(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
特許文献1の発明では、溶接電流設定値に応じた送給速度の平均値とし、溶接ワイヤの正送と逆送との周波数及び振幅を溶接電流設定値に応じた値とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る正逆送給アーク溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0016】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば200μHである。
【0017】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0018】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0019】
ウィービング周波数設定回路UFRは、溶接トーチ4をウィービングする周波数を設定するためのウィービング周波数設定信号Ufrを出力する。ウィービング周波数設定信号Ufrの設定範囲は、0〜20Hz程度である。Ufr=0のときはウィービングしない場合である。
【0020】
溶接トーチ移動装置MSは、上記のウィービング周波数設定信号Ufrを入力として、溶接トーチ4をウィービング周波数設定信号Ufrによって定まる周波数でウィービングさせながら予め定めた溶接線に沿って移動させる。溶接トーチ移動装置MSは、例えばロボットである。
【0021】
平均送給速度設定回路FARは、予め定めた平均送給速度設定信号Farを出力する。
【0022】
周波数設定回路SFRは、上記のウィービング周波数設定信号Ufrを入力とする予め定めた周波数設定関数によって周波数設定信号Sfrを算出して出力する。周波数設定関数は、実験によって予め定義され、ウィービング周波数設定信号Ufrの値が高くなるほど送給速度Fwの周波数設定信号Sfrの値が高くなる比例関係にある関数である。例えば、Ufr=0のときSfr=100Hzとなり、Ufr=1HzのときSfr=105Hzとなり、Ufr=5HzのときSfr=110Hzとなり、Ufr=10Hzのとき115Hzとなり、Ufr=20HzのときSfr=120Hzとなる関数である。
【0023】
振幅設定回路WFRは、上記のウィービング周波数設定信号Ufrを入力とする予め定めた振幅設定関数によって振幅設定信号Wfrを算出して出力する。振幅設定関数は、実験によって予め定義され、ウィービング周波数設定信号Ufrの値が高くなるほど送給速度Fwの振幅設定信号Wfrの値が大きくなる比例関係にある関数である。例えば、Ufr=0のときWfr=60m/minとなり、Ufr=1HzのときWfr=63m/minとなり、Ufr=5HzのときWfr=66m/minとなり、Ufr=10HzのときWfr=69m/minとなり、Ufr=20HzのときWfr=72m/minとなる関数である。上記の周波数設定関数及び上記の振幅設定関数を波形設定関数と呼ぶことにする。
【0024】
送給速度設定回路FRは、上記の平均送給速度設定信号Far、上記の周波数設定信号Sfr及び上記の振幅設定信号Wfrを入力として、振幅設定信号Wfrによって定まる振幅Wf及び周波数設定信号Sfrの逆数である周期設定値によって定まる周期Tfで正負対称形状に変化する予め定めた台形波を、平均送給速度設定信号Farの値だけ正送側にシフトした波形となる送給速度設定信号Frを出力する。この送給速度設定信号Frについては、
図2で詳述する。送給速度設定信号Frの波形は、台形波以外に正弦波、三角波であっても良い。
【0025】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0026】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0027】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。この回路によって、溶接装置は定電圧制御される。
【0028】
駆動回路DVは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、電圧誤差増幅信号Evに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態1に係る正逆送給アーク溶接方法を示す、
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0030】
同図(A)に示す送給速度Fwは、
図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度設定信号Frは、振幅設定信号Wfrによって定まる振幅Wf及び周波数設定信号Sfrによって定まる周波数Sfの逆数となる周期Tf=1/Sfで正負対称形状に変化する予め定めた台形波を、平均送給速度設定信号Farの値だけ正送側にシフトした波形となる。このために、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、平均送給速度設定信号Farによって定まる破線で示す平均送給速度Faを基準線として、上下に対称となる振幅Wf及び周期Tfで予め定めた台形波状の送給速度パターンとなる。すなわち、基準線から上側の振幅と下側の振幅とは同一値であり、基準線より上側の期間と下側の期間とは同一値となっている。
【0031】
ここで、0を基準線として送給速度Fwの台形波を見ると、同図(A)に示すように、時刻t1〜t5の逆送期間は、それぞれ所定の逆送加速期間、逆送ピーク期間、逆送ピーク値及び逆送減速期間から形成され、時刻t5〜t9の正送期間は、それぞれ所定の正送加速期間、正送ピーク期間、正送ピーク値及び正送減速期間から形成される。
【0032】
[時刻t1〜t5の逆送期間の動作]
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t1〜t2の逆送加速期間に入り、0から上記の逆送ピーク値まで加速する。この期間中は短絡状態が継続している。
【0033】
時刻t2において逆送加速期間が終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t4の逆送ピーク期間に入り、上記の逆送ピーク値になる。この期間中の時刻t3において、逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってアークが発生する。これに応動して、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwはこれ以降のアーク期間中は次第に減少する。
【0034】
時刻t4において逆送ピーク期間が終了すると、同図(A)に示すように、時刻t4〜t5の逆送減速期間に入り、上記の逆送ピーク値から0へと減速する。この期間中は、アーク期間が継続している。
【0035】
[時刻t5〜t9の正送期間の動作]
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t5〜t6の正送加速期間に入り、0から上記の正送ピーク値まで加速する。この期間中は、アーク期間のままである。
【0036】
時刻t6において正送加速期間が終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t6〜t8の正送ピーク期間に入り、上記の正送ピーク値になる。この期間中の時刻t7において、正送によって短絡が発生する。これに応動して、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwはこれ以降の短絡期間中は次第に増加する。
【0037】
時刻t8において正送ピーク期間が終了すると、同図(A)に示すように、時刻t8〜t9の正送減速期間に入り、上記の正送ピーク値から0へと減速する。この期間中は、短絡期間が継続している。
【0038】
これ以降は、上記の逆送期間及び上記の正送期間の動作を繰り返す。
【0039】
送給速度Fwの台形波の数値例を以下に示す。
周波数Sf=100Hz(周期Tf=10ms)、振幅Wf=60m/min、平均送給速度Fa=5m/min、半周期の各傾斜期間=1.2ms、ピーク期間=2.6ms、ピーク値=30m/minの台形波に設定すると、この台形波を平均送給速度Fa=5m/minだけ正送側にシフトした波形となる。平均溶接電流は約250Aとなる。この場合の各波形パラメータは、以下のようになる。
逆送期間=4.6ms、逆送加速期間=1.0ms、逆送ピーク期間=2.6ms、逆送ピーク値=−25m/min、逆送減速期間=1.0ms
正送期間=5.4ms、正送加速期間=1.4ms、正送ピーク期間=2.6ms、正送ピーク値=35m/min、正送減速期間=1.4ms
【0040】
溶接中は、溶接トーチ4はウィービング周波数設定信号Ufrによって定まる周波数でウィービングされる。そして、
図2(A)に示すように、送給速度Fwの波形パラメータは周波数Sf、振幅Wf等となる。溶接条件に応じて適正値に調整されるウィービング設定信号Ufrが設定されると、
図1の周波数設定回路SFRによって周波数設定信号Sfrが算出され、
図1の振幅設定回路WFRによって振幅設定信号Wfrが算出される。そして、これらの信号に基づいて送給速度Fwの周波数Sf及び振幅wfが自動設定される。このために、ウィービング設定信号Ufrの値が変化しても、溶接状態が安定化するように送給速度Fwの周波数Sf及び振幅Wfが自動的に適正化される。
【0041】
実施の形態1はウィービング周波数設定信号Ufrによって送給速度Fwの周波数設定信号Sfr及び振幅設定信号Wfrを共に変化させる場合であるが、どちらか一方だけ変化させるようにしても良い。
【0042】
上述した実施の形態1によれば、送給速度の波形パラメータ(周波数及び/又は振幅)をウィービングの周波数を入力とする予め定めた波形設定関数によって設定する。これにより、本実施の形態では、ウィービングの周波数が変化しても、ウィービングの周波数の変化に応じて送給速度の波形パラメータが自動的に適正化されるので、溶接状態を常に安定化することができる。