(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の特許文献にあるように、木材の改質作用を示す素材が提案されている中、さらなる素材の開発が求められていた。
また、前述の特許文献に開示されているように、セルロースナノファイバーの更なる新規用途開発が求められていた。
【0011】
本発明者が鋭意研究した結果、セルロースナノファイバーを木材に含浸させたときに、セルロースナノファイバーが独特の木材改質作用を奏することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、新規な改質木材を製造する技術を提供することを課題とする。
また、本発明は、新規な改質木材を提供することを課題とする。
また、本発明の好ましい形態では、セルロースナノファイバーを木材に効率よく含浸させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、木材にセルロースナノファイバーを含浸させる含浸工程を備える、改質木材の製造方法である。
木材にセルロースナノファイバーを含浸させることで、新規な改質木材を製造することができる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態では、前記含浸工程は、セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させた状態で高圧水蒸気処理することを含む。
セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させた状態で高圧水蒸気処理することで、効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態では、前記含浸工程は、高圧水蒸気処理の後に高周波プレス処理することを含む。
高圧水蒸気処理の後に高周波プレス処理することで、木材に含浸させたセルロースナノファイバーを木材内に均一に分散させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
また、高圧水蒸気処理の後に高周波プレス処理することで、改質木材の乾燥を早めることができるため、セルロースナノファイバーを含浸させた場合であっても、反りの軽減された改質木材を製造することができる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態では、前記セルロースナノファイバーが両親媒性である。
両親媒性のセルロースナノファイバーを用いることで、効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態では、前記含浸工程は、セルロースナノファイバー及びミョウバンを含む浸漬剤に木材を浸漬させる浸漬処理を含む。
セルロースナノファイバー及びミョウバンを含む浸漬剤に木材を浸漬させることで、効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0018】
また、本発明は、前述の製造方法により製造された改質木材を材料として用いることを特徴とする、卓球用ラケットの製造方法でもある。
【0019】
また、本発明は、内部にセルロースナノファイバーを有する改質木材でもある。
内部にセルロースナノファイバーを有する改質木材は、弾性に優れ、強度を有し、柔らかい、という独特の性質を有する。
【0020】
また、本発明は、セルロースナノファイバーを有効成分とする木材改質剤でもある。
本発明の木材改質剤は、木材の改質作用を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、新規な改質木材を製造する技術を提供することができる。また、本発明によれば、新規な改質木材を提供することができる。
また、本発明の好ましい形態によれば、セルロースナノファイバーを木材に効率よく含浸させる技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の説明に限定されないことはいうまでもない。
【0023】
本明細書において、「木材」の用語はセルロースナノファイバーを含浸させる前の原材料を指し、「改質木材」の用語はセルロースナノファイバーを含浸させた後の木材を指す。
【0024】
以下、原材料となる木材に関し、さらに好ましい実施の形態を説明する。
【0025】
本発明に用いる木材は、針葉樹、広葉樹の何れの木材であってもよい。中でも、原材料となる木材の由来となる木の種類としては、檜、桐、シナ、柳、リンパ、アユースを好ましく挙げることができる。
【0026】
木材の種類は特に限定されず、無垢材、集成材、合板、パーティクルボード、ファイバーボードなどが挙げられるが、無垢材、集成材及び合板など天然木の導管が残存しているものが好ましく挙げられ、特に無垢材を好適に例示できる。
【0027】
また、原材料となる木材の形状は、棒状、柱状、板状の何れであってもよい。中でも、原材料となる木材の形状は、板状であることが好ましい。
【0028】
ここで、木材の形状が板状である場合には、、原材料となる木材は柾目に切り出した木材、板目に切り出した木材の何れであってもよい。中でも、原材料となる木材は、柾目に切り出した木材であることが好ましい。
【0029】
また、木材の形状が板状である場合の、木材の厚みは、好ましくは30cm以下、より好ましくは15cm以下、さらに好ましくは10cm以下、さらに好ましくは5cm以下、特に好ましくは2cm以下である。
木材の厚みを上限以下とすることで、より簡便に改質木材を製造することができる。
【0030】
また、木材の形状が板状である場合の、木材の厚みは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、特に好ましくは0.5mm以上である。
【0031】
原材料となる木材に関し、下処理として木材の脱油処理を行うことが好ましい。特に脱油処理は、油分を1質量%以上含む木材に対して行うことが好ましい。油分を1質量%以上含む木材に対して脱油処理を行うことで、後述する浸漬処理、高圧水蒸気処理でのセルロースナノファイバーの含浸をより効率よく行うことができる。油分を1質量%以上含む木材としては、檜を好ましく挙げることができる。
【0032】
木材の脱油処理としては、塩水に木材を浸漬させる方法、アルカリ処理法を挙げることができる。中でも、木材の脱油処理は、塩水に木材を浸漬させる方法であることが好ましい。
【0033】
以下、塩水に木材を浸漬させる処理のより好ましい形態について説明する。
【0034】
塩水の塩分濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上である。塩水の塩分濃度が下限以上であることで、より効率よく、木材の脱油を行うことができる。
【0035】
塩水の塩分濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。塩水の塩分濃度が上限以下であることで、より効率よく、木材の脱油を行うことができる。
【0036】
また、脱油処理の時間は、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0037】
以下、セルロースナノファイバーに関し、さらに好ましい実施の形態を説明する。
【0038】
セルロースナノファイバーは、両親媒性のセルロースナノファイバーであることが好ましい。
両親媒性のセルロースナノファイバーを用いることで、効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0039】
ここで、セルロースナノファイバーは、平均繊維幅が好ましくは100nm以下、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは20nm以下であることが好ましい。
平均繊維幅が上限以下のセルロースナノファイバーを用いることで、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0040】
また、竹、広葉樹、針葉樹を原料としたセルロースナノファイバーを用いることがより好ましい。
【0041】
中でも、原料は針葉樹であることがより好ましい。
針葉樹を原料としたセルロースナノファイバーを用いることで、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0042】
また、セルロースナノファイバーは、ACC法(Aqueous Counter Collision method: 水中対向衝突法)により製造されたものであることがより好ましい。
ACC法により製造されたセルロースナノファイバーを用いることで、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0043】
上述の特徴を備えるセルロースナノファイバーとしては、nanoforest(中越パルプ工業株式会社 製、登録商標)を好ましく例示できる。
【0044】
<改質木材の製造方法>
以下、本発明の改質木材の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の改質木材の製造方法は、木材にセルロースナノファイバーを含浸させる含浸工程を備えることを特徴とする。
木材にセルロースナノファイバーを含浸させることで、繊維内や導管内にセルロースナノファイバーを有する改質木材を製造することができる。具体的には、木材にセルロースナノファイバーを含浸させることで、弾性に優れ、強度を有し、柔らかい、という独特の性質を有する改質木材を製造することができる。
【0046】
以下、本発明の改質木材の製造方法における含浸工程に関し、さらに好ましい実施の形態を説明する。
【0047】
(1)浸漬処理
本発明の好ましい実施の形態では、前述の含浸工程は、セルロースナノファイバーを含む浸漬剤に木材を浸漬させる浸漬処理を行う。
【0048】
浸漬処理に用いる浸漬剤はセルロースナノファイバーを含んでいればよく、その溶媒は特に限定されず、有機溶媒であっても水性溶媒の何れであってもよい。中でも、水性溶媒が好ましく、水であることが特に好ましい。
【0049】
浸漬剤に含まれるセルロースナノファイバーの含有量の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上である。
また、浸漬剤に含まれるセルロースナノファイバーの含有量の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
上記の範囲でセルロースナノファイバーを含む浸漬剤を用いることで、含侵効率を向上させることができる。
【0050】
浸漬剤はセルロースナノファイバー以外の成分を含有していてもよい。このような成分として具体的にはミョウバン、ポリエチレングリコール、糖アルコールなどを例示できる。
【0051】
中でも、ミョウバンを含む浸漬剤を用いることがより好ましい。
セルロースナノファイバー及びミョウバンを含む浸漬剤に木材を浸漬させることで、効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0052】
浸漬剤を調製する際に用いるミョウバンは、ミョウバンカリウムであることが好ましい。
ミョウバンカリウムを用いることで、より効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができる。
【0053】
浸漬剤に含まれるミョウバンの含有量の下限は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。
また、浸漬剤に含まれるミョウバンの含有量の上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下である。
上述の範囲でミョウバンを含む浸漬剤を用いることで、より効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができる。
【0054】
浸漬処理における、浸漬時間は特に限定されないが、木材に十分にセルロースナノファイバーを含侵させる観点から、浸漬時間の下限は好ましくは30分以上、より好ましくは40分以上、さらに好ましくは50分以上である。
また、浸漬時間の上限は特に制限されないが、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間、さらに好ましくは2時間以下である。
【0055】
浸漬処理における、浸漬剤の温度の下限は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、特に好ましくは45度以上である。
また、浸漬剤の温度の上限は、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下、特に好ましくは55℃以下である。
上述の温度範囲で浸漬処理を行うことで、より効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができる。
【0056】
浸漬処理を行うべき木材に特に制限はないが、木材の厚みが5mm以上である場合に行うことが特に好ましい。木材の厚みが5mm以上である場合に浸漬処理を行うことで、より効率よく木材全体にセルロースナノファイバーを含浸させることができる。
【0057】
(2)高圧水蒸気処理
本発明の好ましい実施の形態では、前述の含浸工程において、セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させた状態で、高圧水蒸気処理を行う。
上記の処理を行うことで、効率よく木材にセルロースナノファイバーを含浸させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
また、処理後の改質木材の表面にはセルロースナノファイバーの被膜が形成されないことから、高圧水蒸気処理を行うことが好ましい。
【0058】
なお、好ましい実施の形態では、液状の溶媒が木材に残存している状態で高圧水蒸気処理を行うことが好ましい。
【0059】
なお、セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に塗布することで「セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させた状態」とすることができる。
【0060】
ここで用いるセルロースナノファイバーを含む溶液の溶媒は、有機溶媒、水性溶媒の何れであってもよい。中でも、含侵効率の観点から、溶媒は水性溶媒であることが好ましく特に水であることが特に好ましい。
【0061】
高圧水蒸気処理に用いるセルロースナノファイバー溶液の濃度は特に限定されない。
含侵効率の観点から、セルロースナノファイバーの含有量の下限は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、特に好ましくは0.9質量%以上である。
また、セルロースナノファイバーの含有量の上限は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0062】
また、セルロースナノファイバーを含む溶液は、スラリー状であることが好ましい。
スラリー状とすることで木材表面への塗布を容易にすることができ、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0063】
高圧水蒸気処理に用いるセルロースナノファイバーを含む溶液の液温は、好ましくは10℃以下、より好ましくは8℃以下、さらに好ましくは5℃以下である。
セルロースナノファイバーを含む溶液の液温を上限以下とすることで、より効率よく木材全体にセルロースナノファイバーを含浸させることができる。
【0064】
また、溶液の液温は、好ましくは0℃以上である。
セルロースナノファイバーを含む溶液を上述したような低温域に調製する方法は特に限定されず、冷蔵庫での保存や、同溶液を封入した袋を氷水に漬ける方法などが挙げられる。
【0065】
本明細書において、高圧水蒸気処理とは、水蒸気を高出力で木材に噴射する処理をいう。ここで、高圧水蒸気処理には高圧水蒸気機器を用いることが好ましい。
【0066】
高圧水蒸気処理は、セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させた状態で、木材の表面に高圧水蒸気機器の水蒸気噴射口を押し当てながら、水蒸気を木材に噴射する形態とすることが好ましい。
上記の高圧水蒸気処理を行うことで、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0067】
また、セルロースナノファイバーの含侵効率を向上させる観点から、高圧水蒸気処理において噴射する水蒸気の温度は高温であることが好ましい。具体的には、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは95℃以上である。
【0068】
セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させ、水蒸気を木材に噴射する処理を、2回以上、さらに好ましくは3回以上繰り返すことが好ましい。
セルロースナノファイバーを含む溶液を木材に接触させ、水蒸気を木材に噴射する処理を繰り返し行うことで、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0069】
上述の高圧水蒸気処理を行う機器としては、スチームクリーナー SC4(ケルヒャー社 製)を特に好ましく挙げることができる。
【0070】
(3)高周波プレス処理
また、本発明の好ましい実施の形態では、高圧水蒸気処理の後に高周波プレス処理を行う。高圧水蒸気処理の後に高周波プレス処理を行うことで、改質木材の乾燥を早め、改質木材の反りを軽減させることができる。
【0071】
また、高圧水蒸気処理の後に高周波プレス処理することで、木材に含浸させたセルロースナノファイバーを木材内に均一に分散させることができるため、より効率よく改質木材を製造することができる。
【0072】
なお、高周波プレス処理に用いる機器としては、山本ビニター株式会社製の高周波プレス機装置を特に好ましく挙げることができる。
【0073】
<改質木材>
本発明は、内部にセルロースナノファイバーを有する改質木材にも関する。
【0074】
本発明の好ましい実施の形態では、改質木材は、改質木材の繊維内及び/又は導管内にセルロースナノファイバーを有する。中でも、改質木材は、改質木材の導管内にセルロースナノファイバーを有することがより好ましい。
【0075】
本発明の好ましい実施の形態では、改質木材は、木材表面にセルロースナノファイバーの被膜を有さない。
【0076】
なお、本発明の改質木材における、セルロースナノファイバーの種類、性質、構造、構造に関しては前述したセルロースナノファイバーの説明を準用することができる。
【0077】
本発明の改質木材は、スポーツ用品用材料(卓球用ラケット、野球用バット)、家具材(家具の内板、家具の扉、フローリング)、建築用材料(柱材、板材、建築基盤)として用いることができる。
【0078】
<卓球用ラケット>
以下、本発明の卓球用ラケットについてより詳細に説明する。
本発明の卓球用ラケットは、前述の改質木材を材料として使用する。本発明の卓球用ラケットは、弾性、強度、柔らかさに優れる。
【0079】
本発明の卓球用ラケットは、単板ラケット、合板ラケットの何れであっても良い。合板ラケットの形態とする場合には、合板を構成する全ての材料が改質木材であっても良く、一部に改質木材を用いる形態であっても良い。
【0080】
卓球用ラケットを構成する木材部分の一部が改質木材により構成されていればよいが、少なくともブレード部分が改質木材により構成されていることが好ましい。
ブレード部分とグリップ部分が一材で形成されている場合であっても、ブレード部分の木材のみ改質されており、グリップ部分の木材は改質されていない形態であってもよい。
【0081】
また、本発明の卓球用ラケットは、材料として前述の改質木材を用いる以外は、通常の方法により製造することができる。
【0082】
<木材改質剤>
本発明セルロースナノファイバーを有効成分とする木材改質剤にも関する。本発明の木材改質剤の奏する木材の改質作用としては、具体的に弾性付与作用、木材強度向上作用、柔和性付与作用を挙げることができる。
【0083】
本発明の木材改質剤は、どのような形態で提供されてもよいが、セルロースナノファイバー溶液の形態とすることが好ましい。
溶液状の形態とした本発明の木材改質剤は、上述した改質木材の製造方法における含侵工程に好適であり、より具体的には浸漬処理や高圧水蒸気処理に供することに適している。
【0084】
本発明の木材改質剤はセルロースナノファイバーの他、ミョウバンを含む形態としてもよい。かかる形態の木材改質剤は、上述した改質木材の製造方法における浸漬処理に好適に供することができる。
【0085】
また、本発明の木材改質剤は、スラリー状としてもよい。スラリー状の木材改質剤は木材への塗布に適しているため、上述した改質木材の製造方法における高圧水蒸気処理に供することに適している。
【0086】
本発明の木材改質剤における、セルロースナノファイバーの種類、性質、構造及び
構造、使用方法、使用条件に関する事項については、前述した改質木材の製造方法の説明を準用することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を示しながら本発明についてより詳細に説明する。なお、以下の単位は、特に断りのない限り「質量%」である。
【0088】
[製造例1]改質木材の製造
(1)木材
原材料となる木材として、檜、桐、シナ、柳、リンパ、アユースの木板(縦20cm、横30cm、厚み0.6〜10mm)を用いた。
【0089】
(2)脱油工程
檜については油分を1質量%以上含むため、5質量%の塩水に30分間を漬けることにより、油分の除去を行った。
【0090】
(3)含浸工程
(3−1)浸漬処理
5質量%のミョウバンカリウム及び、0.5質量%のセルロースナノファイバー(nanoforest(登録商標)、原料 針葉樹、中越パルプ工業社 製)を含む水溶液(以下、浸漬剤という)を調製した。調製した浸漬剤に木材を浸漬させ、50℃、1時間静置することにより、予備含浸(浸漬処理)を行った。
【0091】
(3−2)高圧水蒸気処理
浸漬処理を施した木材に、スラリー状の1質量%のセルロースナノファイバー(nanoforest(登録商標))の水溶液を塗布した。
【0092】
次に木材の表面に高圧水蒸気機器(スチームクリーナー SC4 ケルヒャー社 製)をあてがい、100℃の条件下で高圧水蒸気処理を行った。
【0093】
上述したセルロースナノファイバー溶液の塗布と高圧水蒸気処理を3回行うことにより、セルロースナノファイバーを木材に含浸させた。
【0094】
なお、高圧水蒸気処理の後の木材表面を観察したところ、セルロースナノファイバーの被膜は確認できなかった。つまり、セルロースナノファイバーは木材表面に積層されているのではなく、木材の内部に浸透していることが確認できた。
【0095】
(3−3)高周波プレス処理
高圧水蒸気処理後の木材に対し、高周波プレス(山本ビニター株式会社 製)を用いて高周波プレス処理を行い、改質木材の木材を乾燥させた。
高周波プレスによる乾燥処理を施した木材は反りが無く、その後の加工に好適に用いることができるものであった。
【0096】
製造例1の方法により製造した改質木材は、原料の木材と見た目、手触りに差異はなく、通常用いられる木材と同様の加工適性を有するものであることが確認できた。
したがって、本発明の製造方法により製造した改質木材は、スポーツ用品用材料(卓球用ラケット、野球用バット)、家具材(家具の内板、家具の扉、フローリング)、建築用材料(柱材、板材、建築基盤)として用いることができる。
【0097】
また、製造例1の方法により製造した改質木材は、改質前の木材と比べて、軽くなったことがわかった。
【0098】
ここで上述の製造例1とは別に、重さ250gの木材に対し、上述したセルロースナノファイバー溶液の塗布と高圧水蒸気処理を5回行った。高圧水蒸気処理の後に、上述の高周波プレス処理を行い、改質木材を製造した。製造した改質木材の重さを計ると、約235g(約15gの重量の軽減)であった。
【0099】
[製造例2]卓球用ラケットの製造
(1)卓球用ラケットの製造
(1−1)単板ラケットの製造
製造例1で製造した改質木材を卓球用ラケットの形状に切断し、これにグリップを取り付けることにより、単板ラケットを製造した(実施例1及び2)。なお、比較例として改質していない木材を使用して同様に単板ラケットを製造した(比較例1及び2)。
なお、単板ラケットに使用した木材の種類は表1に示す通りである。
【0100】
(1−2)合板ラケットの製造
製造例1で製造した改質木材を切り出し、卓球用ラケットの上板、そえ芯、中板を用意した。
中板を2枚のそえ芯で挟み、さらに2枚の上板で挟んだ5枚合板を製造した。合板は常法に従い、接着した板材に圧力をかけて密着させることにより製造した。製造した合板にグリップを取り付けることにより、合板ラケットを製造した(実施例3〜8)。
なお、比較例として改質していない木材を使用した合板ラケットを同様に製造した(比較例3〜5)。
合板ラケットに使用した上板、そえ芯及び中板の木材の種類、並びに改質木材の使用部分については表1に示す通りである。
【0101】
なお、上述した合板の製造工程において、製造例1で製造した改質木材と、改質処理を施していない木材とで、その加工性に差異はなかった。このことから、本発明の製造方法で製造した改質木材は合板加工への適性があることがわかった。
【0102】
【表1】
【0103】
[試験例]改質木材の評価
(1)試験方法及び、試験項目
製造例2で製造した実施例及び比較例の卓球用ラケットについて、さらにラバーを貼り付けたものと、貼り付けていないものを用意した。そして、卓球選手50名にこれら卓球用ラケットを実際に使用してもらい、以下の項目について評価試験を行った。
なお、ラバーを貼り付けていない卓球用ラケットについては、上方向にボールをついてもらうことで評価し、ラバーを貼り付けた卓球用ラケットについては、実際にラリーを行ってもらうことで評価した。
また、実施例の卓球用ラケットは、同じ種類の木材を使用し製造した比較例の卓球用ラケットを基準として評価した。具体的には比較例の卓球用ラケットの評点を3点とし、これを基準として5点満点(評点の最小単位は0.5点)で実施例の卓球用ラケットを評価した。
表1に、50名による評点の平均値を示す(小数点第2位は繰上げ)。
【0104】
・『弾み』
ボールが木材に十分に食い込んだ後、木材の元の形状に戻る速度を官能的に評価することで『弾み』を5点満点で評価した。評点が高いほど『弾み』やすいことを示す。つまり、『弾み』の評価値が高いほど、弾性に優れた卓球用ラケットであると言える。
【0105】
・『振動』
卓球用ラケットにボールが衝突したときに生じる『振動』の大きさを官能的に評価した。評点が高いほど『振動』が小さいことを示す。つまり、『振動』の評価値が高い、つまりボールが衝突したときに振動が起こりにくいほど、強度に優れた卓球用ラケットであると言える。
【0106】
・『打球感』
ボールを打ったの際の感覚を『打球感』として官能的に評価した。『打球感』の評点が高いほど、ボールを打ったときに感じる柔らかさの程度が強く、ボールを打った際にラケットにボールが吸い付き(ラケットにボールが食い込み)、しなやかにボールを弾く感覚が強いことを示す。逆に『打球感』の評点が低いほど、ボールを打ったときに感じる硬さの程度が強く、ボールを弾く際のしなやかな感覚に劣ることを示す。つまり、『打球感』の評点が高いほど、柔らかくしなやかな卓球用ラケットであると言える。
【0107】
(2)結果と考察
表1に示すように、実施例の卓球用ラケットは、比較例の卓球用ラケットに比べて、『弾み』、『振動』及び『打球感』の何れの項目においても顕著に優れていた。
以上の結果より、本発明の改質木材を材料として用いることで、非常に優れた性能を有する卓球用ラケットを提供できることがわかった。
【0108】
また、本試験例の結果は卓球用ラケットの評価に関するものであるが、製造例1で製造した改質木材が弾性、強度及び柔らかさ(しなやかさ)に優れていることを示す結果でもある。
したがって、本試験例の結果は、本発明の改質木材が弾性、強度、しなやかさを兼ね備えた優れた性質を有することを示している。このような優れた特性から、本発明の改質木材は、本試験例で示した卓球用ラケットの他、例えば野球用バットなどのスポーツ用品用材料、内板、扉板などの家具材、フローリング材、柱材、板材、建築基盤などの建築用材料など、様々な木製品の材料として好適である。