度が低下するので、後述するは簡易補正法の係数で補正することが望ましい。
【数11】
なお、ζ
Dおよびζ
τは補正係数である。この補正係数は、あらかじめ実施した詳細計測データに基づいて被験者個人の補正係数として推定したもの、または、大量のデータを統計処理した平均的な値、のいずれを使用することも可能である。しかし、歩幅Bの推定精度を高くする上では、前者の補正係数を用いる方が好ましい。
【0070】
また、上記数11を使用して歩幅Bを推定する場合には、数11のζ
D、ζ
τ、または、ζ
D、ζ
abは、あらかじめ詳細計測を行って得られた個人用の推定値を用いてもよいし、大量のデータから推定した統計的なものを用いてもよい。この場合、Dとτ、あるいは、
【数12】
が把握できれば、歩幅Bを推定できるので日常の歩行などにおける歩幅Bの推定が容易になる。
【0071】
また、Dとζ
Dだけで歩幅Bを推定してもよい。この場合、他のパラメータに関する項をζ
Dに含めてしまい、その分だけζ
Dを大きくすればよいが、ζ
Dを推定するために正しい歩幅の値を用いた校正が必要となる。例えば、詳細計測を行って得られた個人用の推定値からζ
Dを推定してもよいし、大量のデータから推定した統計的なζ
Dを推定値として使用してもよい。
【0072】
(簡易校正法)
また、簡易的に歩幅を補正する方法としては、以下の方法を採用することができる。つまり、所定の歩数を走行・歩行して、その際の走行・歩行距離を本実施形態の運動解析装置1によって推定する。そして、実際の歩行距離と推定した距離を使用して歩幅を補正すれば、歩幅の推定精度を向上させることができる。
【0073】
例えば、被験者に140歩だけ歩行してもらい、そのときの推定距離がLRの場合、推定の歩幅SMはLR/140となる。この時の実際の歩行距離がLMとすると、実際の歩幅SRはLM/140となる。すると、実際の歩幅SRは、以下の式で求めることができる。
SR=SM×LM/LR
したがって、LM/LRを校正係数として記憶しておけば、推定された歩幅を補正することができる。
【0074】
(関節モーメント,関節間力の推定)
本実施形態の運動解析装置1は、解析手段20が、股関節の関節モーメントおよび/または関節間力を推定する関節力推定機能を備えていることが望ましい。この場合、股関節の関節モーメントおよび/または関節間力が把握できるので、被験者の歩行や走行の状況をより細かく把握することができる。
【0075】
関節モーメントおよび/または関節間力は、床反力推定部22によって算出される床反力に基づいて推定することができる。
【0076】
(方法1)
図5(A)において、重心位置と圧力中心を結ぶ線分(
図5の点線)に対し、股関節から垂線を下して得られるモーメントアームを求める。そして、各モーメントアームに床反力の絶対値を掛ければ、股関節の関節モーメントを求めることができる。
例えば、関節モーメントを近似的に2次元(進行方向と鉛直方向からなる2次元)で考えれば、床反力ベクトルの方向は、下肢の慣性力を無視すれば、近似的に重心位置と圧力中心を結ぶ直線と重なる。したがって、床反力ベクトルの大きさにモーメントアームの長さを乗じることで、股関節の関節モーメントの近似値を得ることができる。
【0077】
なお、他の関節から前記線分に垂線を下して得られるモーメントアームに床反力の絶対値を掛ければ、各関節の関節モーメントを求めることも可能である。
【0078】
股関節の関節間力は、以下の方法で求めることができる。
重心または圧力中心のいずれかから股関節までの部分を一つの剛体とする。そして、股関節に加わる2方向(進行方向と鉛直方向)の反力とモーメントを未知数として、上下および水平方向の力のつり合い式、および、モーメントのつり合い式を解けば、股関節の関節間力を得ることができる。なお、上下および水平方向の力のつり合い式およびモーメントのつり合い式を解いて得られる股関節の関節モーメントは、前述のモーメントアームを用いる方法で得られる関節モーメントと一致する。また、下肢各部の重力や慣性力が得られる場合には、それらもつり合い式に含めて、重心位置から順につり合い式を解いていけば、股関節の関節モーメントと股関節の関節間力の両方を同時に算出することも可能である。
【0079】
(方法2)
また、
図5(B)に示すように、以下のような方法で股関節モーメントを推定してもよい。
つまり、検出手段10の鉛直方向に対する傾き(傾斜角)に基づいて、股関節より上方の重心位置(上肢重心)を推定する。そして、検出手段10が測定する加速度に基づいて、上肢重心の加速度を計算して重心の慣性力を求める。この重心の慣性力に、重心に加わる重力をベクトル的に加えて得られるベクトルに対して、股関節から垂線を下ろす。すると、股関節からベクトルまでがモーメントアームとなるので、モーメントアームの長さにベクトルの大きさを乗ずれば、片足接地時の股関節モーメントを推定することも可能である。
なお、この方法では、遊脚側(設置していない脚側)から受ける力は小さいとして無視しており、重心と接地している足の股間節が含まれる剛体における力のつり合いから股関節モーメントを求めている。
【0080】
(エネルギー消費)
本実施形態の運動解析装置1は、床反力推定部22によって算出された床反力が重心に及ぼす仕事に基づいて、歩行および/または走行時の消費エネルギー(力学的なエネルギーの消費量)を算出する消費エネルギー算出機能を備えていることが望ましい。歩行や走行を維持するには、力学的に消費したエネルギーを補給する必要がある。つまり、力学的なエネルギーの消費量が把握できれば、人間が消費するエネルギーをある程度把握できる。したがって、かかる消費エネルギー算出機能を備えていれば、歩行および/または走行時の消費エネルギーを簡便に把握できるので、この消費エネルギーに基づいて、歩行状態や走行状態を評価することができる。
【0081】
例えば、高齢者などの歩行の際の消費エネルギーを把握すれば、エネルギー消費の少ない効率的な歩行ができているか否かを確認することができる。
逆に、メタボリックシンドロームの人などのように、減量を目的として歩行をする場合には、エネルギー消費が十分できる歩行をしているか否かを確認することができる。
また、競技者の走行に基づいて消費エネルギーを把握すれば、エネルギー消費の少ないフォームで走行できているか否かを確認することができる。
【0082】
具体的には、歩行および/または走行時において、姿勢を位置制御する際には、体の移動を抑えるように力が加わる(つまりブレーキが加わる)。この場合、体を支えるように力を加わえる(例えば足を踏ん張る等)と考えれば、そのときの床反力が重心に力を及ぼしていると考えることもできる。つまり、床反力が重心におよぼす仕事に基づいて、消費エネルギーを近似的に把握できる可能性がある。以下、この場合において、消費エネルギーを算出する方法を説明する。
【0083】
図6において、符号WAが、重心に作用する仕事を示している。つまり、両足であるか片足であるか、また、踵であるかつま先であるか、にかかわらず、足のどこかが接地している状態において、重心に作用する仕事を示している。
【0084】
図6では、反力ベクトル(数13参照)と速度ベクトル(数13参照)の内積が正であればエネルギーの流入(仕事が加えられている)、負であればエネルギーの消費(仕事をしている)と考えることができる。
【数13】
【0085】
ここで、仕事率をPとすれば、仕事率Pは以下の数14であらわすことができるので、反力ベクトルと、速度ベクトルの各方向の内積が負となる期間(t1〜t2)の仕事率Pを積分すれば消費エネルギーを算出すことができる(数15)。逆に、反力ベクトルと速度ベクトルの内積が正の期間(t1〜t2)を積分すれば、流入するエネルギーを算出することができる(数15)。
【数14】
【数15】
【0086】
(総合運動解析装置への適用)
本実施形態の運動解析装置1は、単独で使用する場合に限られず、他の機器と連携して使用することも可能である。この場合、他の機器の測定データと本実施形態の運動解析装置1の測定データを用いることによって、人の歩行状態や走行状態等を詳細に把握できる。
【0087】
例えば、スポーツ選手の運動解析を行う場合には、スポーツジムやスポーツセンターに床反力計内蔵トレッドミルやカメラシステム、多点慣性センサを設置してき、各選手の各運動状態の等価質量係数や圧力中心移動モード、つま先接地時の足・膝関節の分担率を求めておく。そして、これらセンターなどで測定されたデータ(センターデータ)と本実施形態の運動解析装置1によって測定されたデータに基づいて各選手の歩行状態や走行状態等を解析すれば、各選手の歩行状態や走行状態等をより正確に把握することができる。すると、選手は,本実施形態の運動解析装置1を着用して日常的トレーニングのトレーニングを行い、その測定結果とセンターデータを利用して、日々のトレーニングにおける走行状態等を把握することができる。とくに、競技会やトレーニングでの記録や故障・体調等のデータを合せて保存しておけば、トレーニング方法と記録の関係を検討したり、故障の回復状況等を把握したりすることも可能となる。
【0088】
また、複数の選手のセンターデータを蓄積しておけば、そのデータに基づいて、統計的なデータを構成することができる。例えば、身長や体重、年齢などに応じた統計的なデータを構築することができる。すると、各個人ごとのデータを取得しなくても、各個人に近い条件のデータを使用することで、各個人の歩行状態や走行状態等を把握することが可能となる。
【0089】
また、医療・健康管理等に使用する場合でも、上述したスポーツ選手の運動解析を行う場合と同様の方法で、各個人の歩行状態等を把握することが可能となる。例えば、病院や保険所、公的機関、老健施設などに床反力計内蔵トレッドミルなどを設置すれば、各個人のセンターデータを取得することができる。すると、そのセンターデータと本実施形態の運動解析装置1の測定データを使用することによって、個人の健康状態やリハビリの効果などを把握することも可能となる。